街がイルミネーションの輝きに満ちる、一年で最も煌びやかな季節。12月23日。今日は「恋人達の日」の前日だ。カラーン♪「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」「えーと、待ち合わせなんですけど・・・」愛想よく微笑みかけてくれた女性店員に答えつつリトは店内を見回す。来ていないはずがない。想い人はすぐに見つかった。窓際の角席。本を読んでいるのか、やや俯き加減に、しかし背筋はしっかりと伸びている。リトを魅了してやまない長く美しい黒髪を湛えた少女が、そこにいた。「遅いっ。3分遅刻!」大きな瞳を微かに細めて見せる不機嫌な表情は、不満を顕わにする猫のようだ。「ごめん、思ったより身だしなみに時間がかかっちゃって・・・」そんなことより今日も可愛いね、なんて軽口を叩けるほどリトは器用じゃない。そもそもごく一部の時間を除けば完全に尻に敷かれているわけで。下手なことを言うと説教モードに入られてしまい、お茶どころではなくなってしまう。それは照れ隠しなのかな?なんて思ったりもするけれど、確かめたことはないし確かめる気もない。だって彼女のお小言は、ごく一部の時間において極上のスパイスになるから。「まったくもう・・・。何度言ったら分かってくれるのかしら」この言葉が出てくれると、それはお怒りが鎮まる合図。「ホントにごめんな・・・」心から申し訳なさそうに謝るのがポイントだ。いや、リトが悪いと思っているのは本当のことなのだが。「・・・もういいわ。次から気をつけてよね」ほら、お許しが出た。こうしてみるとリトも大分唯の扱い方が分かってきているのかもしれない。まあ、情けないことに変わりはないのだが・・・。二人が待ち合わせたのは駅前の噴水がある公園から歩いて10分程の喫茶店。ステンドガラスの照明でオレンジ色に染められている店内には、絞ったボリュームでジャズが流れている。ちょっと背伸びして大人の雰囲気の喫茶店。選んだのは唯だ。時刻は午後5時。しかし今日はこれからデートってわけじゃない。目的はクリスマス会だ。終業式も既に終えた彩南高は冬休みに入っていた。あれは一週間くらい前だったか、知らないうちにクリスマス会の開催(+リトと唯の参加)が決定されていた。年末は帰省やら旅行やらで予定が合わないから、ということらしい。発案者は例によって籾岡と沢田、それに猿山だ。あの日―――想いを確かめ合い、初めて結ばれてから、約3週間。二人はところどころにぎこちなさを残しながらも、順調に仲を深めている・・・はずだ。あれから、リトは唯を「古手川」と呼ばなくなった。二人きりじゃなくても、学校でもどこでも。リトにとって自慢の恋人だし、誰にも隠す必要なんてない。もちろんリトにも照れくささが全くない訳ではないが、大分慣れてきた感じがする。唯もはじめこそ特に学校では抗議をしたけれど、恥ずかしそうにしながらも今ではそれを受け入れている。それから、二人が何よりも嬉しかったこと。それは仲間たちが、少しも変わらぬ態度で接してくれたことだった。あの日以降で最初の登校日、ララや春菜が精一杯普通に振舞った、しかし曇りのない笑顔で祝福してくれたその日、リトと唯は朝から涙を堪えるのに必死だった。放課後、誰もいなくなった教室で、二人で顔をくしゃくしゃにして泣いた。絡めた指先から互いの体温を、そして彼女たちの想いを、受け止め、通じ合わせながら。そして自分たちも今まで以上に彼女たちを大切にしようと、そう誓った。そんなわけで、二人は大切な仲間との変わらぬ友情のため、クリスマス会に参加するべく待ち合わせたということである。「・・・」「・・・」二人してそれぞれの前にあるカップに手を伸ばす。リトはダージリンティー、唯はアッサムティーを注文した。リトが到着するまで律儀にも自分の分の注文も待ってもらっていたみたいだった。そういうところ、やっぱりすごく好きだなとリトは思う。これで華のある会話でもあったら、幸せってやつが溢れてくるんだろうけど・・・。テーブルを挟んだ向かいの座席、彼女の脇には読み終えたのだろうファッション雑誌が可愛らしい手袋とともに置かれていた。落ちる沈黙。別に険悪なムードってわけじゃない。かといって、言葉がなくても安心できるというわけでもない。いつも感じているぎこちなさとも、どこか違う。唯は少しだけ怒ったような、あるいはバツが悪いような、そんな顔をしていた。そしてきっと自分もそんな顔をしていたことに、リトは気がつかなかった。気づかないフリをしていた。沈黙の中でも、ジャズの音など耳に入っていない(どっちにしろリトには分かりやしないが)。ダージリンティーがやけに熱く感じ、喉を焦がす。「あ、あのさ・・・」妙に痰が絡まったような声が出てしまった。誰よりも大切な人が視線を向けてくれる。(怒っている・・・?本当にそうか・・・?)咳払いを一つして、迷いとためらいを振り払う。目を閉じて唯のことだけを考える。それが、唯優先主義発動の条件。「今、何考えてる?」唯が一瞬キョトンとした表情になってから、軽く睨んできた。「どうしてそんなこと聞くのよ・・・?」実はみんなより早く二人きりで待ち合わせしようというのは、唯の発案だった。付き合いだしてからはそれまでの反省の意味もあり、リトの方から積極的に唯を誘っていた。だから唯の方から逢いたいと言ってくれたことが、リトは凄く嬉しかった。それで身だしなみに気合を入れていたら遅れてしまったわけだが。(今はそれで怒ってるわけじゃないよな・・・?)彼女は自分がもういいと言ったことにいつまでも腹を立てているようなコじゃない。唯の表情の理由が、本当に分からない。「俺はバカで鈍いから、唯の考えてることが分からないときがあるんだ」分からないから、リトは分からないなりの対処をする。「だから、何考えてるか教えて欲しい。唯にはできるだけ、笑っていて欲しいからさ」咲き誇る、という表現が似合う、凛とした普段の唯。そんな彼女が心を許したものにだけ見せてくれる微笑みは、誰もが見惚れてしまうほどに、可憐で優しい。たまにしか見れないなんてもったいないと、リトは思う。「・・・そんなの、言えるわけないじゃない・・・」胸のうちを必死に搾り出すような唯の声。「ダメか?」「ダメじゃないけど・・・。思ってること全部を言葉になんてできない」指先をテーブルの上でもじもじと滑らせながら、湯上り時のようにほんのりと上気した顔を伏し目がちにして。時々視線が合うその瞳はどこまでも透き通っていて、微かに潤んでいるように見える。(可愛い。なんて可愛いんだ)少しの息苦しさと共に、胸がときめく。でも今は惚けてる場合じゃない。リトの唯優先主義は、そんなにやわじゃないのだ。彼女の望みを満たすためとなれば、自制だって自然にできてしまう。「じゃさ、ヒントだけでもいいから」唯が上目遣いにキッと睨んでくる。でも怯んだ顔なんて見せちゃいけない。目をそらしちゃいけない。それは唯を悲しませるから。「・・・そんなのは自分で考えなさいっ」揺れた彼女の髪から、微かに甘い香りがする。そっぽを"向かれてしまう"のは全然OK。その証拠に、唯の声の響きが今日一番明るくなっている。(良かった。機嫌直ったみたいだ)リトは唯とのこういうやりとりが大好きだ。唯の気持ちが少しだけ見えた気がして、お互いの繋がりが強く固くなっていくような気がして、顔が綻ぶ。今そっぽを向いている最愛の人も、同じように価値を感じてくれていたら嬉しいなと、強く思う。それから数十分は、なかなか実りのある会話ができた。「そろそろ行こっか」伝票を手にして立ち上がると、唯がすっと財布を取り出した。二人はいつも割り勘だ。理由は・・・彼女の性格で分かりますよね?しかし今日のリトはそんな唯をスッと手で制す。「今日はいいよ」「でも」「あー、ほら。俺遅刻したし、そのお詫び」まだ納得がいかないといった顔の唯に微笑みかけて、素早く会計を済ませ店を出る。「さむいなー」気温は5度あるかどうかだろう。吐き出した自分の白い息を、消えるか消えないかくらいのところで追い越しながら歩く。この調子じゃホワイトクリスマスになるかもしれない。手袋を取り出そうとポケットに手を突っ込んだら、彼女にコートの袖を掴まれた。「ん?」立ち止まったリトはそのまま引っ張られる。(一体なんなんだ?)わけがわからずに十メートルほど付いていくと、彼女が急に立ち止まり振り返った。「早く!」「何をそんなに急いでるんだ?」まだ待ち合わせに遅れるような時間じゃないのに。だが唯の意思に反する大きな理由もないからとりあえず急ぐことにした。彼女に追いつき、今度は前に出る。「っと?」今度は後ろに引っ張られた。というか唯が動こうとしていない。彼女はじっとリトを見つめている。喉元まで出掛かっているそれを、口に出したいけど出せない。そんな表情で。リトは必死になって考える。唯の表情、言葉、現在の状況に至るまでの流れ。(・・・もしかして)そっと、コートの袖を掴む彼女の小さな手に触れてみる。その表情は変わらない。それはきっと、肯定の意思。だからリトは彼女の小さな、冷たくなってもどこか温もりのある手を包み込んで握る。「正解、かな?」答えはもう分かっている。唯が手袋を持ってきていることも分かっているのだから。それでも聞いてしまうのは、自信のなさ故か・・・。そして彼女の答えは手厳しかった。「遅すぎよっ!」それからみんなが来るまで唯は口を開かなかった。だけど、二人の間にはいつもの空気が戻ってきていた。不器用な二人が不思議と調和し、生み出す優しい空気が。しかしそれはすぐに霧散してしまうことになる。「かんぱーい!!」これで何度目の乾杯だろうか。既にクリスマスパーティは佳境に入っていた。リトたちがいるのは、普段は高校生にはやや近寄りがたい雰囲気のスポーツバーだ。普段は、というのは今日は様相が違うためで、なんと貸切なのだ。何でも籾岡の元恋人が以前この店でバイトしていて、付き合っている間に何度も来店して店長と仲良くなったとか。尽きることのない会話、そこかしこで開花する笑顔、悪ノリした挙句ヤミにちょっかいを出して一人ノビている猿山。みんな楽しそうだった。でもリトは全然楽しくなんかなかった。会話の中心にいるのは、リトの愛しい人。パーティーの開始直後こそ唯は隣にいたものの、30分もしないうちに恒例のだか何だか知らない席替えタイムとやらで引き離されてしまった。そして唯を取り囲んでの質問攻めが始まったのだった。いつものように。そう、いつものようにだ。この3週間で、唯はグッとクラスに溶け込んだ。何か雰囲気変わった、表情が優しくなった、古手川さんってそんな風に笑うんだ―――。無理に気持ちを抑える必要がなくなり、自然体になった唯は当たり前のように周囲を惹きつけた。もちろん風紀を乱すものがいれば注意をするのは変わらないが、いきなり厳しい口調で言葉をぶつけることはなくなった。「こらっ、廊下でサッカーしないでっていつも言ってるでしょ」「やべっ。バレちった」「ごめんごめん、古手川」「今度こそやめっからさ」素直に、しかしあまり申し訳なさそうでもなく謝って、笑顔すら見せながら去っていく男たち。「まったくもう・・・」ぶつぶつ言いながらも素直に受け入れられたからか、唯の表情はどこか満足げだ。こんな出来事が、最近はちょくちょくある。そして何より、彼女はよく笑うようになった。常に集中した表情で一心不乱にノートを取る姿から、クラスの問題児にコピーマシーンと揶揄されていたかつてでは考えられないことだが、授業中ですら笑顔を零すこともある。最近では休み時間の女子の輪に入ることもあり、楽しそうに談笑するのが2年A組では違和感のない風景となりつつある。しかしリトは、どこかもやもやした想いを抱えていた。彼女をクラスに溶け込ませた最大の要因は、"結城リトと付き合っている"という事実だった。俺と付き合ってると親しみやすいってか?それって男として喜んでいいのか・・・?なんか違う気がする。・・・話を戻そう。女子連中と仲良くなるということは、無条件で籾岡と沢田がついてくる。そして彼女らに恋の話を聞かれようものなら、それは「おしゃべり時限爆弾」がセットされたも同じ。リトと唯が付き合いだしたことはあっという間にクラス中は愚か学年中に広まってしまった。そして噂を聞きつけた女子生徒たちがさらに唯のまわりに集まってきて、学校ではリトはほとんど話せないくらいなのだ。たまに話せても、唯にとって学校は誇りを持つべき職場のようなものだ。素直じゃないリトの恋人は、学校では付き合う前と変わらず、あるいはそれ以上にリトに厳しい。甘い会話やスキンシップなど、望むべくもなかった。そんな唯も唯で根は純粋だし、恋愛ごとの駆け引きの弱さは並どころか下もいいところだから、恥ずかしくて言えないこと以外はぽろっと言っちゃったりなんかする。それが女子連中の黄色い歓声(死語か?)へと繋がり、古手川さんカワイイ!普段とのギャップがたまらないわ!なんていう危険な奴まで現れて、唯は一躍クラスの(特に女子の)人気者になってしまった。まあリトも隠す気なんてサラサラなかったのだけれど、こんなことになるとは予想外だった。いや、予想外だったのは、こんな気持ちを抱いたことか。そう、リトは妬んでいた。誰を?そう聞かれるとリトは答えられない。もちろんリトは唯の事を信じている。自分が唯を、そして唯が自分を、想う気持ちの強さを確信している。まして唯を囲んでいるのは女の子たちだ。今の状態は度が過ぎているとしても、休み時間に女の子同士でおしゃべりに花を咲かせることなど普通のことだ。男子とだって、多少打ち解けて話すようになっただけ。放課後になれば一緒に帰るし、毎日じゃないけれどキスもするし、エッチだって・・・。これ以上ないほどに幸福なはずの今、こんな気持ちを抱えるなんてどうかしている。リトは自分でもそう思う。今まで優柔不断だったから、唯にも他の女の子にも、もっともっと強い"それ"を味あわせてきただろうに、恋人という立場になった途端に・・・。本当に身勝手だと自分に腹が立つ。「にしてもさ、何で結城なの?」「リサ、その質問何回目よー?」リサミオコンビがもう何度もした質問をまた浴びせている。わ る か っ た な、俺が彼氏で。リトは苛立ち、周囲の音を意識的に遮断してしまった。やけになってグラスに手を伸ばし、ゴクゴクと音を立てて一気に飲む。といっても、中身は烏龍茶だが。乱暴に元の位置に戻されたグラスの中で、音を立てて大きめの氷が踊る。ささくれ立っているリトを、嘲るかのように。「結城君」パーティーの中で一人、明らかに浮いている・・・いや沈んでいるリトに、春菜が声を掛けた。「・・・さ、ささ西連寺!?」気が付くと初恋の人の顔が目の前にあってリトは動揺した。尤もリトがすぐに反応を返していれば顔を覗き込まれることもなかったわけで、自業自得なのだが。「最近、元気ないよね。どうかしたの・・・?」穏やかな表情と自然な思いやりの言葉。それはまさに癒しという形容が相応しい。「・・・い、いや、何でもないよ」結果的には彼女をフッたということもあり、リトの態度はどうしてもぎこちなくなってしまう。「結城君の嘘つき。そんなことないよね?」逆に春菜は優しい微笑みを浮かべている。心なしか、以前よりも堂々と話をしている気がする。「私でよかったら相談に乗るよ?」そして唯優先主義の効果が苛立ちにより切れてしまっていたリトは、春菜の優しさに甘えてしまった。その場でそうすることが、彼女らにどんな影響を与えるかということを考える余裕などなかった。「俺、唯に妬いてるんだ・・・」そう口に出して、初めて気づいた。俺は唯に嫉妬している―――唯と、ずっと一緒にいたい。守りたい。大切にしたい。喜ばせたい。だけど、俺に何ができる・・・?唯はきっと、未来の自分をもう描いているんだろう。そして彼女は歩みを止めないから、確実にそこへ近づいていくはずだ。輝きを増しながら。俺は、どうすればいい・・・?これからも唯とずっと歩いていきたい。その気持ちは揺るぎ無いものだ。だけど、唯の隣にいる未来の俺は、何をしているんだろう。夢なんてものは、漠然としている。卒業した後、進学するのかどうかすら考えたことがなかった。俺はただ、生まれて初めての恋人ができたことに浮かれていた。そして例の事情で彼女と話ができないときにぼんやりと思い至った現実に、突き落とされた。何かを変えたいという焦り。唯が遠くに行ってしまうのではないかという不安。男として唯の半歩前を歩きたいというちっぽけなプライド。これらが、何もない俺が、今持つものの全て。苛立ちの対象、それは何よりも自分自身だった。唯に妬いている。その言葉の後、リトは一言も発さなかった。時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。「落ち込んでるときって、卑屈になっちゃうよね」それでも春菜にはよく分かる。彼女はいつも、誰かのために自分を抑えてきたから。「でも結城君は、大切なものや素敵なものをたくさん持ってるよ」必死に励ます、という口調ではない。いじけた弟をあやすような、導くような、心地よいそれ。「俺が、持ってる?」「うんっ」春菜はふんわりと微笑んで見せた。「結城君は気づいていなくても、たくさんのものを与えてるんだよ?」(俺が与えてるもの・・・?)考えても、リトにはさっぱりわからない。「だから、引け目なんて感じる必要無いと思うな・・・」穏やかな口調なのに妙に説得力があるその言葉が、リトを奮い立たせた。「・・・そっかな?」「そうよ」素直なリトは、誰かに励まされるとすぐに立ち直れる。それが信頼できる相手なら、なおさらだ。「そっか」リトの顔に、笑顔と力強さが戻る。その瞳に映るのは、ただ一人。女性陣に囲まれながら、不安に揺れた瞳でこちらを見つめる、黒髪ロングの少女。セミショートの少女はそんなリトに、ダメ押しの一言を放った。揺れる自らの心のうちを、必死に隠して。「私が好きだった結城君は、大切な人を不安なままになんかしておかないよ?」溢れる想いそのままに席を立つ。そして本当に唯しか見えなくなる前に、春菜に感謝の気持ちを伝える。「ありがとう、西連寺。このお礼は必ずするから!」春菜の胸のうちを、今のリトは慮れない。しかしその言葉は照れも誤魔化しも一切存在しない、誠実の塊。春菜が微笑むのを確認するとリトも小さく微笑んで、踵を返す。そしてリトは唯の元へと向かっていった。「どうしようもないなぁ・・・」その背中を見つめながら、春菜は自分に向けた呟きを零した。唯、唯、唯。俺は君に、何かを与えられているのかな?君は俺の、どこを好きになってくれたんだろう?確かめたいよ。君が、俺のものだって。「唯」リトが呼びかけると、唯を囲んでいた少女たちが囃し立てた。「おっ、色男登場!」「唯っちがいなくて寂しかった?」しかしそんな戯言は今のリトの耳には入らない。一方唯は友人たちに囲まれていたのに、まるで誤認逮捕でもされたかのように自失していた。「唯」その細い手首を掴んでも、まだ唯は反応しない。「わり、唯貰っていくな」リトは唯の両腕を掴んで注意深く立ち上がらせると、明らかに異質な二人のやりとりに唖然としている周囲に告げる。そしてそのままパーティー会場を後にした。雪こそ降っていなかったものの、外はすっかり冷え切っていた。声を発さないどころか、抜け殻のように意思を表出させない唯の手を引いてリトは歩き続けた。本当は走り出したいくらいだったが、唯に負担をかけないためにも意識して歩く。大通りから路地に入って1つ曲がると、夜の闇が一気に度合いを増した。二人の吐息が、街灯の光の中で小さく揺れた。リトだって、唯の様子がおかしいことにすぐに気づいていた。そして同時に、その原因にも。自分のバカさ加減が、いくら謝ってもすまないところまで達していることも理解していた。それでも、信じていた。一方唯はリトにされるがままになっていたが、頭の中は決して空っぽなどではなかった。むしろ聞きたいことだらけである。1カ月前、付き合い始める前なら、間違いなくあの場から逃げ出していただろう。そして追いかけてきたリトに当り散らし、自分の想いの、それも汚い部分だけを曝け出して泣いていただろう。しかし、今の唯は違う。唯はもう知っている。リトが彼の意思で唯を見つめるとき、ほんの少しだけ強引に唯に触れるとき。そんなときはいつだって、真っ直ぐに自分の想いをぶつけてくれた。そしてそれはいつも、唯の心を満たしてくれた。この上ない幸福感と安心感と、蕩けるような熱で。だからきっと、今回だって。そう信じて、唯はただリトを待っていた。「唯・・・」リトが口を開いたのは、結城家の庭に辿り着いてからだった。唯の名を呼ぶ声は少し震えていた。唯はじっとリトを見つめる。どこまでも澄みきった瞳で。リトはそれに1カ月ほど前の痛みを思い起こさせられる。しかしリトは決して怯まない。もう、彼女の眩しさから目を背けない。そう心に決めた。「俺、唯に嫉妬してたんだ・・・」「!?」唯からしたら、思いもよらない告白。(結城君が・・・嫉妬?)嫉妬と縁があるのは、自分のほうだと思っていた。「唯は将来の目標ってある?」「へっ?」いきなり話が飛んで唯の混乱に拍車がかかる。それでも唯は誠実に、正直な答えを返した。リトの言葉の調子には荒々しさなど欠片もなかったが、決して軽くもなかったから。「目標は、ある・・・」「そっか」それだけ聞ければ充分だった。「俺は、怖かったんだ。何にもない俺から、唯が離れて行ってしまうような気がして・・・」リトは目線が下がりそうになるのを何度も堪えて、両手を握り締めて唯を見つめながら話をする。「唯は・・・すごく綺麗だ」いつもなら無意識に頬が染まり、心臓が跳ねる言葉にも、唯は声を発するどころか反応することもできない。「いつも一生懸命で、輝いてる」こんな風に自分を褒められたことがないからではない。「だから唯にみんなが惹かれるのは、当然のことで・・・」今、唯の心を切なくするのはリトの泣きそうなほど必死な表情と、静かなのに熱い声。「唯を繋ぎとめるためには、俺が変わるしかないと思った。必死になれるものを見つけて、もっと強くなれるように。胸を張っていられるように」"唯にふさわしい男になるから"初めて愛された日の、リトの声がよみがえる。「だけど俺、どうしたらいいか分からなかった・・・。思い描いている場所は見えるのに、そこにいる俺自身が何をしてるのか全然見えなくて・・・」リトを支配していた感情。その正体を、唯はよく知っていた。なぜなら唯は、リトよりも強いそれに支配されたことがあるから。思い描いている場所に自分がいることを"想像すらできなかった"ことがあるから。「頭の中が霧に覆われてて、イライラして、あろうことか唯に嫉妬して・・・。何やってんだ俺って、ますますイライラして・・・」「うん・・・」「俺は・・・俺はホントに、全然ダメで・・・」もう顔を上げていることはできなかった。悔しくて情けなくて、涙が出そうになるのを必死に堪える。沈黙が落ちる結城家の庭。すやすやと眠るセリーヌの吐息が聞こえてきそうだった。唯はリトの告白で胸がはち切れんばかりにいっぱいになった。リトが見せた弱さが、たまらなく愛おしかった。リトの想いが、この上なく嬉しかった。涙が出てしまいそうなほどに。でも、まだ泣いちゃいけない。かつての自分と同じようになっているリトを、救ってあげなくちゃいけない。「本当に、全然ダメね」声が震えそうになるのを、唇を噛み締めるようにして抑える。その震えは嬉しさから来たものか。それも、ある。しかし、、「結城君は、何も分かってない・・・」そう、何も分かっていない。唯がどんな気持ちを抱えているのかを、自分しか見えなくなっているリトは分からない。「ずっと、不安だったんだから・・・」「・・・えっ!?」唯の口から出た思わぬ言葉に、リトは頭を上げた。その瞬間、息が詰まった。唯の瞳。夜目でもキラキラと輝いて見える、つまりは潤んだそれに、魅入られた。「結城君この頃怒ってるみたいだったから、嫌われちゃったんじゃないかって・・・」リトは唯と二人でいる時間だけはいつもどおりでいられたと思っていた。しかしそんなことはなかった。リトの唯への嫉妬はぎこちなさを生み出していた。いつもの二人の間にあるものとは違う、ぎこちなさを。優しい空気が存在しない空間を。そして、ついさっきのこと。唯という恋人がいながら、春菜に甘えてしまったこと。「ショックだった・・・」唯はそう言ったきり口を噤んでしまった。長く美しい黒髪が、リトだけが愛でることを許されたヴェールが、唯を覆うかのようにその表情を隠してしまった。唯はリトを責めている訳ではない。自分の感情を一言で表しただけ。しかしそれがリトを息苦しく、切なく、そして・・・寂しくさせた。「ごめん・・・」その謝罪に価値などないことは分かっていた。彼女が求めるのはいつもこれからのことだから。それでも募るばかりの自責の念によって、言わずにはいられなかった。限月の冷たい風が、唯の前髪をそっと揺らした。「どうしてわたしが二人で待ち合わせようって言ったかわかる?」唯の謎掛けにその場で答えられた例などない。しかしリトは頭をフル回転して考える。(待ち合わせ・・・?・・・ふたり?)質問に答えを求めていなかった唯は一瞬リトに視線を向けただけで淡々と話を続けた。「それは、「ララと一緒に来て欲しくなかったから・・・?」(!)図星だった。二人が付き合い始めても、登校するときはリトはララと一緒だった。同じ家に住んでいるのだから、そうしないように意識しなければ必然的にそうなるだろう。ララはリトと唯が付き合いだしてからはそれまでのようにくっついてくることはかなり少なくなった。しかし二人に妙な気を遣わせまいと、極端に距離をとることもしない。努めて自然体でいるように心がけているかのようだった。そんなララに、「朝だけは、一緒でいいよね?」などと言われてしまったら、リトとしては断ることなどできなかったし、唯も咎めるつもりなどなかった。ララに対して、もちろん春菜に対しても、ずるいことをしたという気持ちは、唯にもあった。彼女たちが今抱えているのだろう気持ち、もうきっとどうにもならないのにそれでも求めてしまう気持ちは、痛いほどわかる。彼女たちのその気持ちが・・・爆発したら・・・。怖い。リトを奪われてしまいそうで。自分の言葉を遮られ図星を言い当てられたことで、唯の感情が、弾けた。「わたしには目標があるとか結城君より先を歩いてるとか、そんなことじゃない!結城君に追いつきたいのはわたしのほうなの!!」きつく閉じられた瞳、握り締められた小さな手。唯の激情が、奔流となってリトを呑み込んでいく。身動ぎ一つ、瞬き一つもできない。激流はリトを内部に収めると、今度は一転してせせらぎのようにしとやかな音色を奏でた。「あなたは物凄く、ううん、そんな形容じゃ表せないくらいたくさんの素敵なものをわたしにくれたの・・・。だからわたしも、あなたに何かをしてあげたい」リトを奪われてしまうかもしれない。そんな不安の中、なぜそんなに優しい表情ができるのだろう。薄っすらと、しかし儚げという表現とは無縁な唯の微笑み。木漏れ日を反射する泉のような、唯の瞳。その輝く双眸に吸い込まれそうになる。しかしじっと見つめても、その奥は見えなかった。彼女の泉は、リトが思うよりもずっとずっと深かった。「あなたはどうして全部一人で抱え込むの?自分は甘えろなんて言うくせに、わたしには頼ってくれないの?」木漏れ日が閉ざされ、その対の瞳は雲に覆われ、揺れる。「そ、れは・・・」カッコ悪いから。好きな女の子に、カッコつけたかったから。もっと強くて、頼りになる男になりたくて、気ばかりが焦って嫉妬に拍車をかけたから。そんなこととても言えなかった。そんなことを考えていた自分が何よりもカッコ悪かったことに、ようやく気づいたから。唯には見栄や虚勢は通用しないと、必要ないと、分かっていたはずなのに。「もっと聞かせて。あなたの不安を。悩みを。痛みを。わたしも結城君を受け入れたいの・・・」今度は唯が、リトの焦る気持ちを包み、狭まった視界を解放する。唯がそっと、リトの手を包む。そのもみじのように小さな手が寒さでかじかみ、赤みを増していた。大きなその瞳も、スッと整ったその鼻も、いつもは恥じらいで染まる頬も、12月の寒風に晒され微かに赤い。しかしその表情は聖母のような穏やかさを取り戻していた。間近に感じる唯の温度、花のような香り・・・唯の想い。「唯・・・」リトの中は、唯への愛しさで煮え返っていた。幼すぎる嫉妬で自分しか見えなくなり、またしても傷つけた。それなのに唯は、そんなリトを受け止めたいといってくれた。手を取り合って、並んで歩きたいと。「嫉妬するなんて・・・バカね」「バカって言うなよ・・・。本気で悩んでたんだから・・・」それは、もはや過去形となった。「わたしが変われたのは、結城君のおかげなのよ?」唯の眩しさは、リトが源になっている。それに未だに気づいていない太陽に、分からせるために・・・。「わたし、あなたがいないとダメなの・・・。結城君が、わたしを照らしてくれてるのよ?」唯が他人に笑顔を見せるときの、あの苛立ちの正体にリトはやっと気づいた。(俺しか知らない唯を、他の奴に知られるのが嫌で・・・)でも、もう大丈夫だった。唯がそっと、リトの枷を外してくれたから。身を寄せてきた唯。コート越しでもその存在を素肌を重ねているかのように感じられた。ちょうどそのとき、腕時計の長針と短針が、真上を向いて重なった。「12月24日の唯を、独り占めしたい・・・」唯はその重ねた左手で、応えてみせた。
「んむ・・・あ・・・」「んっ・・・ちゅ、ちゅる・・・」真っ暗な部屋の中に、くぐもった水音が静かに響く。リトのベッドで、二人は熱い熱い口付けを交わす。飽きることなどない。何度も、何度も。結城家に入ると二人は真っ直ぐリトの部屋へ向かった。といっても、リトの性欲が限界に達したからではない。パーティに誘われずに不貞腐れてしまった美柑は、帰国中の林檎とともに旅行に出かけているから別にリビングでも構わなかった。しかし、自室こそが恋人である二人に一番ふさわしい場所だとリトは思ったのだった。パタンと扉が閉まる音を聞くやいなや、リトは唯に口付けた。それは、この上なくさりげないのに、どこまでも優しい口付けだった。謝罪と誓いの、キス。そしていつものように主導権を獲るためのキスでもあった。唇を離して、リトがそっと微笑む。暗くて唯の表情はよく見えなかったが、きっと同じ顔をしてくれているだろう。二人の時間が、愛しい人を独占する時間が、たっぷりある。そう考えると幸せに叫びだしそうになる。ちなみにリトの中でララが帰宅するという可能性は排除されている。というよりも唯以外のあらゆることが、脳内から消え去っている。リトはまったくもって自分が不思議でならなかった。つい数分前まで唯が欲しくて、抱きたくて堪らなかったのに、その唇に触れても、暴走せずにいられることが。「お茶、入れてくるな」リトはそう言い残し部屋を出て行こうとする。男として余裕を見せたいなどという感情は、既に捨てている。リトはただ、唯だけがくれる温かくて穏やかな時間を欲していただけだった。はずなのに。「ん・・・ゆい・・・ちゅ」「・・・ゆうきく、んんっ・・・あむ」時々互いを呼びあうのを息継ぎにするかのようにして、二人は唇と舌で繋がり続ける。今この瞬間を、閉じ込めてしまえれば良いのに・・・。蕩けそうな意識の中、二人してそんなことを想う。リトは結局、部屋から出て行けなかった。唯によって、引っ張られたから。今度は袖じゃなく、繋いだ手を。「すぐに、してよ・・・」この瞬間のリトは、頭を鈍器で殴られたって何も感じなかったに違いない。たった一言、しかし強烈なキック。切実で、熱っぽくて、幻想的なその声はリトにとって麻薬のようなものだ。唯の望むことだけに集中し、自分の全てを尽くす。何度目の口付けからか、示し合わせていたかのように二人は唇を離すと衣服を一枚ずつ脱いだ。たっぷりと時間はあるのに、一秒すらも惜しむように。そしてすぐに、再び重なる唇。脱ぎ捨てられたまま床に転がるコートが、お互いしか見えなくなっていることを表していた。「はむっ、ん・・・んむぅ・・・んんっ、んあ・・・」リトはたっぷりと唯の口内を味わってからその唇を開放してやる。そして衣服に手を掛けた。自分のではなく、唯のものに。「・・・結城くん?」厚着だった状態からゆっくりと時間をかけてここまできたうえ、溢れかえる胸のうちが表出して体温は高まるばかりだった。すっかり上気した表情、とろんとした瞳になってしまった唯の声にはいつもの凛々しさがない。「こっから先は、俺が脱がしてあげる」リトとしては、顔を真っ赤にして"抗議でない抗議"をして欲しかったのだが、「・・・ふふっ。結城君のハレンチ」リトを受け止めたいと彼女は言ってきた。さあ甘えなさいと、許容とからかいをこめて。滅多に見ることのない、得意げで意地悪な笑顔で。非難でも照れ隠しでもないハレンチ呼ばわりは、愛しさと悔しさを同時に生じさせた。ベッドの上だけは、"ごく一部の時間"の主導権だけは、譲れない。リトは唯を優しく起こすと、何とも複雑な顔となった自分を隠すように座ったまま背後に回る。ブラウスのボタンを外すと、その理想的な胸を下着の上から揉みしだいた。「・・・ぁ」唯が微かに、吐息との区別も付かないほど小さな声を漏らす。そしてリトは、反撃を開始した。「おっぱい、ちょっと大きくなった?」「―――!」耳元で囁かれて、瞬き一つの間に唯の顔が朱に染まる。「ば、ばかっ!変わらないわよ・・・」「そっか。じゃあもっと大きくしてあげる」リトはブラの下部から侵入し唯の胸を虐める。両側から中央へ膨らみを寄せてみたり、掌で先端の突起を転がしてみたり、少しだけ強めに捏ねてみたり。「結城くん・・・ダ、メ」唯の声は熱っぽい吐息に侵食され、リトの指先は乳首の硬化を感じ取っていた。「も、う・・・おっぱい、ばっかり・・・」リトはそっと微笑むとリクエストに応える。唯の上の衣服を剥ぎ取るとそのしなやかな身体に指を滑らせていく。その指は唯のスカートで止まり、意を察した唯が自らそれを脱いでいく。何事もテキパキとこなす彼女らしくない、もじもじとした仕草がまた可愛らしい。リトは口元が弛むのを自覚しながら、大好きな唯の黒髪に顔を埋める。太陽の光をいっぱいに浴びた向日葵のような、唯の香り。心が微かに甘く震え、その後ゆっくりと安らいでいく。唯は少しだけ自信がある自分の髪にリトからの愛情を感じて、ほうっと満足げな吐息を漏らす。そして今度は濃紺のオーバーニーソックスをその美脚を抜いた。「それはそのままでも良かったのにな・・・」「っ!・・・結城君って本当にハレ、あっ・・・」リトの手が腰からお尻へと降りてくる。熱くて、柔らかくて、瑞々しい唯の艶肌を、文字通り滑っていく。「ぁっ・・・んくっ」唯の呼吸を間近に感じながら、その抜群の肌触り愉しむ。絹ごし豆腐だってこうはいかない。「唯のカラダ、すべすべだ」耳元で囁くと小さく震える。「可愛いよ・・・」素直すぎる反応が嬉しい。「そんなこと・・・言わなくて、いいの!」精一杯甘さ成分を抑えた声で抗議する唯。「・・・ホントに?」太ももをなぞりながら続ける。「ごめん。もう言わないから」十二分に自覚した、悪趣味な謝罪を返してリトは苦笑する。でも、しょうがない。そうすれば、もっともっと可愛い唯が見れることは目に見えているのだから。「っ・・・」一方唯は何か言おうとしたが、それは口腔内で溶けた。後ろから抱きしめられているという体勢も、唯には味方しなかった。結局無言のまま横たえられてしまう。「あっ!・・・そんな、とこに付けちゃダメ、よ・・・」リトは唯に覆いかぶさり、首筋に強めに吸い付いた。そこにリトだけの所有印を付ける。そして観察するかのような無機質な視線を唯に向けたまま、秘部に触れる。声を出さないようにきゅっと唇をかみしめて、真っ赤な顔で抗議の意を訴えてくる唯。それを心を鬼にして無視し、ゆっくりと指を挿入する。「ん、ぁ・・・ゆうきくんの、イジワル・・・」瞬間的に大量の空気を吸い込み、心臓が止まる。何という破壊力だろう。その言葉が聞きたくて誘導してきた。いつ来てもいいように心の準備もしていたつもりだった。それでも唯の涙を浮かべた瞳が、シーツを強く握り、身体を捩る仕草が、か細い声が、リトを貫いた。たまらなくなって唯の内股に吸い付く。「あっ!ダメぇ・・・!」途端弾んだ唯の身体、ゴチンと膝で側頭部を挟まれても、しかしリトは止まらない。少しだけ強引に膝を押し返すと、唯の腰を掴んで潤いの谷に舌を伸ばす。「ぁ・・・やんっ!!んはぁ!そこはぁ・・・」「ん・・・これが唯の味・・・」自らの舌をあっという間に濡らした愛液を味わう。「そ、んなとこ・・・な、めちゃ・・・。ハレンチすぎるわ・・・」恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。しかし下腹部の甘い痺れは、容赦なく唯の肢体を反応させる。「唯、ピクピクしてるよ?」「ああっ!・・・そんなの、ウソよ」リトの頭の位置は動いていない。でも唯にはまるで耳元で囁かれたかのように感じられた。もう何がなんだか分からない。自分の身体のいたるところが性感帯になってしまいそうだった。「そんなとこ・・・汚いからぁ」唯が昂ぶれば昂ぶるほど、リトも狂わされていく。普段は絶対に口に出せないようなことさえ、思考とは無関係に零れる。「唯の身体に汚いところなんかないって。それに、すごくうまいよ・・・?」あるのはただ、唯に幸せを感じさせる、その意思だけ。「結城くん・・・。お願い」唯の秘湯から溢れた蜜をわずかたりとも逃すまいと、脚の付け根に吸い付いていたリトの動きがゆっくりと、しかし確実に止まる。借りの返済の機会を逃すわけには行かない。「イジワルしないで・・・?」唯のいとおしすぎるその言葉は逆効果以外の何者でもなかったが、リトの理性は首の皮一枚繋がった。「もっと、やさしくして・・・?」なぜそこで止まってしまえるのか、我ながらよく分からない。唯の姿は男を獣にするのに充分すぎるほど可愛らしく、その身体は女の匂いを発しているというのに。本気で愛した人だと大切に思うあまり勃たない、なんて話はリトも聞いたことがあるが、それと似たようなことなのかもしれない。リトにとって唯は、何よりも大切な、本当は誰にも見せたくないくらいの宝物なのだ。深呼吸を大きく一つ。そうしないと声を発することができない。「意地悪な俺は嫌い?」ついさっきまでの態度と打って変わって優しさを全面に押し出してリトが問う。「意地悪な結城君は・・・キライ」頭がクラクラする。それはもちろん、キライといわれたことがショックだからなどではない。「でも、結城君は・・・好き」必死に甘えを抑えようとするのが、逆にリトをもだえさせていることに唯は気づかない。そしてそれでこそ唯なのだ。「わたし・・・結城君が、好き・・・」密事にだけ聞くことができる、大切な大切な言葉。好きという言葉の魔力は唯の中で熟成され、高まり、リトを撃つ。眩暈がするほどの幸福。「ねぇ・・・結城くんは・・・?」リトはこれまで何度も唯に好きだと伝えているし、態度でも示しているつもりだ。今日だってそうである。しかし唯の様子は、リトが唯に"答えた時"となんら変わることがない。震えている小さな身体、涙を溜めて揺れる大きな瞳。しかしリトからは一向に反応が戻ってこない。立て続けに唯の無意識の「攻撃」を受けたリトの脳内は外部からコンタクトが取れる状態ではなかった。そうとは知らない唯は、それを当然ながら不満に思う。「イジワルする結城くんは―――」「好きだ」リトから問いに対する答えではない、しかし唯の望んでいた言葉が返る。「俺はどんな唯も、全部好きだ」唯の「攻撃」はリトの内部を唯への愛しさで溢れかえらせた。それは3週間前と同じであり、異なってもいる。想いはもっと強く、より深くなっている。「わたし、意地っ張りなの・・・」「うん、そうだな・・・」さらりと認められても、唯は文句を言えない。自分を受け止め、包んでくれるリトを強く感じていた。「口うるさいし、独占欲だって強いし・・・」「何を今更・・・。つか、そうじゃなきゃ唯じゃないもんな」「でも、そんなこと分かってて・・・好き、なんでしょ・・・?」また唯に甘えてしまった。リトを導くときだけは、唯は駆け引き上手になる。「うん・・・」素直にそう言うと、唯は満足げに微笑んだ。ふわり、と形容するには重々しく、しかし優しさに満ちた抱擁を二人は交わす。ピッタリとくっつけた肌から互いの温かさを感じる。しかしもう、それだけでは満足できない。「もっと唯を感じたい。具体的には・・・」「具体的に言わなくてもいいの!・・・早く、ヒトリジメしてくれればいいの・・・」もう、何も考えられない。伝えたいことはいくらでもあったが、長ったらしい言葉は後回しだ。一刻も早く一つになりたい。「いくよ」唯の首がコクコクと動いたのを確認し、はちきれんばかりにそそり立った分身をゆっくりと潜らせていく。「ぁ・・・んああっ!」至近距離からの唯の嬌声には、やっぱり慣れることはない。ごめんな・・・。ありがとう・・・。気持ちを込めてリトは口付けを落とす。ゆっくりと時間をかけて髪の毛に、それから額に。そして唯の呼吸が落ち着くのを待ってから、唇に。「んっ・・・あむっ、ゆーきふん・・・もっとぉ」おねだりに応えて、慈しむように、捧げるようにキスをする。唯の満ち足りた表情がリトをも満たしていく。できる限りの微笑みを与えて、静かに訊いてみる。「動いてもいいか・・・?」「・・・いい、けど」「?」「もっといっぱい・・・キスしてくれなきゃ、イヤ・・・」リトに対しては厳しい彼女が、しかしリトに向かって滅多に口にすることのない「イヤ」。それは拒絶ではない「イヤ」。「ダメ」は唯に受け入れられる感じがするのに対して、唯の意思を、わがままを感じさせてくれるその言葉。リトの中で嬉しさが、愛しさが、溶け合っていく。「ゆい・・・んむ、かわいい、よ・・・」「はふぅ・・・んちゅ、ん・・・ゆうきくん」リトがSならば唯はM・・・もといNだ。互いに強く強く惹かれあい、求め合う。ほんの僅かの隙間も開かないよう、きつくきつく抱きしめあう。「んぁ・・・ちゅ、ふ・・・いぃよ・・・」お許しが出たので唇はそのままにゆっくりと腰をスライドさせる。「はぁむ・・・んっあ・・・ぅん・・・ぁ」舌から手から一物から、身体全体で唯を味わう。熱い。掌が溶かされてしまいそうだ。「ぅあ・・・。すごいよ、唯・・・。熱くてきつくて・・・」「ゆうきくんのも・・・すごく、固い・・・ぁぅ」どこまでも吸い込まれそうな感覚に、リトは溺れていく。まるで何度も愛し合い、リトの全てを理解しているかのように柔らかく絡みつく唯の膣内。腰の動きはすぐに激しさを増し、奥へ奥へと進んでいく。「はああ!お、く・・ダメぇ!」コツコツとリトの分身が子宮口を叩く。最奥を攻められ、恥らう間もなく唯は一気に高まる。「そ、こ弱いからぁ・・・あんっ!ゆうきくん、ダメ!わ、たしだけ変になっちゃう!」リトの背中にも早くも甘い痺れが襲う。一度放出するのも悪くなかったが、至福の時間をもう少し楽しみたい。腰のスピードを弱め、今度は浅いところを労わるように擦る。「んん・・・ぁ。なにか・・・優しいよ、結城くん・・・」唯の微笑み。甘い甘い囁き。間段なく与えられる痺れるような刺激。自らの攻めに応じて変化する、唯の奏でる喘ぎ。頭の中が真っ白になる。「唯・・・」うわ言にしてははっきりと、語りかけるかのような響きでリトが大切な少女の名を呼ぶ。快感の波にさらわれていても、それを察知した唯は優しい表情だけで続きを促す。"愛している"リトの口を付いて出そうになった言葉。つい一月前までは、自分が発するなど気恥ずかしくてとても無理だと思っていた言葉。でも、いつかは誰かに言ってみたかった言葉。それが出かかって、しかしリトは意思を持ってストップした。背伸びした愛してるなどいらないから。拙くても、ありのままの自分の言葉で構わなかった。「俺、頑張るよ。先が見えなくても、今自分にできることを」焦らなくてもいい。ゆっくりでも歩く意思を失わなければいい。それさえあれば、手を引いてくれる、背中を押してくれる、最愛の人が俺にはいるから。「俺はもう、自分を隠したりはしないから・・・。カッコ悪いかもしれないけど、これからもよろしくな・・・?」もう背伸びしないと宣言する。しかし唯は、より明確な宣言を求めた。「・・・じゃあ、約束して・・・」「ん?」「これからは、我慢しないって。結城君のしたいときに・・・わたしを好きにしていいから・・・」こんな台詞を、まったく媚びることなく口にできるものなのか。どこまでも真剣で、無条件にリトに甘い。自分に全くメリットがない(少なくともリトにはそう思える)要求を口にする彼女は、本当に素直じゃない。そしてだからこそ、愛おしい。「それじゃあダメだって」だから今度は、リトが導いてやる。「唯もしたいときに俺を好きにしないと、等価交換にならないぞ?」「わたしは、別に、良いもん・・・」いつものように顔を横に背けるが、その様にも言葉にもまるで鋭さがない。リトは小さく笑みを漏らすと、素直じゃない天使に伝えてやった。「俺がそうして欲しいんだ。だから唯も好きなときに俺を独占しろ。文句あるか?」こうしてやれば、唯も心を開ける。だって唯がリトに甘えるのは"仕方がなく"なのだから。それは"取立て"のためなのだから。「そこまで言うなら・・・しょうがないわ・・・」嬉しくてたまらないのに、こんな言い方しかできない自分が唯はたまらなくもどかしい。でも、もうそんな自分も嫌いではなかった。そんな自分を理解し、受け入れ、守ってくれる、信じられる人が目の前にいる。「ありがとう」感謝するのは自分の方なのに。その人は本当に嬉しそうに言葉を紡ぐ。その優しい響きに、リトの想いを感じるたびに、動きが止まっていてもどんどん潤滑油が溢れてしまう。「・・・そろそろ、いいか?」リトからの再開の合図。幸せに身体も脳内も打ち震えていて、首を縦に振ることで精一杯だった。「ぁ・・・あんっ、わたし・・・もう。ダ、メ・・・ゆうきくん」何がダメなのか、リトはもちろんもう唯にも分からない。互いに意思とは無関係に身体が動き、結合は激しさを増す。じゅく、じゅぷっ・・・結合部からは卑猥な音が絶え間なく漏れ、溢れかえった唯の愛液がシーツを、リトの内腿を湿らせていく。唯の目尻に溜まっていた涙が、窓から僅かに差し込む街灯の光に照らされながら頬を滑る。それはキラキラと輝いていて、本当に宝石のようだ。黒髪が煌き揺れ、美しい胸が上下に躍り、二人の熱い吐息が周囲を満たしていく。「あっ、あっ・・・あふっ、ひゃうぅ!!」甲高く裏返った唯の喘ぎが、視界をぼやけさせる。後頭部を急に掴まれ、ぼやけた視界に唯の瞳が映る。強引に重なられる唇、差し込まれる唯の舌。「好きぃ・・・んっ、ちゅ・・・は、ゆうきくん・・・ずっと・・・」「うん・・・ん、俺も。んむ・・・おかしくなっちまいそうなくらい・・・唯が好きだ」「結城くん・・・嬉しい。こんな幸せ・・・わたし知らない・・・」行為の一つ一つに恥らうくせに、一度火がつくと急激に大胆になる唯にどうしようもなく惹かれていく。もう完全にリトは虜だ。激しく、貪るように唯を求める。「んぅ、あっ・・・すごいぃ・・・あうん、気持ちいいよぉ!」恍惚に染まった唯の表情に、欲望を掻き立てられ、抑え切れなくなる。「お、れも気持ちいいよ。俺たち、くっ・・・きっと相性がいいんだよ」「そ、うなの・・・?はあ・・・ゃ、何か・・・痺れて・・・」一斉に蠢き、ざわつきはじめた唯の中が、リトに射精を促す。腕の中で悶える唯の扇情的な表情が、独占欲を呼び起こす。「唯・・・唯は俺だけのものだ、そうだろ?」「うん!あっ、・・・わたしは、結城くんだけよ・・・はぁん、だから、お・・・お願い」乱暴に膣内を掻き回され、快楽だけでなく痛みも伴っているかもしれない。身体全体が熱の塊になってしまったかのように熱く、自慢の髪の毛もかなり乱れている。そんな状況でも、唯は必死に目を開けて、リトを見つめた。真剣さに、ほんの少し甘えを混ぜた瞳で。「結城くんも、わたしだけを見て・・・わ、たしから離れないで!」言葉と共に唯の膣粘膜がリト自身に絡みつき、抱きしめる。「ぅ、あ・・・唯、俺・・・もうダメだ、うわあぁ」「きてっ・・・結城くん!ああっ、ふぁあ!」唯の身体が浮き、背中が弓なりに撓る。彼女が達するのを感じた瞬間、リトは体力と微かに残った理性をフル動員して自身を引き抜いた。そうはさせまいとするかのように脈動し、絡みついてくる唯を感じた直後に、リトは射精した。一度二度三度。枕を、シーツを握り締め、キュッと目を閉じて快感に身を震わせる美しい少女を白く染め上げていく。(うわ・・・まだ出る)リトは頭がぼーっとしていたが、そこは勝手知ったる自室。ティッシュ箱に手を伸ばし手早く自身を収束させる。「唯、ごめん。いっぱい汚しちゃったな」唯は未だ目を閉じたまま、荒い呼吸を繰り返している。お腹どころか胸、さらには首筋にまで飛んでしまった精液を拭ってやる。赤ん坊のようにされるがままの唯に、愛しさが溢れる。指先でそっと前髪に触れると、唯の瞳がゆっくりと開いた。ゆい唇の動きだけで、大切なその名を確かめるようになぞってみる。すると唯は無言のまま擦り寄ってきた。(猫みたいで可愛いな・・・)顔が綻ぶのを自覚しつつ、今度は頭頂部を撫でてやる。唯は満足げな吐息を漏らし、その鼻先が微かにリトの胸元に触れ、それから・・・ちゅ、ぺロ・・・(!!)しっとりとした唇が、ぬるりとした舌が、触れた。後日Rさんはこう語っている。確かにあれは普段の彼女からは考えられない行為でした。しかし今思えば、そこで小さくない声を挙げてしまったのが間違いでした。あれがなければもう少し熱にうかされた猫風味彼女を愉しめたんですが・・・。「おわっ!!ちょ、ゆい!?」リトの裏返った声の響きに、唯は正気に戻った。「ふぇ?・・・ぁ」数秒の後「あ、の・・・その・・・今のは、違うんだから・・・」何がどう違うのか分かりやしない。しかしリトはそんな唯をからかうでもなく、疑問を口にするでもない。要するに惚けていたわけで。そんなリトを、確信犯でないが故の唯の理不尽な怒りが撃つ。「ゆ、結城君が悪いんだから!あなたが変なこと・・・じゃなくて、それは嬉しいことなんだけど・・・」一気にまくし立てる唯の早口は止まらない。「とにかくあなたが悪いの!あなたのせいで、わたし・・・おかしくなってたんだから・・・」「おかしくなった唯、もっと見てみたいな・・・」リトはあっさりと本心を吐露する。しかし唯は唯でまだ余韻が残っている。恥ずかしいと思っているのに、リトから離れようとしないのがその証拠。「・・・ホント?変な女だって、ハレンチだって、思うでしょ・・・?」「思わないよ。それに・・・」潤んだ双眸と朱に染まった頬、唯の体温を感じる。リトの心拍数が唯のそれに追いつく。自らのそれを落ち着かせるように、唯を追い越さないように、リトは微笑む。それが唯を安心させ、彼女の心拍数を下げることになるのに。そうとは知らずにリトは続ける。「唯が見せてくれる表情はみんな好きだからさ。おかしくなってるときの唯の顔・・・見てるだけで出そうになるよ」「っ!!ば、ばかっ!!」「やっぱり結城君のせいよ・・・」口ではリトを糾弾しつつも、今は"おかしくなっていない"はずの唯は離れようとはしない。どころか両手を背中に回し、さらに密着してきた。もちろん二人は、まだ裸のままだ。「クス」リトは嬉しくなってつい笑ってしまう。唯がそれに文句を言う前に布団を被せる。「ごめん、寒かったよな」「・・・ううん。平気」言いながら胸に顔を埋めてくる。このために借りを作っているんだなぁ、とリトはしみじみと感じる。唯が自分に甘えてくれる。自分に頼ってくれる、その幸せを思う。「唯は甘えん坊だね」すぐに耳が紅く染まる。「甘えてくれって、あなたがうるさいから、よ・・・」拗ねた口調。きっと唇を尖らせているはずだ。「ちょっとは返済できてるのかな?」なくなる必要の無い、なくなって欲しくない負債について問い合わせる。「減ってないわよ」にべもない答え。心地よい答え。「ダメって言ってるのに、結城くん全然やめないんだもの・・・。減るわけないじゃない」「・・・そか」負債をなくさない方法は実に簡単だ、ということが分かった。素直じゃないから「して」とは言えない。だから、嫌じゃないことはだいたいが「ダメ」になる。リトはそれを、聞かなければいいのだ。唯はリトの望みを満たそうとしてそうしている訳ではない。ただ恋愛に対して不器用で、愛情に対して慣れていないのだ。そんなところにも強く強く惹かれてしまう。「唯って本当に・・・」素直じゃないな。しかしその言葉はため息に変わった。呆れが5%で、満足感が95%のため息に。「結城くんのばか・・・。キライ」リトは微笑みながら唯の髪にキスをした。満ち足りた気持ちで瞳を閉じると、緩やかな眠気に襲われる。しかしふと思い至ることがあった。「そうだ、風呂入る・・・?」いっぱい汚しちゃったし、という言葉は呑み込む。またデリカシーがないと怒られるから。綺麗好きな唯のことだから、きっとお風呂に入りたいだろう。しかし意外なことに彼女はこのまま眠るという。「・・・いいのか?」「・・・いい」(でも・・・)いくら拭ったといっても、精液が付いた身体で眠るのは嫌なんじゃないか・・・?そんな思案をしている間、唯からは何の返答もない。「唯、やっぱりさ・・・」一瞬唯が身体を震わせ、それに驚いてリトも一緒になってビクッとする。「な、なに!?」至近距離から不必要なほ音量を出す唯。「あ、だから風呂・・・」「い、いいって言ってるでしょ!!しつこいわよ、結城くん!」腕の中でなにやら慌てふためいた様子の唯。さっぱり訳が分からなかったが、何となく嬉しくてリトは唯を強く抱きしめた。「・・・痛いわ、結城くん」唯の安らかな声に癒されながら、リトは瞳を閉じた。まだまだ唯の気持ちは分からないことがほとんどだ。でもそれが、少しずつ埋まっていくような気がする。パズルのピースのように。「起きたら一緒に風呂入ろう。で、いっぱい飯食って、いっぱい話して、それから・・・」リトが口ごもる。背中に回している腕に更に力が篭る。「そ、れから?」痛いけど気持ちいい、リトの抱擁。「ちょっとでいいから・・・エッチなことしたいなぁ、なんて・・・」力強い腕に相反して、弱弱しい言葉。「いいかな・・・?」全く、この人は。今度は唯の口から優しいため息が漏れる。ついさっきの約束、もう忘れてる。あなたはわたしを、いつでも好きにして良いのに・・・。そんな弱気なこといわないでよ。クリスマスイヴなんだよ?わたし、生まれて初めて好きな人と、恋人と過ごすんだよ?愛されたいに決まってるじゃない。だから、そんな弱気な結城くんを簡単に認めたりしないんだから。「ダメ、よ」今日一番の、会心の唯の「許容」。「・・・ありがと。優しくするから」それに、世界一優しい響きでリトが告げる。「ばか・・・。でも、ありがとう・・・」「好きだよ・・・。ずっとずっと、唯のこと離さない」「聞いたわよ・・・?離したら絶対に許さないんだからね・・・」二人きりの夜はそっと更けていく。窓の外では雪が降り始めていた。ヒトリジメの時間は、まだこれから―――
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