その日、ヤミはいつもの店でいつものようにたい焼きを買っていた。出来上がるのを待つ間ぼんやりと、自分の周りを囲む街並みに視線を向ける。やたらと男女の連れ合いが目に入った。 何か祭りでもあるのだろうか、と思案。地球に来て日が浅いヤミは、こういった行事には疎いのだ。「あいよ、おまち」「ありがとうございます」 もはや顔馴染みとなった恰幅の良いおばさんから包みを受け取る。気のせいか、袋がいつもより重く感じた。「……?」 気になって袋の中身を確認してみる。案の定、中には頼んだ覚えのない茶色のたい焼きが二匹、群れの中に迷い込んでいた。「あの……これは?」 疑問に思い訊いてみる。自分は頼んだ分の代金しか払っていなかったので、間違えだったら申し訳なかった。「ああ、それかい? いつも買ってくれるからおばちゃんからのサービスだよ!」「……サービス、ですか」 宇宙一の殺し屋である金色の闇もおばさんのパワーには引き気味だった。「なんたって今日はねぇ……ムフフ」 おばさんはその分厚い顔面にいやらしい笑みを張り付ける。何が面白いのか、ヤミにはよくわからない。「今日は……何ですか?」 ヤミのその質問におばさんは「おや!」とやたら大きなリアクションで驚いて見せた。「お嬢ちゃん知らないのかい!?」 およそ99ホーンはありそうな大声でヤミに詰め寄るおばさん。ヤミは少し身体を引いて、困惑気味に答える。「え、ええ。なんだか、やたらとくっついている人が多い気がしますが」「おやおやおや。こんな日にたい焼きなんて買ってるからそうかもしれないと思ったけど、こりゃあ、相当なネンネだねぇ。お嬢ちゃんは」 よりにもよってたい焼き屋のあなたが「なんて」と言いますか、という突っ込みはヤミの口の中に留まった。それよりもヤミは自分の知識にない言葉に興味をひかれる。「ネンネ、とは? どういう意味の言葉ですか?」「おやおやおやおや。しょうがないねぇ。そんじゃ、おばちゃんが色々と教えてあげようかね」 こうして親切なおばさんによる、ヤミの特別恋愛指南講義が開かれた。
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