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ったく、本当に鈍いんだから。
春菜さんや古手川さんの気持ちに気づかないのもわかるよ。
だって、
ずっと一番近くにいた私の気持ちにだって気づいてくれないんだもん。

「おっはよ!!リトッ」
洗面所の前でリトの腕にしがみついてみた。
意識していつもより高い声を出して、ララさんみたいな弾ける笑顔で。

「おわっ!?・・・ってなんだ、美柑か・・・」
むっ!なんだとはなによ。
腕を掴んだ両手に力を込めて、上目遣いに睨んでやる。
「・・・どしたんだ?」
そうまでしても穏やかに、涼しげに聞き返してくるリト。
なんでそんなに落ち着いてんのさ!
そんな反応が見たかったんじゃないもんっ!!
「なんでもないっ」
何事もなかったかのようにスルリと離れて朝食の準備に戻る。

「ハア・・・」
味噌汁をかき混ぜながらため息が出ちゃう。
どうせ私の胸じゃ柔らかい感触なんてしないし。
私の上目遣いじゃどきどきなんかしないんだ。

テーブルに朝食を並べているとリトとララさんが並んで降りてきた。
「ごっはん♪ごっはん♪」
「だからくっつくなって」
「いいじゃない!すきんしっぷ・・・?だよ」

リトは恥ずかしそうに顔を赤らめてる。
口では拒んでいても本当に嫌がってなんかないよね。
むしろ嬉しそう。

どうして神経がざわつくの?
いつものことじゃない。
そう言い聞かせても最近はダメなんだ・・・。
してることは同じなのに、私とララさんとじゃこんなにも違うの?

なんで?
どうして?

ララさんは胸が大きいから?
私なんかよりものすごく美人だから?
同年代だから?
―――それとも、私は妹だから?―――


「おいしっ」
「どんどん旨くなっていくなあ」
「美柑、いつもありがとう!」
妹だから・・・。
だから私は、抑えなきゃいけないんだよね?
「美柑?」
二人の声は耳に入ってなかった。
そしたらリトが急に、
「んー・・・熱はないみたいだな」
おでこ合わせてきた。
私はビックリして突き飛ばしてしまう。
「な、なにするのよ!」
「お前今日体調悪そうだからさ、大丈夫かなって」

どきどきどきどき
この胸の高鳴りは普通じゃないのかな?
兄妹ならこんなことでどきどきなんかしないんだよね?
ダメ。赤くなるな。私の顔。
「美柑?」
「へ、平気!熱なんかないから」
「でも顔赤いぞ?」
「料理は火を使うから暑くなっちゃうの!」
うるさい、うるさいよ。
あんたなんか早く学校行っちゃえ!

紅潮した顔を味噌汁を殊更ゆっくりと飲んで誤魔化しながら朝食を取る。
二人を見送って、私も学校へ。
まだ胸がどきどきしてる。
こんなの全然私のペースじゃないよ。
取り戻さなきゃ、いつもの私を。
私はオドオドしてるリトをからかう美柑じゃなきゃいけないんだから。
今までずっとそうしてきたんだから。
気合入れろっ!美柑!

そう言い聞かせて家を出たのに。
登校時間しか保てなかったよ・・・。
学校に行って、お買い物をして、今帰り道を歩いてる。
思い浮かぶのは、リトのことばっかり。
家事のことを考えるのは私にとってもう自然なことになってるんだけど、そこにリトが出てきちゃう。

夕飯、リトは何が食べたいだろ?
帰ったらお洗濯もしなくちゃ。
今日はリトの数少ないおしゃれ着を洗ってあげないと。
リトのお部屋の掃除もしないとなぁ。
あいつ、目に付くところしか綺麗にしないから部屋の隅やカーテンレールに埃たまっちゃうんだよね。
またエッチな本見つけてからかってやれ。


リト。
リト。
リト。

私の心を独り占めにする、ばか兄貴。
リトが私のこと、妹以上に想ってないことなんか知ってる。
でもしょうがないじゃん。
考えちゃうんだから。


「ただい、ま・・・」
玄関に明らかに女性もののローファーがいくつも。
リトがララさん以外の女の子を連れてきてる。

沈むな、私の心。
寂しくなんかないんだから。

こんなときは家事に集中するのがいい。
とりあえずリトの部屋の掃除は後回し。
お米を研いで炊飯器のスウィッチをオンに。
おかずの下ごしらえも済ませて、それが終わったら今度はお洗濯。

「・・・むかつくっ!」
夕飯はリトの好きなチーズハンバーグ。
あいつのジャケットのために柔軟剤まで買ってきたのに。
今日の家事は、結構楽しみだったのにな・・・。
もっと優しい気持ちになれるとおもってたのにな・・・。
どうして涙が零れそうなの?

決して新しくはない洗濯機が運転を開始する。
まるで私の心の中みたい。
ギシギシ軋んで、嫌な音をたててる。
私のこの気持ちも、みんなみんな洗い流してくれたらいいのに。

泣きながら晩御飯作って、真っ赤な目で洗濯物干して。
何やってるんだろ、私。
こんな日くらいサボっちゃえばいいのにって、自分でも笑っちゃう。


外がかなり暗くなってから、お客さんたちが降りてきた。
「楽しかったねー」
「俺は疲れたよ・・・」
明るいララさんの声と疲弊しきったリトの声。
きっと新しい発明品が出来たとかで、お友達を呼んだのもララさんなんだろうね。
分かってる。リトは悪くないって。
でもどうしても文句が言いたくなっちゃった。

「友達連れてくるなら連絡くれてもいいんじゃないの?
そうすれば夕飯だって人数分用意したのに」
キツイ口調になってるのが自分でも分かる。
「わ、わりぃ」
「ララさんだけじゃなくて春菜さんや古手川さんまで来てくれて舞い上がっちゃった?」
「み、美柑・・・?」
不穏な空気作っちゃった。
抑えなきゃいけないのに。
「美柑、みんなを誘ったのは私なの。ごめんね、連絡しなくて」
「私たちも大勢で押しかけちゃったし・・・」
「遅くまでお邪魔しちゃって・・・ごめんなさい」
ララさん、春菜さん、古手川さん。
みんな綺麗で、性格もよくて、リトにはもったいないくらい素敵な人たち。
逆立ちしたって勝てない相手。
誰も悪くないのに勝手に苛立ってる私は、年齢以上にちっぽけで子供だ。

どうしてリトなの・・・?

もうその場にいられなかった。
「美柑っ!!」
視界を滲ませながら自分の部屋に逃げ込んじゃった。
キライだよ、リトなんか。
そう言い聞かせてる自分が、本当は誰よりも何よりも、キライ。


久しぶりに涙を流しちゃった。
いつもは零れる前に拭っちゃうのに、今日はそのまま。
「美柑・・・」
「っ!・・・コラ、女の子の部屋に入るときにはノックしろっ」
一度ドアを閉めてノックするリト。
遅いよ、バーカ。
「みんな帰ったよ」
リトの静かな声が部屋に溶け込んでく。
後は私が鼻を啜る音だけが部屋の中に響いてた。
「美柑、ごめんな・・・」
なんで謝るの?
謝って欲しいんじゃない、その理由が知りたいよ。
「俺、美柑に全然優しくないよな・・・」
リト。
「いつもいつも世話になってるのにロクにお礼もしてない。
寂しいとき、哀しいとき、力になってやれてない」
今、寂しいよ?
「こんなんじゃ兄貴失格だよな・・・」
今、哀しいよ?
「俺、美柑が泣かなくていいように頑張るから。
もっと美柑を大事にする。必ず守ってやるから」
昔みたいにギュッてしてよ。
頭優しく撫でてよ。

本当は、素直になりたい。
甘えたいよ。
だってリトのこと、大好きだから。

「リト、もっとそばに・・・」
リトはベッドに横になってる私の隣に腰を下ろしてくれた。
身体を起こして、そっと袖を掴んでみる。
そしたら肩を抱いて、グッて引き寄せて抱きしめてくれた。

リトの匂い、久しぶり。
胸板、こんなに厚いんだ。
あったかい。あったかいよ・・・。

「・・・落ち着いたか?」
落ち着くわけないでしょ、このニブチン!
ちょっとは気づけっ!
しょうがないから、ヒントをあげる。


「・・・私が一番なんだから」
「へっ?」
リトの優しさを、一番昔から知ってるのは私。
幼い頃、お兄ちゃんお兄ちゃんってどこにでもくっついていった私を、いつも気に掛けてくれてた。
守ろうとしてくれてた。
ちゃんと覚えてるよ?

リトの胸にもっと強く顔を埋める。
「もっとちゃんと、強く抱きしめてよ」
「ぅ・・・?あ、ああ」
ほら、左手遊んでるよ。
痛いくらいに抱きしめて欲しい。

リトとの思い出を、一番たくさん持ってるのも私。
両親の仕事の都合上、まるでたった二人の肉親のような時間を過ごしてきた。
子供二人で生活するには、広すぎるこの家で。

ララさんが現れて、賑やかになって楽しかったけど、私は本当は・・・。
誰にも邪魔されたくなかったのかな・・・。

「どこにも行かないで・・・」
不安でしょうがないんだ。
リトが離れて行っちゃうのが。
寂しいの。
リトが私以外の誰かを最優先に考えるのが。
お願い、私からリトを奪わないで。

「何言ってんだよ。俺はどこにも行かないよ」
「ホント?
高校卒業しても、・・・彼女が出来ても、この家にいてくれる?」
「当たり前だろ。美柑に俺以上に頼りになるパートナーが出来るまで、嫌だって言っても傍にいてやる」
ちょっと怒ったような、真剣な表情でリトはそう言ってくれた。
嬉しい。
でも、やっぱりちょっとむかつく。
ほんっとに鈍いな。
それでこそリトなんだけど。
「リトより頼りになる男ならすぐにでも見つかるよーだ」
「・・・ははっ。元気出たみたいだな」
ハンバーグ、一緒に食おう。ララも待ってる。
そう言ってリトは部屋を出て行った。


大きく一つ深呼吸する。
鏡で自分の顔を見てみる。
もっと酷い顔してるかと思ったけど、それほどじゃなかった。
にっこりと笑顔を作る。
よし、笑える。
可愛いぞ、美柑。

今はまだ、リトに彼女が出来たら素直に応援してあげることはできない。
やっぱり妹だからなんて理由で、諦めたくないよ。
でも今日は、リト以上の人が見つかるまでリトにお味噌汁を作れるっていう言質がとれたから、よしとしようかな。

このキモチが報われることはないとしても、今はまだ想い続けていたい。
信じ続けていたい。
あのばか兄貴に、私の気持ちが届く日を。