第二章 ふたりのあけの


 あれから1週間が過ぎ、春も盛りの頃。この季節は出会いの季節ってやつらしい。 
 その中でも特に奇妙な出会いは曙乃王との出会いだった。 
その日、暁王が教室へ入ると、中が騒がしい。 
「何かトラブルでもあったのでしょうか。見てきますのでお待ち下さい」 
 剣姫が警戒をしつつ覗き込むと、教卓の上に腕を組み仁王立ちになっている少女がいた。


「貴公ら程度ではてんで話にならぬ。持ってくるならもっとましな提案にするのだな」 
 蔑みを含んだ言葉を投げかけ、高みより見下した視線で提案を持ってきた糸目の生徒を睨みつけるリボンの少女。その一つ一つの仕草、物言いは威厳に満ち溢れていた。 
 だが、それに対する男の態度も負けず劣らず不敵なものであった。 
「交渉決裂、ということですな。いいでしょう。貴方の領土を無に帰す日を楽しみにしていましょう」 
 糸目の男はそう宣言すると手を軽く挙げ、後ろに控えていた大男を従えて悠々と教室より去っていった。 
 それを見送ると少女は軽い身のこなしで教卓から飛び降りた。 
「すまない、見苦しいところをお見せしたな、暁王」 
「いえ、気にしないでください」
 曙乃王と呼ばれた少女はいつの間にか剣姫の横に並び立つ暁王に声をかけた。 
曙乃王。遠く新野の地を治める一族の王であり。その幼げな容貌と背の低さから年の頃は暁王と同じぐらいに見える。その見目からはとても大きな領土を持つ生粋の王には見えない。王の象徴たる髪留めは瑠璃を飾ったリボン。腰には自衛のためか二本の短刀が佩かれている。 
見たことのない相手とその背後にある只者のならぬ気配に剣姫は意を決し、暁王にその関係を尋ねた。
「暁王、お知り合いですか?」 
「ええ、彼女は曙乃王。暁の地においても端ではありますが、暁山山麓にある新野という広大な領土をもつ王ですよ」 
 確かに傍に控えているであろう剣らしき人者の気配は今までにないほど迷いがない。かなりの使い手であろうことは十分受け取れる。
だが、なんであろうか、この違和感は。剣姫はその違和感に首を傾げるばかりである。 
 一瞬、目が合う。 
 時が止まった。 

 一秒 

 二秒 

 三秒 

 思うより先に体が動いていた。暁王と曙乃王との間に割ってはいる。
「いい反応だ、剣姫」 
 抜かれたと思った腰の二刀は未だ曙乃王の腰に佩かれている鞘の中で眠っており、一方剣姫は刀を抜き放ち構えている。これで合戦が始まった場合、どちらの責任となるかは一目瞭然だ。 
 息を呑む剣姫。 
 曙乃王はポンと強張る剣姫の肩を叩くと、暁王に声をかけた。 
「冗談が過ぎたな。暁王、すまない」 
「ええ、いくら曙乃王が相手でもこれ以上は僕でも抑えられません」 
 暁王のその目は鋭さを帯びていた。対峙する二人の間に稲妻が走った気がした。 
 暁王は後に述懐する。 
 この邂逅こそが全ての始まりだったのだ、と。


  
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