それに気がついて、あわてて膝を閉じようとすると、モモの手が伸びてきた。リトの膝がしらの一方に、両の手のひらを重ね、つつみこんで正座をくずし、重心を移して、流れるように体を寄せると、あごを膝がしらの手へ乗っけた。「こ、こら!」リトは肩をゆらしたが、膝の上に顔があっては、跳ね上げることもできない。「お、おい、モモ、ちょっと……」「もう、いけないところは見えません」それはそうかもしれないが、こっちから見れば、細いあごの斜め下あたりで、白いタオルが乱れて、胸から腋の下まで、ゆったりとした空間を作っていた。「お顔なら、見ていても?」「勝手にしろ!」リトは言い捨てると、顔を上げて、モモの背後の濡れた壁面をにらみつけた。そのまま、時間が経っていって、意地の張り合いとしか思えない様相を呈し、本来、前屈みで膝に体をあずけるというのは、楽な姿勢ではないはずだった。やがて、モモはうつむくと、指の間へ舌を伸ばし、膝の窪みをぺろりと舐めた。やめさせようと思って、手を伸ばしたが、叩いたりするわけにもいかないから、指先の白くなったところを、遠慮がちに撫でると、くすぐったそうに指がくねる。爪を伸ばしていない、子供っぽい指先のくせに、おそろしく敏感なようだった。そうして、指先を合わせていると、モモの唇がめくれ、こっちの指先を咬んで、引っこめる間もなく、口の中を指が泳いでいって、小さな八重歯を探りあてる。やっぱり、姉妹なんだな――――その時、ふいに鼻の奥がムズムズするのを感じ、鼻孔から赤い線が落ちた。「リトさん、鼻血が……」「ん、いや、のぼせたんだ」言わずもがなのことを言いながら、リトは唾液にまみれた指先で鼻をつまむ。「ちょっと、オレ出るから」「ダメ…… です……」なまめいた声が押し出され、紫色の瞳は陰を含んで、じっとりとうるんでいた。「だって、血が出るの、いやだろ」「私はべつに…… かまいません」そう言って、目の端で婉然と笑い、リトは女のそういう表情を見た経験がない。もはや、どうしたらいいかわからなくて、リトは鼻をつまんだまま、天を仰いだ。モモはだまっていたが、やがて、あごを浮かせると、片方の手を引き抜いて、ひっそりと湯の中へ沈んだ手のひらは、ふたつの膝の間をすべり降りていく。「!」
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