―バーン!ババーン!!夏の空を彩る風物詩、祭りの定番、花火。それが始まる前は、美柑と仲良く他愛も無い話をしていた俺。でも、花火の音が聞こえたら、俺はそちらの方に目がいってしまった。美柑はわざとらしい笑い声を発すると、目を花火に向ける。…今年の花火はとにかく新鮮だった。「…リトってほんと花火好きだよね~」綿菓子を食べながら呟く美柑。全体的に色は黄色で、所々に赤と青の点々が付いている美柑の浴衣。そしてその浴衣は祭りが始まる前に、二人で購入した物だ。と言っても、殆どは俺が決めたような感じだが。…浴衣を着た美柑を初見で見た時は、兄の立場から見ても、とても似合っていて…それでいて凄く――「…ん?何?…あ、もしかして…これ欲しいの?…別にいいけど――」そう言いながら俺の膝の上にちょこんと居座る我が妹。美柑は俺に体重を預けるように寄っかかってきて、綿菓子を上げてきた。…一緒に食べよう…と言う事なのだろうか。「……で、さっきの話の続きなんだケドさ」藪から棒だった。美柑は花火が始まる前の話の続きを所望。俺は口の中にある綿菓子を急いで食べ、一度だけ深呼吸をした。確か、学校のコトについてだったような…。「さっき言ったじゃん、私。…なんかいろいろプレゼントされるって」美柑は学校で何かと(殆ど男子)貰い物が多いらしい。まぁ旅行帰りのお土産とか、要らなくなった物なら分かる。だが美柑の話によると、それは好意的な物が殆どで、少しばかり迷惑しているようだ。「でさ…。こうゆうコト兄のあんたに話すのもどうかと思うんだケド…。…私…結構…告られるんだよ…ね。昨日は2回されたし――…驚いた?」…驚かない。驚くワケがない。理解できるからだ。前に来た美柑の担任、新田先生の話からも想像できる美柑の学校生活。真面目でいて、しっかり者で、信頼されてて、頭もいい…。それに何より、兄の立場からみても…美柑は―――「…?…ぷっ。アハハ。やっぱ今日のリト変だよ」振り向きざまに悪戯っぽく笑われた。…でもその笑顔は俺の目に焼きつき、心に響く。まだ小学生なのに、妙に大人っぽい。「……断ったよ。全部……ん?安心した?」花火に照らされる美柑の顔。清清しい顔…若干震える手…俺に乗っかかる繊細な体…。「ははっ。大丈夫だよ。…だって私には、どうしようもないくらいのバカ兄がいるから…。ね?」美柑の赤みがかった顔。振り向きざまに、そう言われた。俺はお返しにただ、笑ってみる。美柑はムスっとした表情に変わり、「○○リト」と、何度も照れ隠しの中身の無い罵倒をしてきた。俺はお詫びに、自分を慕ってくれる大切な…何より…愛しい妹を、抱え込むように抱きしめた。「っ!…な、な…は、ハァ?ちょっ、ヤダ、リト離してよっ」暖かく柔らかい感触。―可愛い…。可愛いすぎる…。言葉ではあぁ言っても、嫌がる素振りがない。むしろ…安心してる。そういった行為が凄く俺に愛情を沸かす。美柑は俺の回した両腕を握り締め、「リト」と、一度だけ本当に小さな声で呟いた。「…苦しいよ…」その言葉に俺はすぐに腕の力を抜こうとしたが、美柑の手がそれを拒否する。そして暫くして、美柑の目が潤いだした。 ―…どうして…兄妹なの…―そう…聞こえた…。美柑の声にならない悲痛な想い。我慢していた想い。 ―…もっと…もっと甘えたいよ…。もっとリトと一緒にいたいよ…。ずっとリト…と…―「―――…こうして、いたい…よ」感情が崩れ、涙を流す美柑。…やはりまだ小学生なのだと、俺は美柑の涙を拭きながら微笑ましくも、感じた。俺は片腕を離して、美柑の髪を撫でた。サラサラで、しなやか。…美柑は気持ちよさそうに体をもぞもぞさせる。「……ぅ…。やっぱり…優しい…。優しいから……優しすぎるから……いけないんだよ――――」俺はもう一度美柑をギュッと強く抱きしめる。一瞬体を震わせた美柑だが、すぐに子猫のような溜息を吐いた。“安心”と精一杯の“甘え”なのだろう。――花火が終わる。それは祭りの幕閉めに等しい。俺達は、その後想いを伝え合った。美柑はまた泣きはじめた。そして泣きじゃくる、愛する妹の小さなか弱い手を握りながら、優しくゆっくりと唇を重ねる。柔らかくて、とても甘いキス。終わっても、またすぐに再開されるキス。何より、…愛ある深いキス。「……リト………………好き…だから……大好きだから………ずっと……傍に……――」美柑の二度目の告白。勿論俺は何回目かの満面の笑みを見せた。そして俺は眠る恋人のすぐ傍で、これからくる色々な困難や障害から絶対に美柑を守ると…絶対に幸せにすると… 絶対に…傍にいる… と強く誓った――。
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