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「リトと唯 第5.5話 雷の夜は…」(2008/05/22 (木) 22:23:30) の最新版変更点
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<dl><dd>外は雷と大雨<br />
空がピカっと光る度に、ぬいぐるみを抱きしめる腕に力がこもる<br />
唯は雷が苦手だった。小さい頃からずっと<br />
小さい時、こんな時いつもそばにいてくれたのは遊<br />
震える体を抱きしめてくれて、一緒に寝てくれて<br />
だけど、高校生にもなってそんな事言えるはずもなく<br />
唯は一人、ベッドの上で小さくなっていた<br />
「はぁ…こんな時…そばにいてくれたらな」<br />
唯はリトを想い浮かべていた<br />
唯にとって一番そばにいて欲しい存在であり、誰よりも一緒にいて欲しいと願う存在<br />
「結城くん…私を一人にしないで…声だけでも聞かせて…」<br />
雷の影響からか、いつになく弱気な唯<br />
唯は膝を屈めると、ギュッとぬいぐるみを抱きしめた<br />
(結城くん…)<br />
その時、部屋のドアがノックされる<br />
「唯、いるか?」<br />
「お、お兄ちゃん!?」<br />
唯は俯いていた顔を上げるとドアを開けた<br />
部屋の前にはニヤニヤと笑みを浮かべている遊の姿<br />
「な、何よ?」<br />
一人慌てた様子の妹に遊は笑みを深くした<br />
「お前、相変わらず雷苦手なんだな?」<br />
「べ、別にいいでしょそんな事っ!」<br />
つい強がって遊からそっぽを向く唯<br />
遊はそんな唯に苦笑すると、手に持っていた受話器を唯に差し出す<br />
「え?電話?誰から…」<br />
「お前の彼氏から電話だよ。いいヤツじゃん?ちゃんとお前の事心配してくれてさ」<br />
唯は目を丸くした<br />
雷が怖いなんて一度も話した事はない<br />
「結城……くんが?ウソ…」<br />
ますます顔をにやけさせる遊の手から受話器を奪い取ると、唯は急いでドアを閉めた<br />
ベッドの上に戻り、ジッと受話器の向こうのリトの顔を思い浮かべる<br />
(私の事心配してくれて…)<br />
話した事がなくてもちゃんとわかってくれる<br />
何て言ってくれるんだろう?<br />
私を想って家まで行くと言ってくれるの?大丈夫になるまでずっと声を聞かせてくれるの?<br />
唯の頭の中は、妄想が駆け巡る<br />
逸る気持ちを抑える様に唯は一度深呼吸をした<br />
「も、もしもし?」<br />
「あ!唯?」<br />
結城くんの声だ!<br />
唯の中でうれしさと安心感が生まれる<br />
自然とやわらかくなる顔<br />
「何なの?こんな時間に」<br />
だけど、気持ちとは裏腹にその声はいつもと同じ<br />
「えっと、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ…」<br />
「聞きたい事?」<br />
ひょっとして本当に────<br />
受話器を握りしめる手に力がこもる<br />
「な、何?」<br />
「あのさ…、今日の宿題ってどこだっけ?」<br />
「え?」<br />
「ほら、今日、数学の宿題出たろ?あれ、何ページか忘れちゃってさ」<br />
「……」<br />
「あれ?もしもし?」<br />
唯はリトに聞かせる様に溜め息をもらす<br />
「何だよ?」<br />
「……ララさんにでも聞けば?」<br />
「え?ちょ…」<br />
唯はリトの返事も待たずに電話を切ってしまった<br /><br />
「ったく、何なんだよ唯のヤツ…」<br />
突然電話を切られたリトはワケがわからず、受話器に向かって文句を言っていた<br />
確かに唯の言うとおり、わからなければララに聞けばいいだけの話し<br />
リトだって最初からわかっている<br />
だけど、それをわかっていても唯に電話をした理由は────<br />
リトはやり終えた宿題の上に受話器を置くと、頭の後ろで手を組んだ<br />
「ま、あの調子だと大丈夫みたいだな」<br />
唯が雷が怖いなんて事はもちろんリトは知らない<br />
知らないけれど、外の荒れ具合にリトなりに心配したのだが────<br /><br />
唯はベッドの上でジッと受話器を見つめていた<br />
あれから十数分<br />
リトからは一向に電話する気配がない<br />
「何してるのよ…」<br />
あんな事を言ったけど、本当はリトの声が聞きたいし、すぐにでも飛んで来てほしい<br />
だけど、そんな事を言えるはずもなく<br />
唯はリトを待ち続けた<br />
ちょっと言い過ぎてしまった?<br />
本当の事が言えなくても、もっと違う形で……<br />
外はますます激しさを増し、さっきから雷が鳴り響いている<br />
「うぅ…結城くん……もぉ、何してるのよ!?」<br />
受話器に文句を言っても仕方がない<br />
だけど、じっとしてなんかいられない<br />
窓の外が光る度にどうにかなっちゃいそうだ<br />
唯はギュッと自分の体を抱きしめた<br />
あの時、約束してくれたのに<br />
寂しい時、不安な時は、そばにいて抱きしめてくれるって言ったのに<br />
「結城くんのバカ…」<br />
小さくそう呟いた時、受話器から着信を知らせる赤や青の光が灯る<br />
「あ…」<br />
唯はすぐにボタンを押すと耳に受話器を当てた<br />
「もしもし?」<br />
「……えっと結城だけど」<br />
リトの声<br />
唯は唇を噛み締めた<br />
「遅い!!何してたのよ!?」<br />
「何でそんな怒るんだよ?」<br />
「知らないわよ!!!」<br />
うれしさと怒りがごちゃ混ぜになった感情に、唯はどうしていいのかわからなくなる<br />
ただリトの声に胸がキューっと締め付けられていった<br />
受話器の向こうでは、どこか言い難そうなリトの様子<br />
「あ、あのさ、大丈夫…か?その…外すごいから心配でさ」<br />
「……」<br />
唯は無言<br /><br />
「唯?」<br />
「結城くん…」<br />
「ん?」<br />
心なしか唯の声は震えている<br />
「何だよ?」<br />
「……今日はこのままずっと声聞いていたいの。ダメ?」<br />
受話器の向こうのリトは小さく笑った様な気がした<br />
「結城くん?」<br />
「いいよ。今日はずっと話していような?」<br />
「あ!う…うん!」<br />
「ホントに平気か?」<br />
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!?」<br />
袖でゴシゴシ目もとを擦りながら、なんとか気丈に振る舞う唯<br />
「そっか。安心した」<br />
ホッとした様なリトの声に、唯は少し口を尖らせる<br />
本当はもっと心配して欲しいと願っているのは唯だけの秘密<br />
唯は丸めていた膝を伸ばすと、ベッドにゴロンと寝転がった<br />
電話の話題は来週行くデートの話し<br />
顔をほころばせる唯に、さっきまでの様子はもうない<br /><br />
雨はいつの間にか止んでいた<br /><br /><br /><br /><br /><br /></dd>
</dl>