「セリーヌちゃんッ!?」「まう…」ゲームセンターでもらったネコのぬいぐるみを引きずるようにしてセリーヌは、その大きな瞳いっぱいにうるうると涙を滲ませる「どうしたのっ!? って結城くんが寝てるからとか言ってたはずじゃ…」そうこうしている内に、セリーヌは小さな手足を一生懸命つかってベッドの上に上がってくる唯は慌ててシーツで体を隠した「ま…う」ベッドの上に上がったセリーヌは、唯の姿を見るや否や、駆け寄った「まうーっ!!」「……ッ」唯の胸に抱きつくセリーヌ抱きつかれた時の小さな衝撃以上に、胸に感じる涙の感触に唯は息を呑む「セリーヌ…ちゃん…」「まう…まう…」セリーヌは唯の胸に顔を押し付けたまま、顔を上げようとはしなかったいつもの明るい、元気なセリーヌじゃない寂しさと悲しさをいっぱい湛えたセリーヌの姿唯はセリーヌの頭をそっと撫でた何度も何度も「そっか…そうよね。一緒におフロはいろって言ってたのにね…」「ま…うぅ…」「ゴメンね…一人にして」セリーヌを一人にしてしまった事への後悔と自責の念で、胸が張り裂けそうに痛い唯の両腕がセリーヌのいつもよりもずっと小さくなった体を抱きしめるギュッと、ギュッと「ゴメンね。ゴメンね、セリーヌちゃん」「…う…ぅ…」セリーヌの涙が胸の谷間を伝い落ちていくのがわかる震える小さな体に、唯は愛情をいっぱい送り続けたしばらくして、胸から顔を離したセリーヌの目が、ジッと唯の顔を見つめる赤く腫れたまだ潤んだ瞳のまま、言葉を話せないセリーヌは、その視線に言葉を乗せて唯に送り続ける「まう、まう」セリーヌの言葉は唯にはわからないにも関わらず、唯には、セリーヌの言葉がわかったような気がした"セリーヌをおいてどこにもいっちゃダメまう"確かにそう胸の中に響いた唯はセリーヌの瞳を見つめ返しながら、その想いに精一杯の気持ちと言葉で応える柔らかいセリーヌの頬を唯の両手が、愛情いっぱいのぬくもりとなって包み込む「ええ。どこにもいかない。どこにもいかないわ! あなたを置いてどこにもいかないからね!」「…まう♪」唯の言葉にセリーヌは、やっと笑顔を浮かべた目尻から、キラキラと輝く涙が頬にある唯の手を伝っていくセリーヌは、唯の手にペタっと自分の手を重ねた「どうしたの?」「ママっ♪」セリーヌの笑顔が咲く唯のほっぺを両手でつかみ、顔を寄せ、そしてほっぺにキス「んっ!?」ビックリする唯にセリーヌは満開の笑顔を咲かせたセリーヌがキスをした頬は、さきほど部屋を出る前にリトがした頬とは反対の頬「ママ」「……ッ」リトがキスした頬と、セリーヌがキスした頬を赤くさせながら、唯は小さく「うん」とセリーヌの頬を撫でたセリーヌに負けない「大スキ」を込めてベッドの上で少し乱れたセリーヌの髪を手櫛で整えていると、階段を駆け上がってくる足音トレイにジュースを乗せたまま、リトは部屋の入り口でベッドの上の二人にキョトンとなる「あれ? セリーヌお前、寝てたんじゃなかったのか?」セリーヌは唯の膝の上で顔を「まうっ!」とリトから遠ざけた「せ、セリーヌ!?」一人ワケがわからないリトに唯の鋭い視線が飛ぶ「結城くん」「あ、ああ」「…ちゃんと謝りなさいよ? セリーヌちゃんに」「え…? 何を?」という疑問は、唯とセリーヌの視線が許さなかったすっかり膨れてしまった娘の顔を"…なんか唯に似てるな"なんて思いつつ、リトはとにかく"ゴメンなさい"と謝った「それじゃあ、肩まで浸かって。10数えましょうね」「まう!」その後、唯は約束通り、セリーヌと一緒にお風呂に入ったお風呂の中で秘密のお話をしたり、洗いっこをしたり「1…」「まうっ」「2…3…」お風呂場から聞こえてくる楽しそうな会話にリトは、テレビを見ながら思わず顔をほころばせたお風呂から上がった唯は、鏡の前で髪のお手入れタオルでパッティングしたり、美容液を髪に馴染ませたりその様子を隣で見ていたセリーヌは、唯の見よう見まねで、髪のお手入れ鏡越しに唯は、おかしそうに笑う「ちょっと待っててね。あとで、セリーヌちゃんもしてあげるから」「まう~♪」と、うれしさを弾けさせながらセリーヌのマネは続く肩にセリーヌを抱っこさせたまま唯がリビングに戻ってくると、窓の向こうは、もうすっかり夜の闇が広がっていた「ゆっくりできた?」「ええ。お湯加減もちょうどよかったし、セリーヌちゃんもすっきりできたみたいよ」「まう、まう♪」いつもよりずっと楽しそうなセリーヌの頭を「よかったな」と、撫でていると、キッチンから人影が現れる「お、セリーヌ、コテ川とおフロ入ってたのか」「ナナ…ちゃんとモモちゃん!?」キッチンの向こうから現れたのはナナ、続いてモモの二人組「こんにちは―――もうこんばんは、ですね」口に手を当てながらほほ笑むモモ次第にその瞳に楽しそうな光が生まれる「古手川さん、あんなにたっぷり汗を掻いて。私も言ってくれれば混ぜてもらったのに。残念です」いったい、いつ帰ってきたのか?モモの言葉に唯の顔から血の気がさっと引いていき、リトは危うく飲んでいた麦茶を噴きそうになった「あ、あのね! 別に私と結城くんは…」「心配なさらなくてもいいですよ? 必要以上のことは訊いていませんから」ふふふ、と微笑むモモに唯は真っ赤になった顔を両手で押さえながら床にうずくまるその様子にナナは、セリーヌの隣で首を傾げた「なァ、なんの話してるんだ?」「まう♪」ニコニコ顔のセリーヌは"きょうはとっても楽しかったまう♪"とだけますます一人置いてきぼりを食らうはめになったナナは、腕を組んで頭を悩ませる「結城くん…。あなたのせいなんだからねっ!」「え!? オレっ!?」思わずソファーから腰を浮かしかけて、リトは自分の顔を指差すそんなリトに唯の氷よりも冷たくて鋭い視線が突き刺さる「結城くん!」「わっ!? ちょ…ちょっと待ってくれって!! なんでっ!?」ズイズイとリトに詰め寄る唯の後姿にモモは意味深な溜め息をこぼした「…さっきまであんなにイイ感じだったのに」「イイ…感じ?」「お子様なナナには、まだ早い話よ」どこか勝ち誇ったモモの流し目にナナの奥歯が軋む「お…お子様じゃねーーッ! だいたい、モモはあたしと同い年だろっ!」「同い年…ねぇ」モモの視線はナナの胸へ「ま! そんなペッタンコで言われても…」「なッ!!?」口でも頭でも性格でもムネでもモモに惨敗なナナは、ただただ握り拳を作って悔しがる「ペッタンコじゃねェー!!」と、ナナの怒りのオーラを涼しい顔で受け流しながら、モモの視線は再び唯とリトに戻るソファーでは、相変わらず唯に迫られて蒼白になっているリトの姿情けなさ全開のリトにも、モモの視線に憐れみはないむしろどこか、ぼぉっと熱っぽいモノを瞳の中に湛えている(…あんなに激しくするんですね、リトさんって。あんなの訊かされたらカラダが疼いてしまいますよ? リトさん)と、語尾にハートマークをつけるモモリトにうっとりした視線を送りながら、スカートの中で太ももをもじもじさせた「だ、だから落ち付けって!」「落ち着けですって? 落ち着けるわけないでしょ!? あなたがあんなハレンチなコトばかりするから…」「はいはい、みんな夕飯の準備できたよ」すっかりいつもの騒がしさを取り戻した結城家のリビングに、小さな料理人が現れるおたまを片手に美柑は溜め息をつく「まうー♪」美柑の姿を見るやセリーヌは、ピョン、と美柑の肩に抱きつく「いいコにしてた? セリーヌ」「まう!」セリーヌは手に持っていたネコのぬいぐるみを美柑に見せる「コレどーしたの?」ニコニコ顔のセリーヌを指差しながら、唯にほっぺを抓られて赤くなっているリトに美柑は話をふった「唯にもらったんだよ。セリーヌのヤツ、そのぬいぐるみ気に入ったみたいでさ。元々ペアだったのを二人でって」「へー、よかったね、セリーヌ。ちゃんとありがとうした?」「まう♪」大事そうにぬいぐるみを抱きしめるセリーヌの姿に美柑は、ニッコリと笑みを浮かべた「ところでミカン、ゴハン食べおわったらアレするんだろ?」「そだね。お皿とか後片付けが終わってからかな」何やら会話を続ける美柑とナナの後ろで、唯とリトは眉を顰めた「何の話かしら?」「さァ。なんかあったのか?」ナナは買い物袋をゴソゴソあさると、得意げな顔であるモノを取りだした「じゃ~ん! 花火買ってきたんだ! みんなでやろーって思ってさ」「花火!?」「へー」「まう?」ナナの手にする花火セットをセリーヌは指を咥えながらジッと見つめる唯は膝を屈めるとセリーヌと視線を合わせた「セリーヌちゃん、もしかして、花火知らないの?」「まう!」「そーいや、セリーヌはまだ花火見たことないんだったな」「じゃあ、今日が初めての…」リトの言葉に唯は、お昼のデパートでセリーヌに"七夕"の話をしたことを思い出す(――――そうよ。そうだわ! セリーヌちゃんにとって、この夏が初めての夏なのよ!)唯は窓の向こうの夜空をチラっと視線を向ける天気予報では今日は晴れ途中、思わぬハプニングがあったけれど(…だいじょうぶよね)美柑の「唯さん、ゴハンできてるから早く」という言葉を背中で聞きながら、唯はもう一度、まだ雨雲で星がまばらな夜空に向かってお願いをした「どうかセリーヌちゃんに天の川を見せてあげて!」夕飯のそーめんを食べ終えた一行は、後片付けを終え、庭へとやってきたすっかり雨が上がった外は、夏の虫の鳴き声とともに、少し涼しい風を吹かせている「おぉー! 雨ちゃんとあがったじゃん。昼間はどーなることかと思ったぜ」花火を手に一番手で庭に飛び出したナナは、声を弾ませる「まったく、ホントにお子様ね。ナナは」「ふ~ん、モモだって花火選ぶとき、ケッコウ必死だったじゃん」お馴染みの会話を繰り広げる二人の後ろで唯は、一人空を見上げていたさっきまでのすっきりしない天気がウソみたいに空には、たくさんの星が瞬いている「…よかった」「だよな。もう雨はカンベンしてほしーぜ…!」「そうじゃないわよ。もう…」どこまでも鈍感なリトを放って唯は、セリーヌを探すセリーヌは、ビニールのカバンから取り出した打ち上げ花火の筒を、興味津々な顔で見ていた「セリーヌちゃん、危ないわ!?」「まう?」唯はセリーヌの手から打ち上げ花火の筒を遠ざけると、ホッと溜め息をつきながら膝を屈めた「アレはとっても危ないから触っちゃダメ! わかった?」「まうっ」「花火をするときは、ちゃんと私と一緒じゃなきゃダメだからね?」「まう!」素直にコクンと頷くセリーヌを唯はよしよしと撫でた「みんなー! スイカ切ったから適当に食べちゃって」と、トレイにスイカとジュースを乗せた美柑が最後に登場「じゃ、早速…」全員集合ということでナナは、花火セットの中で一番大きいな打ち上げ花火に火をつける「ちょっとナナ。いきなりそんな大きなモノ…」「こーゆーのは、最初がカンジンなんだって! ……と、火がついた。みんな下がってくれ!」ナナの合図から遅れること数秒後、結城家の空にキレイな花が咲いた赤や黄色が咲きほこり、みんなの顔を染めていく「まう…!」初めて見る花火にセリーヌはどんな感想を抱いたのか?ジッと見つめるその瞳の中いっぱいに花火を映し続けるその様子を唯は、後ろでジュースを手に見守っていた「セリーヌのヤツ、ビックリしてるんじゃねーか?」「そうね。だって初めての花火ですもの」「だよな。つか唯、お前は花火しなくてもいいのかよ?」「私は別に…」言葉を濁しながら唯の視線は、ナナの持つ手持ち花火を楽しそうに見つめるセリーヌに戻る「……なんつーかお前変わったよな?」「何が?」「セリーヌが生まれてから前よりもずっとその……優しくなったつーか…さ」「なっ!? 何よソレは! セリーヌちゃんが生まれる前は、どうだって言うのよ!?」褒めたつもりがまた怒りを呼んでしまったことにリトは、慌てて花火を楽しむ美柑たちの元に走って行ってしまった「もう…!」腰に手を当ててムスっとする唯のもとにセリーヌがやってくる「どうしたの? セリーヌちゃん」「まう!」セリーヌはピョン、とジャンプすると座っている唯の膝の上にチョコンと座った「ココから見るの?」「まう♪」元気に返事をするセリーヌの顔を、本日二回目の打ち上げ花火がオレンジ色に染める「キレイね。セリーヌちゃん」「まう!」二人でボーっと空に上がる花火を見ていると、三回目の花火が、夜空に一段と輝く星の中で花を咲かせた「あっ!?」「まう?」驚きの声を上げる唯をセリーヌは不思議そうに見つめた「セリーヌちゃん、見て! アレが天の川よ」「まう?」唯の膝の上に座りながらセリーヌは、唯の指さす方へ視線を向けた夜空にはいっぱいの星々がまたたき、夜空を華麗に彩るその中にあって一際目を惹く、星の集合――――天の川「とってもキレイでしょ?」「まうー♪」セリーヌがどこまで理解してくれるのか、唯にはわからないわからないけれど、それでも唯は、ちゃんと教えようと思った初めての夏。初めて一緒に過ごす夏の想い出――――七夕を「セリーヌちゃん、あそこですごく光ってる星があるでしょ? あれがお昼に話した"彦星"よ」「まう?」「それで、天の川を挟んで向かい合ってる星―――ほら、あそこでまたすごく光ってる星があるでしょ?」「まう!」セリーヌは唯の指さす通りに顔を動かし、ジッと唯の話に耳を傾ける「アレが"織姫"よ」「まう!」「ホントは"わし座のアルタイル"だったり、"こと座のベガ"だったり、夏の大三角って言ってね! "はくちょう座"の――――ってまだセリーヌちゃんには早いわね」唯は苦笑を浮かべるとセリーヌの柔らかい髪をそっと手で撫でたセリーヌは指を咥えながらジッと天の川を見つめている「まう…」「どうしたの? もしかして天の川、気に入った?」セリーヌの横顔にそんなことを感じていると、花火を手にリトがやってくる「どーしたんだよ? 二人して」「ええ、今、セリーヌちゃんと天の川の話をしていたのよ」「天の川?」リトもセリーヌに習って天の川に視線を向ける「へー、スゲーじゃん! つかこんなデカくてキレイなやつオレ、初めて見るよ」「私もよ」三人の視線が天の川に集まる花火で盛り上がる声を聞きながらしばらく天の川に見蕩れていると、ふいにセリーヌの手がリトと唯の手に重なる「え?」「な、何?」キョトンとする二人をセリーヌの無垢な瞳が見つめるそして、小さな手が二人の手をキュッと握りしめる握りしめると言っていのかわからないほどの小さな力で、だけど、力一杯「セリーヌちゃん…?」リトと唯は互いの顔を見合わせて、そしてセリーヌを見つめる「まう!」セリーヌの言いたいこと、伝えたい気持ちモモならすぐにわかるのだけれど、二人はあえてモモにお願いしなかった代わりにそれぞれが思ったことをセリーヌに伝えるそれは――――「え…」「……っ」「まう!?」唯とリト、二人は同時にセリーヌの頭に手をのせたタイミングもぴったり!「まう♪」二人の手の感触にセリーヌの顔が花火のようにぱぁっと輝く唯は花火で赤くなった顔をツンとリトから遠ざけると、セリーヌの頭を「よしよし」と撫でたやさしい笑みを浮かべる唯と、とびっきりのニコニコ顔のセリーヌそんな二人の姿にリトは、おもむろに自分の手を唯の手の上に重ね合わせる「えっ…結城…くん?」「まう?」二人の視線にリトの胸の鼓動がみるみる高くなっていく(な…なんかこう……キンチョーするな…)自分の唾を呑みこむ音にさらにドキドキしながら、反対の手を胸に当てて、小さく深呼吸「結城くん? どうしたのよ?」キョトンとした唯の顔と、まんまるお目目のセリーヌを見つめながら、リトはセリーヌの想いに応えるべく、心に強く想ったことをやっと口にする「その…つまり……心配すんなってセリーヌ! オレたちはだいじょぶだからさ! いろいろ。な、唯?」「ッッ!!? そ…そんなこと急に言われても…………あ、あなた次第よ、結城くん…」「なっ!?」ツンと顔を赤くする唯と、微妙に空回ってしまったリトそんないつもの二人にセリーヌは、パパゆずりの素敵な笑顔を浮かべ「まう♪」っと頷いた「ってリトも唯さんも何してるの? 花火終わっちゃうよ?」顔を花火の赤や青に染めながら美柑は、声を上げたその隣では、モモが投げたネズミ花火にナナが追いかけ回されている「そろそろ戻ろうぜ? 花火しに」「ええ、そうね。セリーヌちゃん、いこっか」「まう♪」セリーヌは唯の膝の上からピョンと飛び降りると、唯とリトの間に入り、二人の手を握りしめる花火はもう終盤でも、七夕の夜はまだまだこれからだセリーヌはもう一度、夜空を見上げた彦星と織姫に挟まれて天の川は、二つの星を強く強く結びつけるように、どこまでもキレイに、大きく、輝いていた
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