「こんなのフツー常識だよ…。情けないよリト!」「そこまで言うことないだろ…」どこまでも冷ややかな美柑と沙姫に睨まれながら、リトはしゅん…と肩を落としたそんなリトを余所に、二人は皿に料理を盛り付けていく「コレ、すごくいい匂いがする」「あなた、中々、見る目がありますわね」結城家の小さな料理人に感嘆の声を上げながら、沙姫は、シェフにムール貝とフヌイユのスパイシースープとエトリーユのクリームスープを美柑と自分とに、それぞれ淹れるよう命じるその横では美柑が、サーディンのリエットをパンに塗りながら、もう次の料理に目を向けていた「あ、コレもおいしそー! 沙姫さんのも取ってあげるよ」「ゴメンなさい…。私、生魚ってキライなのよ…。どんな味を加えても、口に広がる生臭さが消えなくて…。ソレがたまらなく不快なの」「へ~、何でも食べるイメージあるんだけどな…」なんて会話を聞きながら、リトは、この日、何度目かになる溜め息を吐くパーティー会場に来て、まだ一時間あまり。それだというのにリトはすでに疲労困憊になっていた「パーティーって疲れるんだな…」それから時間は少し経ち――――結局、あれから意気消沈したままのリトは、何も口に入れる事も無くパーティー会場の隅っこで、ジュース片手に一人ぼんやりとしていると、ベル・エレーヌを皿に乗せた美柑が歩み寄って来た「沙姫さんって思った以上にイイ人じゃん」「なんだよ急に…」リトの視線の先では、沙姫がさっきから父親関係の連中なのか、ひっきりなしに挨拶を交わしていた自分よりも一回りも二回りも年の離れた大人たち相手に笑顔を浮かべたり、物怖じる事なく談笑を続けたりする沙姫を見ながら、リトはコップに残ったジュースを一気に飲み干す「…つか、いろいろ大変なんだなァ、とは思うけどな」「ん?」微妙な声のニュアンスに横顔を見るも、美柑の目にはリトの心の内が読めなかったリトの視線の先には常に沙姫がいて沙姫が会釈や笑みを交わしている姿をずっと追っている「ん~…普段の沙姫さんとかよくわかんないけど…。結構、あんたの事考えてるんだなァ、とは思うけど?」「そーか? だってアイツ、いつもは…」と、空のグラスをウェイターに渡しながら美柑に応えていると、パーティー会場に流れていた音楽が変わったすると、それまでざわついていたフロアの雰囲気も変わる皿やグラスをテーブルに置き、みな思い思いの人と手を取り合って、中央にポッカリと空いたフロアに躍り出るパーティー会場が、談笑タイムからダンスタイムへと変わったのだ呆気にとられるリトの前に、ドレスのスカートを優雅に揺らしながら、沙姫が歩み寄って来た「お相手してくださらない?」「え…?」すっと差し出された白い手と沙姫の顔を交互に見ながら、我に返ったようにリトは慌てて首を振った「お、踊りってムチャ言うなよ!? 躍ったことなんかないのにできるワケないだろっ!」あからさまなリトの拒絶に沙姫の目が細まる
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