―カタカタッカタカタッ―モモ・べリア・デビルークは自室のコンピュータに向かい、忙しくキーボードを叩いていた。「おーいモモー、シャワー空いたよー…って何してんのおまえ?」モモの双子の姉のナナ・アスタ・デビルークがモモの部屋に入るなり問いかけてくる。「ちょっと新しいゲームのプログラムを組んでるのよ」「マジ?どんなゲーム?」ゲームっ子なナナは目を輝かせた。その様子を見たモモはふっとため息をつき、作業の手を止めナナの方を向く。「ねえナナ、あなたリトさんのことどう思ってる?」予期せぬ質問にナナは戸惑いの声を上げた。「えっ?なんでリトのことなんか聞くんだよ?別になんとも思ってないよ!あんな奴!」「嫌いなの?」「…嫌いってわけじゃないけど、別にそんなに好きなわけでもないっていうか…」「そう、まあいいわ」再びモモはコンピュータの画面の方を向き、キーボードを叩き始める。「…なあモモ、リトへの気持ちがそのゲームになんか関係あんのか?」ナナはそう言いながらこの前のリトの大告白を思い出していた。彩南ウォーターランドで自分を含めた4人の女性に好きだと告白したリト。あれが本気だったとしたら…。「シャワー空いたのよね?じゃあ使わせてもらおうかしら」思い出したようにそう言うと、モモはコンピュータをシャットダウンして部屋から出ていった。「えー、ではあ、皆さんまた2学期に会いましょう…」骨川先生はそう言うと教室を出て行った。今日は彩南高校の1学期の終業式の日。これからリトを含め世間の高校生は夏休みを迎える。「明日から夏休みだねー」ララはうきうきしながらリトに話しかける。「いっぱい遊びに行きたいね、リト♪」「おいおい、夏休みの宿題だってあるんだぞ?そこまで遊べるかわかんねーって」そう言いながらもリトは明日からの長期休暇を楽しみにしていた。リトがララとともに帰宅すると、モモとナナが二人を出迎えた。「ただいまー」「おかえりなさい、リトさん、お姉様。明日からは夏休みでしばらく学校での授業はないんですよね?」「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」「いえ、なんでもないんです。」二人に背を向けモモは二階へと消えていく。その唇は薄く笑みを浮かべていた。「どうしたんだ?モモの奴…」リトの疑問にナナが答えた。「ひょっとしたら、あいつが今作ってるゲームに何か関係あんのかも。詳しくはあたしにもわかんないんだけど、ここんとことあいつ部屋に閉じこもってゲームのプログラミングをしてたんだ」 ナナの答えにリトの顔は少し青くなる。モモの作ったゲームといえばとらぶるくえすとをはじめあまりいい思い出がない。「へー、なんか面白そうだねー。ねえリト、モモがゲームを完成させたら一緒に遊ばせて貰おうよ♪」リトの心の内も知らず、ララが呑気な声を上げた。
その日の夜11時頃、リトが自室で床に就こうとしていたところにモモがやってきた。「リトさん、ちょっといいですか?」「モモ?どうしたんだ?」「新しいゲームを完成させたので、リトさんにも是非遊んでもらおうと思って。少しでいいんで、付き合っていただけませんか?」「また体感型のゲームか?とらぶるくえすとみたいに長く拘束されるのはちょっと…」「今回は前のとは違って自分の好きなときにゲームに参加して、好きなときに退場できるんです。地球でいうところのオンラインゲームみたいなものですね」好きなときに退場できると聞いてリトは安堵する。「へー、じゃあ少しやってみようかな」「では、このカードを。これがゲームに参加するためのパスになります」モモは赤いカードをリトに渡した。カードの下部にはリトの名前が、中央より少し上の部分には白いラインが入っており、そのラインの中央部分には黒いハートマークが描かれている。「ハートマークのところを指でタッチしてみてください」リトはモモに言われるままにハートマークの部分に指で触れてみる。すると、『ゲームに参加』と『キャンセル』の二つの選択肢がカードから飛び出すように現れた。「あとは『ゲームに参加』をタッチするだけです。このカードはゲーム内にも持っていくことになり、ゲームをやめるときも先ほどのようにすればゲームから抜けられます」 「わかった」リトはカードの説明を受けると、『ゲームに参加』の選択肢をタッチする。一瞬自分の周りが光に包まれたと思ったら、リトは自分の部屋にいた。
「あれ…?ここ俺の部屋だよな…?」周囲を見回すが、まぎれもなく自分の部屋である。さっきまでと異なるのは目の前にいたモモがいなくなっていることくらいだ。「どうなってるんだ?」リトは自分の部屋を出て自分の妹、美柑の部屋をノックしてみる。「おーい、美柑ー、セリーヌー」しかし美柑やセリーヌからの返事はない。家全体がシーンと静まり返り、リトはだんだん不安になってきていた。「ララ?…ナナ?…モモ?」彼の呼びかけに応える者はいない。「どうなってんだよ…。ホラーゲームかなんかなのか…?」リトがゲームから抜けようとカードを取り出したとき、背後から女性の声がした。「結城くん!」リトが振り向くと、そこにいたのは古手川唯だった。「古手川?なんでここにいる…ぐえっ!」リトの質問が終わらぬうちに唯の手がリトの首を絞めつけた。「あなたって人は…!!!なんて破廉恥なの!!!」唯の怒りの理由がわからないリトは必死に唯の手を剥がそうとする。「ちょっと待っでこでがわ…何のこど…」「しらばっくれるつもり!?私は認めないわよこんなゲーム!!」「あらあら、いきなり修羅場からスタートってなかなか刺激的なゲームなのね」また別の女性の声がした。声の方を見るとそこには彩南高校の養護教諭、御門涼子が立っていた。「御門先生!?先生も参加するんですか?」驚いた拍子にリトの首に掛かっていた唯の手が離れる。「私だけじゃないわ。そろそろ参加者が揃うんじゃないかしら」御門のその言葉とともに次々とリトの見知った顔ぶれがゲームの中の結城家に姿を現した。ララ、春菜、ヤミ、ナナ、モモ、ルン、キョーコ、里紗。「どうなってんだこれ…?モモ、これはどういうことなんだ?」リトの問いにモモは笑顔で答えた。「シミュレーションをしようと思ったんですよ」「シミュレーション?一体何の…」「もちろんリトさんがここにいる女性全員を伴侶にしたらどうなるのか…というシミュレーションです。つまり、このゲームにおいて、リトさんはここにいる皆さんの夫ということです」
モモの言葉にリトは絶句する。が、すぐに大きな声で抗議する。「ちょっと待てモモ!俺はララの提案に納得したわけじゃないぞ!」彩南ウォーターワールドでの大告白のあとのララの提案。それはリトが好きな女の子全員と結婚するというなんともネジの飛んだものだった。「またまたあ、リトさんだってもうわかっているんでしょう?ここまで来たら皆さんをお嫁さんにするしか丸く収める方法はありませんよ。それに、現実の世界でいきなり重婚生活を送るのは大変だろうと思って、体感ゲームで予行練習をしてみたらいいんじゃないかとこのゲームをプログラムしたんですよ?」 なるほど、これはアンチ破廉恥の古手川が怒るはずだ。リトはそう思いながら集まった面子を見渡す。誰もが十二分の美女、美少女と呼ばれるにふさわしい面子である。男ならば一度は夢見るハーレム生活を送れるというわけだ。「もちろんゲームに二度と参加したくないという方はこの場で私にカードを返却していただいて結構です。ただ、さきほども言ったようにこのゲームは皆さんの親睦を深め、将来に繋げることを目的としています。私個人としては是非とも参加していただきたいと考えています。ゲーム自体にはクリアなどはありませんし、皆さんはリトさんと日常的な夫婦生活や恋人としての付き合いなどをしていただければ結構です」モモの言葉に周囲が静まり返る。ゲームの中とはいえ、実際に結婚生活を体感するのだから、常識ある人間ならば戸惑って当然だろう。ただし、何事においても例外というものは必ず存在するものである。「つまり、このゲームの中ではみんなと暮らせるってことなんだねっ♪なんか楽しそうだねー、春菜?」ララが弾んだ声で沈黙を破り、リトの本命である春菜に話を振る。「えっ?…う…うん…。ところでリサ、あなたはどうしてこのゲームに…」「いや~、結城が10人もの彼女を相手に頑張るところを見るのも面白そうだなーって思ってね」正直なところ、春菜はこの状況についていけていなかったが、里紗は割とこの状況でも普段通りだった。「あ、もちろんこのゲームはリアリティがないと成り立たないので…」思い出したようにモモが口を開いたと思ったら、随分と長いタメを作った。「…なんだよ…早く言えよモモ」ナナが唾を飲み込みながら先を促した。「ゲーム内でも然るべき手順を踏めば皆さんに新しい命が宿ることになります」モモは一呼吸置くと、その場の全員に巨大な爆弾を投下した。
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