「リトーッ、お昼の時間だよー!」負のオーラならぬ正のオーラ(?)を体中から発しているようなララの笑顔、仕種、言葉。「一緒に食べよ!」「俺早弁しちゃったよ」高校生の男ならそんなものだろう。「じゃあ私の分けてあげるねっ!」常に元気一杯なララは、リトの前の席の人間がいないのをいいことにさっさと机の向きをかえるとそれをくっつけてくる。「何が食べたい?」ニコニコと、少しだけ得意げに、無邪気な表情のお手本のような顔つきだ。「別にいいよ」ドキドキしてしまっているから口調もぶっきらぼうでそっけなくなる。「そんなこと言わないでよー。せっかく分けてあげるって言ってるのに」その向かいにいる少女は、瞬時に表情を変えて今度は唇を尖らせる。本当にコロコロと変化する、それ。おまけに絶世の美少女であるため、彼女の顔を眺めているだけでもまず退屈などしないだろう。「さっき同じの食ったし・・・」一つ屋根の下で暮らす二人のお弁当の作り手は結城美柑だ。「それでもおいしーよ!美柑のお弁当は。・・・まだ全然かなわないなぁ」(・・・それにしても)リトには気になることが二つ。「今日はどしたんだ?」「?」「いや、いつもは西連寺達も誘うのにと思ってさ」そう口にした直後、わずかに頬を膨らませて、絶妙な間をとって。「・・・今日は二人っきりがいいんだもん・・・」ドキッ不覚にも身体が大きく震えてしまった。心臓が跳ねる、なんてよく言うけれど本気で位置が上にズレたんじゃないだろうか。(か、可愛い・・・)ほんの少しの、自然な上目遣いと快活な彼女らしくないゴニョゴニョ声。似たような言葉は今までも聞かされてはいたけれど、そんな時の彼女は決まって満面・満開の笑みだった。こんな風に切ない表情や態度を見せられると、素材が極上なだけに旨味はとんでもないものとなる。「リト・・・」小鳥の囀りのように、小さく小さく。こんな名前の呼び方をされたことはない。後から後から湧き出してくる気恥ずかしさ。痛いくらいに打ち付ける心臓。顔はもう茹で上がったかのように真っ赤だろう。こんな状況で断れる男がいたら是非紹介していただきたい。「じ、じゃあ卵焼きを・・・」今度はパアッと、長時間頭上にとどまっていた灰色の雲すらあっという間に吹き飛ばしそうな金色の笑顔。「はいっ。あーん」瞳を輝かせたララはリトの眼前、鼻先に卵焼きを持ち上げる。(いや、いくらなんでもそれは・・・)チラリと横目で教室の隅を見ると、リサミオと一緒にお弁当を食べている春菜と目が合ってしまった。リトはララが持ち上げた卵焼きを箸の間から素手で奪うと、すぐに口の中に放り込んだ。「もうっ。リトのバカ」どんぐりでも入れたかと思うほど頬を膨らませ不満たっぷりな目で見つめてくるララを何とか宥めながらリトは考える。(何か気になってたんだけど、何だっけ・・・?)その数秒の思惟の間に、気づけばララは笑顔を取り戻していた。そんな彼女を見ていたら、まあいいか、という気になってしまう。そう、彼女と一緒にいるとちっぽけな悩みなどなんでもないことに思えるんだ。彼女の笑顔の前では、大きな悩みもいずれどうにかなるような気がしていた。そして彼女が悩みを抱えているなんて、想像すらしていなかったんだ・・・。午後の授業も恙無く終わり、迎えた放課後。(あれ、ララがいない・・・?)いつもなら「帰ろー」と腕にしがみついてくるのだが。今日は例のアニメの日でもないし、どうしたものか。「・・・ま、いいや。帰ろ」「あれ、今日は一人なのか?」などとからかいまじりに声を掛けてくる奴等に適当に返しながら、下駄箱で靴を履き替え校舎を出るがまるで何かに掴まれているかのように足取りは重い。(何落ち込んでんだろ・・・。必ずしも一緒に帰ってるわけでもないのに)リト、リトとひっきりなしに話しかけてくるララが隣にいないだけでこんなにも虚脱感に襲われるなんて思ってもみなかった。(昼休みのララ、以前とどこか違ったな・・・)ぼんやりとそんなことを考える。まるで恋愛に奥手な女の子が勇気を振り絞ったかのような反応だった。(可愛かったな・・・)思わず口元が緩むが、我に返るとそのララがいない現状にため息が出た。(やめやめ。何で俺がララのことで落ち込まなくちゃいけないんだ)お前は少し落ち込むべきだ、との天の声が聞こえてきそうだった。ララがリトとの事でどれだけ悩み、涙を流しているか。それを知らないリトは、校舎の裏手に足を向けた。そこには大きくはないが、わりと綺麗に整えられた花壇がありリトのお気に入りの場所となっている。かつて水やり担当だったこともあり、花を見るのは好きだし穏やかな気持ちになれるのだ。しかし天誅かどうかは分からないが、今日はそこでますます心を乱されることになる。「ごめんなさい」耳に届いたのは女の子の声。滅多に聞かない神妙なそれだが、毎日嫌というほど聞いている声を間違えるはずもない。ララの声だ。鈍いリトでもどんな状況かすぐに理解できた。そして途端に胸がざわつき、灰と胃の中間あたりがキリキリと痛み出した。「僕は君の事をほとんど知らない。でも、どんな君だって受け入れる自信があるんだ。せめてデートだけでも受けてくれないかな・・・」相手はリトの知らない男だった。見た感じ先輩だろうか。広がっていく、焦燥感と不快感。「本当にごめんなさい・・・。私、大好きな人がいるんです。どうしてもその人に振り向いて欲しいから・・・その人だけを見ていたいから・・・だからあなたとはお付き合いできません」それはララの"その言葉"を聴いた瞬間も続いていた。ララは言い終えると深々と頭を下げた。静かだけれど固い意思の篭った言葉に相手は観念したようだった。「そう・・・。それじゃあ仕方ないか・・・。時間取ってくれてありがとう。すっきりしたよ」言葉とは裏腹に彼からは無念さが滲み出ていたが、ララを責めるような態度は全く見せなかった。「その彼が羨ましいな・・・」小さくそう呟くと告白者は去っていった。しかし彼が去った後もララは頭を上げなかった。その細い肩が微細に震えていた。そんなつもりはなかったが、自分とそう変わらない身長を持つ彼女がとても小さく見えてつい声を掛けてしまっていた。「泣いてるのか・・・?」ララは体勢を変えなかった。リトはララのすぐ後ろまで来たが、彼女に触れることはできなかった。リトが何も出来ないでいると、暫く経ってからララが顔をあげた。そのまま振り返らずに話し始める。「心が痛いよ・・・」泣いていたのかどうかは声色からはわからなかった。リトは何も返すことが出来ず、金縛りにあったかのようにただ立ち尽くしていた。「ときどきね、今みたいに告白されるの・・・」「・・・」全然知らなかった。リトは彼女が宇宙人でお姫様で天才発明家?で尻尾からビームなんか出せちゃうことを知っているから、ララが告白されるなどとは想定していなかったのだ。しかし大多数の男からすれば、ララはめちゃくちゃ可愛くて明るくて人懐っこくてスポーツ万能で頭までいいのに嫌味じゃない、まさにスーパーガールだ。モテないはずなどなかった。まるで独り言のようにララは話し続ける。「相手が本気で伝えてきてくれると、胸が苦しくなるんだね。私がリトの事を大好きっていう気持ちと同じように、この人も私を思ってくれてるのかなって。今の私と同じように、苦しいのに失くしたくない想いを、ずっと抱えてきたのかなって。そしてこうして断る度に、私もリトにフラれちゃったらって、考えちゃう・・・」地球に来て、リトを好きになって、周囲の人の気持ちにも少しずつ気づけるようになってきて。自分も本気で恋をしているからこそ、ララの胸には想いの刃が痛いくらいに突き刺さる。彼女はそれを受け止めて傷つき、相手を傷つけてしまうことにまた傷つき、自らの恋に照らし合わせてしまってさらに傷つく。"その後"を考えてしまって。そうまでして、しかも普段はそれをおくびにも出さずにララはリトを想い続けてくれている。なのにリトは、ララらしくない作り物の笑顔で「帰ろ」と告げられ、無言のままその数歩後ろを歩くことしか出来なかった。会話がほとんどなく、妹に妙な気まで遣わせてしまった夕食後、リトは自室で思いつめていた。しかし募るのは苛立ちばかり。それは、さっきのあの時から。"どんな君だって受け入れられる自信があるんだ"あの男の言葉が耳奥でこだまする。神経が過敏になっているのがわかる。(くそっ!!)握った拳をベッドに叩きつけた。(あんたはララの境遇を深くまで知っても、同じ台詞を吐けるのかよ・・・)顔を掛け布団に埋める。不快な感触しかしなかった。違う。そうじゃない。冷静になれ。あの男のことなんて本当は関係ないことだ。今考えるべきは、俺とララのこと。第三者なんかどうだっていい。俺はララをどう思ってる・・・?ララのことが大切―――?大切だ。即答。ララに傍にいて欲しい―――?いて欲しい。いつまでだって。即答。じゃあ、俺はララのことが好き―――?好きだ。これも即答。なのに俺は、ララとの関係を進めることが出来ない。俺はララを、どう好きなんだ・・・?近すぎる距離感。家族のような緩い感覚が、逆にリトを縛り付ける。そして何より、どんなに親しくなっても、どれほどドキドキさせられても、ララが自分とは異なる星のそれも全宇宙で見ても強大な力を持つ星のお姫様であるという事実に、足踏みさせられているちっぽけな自分。そのことがリトから思考力と行動力を奪っていく。今のままではいけない。それは分かっているのに結局は今日もどうすることも出来ない。それがリトを際限なく苛立たせていく。ただ天井を睨みつけることしかできない。そしてまた、苛立ちが疲労によって麻痺していくのを待つだけだ。リトが自嘲の苦笑いを浮かべたとき、廊下から妹の声が聞こえた。「リト、電話だよ」「いないって言ってくれ」今は誰とも話したくない。「そんなこといえないよ。こんな時間に」「どうして!?」苛立ちを抑えきれない。美柑に当たってもしょうがないのに。「電話、母さんからだもん」救いの声は、その電話からもたらされた。「よっ、息子。元気かー?」母さんの声がやけにノイズ交じりで擦れて聞こえたのは、それが国際電話だからではないだろう。「・・・ああ」「んー、あまり元気じゃないか」返事一つで見抜かれた。「ララちゃんのことだ?」「ちげーよ!」間髪いれずに返答。「クスクス。そっかそっかあ」しまった。反応するのが早すぎた。まあ母さんに敵わないのはいつものことなので、遅かれ早かれ見抜かれたと思うけど。母さんは一つ咳払いをすると、それが何かのスウィッチであったかのようにそれまでとは打って変わって真剣な声で話し始めた。「リト、前にも言ったけど女の子の気持ちに応えられるのは男の子の優しさなんだからね」「それは分かってるよ・・・」(でも、愛情と情けは別物だろ?)「リトはさ、ララちゃんに対して構えすぎてるんじゃないかな」「・・・俺が、ララに?」まさか。毎日顔合わせてるし、会話だってスキンシップだって・・・まあしてるし。ましてや一緒に住んでるのに。「彼女のことどう思ってるとか、自分との境遇の違いとか、そういうの全ておいといて・・・。彼女のために何かしたときのこと、思い出して。未来のことでもいい。彼女が喜ぶことをしてあげたと仮定してみて」仕事モードじゃないのに真剣な声色に、よく分からないがとりあえず言われたとおりにしてみる。思い浮かんだのはララのはにかんだような、幸せそうな笑顔。いつもリトを知らず知らず支えてきた、ララの笑顔。それがささくれ立った自分の心に暖かな灯をともしてくれる。表情が少し弛んでいるのが自分でも分かる。「そのときあんたが嬉しいと思ったり、優しい気持ちや穏やかな気持ちになれたのなら、それはあんたが彼女に対して好きっていう気持ち、愛情を持ってる証拠よ」思わず息を呑む。今リトが感じたのはまさにそんな気持ちだったから。「でもそれは・・・」(情けじゃないのか?そんな感情はララに対して失礼なんじゃないのか?)「それが、構えてるって言うのよ」受話器越しに苦笑いが伝わってくる。「恋愛なんてものはどちらかの一方通行から始まる場合がほとんどなのよ?」確かにそうだ。好きになるタイミングが全く同じなんてむしろ稀なこと。「だから言葉は良くないけど、あの娘に情けをかけなさい。もっと真正面から受け止めてあげなさいな」母さんの言葉は、スーッという爽快感のようなものとともに肺一杯に広がっていった。「そうすれば、あんたの気持ちだって見えてくるかもよ?」いつの間にか、不快なノイズは消えていた。「・・・ありがとう。母さん」「ふふっ。こっちも楽しみが増えたわ。じゃあまた連絡するから」そういうとこちらの返事も聞かずに電話を切られてしまった。リトは微笑みながら電話を置く母を想像した。次の瞬間にはその表情は100%仕事モードに切り替わっているに違いない。そう考えて苦笑してしまったが、モヤモヤを吹き飛ばしてくれた母のアドバイスに感謝せずにはいられなかった。ララの気持ちに応える為には、俺の方からララを好きにならなきゃいけないと思ってた。それも自然に好きにならなきゃいけないと、"思おうとしてた"。例えば春菜ちゃんにフラれるとか、ララが急にいなくなるとか、そんなきっかけじゃなくて、自然に。そう思うことで、俺はずっと先送りにしてた。彼女の眩しい笑顔を眺めながら、何も起こらない事を願ってた。でも、俺は決めた。ララをちゃんと見つめようと。自分で、結論を出すために。「なあ、ララ」翌日、いつものように美柑の作ってくれた朝食を取りながら徐に話しかける。ちなみに美柑に昨日のことを謝ったら、"これからのリトに期待してるよ"、とすまし顔で言われてしまった。「ん、なぁに?」本当に旨そうにご飯を頬張りながら笑顔を見せてくれる。いつのまにか根を張っていた、俺の心の栄養。「明日、休みだろ。よかったら、その・・・映画でも行かないか?」「えっ?」ララはその大きな瞳を文字通り真ん丸にしていた。隣では美柑がニヤニヤ笑っている。「リト、それって・・・?」「まあ、なんだ・・・その、デート」リトの口からその言葉が出た途端ララの表情が変化していく。いつもよりゆっくりと、蕾が開くように、輝く笑顔がふんわり膨らんで、弾けた。「リトッ!!」ギュっとしがみついてくる。「ちょ、今食ってるんだからくっつくなって」「だって、嬉しいんだもん」瞳に涙を一杯に溜めながらもにっこりと笑う。デートに誘っただけでこんなにも喜びを表してくれるララがたまらなく愛しい。正直、抱きしめないようにするのにはかなりの理性が必要だった。「ほら、くっつくのは明日まで我慢しろって」「明日ならいいの・・・?」期待と媚びとが1対1でブレンドされたララの表情。可愛いぜちくしょう。「まあ・・・デートだし、少しくらいは・・・」「わかったっ。明日まで我慢するね!」そういうとパッとリトから離れて食事に戻る。が、一口食べるたびに幸せそうな顔で見つめてくるものだからリトとしては落ち着かない朝食だった。「行こっ!」制服姿で並んで家を出る。ララは軽い足取りで跳ねるように歩いていく。彼女がまだ嬉しそうにして振り返るたびに、昨日までとは違う気持ちを確かに感じる。大量の恥ずかしさや少しの優越感とともに、確かに存在する嬉しさと暖かさ。それはきっと、ララと向き合うと決めたから気づけたのかな。確信に近い、予感があった。近いうちに、俺はララのことしか考えられなくなるんだ。「リトーッ!早く早く!」「そんなに急かすなよ」この時期にしては珍しいカラッとした青空に見守られながら、弾むようにララが歩いていく。約束どおり、今日はララとお出かけ。俺から申し入れた、初めてのデート。さっきからすれ違う男がララを振り返ってる。一人の例外もなく、全員がだ。春らしいレースのワンピースはアイボリーカラーで、ララが着ると本当にお姫様そのもの。足元は優しい茶色系のブーツ。よく映えるピンク色の髪の毛もアップにまとめていて、可愛らしさと優雅さが同居している。やたらと日差しが眩しいのは、今が午前9時という太陽が真上に昇りきらない時間だからだけではないだろう。キラキラと輝いている彼女。今日は暑くなりそうだった。「で、まずはどこに行くんだっけか?」「最初は喫茶店で朝御飯だよー」(ララの奴元気だなー。ほとんど寝てないのに)本日のデートコースはララ任せ。別に自分から誘ったのに考えなかったっていうわけじゃない。リトだってちゃんと考えていたのだが、今朝4時に叩き起こされてララからデートプランを発表されたのだった。それまで一睡もせずに考えていたらしい。前日の朝からだから・・・丸一日近くか。ララならスパッと決めてしまうか、何も考えずに出たとこ勝負だと思ってた。そう伝えたら、「だって、せっかくのリトとの初デートだもん。一生忘れられない想い出にしたいから・・・」不満をあらわにしつつ、うっすらと頬を染めて。(ああ、可愛かったなぁ・・・)「・・・ト!リトってばあ!ついたよ」「・・・ああ、わりい」昨日から惚けすぎだな、俺。喫茶店の軽食で朝食を済ませて肩を寄せ合って買い物してお昼食べてゲーセンで遊んで映画を見て。そんなどこにでも転がっていそうな、普通のデート。でも、ララの想いがたくさん詰まったデートだった。この喫茶店はあのドラマのロケに使われてたんだって。このコーディネートは今年の流行なんだよ。ここのレストランはお魚料理がとってもおいしいの。あのゲーム、リト好きだったよね。今から見る映画の主演女優さんの特技は水泳なんだよ。もし説明しているのが猿山だったら、「へぇー」程度の反応で終わりだろう。(猿山、すまん)リトはドラマにあまり興味がないし、ファッションはよく分からない。料理だってそんなにこだわりはないし、ゲーマーってほどでもないし、映画だって時々見る程度。だけど、雑誌を買い込んだりネットを使ったりして一生懸命に調べるララの姿が目に浮かぶ。今日という日が、リトの心に少しでも強く大きく残って欲しい、そんな想いで彼女は頑張ってくれたのだろう。だからリトは出来る限りの優しさを込めて彼女の話に相槌を打ち続けた。本当に楽しそうにしているララを見ているだけで、心が温まる。自分もどんどん嬉しくなって、彼女に惹きつけられていく。腕を組まれたら胸が当たってドキドキしたし、次から次へと休む間もなく引っ張りまわされて大変だったけど、今日は他人の目とか全く気にならなかった。そんなのどうでもよくて、文字通り眼中になくて。余計なことも何も考えなかった。一日中笑顔でいられた気がする。デートなら普通はもっと甘いムードになるものなのかもしれないけれど、ただ楽しくて仕方なかった。目に入るのはララだけ。彼女の笑顔に夢中だった。「楽しかったねーっ」夕焼けが街を濃い目のオレンジに染め上げていく。ララの口調はいつもの明るさを保っていた。けれども微かに寂しげな色が混じっていた。それはきっと、今リトが抱えているのと同じ気持ちからくるもの。二人は晩御飯のために呼びに来た母親の後ろを名残惜しそうに歩く昭和の小学生のように、ゆっくりと結城家へと歩いていた。楽しかった。本当に。もっと何時間だって、二人で遊んでいたかった。普段から人並み以上に楽しさとスリルに満ちた生活を送っていると自覚しているリトだが、それでもこんなに楽しかったのはいつ以来だろう。かけがえのない、大切な時間だった。「ねえ、リト?」「ん?」ララは遠くを見つめているように少しだけ目を細めていた。夕日に照らされた横顔は美しくてどこか幻想的で、急にリトは切なくなった。「・・・また遊ぼうね」まるで独り言のようにララが呟いた。ああ。また遊びたいな・・・。ララが喜んでくれるなら。心の中で思ったそれは、言葉にはならなかった。しなくても良いことを、リトもララもわかっていた。それから二人は無言のまま歩き続けた。少し火照った二人の頬を、6月の優しい風がそっと撫でていった。二人は結城家へと帰ってきた。玄関には鍵がかかっていたので美柑は出かけているらしい。暖かい日差しの中を動き回ったので汗を吸い込んでいたTシャツを脱ぎ、財布や携帯、ゲーセンの景品を無造作に辺りに置いていく。(とりあえずシャワーだな)「ララ、先にシャワー浴びてきていいぞ」デートの日にリトがサラリとこんな台詞を言うとは。最も本人にはそんな自覚はないのだけれど。「ねえ、リト・・・」ララが静かな、透き通るような声を出す。そんな機会が最近増えた。比例して、リトの心臓が跳ねる機会も。「まだデート、続けてもいい?」ララの口調は変わっていない。なのにリトは圧迫感を覚えた。跳ねるのではなく、押さえつけられたように動きを止める心臓。今までララからそんなものを感じたことはなかった。何かが起こる―――そんな予感を感じながらもリトは「ああ」とかえした。拒むことなど、選択肢になかった。「じゃあ、シャワー浴びてきて」「・・・へっ?」いきなり心臓にエンジンがかかった。連続でフカされ、高速で回転を始める。「いいから、早く!」裸の背中を押され、脱衣所へと入れられてしまった。身体が熱い。汗が噴出してくる。暑い日に外から戻って家の中で静止すると一気に汗が噴出してくるが、それにしたって熱い。(ちょっとは落ち着けっての!)休むことなく打ち付ける自らの心臓にどうしようもない文句をつける。(ただシャワー浴びて来いって言われただけじゃんか)リトがララにシャワーを勧め、それに対してララが「先に入っていいよ」と返してくれたのと見かけの状況としては変わらない。でも、今日はデート。あまりにも純粋に楽しくて忘れていたけど、今日はデートなのだ。(俺と、ララの)今頃になってリトはその事実を強く強く自覚した。男ってほんとどうしようもない。火照りを抑え、冷静さを取り戻すため冷水を頭から被る。それでも思考は"そこ"にしか向かってくれない。ララの艶やかな唇に触れる瞬間。彼女の身体はどれほど柔らかいんだろう。あの胸は、腰は、お腹は、太ももは。彼女はどんな声で鳴くのだろう。俺だけに、どんな表情を、見せてくれるのだろう。自分の身体の上で果てるララを想像して、リトはハッと我に返る。(アホか、何考えてんだ俺は!)シャワーヘッドを持っていないほうの手で横殴りに自分の頭に一発。(まだ好きだって、伝えてもいないのに)生じた自分に対する嫌悪感は刹那、違和感に変わる。(好きだって伝えてもいないのに?)リトはそこで、妙に冷静に受け止めた。もう、彼女を受け入れる気満々の自分がいることを。彼女への想いを、抑える気などない自分がいることを。さっきの予感の正体を。お湯に切り替えたシャワーからの水を顔に受けながら瞳を閉じる。すぐに浮かんでくる、満開のララの笑顔。(好きだよ・・・ララ)自然に言える気がした。しかし風呂場から出ると、そこには地獄絵図が・・・。「ララ、出たぞ」気恥ずかしくて、彼女から視線を逸らして呼びかける。ふと時計が目に入る。いろいろ考え事(妄想とも言う)をしていたのでシャワーで30分以上かけてしまった。「はーい。ソファで待ってて」タオルで髪の毛を拭きながら何の気なしにソファに座る。どうやって、ララに伝えよう。頭の中がそれ一色に染め上げられる直前に、リトはその異様さに気づく。(ララが、恐ろしいことをしていた気がする!!)恐る恐るキッチンを覗き込む。そこには鼻唄とともに野菜を切るララの姿が。「おい、ララっ!」慌てて声を掛ける。「あっ、リト!入ってきちゃ駄目だよ!」ララが不満の声を挙げるが構ってはいられない。(一刻も早く止めさせなければ、想いを遂げる前に俺の命が・・・)何気に酷いリトだが、それほどまでに彼の中でのララの料理の腕は凄まじい。凄惨だと言っていいほどに。(ぐはっ、手遅れだったか)さらにキッチンへと侵入したリトは、既に炊飯器が稼動し小型鍋が火に掛けられているのを目撃した。「もう、早く出てって!」自分の部屋(ラボ)に入られたって全く怒らないララが、かなりの剣幕でリトをキッチンから排除した。「おとなしく待ってなさい!」そう言われたって待っている気にはなれない。こっそりとララの様子を窺う。しかしそこにいるのはまるで美柑のようだった。ララはキャベツを千切りに、きゅうりを薄切りに、トマトを輪切りにすると冷蔵庫から調味料を複数出してカップで測り、それを入れたボウルをかき混ぜ始めた。どうやらドレッシングを手作りしているようだ。無駄のない、流れるような動きで手際よく作業をするララ。いつの間にかキッチンは、食欲をそそる香りに満ちていた。俄かには信じられないことだが、ララは料理をマスターしてしまったらしい。(あ・・・だからか)リトは二日前の昼休みに感じた気になることの正体を思い出した。"まだ全然かなわないなぁ"この言葉から察すると、リトが知らないうちに美柑から料理を習っていたのだろう。悪戦苦闘しながら一生懸命に料理するララの姿が目に浮かぶ。(そういえば、先月の食費はやたらと高くついてたな・・・)リトは得心してなんとなく微笑みを零すと、ソファへと移動した。炊飯器がご飯が炊き上がったことを告げると、リトは立ち上がった。「運ぶものあったら言ってな」キッチンには入らずに声を掛ける。小皿で鍋物の味見をしていたララが振り向く。味を確認して満足げに頷くと、額の汗を拭いながらにっこり笑って言う。「ありがと!今よそうから持って行ってくれる?」「・・・あ、ああ」ララと料理。いや、ララと家庭的なもの。それは大きな衝撃をリトに与えた。(結婚したら、こんな感じなのかな・・・)リトが、ほとんど無意識に描いていた望む未来。それは、平凡でも暖かくて優しい空間。疲れた身と心を癒し、明日への糧を得るオアシス。今までどうしてもそこにララを結び付けられなかった。それが今、こんなにもリアルに描けている。目の前に存在している。皿に盛り付けられた料理を運びながら、リトは初めてララとの未来が描けたような気がした。結城家のテーブルは、ララによって一時間で用意されたとは思えない食卓となっていた。ホカホカの白ご飯と、醤油ベースの和風ロールキャベツ。手作りドレッシングがかかったサラダは、緑、赤、黄色と色味も鮮やかだった。見た目も匂いも問題なし、だが。「い、いただきます・・・」(間違いなくおいしいはずだ)そう思うものの、過去が過去だけに不安が入り込むのはしょうがないこと。恐る恐る、メインの一品を口に運ぶ。ララはソファに座ったリトから見て、四角いテーブルの左辺に位置して固唾を呑んで見守っていた。噛んだ瞬間、肉汁と和風だしの旨みが口の中いっぱいに広がった。それに玉葱の微かな甘みと上に乗っかっていたきのこ(シメジだろうか)の感触が追い討ちをかける。(これは・・・)「うまい・・・」胸の前でキュッと手を結んでいたララが、それをギュッとに変える。彼女の口が微かに開いている。まるで大自然を目の前にしたかのように固まっていた表情が、「リト」という呟きとともに綻んでいく。夢見心地、といった表情の彼女にもう一度感想を述べてやる。「めちゃくちゃうまいよ、ララ」照れたような、でも少し誇らしげな笑顔に移り変わっていく彼女の表情。そのあまりの鮮やかさ、美しさに今度はリトが惚ける番だった。(綺麗だな・・・)シャワーであんなことを考えてしまったからか、それともついさっき未来を想い描いてしまったからか。どっちだって良かった。ララに女を感じる。この娘が、愛しいと感じる。それだけに、従順になる。「ララ・・・」リトは自分にできる限りの愛情を込めて、ララを呼んだ。「リ、ト・・・?」ララは少し驚いた。気が付けば目の前に大好きな人の顔があった。いつになく真剣な表情で。どちらかといえば幼い顔立ちのリトも、今は精悍に見えた。それを見た瞬間に、決意は固まった。好きだ、リトの口からそう出掛かった矢先、先に声を発したのはララのほうだった。「私ね・・・」静かな口調だがリトはそれに声を被せることができなかった。しかし落胆することはなかった。代わりに、不思議なほど落ち着いていたのに緊張が沸き起こってくる。ララの話を聞かないと。本能が、そう瞬時に理解した。「今日のこと、ずっと忘れない・・・」ララは顔をまっすぐ身体の正面に向けているから、視線がリトと交わることはない。それだけで、今の彼女の精神状態が平常時と違うことが分かる。「ララ・・・?」リトはすぐに違和感を感じとる。鈍い彼も、今ばかりは感覚が鋭くなっている。キリキリと胃が痛みを訴えてくる。「ご飯、おいしかった?」「あ、ああ・・・」まだ一口しか食べてないけど、凄くうまかった。リトは告白云々は一度置いておいて、何とかいつもの二人に戻そうとした。それほどまでの言い知れぬ緊張が、彼を襲っていた。「ララって、凄いよな。前は全くできなかったのに、いつの間にか料理できるようになっててさ」握り締めた掌には汗が溜まってきていた。「もう、遅いくらいだよ」「お、遅いって・・・何が」(何でそんなこと言うんだ・・・?俺たちこれからじゃないか)ララはそっと、物憂げに微笑んだ。(なんでそんな顔するんだよ、ララ・・・)忍び寄る不安の影。「私ね・・・普通の女の子になりたかった」リトは心臓に釘を打ち込まれたような感覚がした。「地球に来るまで、リトに逢うまで、自分の境遇を疑問に思ったことなんてなかった」デビルーク星の、プリンセス。「だけど、最近何度も思うんだ・・・。私も普通の女の子なら良かったって」感じていないわけではなかった。リトが自分のことを、他の女の子と同じように見てくれていないことを。彼が見つめているのは、地球における普通の女の子なのであろう、春菜だった。「だから、そうなろうと努力してみたんだ」地球の女の子の気持ちを勉強して。美柑に生まれて初めて料理を習って。地球で人気の服を着て。普通の女の子と同じようなデートをして。リトに、受け入れられたいから。好きになって欲しいから。「でも、どこまでいっても私はララ・サタリン・デビルークなんだよね・・・」普通の女の子の真似事はできても、本当にただの女の子にはなれない。「私、パパのこともザスティンのことも好き。デビルークには他にもたくさんの人がいる。その人たちは、私を必要としてるの」リトは何も言葉にできない。反応すら返せない。「私にはデビルークの王女としてやるべきことがある。だから、全てを投げ打ってリトとずっと一緒にいることは・・・できないの」打ち込まれた釘が最奥まで、ずっぽりと打ち込まれた。心臓から水滴の波紋のように、広がっていくのは喪失感。「だから、だからね・・・。せめて、その日が来るまでは・・・普通の女の子として、リト、と・・・」もうララの声は掠れ、瞳には大粒の涙が浮かんでいた。彼女が言う、その日。ララが、デビルークの王女に、戻る日。あるいは、女王になる日。その日までララは、リトにただ普通の女の子として自分を見て欲しかった。それが"いつか"は不確定でも、変えられない未来が彼女にはある。リトが想像するよりもずっと、その双肩には多くのものが圧し掛かることになるのだろう。彼女は彼女なりに、リトと同じ未来を描きたかったのだ。できることなら、自分と一緒にデビルークに来て欲しいとも思ったはずだ。でも、リトはそれを望んでいない。望んでいないリトを、巻き込みたくはない。だからララは、自分の思い描く未来を、リトのそれと重ね合わせて・・・。リトの望む未来に、存在しようとした。一時の夢の中だけで。ララのすすり泣く声を耳にしながら、リトは茫然自失状態だった。(ララが、いつか、いなくなる・・・)分かっていたこと。それは頭の片隅に、「そうなんだろうな」ということとして、常に存在していたはずのこと。ずっと、考えないようにしていたこと。"彼女のことどう思ってるとか、自分との境遇の違いとか、そういうの全ておいといて・・・"彼女と向き合おうとした途端に、こんなことになるなんて。(皮肉なもんだな・・・)リトは心の中でそっと呟く。しかし彼の精神は打ちひしがれることを、ララがいなくなることを、きっぱりと拒絶した。"それ"は、変えられること。俺が、変われば。「例え、俺と生まれた星が違っても・・・」ララが真っ赤な目でリトを見つめる。「王女様でも、なんでも・・・」そう、そんなのは関係がないこと。「ララはララだろ」「・・・・・・!」思い描いた、空想でしかない未来など、何度でも描き直せばいい。「俺は、ララが好きだ」ララは流れる涙もそのままに、大きく目を見開いた。ずっと待ち望んでいた人からの、待ち望んだ言葉。その響きが、全てを揺らす。私もリトが好きっ!!今すぐ叫んで胸に飛び込みたいけれど、思いの丈全てを吐き出した直後に愛の衝撃を受けた身体は、震えるだけで動いてくれない。「俺の未来に必要なものがあるとすれば・・・」リトはさっき名前を呼んでくれた時と同じように、凄く優しい声をしていた。「それは、お前がいてくれること。それだけでいい」どんなララも、どんな事態も、立場も、全てを受け入れる。それは、無償の愛を想わせる言葉だった。「・・・リ、ト」ララの身体の震えはどんどん大きくなっていた。じっと見つめてくるララに、リトは自分の太ももを両手で叩きながら告げた。「・・・早く来いよ。俺、待ってるんだけどな」「リトッ!!」胸に飛び込んで来た彼女をコンマ一秒たりとも無駄にせずに抱きしめる。「ずっと・・・言って欲しかった」「うん・・・」「一緒にいたいって・・・」「うん・・・」「私、リトの未来にずっといてもいいの・・・?」「俺が付いていけるかが問題だな」そっと微笑みながらリトが返す。「今度は俺が、頑張るから。ララの未来にいられるように」ララの胸に、この上ない幸せが染み渡っていった。二人は見つめあった。確認など必要なかった。どちらからともなく唇が重なる。「ん・・・」押し付けられてくるララの唇。身体。その全てが柔らかくて、張りがあって、蕩けそうなほどに熱い。リトはソファに倒れこむ格好になる。「んむっ・・・ちゅる、ちゅ・・・はあ・・・はむぅ」(!!)押し倒すと同時に、ララは舌を差し込んできた。知識としてしか知らない、ディープキス。そのあまりにも淫靡な感触に戸惑っている内に、リトはどんどん蹂躙されていく。歯茎まで舐め尽されてしまった。「あ・・・ん、んぅ・・・ちゅ・・・ぷは」お互いに大量の吐息と唾液を流し込んでから、ようやく唇が離れる。「はあぁ・・・」深く深くため息をつくララ。「ララ、お前とばしすぎ・・・」もう完全にララは"入って"いた。「だって・・・気持ち、抑えられないよ」潤んだ瞳、その髪の毛の色よりは少し薄い、ほんのりとしたピンクに染まる頬。(可愛い。可愛すぎる)自分の中でチロチロと燃えていた愛欲への想いが、確実に火力を強めつつあった。「ララ、もう一度・・・」言うと待ち構えていたかのように舌先を伸ばしてくるララ。しかし今度は、リトだって負けていられない。自分の舌でそれを受け止め、絡めとり、激しく吸い上げる。「ちゅる・・・ん、じゅぷ・・・」「ん・・・あんっ・・・リホの、舌が・・・」甘く熱い、ララの唾液。脳髄が溶かされそうだ。ララの背に回した腕に力を込める。「・・・んはっ・・・リト、嬉しいよぅ・・・はぁ」今までより更に息苦しくなったはずだが、それでもララは幸せそうに笑ってくれた。リトはララを抱きしめたまま体勢をを横向きに変える。互いに片方の肩をソファに抱かれた状態で見つめあう。「リト・・・。私、リトに気持ちよくなって欲しい」言うなり、リト自身を掴まれた。それを感じた瞬間、ララを抱きとめていた腕が弛む。「ちょ、ちょっと待てって」リトの言葉を無視して、自由になったララはまたしてもリトの上に来るとズボンのジッパーを下ろす。「ララ、無理しなくていいって」ララはフルフルと首を振る。「無理なんかしてないよ。私、リトのなら平気だから・・・」ララは本当に無理などしていない。それは分かるが、一方的にされるのは納得できなかった。ずっと前から自分を想ってくれていたララと、今日ララへの気持ちを確信した自分。(それでも、期間は違っていても、相手を想う気持ちの大きさは俺だって負けない)大好きだということ、絶対に離したくないこと、気持ちよくなって欲しいこと、幸せを感じて欲しいこと。そのどの気持ちも、ララに負けたくない。溢れそうなこの愛しさを言葉じゃ示せないから、態度で示す。「じゃさ、一緒にしよう・・・」言うなり、寝そべったまま自分の身体を180度動かす。目の前にララの、薄ピンクの下着。引き締まったお尻。「やっ、恥ずかしいよ・・・」ぱっとワンピースを抑え付けるララ。裸を見せることに恥じらいを見せない彼女が、下着を見せることを恥らう。それがリトをやけに昂ぶらせた。ララの秘部に真下から手を伸ばし、下着の上から触れる。「あんっ」ララのそこは、もうじんわりと湿っていた。「濡れてる・・・」「あうぅ・・・」ララは恥ずかしそうに顔を覆ってしまった。「キスだけで感じちゃったの?」ララはリトを肩越しに振り返る。目尻には涙がずっと溜まっている。「・・・キスじゃない」「へっ?」「リトが好きって言ってくれた1分後には、もう準備できてた・・・」「いや・・・、マジ?」いくらなんでもそれは、と思ったがララの入り具合からしたらありえなくもないかもしれない。「うん」「・・・」リトは少しからかおうとしていたのに、感動で言葉が出なくなってしまった。「リトだから、私我慢できなくなっちゃう・・・。リトだから、エッチなことも、何だってできるの」リトだから。それは、俺だって同じ。ララだから、こんなことができる。ララじゃなきゃ、無理だ。「俺と一緒だな」「えっ?」「俺もララだから、我慢できなくなる」言葉通りリトの急所はズボンの中でこの上なく窮屈そうにしている。「リトと、一緒?」「そう、一緒。そして俺たちは、今から一緒のことする」「一緒のこと・・・」二人はどちらも、相手を想う気持ちを抑えられない。だから、同時に愛し合う。リトも自分と同じ気持ちを抱いてくれている。そのことがララに力を与え、恥じらいを取り去った。彼女はあっという間に下着の中に進入し、一物を外気に晒される。「ちゅ」「うわっ!」間髪いれずにそれに口付けてきた。「ん・・・ちゅ、ちゅ」リトの先端に、啄ばむような口付けが次々に落ちる。その度に電流を流さたるかのように身体が震える。あまりの気持ちよさに、意思とは無関係に一物が揺れる。それを見て、ララが意地悪く笑う。「あはっ!気持ちいいんだ・・・。ん・・・はむっ、んっ、んぅ」「あぁ」ララはリト自身を両手で包み込むと、先端を咥えてきた。「あむぅ・・・リトの、どんどん・・・熱く」無邪気に、戯れるようにリトを愛し続けるララ。鈴口からは先走り汁が、次から次へと溢れてくる。「んんっ・・・じゅぷ、ちゅる・・・はん」ララはより深くリトを飲み込んだ。(やばい、このままじゃ・・・)あっという間に果ててしまう。(ララって、経験あるのかな・・・)自分が初めてだから、ララがうまいのかどうかはわからないが、本当に気持ちいい。「はあ・・・んっ、れろ」大きく開けた口の中、舌先で絶妙な愛撫をしてくる。次から次へと、猛攻を仕掛けてくるララ。とにかく何か手を打たなければ。目を開ければ、目の前で左右に踊る、ララの尻尾。(そうだ、俺もしなくちゃ!)あまりの気持ちよさに完全に忘れていた。これは二人の共同作業。(それにララも気持ちよくなってくれれば、ちょっとは俺への攻めも収まるはず)リトはようやく、ララのお尻に手を掛けると内股に口付けた。「あんっ!」こちらが驚くような、敏感な反応。「リ、リト・・・」片時も離されることがなかったリト自身が、ようやくララの口から開放される。この機逃すべからず、とばかりにリトはララの泉に指を滑らせた。「あっ、リト・・・気持ちいいよお・・・」下着越しなのにクチュクチュと、早くも水音が響いている。むわっとした、だけど決して不快ではない、温かい湿り気がリトを包む。「下着、脱がすな」もう下着としての役割をほとんど果たせなくなっていたピンクの布切れを膝辺りまでずり下ろす。「リ、リト・・・」「なに?まさか自分だけ恥ずかしいからやめてなんて言わないよな?」「そうじゃなくて」(そうじゃないんだ・・・)「私、汗臭くない・・・?」恥ずかしがるということでなく、純粋にリトが不快に思わないかを心配しているようだ。そんな必要ないのに。リトはララの秘部に顔を近づけるとあからさまに空気を大きく吸い込んだ。「ひゃんっ!」ララの身体がびくんと震える。「刺激的な、いい匂いがするよ」「ば、ばかあ!」まだ直接触れてもいないのに、ララのそこからは粘っこい液体が溢れてきていた。リトは両手の人差し指と中指でララのそこを押し広げると、舌先をそっと潜らせた。「きゃんっ!あうっ・・・リトっ、ああっ!」ララの口から、それまでとは比較にならないほどの甲高い声が上がる。「あっ、リト、待って。わ、たし・・・初めてなのに・・・」(そっか。ララも初めてなんだ)初めてじゃなくても、今更そのことで気持ちがなえたりはしないが、やっぱり嬉しい。(こんな可愛いララの、初めてが、俺)調子に乗ったリトは音を意識的に立ててララを愛撫する。「じゅるるる」とめどなく溢れてくるララの愛液をすする。(これが、ララの味か)それは不思議なほどサラリとリトの中に溶け込んでいった。「や、そんなの飲まないでぇ・・・」「ほら、ララもしないと」ララが感じてくれている。不思議なものでそのことがリトの迸りを鎮めてくれたようだ。さっきよりも大分、達するまでの余裕が生まれてきた気がする。「んっ・・・ぢゅっ、ちゅぷ・・・んっ」「っ!」前言撤回。やっぱりあっという間に達しそうだ。ララはこの僅かな時間でリトの敏感なところを察知したようで、的確にそこを突いてきた。「ちゅ、ちゅぷ・・・リト・・・ひもひいい?」「うっ・・・咥えながら喋るな・・・」聞かなくたってわかっているくせに。そう思うが、まじりっ気なしの純粋な笑顔を見せられると文句を言うこともできない。「んう・・・んちゅ・・・じゅちゅ」これは本当にまずい。かくなるうえは・・・。「レロ・・・んー」「ああっ!!」リトは女の子の一番敏感なところ、目の前で微かに、しかし絶えず震えていたクリトリスを舌で愛撫する。「やんっ!そこは・・・リトッ!」舌先の感覚を研ぎ澄まし、小さな突起を転がすように舐めていく。「ダメだよぅ・・・そこは、あっあっあん!」リトの上で大きく上下に左右に跳ねるララ。しかし今度は、その口が休んでいたのは僅かな間だった。「んっ・・・んく!あふぅ・・・んあっ・・・ちゅ」すぐにララは熱の篭った、激しい愛撫を加えてきた。リトも負けじと、クリトリスの攻めを指に変更しそれを弾きながらララを舌で味わう。とめどなく与えられる快感と、同時に耳に入る艶かしいララの喘ぎ声。あっという間にリトは高まっていった。「リ、リトぉ」ララが泣きそうな表情で、いやもう実際に涙はこぼれてるんだけど、微かに目を細めた切ない表情で見つめてくる。リトは必死に下腹部に力を入れて耐える。(今、本気で出そうだった・・・)辛うじて難(?)を逃れたリトだったが、直後にとんでもない追撃を食らった。「私、もうだめなの・・・。お願い、リトも、一緒に・・・」そんな、可愛すぎること言われちゃったら・・・。しかもそう言ってる間も、無意識だろうけどリトをしなやかな指で擦りあげていた。暴発する想い。「くっ。あ、ダメだ!ごめんっ、ララッ!」ビクンビクンビクン!!「ひゃあっ!」一度二度三度。噴水のように上へと真っ直ぐに立上り、ララの美しい顔を、鮮やかな髪を白く染め上げていった。「うあ、まだ出るっ・・・」愛しいララを相手に一回出したくらいで立たなくなるなんてことはないだろうけど、こんなに大量に出して大丈夫なのかと思うくらいだった。「ごめん、いっぱい汚しちゃって・・・」ようやく呼吸が少し楽になって、リトはティッシュを数枚取るとララに差し出す。しかしララはそれを受け取らず、自分の髪や顔に付いたリトの精液を「んっ、ちゅぱっ」指で掬って口に運んだ。「ララッ、やめろって」慌ててララの腕を押さえる。「へっ?どうして?私リトのなら平気だよ?」「そういう問題じゃないって」「男の人って、飲んでもらうのが好きなんじゃないの?」どこまでが計算でどこまでが素なのか。いや、たぶん素なんだろうなあ・・・。リトは仕方がないからララの顔と髪の毛を汚した自らの分身たちを拭ってやった。そうしている間、ララは嬉しさを抑えられないといった様子でニコニコ顔だった。「どしたんだ?」ララははにかみながら答える。「リトが私で、気持ちよくなってくれた」心から満足した、お腹いっぱい、そんな表情。それはめちゃくちゃ可愛かったが、リトの中では悔しさが湧き上がってきていた。(自分だけイカされた・・・)もっとも表面上はララが何かしたわけではない。が、リトにとってあの表情は、声は、反則だった。(俺もララを気持ちよくしたい)ララと一刻も早くつながりたい気持ちももちろんある。でも、二人一緒に達する前に自分だけが・・・。だから、そうしないわけにはいかなかった。「ララ・・・」「リトぉ」顔を近づけたリトに、雛鳥のように唇を突き出すララ。二人は口付けを交わした。しかしリトの神経は、唇ではなく指先に向いていた。きゅっ「ふああああああっ」ララが今日一番の大声を挙げた。リトの左手が、ララの尻尾をそっと握ったから。「あっ、尻尾はダメぇーーー!!」「っ!?」尻尾に触れると同時に膣内へと沈めていた右手の中指が、折れるんじゃないかと思うほどに締め付けられた。手首の辺りを、両太ももできつくきつく圧迫される。ガクガクと身体を痙攣させているララ。予想をはるかに上回るララの反応にリトは思わず謝った。「ご、ごめん、ララ」「ぅ、うう・・・」ララは瞳をギュっと閉じて、リトの腕にしがみついている。「尻尾は、ダメなの・・・」息も絶え絶えになりながらララがか細い声で告げた。直前の笑顔から一変したその表情。「ご、ごめんな・・・」あまりにも敏感で怯えた反応に、リトはその胸を指先以上に締め付けられた。「リトに触られちゃったら、私・・・おかしくなっちゃうから・・・」潤んだ瞳で切実に訴えてくるララに、胸が熱くなる。「うん、わかったよ。もう勝手に触ったりしないから。約束する」「リト・・・」嬉しそうに目を細めるララ。泣き笑いのその顔は、最高に可愛い。もう自分だけイカされたとか、そんなのはどうでも良くなっていた。「だから、尻尾以外で気持ちよくして・・・?」ドクンッ本当に、この娘は。何物にもに恥じることなく、ためらうことなく、貪欲に求めてくれる。(そしてそれは、俺だから・・・)ララへの想いが、リトを埋め尽くしていく。リトはララを抱き上げると、その想いを噛み締めながらベッドへと移動した。もちろんその間、唇が重ねられていたのは言うまでもない。額にそっと口付けてから、それ以上の柔らかさで割れ目をなぞってやる。「ララ、好きだ。大好きだ」耳元で愛を囁きながら指を侵入させ、その形を確認するかのようにゆっくりと円を描く。「んあっ・・・くぅん、リト、リト」尻尾を触られた影響がまだあるのか、すぐに震え始めるララの身体。膣内をかき回す指を二本に増やし、唇と舌でララと繋がる。「あんっ・・・ちゅ、ちゅう・・・リ、ト・・・私、イ・・・ちゃう」「うん。イって。俺の指で・・・」今自分の中にあるのは、リトの指。間近に感じるリトの吐息、温かな体温、大事なところを蠢く、熱い熱い指先。「あっ、ああっ・・・はあああん」その肢体が、大きな振動を起こす。嬌声とともにララが達し、指先が引きずり込まそうになる。「はあっ、はあ、あうっ」荒い息を吐き続けながら、ベッドにぱったりと背中から倒れる。いまや髪の毛以上に朱に染まった頬、快感に細められ潤んだ瞳、もう何が混ざっているのかも分からないけれど、脳髄を痺れさせるララの香り。「ララ・・・すごく可愛かったよ」こんな言葉でしか表現できない自分がもどかしい。本当は可愛いなんてもんじゃない。もし自分以外の誰かがこの表情を見たなんて知ったら・・・気が狂ってしまいそうだった。「リト・・・」今リトは達させた方なのに、頭の中がグラグラして達した直後のようになってしまっていた。そんなリトから今この瞬間、唯一注意を引き付けることができる少女が、まだ少し息を弾ませながらこう告げた。小悪魔っぽく。悪戯っぽく。両手は胸の前で組んで。「私・・・待ってるんだけどな・・・」「えっ?」リトがララを、求めた言葉。それは突然のリトの告白に動きを止めてしまったララを解放するために、そして直前にとんでもないことを口走った(もちろん後悔など微塵もないが)ことへの照れ隠しから、発したもの。しかし"ララがリトを"求めるならそれは"まさにその通り"だった。彼女はずっと待っていた。リトに好きになってもらいたいと、彼女なりの精一杯の努力を積み重ねながら。しかし決して押し付けることなく。リトの負担にならないように、膨らみ続けていく自分の気持ちを、必死に抑えながら。今この場で、絶対に応えなければならない。リトは破裂しそうな自分の想いを隠しもせず、乱暴に全ての衣類を脱ぎ捨てた。そして、一途に自分を待ち続けてくれた大切な少女に覆いかぶさる。「私も、リトと同じ格好にして?」もはや少女の瞳に恥じらいはない。なぜなら、それを完全に押し流してしまうだけの期待と幸福と情欲に、占領されているから。そしてリトとしてもそれは望むところ。彼女の魅力的な肢体を、余すところなく堪能できるのだから。(でも、わざわざ脱がさなくてもペケなんじゃ・・・)視線を髪の毛に移して、そこでリトはようやく気づいた。「ペケがいない・・・?」思い返せば今日はペケの声を聞いていなかった。つまりこのワンピースは、ララの自前ってことになる。いや、そんなことより・・・。リトの呟きに答えるように、ララはアップにまとめていた長く煌びやかな髪をいつものスタイルに下ろす。そこにはやはりペケの姿はない。「今日は本当に、二人っきりが良かったから・・・」二人の初めての、デート。そしてもしかしたら、最後になっていたかもしれない、デート。そのデートを、二人だけで過ごしたい。自らが生み出し、常に共に行動してきた大切な理解者すらも、今日だけは・・・。いじらしい。「ララッ!」たまらなくなってワンピースを一思いにずり下ろすと、足首に引っかかっていた布切れごと取り去りララの小さな望みを満たす。「リト、来て・・・」ララが膝を立てて綺麗な裏筋が入った美脚を広げてくれる。「行くよ・・・ララ」ララの、そして自分の。大きな、最大の望みを、果たす。二人が、一つに繋がる。「くぅぅぅんっ!!」ララが苦しそうな、しかし悦びに満ちた声を挙げる。互いを求める想いが強すぎたのか、二人はあっという間に一番深いところで重なった。リトはそこで、ピッタリと自分を覆いつくすララを感じていた。ララはきつく目を閉じている。自分のために、痛みに耐えてくれている。今この瞬間、大丈夫?なんて言葉には意味がなかった。だからリトは自分のもてる全ての愛情を込めて、何よりも大切な少女の名を呼び続けた。「ララ、ララ、ララ・・・」口に出した自分の言葉が、頭の中で回っていた。リトの全ては今、ララだけで構成されていた。一方ララも、リトと一つになったことを強く強く感じていた。悦びに打ち震える心、それに呼応するように小刻みに振動する身体。頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。耳元で囁かれたリトの優しい声すらも、理解することはできなかった。ただ、彼の想いは痛いほどに伝わってきていた。それだけは、確かに言える。「リ、ト・・・」その後彼女はどんな言葉を繋ごうとしていたのか。「ありがとう」か「嬉しいよ」か、それとも。それは誰にも分からない。ただ名前を呼ばれた愛しい人が、それに応えるようにきつく、やさしく抱きしめてくれた事に対して彼女は小さく微笑んだ。「リト・・・」もう一度呼んでみる。すると今度は口付けが次から次へと降り注いだ。ララの身体に負担をかけないように、かつなるべく広範囲に、リトはキスを落としていった。「リ、んぅっ・・・」三度目は、呼びきらないうちに舌を絡め取られた。ララの熱くて柔らかい唇を、舌を、ありったけの想いを込めて撫でていく。「ん、んんっ・・・リト・・・はむぅっ」くぐもった彼女の声が耳奥でそっと、やさしく響く。「ちゅ、あむっ・・・リ、ト・・・来て」「痛くない?もう動いても平気なのか・・・?」「うん・・・。平気」じっとララの瞳を覗き込む。無理をしている様子はない。そっと結合部に手を伸ばしてみた。「あんっ」彼女の内腿は粘液でぐしょぐしょになっていた。その色は透明ではなく、かすかに白みがかっている。(デビルーク人には処女膜はないのかな・・・?)まあ彼女の場合、いつ破れてもおかしくないほど元気いっぱいに飛び回っているからわからないが。ララが苦しい想いをしなくて嬉しいけれど、少し勿体無い気がしてしまうのは男の性か。「リトぉ・・・」あっといかん。そんなことはどうでもいい。もうこれ以上、ララを待たせるわけにはいかない。自分の全てを曝け出しぶつけて来てくれたララに、膜なんてものは似合わない。ぎちぎちに締め付けられている先端。その抵抗を電気が走るほどの快感に感じながら、ゆっくりとララの最奥から腰を引き、打ち付ける。「ああっ・・・!んっ、ふあっ・・・!」ララの中は彼女の想いの深さに負けないほどに熱くて、きついのに柔らかくて。「リ、ト・・・早いよぅ!・・・はげしっ、ああん!!」ゆっくりと動き続けることなど1分とできなかった。その豊満なおっぱいを握り締め、乱暴に打ちつける。「ま、待って・・・。あぅんっ!そ、なに・・・したら」嫌々をするようにララの頭が左右に揺れる。でもその腰はリトをより深く、より早く求めるかのように動いてくれていた。口元は二人の混ざり合った唾液でべちょべちょになっており、唇の端からは一筋汁が垂れていた。ビンビンと言って良いほどに固くなり、リトの掌を滑る胸の突起。汗にまみれたその全身。はしたなく歪んだその顔。ララが可愛くて、愛しくて、大切で、離したくなくて、もう限界だと分かっているのにもっと深くつながりたくて。抉るように彼女の奥深くを突いた。「ふぁぁああん!!リト・・・やんっ、もう・・・私・・・」「くっ・・・!」リトのほうも限界が近い。思わず漏れそうになった声を誤魔化すため、また唇を奪う。「んむっ・・・んあっ、あっ・・・ぃ、っちゃう・・・リト」その唇は滑らかで、ほどよい弾力で。その身体は一点の例外も無くすべすべで。二人の腰がぶつかり合うたびに揺れる、小さな乳輪の大きな胸。張りが合ってしなやかな脚。身体の震えにあわせてピンと伸びる爪先。熱にうかされ掠れた、いつもより少し高くて、だいぶ甘い声。そして、その表情。ララの、感じてるときの顔。きゅっと閉じられた瞳、ハの字型の眉、シーツを滑るピンク色の髪、それを上回るほどに染まった頬、半開きの小さな口。全部全部、俺の妄想なんかよりずっと魅力的で誘惑的だった。全部全部、俺だけのもの・・・。「ララ、ララ!!」「リトッ!お願い・・・一緒にっ!」その言葉が、ダメ押しだった。「くぅっ!・・・ララ、出るっ!!」「あ・・・あああっ!ひゃ、ぁあああっ・・・!!」限界を超えたリトは、ララの膣にその愛の迸り全てを吐き出した。同時にララも、ガクガクと身体を震わせる。「はああぁっ・・・はあぁぁ・・・」大きな間隔で荒い息を繰り返すララ。膣内はすでにたっぷりと注ぎ込んだリトから更に愛を受けを止めようと、断続的に絡み付いていた。二人は熱を多分に残した身体を互いに包み合い、まどろみの中で愛し合う。「リト、好き・・・。大好き」「俺の方が好きだよ・・・」「絶対私のほうが好きだもん・・・」聞いている方が恥ずかしくなるほどの囁きあいの後、「延長戦」が行なわれたことは言うまでもない。リトの部屋から安らかな吐息が聞こえてきたのは空が白み始めてからだった。朝、携帯のけたたましい着信音でリトは目が覚めた。「ふぁい、もしもし・・・」「リト、おはよ。私」まだ半分眠りの中にいるリトには女の子の声だということしかわからなかった。ふと身体を横に倒すと、ララがいない。「ララッ!?」なぜか急に不安になってリトは大声を出し・・・墓穴を掘った。「・・・なるほど、そーいうことか」「み、美柑!?」電話は昨夜姿を見なかった妹からだった。「だから昨夜メールしても返信なかったんだぁ」メール?記憶にない。もしかしてララと愛し合ってるときか?「そっかそっかあ、ついにララさんと・・・」「なっ!?何言ってんだ!何もなかったっての!」「くくっ、くっ」深まる美柑の笑み。これじゃあ何かあったって言ってるようなものだ。ため息を吐く以外にできることはなかった。「もういいから、何の用だよ」「私は父さんの仕事場にいるから、心配するなって話」「ああ、なんだ・・・」「なんだって・・・。ハア、もうリトの頭の中はララさんだけになっちゃったのね・・・」芝居がかった、2時間ドラマの裕福な家の母親のような声で嘆く蜜柑。リトはより一層深くため息をついた。そんな兄に対して誰よりも近くで見てきた妹は短く、しかし深いエールを送った。「大事にしてあげなよ・・・」その言葉を最後に電話は切れた。美柑は、茶化すような口調とは裏腹に少し寂しそうだった。愛しい少女は、キッチンにいた。「あっ、リト!おはよっ!!」いつもの声。いつもの笑顔。「すぐ朝ごはんできるからねっ」じんわりと染み渡っていく、温かさ。ほとんど無意識に、リトはララを背後から抱きしめていた。「リ、リト?」ララの肩に顎を乗せて、その温もりと甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。「ララ、好きだよ・・・」付き合いだしたら、より甘えん坊になるのはリトのほうかもしれない。(昨日のララ、片時だって忘れられるわけない・・・。あんなの見せられたら、誰だってこうなるよ)胸の中で誰にでもなしに言い訳してみる。このまま、昨日の続きをしたい。リトがララの頬に手を掛けようとした瞬間、その桃色の唇が開いた。「私、今度はリトの奥さんになれるように頑張るから!!」「・・・奥さん?」その響きは、何ともむずがゆかった。それを誤魔化すようにリトが訊く。「明日からは洗濯でもならうつもりか?」「それが終わったらお掃除、お花、お茶にお琴にお裁縫・・・」「おいおい・・・」ララの"普通の奥さん"のイメージなのだろうか。いつの時代の和服美人だ。「ねえ、リト・・・」微かに見え隠れする不安の色。身体を覆うリトの手に、そっと自分のそれを重ねてララが問う。「その時が来たら・・・一緒に来てくれるの・・・?」「愚問だっての。昨日もそう言ったろ?」「だけど、美柑やみんなと離れ離れになっちゃうよ?」(不安の正体はこれか・・・)自分は全てを投げ打てないと言っておいて、大好きな相手にそれを求めてしまうことへの。「見返り・・・」「へっ?」「ララが見返りくれるなら行ってあげる」「・・・見返り?」そんな不安な瞳で見るなっての、からかえなくなるから。我慢できなくなるから。「今さっきみたいに・・・。昨夜みたいに・・・」元気で明るい、無邪気なララ。俺を求めて、よがり狂うララ。そのどちらも失わずにいてくれるのなら、全てを投げ打つのに躊躇などいらない。「・・・?」揺れる潤んだ瞳で至近距離から見つめられて、リトの我慢はあっさり限界を超えた。「つまり、今までどおりのララでいてくれればそれでいいってこと!」言葉と共にその最高の肢体を持ち上げると階段へ向かう。「ちょっと、リト!?どこに・・・」「確かめに行くに決まってるだろ?」大好きなララの、"後者"をな・・・。
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