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「たい焼きバレンタイン」(2009/03/13 (金) 23:07:52) の最新版変更点
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<dl><dd>夕暮れの帰り道。リトは珍しく、一人で家路に着いていた<br />
俯き気味の顔は、いつもより少し元気がないように見える<br />
「ハァ…。今日は、ホント、スゲー疲れた…」<br />
どういうわけか、唯はいつもの二割増しのツンツン状態だし、ララは巨大なチョコを手に<br />
追いかけてくるし<br />
朝から放課後まで、リトの気の休まる時間は、少しもなかった<br /><br />
カバンの中には、みんなから貰ったチョコが数個<br />
貰った状況はどうあれ、女のコからチョコを貰うことに、悪い気なんて起こるはずもなく<br />
今日はそれだけが唯一の救いであったかのように、チョコが入ったカバンをリトは<br />
大事そうに肩に持った<br /><br />
そんなリトの前を一人の女の子が遮る<br />
「見つけました。結城リト」<br />
「え…?」<br />
その女の子は、リトにとっては一番、意外な女の子だった<br />
「ヤミ…!?」<br />
「探しましたよ…結城リト」<br />
そう言いながら、一歩、一歩と近づいてくるヤミ<br />
「探す…? ってまさかっ!?」<br />
リトの脳裏にイヤなモノが浮かぶ<br />
何だかんだで、いつも仲良く? やっていたとはいえ。今も自分はヤミにとってはターゲットに他ならない<br />
忘れがちなその事実を思い出すと、顔はサァーっと青くなり、腰は後ろに引けてしまう<br />
「ちょ…ちょっと待ってくれ! とりあえず話しを…」<br />
「…問答無用です」<br />
「…ッ!?」<br />
淡々とした、けれども氷のように冷たい口調に、リトの顔が引きつる<br />
頭に浮かぶのはお約束の走馬灯<br />
(ってカンベンしてくれ!)<br />
リトは頭を振って、無理やり走馬灯を吹き飛ばすと、ヤミに向き直る<br />
キレイなルビーの様な瞳からは、相変わらず、うまく感情が読み取れない<br /></dd>
<dd>(つ、つかこのままじゃマジでオレ殺される…)<br />
目の前で立ち止まったヤミにリトは、腕を顔の前に掲げながら、いよいよ目をギュッと瞑った<br /><br />
すると――――<br /><br />
「…コレをあなたに渡しにきました」<br />
「へ…?」<br />
恐る恐る、目を開いたリトが見たものは、白い紙袋<br />
そして、その中から漂う、おいしそうな匂い<br />
「え? オレを狙ってたんじゃないのか…?」<br />
「それはいつでもできます。今日は違う要件できました」<br />
「違う…要件…」<br />
ヤミはふっとリトから視線を逸らした<br />
「…以前のお礼です」<br />
「以前って?」<br />
「ミストアで助かったのはあなたのおかげと聞きました」<br />
「い、いや、オレはとくに何にも…」<br />
ヤミは紙袋をリトの胸に押し付けながら、声を鋭くさせた<br />
「受け取ってください!」<br />
「ほ、ホントにいいのかよ?」<br />
「かまいません! そうでなければ私の気が晴れませんから」<br />
紙袋を無理矢理、リトの腕の中に押し込めるヤミ<br />
「いつまでもターゲットにカリを作ったままなのは、イヤですから」<br />
「はは…」<br />
どこまでも冷たい声のヤミに苦笑いを浮かべながら、リトは紙袋を開けてみる<br />
中にはタイ焼きが数個。おいそうな匂いが湯気と共に、リトのお腹を誘う<br />
「うまそー! ってヤミは食べないのか?」<br />
「私は別に…。第一、それはあなたのモノですから」<br />
中々、表情を変えない小さな暗殺者に、リトはふっと堅くなっていた表情をくずした<br />
そして、タイ焼きを一つ、ヤミに差し出す<br />
「そー言うなよ! こーゆーのってみんなで食べる方がうまいんだぜ?」<br />
「……」<br />
リトの顔とタイ焼きとを何度も見ながら、ヤミは仕方なさそうにタイ焼きを受け取り、<br />
そして一口パクっ<br />
「…ホントですね。いつもよりおいしい」<br />
「だろ?」<br />
ニッと歯を見せて笑うリトに、ヤミの白い頬がわずかに赤く染まる<br /><br /></dd>
<dd>「…たまにはこういうのも悪くありません」<br /><br />
その声にいつもとは違う成分が入っていることにリトは気付いただろうか?<br />
ヤミが人前で見せる、うれしいという気持ちに<br /><br />
「でもオレ、チョコの入ったタイ焼きなんて初めて食うよ。こーゆーのもあるんだな? <br />
いつものやつじゃないから最初ビックリしたけど」<br />
「…知りたいですか?」<br />
「え?」<br />
「どうしてチョコ味なのか知りたいですか?」<br />
「ヤミ…?」<br />
何かを逡巡するように、一瞬目を彷徨わせた後、ヤミはリトの問いに答えようと、<br />
その小さな口を開きかけた<br />
その時<br />
「リト~!」<br />
と、遠くの方からいつもの元気な声が響いてくる<br />
「げっ! ララ!?」<br />
後ろを振り返ったリトは、言葉を失った<br />
学校で見たチョコの数倍も大きいチョコを手に、ララが空を飛んできたのだ<br />
「じゃ~ん♪ 学校のやつをさらに改良したチョコだよ~!」<br />
「なに考えてんだ!? お前は!!」<br />
と、絶叫をあとにその場から逃げようとしたリトは、すぐに前にいたヤミとぶつかる<br />
そして、そのままもつれ合って地面に倒れてしまう<br />
「ってぇ…! ごめんヤミ。ケガは…」<br />
痛む体を擦り、目を開けたリトが見たものは、真っ白な光景<br />
何度か見たことのあるその光景に、リトは固まった<br />
「こ、コレはその…」<br />
両脚を全開に広げたヤミのスカートの中から、ゆっくり顔を出しながら、リトの頬を冷や汗が伝う<br />
「結城リト…。…いつもワザとやってないですか…」<br />
「い…いえ…」<br />
「そうですか」<br />
そう言うと、ヤミは、トランス能力でカナヅチにした髪をリトの頭上に振り上げた<br />
「ちょ…待って…」<br />
「問答無用です!」<br /><br />
『―――バレンタインって何のことですか?』<br />
タイ焼きを買う時に聞いた、地球の日本の文化<br />
『―――では、今日は、チョコクリームにしてください』<br />
別に特別な意味などない。特別な感情もない<br />
ないはず――――<br /><br />
地面の上で目を回したリトをその場に残し、立ち去ったヤミは、遠く街まで見渡せる<br />
煙突の上に来ていた<br />
手に持っているのは、さきほどリトからもらったタイ焼き<br />
パクっと一口<br />
「…やっぱりタイ焼きはいつものに限ります…」<br /><br />
でも一年に一回きり、今日みたいな日なら、また買ってもいいかなと思うヤミだった<br />
そうまた一緒に――――<br /><br /><br /></dd>
<dd>
<p> </p>
</dd>
</dl>