※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

外は雷と大雨
空がピカっと光る度に、ぬいぐるみを抱きしめる腕に力がこもる
唯は雷が苦手だった。小さい頃からずっと
小さい時、こんな時いつもそばにいてくれたのは遊
震える体を抱きしめてくれて、一緒に寝てくれて
だけど、高校生にもなってそんな事言えるはずもなく
唯は一人、ベッドの上で小さくなっていた
「はぁ…こんな時…そばにいてくれたらな」
唯はリトを想い浮かべていた
唯にとって一番そばにいて欲しい存在であり、誰よりも一緒にいて欲しいと願う存在
「結城くん…私を一人にしないで…声だけでも聞かせて…」
雷の影響からか、いつになく弱気な唯
唯は膝を屈めると、ギュッとぬいぐるみを抱きしめた
(結城くん…)
その時、部屋のドアがノックされる
「唯、いるか?」
「お、お兄ちゃん!?」
唯は俯いていた顔を上げるとドアを開けた
部屋の前にはニヤニヤと笑みを浮かべている遊の姿
「な、何よ?」
一人慌てた様子の妹に遊は笑みを深くした
「お前、相変わらず雷苦手なんだな?」
「べ、別にいいでしょそんな事っ!」
つい強がって遊からそっぽを向く唯
遊はそんな唯に苦笑すると、手に持っていた受話器を唯に差し出す
「え?電話?誰から…」
「お前の彼氏から電話だよ。いいヤツじゃん?ちゃんとお前の事心配してくれてさ」
唯は目を丸くした
雷が怖いなんて一度も話した事はない
「結城……くんが?ウソ…」
ますます顔をにやけさせる遊の手から受話器を奪い取ると、唯は急いでドアを閉めた
ベッドの上に戻り、ジッと受話器の向こうのリトの顔を思い浮かべる
(私の事心配してくれて…)
話した事がなくてもちゃんとわかってくれる
何て言ってくれるんだろう?
私を想って家まで行くと言ってくれるの?大丈夫になるまでずっと声を聞かせてくれるの?
唯の頭の中は、妄想が駆け巡る
逸る気持ちを抑える様に唯は一度深呼吸をした
「も、もしもし?」
「あ!唯?」
結城くんの声だ!
唯の中でうれしさと安心感が生まれる
自然とやわらかくなる顔
「何なの?こんな時間に」
だけど、気持ちとは裏腹にその声はいつもと同じ
「えっと、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ…」
「聞きたい事?」
ひょっとして本当に────
受話器を握りしめる手に力がこもる
「な、何?」
「あのさ…、今日の宿題ってどこだっけ?」
「え?」
「ほら、今日、数学の宿題出たろ?あれ、何ページか忘れちゃってさ」
「……」
「あれ?もしもし?」
唯はリトに聞かせる様に溜め息をもらす
「何だよ?」
「……ララさんにでも聞けば?」
「え?ちょ…」
唯はリトの返事も待たずに電話を切ってしまった

「ったく、何なんだよ唯のヤツ…」
突然電話を切られたリトはワケがわからず、受話器に向かって文句を言っていた
確かに唯の言うとおり、わからなければララに聞けばいいだけの話し
リトだって最初からわかっている
だけど、それをわかっていても唯に電話をした理由は────
リトはやり終えた宿題の上に受話器を置くと、頭の後ろで手を組んだ
「ま、あの調子だと大丈夫みたいだな」
唯が雷が怖いなんて事はもちろんリトは知らない
知らないけれど、外の荒れ具合にリトなりに心配したのだが────

唯はベッドの上でジッと受話器を見つめていた
あれから十数分
リトからは一向に電話する気配がない
「何してるのよ…」
あんな事を言ったけど、本当はリトの声が聞きたいし、すぐにでも飛んで来てほしい
だけど、そんな事を言えるはずもなく
唯はリトを待ち続けた
ちょっと言い過ぎてしまった?
本当の事が言えなくても、もっと違う形で……
外はますます激しさを増し、さっきから雷が鳴り響いている
「うぅ…結城くん……もぉ、何してるのよ!?」
受話器に文句を言っても仕方がない
だけど、じっとしてなんかいられない
窓の外が光る度にどうにかなっちゃいそうだ
唯はギュッと自分の体を抱きしめた
あの時、約束してくれたのに
寂しい時、不安な時は、そばにいて抱きしめてくれるって言ったのに
「結城くんのバカ…」
小さくそう呟いた時、受話器から着信を知らせる赤や青の光が灯る
「あ…」
唯はすぐにボタンを押すと耳に受話器を当てた
「もしもし?」
「……えっと結城だけど」
リトの声
唯は唇を噛み締めた
「遅い!!何してたのよ!?」
「何でそんな怒るんだよ?」
「知らないわよ!!!」
うれしさと怒りがごちゃ混ぜになった感情に、唯はどうしていいのかわからなくなる
ただリトの声に胸がキューっと締め付けられていった
受話器の向こうでは、どこか言い難そうなリトの様子
「あ、あのさ、大丈夫…か?その…外すごいから心配でさ」
「……」
唯は無言

「唯?」
「結城くん…」
「ん?」
心なしか唯の声は震えている
「何だよ?」
「……今日はこのままずっと声聞いていたいの。ダメ?」
受話器の向こうのリトは小さく笑った様な気がした
「結城くん?」
「いいよ。今日はずっと話していような?」
「あ!う…うん!」
「ホントに平気か?」
「だ、大丈夫に決まってるでしょ!?」
袖でゴシゴシ目もとを擦りながら、なんとか気丈に振る舞う唯
「そっか。安心した」
ホッとした様なリトの声に、唯は少し口を尖らせる
本当はもっと心配して欲しいと願っているのは唯だけの秘密
唯は丸めていた膝を伸ばすと、ベッドにゴロンと寝転がった
電話の話題は来週行くデートの話し
顔をほころばせる唯に、さっきまでの様子はもうない

雨はいつの間にか止んでいた