※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

朝から空は分厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。
今日も太陽は眠りこけているのか、顔を出してはくれない。
あの日からちょうど一週間・・・テスト最終日。
あれから唯との間に会話はなかった。
テスト期間ということで、頭文字が「コ」の唯と「ユ」のリトの席は離れてしまっていた。
両者の心の内を示すかのように。

(だけど、それは今日元に戻るんだ・・・)

必ず戻してみせる。
唯の心を、自分の隣に。

必ず、包んでみせる。
唯の全てを、自分の全てで―――


あの日以降、リトは自身を見つめ続けていた。
想いの全てをぶつけてきてくれた唯ともう一度向き合うためには、とことんまで自分と向き合うしかない。
同情や哀れみは必ず見抜かれるし、考えぬいた末の結論でなければ何より唯に対して失礼だ。

リトは、唯のことが好きだ。
それは紛れもなく、一人の女の子として。
あの時感じた爆発的な愛しさは、決して一時の気の迷いなどではなかったと断言できる。

答えを返せなかったのは、ずっと目を背けてきたからだ。

それは唯だけのことに限ったものではない。
自分に想いを寄せ続けてくれているララに対しても。
いつまでも燻らせ続けてきた春菜への想いについてもそうだ。

ケリをつけなくちゃいけない・・・。


ララ―――
ララが現れてから、リトの生活は大きく変化した。
毎日災難続きだけれど、退屈とは無縁の日々がやってきた。
交友関係も増えたし、今も続く楽しい生活の中心にいる女の子。
そして何より、生まれて初めて「好き」と言ってくれた女の子。
大切じゃないはずがなかった。

春菜―――
かつてただ一人、自分のことを信じてくれた女の子。
中学生時代に好きになってから、ずっと心の中にいた女の子。
リトは春菜に恋をしていた。
それはララが現れてからも、唯と親しくなってからもかわってはいなかった。

仮にいつか、ララがリトの傍を去るときがくれば、何らかの結論を出さなければいけない。
そしてそのときが来たら、リトはララの望むようにするのだろう。
悲しい思いをしてほしくないから。
大切な存在だから。

春菜に関しては、もっと情けなくなる。
春菜を想うことは、いつの間にかリトにとって逃避になっていたのかもしれない。
ララからの、そして唯からの想いと向き合わずにいるための。
今の居心地のいい空間から追い出されないための。
もし春菜が想いを伝えてきてくれても、誰にも悲しい想いをさせないようにとオドオドするだけで結局はどうにもできない気がした。

ララや春菜に対しては、リトは自分の意思を優先できそうにない。
流されるままだ。


じゃあ、唯に対しては・・・?

彼女は自分が傷つくことなど、これっぽっちも恐れないのだ。
その代わり周囲に迷惑をかけたり、大切な人を傷つけたりすることは極端に嫌う。いや、恐れているとさえいってもいい。
彼女がどこか友人たちの輪に入りきれないのは、深く関わることでいつか傷つけてしまうのが怖いからなのではないだろうか。

ララがリトに想いを寄せていることは、唯だって知っているはず。
リトが春菜に想いを寄せていたことも、唯は知っていたようだった。

それなのに。
唯は自分に精一杯の想いを伝えてきてくれたのだ。
あれほど己を優先せず、犠牲にして、誰にでも献身的に行動する唯が、
別の誰かを(それも大切な友人を)傷つけてでもと、望んでくれたのだ。


(俺の一番になることを―――)


だから俺も、自分の意思に忠実になろう。
誰かを傷つけても、ぬるま湯から抜け出してでも、一番欲しい物に手を伸ばそう。
身勝手だろうと、何と言われようと構わない。

(俺は・・・、古手川唯が欲しい)


意地っ張りで、でも真っ直ぐで、頑張り屋な唯が愛しい。
ぶつぶつ文句を言いながらも、俺の腕の中で顔を真っ赤にして甘える、そんな唯がどうしても欲しい。

だから。
彼女を手に入れるためなら、ズルイことだってしてやる。
大切な人にだって、傷を負ってもらう。
そうしないと、”俺が”いつまでも前に進めないから。
後には莫大な借金が残るだろうが、それは少しずつ返していくしかない。

これが、リトの出した結論だった。


前日の夜―――

「ララ、ちょっといいか」
自分から訪れることなど滅多にない、ララのラボラトリ。
翌日で最終日とはいえテスト期間なのに、ララは新たな発明品の試作に励んでいた。
彼女にしたら、地球の勉強に対策など必要ないのだろう。
「あっ、リトー!どうしたの、こんな時間に」
顔を上げこちらを振り向いたララの表情は、弾けるようないつもの笑顔。
でも、もうこれ以上この笑顔に甘えることは許されないのだ。

「話があるんだ」
「・・・リト?」
ただならぬ雰囲気を察知したのか、天真爛漫なララに珍しく戸惑いの色が浮かぶ。

「俺は、ララの気持ちに応えられない」
視線は真っ直ぐに、決して下は向かない。
もう、何からも逃げない。
「・・・リ、ト?」
リトは冗談でこんなことを言う人ではない。
突如訪れる、焦燥感と喪失感。
心にコンパスで円が描かれ、そこにぽっかりと空洞ができる。
「リト、私にどこか悪いところが・・・」
その続きは言葉にならなかった。

そうじゃない。
無言でもその瞳が、そう語っていたから。
初めて見る強烈な意思の宿ったリトの瞳に、ララは何もいえなくなってしまった。

「幸せにしたいやつができたんだ」

(私よりも?)
聞くまでもなかった。
「だから俺は、お前の気持ちには応えられない。・・・ごめんな」
リトは全ての言葉を言い終わるまで視線をそらさなかった。
その後静かに頭を下げて、部屋を出て行った。


そして今朝、結城家―――
「リトッ!!」
リビングには朝食が既に並べられている。
響いているのは、エプロン姿の美柑の怒号だ。
「どうしてララさんにそんなこと言ったのよ!」
美柑が怒っているのは、もちろん昨夜のことについてだ。
朝食の時間になってもララが姿を見せないことを不思議に思った美柑が、リトに問うたのがきっかけ。
「あんたが嘘つけない性格だっていうのは知ってる。
好きっていう気持ちがどうにもならないっていうのも、なんとなく想像できる。
でも、タイミングってものがあるでしょ!今日だってテストなんでしょ!?」
「ああ」
「そのうえ唯さんを足止めしてくれって・・・。わけわかんないよ!
あんた自分以外のことはどうだっていいっていうの?」
「ああ、そうだ・・・」
「ああそうだって・・・。もういい、私がララさん起こすから!」

美柑がララに呼びかける声が聞こえる。
リトだって、ララに出てきて欲しい。
いなくなってなど欲しくない。
しかし、ここでリトが懇願するわけにはいかない。
今は信じるしかない。
自分に何ができるかはわからないが、ララが返済のチャンスをくれることを。


朝食には手がつけられないまま、時刻は8時15分になろうとしていた。
そろそろ出発しないと間に合わない。

その時、ドアが開く音が聞こえた。
「ララさん・・・」
「てへっ。寝坊しちゃった」

なんて分かりやすい嘘なんだ。
目は充血し、鼻の辺りも微かに赤くなっている。

「もういかなきゃ遅刻だー。リト、先に行くねー」
まだ鼻声のまま、ララはあっという間に飛び出していった。
リトは目頭が熱くなるのを感じたが、グッとこらえて玄関に向かう。
「リト、・・・いいの?」
同じく学校へと向かうために美柑も玄関に出てきた。
「ああ・・・、唯の件よろしく頼むな・・・」
リトは実年齢に見合わない精神年齢を持つ妹の頭をクシャッと撫でて微笑みかけると、家を出て行った。
小さな声で、その笑みも儚げだったのに、なぜかいつものような頼りなさはそこにはなかった。
美柑は優しいだけがとりえの兄の出した結論を、応援してあげようと心に決めた。


お前勉強してきたかー?
全然やってねーよ
そういうくせにいつも俺より上だもんなー、ちくしょー
教室に入ると、いつもの喧騒がそこにはあった。
ララも春菜も、そして唯もそこにいた。
遅刻ギリギリだったせいで、1時間目のテストが始まるまでに話しかけてきたのは
「ヤ」を頭文字に持つ前の席の男だけだった。

テストに関しては、リトとしてはこれ程なく順調に解けた。
あの日以降は考え事ばかりだったが、それが煮詰まると唯の教材に自然と手が伸びた。
(俺がまさか気分転換に勉強を使うなんてな・・・)
整った文字列と細部にまで行き届いた配慮。
リトが勉強するためだけに作られたそれに取り組んでいると、心が安らいだ。
先週の貯金もあったお陰で、赤点が心配になる教科は一つもなかった。

2時間目も何事もなく終わり、期末テストは過ぎ去っていった。
一箇所で生まれたざわめきから開放感があっという間に派生し、帰りのホームルームなどあったもんじゃなかった。
結局その日机が元に戻されることはなかった。

しかし唯との関係の方はそうなるわけにはいかない。
リトはそう思いながらも、やっておくべきことがもう一つあった。
自分の気持ちにケリをつけるためだけの、なんとも身勝手な儀式が。

「西連寺、この後ちょっといいか・・・」
「えっ!?・・・うん。大丈夫だけど・・・」
「じゃあ、屋上で待ってるから」

春菜にこんなに自然に話しかけられたことなどなかった。
声が上ずることも、視線をそらすこともなかった。
(今まで自分が決意だと思っていたものが、いかに甘ちゃんな物だったか思い知らされるな・・・)
そんなことを考えながらリトは屋上への階段を登っていった。

そのリトの後姿を、唯は寂しげに眺めていた。


春菜の心臓は高鳴っていた。
ずっと好きだった人に、屋上に呼び出されたのだから当然だ。
ただ、どこか嫌な予感がしていた。
それは今日のララの態度が、明らかに不自然だったからだろう。
不安が期待を、押しつぶしてしまいそうだった。

屋上では、リトが柵を背にしてこちらを向いて待っていた。
バタンとドアが閉まる音がしたが、春菜はその場を動けない。
リトがゆっくりと近づいてきた。
春菜の前まで来ると目を閉じて、それから徐に話し出した。

「昨日、ララに言ったんだ・・・」
春菜は不安に揺れる瞳でリトの胸の辺りを見ていた。
「お前の気持ちには応えられないって」
(そうか、それで今日のララさんは・・・)

リトの声は小さいが、はっきりと聞こえる。
何かを決意したものの声だ。
春菜の胸には嫌な予感が広がっていく。
普通こういうときには自分を選んでくれたのかもしれないと思うものだろう。
だけど・・・。
(結城君は優しすぎるから・・・)
もし彼がララを選ぶと決めなければ・・・今の状況が長く続けば続くほど、
ララが自分たちの中に溶け込めば溶け込むほど、彼は誰も選べなくなっていくんじゃないだろうか。

(だから、私が選ばれることは絶対にない・・・)
春菜の中にいつしか宿っていた、諦めの気持ち。
それが爆発しそうになって、春菜はついに決意した。
「結城君、私は・・・」
「俺は西連寺が好きだったよ」
「えっ!?」
思いがけないリトの言葉。
視線を胸の辺りから上げていくと、真っ直ぐに見つめてくるリトと目が合った。
「ずっと好きでした」
自分は今、想いを寄せている相手に告白されている。
それなのに、春菜は急速に冷静さを取り戻していった。

リトの言葉は、全て過去形だ―――
やっぱり彼は、誰も選ばないつもりなのか。

リトには誰かを愛して欲しい。
幸せになってほしい。
偽らざる春菜の本心だった。
誰も選ばないなんて私は望まないよ。
そう伝えたかったが、たった今大好きな人からNOを伝えられたのだから言葉など出てこなかった。
一人葛藤の中にいた春菜に、リトの言葉が続けられた。

「最近、好きなやつができたんだ」

リトの言葉は現在形へと変化していく。
「俺はそいつをたくさん傷つけてきた。いや、違うな。そいつだけじゃない・・・。
今だって、君の心を好き勝手に掻き乱している。
だから俺は、償わなくちゃいけない。傷つけた人たちに対して」
リトはそこで言葉を切り、大きく一つ息を吐いた。
内側から胸を炙られているような熱さがあった。

「でも償うことは多くの人に対してできても、幸せにすることは、ちっぽけな俺じゃ一人しかできない」

そして今度は未来形へと変化する。
「俺には、君以上に幸せにしたい人がいる。だから・・・」
リトが頭を下げようとした、その瞬間。
「謝らないで」
春菜に静止させられた。
「私は、結城君が誰かを好きになってくれて嬉しいの」
「・・・西連寺?」
「結城君は優しすぎるから、結局誰も選ばないんじゃないかって、ちょっと思ってた」
春菜の瞳には涙が溢れてきていた。

「でも、古手川さんがそれを変えたんだね」
「えっ!?・・・何で俺の好きな人が古手川だって?」
春菜は涙が零れ落ちるのにも構わずに微笑んだ。
泣きながら見せる、いつもの困ったような笑顔。
「わかるよ。・・・いつも見てたんだから。結城君、鈍すぎるよ」
今更ながら、リトは春菜の気持ちに気づいた。

春菜はハンカチで濡れた顔を拭うと、再び笑顔を作った。
「行ってあげて。古手川さんのところに」
「西連寺・・・」
リトの胸には再び熱さが込み上げてきていた。
最初は自分の身勝手さに対する怒りの熱さだったが、今度は春菜によってもたらされたそれ。

「古手川さん、きっと待ってるよ。そしてさっきの言葉、伝えてあげて」

そうだ。
俺には何としても手に入れたいものがあるんだ。
この大切な女の子を泣かしてしまった今でも。

リトは春菜の横を通り過ぎ、ドアノブに手をかけた。
「俺、西連寺の事好きになれてよかったよ」
やっぱりその気持ちは逃避なんかじゃなかった。
リトは確かに春菜のことが好きだった。
ただ、それを犠牲にしてでも手にしたいものができただけだった。

リトは屋上を出た。
(余計なこと言ったかな・・・)
少しそう思ったが後悔はしない。
本当の勝負はまだ始まってもいないのだから、後悔している暇などない。
頭の中はもう、唯の事で占められていた。


唯はぼんやりと数メートル先の地面を見つめながら家路についていた。
(もう、終わってるのよね・・・)
ちょうど一週間前のあの日、自分とリトの関係は崩壊した。
抑えようのない自らの熱によって。
いつだって、答えを焦り過ぎるとロクなことにはならない。

勉強など手につかなかった。
月曜日、誰よりも早く登校し自分の席に座った。
結城リトという恒星の惑星系からはぐれてしまった、自分の席に。
勉強に没頭しているフリをして、彼とは目も合わせなかった。
これからどんな風に彼と接していけばいいのか。
心の整理など全くできていなかった。
それでもテスト問題ならば、日頃の蓄積により焦ることなく解けてしまう自分が、どこか滑稽に思えた。

学校に行き、静まり返った教室で数十問の問題を解き、家に帰れば布団の上で涙を流して過ごす。
何一つ手につかない。
唯としてはありえてはいけない、怠惰な一週間だった。

今日、リトは屋上へと駆け上がっていった。
席が元に戻らなかったことに戸惑い無意識にリトの姿を探すと、彼は春菜と何事か話していた。

(結城君は、やっぱり西連寺さんを・・・)

分かっていたはずなのに。
もう答えは返されているのに。
今日は家に帰り着く前に涙が零れてしまいそうだった。
あの日と同じような曇り空から、雨が降ってきたらいいのに。

ドンッ
「きゃ」
涙を堪えるのに必死になっていた唯は、交差点で左から歩いてきた女の子とぶつかってしまう。
「ごっ、ごめんなさい!大丈夫?怪我はない?」
電光石火の勢いで尻餅をついた女の子に駆け寄って顔を寄せ、心配そうに声を掛ける。
どんなに悩んでいようと、超善人ぶりは変わらないらしい。

(・・・こりゃ、リトが惚れるのも無理ないなぁ)
その女の子はもちろん美柑だ。
唯は若干やつれていたが、それでも美しさは健在だった。
少し頬がこけているものの、それがどこか儚げで、強気な面を感じさせる普段の唯とのギャップを引き立てていた。
また、その長く美しい黒髪は手入れを怠っていないらしく、絹のような光沢を保っていた。
瞳が潤んでいるのはぶつかったのとは別の理由からだともちろんわかるが、
それでも初対面でかつ同姓である美柑ですら、思わず見とれてしまうほどだった。


「平気です。こっちこそごめんなさい」
そう言って立ち上がると、そこで初めて唯の制服に気づいた、というフリをする。
「あ・・・、その制服・・・」
ちょっとした演技など美柑にはお手の物だ。
ましてや相手は小学生を疑ってかかるということなど絶対にしない唯だ。
「あの、何年生ですか?」
「・・・2年、だけど・・・」
パァッと美柑の表情が明るくなる。
「じゃあ、リト知ってますか?結城リト!」
「えっ!?」
思いがけないところで出たリトの名に、唯は動揺を隠せない。
そしてそれに付け込まない美柑ではない。
「結城リト、知ってるんですね!」
「えっ・・・あ、ぅ・・・」
今最も考えたくない人物で、関わりたくない人物だ。
知らないといってしまいたい・・・が、唯はそこで嘘をつけない。
しゃがんでいるので、美柑を見上げる格好になっている。
何とも恨めしそうな表情で。
美柑は逆にどこか楽しそうだ。
「実はあいつ、私の兄なんです」
「・・・結城君の、妹さん・・・?」
初耳である。
「はい。私今日家の鍵忘れちゃって・・・。リトが帰ってこないと家に入れないんです。
リト、まだ学校にいますか?」

唯の予測が正しければ、リトはまだ学校にいるだろう。
彼は春菜に告白し、春菜もそれを受け入れて、二人で幸せを噛み締めている頃ではないだろうか。
そう考えるとまた涙線が緩みそうになり、いてもたってもいられなくなる。

「ゆ、結城君は友達と寄り道していくって言ってたから、当分戻らないんじゃないかしら・・・」
「・・・そうですか。困ったな」
シュンとしてしまう美柑。
そんな姿を見せられると、美柑を放っておくことなど唯にはできないわけで。
沈みかけた自らの心を奮い立たせると、俯いている少女に声を掛ける。
「じゃあ、お姉ちゃんとどこかでお昼食べようか」
「へっ? いいんですか?」
「うんっ」
ここで会ったのも何かの縁だし、家で泣いているよりも有意義な時間がすごせる。
もしかしたらリトの新たな一面も知れるかもしれない。
「行こっ」
そういうと唯はにっこりと微笑んで、美柑と手を繋いでやる。
笑えたのは、一週間ぶりだった。

まだ正午前だったが、二人は某ファストフード店に入った。
朝食をとれなかった美柑はフィッシュバーガーを頬張っている。
初対面の二人にとって共通の話題など他にないので、必然的にリトの悪口大会になる。

「あいつ、ホントにヌケてるんですよ。この間だって・・・」
「ふふっ。結城君ってそういうところあるわよね」
唯は食欲こそほとんど戻らなかったが、美柑と話しているうちに元気を貰っていた。



気づけば時刻は1時を回っていた。
リトはそろそろ帰っているだろうか。

「あの、唯さん。お願いがあるんだけど・・・」
美柑が改まった口調になる。
「なあに?」
逆に唯は出会った数時間前よりもふんわりとした口調。
子供が好きなのかも知れない。
「一緒に見て欲しい映画があるんです」
「映画?」

美柑と一緒に見たのは悲しい恋愛映画だった。
たった一つのボタンの賭け違いが原因で離れ離れになってしまった二人の物語。
唯は映画の開始直後はずいぶんマセた小学生だな、などと考えていたがいつの間にか映画に引き込まれていた。
映画の終盤、二人が最後の口付けをかわしたシーンでは涙が出そうになったほどだ。
一方美柑は大あくびにより涙が出ていた。

映画が終わって外に出ると、夕日が唯に優しく降り注いできた。
なんだか太陽を見たのは久しぶりのような気がする。
「唯さん、今日はほんとにどうもありがとう」
「ううん。わたしも凄く楽しかったわ。こちらこそありがとう」
「もうリト帰ってると思うから、そろそろ帰ります」
「それがいいわ。またね、美柑ちゃん」
唯は微笑むと小さく手を振る。

「未来のお姉ちゃんが、素敵な人でよかった」
背を向ける直前に美柑はいたずらっぽい表情でボソッと呟くと、あっという間に人ごみに紛れてしまった。


「・・・ええっ!?」
しばらくポカンとしていた唯だが、その言葉の意味に気づくと途端に真っ赤になってしまう。
(それって、わたしが結城君と・・・、ケッ、ケ・・・ケッコンするって・・・)
今の状況ではそんなことはありえないと分かっているのに心臓が踊りだす。
ドキドキするのも一週間ぶり。
一緒にいるわけではないのに、彼に自分を動かされている感覚。
(わたしは何でもかんでも結城くん、結城くん・・・。あなたはいつまで居座る気なの・・・?)
ため息が出てしまうが、同時に体の内側から温かさを感じることができた。
そっと目を閉じてみる。
雑踏の真ん中で、音が消える。
リトは唯に背を向けていた。
その表情は窺い知れなかったが、きっと笑っているだろうとその時は思えたのだった。



(・・・遅いな)
リトは唯の帰りを今か今かと待っていた。
かれこれ5時間ほどになる。
唯の家の近所のおばさんたちにじろじろと見られながらも、リトはこの場を決して動かなかった。
ララと春菜への想いに区切りをつけ、唯に気持ちを伝えるのが今日の目的。いや、ノルマだから。
そのためにリトは美柑にお願いをしたのだが、妹の賢さとしたたかさを読み違えていた。

リトは唯がすぐ家に帰らないように時間を稼いでくれと頼んだだけなのだが、
春菜にも話をつけるのだろうと予測がついた時点で美柑は作戦を思いついたのだ。
唯にはリトの話題を無理なく話させること+映画によってその切なさを増幅してもらう。
リトには身勝手さを反省させる意味も込めて、愛しい人の到着を大いに待たせてやる。
全く、将来有望すぎる小悪魔だ。
「頑張れ、バカ兄貴・・・」
出来の良い妹からの、おしおき込みのエールだった。

唯は家路をゆっくりと歩いていた。
ついさっき僅かに見えたと思えた希望の波はあっという間に引き、また切なさに襲われていた。
体に力が入らない。
脚は鉛のように重く、筆記用具とノート以外何も入っていない鞄も大荷物のように感じていた。
久しぶりに唯を包んでくれた太陽も、その姿を消してしまった。

(あと少し・・・)
次のT字路を右に折れれば家に着く。
そして今日も、涙でシーツを濡らすのだ。
いつまでも引きずっているわけにはいかないことは分かっている。
だけど今日だけは、また唯の心におけるリトの面積が増えてしまった今日だけは、泣かせて欲しかった。

件のT字路を右へ。
そこには、愛しい人が立っていた。
「ゆ、結城くん・・・?」
さきほど目を閉じて見たのと同じ後姿に、思わず声を掛けてしまう。
リトはゆっくりと振り向く。
「おせーよ古手川。待ちくたびれちゃったよ」
困ったような、でも凄く嬉しそうな笑顔だった。
唯の心にいつも柔らかな灯をともし、温めてくれるリトの笑顔。

「ここで・・・何してるの?」
「今言ったじゃん」
リトの口調はまるでいつもと変わらない。
とても一週間会話していない相手に話しかけるようなものではない。
信頼と親しみが篭ったそれ。
「お前を待ってた」
いつもとは逆で、今日は唯が混乱する番だった。
(どうして!?なんで結城君がここに?だってさっき西連寺さんと・・・)
リトは結ばれたはずだ。

リトは表情を引き締めた。
一番大切なものを手に入れるために。
さあ、勝負。


「やっと解けたから。古手川が出した問題。だから、答えに来た」

ハッとした表情になる唯。
そしてそれはすぐに沈痛なものに変わった。

「酷い・・・。酷いよ結城くん。そんな冗談ってないわ。
だってあなたはあの日、わたしに答えを返したじゃない!!」

リトも、自分の気持ちに嘘をつけるような人じゃない。
思いの丈全てを打ち明けた唯に、リトは何も返してはくれなかった。
そしてそれが、答えだったはずだ。

「それは違うんだ。お前の思い込みだよ。俺は答えを返しちゃいない!」
「だったらどうして、あの時追いかけてもくれなかったのよ!!」
「っ」
一週間前には見せなかった、感情の発露。
涙声の唯が放った矢が、リトの心臓を打ち抜いた。

リトがすぐに答えを出せないことはわかっていた。
ララや春菜への思いはそう簡単に整理がつくものではないだろうから。
でも、それでもいいから、せめて自分を意識して欲しかった。
唯も、ララや春菜と同じ土俵に上がりたかったのに。

それなのにリトは、追いかけてさえくれなかった。
リトは大切な人が目の前で傷つくのを、黙って見過ごせるような人じゃない。
だからそれは唯にとって、拒絶されたのと同義だった。

唯の瞳から、堪えていた涙がポロポロと零れ落ちる。
あの時唯は正解が欲しかったわけではなかった。
ただ、真剣に問題に取り組むことを伝えてやるだけでよかった。
リトはまたしても打ちひしがれ、自分の鈍さを呪った。

しかし、今日のリトはこんなことで負けるわけにはいかない。
なぜならリトの信じている正解はもう、この手にあるのだから。

「古手川・・・、ごめん。本当に悪かった」
唯の決壊した堤防は、次から次へと透明な水を零していた。

「俺は、逃げてたんだ」
リトは言葉を続ける。
「今のみんなとの生活が、お前との関係が心地よすぎてさ。ずっと逃げてた。
ララからも、西連寺からも、・・・お前からも、そして自分自身からも」

一つ唾を飲み込む。
心臓が飛び出してきそうなほど暴れている。

「ずっと逃げてたから、真っ直ぐなお前が眩しかった。
お前が俺のこと想ってくれてるって分かったとき、ほんとにうれしかったんだ」

唯は涙が流れ落ちるのもそのままに、じっとリトを見つめている。
魅入られそうなほど、純粋で無垢な瞳で。


「俺は古手川のことを、間違いなく大切に想ってた。あの時にはもう、お前が好きだった。
でも、いろんな人に対するいろんな気持ちがグチャグチャに絡みあってて・・・。
それなのにお前に答えを求められたとき、完璧な答えをだそうとしたんだ。できもしないのにさ・・・」

そこで自分の弱さを思い知らされて。
そしてリトの体は動かなくなってしまったのだった。

大きく息を吐き出して、一息ついた。
唯を見る。真っ直ぐに。

唯もじっとリトを見返してくる。
その瞳が、続きを要求していた。


「俺は、お前のことが好きだ」
初球はズバッとストレートを投じる。
唯の瞳は見開かれることはなく、頬も赤く染まりはしない。
しかし、微かに息を呑んだのがわかった。
まずは1ストライク。

「あれっ、今の驚くか悦ぶかして欲しいとこなんだけど・・・」
リトが少し茶化すように言うと、唯は頬を膨らませた。
2球目のボール球の変化球は、見事に見逃されたようだ。

「お前のことが、一番好きだ」
「嘘!」
3球目のストレートに、唯は始めてスウィングしてきた。
「嘘じゃない」
「だったら証明してみせて!」
ここで捕らえられるわけにはいかない。
そのために、ララと春菜を傷つけてきたのだから。
「ララも西連寺も、俺にとって大切な人だ。それはこれからも変わらない。
二人には幸せになってほしいと思ってる」
「・・・」
とりあえず聞く耳は持ってくれた。
リトの言葉に嘘がないことも、唯なら見抜いているだろう。
3球目は目論見どおりファウルだ。これで、追い込んだ。

4球目・・・。勝負球―――

全身の力を集中させ、目を閉じ唯の笑顔だけを心に描く。

「俺が幸せにしたいのはお前なんだよ!
俺以外の奴がお前を幸せにするなんて冗談じゃない!
お前を幸せにすることは、俺にしかできない!俺じゃなきゃ嫌だ!」

渾身の力を込めた、ど真ん中ストレート。

まるでガキっぽい、青臭い言葉。
しかしリトが考え抜いた末に、自分の意思で唯を選んだことを示す言葉だ。
唯の見開かれた両の瞳から、ツーッと涙が伝い落ちていった。


リトは微笑みかけると、ゆっくりと唯の元へと近づいていった。
手を伸ばせば、触れられる距離まで。

「そういえば、まだ聞いてなかったよな」
唯は微かに身を震わせながらリトを見上げる。
「古手川は、俺のこと好き?」
ボッ、とマッチをする音でもしたんじゃないかと思うほどに、唯の顔が一瞬で朱に染まる。
「な、なにを今更・・・」
唯はそっぽを向いてしまう。
それを見てリトの顔がつい綻ぶ。
(ああ、この感じだ・・・)
たまらなく心地よいやり取り。
「いいから、聞かせて」
リトは別にからかっているわけではない。真剣そのものだ。
「・・・嫌いよ」
唯はそう言うが、声には甘えるような響きが混ざっていた。
それにリトはもう既に、唯を三振に打ち取っているのだ。
勝負の行方は見えていた。

「古手川は意地っ張りな上に天の邪鬼だからな、一度言われたくらいじゃ信用できない」
「結城君なんて・・・嫌いなんだから・・・」
そう言いながら体を倒し、リトの胸にもたれかかって来る唯。
その口から何とかして好きという言葉が聞きたいのだが、どうやら愛しさの方が先に限界に達してしまったようだ。
両手で唯の周りに円を作る。
「古手川、ギュってしていい?」
そう聞きながら半径を小さくしていく。
「もうしてるじゃ、あっ・・・」
彼女が言い終わる前に抱きしめてしまった。
信じられないくらいに柔らかい身体、滑らかな黒髪の感触、女の子特有の甘い匂いと唯の温かな体温。
あまりの幸福に、涙が出てしまいそうだった。
「結城くん・・・結城くんっ」
腕の中で震えながら名をよんでくれる、何よりも愛しい存在。
「もう絶対に泣かさない・・・。嬉し涙ならたくさん流させてやるけどな・・・」
耳元でそっと囁くと、唯はリトの制服のジャケットのポケット辺りを掴んでいた手を腰に回してしがみついてくる。

「・・・わたしで、ホントにいいの・・・?」
「お前がいい。お前じゃなきゃダメなんだ・・・」

リトはより一層の想いを込めて唯を抱きしめ続けた。




どれくらいそうしていたのだろうか。
確かな熱を依然として感じていながらも、リトはようやく冷静さを取り戻した。
そしてここが、住宅が密集している路上であることを思い出す。
時刻は6時くらいだろうか、今まで人が通らなかったのが不思議なくらいだった。
肌寒さも増してきているようで、体温の高い唯は冷えてしまうかもしれない。

リトは上半身を少しそらして唯と距離をとり、その肩を軽く押した。
「んっ!」
しかし唯はそうされたのが不満なのか、リトの腰に回した両手をガッチリとロックしてしまう。

「あの、古手川?」
唯は耳をリトの胸にピッタリとくっつけ、顔を上げてはくれない。
「それ、凄く可愛いんだけどさ・・・とりあえずどこか暖かいとこに・・・」
と、そこまで言ったところで気づいた。
(暖かいとこって言ったって・・・どこ行こう)
美柑は何も問題ないが、ララがいるのだから結城家へは行けない。
いきなり唯の家に上げてくれなんていうのも気が引けるが、かといってホテルなどは問題外だ。
お金ないし、それ以前に誘えないし。

リトが思案していると、考え事をしているのが気になったのか、
それとも可愛いといわれて嬉しかったのか、いつの間にか唯が顔を上げてくれていた。
まるで小動物のようなか弱い表情で見上げられると、心臓に非常に悪い。

「・・・結城くん、まだ帰らないで・・・?」

ドクンドクン。動脈が高速で動き出す。

(可愛すぎだっつーの!つか、古手川の上目遣いって反則・・・)

この表情を見るためならば、いくら叱責を受けようと理不尽に無視されようと安いものだ。
それにやっと想いが通じあったのだから、一緒にいたい気持ちはリトだって同じだった。
「帰らないよ・・・当たり前だろ」
潤んだ瞳で見上げてくる唯を直視できず、おまけにちょっと上ずった声でリトは返答する。
「じゃあ、わたしの部屋に来て・・・?」
ポソポソと、視線を下げながら消え入りそうな声で。
そしてリトをようやく解放すると、今度はジャケットの裾を引っ張って歩き出した。
まさかの展開に、リトは少しよろめきながらついていく。
(古手川から誘ってくれるなんて・・・)
皮膚にぶつかる肌寒い風を押し返すくらいの熱い風が、体中に広がっていくのを感じていた。

「お、お邪魔します・・・」
真っ暗で明らかに誰もいないのにガチガチに緊張して古手川家の敷居を跨ぐリト。
「ふふっ。結城君、右手と右足同時に出てるわよ」
ほら、やっぱりからかわれた。

「お茶を沸かしてくるから先に行ってて。廊下の突き当りを左に行った部屋だから」
そう言って唯はリビングを抜けてキッチンへ向かう。
(えっと、確かお茶葉は・・・)
と探そうとしたが、いつものような両親のお客さんではなく相手はリトだ。緑茶やほうじ茶はイメージとちょっと違う。
とりあえずやかんを火にかけ、唯はリトの好みを考える。
(・・・そういえば、いつだったかレモンティーを飲んでたわね)
ティーカップを用意し、キッチンカウンターの棚からレモンティーの茶葉を取り出してスプーンで一杯入れる。レモンを薄くスライスしたら後はお湯が沸くのを待つだけだ。


「・・・ハァ」
手を動かす必要がなくなると、ため息が漏れてしまう。
唯は自分に降って沸いた幸福に身を震わせた。
リトの告白の一字一句を、しっかりと覚えている。
「結城君・・・」
抱きしめられた感触が、身体から離れない。今だってリトに触れていたい。
やがてやかんから湯気が噴出してきた。
唯は大急ぎでカップにお湯を注ぐとレモンを落とし、お盆に載せて足早にリビングを出る。
カップは程よく揺れているのでちょうど良い蒸らしになるかもしれない。
急いで部屋へ、と思ったらリトは廊下の突き当たりで突っ立っていた。
「結城君・・・?どうかした・・・?」
この一週間は掃除をした記憶がないので、足の踏み場もないほど部屋が汚かったとか・・・
唯は慌てて自室を覗き込むが、そこはいつもどおりだった。自分で言うのもなんだが、よく整頓されている。

「なんか・・・緊張しちゃってさ・・・」
頭を掻きながらリトが告げる。
ララの部屋は女の子の部屋というより特殊空間といったほうが正しいし、春菜の部屋は犬化騒動で覚えちゃいない。
リトが知っている女の子の部屋は妹の部屋くらいのものだった。
そんなリトが、初めて訪れた彼女の部屋(それもきっちりと整頓されている)に先に入って待つとういうのはかなり抵抗があるのかもしれない。

「全く、そんなことでどうするのよ・・・。これからこういうこといくらでもあるんだから・・・」
唯はリトに一秒でも早く触れたくて慌ててきたことが急に恥ずかしくなって、目を閉じてぶつぶつと文句を言う。
「古手川、それって・・・」
「は・・・早くあけてよ。わたし、両手ふさがってるんだから」
自分で墓穴を掘っているので、拗ねた様な声しか出せない。
「お、おう。わり・・・」
二人はようやく部屋の中へ入った。

予想通りというか、唯の部屋はシンプルにまとめられていた。
優しい木の色合いと、白系が半々くらいで程よくマッチしている。
机は小学生の頃に買ってもらったものだろうか、今の唯には少し小さい気がするが
傷もほこりも全くなく、毎日大切に使ってきたのだろうことがよくわかる。
フローリングの床にはクリーム色のカーペットが敷かれ、カーテンの色もお揃いだ。
一人部屋なのに立派なクロゼットがあり、その隣には木製のスタンドミラー。
普段は制服をビシッと着こなしている(スカートの丈は短い気もするが)唯だが、洋服を集めるのが好きなのだろうか。
その代わりというのも何だが、テレビもパソコンもオーディオ機器もない部屋には娯楽と結びつくものは本棚くらいしかない。
しかもマンガはほとんどなく、大抵がリトには馴染みのない参考書と小説だった。
大きいものだけに注目していくと殺風景な部屋だといえなくもないが、そこは女の子だ。
ところどころに可愛らしいぬいぐるみやクッションが置かれ、カラフルな壁掛け時計やカレンダーとともに部屋に彩を与えていた。

(すげえ、女の子の部屋ってこんななんだ・・・)
リトはキョロキョロと唯の部屋を眺めてしまった。
初めて訪れた唯の部屋で、デビュー戦のサラブレッドのようになってしまう。
「結城君、悪いんだけどそこのテーブル開いてくれる?」
「あ、ああ」
唯の声で我に返ったリトは、部屋の隅にきちんと折りたたまれて置かれていたそれを用意してやる。
「ありがとう」
唯はしゃがんでから持ってきたお盆をその上に置くと、カップを蒸らしてから30センチほどの距離を開けて並べる。
その間もリトは突っ立ったままだ。
「座ったら?」
「うん・・・」
とは言うものの、リトは自分が位置すべき場所が分からずにいる。


すると唯が何かに気づいたようだ。
「ごめんなさい。わたしったら座布団も出さずに。それに何かお茶菓子も・・・」
まるで高級旅館の若女将のように、洗練されていて無駄がない動きで立ち上がると部屋を出て行こうとする唯。
その腕をリトがそっと掴んだ。
「そんなのはいいから、ここにいてくれ」
普段のリトよりも幾分低い声が、唯の三半規管をダイレクトに揺さぶった。
それほど強く引っ張られたわけでもないのに、お盆を落としてしまう。

ドキドキドキドキ。
唯は頬を紅潮させて俯いてしまう。
そんな様を見せられるとリトもまた緊張してきてしまった。
「座らないとな・・・」
「・・・そうね」
なんなんだこの会話・・・。
「床に座っちゃってもいいか・・・?」
「あっ、じゃあベッドの上に・・・」
ビクッ!
ベッドという単語に激しく反応してしまうリト。いくらなんでも分かりやすすぎである。
「へ、変な勘違いしないでよねっ」
ビシッと人差し指を突きつけられてしまった。
「わ、分かってるよ」
まあリトからすれば、期待するなってのが無理な話で。

唯は掛け布団とタオルケットを素早くたたむと枕とは反対側にまとめて、座るスペースを作ってくれる。
(すげえ、俺今古手川のベッドに座ってる・・・)
いちいち感動してしまうリト。
唯はお盆を拾い上げると、ちょこんとリトの隣に腰を下ろす。
互いを意識せずにはいられなかった。喉が渇いてしょうがない。
自然、目の前のティーカップに救いを求めることになる。

「あ、旨い・・・コレ」
レモンティーを一口飲んだ、リトの感想。
「ほ、ほんと?」
自分は口をつけずにリトの様子を窺っていた唯は、胸に抱えているお盆をキュッと抱きしめてとても嬉しそうだ。
「ああ。これって茶葉使ってるんだろ?やっぱティーパックより旨い気がするな」
表情が一瞬で曇る。
「・・・まあ、そんなのは茶葉のお陰だものね」
急に刺々しくなった唯の声に気づきもせず、レモンティーに夢中なリト。
(まったく、女心って物が全然分かってないんだから!)
そう簡単にこの鈍さは直りはしません。
「飲まないのか?」
かなり熱かったはずなのに、あっという間に飲み干してしまったらしい。
「・・・飲むわよ」
ジト目で数秒リトを睨んだ後、カップを口元へと運ぶ唯。
フーッ、フーッ・・・
さくらんぼのような唇を窄めて冷ましている。唯は猫舌なのだ。
そんな様子をリトはチラチラと横目で眺めている。
さっさと飲んでしまったので手持ち無沙汰らしい。
ここが自宅なら間違いなく残ったレモンにかぶりついているが、唯に怒られそうなので避けている。
今も鼓動はあがりっぱなし、緊張で間がもたない。
今日だけで心臓が過労死するんじゃないだろうか。
これ以上負担をかけないためにも、この後の展開をシミュレートしておくべきだろう。


(古手川の方から部屋に入れてくれたって事は・・・)
唯も望んでくれているのかもしれない。
もしそうならば、やはり男の自分から行動に移すべきだろう。
(だけど、そうじゃない可能性もあるよな)
ただ少しでも一緒にいたいという、その気持ちだけかもしれない。
唯からすれば、まさか今日リトと想いが通じ合うなどとは夢にも思っていなかっただろう。
心の準備だってあるだろうし、それに・・・
(俺もそれだけでも満足かも・・・)
ただ唯が隣にいてくれるだけで、今だって言いようのない幸福感に包まれているのだから。
それに二人はまだ互いのことをあまり知らない。
他愛のない話をするだけだって、二人にとって貴重な財産となる。

とにかく、どうなるにしろ―――

(古手川の望むように。望んでくれるなら何でもしてあげよう)
リトはそう誓った。だって今日は、唯の全てを受け入れるつもりで来たのだから。

コトッという音がして、唯がレモンティーを飲み干したことが分かった。
沈黙のカーテンが閉まる。
二人とも次の言葉を捜して逡巡しているような、そんな時間。
そしてリトが意を決した瞬間、カーテンを開けたのは唯の方だった。

「もっとそっちに行ってもいい・・・?」
二人の距離は現在も50センチと離れていない。つまりそれは、唯が肌の触れる距離を要求したということ。
「もちろん」
拒む理由など何もない。
するとその僅かな距離を、コンマ数秒すら惜しむかのようにしてつめてきた。
そして体を反転させると、リトの右肩に背を預けてくる。

その声も表情も行動も、全てがリトの全身に甘い電気を走らせる。
今すぐ背後から抱きしめて、唇を奪って、めちゃくちゃにしてしまいたい・・・。
必死に理性を働かせなければ、ついさっきの誓いすら吹き飛んでしまいそうだった。

リトは目を閉じ静かに深呼吸をしながら暫し間をとる。唯に何かを話し出す気配はない。
無言でいるのも悪くないが、それならばもう少しちゃんとした体勢で触れ合っていたい。

「古手川は・・・この後どうしたい・・・?」
唯の身体がピクリと震える。
「・・・結城君は?」
少し怒ったような声だが、意図的にそうした声を出しているような感じがする。
「俺は、古手川の望むようにしたい」
「・・・そんなの、ズルイわよ・・・」
確かにリトはずるい。
はっきりと望んでいるものがあるのにそれを自分からは口にしないと、そう言っているのだから。
しかし唯は、リトの言葉の響きの前に強く怒ることを封じられてしまった。
まるで全てを許されるような、愛するものへの奥底からの愛情が乗り移ったような響き、とでもいうのだろうか。
吹き飛びそうな理性の中でもそんな声を出せることが、リトの唯への気持ちを物語っていた。

電子機器が何もない部屋は、沈黙が訪れると互いの呼吸音しか聞こえない。
シーツが微かに擦れる音さえやけに大きく聞こえる。

(結城君を・・・もっと感じたい)
リトに愛されたい。
それは理性を超越したところにある、女としての本能のようなものかもしれない。
だけど、それを言葉にすることができない。
プライドが邪魔しているなんてことではない。
ただ純粋に、リトの方から求めて欲しいのだ。
いつだって先に行動に移してきたのは唯で、煮え切らないリトに感情を空回りさせてきたのだから。

唯は指先をモジモジとこすり合わせる。何とかしてリトに言わせる方法はないものか。
そしてようやくそれに思い至る。
リトは唯の望むようにすると宣言しているのだから、簡単なことだった。
同じように返せばいいのだ。

「わたしは・・・結城君の好きなようにして欲しい」
「なっ!?」
リトとしてはその台詞は想像の範疇になかった。
唯が肩越しに見返してくる。その瞳は期待と不安で揺れている。

「あなたはわたしを自分の意思で選んでくれたんでしょ・・・?」
キュッと両手で純白のシーツを掴みながら、唯は言葉を続ける。
「今もまだ少し不安なの・・・。さっきのあなたの言葉、胸の奥にしっかりと残ってる。
・・・でもあなたは、ララさんと一緒に暮らしてる・・・」
そこで少しハッとした表情になって唯は慌てて言葉を繋ぐ。
「ララさんにいなくなってほしいとかじゃないの。わたしだってララさんが好き。
そして、結城君の家が彼女の居場所。だから、それに不満があるわけじゃなくて・・・」
唯は少し間をとり、ゆっくりと呼吸する。
リトは半身の体勢のまま、そんな彼女から目を離せないでいた。

「わたしはあなたをもっと知りたいの。何を考えてるの?何を思ってるの?
受け入れられるだけなんて嫌。あなたの意思で、わたしに触れて欲しい、わたしに教えて欲しいの・・・」
瞳を潤ませ必死な表情で心の内をさらしてくる唯。
その不純物が入り込むことなど絶対にできない想いは、リトの受身を打ち砕いた。

自分の意思に、本能の声に従えばいい。
心の底から唯を渇望している、それに。
シーツを掴んでいる唯の両手に己のそれを重ねて、美しい水面を湛えた双眸をしっかりと見つめて。

「古手川が欲しい。古手川に俺を刻み付けたい・・・」

唯の目尻から堪え切れなくなった真珠のような涙が零れ落ちる。
「いいかな?」
ちょっと不安そうな笑顔でリトが訊いてくる。
断れるわけなどないのに。
唯は小さくコクッと頷くとリトにしがみつき、リトの肩に顎をのせる格好で泣いている。
リトは唯の細い肩に左腕を回すと、残ったほうの手で頭を優しくなでてやる。

暫くの間鼻をすすっていた唯だが、やがてゆっくりと身体を離す。
リト曰く”反則的な”上目遣いとともに、その唇が開花を目前にしたモモの花のようにうっすらと開いていた。
(魅了されるって、こういうことなんだな・・・)
リトはそのあまりの美しさに眩暈とともに息苦しささえ覚えたが、唯が待っているのだ。
左腕を唯の右肩へ。右手は唯の左手と指を絡めて。
意を決して、ゆっくりと顔を近づけていく。
「や、やっぱり待って!」
唯からストップがかかる。一週間前と違い、その声からは慌てと照れの響きが読み取れた。


リトは何とも不思議な精神状態だった。
さっきまで理性は吹き飛びそうだったのに、今も頭の中が蕩けそうなほどなのに、
それをどこか冷静に、客観的に受け止めている自分がいる。そんな状態。
それはリトにとって何よりも優先すべきは唯だからだろう。
”唯優先主義”とでも言えばいいだろうか。
だからお預けを食らったというのに比較的穏やかに返事ができる。
「どした?」

視線は2つ並んでテーブルに置かれたカップへと逃がしながら。
「名前で呼んでよ・・・」

純粋なお願いは、リトをしっかりと見つめながら。
不満が元になっているお願いは、そっぽを向きながら。
素直じゃないような、素直なような・・・。
ある意味唯の真骨頂かもしれない。

「唯・・・」
リトは恥ずかしさを覚えながらも、すぐに愛しい少女の名を呼んでやる。
「な、なんだよ。望みどおりにしたのに、不満なのか?」
唯はその美しい眉根を下げて、絡めたリトの右手をつねってきた。
「・・・今、軽かった」

(・・・いや、何か分からないけど恥ずかしいんだってば)
好きな人の呼び方を慣れたものから変えるのは、結構恥ずかしいものだ。
「やり直し!」
有無を言わさぬ声の響き。
(・・・俺、なんでちょっと嬉しいんだろ)
めんどくさいと思ってしまいそうなものだが、なぜか表情が緩みそうになってしまう。
リトにだけ与えられる、受け入れることを許された、唯のわがまま。

リトは緩みかけた表情を戻す。
(きっと名前だけを言うから恥ずかしいんだ、うん)
一つ深呼吸をして、しっかりと想いを込めて。

「好きだよ、唯・・・」

いや、そっちの方が恥ずかしいだろ。

しかし今度は抜群の効果があったようだ。
唯は満足げな吐息を漏らすと、ツンと顎を少し持ち上げて目を閉じる。
それが当然だといわんばかりに。
とっている行動はわがままなお嬢様のようだが、そこに高飛車さを感じさせないのが凄い。
姉のような包容力だけでなく、優しく守ってあげたくなる何かを彼女は持っている。

静かに、ゆっくりとリトの唇が唯のそれに重なっていった。
「ん・・・」
そっと触れるだけの、だけど万感の想いを込めたキス。
少しでも動けば離れてしまいそうなキスなのに、相手が自分の中に侵入してくるようにさえ感じていた。
(唯の唇、めちゃくちゃ柔らかい・・・)
その柔らかさが、想いを確かめ合えた嬉しさが、リトの腕に込められる力を強くさせる。


数十秒ほどたっただろうか。
どちらからともなく唇が離れる瞬間、唯の両手に加わる力が強まった。
リトは敏感にそれを察知すると素早く息を吸い、余韻を残す間もなくもう一度唯にキスをする。
今度は短く、何度も何度も触れる。
「・・・っふ、ん・・・ん」
リトはどうしても唯が見たくて薄く目を開けてみる。
キュッと目を瞑り、必死に応えてくれる唯がたまらなく可愛い。
唯の力が抜けてきたので、絡めていた右手をそっと離すと腕、肘を経由して肩に到達する。
そしてゆっくりと、唯を純白の凪の上に横たえていく。もちろんその間も唇でつながったままだった。

「ぁ・・・はぁ・・・」
短くて長いキスを解いて、二人は見つめあう。もう頭の中は、互いで埋め尽くされている。
リトは唯の制服のブレザーにそっと手を掛ける。
「じ、自分でする・・・から」
身体を少し起こして、唯は恥ずかしそうに身をよじる。
しかしリトは優しく微笑みながらそれを手で制すと、3つのボタンを外しにかかる。
彩南の制服は近所でも可愛いと評判だ。
そんなものを、リトの主観的(まあ客観的にもだろうけど)超絶美少女にして最愛の人が身に着けているのだ。
自分の手で脱がしたくなるのが男の性というものだろう。
ボタンを外すと唯は窓の方へ視線を向けながらブレザーから腕を抜いてくれる。
さらに唯にばんざいする体勢になってもらってベストも脱がす。
リトは唯を再び横たえた。
次に色はロリエに近いだろうか、グリーンのリボンを外してやる。
猿山に借りたAVではリボンだけ残していたのを見た覚えがあるが、それはまたの機会に。
上半身は下着を除けばブラウスのみになり、リトはどうしても胸へと視線が行ってしまう。
唯の呼吸に合わせて微かに上下する様が、まるで誘っているかのようだった。
「・・・唯、その・・・胸さわってもいいか・・・?」
唯はそっぽを向いたままだが、その横顔が”いちいち訊くな”と語っていた。
「ごめん」
リトは唯と会話しつつ左手をその黒髪に、右手を胸へと伸ばしていった。

触れた瞬間、唯の瞳が僅かに細められた。
左手は毛先の方へと上から下に、右手は円を描くようにそっと動かしてみる。
(すげえ・・・全然抵抗がないや)
美しい髪は指に引っかかる気配すらなく、その胸は直までに2つの隔たりがあるというのに硬さを感じさせない。
サラサラとフワフワのコンビネーションに、リトの興奮は高まるばかりだった。
「んっ・・・くすぐったいよぅ」
通常比・糖度500%な唯の声は、リトの侵攻を早めることになる。
「これも脱がすな」
リトはブラウスに手を掛ける。
「あ、待って。まだ心の準備が・・・」
いくら奥手なリトでも、ここで止まれる筈もない。
今度はあっという間にボタンを外すとそれをはだけさせる。
「やっ」
身を隠すように両手で自分の肩を抱き、横向きになってしまう唯。
リトは一瞬見えた白さに目を眩まされていた。
在り来たりだが、それを表現するのに最も的確なのは、眩しい白い肌。
リトが突然呆けてしまったので、唯は少し不安になる。
「・・・あ、の・・・」
唯の声に、ようやくリトは正気を取り戻す。
意識を失っている場合ではない。
1ミリたりとも唯を不安にさせないようにしなくては。
「ごめん、あまりにも綺麗で見とれてて、さ」
「そ、そんなこと・・・」
こちらを見るためにひねっていた首を唯は竦める。
「そんなことあるよ。・・・なぁ、もっと見せて欲しい」
「ば、ばか・・・」
(そんな風にお願いされたら、断れないじゃない・・・)
まだ肩を抱いたままではあるが、唯は身体の向きを戻したくれた。


リトが両肘を掴むと、唯は抵抗しなかった。
「下着も外していい?」
「待って、外す・・・」
今度は待ってやる、というかリトは外し方がわからないので待つしかない。
唯は身体を倒した状態のまま後ろ手で器用にホックを外す。
いよいよだ、そう考えると思わずゴクリと咽喉が鳴ってしまう。
唯はリトのお腹の辺りに視線を置きながら、ゆっくりとブラを取り去る。
もちろんというか、二つのふくらみは腕で隠されている。

リトはそのコントラストに言葉を失っていた。
文字にすれば矛盾している、白と白のコントラスト。
バックグラウンドであるシーツと、透き通るような、神々しささえ感じさせてくれる唯の肌とは、
同じ白でも絶妙な対比をリトに見せてくれた。
(すごく綺麗だ・・・)
頭の中で自分の声が響いていた。
人はあまりにも感動が大きすぎると、声を体外に発することができなくなる。
またしても呆然としてしまったリトだが、唯を不安にさすまいと声を掛けようとする。
が、今度は唯もリトが見とれて声が出ないことに気づいていたようだ。
「結城君も脱いで・・・?」
言われてようやく自分が何一つ脱いでいないことを思い出す。
ブレザーを放り投げ、ネクタイを緩めると輪を解きもせず首から抜いてしまう。
「もう、結城君ったら。制服がかわいそうよ」
こんな状況でも几帳面な唯だ。リトのネクタイを拾って片手で解いていく。
(両手使ってくれていいのにな)
そんなことを思いながらYシャツも脱ぐ。
「今余計なこと考えたでしょ」
ジト目で睨まれてしまう。
唯にからかうための計算など微塵もないのはリトも分かる。
まったくもって鋭いコだ。

「ホントにハレンチなんだから・・・」
そう言いながらも、唯は睨んでいた目を逸らしていく。
リトはどちらかといえば小柄なほうだが、度重なるトラブルで鍛えられたのか程よく筋肉がついていた。
胸板はやや薄いがそれは贅肉が全くないためで、制服時には感じなかった逞しささえ覚えさせられる。
表面的には情けなくても心の底は優しくて頼りになる、リトらしい肉体。
初めて見る兄以外の男の身体を、唯は直視できなかった。

「脱いだぞ」
そう言われても、唯にはどうすることもできない。
再び主導権はリトへと移る。
リトは体温を直接感じたくて、体重を掛けないようにそっと唯に覆いかぶさる。
両肘で自分を支えながら、目を閉じて唯に口付ける。
すると唯が両手をリトの首に回してきた。
リトは自分を支えていた右手を唯の背に回して、もう少しだけ身体を落とす。
二人の身体がそっと触れあった。
「んっ・・・あ、・・・ちゅ・・・はぁ」
唯の唇から甘い吐息が漏れる。
それはキスのせいだけではない。
(結城君のカラダ、ちょっと硬くて・・・あったかい)
自分の身体もかなり熱くなっているはずなのに、リトはとても温かかった。


ふたりは唇を離すと見つめ合う。
もう一度唇の甘さを味わうのも悪くないが、そろそろ別の甘さが欲しい。
リトが頭の位置を下げていこうとすると、唯がギュっと抑え込んできた。
目を持ち上げて表情を窺うと、拗ねたような困ったような表情。
男のリトにはさっぱり分からないが、性器よりも胸を見られるほうが恥ずかしいという女の子もいるらしいから、唯も恥ずかしいのだろう。
「んむ―――」
リトは唯の首筋に口付けた。
ビクンと唯の身体が少し跳ねる。
細かく触れるだけでなく、少し強めに吸い付いてみる。
「あっ・・・、そんなの・・・」
口付けたまま鎖骨へと移動し、そこにも同じようにしてみる。
くすぐったいのか気持ちいいのか、唯は身動ぎしている。
リトの首に回されていたはずの手は、頭を撫でる様な位置に移動していた。
顔を上げると、白く美しい胸が目に飛び込んできた。

思わず息を呑む。
唯の胸はサイドは綺麗な丸みを帯びていて、頂点に向かうにつれて少し鋭く尖っていた。
十分なふくらみがあるのに、重力とは無縁であるかのようで張りがありそうだ。
乳輪は小さめで、色は鮮やかなピンクをした唇よりもさらに少し薄い。
神の意思が創ったとしか思えないような、まさに理想的なおっぱいだ。

「あっ、結城くん見ちゃ嫌っ」
唯はすぐに身体をよじって隠そうとするが、リトは先程口付けた鎖骨の辺りを押さえてしまう。
「どうして?こんなにきれいなのに」
「そんなこといわれたって・・・恥ずかしいものは恥ずかしいんだもん」
唯はあまりの恥ずかしさで口調まで変わってしまっていた。
上気した表情と少女の色香。
リトの配線のいくつかがショートしたのは、当然のことだった。
確認をとりもせずに唯のおっぱいにしゃぶりつく。
「ん、はむ・・ちゅ、ちゅ」
もう片方の乳房は、当然ながら揉みしだいていく。
掌に小さな突起の感触。
「ふぇっ!?あ、ち、ちょっと結城く・・・」
リトのあまりの勢いに困惑が生じたが、すぐに快感に取って代わられてしまう。
「あんっ・・・結城く、やさしく・・・はんっ!」
その声は熱とともに憂いを帯び、閉じられた瞳の目じりには涙が滲んでいる。

一体世界中の誰が、古手川唯のこんな声を、姿を想像できるだろうか。
セックスが特別なのはただ気持ちいいからだけじゃない。
愛する人が自分だけに与えてくれる、秘密の宝石達。
リトの興奮は高まるばかりだった。
乳輪を下から舐め上げ、先端の突起を音を立てて啜り、おっぱいをこね回した。
それは甘い味がした。
おっぱいはリトの手の動きに合わせて自在に形を変えたが、一瞬手を離すとすぐに元の形に戻る。
指が沈んでいきそうなほど柔らかいのに、少し力を強めに加えるとその弾力で押し返してきた。
リトがイジワルするたびに唯の身体は撓り、ビクッと震えた。
その味と感触と反応にリトはすっかり虜になり、赤ん坊のように戯れていた。

暫くするとようやく満足したのかリトが口を離した。
唯のおっぱいは唾液でべとべとになってしまっていた。


唯はまだ荒い息をしていたが、リトが顔を上げると乱れた呼吸のまま一気にまくしたてた。
「結城君の、、ヘンタイ!!いくら、ハレンチなことしてもいいって、言ったからって、
あんなとこ舐めたり、吸ったりするなんて!信じられない!」

(・・・はい?)
あまりの唯の剣幕にリトはキョトンとしてしまう。
確かにいきなり乳首にむしゃぶりついて弄り倒したのは少しやりすぎた感もあるけれど。
(エッチのときにおっぱいにキスするのって、普通じゃないのか?)
とりあえず弁明しないとここで終わりにされかねない。
それが唯の意思であっても、ここまできて終了ではリトからしたらあんまりというものだ。

「あの・・・さ、いきなりしたのは悪かったよ。ごめんな。
でも、その・・・こういうことってみんなしてると思うんだけど・・・」
「そんなこと言ったって騙されないわよ!」
唯はいつの間に呼吸を整えたのか、しっかりとした口調だ。
(そういや、古手川ってこういうことの知識どれくらいあるんだろ・・・)
リトだって実際にするのは初めてだが、そこは高校生の男だから本やらDVDやらである程度の知識はある。
しかし唯は?
そりゃあ女の子だって興味はあるだろうし、男よりは難しいのかもしれないがそういう物を手に入れることだってできるはず。
ただ、唯がエッチな本やDVDを手に入れる構図というものがリトには思い浮かばない。
(もしかして全く知らないんじゃ・・・)
そう思ったが、一から説明なんてできないし、どうしたものか・・・。
「今のは、えっと・・・準備なんだよ。俺たちが、なんつーか、結ばれるための」
「・・・だからってあんな風に・・・」
(いやらしい音を立てて・・・焦ったように夢中になって・・・)
さっきまでのリトを思い出し、唯の顔がまた一段と熱を帯びる。
「それに唯、めちゃくちゃ可愛かったし・・・」
リトが負けず劣らずの赤い顔をしてボソッと呟く。
「顔なんて見てなかったくせに・・・」
そうは言うが、唯は少し嬉しそうだ。
「・・・見てたよ。それに、可愛いって顔だけのことじゃないだろ?」
唯の喘ぎ声、敏感な反応。
これからしばらくは寝付くのに時間がかかりそうだ。

しかし、今のままではいつまで経っても眠れそうにない。
「唯・・・その、したい・・・」
耳まで真っ赤になる唯。
リトはじっと唯を見つめてくる。
既にもの凄く恥ずかしいことをしたけれど、この後のことは正直少し怖い。
でも、唯もリトにして欲しい。
素肌で触れ合うことでその気持ちはより強くなっていた。

「後ろ向いてて・・・」
「えっ!?・・・あ、ああ」
唯の言葉の意味を理解して後ろを向くリト。
シュルッと言う衣擦れの音にまた心臓が高鳴る。
(っと、俺も脱がないと)
ズボンのベルトをバックル部分だけはずして脱ぎ、トランクスも脱いで窮屈にしていた一物を開放してやる。
唯が声を掛けてくれるまで、一秒経つのがものすごく長く感じた。


「いいわよ。振り返っても・・・」
ようやくお許しが出てリトは振り返る。
唯は今度は胸を隠してはいなかった。
右足の脛の内側を左膝に当てるような体勢で横たわっていた。


滑らか。

身に纏ったものが何一つなくなった唯の印象がそれだった。
男のように角張った箇所はどこにもなく、透明感に満ちていた。
鼓動がいつの間にかゆっくりになっていた。
しかし胸を打つ強さが尋常ではない。ドキドキじゃない、バクバクだ。
あまりの美しさに、唯が触れてはいけないもののように思えてしまう。

「結城くん・・・。わたしに準備させて?」

唯が心情を見透かしたかのようにリトを導いてくれた。
唯からのお願いなら、リトは絶対に断らない。

「・・・綺麗だ、すごく」
リトは心の底からそう囁く。
唯は喉を優しく撫でられた猫のように目を細め、幸せそうに身を震わせてくれた。
「じゃあ、触るな・・・」
リトは唯の下腹部へと手を伸ばす。
そこは内腿でピッタリと塞がれていた。
「唯、ちょっと脚広げてくれ」
唯は無言のまま頬をさらに赤らめ、抗議するような視線を向けてくる。
準備させてと自分から言っておきながら、何と理不尽でそして愛おしい表情だろう。
「そうしてると、準備させてあげられないよ?」
困ったように微笑みながら、優しく言ってやる。
「絶対に・・・見ない?」
胸の方が恥ずかしいとか、そういう問題じゃなかったらしい。
「うーん、最終的にはちょっとは見ないと・・・かな」
「ちゃんとやさしく、してくれる?」
この問いには即答できる。
「約束する。絶対にやさしくするから」
リトが真剣な表情で晒す心の内は、いつだって唯の心を解きほぐす魔法だ。
その視線が、声色が、極上の安心感を与えてくれる。
それが唯にはものすごく嬉しいのに、ほんの少し悔しくもある。
だから、ほんの少しだけ脚を開いた。もちろん視線はあさっての方向に向けて。
「唯ってほんとに可愛いな」
そう言ってリトは頬にキスを落とした。
唯は驚いて視線を戻した。
「こ、こら。こんなときに何言ってるのよ・・・」
「世間一般ではこんなときだからこそ言うもんだぞ?」
「もう、知らないっ」
今度は身体ごと横向きになってしまった。
(あっちゃー)
何やってるんだか。

纏うものがなくなっても、唯の肢体がものすごく魅力的でも、このやりとりだけはやめられないらしい。
(だって、いちいち唯が可愛いからなぁ・・・)
身体だけでなく、性格だってリトにとって最高なのだ。

リトは一人顔を綻ばせるが、頭の中ではどうやって機嫌を直してもらおうかと考えていた。
と、考える必要などなかった。
リトは唯に倣って横向きに寝る。
「ちょっと身体浮かせてくれるか?」
もちろん本気で怒っているわけではないので、唯はすぐに言われたとおりにしてくれた。
リトは左手をその隙間にもぐりこませる。
「もういいよ」
唯が身体を下ろすと、すぐに背後から右手を回して抱きしめた。
「結城くん!?」
「何そんなに驚いてるんだよ。準備させるって約束だろ?」
唯は見られるのを恥ずかしがっているのだから、こんなに都合の良い体勢もないはずだ。 
リトはすべすべの肌の感触を愉しみながら、唯の秘部へ右手を下ろしていった。

「あっ・・・」
触れた瞬間、唯が微かに声を漏らす。
そこは温かくて、もう潤ってきていた。
(ちゃんと感じてくれてたんだ・・・)
リトはそれだけで嬉しい気持ちになる。その瞬間、唯が左手を握り締めてきてまたもや嬉しくなる。
「痛かったり怖かったりしたらすぐに言ってな・・・」
唯がコクッと首を振ったのを確認すると、ピッタリと閉じている淫裂を指の腹で上からそっと撫でてみる。
初めてだろうから、強い刺激を与えないように、慎重に。
「平気?」
唯がリトの手を握っているほうの手を軽く二度振った。
大丈夫、ということらしい。
「よかった」
ほっとするが、閉じている状態のそれを解してあげなければいけないのはリトにも分かる。
今度は中心に指を当てたまま、円を描くように動かしてみる。
唯の唇からは熱っぽい息が漏れていた。
リトはほんの少しだけ中指を侵入させてみる。
すると唯がまたも結んでいる左手を振った。
大丈夫なようなので、ゆっくりとそれを左右に動かし膣壁を少しずつ広げていく。
まだ入り口の段階だが、唯の身体は緊張と弛緩とを短時間で繰り返していた。
リトは指を少し立てて、もう少し奥へと入れてみる。
「あ、いたっ」
「ご、ごめん!痛かった?」
唯はふるふると首を振るが、声に出てしまっているのだから痛くなかったはずがない。
目を閉じてもう一度唯に心の中で謝る。
すると唯の髪の匂いが鼻腔をくすぐった。
高貴な花のような品があって、優しい香り。それが先走る気持ちを窘めてくれる。
(やさしく、やさしく・・・)
自分に言い聞かせながら、時間をかけて唯の中をそーっと掻き回す。
「・・・あ、んは・・・」
膣奥から愛液とクチュッというくぐもった音が漏れてきて、だいぶほぐれてきた感じがする。
指ももちろんだが、背中から感じるリトの心臓の音や温もりが、唯の身体を開かせていた。


(そろそろいいかな・・・)
指を抜く瞬間、まるで名残惜しむかのように唯にキュッと締め付けられた。
中指は透明な液体でヌメヌメと輝いていた。
その白い柔肌もほんのりと朱に染まっていた。

「唯、そろそろ・・・」
唯はリトの方へと身体を回転させて仰向けになる。
「でも、結城君の準備は・・・?」
そんなものが必要だなどとどうして思えるのだろう。
自分にどれほどの魅力があるのか唯はまるで理解していないのだ。
そしてリトはそのままでいて欲しいと心から思った。

「してくれるなら大歓迎だけど・・・」
リトのものは既に天に向かってはち切れんばかりにそそり立っていた。
「きゃっ」
唯は思わず悲鳴をあげてしまった。
(あんなおっきいのが、わたしのなかに・・・?)
ついマジマジと見つめてしまっていた。
「そんなに見られると恥ずかしいんだけど・・・」
言われてようやく気がついて唯はパッと視線をそらしてそこで気づく。
「結城君だって、わたしのいっぱい見たくせに・・・」
いたずらをとがめられた少女のような表情だった。
(下のほうは見てないけどな)
そう思ったが、リトの本能が口を噤ませた。
一秒でも早く唯とつながりたいから―――

リトは本能に支配され始めていた。
しかしリトが次に取った行動は、乱暴に唯の脚を押し広げることではなかった。
お互い初めてだから失敗したらどうしようとか、後ろ向きな気持ちを感じることもなかった。
まあ、失敗したら唯が全く必要のない責任を感じてしまいそうなので、うまくいくに越したことはないのだけれど。

リトがどんな唯も受け入れられると確信しているように、唯もきっと、どんな自分も受け止めてくれると信じている。
それがリトに僅かながらの冷静さを与えてくれていた。

リトが求めるのは、唯が怖い思いをしないこと。
そして溢れそうな自分の気持ちを、彼女の心に深く深く刻み付けること。
それが彼女の望みであり、そして自分の幸せだから。
肉体的な快感など二の次だった。


「キス、しよう?」
リトは唯に覆いかぶさると、うっすらと微笑んでそう言った。
その行為はついさっきまで特別なことだったのに、
リトがあまりにも自然にそう言うから唯は思わず笑ってしまった。
「おかしい?」
「うん、おかしいわよ」
唯はくすくす笑っている。
(さっきは似たような状況で”軽い”って怒ったのに・・・不思議なやつだなぁ)
リトも思わず笑顔になる。
唯は”二人がキスすること”が自然なことになっていくことが嬉しかった。


微笑みあいながら口付けを交わす。
リトはおっぱいにしてみたように、唯の唇を吸ってみたり自分の唇で挟むようにしたりしてみる。
ただし、あくまでもソフトにだ。
「んむ・・・ん」
「・・・ふむぅ、んちゅ・・・」
リトはその感触をじっくりと堪能して満足げにほんの少し距離をとる。
と、次の瞬間唯の顔がアップからどアップになったと思ったら唇を押し付けられた。
「ぅ!?・・・ん」
唯の方からしてきてくれるとは思っていなかったので、完全に不意をつかれた。
少し驚いたが、すぐにリトもキスに集中する。
「・・・ん、ちゅ・・・」
しかし唯のサプライズは二段構えだった。
唇の上下に僅かに開いた隙間に、ヌルッとした物が触れた。
唯の舌だ。
そう理解するまでに数瞬を要した。
口を開けて招き入れると、それを自分の舌で絡め取る。
あまりにも甘美な感触と熱さ。
「んぁっ・・・あむぅ・・・ん・・・ちゅ・・・んっ」
「・・・んむ、じゅる・・・」
激しく舌を絡ませ、唾液も交換してからようやく結合が解ける。

(なんか凄かった・・・)
細かな思考能力など完全に無くなってしまった。
唯の舌はその唇や肌と同じように柔らかかったがヌメヌメしていて、多少のザラザラ感も心地よかった。
ほんの少しのレモンの香りと甘酸っぱさに、脳髄が痺れていくようだった。

「結城くん・・・来て・・・」
いつの間にか唯が膝を立て、少しだが脚を広げスペースを作ってくれていた。
その表情からはもはや恐れも恥じらいも感じられなかった。
始めから唯はリトを待っていた。求めていたのだ。
それを抑え込んでいた羞恥心や恐れが、リトと触れ合っているうちに少しずつ取り払われ、
唯から求めた覚悟を決めるかのようなディープキスで完全に消滅した。

"裸"になった唯は、狂おしいほどに美しくて愛おしかった。

リトは唯の空けてくれた場所に身体を入れると、自身を膣口にあてがって照準を合わせた。
一つになるのに、これ以上のタイミングはもう二度と訪れないだろう。
「行くよ・・・」
ゆっくり、ゆっくりと唯の中へと潜っていく。
そこは先程までよりも更に蜜が溢れ出し熱さも増していたが、それでもキツさは半端ではなかった。
「んっ!!・・・くぅぅ」
そのキツさと唯の痛みはきっと比例しているのだろう。
目を閉じて唇をキュッと噛み締め、その両手は枕を握り締めていた。
(痛いよな・・・。ごめんな)
声に出すと強がるだろうから心の中で謝罪する。
ようやく半分まで入った。
「唯、平気か・・・?」
平気なわけなどないけれど、声を掛けずにはいられなかった。
「結城くんっ・・・」
目を閉じたままの唯の両手がリトを求めて宙を彷徨う。
本人は高く上げているつもりなのかもしれないが、それはリトの腰の辺りまでしか上がってこなかった。


「唯、好きだ」
その言葉は手を握り締めるまでの僅かな時間の唯の支えとなった。
リトは唯に負担をかけないようにそっと下半身でバランスを取ると、少し状態を傾けて両手を絡めてやる。
膣内は業火の責め苦にあっているだろうに唯は満足そうに微笑んでくれた。
暫くの間ゆっくりと深呼吸して。繋いだ左手を軽く振る。
「一気に来て・・・?」
唯の括約筋の力が緩んだのが分かった。
リトはその言葉通り、一気に最奥まで突き進んだ。
薄膜を無理矢理突き破る感触が、確かにあった。
「んっあ――ああああぅ!」
唯の口から今まで聞いたこともないほどの甲高い声が上がった。
「はあぁ・・・はあ・・・」
互いに何も考えられず、荒い息を繰り返す。

(全部、入った)
唯の中、深くまで埋まった自分を感じていた。
まだ動いてもいないのに背中から射精感が駆け上がってくるのを必死に抑える。
唯の中は信じられないほど熱くて、リトを絶対に離すまいと根本から亀頭までを断続的に刺激してきた。
「唯・・・俺たち、繋がれたよ・・・」
汗で額に張り付いてしまった唯の前髪をそっと撫でてやる。
「うんっ、・・・うん」
唯は痛みのためか嬉しさのためか、恐らく両方だろうが涙を大きな瞳いっぱいにためながらも健気にも微笑んでくれる。
リトはたまらなくなって目を閉じるとゆっくりと上体を倒して、そのままピッタリと抱きしめる。
今自分がどれほど感動していてどんなに幸せか、唯に伝わってくれるように願いながら。
「結城くん・・・」
「・・・ん?」
リトは体勢を変えずに聞き返す。
今唯の幸せそうな顔なんか見たら、自分も泣いてしまいそうだった。
「全然、足りないわ・・・」
「えっ!?」
耳元で聞こえた思いがけない言葉にリトは慌てて体を起こして唯の顔を覗き込む。
不満げな言葉や口調とは裏腹に、その表情は天使のように穏やかだった。
「わたし、まだ刻み付けてもらってないよ・・・?」

唯は最後までしっかりすることを求めてくれた。
涙を堪えることに集中しているうちに、射精感も何とか治まってきた。
今なら動けそうだ。


しかしそこでリトはようやく気づいた。
(また唯に導いてもらってるや・・・)
思い返せばさっきからずっとそうだった。
リトが呆けてしまったりどうしていいかわからなくなる度に、
エッチについてリトよりもずっと知識がない唯が導いてくれた。
(俺が唯のわがままをきいてるつもりだったのに・・・)
本当に主導権を握っていたのは、唯の方だった。
それなのに常にリトの心情を一番に考えて、恥ずかしいことも未知で怖いことも全て受け入れ続けてくれていたのだった。
そして今だって・・・。まだ痛みが残っているだろうに。


「あ、ありがとな・・・唯・・・」
「ゆ、結城くん?」
リトは感極まって泣いてしまった。
かっこ悪いけれど、もうどうしようもなかった。
「どうしたの?結城君」
「なんでもないから・・・」
そういって涙を拭いながらだけれどニカッと笑った。
唯の大好きな、リトの満面の笑顔・泣き笑いver.
(結城君、可愛い!!)
キューッと胸が締め付けられリトに対する想いが胸の中で一層激しく踊る。
そうしているうちにリトは涙を拭うと言った。

「じゃあ、等価交換な」
「?」
急に何を言い出すのだろう。
「俺は、今から唯に俺の全てを刻み付ける。これはもう、決まってること」
「え、ええ・・・」
改めて宣言されるとうれしいような恥ずかしいような気持ちになる。
「泣いて暴れようと、絶対に止まらない。唯優先主義はもうおしまい」
「唯優先主義・・・?」
「あーー、こっちの話・・・」
リトはポリポリと頬をかく。照れたときの癖らしい。
「とにかく、俺が今からするのはものすごく大きな事。だから、それに見合う要求を唯にもさせてあげる」
リトは要求される側なのに、ものすごく大きな期待を込めた目で見つめてくる。
「結城くんに刻みつけてほしいっていうのはわたしの要求なんだから、それで等価交換じゃないの?」
ごもっともな意見だが、それじゃあリトにとって意味がない。

なんだかんだ言ってはいるが、つまりはリトは唯に甘えて欲しいのだ。

(さっきまでいっぱいわがまま言ったのに。そんなやさしくされても困っちゃうな、・・・嬉しいケド)
導いてきたなどというという自覚が唯にはない。
リトが望んでくれることを無意識のうちに理解し、実行までしてしまうのは勉強会でも証明済みだ。
唯があまり棘のない目で睨んでくる。
しかしリトとしてはここは譲れない。絶対に唯に甘えてもらうんだ!
頑として譲る気配を見せない。
ララや唯に出会うまでは、リトだって結構頑固な性格だった、はず。

「じゃあ・・・」
唯がようやく要求してくれる気になったらしい。
「キス、して?」
この状況なら、当然ながらその要求は甘いものとなる。
リトにとってはまさに一石二鳥だ。
すぐに艶やかな唇にキスを落とし、5秒ほど触れてすぐに離れる。
「あっ・・・」
名残惜しそうでもあり不満そうでもある唯の反応もあえて気づかないフリをする。
そして、次の要求を待つ体勢に戻る。ちょっとしたイジワル。


「・・・もっと、深いのがいい」
リトが笑みを深める。
「さっきの気持ちよかったんだ」
「そ、そんなことっ・・・」
「あの後唯のアソコ、いっぱい潤ってたよ?」
カァッとハロゲンヒーターのように唯の顔が真っ赤になりそっぽを向こうとするが、すぐ近くにいるので顔を抑えられてしまう。
「んむっ、あっ・・・んくっ」
ちょっとだけ強引に、唯の唇を割って入る。
淫靡な水音が静かに響く。
「んむっ、ちゅっ・・・ちゅ・・・ゅい・・・ぷはっ」
「ちゅ・・・ちゅるっ、ゆーひふ・・・んんっ」
互いに息も絶え絶えになってようやく離れる。
二人の間にできた白銀の橋が切れ掛かったのでリトは慌ててそれを吸い込んだが、一部が唯の首元に落ちた。
唯はそれを咎めたりはしなかった。もう瞳がとろんとしている。
熱い唯の唾液を飲みこんで、リトも頭の中に白いもやがかかってしまった。
もう悠長にお願いを聞ける状態ではない。

挿入して大分時間が経ったことと、今のキスで潤滑油が増してくれたことでもう動いても大丈夫そうだった。
もう一度両手を重ねて。
「唯、動くよ」
そう告げると、リトは腰をスライドさせる。
腰を引くたびに唯の中はキュッと締め付けて絡み付いてくる。
「あんっ、結城くん・・・ぁは」
リトは目を閉じて、唯を見ないようにしていた。
唯のそんなハレンチな顔を見たら、規則正しく揺れるおっぱいを見てしまったら、
それだけであっという間に達するのが目に見えているから。
ゆっくり、ゆっくりと打ち付ける。
唯をいたわりたい気持ちももちろんだが、気持ちよすぎて激しくしたらすぐにでもイってしまいそうだった。
「・・・はぅ・・・んあっ」
(やっぱり、まだ痛い・・・)
リトが動くたびに焼かれるような痛みが唯を襲う。
でも、快感の予兆は確かにある。
頭の中に真っ白な小さな点があるような感覚。

リトは今度は少し円を描くように打ち付けてみる。
「くっ・・・うあ・・・唯っ」

あまりの快感に、普段なら出ないような声が出てしまうのは男だって同じ。

(結城君、気持ちいいんだ・・・)
唯の喘ぎがリトを高ぶらせるように、リトの快感は唯を高ぶらせる。
膣が痺れてきて、頭の中の白い点が拡大していく。

「抱いて、結城くんっ」
リトはすぐに望みどおりにしてやる。
「・・・あっ、結城くん、それ・・・ダメェ」
ダメといわれてもリトは言われたとおりに抱きしめただけで特にイジワルをしたわけではない。
二人の身体がピッタリと密着したので、リトの下腹部で唯のクリトリスが刺激されたのだ。
(なんなの、コレ・・・?カラダがピクピクって・・・)
痛みと、痺れと、快感が同時に打ち寄せる感覚に唯は戸惑った。
リトの背中を抱きしめる腕に力が篭る。


「んっ・・・あ、ダメェ・・・ああん」
優しくしたいのに、唯の滑らかな肌に指を埋めるたびに、ますます艶やかになっていく声を耳元で聞くたびに、
理性は抗うことの出来ない波に押し流されていった。
リトの腰を打ち付けるスピードが速くなっていく。もうそんなに保てそうにない。
「唯、唯・・・」
唯は声を挙げるのが恥ずかしいのか自身の指で唇を塞いでしまう。
「・・・んぅ、・・・ちゅ、ちゅ・・・ふぅん・・・ちゅる・・・」
キスをするときのような可愛らしい音に、リトは意図的に見ないようにしていた唯の顔を見下ろしてしまった。
その扇情的な表情と、まるで自分が指フェラをさせているような錯覚に痺れが走る。
身体の下では唯のおっぱいが擦れて何ともいえない感触を提供していた。
そんな状況で、初めてのリトが耐えられるわけがなかった。

「・・・唯、俺・・・もう」
限界が近づき、リトは唯の中から自身を引き抜こうとする。
「あっ、ダメ!」
唯は両脚をリトの腰に絡めて出られなくしてしまった。
「ちょ、ちょっと唯!?」
「・・・やくそく。ちゃんと・・・あうっ」
(いや、刻みつけるったってこれはさすがに・・・)
まずい、そう思ったが腰の動きはちっともとめられなかった。
「あっあん・・・お、ねがい・・・ああっ!」
唯が潤んだ瞳でリトを見つめていた。
抽送する毎に、唯に絞り上げられていく。
(もうダメだ・・・)
愛情と欲望が同時にリミッターを振り切った。
そして唯の最奥に突き刺した瞬間―――

「あ・・・やああん!ふぁあっ!」
ドクッドクッドクッ
一度二度三度。
留まることのない欲望を唯の中へと吐き出す。
こんなの知らない。
今まで味わったことがない、意識が飛んでしまうほどの気持ちよさ。
ようやく飛び出すことを許された分身たちが、唯の膣内を駆け上がっていった。
ちゅるんっという音とともに、一物を引き抜く。

「あふっ・・・はあぁ・・・結城くん・・・」
唯が心から満たされた表情で名を呼び、口付けを求めてくれる。
くどいようだが本当に可愛すぎる。
すぐにでも応じたかったが、男としてはどうしても確認したいことが・・・
「その・・・唯、大丈夫か?」
「うん・・・平気。・・・痛かったけど、結城君がギュッてしてくれて・・・
愛されてる感じがして、すごく嬉しかったわ・・・」
それは良かった。
ちなみにリトはよつんばいのような状態で、唯は身体を寝かせたままだ。
「・・・それに、最後のほうは・・・少し気持ちよかった・・・」
顔を真っ赤にして、モジモジしながら打ち明けてくれる。


ちくしょう、なんて可愛いんだ。
それに気持ちよかったのなら本当に良かった。男としては何より嬉しい言葉だ。
なんだけど・・・。
「あの・・・それは俺としても嬉しいんだけど、その、膣内に出しちゃって・・・」
目の前にある愛しい人の顔が、すぐにムッとした表情になる。
こんなに喜怒哀楽を見せてくれるのも、リトに対してだけ。

「結城君ってホントにデリカシーがないのね!教育的指導が必要だわ!」
それはそうなのだが、そこは男としてはどうしても気になるわけで。
唯との子供ならもちろん欲しいし、もしそうなれば覚悟を決めるけれど、
高校生でパパになるのはちょっと、いや、ものすごく大変なことだ。
「唯・・・その、ごめん・・・。どっちにしろ準備してなかった俺が悪いんだし、もし何かあっても、唯となら・・・」
最初はアタフタとしていたが、後半部分ははっきりとした口調でそう言う。

「・・・ふふっ。大丈夫よ。今日は安全な日なの」
「ホ、ホントか!?」
つい声が弾んでしまった。
「むー。今唯とならって言ったくせに・・・」
「いや、その・・・それはそうなんだけど・・・」

ぷいっとそっぽを向かれてしまう。
これで今日何度目だろう。
「唯・・・機嫌直してくれよ」
「・・・」
怒っている理由が理由だから、今回ばかりはリトも参った。
そこで怒ってくれること自体は、リトとしても凄く嬉しいのだが。
「等価交換・・・」
「はい?」
「さっきの二つのお願いは帳消し!さらに結城君の借りは増えたんだからね!」
唯なりの仲直りの申し出。
こんなに幸せな借りなら、いくら増えたって構わない。
「ん、わかった」
リトは身体を起こすと、唯の身体が冷えてしまわないようにとタオルケットをとるために後ろを向く。
「キャッ!?」
唯が突然悲鳴をあげた。
「へっ?」
「・・・人が真剣に話をしてるのに、ハレンチすぎるわ!!」
唯は両手で両目を塞いでしまっている。
一体なんだろう。
確かに余韻を愉しむこともせずにあんなことを聞いたのは怒られて当然だが、その後についてはできるだけ誠実に対応したつもりである。
指の隙間からチラリとそこに視線を向けられ、リトはようやく気づいたのだった。

(全っ然萎えてねぇ!?)
リトのそれは熱を保ったままで、血管も浮き出ていた。

確かにリトはヤリたい盛りの高校生で、大好きな女の子と一悶着どころか何悶着も経た末にようやく通じ合えたのだ。
さらに、唯のカラダは最高にリト好みである。
その可愛らしいしぐさは、琴線に触れるどころかジャンジャン掻き鳴らしている。
人生でダントツ一位の射精を経験したといっても一度くらいで萎えないのは当然といえる。
しかし、あの話―――つまり子供ができるのではないかという問題は、男にとって冷や汗どころの騒ぎではない。
いくら相手を愛していようと、どうしてもそれとこれとは別問題なのである。
肝をとことんまで冷やし、デリカシーがないと怒られて、それでも萎えないとはどういうことか。
カラダも心も、全てが唯を求めているとしか言いようがなかった。


今までの経験から、ここで謝るのは得策ではないとリトは判断した。
思い上がりかもしれないが、唯だってしたいはず・・・そんな気がしていた。
素直に自分の思っていることを伝えよう。
もう、完全なる敗北を認めてしまおう。
とことんまで唯に甘えて、溺れてしまえばいい。

「唯」「結城くん」
二人の声がものの見事に重なった。
譲り合ったりしなくてもお互いの思いは一緒だと、もう確信していた。
膝立ちの体勢のリトに唯の身体がに引き寄せられていき、両者の額がぶつかる。
「「もう一度」唯が欲し」
”い”までは、言わせて貰えなかった。

強く押し付けられてくる唯の唇。
それを受け止めると、今度はすぐにリトのほうから舌を伸ばしていく。
「んっ、あ・・・ちゅるっ・・・んんぅ!」
いきなりの深いキス。
もうレモンの香りはしない。
だからこそ、蕩けるような唯の甘さのみを味わえる。
「・・・ちゅぷ・・・んぁ、結城くん・・・」
すっかり紅潮した顔で唯が見つめてくる。
その懇願の色が宿った表情は、どんな手を使ってでもまた見たいと思わせるのに十分なものだ。
「今度は・・・最初からギュッてして欲しい・・・」
もう可愛すぎてニヤけることすら出来ない。
両手を後ろにつき、ベッドの上に胡坐をかく体勢に移る。
「おいで・・・」
余裕のあるような台詞だが、実際にはそんなものはない。
とにかく必死に意識してそういう態度を取っていないと、我を忘れて彼女を壊してしまいそうだった。

唯はリトを跨ぐかたちになり、両手を肩に乗せてきた。
「ゆっくりでいいから、そのまま腰落とせる・・・?」
恥ずかしそうだが拒んだりはしない。
男根を持ったリトの右手に自分の左手を重ねて、そっと秘裂にあてがう。
「あっ・・・」
先端が熱く濡れた膣に触れた瞬間、唯が悦びに打ち震えるかのような切ない声を挙げてくれる。
(唯が導いてくれてる・・・)
そのことがリトの熱を昂ぶらせてゆく。
自分が導いてあげたい、甘えて欲しいと思うのに、唯の潜在意識的なリードを感じるたびに惹きつけられて行く。
そのいじらしさに、リトの心は完全に支配されていた。
本当にままならない。

「ん、くふぅ・・・ああっ!」
膜を破ってから一時間と経っていないのに、さほど抵抗なく唯の中へと入っていった。
「・・・ハァ・・・はいった、結城君が・・・来てくれたよぉ・・・」
「・・・ああ、唯の中信じられないくらい気持ちいいよ・・・」
本当に気持ちよすぎる。
膣内は唯の吐息にあわせてギュゥっと絡み付いてきて、侵入時の抵抗の少なさが嘘のようだ。
まさに手厚い歓迎である。
身体をやや倒しているリトを求めて、唯がのしかかってくる。
「ああっ!!」
唯が嬌声を上げた。


「痛いのか!?頼むから無理だけはしないでくれな・・・」
いくら二人の相性が良くてもまだ二回目だ。
一度じゃ膜が破れない女性もいるらしいし、痛みが完全になくなるまでにはしばらくかかるはずだ。
身体を預けてきた唯を受け止めて、様子を窺う。
唯は荒い呼吸とともにピクピク小刻みに震えていた。
「平気・・・だけど、しばらくこうさせて・・・?」
リトはすぐに背中に腕を回して抱きしめてやる。
「あっ・・・くすぐったいけど、気持ちいい・・・」
唯が落ち着くまで、大好きな長く美しい黒髪に口付けを繰り返す。
息が少し苦しくなったので、ゆっくりと鼻から空気を吸い込んでみる。
「やだっ・・・匂いなんかかがないでよ」
花のような髪の匂いとさわやかな甘さの唯自身の香り。
サラリとした汗の匂いも、清涼感すら覚えるほどだ。
唯には男を昂ぶらせる要素と同じ分だけ、癒しの成分が含まれているようだ。
アロマテラピーなんてメじゃない。
「・・・汗かいてるのに・・・」
そうは言いながらも、リトから離れようとはしない。
「すごくいい匂いがする」
「結城くんのヘンタイ・・・」
小声でゴニョゴニョと言うのがまた可愛らしい。

「もう痛くない?」
リトが額をあわせながら聞いてくる。
「最初から痛くなんてないわよ・・・」
「へッ!?」
だってさっきあんな苦しそうな声・・・
「・・・その、この格好だと凄く深くて・・・奥が擦れて・・・」
リトの物は唯の中で反り返らんばかりに存在を主張している。
それが唯のスポットを刺激したらしい。
恥ずかしそうに下を向きながら、弱点を晒してしまう唯。
「俺、唯のそういうとこ好きだな・・・」
恋人同士のコトの最中なのに、少年のような声で話し出すリト。
「なによ・・・そういうとこって」
「恥ずかしがるくせに、そうやって墓穴掘るとこ」
「っ!!」
唯はハッとした表情で息を呑むと、両手で顔を覆ってしまう。
他人のことは良い点も悪い点もすぐに気づけるが、自分のことはなかなか分からないもの。
微かに自覚していた自らの欠点(リトからしたらそこは美点なのだが)を指摘され、
ただでさえ真っ赤だった顔がりんご飴のようになってしまう。

「結城くんのイジワル・・・」

その半泣きの声だけで、天にも昇る気持ちになる。
リトは決してSではないが、これにときめかない人間はいない。
「ごめん」
謝罪を口にして、頬に口付ける。
「また、借り増やしちゃったかな?」
その言葉に唯が反応してくれた。
「・・・今のはものすごく大きいからね!・・・一生かけて償ってもらうんだから・・・」
「・・・そんなに?」
オドけた調子で聞き返すが、もういいかげんヤバい。


「唯・・・何でもいいから言ってくれ。そろそろ限界・・・」
崩壊しそうだ。
「結城くんの、好きなようにして・・・?」
「っ!」

この期に及んでも唯のお願いはやっぱりリトを導くものだった。
「ギュってしてくれれば、何したっていいよ・・・。
キスだって・・・おっぱいだって・・・好きなだけしていいよ・・・?」
「唯・・・」
唯はいつの間にか健康的な美しさを取り戻していた。
もともと美しかった黒髪は、光を吸収したかのようにきらきらと輝いて見えた。
こけていた頬は絶妙なぷにぷに感を取り戻し、柔らかな肌は熱いのに瑞々しかった。
まるでリトから養分を吸収したかのようだ。

「結城くんなら・・・どこ触られても気持ちいいの・・・。
結城くんだから・・・乱暴にされたって構わないの・・・。
ごめんね。・・・わたしハレンチだね・・・」
唯の表情は柔らかな笑顔。
それは自嘲の表情ではなく、そんな自分を受け入れたものだった。
「そんなこと言うと俺、溺れちゃうよ・・・?」
「・・・いいよ。だって、それが望みなんだもの・・・」
「唯っ!!」
リトだけの天使を前に、愛しさのダムはついに崩壊した。

本能のまま、乱暴に唯を打ち付ける。
「きゃうっ!・・・やんっ、結城くん・・・いきなり・・・」
長い黒髪を振り乱して、唯の身体がリトの上で弾む。
結合部からははやくもグチュグチュと音が響いていた。
「深いよおっ!・・・奥・・・奥が、あん!!」
唯の爪がリトの背中にガリッと傷を作る。
奥は唯の弱点とはいえ、激しく突かれたことなどない。
痛みを伴って当然だ。
リトは唯の胸を激しくこねるように揉みしだく。
親指と人差し指で先端を何度も挟みあげる。
膣の痛みを和らげるためなんて考えちゃいない。本能の赴くままに。

(あの優しい結城君が・・・私を求めて、こんなに乱暴に・・・)
そう思うだけで、唯もどんどん開放されていく。
リトに触れられたところからどんどん身体は熱くなっていく。
「あっ・・・おっぱい気持ちぃ・・・もっとっ」
ぐちゅっ、ずちゅっ
二人の結合の淫らさを示す卑猥な音が響いていた。
さっきまでの初々しさなど消えうせてしまった、激しいセックス。
リトも唯も快感を貪欲にむさぼっている。
「・・・ジュル・・・ちゅっぷ、レロ」
激しく息を吹きかけ、吸い上げ、舌先を尖らせて乳首を舐めまわす。
その豊満な胸を支えるのにはかなりの負担がかかるのではないかと思ってしまうほど
細く括れた腰を強く掴んで、上へ上へと突き上げる。
「くぅぅ!・・・あっあっあっ!」
今度は乳首を甘噛みしてやる。
「やぅ・・・か、かんじゃ・・・らめっ」
唯の振動の幅が、だんだん大きくなってきていた。


「あ、あ・・・あっ!やあん。声出ちゃうの恥ずかしい・・・結城くんっ塞いでぇ」
唯が発する声の意味をリトが理解しているかは怪しい。
しかしそろそろ唯の唇が、舌が恋しくなってきていたのだろう。
すぐに唯の望みは満たされた。
結合部はこの間も激しく犯されているのに、リトの舌はどこかやさしい。
上から下へと歯列を確認するように舐め、奥にそっと侵入して唯の舌を絡め取る。
「んちゅ・・・ちゅる、あっ・・・あむっ、あはぁっ・・・結城くん・・・好きぃ」

ようやく聞けた―――唯からのその言葉。
それは獣と化したリトの脳の最深部にまでしっかりと届いた。

「唯・・・俺も好き・・・。ずっと好きだ・・・」
太陽のように眩しくて、温かくて、優しい微笑み。
唯を惹きつけてやまない、リトという名の恒星。
「結城くん・・・嬉しい」
満面の笑顔をリトに返す。
こんな表情を自然に見せられるようになったのも、リトのお陰。
唯はリトへと吸い寄せられる。

(ああ、いいな・・・この感じ)
獣のようなリトも悪くなかったが、優しいリトが唯にとってはやはり一番だった。
リトだけがくれる安心感、満足感、そして責任感とでも言おうか、頑張らなきゃという気持ち。
リトは唯の額に、頬に、瞼に、鼻頭に、そして唇にとびっきりの愛情を込めてキスを落としてくれた。
想いで、身体で、やさしく貫かれて、全力で愛してくれるリトを全身で感じる。
痺れてくる・・・。心も、カラダも。

「んぁ・・・くふぅ・・・あっあん」
(何・・・?何かが来るよぉっ・・・結城くん、助けてっ)
「ん!ちゅ・・・ちゅ・・・あっ結城、くぅん・・・わた、し・・・あふ!」
もうキスをしていても溢れてくる声を止めることなど出来ない。
唯の唇の端に美しい黒髪の毛先がかかり、なんともエロティックな表情だった。
リトはたまらなくなって身体を45度に倒し、尻に力を入れ深く深く突き上げる。
「んんっ!・・・唯、唯!」
白き命たちが尿道を駆け上がってくる。
唯の膣内でリトが膨張したのが分かる。
「来てっ!結城くん!・・・わたしがおかしくなっちゃう前に!」
(唯もイキそうなんだ・・・)
何とかイカせてあげたい。
その想いだけで、歯を食いしばって一秒でも長く射精を食い止める。
でももう限界だ。あと数度唯を突いたら出してしまう。
「・・・おかしくなってよ。おかしくなったって好きだよ・・・」
「あっ・・・ダメェ!!そんな風に言っちゃダメェ!!」
蜜穴がリトをキュキュッと締め上げてくる。
「唯・・・俺だけの唯!俺を全部受け止めてほしい!」
「結城くんっ!ふぁああっ!!ああああん!!」


二人はキツく抱きしめあい、同時に絶頂を迎えた。
ハアッ!ハアッ!
二回目だというのに一回目をはるかに凌ぐ量の白濁液が唯の中を駆け上がっていった。
頭の中は濁りのない真っ白で、何も考えられない。
そしてそれは初めて絶頂を迎えた唯も同じだった。
まだ膣内はリトを搾り取ろうと脈動を繰り返していて、唯自身の痙攣もなかなか治まらないようだった。
リトは唯の両頬を優しく包むと、息苦しさにも構わず深く深く口付けた。


「んんっ・・・はあっ・・・凄かった・・・」
まだ夢の中にいるかのような唯の声が、やけに遠くから聞こえたように感じた。
「結城くんにたくさん愛されて・・・いっぱい刻み付けられて。わたし、全部結城くんのものになっちゃった・・・」
「うん・・・。でも、俺だって全部唯のものだよ」
そう返すと、唯は満開の花のような笑顔を見せてくれた。
「・・・等価交換?」
「・・・いや、違うな」
「?」
唯がどういうことかと覗き込んでくる。
「俺の方が、だいぶ軽い。唯に支えられてばっかりでさ・・・」
そこでリトは真剣な表情になる。
「俺、いつか唯にふさわしい男になるから。唯がもっと頼れる、自慢できる、強い男になって見せるから」
決意に満ちた声でそう宣言する。
ところが唯はきょとんとした表情のまま、ボーッとリトを見ている。
「・・・唯?」
「ふふっ・・・くすくす。結城君ってカワイイわね!」
「なっ!?」
人が男らしく宣言をしたというのにカワイイッって、なんじゃそりゃ。
「おい、どういうことだよ?」
「知らない」
「知らないって、そんなわけねーだろ!教えろよ」
「おやすみっ結城君」
タオルケットで身を包むと、枕にポフっと顔を埋めてさっさと横になってしまう。

(ちくしょう、そっちがその気なら・・・こっちは帰ったフリ作戦だ)
無言のままベッドを降り、廊下に出る。
もちろん本気で帰る気などないけれど、意地っ張りな唯もこうすれば放っておけないはず。
(俺が思うに、唯には甘えん坊の資質がある!
今のうちからこうしてそれを引き出してやれば、いずれ頼れる男になったときには可愛い表情見放題だぜ!)

今か今かと唯が呼びに来るのを待つ。
3分経過。
(遅い・・・)
5分経過。
(おいおい、まさかもう寝ちゃったんじゃ・・・)
ドアを少しだけ開けてみる。
「結城君」
(あ、起きてた)
「廊下、寒いでしょ?身体冷えちゃうからこっちに来なさい」
(・・・服着てなかった。アホか俺は)


ベッドに戻ると、唯は巻きつけていたタオルケットをリトの側だけ解いてくれる。
一緒に入れ、ということらしい。
少しためらいがちにタオルケットを持ち上げ、中に滑り込む。
月明かりに一瞬だけ照らされた、真っ白な背中にまたどきりとする。
唯はリトに背を向けて横になっている。

もちろん唯はリトを拒んでいるわけではないが、胸に顔をうずめて甘えるのも恥ずかしい。
一方リトは、こんなときにどうすればいいかなど全く分からないので、仰向けのまま気をつけ状態で固まってしまう。
(もう、なんでもっと近くに来てくれないのよ・・・結城君のバカッ!)
微妙な距離感。
想いはもう重なり合ったのに、不器用が故になんともぎこちない両者。

「ん"んっ!」
唯がワザとらしく咳払いをする。
リトはようやくすべきことに気づいて近くによると、肘枕をして唯に寄り添う。
一日ももう終わろうとしているのにまったく艶が衰えないその黒髪を梳いたり、毛先を指先でつまんで弾いてみる。
それだけリトの目は満足感で細められ、唯は幸福に満ちた吐息を漏らす。
重なり合った余韻を、ようやく愉しむ二人。
「結城君って髪の毛触るの好きなの?」
リトがいつまでも飽きずに触れてくるので疑問に思ったのだろう。
「んー、わかんない。でも唯の髪はすげえ好き。触れてるだけで気持ちいいから」
「わたしも、結城君に触られるのす・・・きらいじゃないわ・・・」
「・・・ははっ」
変なところで意地っ張りな唯に思わず笑みが漏れる。
唯の静かな吐息を心地よく感じながら、リトは優しく髪を撫で続けた。

「なあ・・・唯・・・」
「・・・ん?」
急にリトの声に真剣味が増したので、唯は少し身構えてしまう。
「たまにでいいから・・・俺に甘えてくれ、な?」
真面目な表情でリトは想いを言の葉にのせる。
「俺の前では、何も無理しなくていいから。
愚痴ったっていいし、わがまま言ったっていい。
・・・つか、唯のわがままだったら、嬉しいし・・・」
少しも恥じることなく、リトは優しい音色を奏で続ける。
「だからさ、二人っきりのときだけ・・・それも毎回じゃなくたっていいんだ。
一週間に一度でもいいからその、俺に・・・甘えて欲しいんだ」
「結城君・・・」
唯がゆっくりとこちらを振り返る。
心臓が止まるかと思った。
だって唯は本場イタリアの画家たちでも誰も描けない聖母のような微笑を浮かべていたから。
そしてそのままリトの胸に顔を埋め・・・ると思いきや、その直前でストップして俯いてしまう。
(俺に甘えるのって、そんなに抵抗あるのかな・・・)
ちょっと、いやかなりショックを受けているリトに耳に唯の声が届いた。


「甘えるの・・・たまにしかダメなの・・・?」
「へっ!?」
今なんとおっしゃいました・・・?
「結城君はわたしにいっぱい借りがあるのに、一週間に一度しか・・・?」
甘えと照れとが絶妙にミックスされた唯の声。
そんなのを潤んだ瞳の上目遣いとともに発せられたらたまったもんじゃない。
「いいいや、唯サンがお望みでありまするなら毎日でも!」
今日は周波数が次から次に変化して本当に心臓に良くない。

「じゃあ、約束・・・」
そう言うと唯は左手を伸ばしてくる。
なんで左手?と思いながらもリトも左手を出して小指を伸ばす。
すると唯が不満げな表情でフルフルと首を振った。
そしてキュッとそれを握り締めてくる。
(ああ、そっか・・・)
リトはしっかりと唯の手を握り返すと出来る限りの微笑みを返して。
そっと繋いだ手を振った。
一回、二回。
それは今日、二人の間に誕生した秘密の合図。
にっこりと笑い合うと唇を重ね合って、静かに眠りにつく―――
はずだったが。

ぐううー きゅうー

キョトンとして顔を見合わせる。
想いは通じ合い、愛欲は満たされた。
そうなると睡眠欲が沸いてくるものだが、二人に降りかかってきたのは食欲だった。
思い出してみると、互いに朝から何も食べていない。
「ゆ、結城君、あなたはどこまでデリカシーが・・・」
「いや、今唯のお腹も鳴ってたよ」
「鳴ってないわ!」
「いや、鳴って・・・」
「鳴ってないの!」
「は、はい・・・。すみません」
やっぱり頭が上がらないリトだったが、それでも良かった。
これから先何年だって、こうしていられたらいいと心から願った。

時刻は9時をとうに回っていた。いつ誰が帰宅してもおかしくない時間だ。
「そういえば、今日ご家族は?」
「お父さんは出張。お母さんは学生時代の友達と旅行。お兄ちゃんは・・・恋人の家」
ってことは・・・誰もいないらしい。
そういうことなら一つ唯に手料理をご馳走してあげよう。
「台所借りていいか?俺何か作るよ。といっても簡単なのしか出来ないけどな」
「えっ?そんな、いいわよ。わたしするから」
「まあそう言わずに。今は美柑にまかせっきりだけど、そこそこ料理できるんだぜ?」
そういうとさっさと制服を身に着けるリト。
「じゃあゆっくり待っててな。服は着なくてもいいぞ?」
「ば、ばかっ!わたしそんなハレンチじゃないんだから!」
にっこり笑うとリトは部屋を出て行った。


自室に一人残された唯は身体を起こすと、ゆっくりと部屋の中を見回してみた。
昨日までとはまるで違って、全てが鮮やかに色づき輝いて見えた。
シーツにぱったりと顔からダイブしてみた。
悲しみの涙でなくうれし涙で満たされたその海は、リトの陽だまりのような匂いがした。


ねえ、結城君?
あなたはわたしにふさわしくなりたいって言ってくれたけれど、わたしはそんなことどうでもいいの。
あなたに出逢えて、わたしは自分の中にわたしも知らない感情がたくさんあることを教えてもらえたから。
あなたに出逢えなければ、わたしはずっと規律だけを守って日々をすごして、
他人を枠にはめることが天命だと信じながら、感情のほとんど伴わない、彩のない人生を歩んでいたと思う。

だから、あなたを好きになってよかった。
胸がドキドキして、あなたしか考えられなくなって、明日が待ち遠しくて。
いっぱい苦しい思いもしたしいっぱい泣いたけれど、いつかあなたに恋をしたことを良かったと思える日がきっと来ていたって分かるの。
ホントよ?

でもあなたはわたしに愛することを、そして愛されることすらも教えてくれたんだ。
胸がキューってなって、優しくあなたに包まれて、頭も身体も蕩けちゃいそうで。
そして、幸せにしてくれるって、約束してくれた。

でもね。
わたしはあなたにずっと輝いていてほしいんだ。
あなたは太陽だから。
優しくみんなを照らしてくれる、包んでくれる。
みんな助けられてるの。あなたに。
だけど、わたしは欲張りでわがままだから時々独り占めしたくなっちゃうの。
だからその時だけは、わたしだけを見てくれたら、ね。
それだけで頑張れるんだ。
あなたがいるから、わたしは輝けるんだよ?

わたしはずっと、あなただけを見てるから。

優しい月明かりに照らされた部屋の中で、唯はそっと呟いた。
「結城君・・・大好き―――」