――夜の公園に街灯がともる。小さい子達はおろか、いつもはいる何組かのカップルも姿を消していた。それもそのはず、今日はかなり肌寒い。俺はコートを身に纏い、近くにあった自販(自動販売機)で缶コーヒーのボタンを押した。計240円。俺にとっては結構痛い出費だった。重くて温かい缶コーヒーを両手で持ちながら、小走りで彼女のいるベンチに向かう。…彼女はいつも通り、本を熟読していた。そして俺の存在に気づいたのか、彼女は本を閉じた。「…早かったですね。結城リト…」俺は彼女…コードネーム金色の闇…通称ヤミの隣に座った。そしてまだ温かさを保っている缶コーヒーを手渡す。ヤミは「ありがとうございます」と言いながら、缶コーヒーを両手で持ち、口元につけた。「コクッ、コクッ…ハァ…。やはり、このこーひーと言う飲み物は慣れません…。でもすごく温まります」そう言うと、ヤミは俺の肩に寄りかかってきた。ヤミは俺が選んだ冬服を着ている。中々暖房設備は整った服装だと思うのだが、ヤミの体は冷たかった。低血圧というものだろうか…。「―――――...え?」俺は彼女をコートで包み込んだ。その際に、彼女の肩を掴み、強く抱きしめるような形でヤミを寄せる。ヤミの体は殺し屋とは思えないくらいの柔らかさで、俺の腕の中にすっぽりと納まる。ヤミの顔は見る見るうちに赤く染まっていき、やがては恥ずかしさのあまり、コートの中に顔をうずめてしまった。率直な感想を言うと…――可愛い。「…あったかい…ですね…」ヤミの体温は上昇している。それは俺も同じ。なにせ、あの金色の闇を抱いていると思うと…尚更。「こうしていると、貴方に全身が抱擁されている感じがして…とても心地よいです…。ずっと、こうしていたくなります…」ヤミの素直な意見。俺は歓喜のあまり、ヤミの頬に口をあてた。…先程とは違い、すごく熱い。こうしてキスしている間にも、熱さは上がっていった。そして、頬からの去り際に、ヤミの耳元で「…愛してるよ」と囁く。ヤミは体全体で反応し、「…バカですか…」と消え去りそうなくらいの音量で返答した。―それから暫く二人で身を寄せ合いながら、他の誰もいない公園のベンチでキスを交わした。ヤミの味は缶コーヒーの所為か、若干ほろ苦い。でもそれが逆に俺の気分を酔わせた。彼女も俺を離したくないと、コートの内面部分を掴んで身を一生懸命寄せていた。そんなコトされたら、それもこんなにも可愛い娘なのだから、もっと愛したくなる。もっと束縛したい…もっと独占したい…。そんな気持ちが一杯だった。俺は独占欲無いのに…。「――――………………ふ…ぅ……っ。…」キスが終わり、ヤミは少しだけ身を引き自分の胸に手を当てる。そして瑠璃色に染まっている目を閉じた。「…貴方とこのようにしていると…何もかもが忘れられます。…いえ、正確に言うと、貴方の事だけが頭の中にあるような…そんな感じ…。貴方を好きになる前は…ここが何も無いような…空白だらけの心でした。でも…もう…。決して埋まる事はないと思っていた…私に足りないなにか…。本を読んでも…変わらない…事」ゆっくりと目を開け始めたヤミ。真っ直ぐと俺を見つめ、少しだけヤミの瞼は潤った。「………リト…」その声から、その表情から…俺はヤミの真意を受け取った。再び俺とヤミの距離は、吐く白い息がかかる程度の位置になる。そして俺はヤミの頬を両手で擦った。ヤミは甘えるように、顔の重心を俺の両手にまかせる。脱力しきっているようにも見えた…。「…本に書いてありました」俺は一瞬キョトンとした。…唐突に言われたから…、それもあったが…。…ヤミは俺の手を解くと、徐々に体を傾けるように、ゆっくりと近づいてきた。「“人が人を好きになりすぎてはいけないのでしょうか?”“甘えすぎは駄目なのでしょうか?”と」言いながらも、俺を瞳に写したまま。――俺は正直驚いていた。「…その質問。その答えは、いずれも……―――――――――」 「…ん…」もう一度交わすキス。そのキスには、ヤミの気持ち全てが伝わってくる。…こんな積極的なヤミに、俺は俺自身は確信した。ただ、ただ単純に…このまだ幼い、普通の女の娘を…守ろうと…。ずっとずっと傍にいて愛そうと…。 共に歩んで行こう…と――空から雪が降り始める。そんなある寒い日、…二人だけの温かい夜…
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