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「白日夢」(2009/05/31 (日) 17:23:11) の最新版変更点
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リト、知ってる…?<br /><br />
知らないよね、あんたは… 私たちが…<br /><br />
血の繋がった兄妹じゃないって事…<br /><br />
……<br /><br />
突然に言われたので驚いたが、どうやら、あれは冗談だったようだ。<br /><br />
しかし、そんな冗談を思いついた理由というのが、まるで分からない。<br /><br />
38度2分の熱に浮かされると、妙な空想にとりつかれるものなのか。<br /><br />
夜明け前の深い闇にくるまれて、リトは自分のベッドで寝返りを打つ。<br /><br />
朝までには熱が下がっているといいけど、と思いながら、目を閉じる。<br /><br />
……<br /><br />
「いにしへも――――」<br /><br />
骨川先生の声が、不思議にはっきりと耳に届いて、リトは目を開けた。<br /><br />
顔を上げて、きょろきょろと見回せば、午後の教室は光に満ちていた。<br /><br />
窓の外では、桜の枝がふわりとゆれ、やさしい風に花びらを散らした。<br /><br />
こんな春の陽気に、目を開けていられる生徒が、いるはずもなかった。<br /><br />
もう一度、静かに目を閉じれば、眩しい光だけが目に焼きつけられた。<br /><br />
「山の端の こころも知らで 行く月は――――」<br /><br /></dd>
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黄色い満月が、ぷかりと浮かんで、フクロウの鳴き声が聞こえている。<br /><br />
夜露に袖を濡らして、旧校舎に入っていくと、白い着物の娘が現れる。<br /><br />
「お静ちゃん?」<br /><br />
裾が乱れ、しなだれかかるのを抱きとめれば、うなじが朱色に染まる。<br /><br />
「私と… せ… 接吻してくださいっ…!」<br /><br />
着崩した衿を引き、愛らしい口もとに顔を近寄せると、魂が飛び出る。<br /><br />
「はわ?」<br /><br />
湿った暗闇の中で、周囲を見回せば、霊と肉体に挟み込まれている。<br /><br />
霞がかかる……<br /><br />
夜風に酔わされながら、西洋風の庭園を歩いていくと、歌が聞こえる。<br /><br />
「――――朧月夜に 似るものぞなき」<br /><br />
慕い寄って、小屋に引っぱり込んでみれば、ドレスが闇に浮き上がる。<br /><br />
「センパイ…」<br /><br />
震えてはいたが、はねつけるような野暮に、陥るつもりもないと見える。<br /><br />
「私を… ムチャクチャにしてくださいまし…」<br /><br />
白い手に手を捉えられ、導かれた先の、丸い胸のふくらみが誘惑する。<br /><br />
巻き毛の金色を光が透かし、顔を上げると、桜が常夜灯に輝いている。<br /><br /><br /></dd>
<dd><br />
す… 好きな人… って…<br /><br />
わ… 私は別にそんな人…<br /><br />
緑地公園の昼下り、満開の桜の下で、美柑が誰かと話し込んでいる。<br /><br />
ななっ 何でリトなのよっ<br /><br />
突然に風が吹き荒れて、桜吹雪が視界を奪い去り、人影が失われる。<br /><br />
……<br /><br />
目を開けてみると、教室は夕陽に赤く染まり、他の生徒はいなかった。<br /><br />
古臭い歌の残された黒板を、ぼんやりと見ながら、リトはあくびをした。<br /><br />
ゆっくりと立ち上がると、教室を後にして、無人の廊下を歩いて行った。<br /><br />
つきあたりに倉庫の鉄扉があって、開けてみれば、美柑の体が見えた。<br /><br />
純白の体操服の胸もとに、ネームをつけて、マットに身を横たえていた。<br /><br />
……<br /><br />
こっちを見つめる黒い瞳は、素直さの内側に、生意気な表情を秘め、<br />
ひょいと首をかしげて、作って見せる形は、母親ゆずりのものだった。<br /><br />
気楽に身を寄せて、頭を撫でようとすると、留めていたビーズが外れ、<br />
はらりと広がって、肩に落ちかかった黒髪が、つやつやと輝いていた。<br /><br />
中に顔を埋めると、髪の湿った匂いに混じって、ライムの芳香が浮き、<br />
トワレかコロンか、そんなものを纏っているとは、今まで知らなかった。<br /><br />
おでこに唇を触れ、耳たぶに這っていけば、すでに赤く染まっていて、<br />
桜の綻びかけたような、可憐な唇には、どこかで会ったように思えた。<br /><br />
記憶をたどってみると、接吻その他は、旧校舎と庭園で終えていたし、<br />
肌が覚えているのか、妙に気が急いて、深紅のブルマに手をかけた。<br /><br />
「えっ? えっ? ウソ…」<br /><br />
太腿と腰をひねって、逃げようとするところへ、身体ごと覆い被さって、<br />
肩をマットに押しつければ、誘う瞳の中に、おびえが忍び込んでいた。<br /><br />
体育のマットは、汗と埃の混じった、饐えた臭いがして、顔を上げると、<br />
しわの寄った体操服の下から、へそが覗いて、底が深いように見えた。<br /><br />
ちょっと舐めると、ぴくりと震え、その間にも、手探りでブルマを脱がせ、<br />
片方の脚を抜いてしまうと、もう一方の膝のあたりで、くしゃっとなった。<br /><br />
ズボンを下ろし、やわらかな太腿をさすって、ふくらはぎを手でつかみ、<br />
白い布の脇から、少しの湿り気を帯びたところに、ぐうっと腰を入れた。<br /><br />
きりきりと歯の鳴るのが聞こえて、唇の間から、こもった呻き声がもれ、<br />
目尻から涙が線を引き、喉はのけぞって、どこかの関節が音を立てた。<br /><br />
身体を起こし、つながったばかりの部分へ、そっと目を落としてみれば、<br />
白い布の端の小さなしるしは、桜どころか、彼岸花よりも赤いのだった。<br /><br /><br /></dd>
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目を開けようとしても、窓から差し込んでくる、朝の陽光が眩しい。<br /><br />
リトは、ベッドの上に起き上がり、半びらきの目で部屋を見回した。<br /><br />
何か、ひどい夢を見たような……<br /><br />
ふらふらと部屋を出て、洗面所へ行こうとしたところで、思い出す。<br /><br />
もう、熱は下がったかな……?<br /><br />
カーテンの閉められた美柑の部屋は、まるで深夜のように見える。<br /><br />
ベッドの上には、くるまれた寝姿があって、紫のパジャマが動いた。<br /><br />
「具合は……?」<br /><br />
近づくと、夜具の中にもぐり込んで、気むずかしく顔を隠してしまう。<br /><br />
ベッドの端に腰を下ろし、ふとんを引きのけて、真上から覗き込む。<br /><br />
びっしょりと汗に濡れた蒼い顔の、おでこに前髪が貼りついていた。<br /><br />
「おい…… 大丈夫か?」<br /><br />
声をかけてみると、こっちを静かに見上げて、震える声でつぶやく。<br /><br />
「どうして…… あんな……」<br /><br />
濡れた瞳の中に、恨めしげな表情が見えて、すっと背筋が寒くなる。<br /><br />
桜の枝がふわりとゆれ、美柑の体は花びらに包まれて、消えていく。<br /><br />
見送りながら、リトは自分が夢の中にいるのだと、はっきりと覚った。<br /><br /><br /></dd>
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<p> </p>
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