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月曜日の放課後

「どうしたの?」
黒板消しの手を止めると、唯は後ろを振り返った
後ろには、肩でカバンを持ったリトが、どこかバツが悪そうに立っている
「…あのさ、今日、悪いんだけどオレ先、帰んなきゃダメなんだ」
「え…」
唯は体をくるりとリトに向ける
「何かあったの? まさか妹さんの具合でも…」
少し顔をくもらせる唯にリトは手で頭を掻いた
「いや…そーゆう事じゃなくて。オヤジの手伝いなんだけどさ…」
「あ…」
唯は小さく呟くと、それだけで納得した
「それならそうだって言えばいいじゃない! なに勿体ぶってるのよ?」
胸の前で腕を組みながら、唯は口調を少しきつくする
「あ、ああ。まーな…」
「ん?」
まだ何か言うことがある様なリトの口ぶりに、唯は眉を寄せた
「じゃ、じゃあオレ帰るな!」
「え、ええ」
「気を付けて帰れよ!」
「…うん」
少しギコチない笑みを浮かべながら、早々に教室を出て行くリト
「…何なの?」
どこか釈然としないまま、唯はリトの背中を見送った

そして次の日の放課後

「あのさ…」
「ん?」
ゴミ袋を括りながら、唯は俯いていた顔を上げた
「何?」
「あ…あのさ、その…今日もなんだ…」
「え?」
「オヤジの手伝い…」
少し俯きぎみのリトに唯はクスっと小さく笑った
「だったら何してるのよ?」
「え…」
「早く帰らないとダメなんじゃないの?」
「そりゃまァ…」
そう応えながらも中々帰ろうとしないリト
リトはチラチラと足元に視線をやりながら、苦い顔をする
重そうなゴミ袋に、まだ片付けられていない掃除用具に、整理できていない机や椅子
「いいわよ。別に」
「あのさ唯…」
「いいから早く帰りなさい!」
有無を言わさないその口調に、リトは苦笑いを浮かべた
「ゴメンな」
「別にいいわ」
いつもの様に、淡々とした声に表情
けれど、廊下の奥に走って行くリトの後姿を見つめるその目は少し揺らめいている
誰もいない教室に静かな溜め息がこぼれた

そして水曜の放課後

「唯、わりぃ…今日も…」
「気にしないで!」

次の日の放課後

「あ、あのさ…」
「だから、大丈夫だって言ってるでしょ!?」

一人っきりの教室で唯は小さく溜め息を吐いた
結局、今日も一人
少し前まで普通だったその日常が、今は少し寂しく感じる
唯は窓のカギをチェックすると廊下に出た
いつもならここに、めんどくさそうな眠そうな顔をしながら、それでも自分の事をいつも待ってくれているリトの姿があった

『早く帰ろーぜ!』

なんて声が今にも聞こえてきそうな感覚
唯は少しぼーっとなっていた頭を横に振ると、表情を引き締める
「何やってるのよ私」
小さくそう言うと、唯は夕暮れの廊下を一人歩いて行った

そして、金曜日の昼休み

「結城くん」
「何だよ?」
リトはサンドイッチに手を伸ばしながら、ぶっきらぼうに返事をする
「…今日もなんでしょ?」
「へ?」
「今日もお父さんのお手伝いなんでしょ?」
とたんに表情が暗くなるリト
「…よくわかったな?」
当たり前じゃない!! という言葉を飲み込んで、唯は少し真面目な顔をする
「最近、大変みたいじゃない? お仕事」
「ああ。まーな…」
唯はスっと目を細めた
この話しになるとリトは顔どころか、声もくもってしまう
────何かある!
それは女の直感なのか、今までリトを見てきた経験がそう言うのか
唯は少し突っ込んで話しを聞いてみる
「…それで、言いたい事はそれだけなの?」
「は?」
「私に言いたい事! 何かあるんじゃないの?」
「べ…別になんもねーよ!」
サンドイッチを口に銜えながら明後日の方向を見るリト
唯は頬をムッと膨らませた
「結城くん!?」
「何だよ?」
「私はマジメに聞いてるの! こっちを向きなさい!!」
少し怒気を帯びているその声に、リトはしぶしぶ唯の方に向き直る


「隠し事なんてしないでちゃんと言いなさい!!」
「別に隠してるワケじゃねーんだけど…」
(やっぱり…)
内心そう呟きながら、唯は表情をくもらせた
(結城くんが私に隠し事…)

ひょっとして他に好きな人ができたとか
ひょっとして手伝いはウソで、そのコとどこかに遊びに行ってるとか
ひょっとしてもうさよなら……

良からぬ想像ばかりが頭を飛び交う
リトを見つめるその目はどこまでも真っ直ぐで、だけど揺れていて
唯の手は無意識にギュッと握りしめられていく
「結城くん…」
自分でも無意識に呟いたその名に、リトがピクンと反応した
「そ、その…なんつーかさ、すげー言い難いんだけど…」
リトは本当に言い難そうに、声を詰まらせていて、戸惑っていて、悩んでいて……
(そんな顔しないでよね…)
知らず知らずの内に、唯は今にも泣き出しそうな顔になっていた
リトはそんな唯の顔をチラチラ見ると、決心したのか、顔を唯に向ける
「あのさ、唯」
「…何よ」
唯の声は小さく震えている
「…明後日の日曜なんだけどさ」
「うん」
「ほ、ほら、遊園地に行くって言ってただろ?」
「うん…」
「その日、ちょっと行けなくなったんだ…」
(やっぱり…)
唯は何も応えない。応えられないでいた
だから、次のリトの言葉にもすぐに声が出なかった
「その…オヤジの手伝い…でさ」
「……」
「も、もちろんこの埋め合わせはちゃんとす…」
「ホントなの? その話し」
「へ?」
「ホントにホントにお父さんのお手伝いなの?」
急に話しに割り込んできた唯の声は震えていて、そこには必死さが滲み出ていた
その体もいつの間にかリトに詰め寄っている
「当たり前だろ! って、他にどんな理由があるんだよ?」
「う…うん」
唯はゆっくりと浮かしていた腰を下ろした
その顔はどこかホッとしたものになっていて
そんな唯の態度にリトの目は少し半眼になる
「…お前、またヘンなこと考えてたんだろ?」
「え!?」
唯の心臓がドキリと音を立てる
「ったく、お前なァ」
深々と溜め息を吐くリトの態度に色々と安心したのか、唯の中で今度は怒りが込み上げてきた
「ゆ、結城くんが悪いんじゃない!!」
「へっ?」
「あ…あなたが私に隠し事なんてするから私は…」
「隠し事って……仕方ねーだろ! 急な事だし、何て言って断ればいいかわかんなかったし」
「そんな事そのまま言えばいいじゃない! 何くだらない事で悩んでるのっ」
「くだらないって…お前なァ。お前がすげー楽しみにしてからこんなに悩んでたんじゃねーか!!」
うっと言葉に詰まる唯
確かにリトの言うとおり遊園地に行くことはかなりどころかムチャクチャ楽しみにしていた事だ


「だ、だからって、こんな大切な事はもっとちゃんと言うべきだわ!」
唯はそれだけ言うとツンとリトから顔を背けた
「…そりゃまーそうだけど…」
指で頬を掻きながら、リトは言葉を詰まらせる
「と、とにかく、今度の日曜は行けなくなったからまた今度行こうな?」
「……」
唯は顔を背けたまま返事をしない
「ほ、ほら、お前の食べたい物とか行きたいトコにも行くからさ」
「……」
「唯?」
「…どうぞ、おかまいなく」
その頑なな態度にリトはカチンときてしまった
「お前、いい加減にしろよな!!」
その声の量に唯の頬がピクっと引きつる
「あ…いや、その…すぐに言わなかった事は悪かったって思ってる! けど…」
「…けど、何よ?」
「お前が楽しみにしてたの知ってたからさ…、お前のガッカリする顔見たくなかったってゆーかその…」
「そんなの結城くんの勝手じゃない!!」
唯はリトに向き直ると、むぅ~っとその顔を睨んだ
「ゴメン…」
力なく肩を落とすリト
唯はしばらくリトの顔を睨んだ後、おもむろに立ち上がる
「え…」
「…もう教室に戻らないと、昼休み終わっちゃうでしょ?」
その言葉に、リトは急いで残りのサンドイッチを口に詰め込むと立ち上がった
「行儀悪いわよ?結城くん」
「し…仕方ねーだろ! 休み時間終わっちまうのに」
「もぉ…」
唯は少し口を尖らせるも、胸の前で腕を組みながらリトが食べ終わるのを待つ
「はい」
リトが口の中の物を飲み込んだのを確認すると、飲み掛けのコーヒー牛乳をそっと差し出す唯
「サンキュー! ……あのさ、その…ごめんな唯」
コーヒー牛乳を受け取りながら、リトは顔を暗くさせた
さっきの事をまだ引きずっているのか、その顔はごめんなさいの気持ちでいっぱいになっている
「…もういいわよ」
「え…」
「もういいの! それより、お父さんのお手伝いちゃんとしなきゃダメだからね?」
「あ…ああ」
唯のその優しさというか気遣いが、今のリトにはとても重く感じた

結局、その日の放課後もリトは手伝いに行ってしまい、唯は一人家路に着いた
玄関を開け、階段を上がり、部屋のドアを開けると、唯はドアにもたれながら大きく溜め息を吐いた
「はぁ~…」
体というより、気持ちが重く苦しく感じる
唯は制服がクシャクシャになるのも構わずにベッドに寝転がった


ベッドに寝転がって数十分、何も考えていないはずなのに頭の中には常にリトがいて
唯は枕もとにあるぬいぐるみの一体に手を伸ばすと、それを胸に抱き寄せた
元からあるぬいぐるみよりも、今はリトにプレゼントされたぬいぐるみの方が多い
胸にあるぬいぐるみもその中の一体
「結城くんっていつまで私を子ども扱いするんだか」
そんな事を愚痴りながら
唯はぬいぐるみを抱きしめると、ゴロンと体を横にした
春の暖かい風がカーテンを揺らし、部屋の中に入ってくる
窓から射す夕日が、毎日使っている机を黄昏色に変える
唯は机の上に置かれた卓上カレンダーをジッと見ていた
カレンダーにはピンクの線で、来週の日曜日のところに丸印が描かれていた
そしてそこには、几帳面さと少し柔らかい丸みを帯びた女の子独特の字でこう書かれている

『結城くんと遊園地』

カレンダーを見つめる唯の目が知らず知らずの内にゆらゆらと揺れる
「結城くん…」
自然とその名が口からこぼれる
頭でわかっていても、心がまだそこに追いついてこない
一人っきりの時間が、ふつふつと唯の中のある感情を大きくさせていく
唯は胸の中のぬいぐるみをギュッと抱きしめた
強く、強く
「何してるのよ…」

今はただ、一言だけでも声が聞きたい
今は、ほんの少しでいいからそばにいて欲しい

カレンダーの隣には、いつも使っているコードレス電話
「…こんな時ぐらい電話かけてきなさいよね」
いつまで経っても鳴らない電話を唯はいつまでも待ち続けた


「リト、今日も行くの?」
「ああ」
玄関で靴を履いているリトにララが後ろから声をかける
「最近ずっとだね?」
「スケジュールがやばいみたいでさ…。オヤジもオヤジで連載3本もかかえてっからこんなんになるんだよなァ」
靴を履き終えると、リトは溜め息混じりに立ちあがる
「…ふ~ん、でも、リトいいの? 唯は?」
行ってきますと言おうとしたリトの口が止まった
「唯にはちゃんと言ったの? 今度遊びに行くでしょ?」
「…言ったよ」
頭を掻きながら、ララと視線を合わせようとしないリト
「それで?」
「それでって……別になんもねーよ」
「む~…リト、楽しみにしてたんじゃないの?」
「そりゃ…って、もういいだろ!? 行ってくる!!」
「あ! リトっ!!」
後ろから聞こえてくるララの声を遮る様に、リトは玄関のドアを閉めた
外の門を開けたところで、リトはふいに後ろポケットに入れたケータイに手を伸ばした
ケータイを開いて少し操作すると、すぐに画面に唯の家の電話番号が現れる
その番号をリトはしばらくジッと見ていた
学校で散々謝って、言い訳して、口喧嘩して────
「…今さら、何言えばいいんだよ……」
リトはケータイを閉じると、父の待つ仕事場に向かって歩き出した  


日曜日の朝

「う…ん…」
眠たい目を擦りながら、唯は布団から起き上がった
チラリと時計を見てみると、時刻は八時半
別に目覚ましを掛けていたワケでもないのに、
デートに行くはずだった予定通りの時間に起きてしまった事に、唯は小さく苦笑した
唯は布団から出ると、カーテンを開け、まだ肌寒い春の朝日を浴びながらうんと背伸びをする
「う…んん……はぁ~」
朝とても弱い唯。けれど、不思議なことにリトに会う日だけは全てが快調になる
例え、会えないと決まった日でも
髪を整えるのに鏡を見ていると、ふいに机の上のカレンダーに目が止まった
カレンダーの今日の日付には、まだピンクの丸印と予定が書かれたまま
(結局、消せなかったな…)
何度も消せそうとしたけど、結局無理だった
心のどこかで、ひょっとしたら────
と、何度も思ってしまった
「…ホント、何やってるのよ私は…」
そんな自分に呆れ気味の溜め息を吐いた時、机の上の電話が鳴りだす
こんな朝早くから誰なの? と思いながら、唯はボタンを押すと受話器を耳に当てた
「…はい、もしもし? 古手川です」
『あ…えっと、朝早くにすみません。結城ですけど、唯さんいますか?』
「結城くん!?」
『へ? あ! 唯か!? お前でよかったァ』
「……どーしたの?」
学校での出来事以来、二人は口を聞いてはいなかった
時間にしてわずか一日と数時間
それでもその間、ずっと電話を待っていた唯は、今にも泣き出しそうなほど目をうるうるさせた
どんなに平常を装っても久しぶりのその声に、唯の声はつい弾んでしまう
そして心の中で「もしかして」と期待が膨らむ
『いや…その、どーしてんのかなって思ってさ』
「……な、何よそれ? 別に私が何してようがいいでしょ!?」
『そーなんだけどさ…』
「もぉ、何なの? はっきりしてっ!!」
要領を掴めないその会話に、唯はつい口調をいつもの様にしてしまう
受話器の向こうから一人焦っているリトの声が聞こえてくる
『あ、あのさ…』
「だから何なの!? 早く言いなさいっ!!」
『…特に用事ってワケじゃないんだけど、その…お前の声が聞きたくなったからじゃダメ?』
「え…」
瞬間、リトが何を言ったのか理解できなかった
けれど、次第にゆっくりとその言葉の意味が頭の中に広がっていく
「な、ななな、何おかしな事言ってるの!? ヘンな事言わないの!! もぉ!」
唯は受話器に向かって真っ赤になりながら声を大きくする
「そ、そんな事ぐらいで朝から電話かけてこないでよね!」
『わわ、悪かったって! だから落ち着けって! な?』
唯はふんっと鼻を鳴らしながら、腰に手を当てる
「と、とにかく話しってそれだけなの?」
『え…まあ…』
「そ、そう…………、そ…それでお父さんのお手伝いは?」
『今、向かってるとこ』
「そ…。気を付けていってらっしゃい! 結城くん」
『おう』
受話器の向こうから聞こえてくるリトのいつもの声に、唯はクスっと笑った


『あのさ、帰ったらまた電話してもいいかな?』
「え……す、好きにしたら?」
『わかった! じゃ、また後でな』
「うん…」
リトの短い返事の後、電話は切れてしまった
「…まったく、朝からあんな事ぐらいで電話なんてして、ホント…」
そう電話に向かって文句を言ってると、さっきリトに言われた言葉が浮かんでくる
電話口を見つめること数秒、次第に唯の顔は耳まで赤くなっていった
「声が聞きたいからとか……そんな事で…」
胸の奥がトクン、トクンと高鳴る
「もぉ…ホントに結城くんって子どもなんだから」
結局、遊園地には行けなくなったけれど
いつもの口調とは裏腹に、唯の表情は満開に咲く花の様な笑顔になっていた

唯は受話器を置くと、そのままベッドにゴロンと寝転がった
先ほどの余韻がまだ残っているのか、心なし体がポッと熱くなっている
胸に手を当てると、鼓動がいつもより大きい
布団に顔を埋めながら、今日一日の予定を組み立てていく

とりあえず今から朝食、午前中に部屋の掃除をして、それからお昼まで勉強
お昼からはどこか買い物でも行って、それから……それから────……

結城くん……
でも、やっぱりちょっと寂しい────


リトがケータイを閉じると同時にエレベーターのドアが開いた
「フツーぽかったよな? あいつ」
まるで自分自身にそう言い聞かせる様に、リトは呟いた
ケンカをしたのはこれが最初じゃない
今までにも口喧嘩は何度かあった
あったのだが
「なんか最近ダメっつーか、ヘンな感じなんだよなァ」
それは唯に対する気持ちや考え方なんだと気付いていた

クリスマスの時、初めて告げた本音
小さくなった唯とお風呂で、そして、真っ暗な部屋で交わした約束
あの時の気持ちも言葉もウソなんかじゃない
紛れもない純度200%の本当の気持ち

「けどなァ」
その気持ちに対して自分は何ができるのか?何をやっているのか?
リトは今一つ気持の整理ができていなかった
今日行くはずだった遊園地もそんな気持ちからくる部分が大きかった
唯に何かしたい!何かしなくちゃ!と心が騒ぎたてる
リトは立ち止まると、頭を掻きながら溜め息を吐いた
「何やってんだよオレ…」
心の整理が出来ていないまま
『スタジオ才培』と書かれた扉の前に立つと、リトは呼び鈴を押した
ピンポーンとなってほんの数秒後、ガチャリと扉が開く
「おう! よく来たなリト!! 時間がねェ、とっととあがりやがれ!!」
開口一番そう大声で言い放つと、才培はリトを部屋に招き入れた


「ん? なんだ?元気ねーじゃねェか?」
「別にンなことねーよ…」
隣を歩く息子の顔をまじまじと見つめる才培の目がキュピーンと輝く
「ほー、さては唯ちゃんとケンカでもしたか?」
リトの心臓が飛び出さんばかりにドキンと鳴る
「な、なな何で!?」
「ガハハハ! お前はホント、わかりやすいヤツだなー」
豪快に笑う才培だが、次の瞬間、急に真面目な顔付きになると、そっと耳打ちする様にリトに顔を寄せた
「で、なんの悩みだ?」
「な、悩みって別にオレは…」
「さてはアッチの話しか?」
「ア、アッチ?」
才培はリトの首に腕を回すと、その体をぐいっと寄せる
「とぼけんなよ~~、美柑からイロイロ聞いてんだぜ? おめーらが部屋でヤってる事」
「ハァ!?」
「いや~若いってのはいいやね~~! オレも昔は母さんと散々…」
「な、何カンちがいしてんだよ!? だ、だいたいオレたちそんなオヤジが言うほどしてな……あ!」
腕からリトを解放すると、才培はその肩にポンと手を乗せた
「ダメじゃねーか!! ちゃんと相手してやんなきゃよ!!」
「だ、だから違…って、だいたいアイツは元からそんな事嫌いっつーか…」
「はぁ~~、わかってねーな! リトよ! いいか? 唯ちゃんみたいなコなほど、内に秘めたモンはすごいんだぞ!」
「内に秘めた…モノ?」
「おう! 普段はツンとしちゃってるが、ホントはお前にベタベタに甘えたくてしかねーのさ!」
普段の唯を一番間近に見てきているリトにとって、才培の話しはいまいちピンとこなかった
「そ、そーかァ?」
「隠さなくてもいいじゃねーか! ベッドの上じゃすごいんだろ?」
「な、な…」
リトの頭の中に唯の如何わしい姿がいくつも映し出される
それらを頭を振って追い出すと、リトは才培に大声で言い返す
「何でそんな話しになるんだよ!? だいたい、オレはそーゆー事で悩んでるワケじゃなくて…」
「照れるなよ! 元気でいいじゃねーか!」
「オヤジ!!?」
才培は肩に置いた手に力を込めると、顔を近づける
「何だよ?」
「お前たちが毎日励もうとオレは構わねー! だがリト、男として責任は取れよ?」
「だから違うっつーの!!それに責任ならオレはちゃんと…」
「そーじゃねーよ!! リト」
「え?」
急に真面目な顔をする父にリトの調子が抜けていく
「そーじゃねーんだよ!」
「何がだよ?」
(…ま、まだこいつには早いか)
キョトンする息子に含み笑いをこぼすと才培は、リトの背中をドンっと叩いた
「さ、仕事だ仕事!リト、このページのベタ頼む!!」
「って、話しはどーなったんだよ!?オヤジ!!」


(ったく、オヤジのヤツ…)
渡された原稿に筆を入れていきながらリトは心の中でぼやき続けていた
話しが中途半端に終わった影響もあるが、それ以上に才培の言葉が気になった
(そーじゃないってどーゆう事だ?)
唯との今、そして、将来の事
ちゃんと考えているつもりでも、心のどこかでそれだけではダメだと声がする
(ああ…クソっ!)
悩める少年の心にまた大きな壁が一つできてしまった

そして、時刻は夜の十時を廻り────
「おう! リト! そろそろあがってもいいぞ」
その声にリトは椅子にもたれながら大きく伸びをした
(はぁ~~、マジで疲れたァ)
と、ぐったりとしたリトの頬に冷たいモノが触れる
「ほれ、差し入れだ!」
「サンキュー」
夕方からほとんど口にしていないリトは、冷えた缶ジュースを受け取ると、蓋を開けグビグビと喉に流し込む
「はぁ~~…生き返る…」
リトは溜め息混じりにそう呟くと、ふいに手の中の缶に視線を落とした
「なあ、オヤジ。ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」
「来週の日曜、お前こなくてもいいぞ」
思わず俯いていた顔を上げたリトは、才培の顔を見上げた
「いいのかよ? だって…」
「まーなんとかなるだろ! それより唯ちゃんに会ってきやがれ!」
「会うってなんか大袈裟なんだけど? だいたい毎日学校で会ってんだし」
才培は大きく溜め息を吐くと、おもむろにリトの頭に拳を乗せ、そこをグリグリと押し当てる
「い…いてェ! 痛い! 痛いって! オヤジ!!」
「お前はホント、なんもわかってねーな!!」
やっと解放されたリトの目には涙が浮かんでいる
リトは頭を押さえながら、ムッと父親を睨みつけた
「ってェなァ……わかってないって何が?」
「あのコの気持ちに決まってんだろ!」
「唯の……気持ち?」
「ああ。お前への気持ちだよ」
頭を撫でながらリトは、才培の言葉を反芻させた
「あのコ、お前が思ってる以上に、お前への気持ちでかいぞ! 期待もな!!」
「期待…?」
口の中でその言葉の意味を何度も噛み締める
そうすると、少しだけ薄っすらと何かが見えてきた様な気がした
そんな息子の様子に才培は、口に笑みを浮かべると、その背中をバシっと叩く
「ホレ、とっとと帰って電話の一つでも掛けてやれ!」
「わ、わかったから! そんな殴ンなって」
才培に急かされる様に外に出たリトは、後ろポケットからケータイを取り出した
画面には唯の自宅の電話番号
来週の日曜の事、唯への気持ち、そして聞きたい事に言いたい事
いろいろあるけれど、今はただ、その声が無性に聞きたくなった
ボタンを押し、ケータイを耳に当てて、待つ事数秒
コール二回で電話に出た唯に、リトは内心ホッとしながらも、心からうれしいそうな笑顔を浮かべた
「もしもし、唯? リトだけどあのさ、来週の────……」


そして、次の日曜日の朝────

二人は待ち合わせの駅前広場に来ていた
今日はこれから一週間遅れの遊園地デート! のはずが────……
空はどんよりと雨雲が立ちこめ、これでもか! と言わんばかりに雨を降らせている
「ハ…ハハ」
リトは乾いた笑みを浮かべるしかなかった
何も言わず自分の隣に立つ唯に対し、色んな意味で申し訳ない気持ちでいっぱいになる
「え…っと…どーする? この後…」
唯は空を見上げた。雨は止むどころかますます激しさを増している
遠くに雷が落ちたのか、ゴロゴロと雲が鳴りだした
反射的にリトに体を寄せる唯
「何だよ?」
「べ…別になんでもないわよ!」
「別にって…」
リトは頬を指で掻きながら複雑な顔をする
ゴロゴロと雲が鳴る度にリトに体を寄せる唯
肘と肘が触れ、唯が小さく震えている事をリトに教えた
「そんな心配しなくても落ちるワケねー…」
よ! と、言いかけた時、空がピカっと光った
凄まじい音が木霊し、ビルの窓ガラスに稲光が映る
「キャーーッ!!」
瞬間、唯はリトに抱き付いた
外がどうとか、周りがどうとか、そんな事はどこか遠くに消えていた
目をギュッと瞑りながら、震える体でリトにしがみ付く唯
やがて、雷が鳴り止んでおよそ十数秒後、ゆっくり目を開いた唯の目に、戸惑った様なリトの顔が映る
リトは頭を掻きながら、恥ずかしそうに頬を赤く染めていた
「あのさ唯…」
「え?」
さっきからやけに周りの視線が痛い感じがする
唯はリトから腕をほどくと、ゆっくりと回りを見回した
いつの間にか、周囲にはちょっとした人だかりができていたのだ
さっきの唯の悲鳴と、その後の行動に、みな一様に顔をニヤニヤクスクスと笑みを浮かべている
「!!!?」
唯は声にならない叫び声を上げると、リトの手を取って逃げる様にその場を後にした

ガタン、ゴトンと揺れる車内
「何よ?」
唯は隣に座るリトに鋭い視線を送る
「言いたい事があるならはっきり言えばいいでしょ!!」
「いや…言いたい事っつーか…、その雷…怖かったんだな?」
「こ、ここ怖くなんかないわよ!! あ、あんなの…ちょ、ちょっと、音が大きいだけでしょ!?」
唯はぷいっとリトから顔を背けた。だけど、膝に乗せた手は小刻みに震えている
リトは溜め息を吐くと、そっと自分の手を唯の手に重ねた
「え? ちょ…ちょっと! こんなところで何考えて…」
思わず振りほどこうとする唯の手を握りしめると、そのまま二人の間、拳一個半だけの隙間へと持って行く
「ほら、これなら隠れて見られる事ないだろ?」
「え…ぁ…」
「大丈夫か?」
「う…うん」
心配そうに見つめるリトの顔も、唯はまともに見れなくなっていた
「…別に恥ずかしい事なんかじゃねーと思うけどなァ」
ボソっとそう呟いたリトに、握りしめた唯の手がピクっと反応する
「それに、お前の新しいトコ見れてオレはうれしかったけどな! びっくりしたけど」
少しイタズラっぽく歯を見せて笑うリトに、唯は俯いたまま頬を赤くした
「だから気にすんなって! な?」
きっと結城くんなりに精一杯気を使ってくれてるんだろう
そう思うと、さっきまでの恥ずかしさやモヤモヤが、キレイに吹っ飛んでいった


何も言わずに小さく頷くだけの唯に、リトはクスっと笑うと手に少し力を込めた

心配しなくてもオレがいるよ!

と、言うように
(結城くん…)
「で、この後どーする?」
「え!? この…後?」
俯いていた顔を上げた唯を待っていたのは、コクンと首を振るリト
そして、この嫌な天気も吹っ飛んでしまう様な爽快な笑顔だった
なんだか久し振りに見るリトのそんな顔に、心なしか顔が熱くなってくる
「やっぱ、雨降ってるから映画とかかなァ。なんかおもしろいのやってたっけ?
お前、デパ地下とかにも行きたいんじゃねーのか? ホラ、甘いものとかいっぱるじゃん!あそこって! あ、メシも食わなきゃいけねーし……う~ん…」
いろいろ案を出しては一人悩み続けるリトに、唯はぽつりと口を開いた
「ねェ、結城くん?」
「ん? どっか行きたいトコでもあンのか?」
「そうじゃなくて…。あなたはどこかないワケ?行きたいところ」
「オレ?」
ポリポリと頭を掻きながらリトは眉を寄せた
自分の行きたいところはいろいろある
だけど、リトの中では唯が最優先だった
予定が狂ってしまった事へのゴメンなさいの気持ちもあるが、それ以上に純粋に唯の喜んでいる顔が見たいと思っていた
「オレはいいよ。お前が行きたいトコでいいからさ」
「何よそれ!? そんなのおかしいわ! 二人でいるんだから二人で決めるべきでしょ?」
二人のところを強調しながら話す唯
「だいたい結城くんっていっつも私の行きたいところばかりじゃない! そんなの不公平だわ! たまには結城くんの行きたいところに私も行きたいじゃない」
横顔を見せながら話す唯の頬にポッと熱が灯る
「オレの行きたいトコって……いいのか?」
「そんな事当たり前でしょ!」
「ホントに? マジで?」
振り向いた唯の目は「しつこいわよ! 結城くん」と言わんばかりに細められている
冷や汗を掻きながらリトは、頭の中で必死に行きたいところを選んでいく
何個も候補が上がり、その度に脱落していく中、ふいに才培の言った言葉が蘇る

『普段はツンとしちゃってるが、ホントはお前にベタベタに甘えたくてしかねーのさ!』
『ダメじゃねーか!! ちゃんと相手してやんなきゃよ!!』

(違…オレは別に唯とそーゆー事したいから会うんじゃ…)
一人頭を抱えるリトに、唯は心配そうに声をかける
「結城くん?」
「なな、何でもないから気にすンなって!」
どう見てもギコチない感じのリトに眉をひそめるも、しぶしぶ納得する唯
愛想笑いを浮かべながら、リトは自分の中の邪まな気持ちと闘っていた
(落ち着け、落ち着けオレ。オヤジの言葉なんかに惑わされんなって! 今日は映画を見てそれから…)
何気なく隣の唯を見ると、唯は窓の外をぼぉーっと眺めていた
相変わらず外は雨が降り続いているというのに、さっきまでと違いその横顔はやわらかい
繋いだ手を離すことなく、唯は黙ってリトの返事を待っていた
(唯…)
しばらく唯の横顔を見つめていると、純粋に唯と行きたいと思った場所が頭に浮かんだ
「ん? 決まったの?」
顔を覗き込んでくる唯に、リトはビクビクと緊張しながらも思いついた場所を言った
「え!?」
瞬間、唯の顔が真っ赤に染まる
すぐに抗議の声を上げるが、電車はもう止まらない

ガタン、ゴトンと揺れながら二人は目的の駅まで行く事になってしまった


「お、おじゃまします」
どこか遠慮がちにリトの家に入る唯
リトは早々にクツをぬいで、すでに玄関に上がっている
「あれ?っかしいなァ」
「……どうしたの?」
唯はどこか口を尖らせながらも、その場で屈むとブーツに手を伸ばす
「いや…美柑たちがいな…」
振り返りそう応えようと思っていた矢先、リトは唯の後ろ姿に口を止めてしまった

スカートから見える、白くてムチムチした太ももにリトの目は釘付けになってしまう
ジジジとジッパーを下ろす唯の仕草全てが、リトの鼓動をどんどん早めていった
左足を脱いだら、今度は反対の足
崩れそうになるバランスに、咄嗟に壁に手を突く姿が
一瞬見えた白の下着が
ブーツの下に履いている黒のハイソックスが
その全ての光景にリトは生ツバを飲み込んだ

(って、オレなにドキドキしてんだ!?)
唯は玄関に上がると、脱ぎ終わったブーツをキレイに並べ、くるりとリトに向き直る
「何ニヤニヤしてるの?」
「へ!?」
唯の指摘にリトは、大慌てで顔を取り繕う
「そそ、そんなワケねーって!? 何言ってんだよっ?」
リトを見つめる唯の目は半眼だ。胸の前で腕を組みながら、リトから視線を離さない
「何だよ?」
「…じゃあ、あなたの顔が赤くなってるのは私の気のせいなの?」
リトの心臓がドキリと音を立てる
元からウソを付けない性格の上、すぐに気持ちが顔に出てしまう
リトは手で顔を覆いながら、慌てて唯から顔を背ける
「どーせ、また、ヘンな事でも考えてたんでしょ?」
唯の口調はいつものお説教の時と同じだ
「……まあいいわ。それで、どうするの?」
「え?」
「え? じゃなくて! この後どうするの? あなたの家なんだからあなたが決めてよ!」
「あ、ああ。そりゃそーだよな! …ハハ」
乾いた笑みを浮かべるも、さっきから噴き出す汗が止まらない
昨日の才培の言葉が頭を駆け巡り、リトから冷静さを奪っていった
(チキショー…オヤジのせいだ。オヤジがあんな事言うから…)
「結城くん!?」
心の中で愚痴るリトを唯の声が現実に引き戻す
「そ、そーだな。とりあえずシャワ……あ」
「ん? シャワ? シャワってなんの事?」
眉を寄せる唯の前でリトは、石の様に固まった
今、自分は何を言おうとしていたのか?
『とりあえずシャワーでも浴びてこいよ』とでも言うつもりだったのか?
リトの思考がこの後の言い訳やフォローの言葉を必死に紡ごうとする
「結城くん、シャワって何なの?」
「え……っと、ほ、ほら! その…シャ…シャ…シャ…ベット…そう! 
シャーベット!! シャーベットあるんだけど食べるか?」
どう見ても怪しいギコチない笑みを浮かべるリトに納得出来かねるも、甘い物大好きな唯がそれを放って置くはずはない
「……う…うん。ノドも渇いたしそれじゃあ…」
ツンと視線をそらすもどこか表情が和らぐ唯に、リトは心からの安堵の溜め息を吐いた


とは言ったものの
本当にシャーベットがあるかどうかなんてリトが知るはずもなく
リトは一縷の望みを託して冷凍庫を開けた
すぐに目に付くのは、美柑が買い置きしているアイスの山
その中を漁っていると、目当ての物がすぐに見つかった
「助かったァ…」
けれど、またリトを悩ませる問題が生まれる
美柑の事だ。当然自分の好きなアイスが勝手になくなれば、烈火の如く怒るに違いない
かと言って、リビングで待たせてある唯に、今更無かったとは言えるはずもなく
リトはシャーベットを片手に頭を悩ませた

「お待たせ。で、どっちがいい?」
リトは手に持ったバニラとストロベリーのシャーベットを唯に見せた
「ん~…イチゴにするわ」
「ほら」
少しうれしそうに両手でシャーベットを受け取る唯に、リトは苦い顔になる

『何やってるのよ!? バカリト!!』

どこからかそんな声が聞こえてきそうな気配に、背中に悪寒が走る
(悪い美柑……ちゃんと買っとくからさ)
心の中でそう謝るも、絶対倍返しを要求される事は目に見えている

リトは唯の隣に座りながら、シャーベットにスプーンを入れた
「ところでララさんたちはどうしたの?」
シャーベットを口に運びつつ何気なくそう聞いてくる唯
「ん? たぶん買い物にでも行ってんじゃねーかな? さっき冷蔵庫見たら中身少なくなってたし」
リトは言った瞬間ハッと気付く
それまで特に気にもしなかったこの状況に
(おい! ちょっと待て! って事は今、オレと唯の二人っきりって事か!?)
「そうなんだ」
普通に返事を返す唯に、次の瞬間リトは意識を根こそぎ奪われてしまう
横目でチラリと様子を窺うと、唯は本当においそうにシャーベットを口に入れていて
その幸せそうな横顔にリトはついつい見惚れてしまう
(やっぱ唯ってカワイイ…)
普段は見せない唯のふとした表情や仕草
きっと知ってる人は世界でも数人で、自分もその中の一人なんだと思うと同時に、リトはうれしくなって顔をほころばせた
「結城くん?」
「ん?」
スプーンをカップに置きながら、唯は少し目を細めた
「また顔ニヤニヤしてるわよ?」
「え!?」
「どうしたの? 今日のあなた少しヘンよ?」
「そ、そんな事ねーよ!! オレはフツーだって!」
「そう?」
「当たり前だろ! 何言ってんだよ!!」
今日は普段以上に唯を意識してしまう事に、リト自身もわかっていた
才培との会話。自分の気持ち、そして家で唯と二人っきりの状況
それらがリトの気持ちを掻き立てていた


「ならいいだけど……全然食べてないし、どこか具合でも悪いんじゃないかと思ったの」
「べ、別にどこも悪くねーって! 心配すんなって!!」
唯が気になりすぎて、まったく手を付けていないシャーベット
リトは、少し顔をくもらせている唯に愛想笑いを浮かべた
「嫌いなのかと思った。シャーベット…」
「そんなワケないけどさ……えっと食べるか? コレ」
「え?」
唯は目を少し丸くさせた
「いいの? だってあなた全然食べてないじゃない?」
「オレはもういいって! それよりお前の方が好きだろ? こーゆう甘いヤツ」
「そ、それはそう…だけど…」
差し出されたシャーベットを両手で受け取りながら、唯は上目遣いにリトの顔をチラチラと窺う
「ホントにいいの? ホントにホントに?」
「だからいいんだって! オレの事は気にせずに食えよ」
「じゃ、じゃあいただきます」
何度もリトの顔色を窺いながらも、やっぱり甘い誘惑に勝てるはずもなく
唯は、顔をほころばせながらスプーンでシャーベットを崩していく
(ったく、オレにもそんな顔してくれよな…)
シャーベットに嫉妬しても仕方がないのだが、目の前でこんなに幸せそうにしている唯を見ていると、つい良からぬ感情に駆り立てられそうになってしまう
そして、昨日、才培に言われた言葉が頭に反芻する

『普段はツンとしちゃってるが、ホントはお前にベタベタに甘えたくてしかねーのさ!」


リトは唯の横顔をジーっと見つめた
今まで唯が甘えてきたり、体を寄せてきた事は何度もあったのだが……
(ホントかよ…)
やはり疑いの方が大きい
ふいにその視線に気づいた唯が、くるっとリトに首を向ける
「さっきから何?」
「あ…いやその……うまそうに食ってるからつい…」
「何よ! やっぱり食べたいんじゃない!! それならそうとどうしてはっきり言わないのっ」
リトの気持ちを余所に、一人おいしく食べていた事に唯は、表情をくもらせる
「ちゃんと言ってくれれば私は…」
「そーじゃなくて! ホントにソレお前に食わしたかったんだって!!」
「ホントなの…」
ジッと疑いの視線で見つめてくる唯に、リトの背中に冷や汗が流れ落ちる
「そ、それより映画でも見ないか? 向こうにDVDとか置いてあるんだけど」
「映画…」
質問をはぐらかすリトに若干眉を寄せるも、唯は渋々と頷く
「じゃ、行こっか」
唯は立ち上がると、食べかけのシャーベットを残してリトの後に続いた


「どれでもいいから好きなの選んでくれ!」
唯は棚に並んだDVDに一つ一つ目を通していく
「それにしても……数多いわね」
「ああ。ララが映画とかにハマってるからなぁ。美柑も買ってるみたいだしさ」
「そうなんだ」
そう返事しながら、唯の目が一本のDVDに注がれる
「オレは…やっぱコレかな!」
取り出した物は、数々の星を舞台にしたSFアクションもの
宇宙船での戦闘、そして時には、ビームソードを手に闘うある騎士達の物語
二十年以上かけてシリーズ化された人気映画だ
その最新作を手にリトが唯に声を掛けようとすると、唯もまたDVDを手にそのパッケージを凝視している
「なんか見たいヤツあったのか?」
「え? あ…わ、私はその…」
慌ててDVDを棚に戻そうとする唯の手からリトは、ヒョイっとDVDを取り上げる
「な、何するのよ!?」
抗議の声を無視するとリトは、聞きなれない映画の題名に眉を寄せながら、パッケージを裏側にひっくり返す

───最高にゴージャス! そして感動…
          自分を磨く。夢をあきらめない。もっと輝くために
『プ○ダを着た悪魔』

「お前……こんなのが好きだったのか?」
「ち、違……って、もう! 別にいいじゃない!! 私だってそれぐらい見るんだから!!」
腕を振って抗議する唯に、リトは隠れる様に笑った
(へ~唯がねェ、ま、らしいって言っちゃらしいけどな)

結局、その映画に決めたリトは、まだプンプンと怒る唯を連れてリビングに戻ってきた

「ふぁぁ~~…」
映画が始まってから一時間ちょっと。大欠伸をしたリトの目に薄っすらと涙が滲む
(眠い…。それにつまんねー…)
元々、アクションやSFしか見ないリトにとってこのテの映画は拷問に近いものがあった
(だいたい『恋や仕事にがんばるあなたの物語』とか言われても全然わかんねーよ)
退屈しのぎにポテトチップスに手を伸ばすスピードも速くなる
口にポテトチップスを頬張りながら、チラリと横目で隣を窺うと、唯はクッションを胸に抱きしめながら、
じっとテレビを凝視している
どうやら相当入り込んでいるらしく、隣にいるリトにも注意がいかない様だ
(まァ、こいつが喜んでくれたらオレはいいんだけどな)


映画が始まって一時間半あまり、ソレは起こった
いい雰囲気になった主役であるカップルのベッドシーン
最初は甘いキスから始まり、互いの体を服の上から撫で、そして男の手がスカートの中に入り────
少し顔を赤くしながら見ていた唯の表情がいよいよ固まった
スプーンを口に咥えたまま、画面をジッと凝視したまま動かない
(これはヤバいよな…)
横目で唯の様子を見ていたリトの額からすーっと汗が伝う
リトはテーブルの上に置いてあるリモコンを手に取ると早送りのボタンに指をかけた
「何してるの!?」
「え?」
横から聞こえた声にリトの指が途中で止まる
「私、今見てるじゃない!!」
「いや、そりゃそーだけど……、いいのかよ? コレ」
リトが顎をシャクった先では、カップルによる、ほとんど本番とも言える行為が延々と映し出されている
小さいながら女の子の甘い声まで聞こえてくる始末
唯の顔が傍目からもわかるほど赤く染まっていく
リトだって同じ様に真っ赤なのだが、唯の手前、取り乱すワケにもいかず、必死に平常を装っていた
「べ、別にいいわよ! これぐらい…。それにす、好きな人同士なら自然な行為でしょ!?」
「そ…そうなんだ?」
「そ、そうよ! 当たり前なのっ!」
唯は握りしめた両手を膝の上に置くと、テレビに向き直った
(ムリする事ねーと思うけどなァ)
なんて事を思いながらリトの脳裏に、ふと先ほどの言葉が浮かぶ
(好きな人同士ならって……それってつまり……)
視線は自然と唯に注がれる
ガチガチに緊張した様に赤くなりながら映画に見入る唯
さっきは慌ててそんな事言ったのか、本当にそう思っているのか、リトには判断できない
できないだが、そう言われたのはまぎれもない事実
今、映画の中では、男が女の子の胸を後ろから揉みしだいているところだ
自分達とそう変わらない年齢のはずなのに外国なせいか、その体は豊満でムチムチしている

けど、唯の胸のほうがオレはもっと────…

少し薄目の服の上からでもわかる、流麗なラインを描いている胸
なまじその服の下の姿を知っているだけに、リトの心拍数はどんどん高くなっていく
(って、何オレ意識しまくってんだ!? 映画だろ! 映画! 映画の話しじゃねーか!!)
なんて慌てて画面に向き直るも、チラリのその横胸を見てしまうリトだった


結局、なんだかんだと映画を見続けたリト。最後の方は逆に引き込まれてしまい釘付けになるほどだ
長いスッタフロールが終わり、横でうんと伸びをする唯の気配にもリトは微動だにしない
映画の余韻に完全に浸りきっていた
「いい映画だったわね? 結…城…」
映画の感想を口に出そうとした唯の目がみるみる丸くなっていく
唯はしばらくリトの横顔を見つめると、カバンの中をゴソゴソとしだす
「……」
ボーっとなっているリトの目元に、ふいに柔らかい生地が触れた
「え…?」
「はい。これ使って」
止まった時間が動きだしたようにハッとなるリトの視線の先で、唯はハンカチを差し出しながらクスっと笑っていた
「え…あれ? 何で?」
まだよくわかっていないリトの目からつーっと涙がこぼれ落ちる
「え!?」
自分でもびっくりしたのか リトは慌てて目元を袖でゴシゴシと拭っていく
「こ、これはそんなんじゃなくて!! えっとつまり…」
「…ぷっ…あはは」
「へ?」
「取り乱しすぎよ! いいじゃない別に。私はとっても良いコトだと思うわ」
やわらかい見ているだけで思わずとろける様な唯の笑顔
リトの頬に恥ずかしさとは別の意味の赤みがほんのりと灯る
「その…最初はあれだったんだけど、途中からなんかおもしろくなってきたっつーか…」
ゴニョゴニョと照れ隠しの様な言い訳を始めるリトに唯はハンカチを渡すと、口に手を当てながら必死に笑いを堪えた
(結城くんってカワイイ)
必死に言い訳をする姿もだが、リトの泣き顔という思いも寄らない初遭遇に、唯は内心小躍りしていた
映画の余韻もだが、なんだか心がウキウキしてくる様なそんな感覚
そんな幸せ気分のまま唯は、テーブルに置いていたシャーベットに手を伸ばした
映画に見入っていたため、半分以上溶けてしまっている
スプーンで掬って口にもっていこうとする途中で、溶けたシャーベットがスプーンからこぼれ落ちた
「あ…」
小さな悲鳴と共に、バニラ色のシャーベットがスカートから伸びた唯の太ももにポトリと落ちる
「何やってんだよ!?」
目元を赤くさせながら、テーブルの上のティッシュの箱に手を伸ばすリト
「ごめんなさい」
ぼそっと謝りながら唯は、スカートに付かない様に裾を少し上に持ち上げた
「ホラ、ちょっと足広げて」
「うん…」
ティッシュを数枚持ちながらリトは唯の前に屈んだ
「スカートとか平気か? シミとか大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だけど…」
さっきからぼそぼそと小さな声しか出さない唯に不審に思ったリトは、顔を上げようとしてその途中で固まってしまう
ギリギリまで捲ったスカートから伸びる白い太もも
スカートの影に隠れて見えそうで見えない下着
さらにベタ付くシャーベットの光沢が唯の太ももを妖しくさせている
バクバクと心臓が激しく音を奏でる
ゆっくりと視線を上に持っていくと、顔を赤くさせた唯がジト目でリトを出迎えた
その肩は心なしか小刻みに震えている
「コ…コレはそーゆー事じゃなくてオレはただ…」
「…もういいわよ。貸して?」
唯はリトからティッシュを奪い取ると、自分で足を拭いていった
「ゴメン…」
「だから別にいいって言ってるでしょ? それよりソファーにシミが出来てしまって…」
少し体をずらすと、ソファーに小さい染みが出来ていた


「ん? ああ。こんなの気にする事ねーよ! だいたいララのヤツがよくお菓子とかこぼしたりしてるしな」
「でも…」
唯はティッシュをもう数枚取り出すと、染みの部分をゴシゴシと拭き取っていく
相変わらず責任感が強いというか、なんというか
リトは苦笑を浮かべると、同じ様にティッシュを数枚取り、ソファーを拭いていった
「ごめんなさい」
「ん? 気にすんなって! 大した事じゃないからさ」
「うん…」
何度も同じところ拭いていると、次第に二人の距離は縮まり
手と手が触れ合ってしまう
「「あ」」
同時に声を出し、同時に顔を上げる二人
「わ、悪い」
「別に…」
「も、もうちょっとで取れそうだな?」
どこかギコチない笑みを浮かべるリトに、唯はコクンと首を振った
(って、なんでこんなギクシャクしてんだよ)
それは映画を見た影響からか、二人っきりのなんとも言えない雰囲気がそうさせるのか
それからは何度も互いの顔をチラチラと見ては、目をそらすことの繰り返し
互いの胸の中に言葉にできない感情が湧き上がっていた
次第にリトの手が染みを取る事そっちのけで唯の手に重ねられる
「な、何よ!?」
「え、えっと…そのさ…」
手を重ねたはいいものの、続く言葉がリトには見つからなかった。
何を言いたいのかうまく考えがまとまらない
ジッと見つめてくる黒い瞳にリトは目を彷徨わせた
ずっと握りしめている手のせいか、リトだけじゃなく唯の頬まで赤く染まっていく
お互いの手を重ね合わせたまま、見つめ合ったまま
まるでさっき見ていた映画のワンシーンの様に
リトの喉がゴクリと音が鳴り、それに唯が少し身動ぎさせる
次第にリトの顔がゆっくりと唯に近づいていった
「ゆ…結城くん?」
リトはすでに唯のそば、鼻先数センチのところまで来ていた
あと一押しで触れ合える距離
お互いの吐息が鼻に掛かる
「だ…だから私…あの…えっとちょ…ちょっと待って!!」
「何だよ?」
唯はリトの胸に手を置くと、リトを遠ざける様に手に力を込める
「こ、これぐらいで話すのがちょうどよくない? ほら、あんまり近いと話しづらいというかその…」
「…オレはそんな事ないけどな」
「え?」
何かのスイッチが入ってしまったかの様にリトの声には熱が帯びている
リトは空いている反対の手を唯の腰に回すと、その体をぐいっと引き寄せた
「ちょ…ちょっと!?」
抗議の声も空しく、リトの胸に顔をうずめる態勢になってしまう唯
急いで顔を上げ、体を離そうとするも、腰に回ったリトの腕が唯を離さない
「ゆ、結城くん!? やめなさい!! 何考えてるのっ!?」
唯の声を無視する様にリトの足が唯の両ももの間に入ってくる
スリスリと擦りつける様に動く足は、次第に唯の大事なところに当たった
「ちょ…と…やめ…ン…ぅ」
ぐりぐりと押し当てられる膝に唯はギュッと目を瞑った
少し体の力が抜けた唯をますます強く抱き寄せると、リトは耳に舌を這わる
「ン…ンン」
チロチロと舌が動く度、唯の肩が震える
「ゆ…結城くん…やめ…てェ」
すでにリトの肩にしな垂れる様に体を寄せ、その首に腕を回してる唯
頬に当たる唯の熱を帯びた息遣いにリトは小さく笑みを浮かべた


「ひょっとして感じてる?」
「違…あなたがヘンなコトするからっ」
「ふ~ん……でもお前のココ、もう濡れてるみたいだけど?」
下着越しとはいえ、薄い布だけで覆われたその部分から伝わる熱い感触に、リトは膝を強く押し当てる
「ん…くぅ…」
くちゅっと水音が鳴り、唯の口から甘い声がこぼれた
「ホラな?」
唯は肩を震えさせながら、ゆっくりとリトの首筋から顔を上げる
「結城くん!?」
少し怒気を含んだ声に、その目はジロっとリトを睨んでいる
「そ、そんな怒んなよな? た…たまにはこんな感じのもいいと思っただけで…」
「調子に乗らないで!! あなたのそういう暴走するところが一番ダメなところなのよっ!!」
ムッと睨んでくる唯にリトの背中に冷や汗が落ちる
さすがにやりすぎたと思ったのか、その顔は微妙に引きつってさえいる
唯はリトから体を離すと、乱れたスカート整えていった
「…とにかく! 今後一切、こんなマネやめなさい!! 今度したら許さないからね!?」
「あ…ああ」
曖昧な返事をするリトに、唯は鋭い視線を向けた
「私はマジメに言ってるの!! あなたちゃんとわかってるの?」
「わ、わかってるって! てか、悪かったよ。その…調子に乗ってさ」
「やっと一緒になれたと思ったらコレなんだからっ」
バツが悪そうに頭を掻くリトに、唯はふんっと鼻を鳴らしながらそっぽを向く
その時、肘に当たったカバンがポテっと転び、中身がソファーの上に散らばった
「あ…」
一瞬で顔面蒼白になる唯
唯は大急ぎで散らばった物をカバンの中に入れていく
その中の一つ、リトは手の平サイズの箱を手に取った
「ちょ…ちょっと結城くん!?」
慌ててリトから箱を取ろうとするが、時すでに遅し
「何だコレ……コン…ドーム? え!?」
唯と箱を交互に見比べるリト
唯の白いほっぺは見る影もないほどに真っ赤になっている
「お前…」
「ち、ちち、違うのっ!! これはそんなんじゃなくて! 今日、家を出る時にお兄ちゃんが勝手にカバンの中に入れただけなのっ! 
だ、だから、私はそんな気持ちでここに来たワケじゃ…」

『何よコレ?』
『何ってコンドームだよ。避妊だよ避妊! それぐらい知ってンだろ?』
遊から渡された箱を手に唯の肩がぷるぷると震える
『何考えてるのよ!? こんな物ハレンチだわ!!』
『まーまー、そー言わずに持ってけって! 必要だろ?』
『ひ、必要って……わ、私と結城くんは別にそんな事…』
ゴニョゴニョと口ごもる妹に遊は、ニヤニヤと笑みを深くした
『何だ? それとも、もー子作りの真っ最中かよ? 相変わらずお盛んなこって』
『そんなワケないでしょ!! 私と結城くんは健全なお付き合いをしているの! 
お兄ちゃんと一緒にしないでっ』

出かける前の玄関先での遊とのやり取りに、唯は顔を歪めた


「だ、だからこれはお兄ちゃんのせいで私は別に…」
腕をぶんぶん振って必死の弁明を繰り返す唯
リトは頭を掻きながら黙ってそんな唯の話しを聞いていた
「ん~よくわかんねーけど、その…オレは、したいなァって思ってるんだけど」
「え?」
「その……お前とエッチ」
ぼそぼそと話すリトの顔は真っ赤になっていて、唯もつられて顔を赤くさせた
「な、なな何言ってるのよ!? こんなモノぐらいでヘンな事言わないの!!」
「ヘンな事じゃねーよ!」
少し口調が強くなったリトに唯は、口を噤んでしまった
「だってオレ……お前の事好きだしさ、好きならこーゆー事考えるのフツーだろ?」
「そ…それは…」
咄嗟に言い返せないが、唯自身、何度も心の中で想った事だ

会えない日はどれだけ寂しいか
強く言い過ぎた日はどれだけ不安な夜を過ごすか
会えないとわかった日はどれだけ────……

「だ、だからってコレとソレとは別の事でしょ!」
「そりゃそーだけど…」
腕を組んでぷいっとそっぽを向いた唯にリトは、少し落ち込んだかのような寂しい溜め息を吐いた
面と向かってきっぱり断られた悲しさは計り知れない
リトはガックリ肩を落としながら、すごすごと唯から離れていった

(もぉ…そんな顔やめてよね)
どんどん小さくなっていくリトに唯は、チラチラと視線を送る
(うぅ…もぉ)
ついには膝を丸め『の』の字を書きそうなほど落ち込むリトに唯は、思わず声を掛けてしまう
「そ…そんなにその……わ、私と……した…したいの?」
ぼそぼそと呟く唯にリトは俯いていた顔をあげた
「そりゃだって、好きなら当然ってゆーか……久し振りだしさ…」
「……久し振りだからなの?」
むぅっと睨むように目を細める唯にリトは、慌てて身振り手振りで説明を始める
「そ、そーいう意味じゃなくて! えっとホラ、お前とこーやっている事が久し振りって意味で! 
オレは決してそんな意味で言ったワケじゃ…」
ジト~~っと見つめてくるその氷の様な唯の視線がリトの胸をグサグサと貫いていく
「信じてくれって!! 唯!!」
「ふ~ん」と軽く返事をするもリトを見る目はまだ直らない
「ホントに誤解だって! オレはお前が好きだから…」
「…じゃあ聞くけど、好きってどれぐらい好きなの?」
「へ?」
それまで必死な声を出してきたリトの口がピタリと止まった
「どれぐらい好きって…」
「そうよ! どれぐらい好きなのかちゃんと言って!!」
顔を沸騰しそうなほど真っ赤にさせながらそれでも唯は、リトから視線をそらさない


「どれぐらいって……」
返答に困っている様子のリトに唯の頬はどんどん膨らんでいく
(何でそこで困るのよ!? さっさと言いなさいよっ!!)
と、声を出さず愚痴りつつも、その心中は穏やかでなかった

守れなかった約束の日
すれ違いが続いた日々
一人っきりの時間

(私を一人にしないってあんなに約束したじゃない!)
ソファーの上で唯の手がギュッと握りしめられていく

どれほどの時間、受話器を見つめたか
どれだけ鳴らない電話に溜め息を吐いたか
何度、留守電をチェックしたか

(なのに全然電話もくれなかったし)
数日たって要約かかってきた電話の音
やっと通じた願いに、やっと聞けたその声に、どれだけうれしかったか

ちゃんとわかってるの? 結城くん


ソファーに座る唯を前にリトは、なぜだか正座したままチラチラとその顔を伺っていた
唯は相変わらず腕を組みながらムスっと顔をしかめている
まるでお説教されている子供のように小さくなるリト
「結城くん、ちゃんと応えて!!」
ソファーに座る唯の口からこれ以上待てないと言う声が飛んでくる

どれだけ好きか?
まさかそんな事を聞かれると思っていなかったリトは、頭を悩ませた

唯の事は好き。そりゃ日本どころか世界で一番、いや宇宙で一番好きだ
誰よりも何よりも大切で大事で
唯のためだったら何でもできるし、何だってしてやれる

そう思っている
けれど、現実はそうじゃない
ずっと交わしていた約束は守れない。大切な事も言えない
一人にさせ、不安にさせ、寂しい思いもさせ
くだらない意地で電話すらかけられない

想いを重ねれば重ねるほど、不甲斐ない自分にリトは、膝の上で手を握りしめた

こんなんで好きとか言っても伝わンのか────?

気持ちが現実に追いつかない
自分の気持ちを伝えるすべが見つからない
けれど、言わないとダメだ思った。ちゃんと伝えないとダメだと感じた
唯はずっと待っていてくれる
そこから逃げる道も近道もないのだから


俯いた顔を上げたリトはまだ頼り気がなくて、目は泳いでいて、心なしか頬まで赤くなっている
「オレ…」
リトはゆっくりと静かに口を開いた
「オレお前が好きだ!」

開口一番のその言葉だけで唯の胸は最高潮に高鳴ってしまう
(な…何よこれぐらいで……しっかりしなさい)
唯は自分を奮い立たせる様に胸の前で手を握りしめる

「そりゃお前にはいつも迷惑っつーか、怒らしてばっかだけど……
でも、オレ、お前といるとすごいうれしくて楽しくて、すげー幸せだって思えて」

リトの一言一言が胸にキュンキュンと当たってとけていく
ポっと熱くなる胸と同じ様に、唯の頬も赤くなっていった

「会えない時でもお前の事ばっか考えて、でも、くだらない意地なんかで連絡も入れないし…ホント、ゴメンな。
でも、オレ、お前の事がすげー好きだ! これだけでもいいから信じてくれ!!」

リトの真剣な眼差しが真っ直ぐに唯の心を捉える
さっきからまるで止まらない胸のドキドキに、唯はコクンと喉の奥を鳴らした
(こ…こんな事ぐらいで私……)
揺らぐどころかもはやギビアップ寸前の唯の心

「オレ、お前の事がすげー好きだ! ムチャクチャ好き! 大好きだ!!」

不器用だけど真っ直ぐなリトの気持ちが、唯の胸を正確に射抜いてしまう
クラクラととろけそうになる意識の中、震える手で唯はリトを指さした
「ゆ…結城くん、ここ、こんなの卑怯だわ!!」
「は?」
予想もしてなかった唯の言葉にリトはつい間の抜けた声を上げてしまう
「卑怯って……何が?」
もっともな質問にも今の唯には、まるで耳に入らない
「そんなに好き好き言わないで!!」
「ええ!? ちょ…だってお前が…」
「う、うるさい! 私にそんなに好き好き言っちゃダメぇ!!!」
身も蓋も無いことを言い始める唯にリトの思考はついてけない
「言っちゃダメとか……そんなのオレ、どーすりゃいいんだよ?」
「そ、そんな事私に聞かないでよねっ」
「……お前が聞いてきたんだろ?」
唯は苦い顔のまま俯くと、ぽそぽそと小さく呟く
「こ…こっちに来て」
「こっちって何だよ?」
リトは膝立ちになると唯の足元に体を寄せた
「…もっときて」
「もっとって……これぐらいか?」
手をソファーに付けながらリトは、体を伸ばして唯の太もものあたりに顔を寄せた
ほのかに香る唯の匂いに気が迷いそうになる
(落ち着けオレ! さっき怒られたばっかじゃねーか…)
そんなリトの葛藤を余所に、唯は下唇をキュッと噛み締めると、体をもじもじと揺らす
「それじゃダメ…」
「へ?」


見上げるリトの目に、濡れた瞳でジッと見つめる唯の姿があった
瞬間、リトの心臓が警報を鳴らす
「私にちゃんと顔を見せないとダメ」
リトは吸い込まれ様にソファーに片膝を着くと、目線を唯の高さに合わせる
二人分の体重にソファーがギシっと軋んだ
「きた……けど?」
真正面にあるリトの頬に唯の手がやさしく添えられる
あったかくて、すべすべしてて、そして、唯のぬくもりが頬全体に伝わっていく
二週間ぶり
唯の言ったその言葉の重みに、この時になってリトは初めて触れたような気がした
(そっか…オレこんな……)
俯きそうになるリトを唯は手でそっと包み込むと、ジッとその目を覗き込む
「私の事ほったらかしにして」
ぷくっと膨らむ可愛らしいほっぺがサクラ色に染まっていく
「私に寂しい思いさせて」
至近距離で言われ続ける罵倒に、リトは乾いた笑みを浮かべる
「私を悲しませて」
「わ、悪かったよ! だからこーやって…」
「わかってない! 結城くんは全然わかってない」
「…ゴメン」
シュンとうな垂れるリトに、唯はとろける様な甘い声で囁く
「だから今日はずっと甘えさせてもらうからね!」
「え? 甘え…」
頬から手を離した唯は、腕を組みながらぷいっとリトから顔を背けてしまう
「言っとくけどこれはお仕置き! 私の事、放っておいたお仕置きだからね!」
相変わらずな口ぶりの中に込められた本当の想いがリトにそっと触れた
「唯…」
「勘違いしないで! まだ許したワケじゃないんだから!」
相変わらずだなァと思いながらもリトは、クスっと笑ってしまう
「も…もぉ、あなたちゃんとわかってるの?」
ほっぺを真っ赤にさせながらムッと睨んでくる唯に、リトは心からうれしそうな笑顔を浮かべた
「結城くん!? 私は…」
「わかってる! で、これからどーするんだ?」
「ど、どうするって……それは…」
さっきまでの威勢がウソの様に小さくなってしまう唯
「そ…そんなの私知らないわよ! ……結城くんが決めなさいよ…」
「オレが決めていいのか?」
一瞬迷うも、自分の言った言葉を取り消せるはずもなく、唯は静かに頷いた
「オレは……オレは、お前とエッチな事したい! その…好きだからお前の事が……ダメ?」
迷いながら、恥ずかしがりながら、だけどはっきりとそう言ったリト
唯はその胸にトンっとおデコを当てた
「今日はいっぱい甘えるんだから……覚悟しなさいよ?」
リトは自分の胸に顔をうずめている唯を見下ろした
「唯…」
唯は自分の顔を見られないように、気持ちを隠す様に、リトの胸に顔を当てたまま、
リトの着ている服の裾を握りしめている
そして、次第に握りしめる手に力がこもる
「……」
リトは何も言わず、小さく溜め息を吐くと、唯の頭に手を置いた
「ん…」


抱きしめるでもない、頭を撫でるでもない、ただ手を置くだけ
それだけで、今の唯には十分に思えた
(あったかい…)

不安な時、寂しい時はいつだって────……

お風呂でそう言いながら自分を抱きしめてくれたリト
(約束、今度はちゃんと守りなさいよ?)
唯はゆっくりと頭を上げると、目の前のリトとそっと目を合わせた
リトは相変わらず頼りなさ気だし、目も泳いでいるし、バツが悪そうに苦笑いしてるし
唯は小さく口元に笑みを浮かべた
「…それでどうなの?」
「え?」
リトの反応にジト目になる唯
「さっきの返事! まだ聞いてないんだけど?」
「え!? あ、ああ…えっと…」
思い出したかのように、あたふたと慌てるリト
その態度に唯の顔は、ますますむぅ~っと険悪になっていく
「そ、その、も、もちろんオレはイイってゆーか、唯が甘えたいってんなら大歓迎ってゆーかその…」
「だからどうなの!!?」
中々煮え切らないリトに、唯はつい声を大きくさせてしまう
立場が入れ代ったかの様に、ずいっと唯に詰め寄られるリト
密着した胸板に唯の柔らかい胸が押し付けれる
間近に感じる唯の髪の匂い
自然とリトの鼓動も早くなる
(普段ならすげーうれしい状態なんだけど…)
「も、もちろんオレはイイよ! うん! すげーイイ!!」
何だかおかしな返事になってしまったが、ホッとした様に自分から離れる唯に、
リトも安堵の溜め息をもらす


けれど、ホッとするのも束の間
頬を紅潮させながら体をもじもじとさせる仕草に
恥ずかしそうに少し視線をそらしているその仕草に、リトの心臓は警笛を鳴らす
ドクン、ドクンと鳴り響く心臓に急かされる様に、リトはゆっくりと唯に手を伸ばした
「ン…」
頬に手を当てるだけで、ピクンと反応する唯
リトは唯に体を寄せると、頬を両手で包みこみ、ゆっくりと自分に向けさせた
「結城…くん?」
唯の前にはさっきまでの頼りないリトはもういない
今いるのは、ハレンチで困らせてばかりで、だけどカッコよくて
(こんな時だけそんな顔しないでよね)
ジッと見つめるその視線だけで、顔が真っ赤に染まってしまう
頬に伝わる手のぬくもりだけで、心臓がドキドキと音を立てる
「唯…」
「な…に?」
「好きだよ」
キュンっと唯の中でスイッチが入った
「う…うん」
唯は沸騰しそうになりながら小さく首をコクンと振る
そんな唯にリトはクスっと笑うと、ゆっくり顔を近づける
「キス、さっきの続き」
「こ、今度はちゃんとしなさいよ!」
少しトゲのある言い方にリトはバツが悪そうに笑うと、その小さな唇にキスをした
「…ン…ぁ」
いつ味わってもやわらかい、甘くとろける様な唇の感触
軽く合わせるだけで、それだけで体が熱くなっていく
「あ…ふ…」
離れていくリトに唯の口から吐息がこぼれた
熱くなっている体を鎮めるように息をする唯
その目はリトの顔から決して逸らさない
「もっとしていい?」
唯は何も言わず、ゆっくりと目を閉じる
直後、待っていたとばかりにリトの口が吸い付いてきた
荒々しくて、少し乱暴で、さっきまでの甘いモノとはまるで違うキス
リトは唯の両腕を掴んで動かない様にすると、唇に吸い付く
「は…ぅ…」
唇からこぼれる吐息すら愛おしいのか、リトは唯を離さない
次第に唇を開けながら、熱い舌が入ってくる
熱くて、ザラついてて、乱暴で
少し口内で彷徨った後、唯を見つけるとリトは舌を絡ませていく
「ん…ンン」
唾液をたっぷり含んだ舌に口を犯される感覚
「ん、ちゅぱ…ンン…」
熱い舌が自分の口内を這い回る感触に唯はギュッと目を閉じる
(結城くんの舌で私の中いっぱいになってる)
下顎を唾液で光らせながら、それでも唯はリトの全てを受け入れる
背中に這わされるくすぐったい手の動き
太ももを撫でる反対の手
唯の心はわたあめの様に甘くとろけていく
(結城くん…)


舌を絡ませながら二人は少し顔を離した
半開きの口から出ている舌と舌が触れ合い、唾液が口元からこぼれている
「オレのツバ飲んで」
「う、うん」
リトはクスっと笑うと、唯の小さな唇に吸い付いた
「ひゃ…あ…ぅ」
ずずずと口内を蹂躙していくリト
下顎を伝って二人の唾液がソファーの上に落ちていく
(結城くんのツバ…全部…)
白い喉をコクコクいわせながら頑張ってツバを飲んでいく唯
少し苦しそうな唯の表情にリトは動きを一旦止めると、今度は逆に唯のツバを飲み込んでいく
「ンン…うふぅ」
舌が口内をまさぐり、唯の中を残らず持っていこうとする
その感触に驚いた唯は、目をギュッと瞑り、体を硬くさせた
背中に回されるリトの腕がその体を強く抱きしめる
「ン!? …ン、ンン」
痛いほどの腕の力と、乱暴な舌使い
(ゆ…結城くん!?)
唾液を奪われていく度に、唯の頭の中は白くなっていった

やがて、口内からゆっくりと舌が出ていく感覚に、唯は薄く目を開ける
ぼぅーっとなる意識の中、目の前には、いつものリトがいて
満足げに口元に付いた唾液を舌ですくっている姿に、唯はムスっと口を尖らせた
「…結城くん、ちょっと吸い付き過ぎよ!」
「ゴ…ゴメン! お前の口うまかったからつい…」
「私、もっとやさしいのがよかったのに」
ツンとそっぽを向く唯は、また機嫌を損ねそうで
リトは慌てて唯に体を寄せる
「悪かったって! 今度はお前の言うとおりのヤツするからさ、な?」
「…………ホントに?」
まだ疑っているのか、リトを見る唯の目は細められている
リトは苦笑いを浮かべながら、唯の太ももや腰に腕を回していった
「え…ちょ、ちょっと何なの!?」
「何って、ここじゃこれ以上できないだろ?いろいろと」
いろいろの部分に顔を赤くさせる唯に小さく笑うと、リトはそのまま唯を抱えあげた
「ゆ、結城くん!? ちょ…」
「心配しなくても、オレの部屋に行くだけだって!」
「……な、何考え…」
「もしかして嫌? それともここでする? 美柑たちが帰ってきたら……」
「わ、わかったわよ! あなたの好きにすればいいでしょ!!」
お姫様の如く、両腕で抱きかかえられた唯は、真っ赤になった顔を俯かせる
ただ、その口はゴニョゴニョと何か言いたげだ
「じゃ、このまま部屋まで連れてってやるよ」
「ええ!?」
唯は慌ててリトの顔を見上げる
「わ、私、自分で…」
行くから降ろして!と言うことなく、唯はその言葉を心の奥に押し込めた
チラッと視線を上げると、リトの顔がいつもとは違う角度から見る
自分を愛おしむ様に、守る様に抱きかかえる顔はいつもよりカッコよく見えて
唯はリトの胸にトンっと頭を当てた
トクン、トクンとリトの心臓の音が聞こえる
(何だかホントにお姫様になったみたい…)
体に伝わるリトの力強さに、心地よくもある体の揺れに、唯は赤くなった頬を隠す様にリトの胸に顔をうずめると、
その服をキュッと握りしめた

ずっとこうしていたい────

だんだんと近づく部屋に、唯は心の中でそう呟いた


部屋に着くと、リトは唯をゆっくり床に下ろした
「そーいや、お姫様抱っこってこれで何回目だっけ?」
「え?」
頭を掻きながら思い出そうとするリトに、唯は小さく頬を膨らませる
(3回目でしょ!)
みんなちゃんと覚えている
一度目は街で不良達に絡まれた時、二度目は────
そこまで思い出して、唯は一人顔を赤くした
あの時は、美柑の作ってくれたケーキがおしすぎてそれで……
しかもその後は────
みるみる赤くなっていく顔をフルフル振ると、唯はリトに向き直る
「そ、そんな事もういいじゃない!」
「え?」
リトはキョトンとした顔のまま唯を見つめた
「なんだよ…。ひょっとして嫌だったとか? さっきのとか」
「え!? 違…」
「じゃー何で話しはぐらかすんだよ?」
「それは…」
「それは?」
言い難そうにそっぽを向く唯に、リトはますます眉を寄せる
「嫌なら嫌って、そー言えばいいじゃねーか」
腕を組んで半眼で睨むリトに、唯は小さくなりながらぼそぼそと話す
「嫌じゃないわよ」
唯はもうリトの顔をまともに見れないのか、体をモジモジさせて俯いたままだ
「こ、これからもしてほしい…。時々でいいから…ダメ?」
少し上目遣いで、不安そうに見つめる唯にリトは苦笑した
「時々でいいんだ?」
「え…違っ…ホントはもっと……。うぅ…もぅ、結城くん!?」
頬を膨らませながら睨む唯に、リトは笑いを隠せない
「今日のあなたってひどいわ! さっきからずっと私の事…」
「ゴメン」
知らないっ!とばかりに腕を組んでそっぽを向く唯に、リトは手を伸ばす
頬にかかる手の感触に、くすぐったそうにピクンと肩を震わす唯
「悪かったって! だからこっち向いてくれって! 頼むよ、唯!!」
唯はまだムスッとしている。ソファーでの事もまだ引きずっている様だ
「……」
「その…久し振りだからさ、こーゆうの。なんかすげーうれしくてさ。でも、調子乗り過ぎだよな? ゴメンな」
(…うれしいのは私だって)
唯はゆっくりとリトへと向き直る
「ホントに反省してるの? もうしないって言える?」
「あ、当たり前だろ! だから、こうやって謝ってるんだって!!」
「ふ~ん…」
唯の目はまだ完全には信じてはいない
だけど、こうして話せてるのはかなり大丈夫って事
頬にあるリトの指が、唯の唇をなぞっていく
「ン…」
「…さっきの続き…いいよな?」
頬を赤くさせながらも、リトの顔はいつの間にか真面目なものになっている
(ホント、こうゆう時だけマジメになるんだから…)


近づくリトの顔。唯は自分に触れる瞬間まで、その顔をジッと見つめていた
「私もあなたが大好き」
「え…」
何か返そうとしたリトの口を、唯は自分の唇で封じた
唯からのキス
思ってもいなかった唯の行動にリトの目は丸くなる
やわらかくて、少し潤んでいて、愛情のいっぱいこもった唯のキス
さっき唯が何か言いかけた事などリトは綺麗に忘れ去っていった
リトは背中に腕を回すと、そのキスに応える様にギュッと小さな体を抱きしめる
互いの気持ちをたっぷり乗せた抱擁とキス
だけど、今はもうそれだけでは足りない
リトは唯から唇を離すと、ジッとその赤くなっている顔を見つめる
「…また吸い付きたいの?」
「それもあるけど、今度はもっとしたい! お前を裸にして、いっぱい感じたい」
至近距離で見つめあう二人
いつしか手を取り合い、指を絡め合い、おデコをくっ付け合い、そして体を密着させていく
「結城くん、ハレンチよ」
「ゴメン。けど、オレ、お前の事が好きだから…。唯がすげー好き」
「うん…」
すでにリトの息は熱く、唯の声は甘くとろけている
「…きて、結城くん」
リトの喉にツバが落ちていく。それが合図だったかの様にリトは再び唯の口に吸い付いた
「う…んん」
キスを繰り返しながら薄く開けた唇から舌を出すと、唯の唇をなぞる様に舌を這わしていく
「唯、舌出して」
「ン…」
可愛い唇を少し開かせて、唯の小さな舌が出てくる
その舌にリトは自分のを絡ませた
「は…んッ、ちゅぱ…はぅ…ちゅ…んッん」
半開きの口からは、熱い息がお互いの口へと入っていき
口元はますます唾液で濡れていく
唇と唇のキスというより、舌と舌のキス
お互いを見つめる目は、とろけきり、その体を強く欲している
リトは唯の手をほどくと、その腰に手を伸ばし、自分に引き寄せた
「んッ…あ…ふぅ」
強引な抱きよせが、唯の口から唾液をこぼれさせた
下顎を伝う涎は首筋を通り、吸い込まれるように唯の胸元へと消えていく
リトの心臓が大きくドクンと音を立てた
スカートの中に手を入れると、ショーツ越しにお尻の肉を味わっていくリト
その柔らかさを堪能する様に、何度も何度も円を描くように揉みしだいていった
「あ…ッん…ふ、ちゅる…ンン」
唯は少し顔を歪ませた
お尻への愛撫と熱い舌の感触に唯の感度はますます上がっていく
そして、それはリトも同じ
すっかり大きくなったモノを誇示する様に、リトは唯の下腹部へと腰を押し付ける


(…結城くんの…すごく大きく…)
ズボン越しとはいえ、リトの反応に唯の鼓動が速くなる
息がますます熱くなり、唯は両手でリトの頬を包み込んだ
グッと近づく二人
唯はリトに視線だけでうったえる
もっとして─────と
リトはスカートの中の手をそのまま背中に回すと、唯をベッドへと導いて行く
唯をベッドの上に座らせる同時に、リトは着ているTシャツを脱ぎ去った
上半身裸になるリトを、唯は熱っぽい視線で見つめる
いつも制服越しに感じていたぬくもりをその手に直に感じたくて、唯はリトの胸板へと手を伸ばす
そっと触れるように這わされる白い手
リトの肌もぬくもりも2週間前と変わらない。けれど、久し振りに感じるその肌触りに唯は小さく呟く
「…あったかい」
胸に当てた手は愛おしむ様にリトの上で滑っていく
「何だよ? どっかヘンなトコでもあるのか?」
可笑しそうに笑みを浮かべているリトに唯は頬を赤くさせた
(久し振りなんだから仕方ないじゃない!)
どこか拗ねた様に小さく頬を膨らませる唯の頭にリトは手を置いた
「んッ」
くすぐったそうに体を捩る唯
リトは口元に笑みを浮かべたまま唯の頭を撫でていく
キレイに整えられた長い髪が、シルクの様にさらさらと手の平からこぼれていく
「キレイだな」
「え?」
「お前の髪! すげーキレイだって思う」
「え…ぁ…」
リトに褒められたのはこれが初めてではない、けれど、いつも初めての事の様にうれしく思ってしまう
何も言えず、黙ってリトに頭をナデナデしてもらう唯
赤くなった顔を俯かせながら、恥ずかしさで小さく手を握りしめている
(もぉ、私、子どもじゃないんだけど…)
心のどこかでそんな拗ねた声が聞こえてくるが、目の前のうれしそうなリトを見ているとどうでもよくなってしまう
少しずつ、唯の目がとろんと熱を帯びていった
リトは髪を指で梳かしながら、だんだんと唯の顔へと手を移動させていく
頬に触れるリトの手の感触に、唯の肩はピクンと震えた
「ン…頭じゃないの?」
「そーなんだけど……ずっと赤くなったままのお前のほっぺが気になってさ」
そう言いながら悪戯っぽくツンツンとほっぺを突っつくリトに、唯の頬はますます赤みを帯びる
「ま、またあなたはっ!?もう!」
拗ねたように口を尖らせる唯
(カワイイ)
そんな唯の仕草にリトは心の中でそう呟くと、両手で唯の両頬を包み込む


「あ…」
「お前のほっぺすごくあったかくってやわらかい」
「そ…それは結城くんが触ってるか…」
ジッと正面から見つめてくるリトの視線に、唯は言葉を飲み込んだ
それ以上声が出てこなかった
リトはクスっと小さく笑うと、顔を近づけていく
「キスしよっか? さっきの続き」
至近距離で見つめながらそう囁くリトに、唯は視線をそらしてしまう
「ダメ?」
「ダ…ダメなんかじゃ…」
唯の頬がみるみる火照っていく
リトにほっぺたを触られながら、唯は緊張と恥ずかしさで下唇をキュッと噛み締める
目はキョロキョロとリトを見たり下を向いたり
鼻先をくすぐるリトの吐息に、唯はくすぐったさで肩を捩った
「唯」
「何よ…」
リトは『好きだよ』という想いと言葉を乗せて、唯の唇に自分のを重ねていく

唇に感じるリトの感触に、唯はスっと目を閉じる
恥ずかしさも緊張もどこかにとけて消えていった
唯は握りしめていた手を開くと、その手をどうすればいいのか、彷徨わせる
開いたり閉じたりと一人そわそわさせる手に、ふいに重なるモノがあった
(あ…)
目を閉じていてもわかる。リトの手だと
あったかくて少し大きくて、男の子の手なのに繊細で
重ねられた手はやがて、指を絡ませ合い、そして握り合う
左手と右手。それぞれ手を握りながら、二人はキスを続けた
開いた唇から舌を出し、互いの口内をいっぱいにしていく
「は…ちゅ…ぱぁ、ン…ンン」
こぼれた唾液が二人の間に糸を引かせながら落ちていく
少しするとリトの体が前屈みになっていき、唯の体を後ろへと押し倒そうとする
唯の握りしめた手に力が入った
口内の舌も一瞬動きを止めてしまう
リトはやさしく手を握り返すと、舌で唯の舌を突き、『心配すんな!』と合図を送る
少し迷う様に体を固くさせた唯だったが、少しずつ体の力を抜き、リトに誘われる様にベッドの上に寝転んだ
キスが解けて、互いの唇を唾液の糸が繋ぐ
二人は上下で見つめ合った
「キス……しないの?」
「するよ。けど、それ以上もしたい!」


「それ…以上…?」
「ああ!」
とろんとする意識の中で唯は真っ直ぐリトの目を見つめた
本当は、リトには言いたい事も聞きたい事もたくさんある
だけど、それ以上に今、目の前に大好きなリトがいる
(何だかうまく誤魔化されてる気がするけど…)
もうキスだけじゃ足りない
抱きしめられるだけじゃ足りない
いっぱい甘えたくて、いっぱいリトが欲しいと心の奥からそう思うから
唯はゆっくりと枕に頭を沈めた
リトを見つめるその目は、少し熱を帯びた様に濡れている
息をする度に上下に動く、やわらかそうな胸
少し捲れたスカートから伸びる、白い脚と白い下着
「唯…」
その体に魅力された様にリトの目も熱を帯び、そしてゆっくりと唯の上に体をかぶせる
上と下、互いの顔を確認する様に見つめ合う
何度も体を交えてきたのに、この時ばかりはリトも唯も心臓が飛び出るほどに高鳴る
緊張と不安、そしてうれしさに
先に動いたのは唯だった
「…結城くん」
甘えるような、とろけるような唯の声
リトに一刻でも早く触れて欲しい、抱きしめて欲しい、抱いて欲しい
一つになりたい
ハレンチだとわかっていても
もう止まらないし、止めようとも思わなかった
リトの首に両腕を絡めると、そのままギュッとリトを胸で抱きしめる
頬に当たる胸の感触と、鼻をくすぐる唯の匂い
(唯の匂い…久しぶりだな…)
トワレなんて付けていない純粋な肌の匂い
その匂いで胸をいっぱいにすると、リトは体の隙間から手を伸ばし、唯の下腹部へと意識を集中させる
リトの手がするするとスカートを捲り上げ、太ももへと這わされれていく
下半身に感じる手の感触に唯はピクンと眉を寄せた
服の上からでもわかる、どんどん荒くなっていくリトの息遣い
それだけで唯の下腹部はキュンと濡れてしまい
唯はリトが触りやすいようにと、脚を曲げる
太ももを何度も行ったり来たりするリトの手は、やがて少しずつ指の数を減らしていき
リトは唯の顔をジッと見つめながら、指の先をツーっと移動させていった
「んッん…」
太ももに感じるこそばゆさに唯は眉をピクンとさせる
その反応を楽しみ様に、リトの指は軽快に踊った
「ゆ、結城…くん!?」
指は内腿でグルグルと円を描き、やがて脚の間へと移っていく
白くて薄い布に覆われただけの唯の大切な場所
唯はもう何も言わず、緊張して面持ちでリトの次の行動を見ていた


リトの指がゆっくりと、下着越しの割れ目へと押し付けられる
「あッ」
小さい吐息と共に、プニっと押し返される指
そのやわらかい肉感にリトは何度も指を押し付ける
「…あ…ぁ、んん」
唯の手に力がこもり、その白い手を握りしめていく
「ん…ん…ンン」
何度も押し付けられる指。次第にその部分にだけ染みが広がっていった
その事を確認すると、リトは少し力を込めて大事なところに指をグリグリと押し当てる
恥ずかしさと気持ちよさで、ギュッと目を瞑り手を握りしめる唯
ピクピク震える体は緊張と期待の表れ
(私…私…)

結城くんを求めてる。欲している
もっと! もっと! って

「ハ…ハレンチだわ」
「お前もな」
リトはクスっと笑うと、すっかり染みでベトベトになった割れ目から指を離した
愛液で肌に張り付いた下着は、薄っすらと秘所を覗かせている
唯の息はすでに荒い
リトはチラリと唯を見ると、再び指を割れ目に当てた
正し、今度は爪の先だけ
シュリシュリと布を擦る指先。唯は眉を寄せた
さっきまでの直接的な責めではなく、焦らしの様な責め
唯の脚がピクピクと動き出す
口は何かを言いたくてしきりに開いたり閉じたり
リトは笑みを深くした
「…ゆ…結城くん」
「何?」
言い難そうに、リトから目を背ける唯
「何だよ? これ嫌か?」
「違…そうじゃなくて」
「じゃあ、何だよ?」
唯の言いたい事が手に取る様にわかるリトは笑いを堪えるのに必死だ
リトは少し指に力を入れ、割れ目へと押し当てる
くちゅっと音がなり、肉ヒダにショーツがベッタリと張り付く
「あ…くぅ」
唯は体をピクンと揺らすと、思わずリトの腕を掴んだ
「ん?」
ジッとこちらを見つめる唯の目
それだけで何が言いたいのか痛いほどわかる
「何だよ? ちゃんと言わないとわかんないだろ?」
うっと唯の喉が鳴る
言葉はもうそこまで出かかっているのに、それ以上ができない
「唯?」
「…ぅ…ぅう…」
リトの声に唯の目はどんどん潤み、顔はますます赤くなっていく
(さすがにやりすぎたかな…)
今にも泣きそうな唯の顔にリトは表情をやわらかくした
すると
「…ぁの…ちゃんとして! イジワルしちゃやだァ!」
涙声と甘えた声がごちゃ混ぜになったそのとろける様な声に、リトの理性は一瞬で崩壊する


(カ…カワイイ!!!)
今まで見た事のない唯の表情と声にリトもトキメキを隠せない
そんなリトが不思議なのか唯は小首を傾げた
その仕草すら今のリトには破壊力が多きすぎて
逸る気持ちを抑える様に、リトはスカートに手をかける
「じゃ…じゃあ、脱がすからな?」
少しきょどりぎみのリトに、唯は何も言わずコクンと首を振った
リトはスカートに手を掛けると、ジッパーを下ろす
「腰上げて」
スカートを脱がすと、その下にはリボンやレースの付いた白のショーツ姿の唯が現れる
「好きだなお前、こーゆうリボンとか付いてるやつ」
「い、いいでしょ! 別に…」
頬を染めながら両手で下着を隠す唯の手を、リトは苦笑しつつ退けていく
スルスルと脱がされていくショーツ
脱がす時、割れ目から糸を引く愛液にリトは生ツバを飲み込んだ
思わず緊張で震える手。その手を太ももに這わせると、リトは唯に尋ねる
「あ、足、開いて」
小さく震えるリトの声
唯もリト同様、緊張で顔は真っ赤だ
「べ、別に恥ずかしがる事ないだろ?」
「そうゆう問題じゃないのっ!」
どちらも緊張を誤魔化す様に強気な態度
唯はツンっと顔を背けながら、ゆっくりと足を動かしていった
ギコチない動きで足を開ききると、薄っすらと口を開ける割れ目から愛液がこぼれ出す
リトは誘われる様に体を寄せると、親指と人差し指でゆっくりと割れ目を広げていった
とたんに膣内から愛液がこぼれ出す
そして、その愛液でヌラヌラと輝くピンク色の膣壁は、キュンと蠢いてリトを待ちわびている
充血したクリトリスに、すっかり濡れた肉ヒダ
どんどんリトの鼓動は早くなっていく
「ジロジロ見ないでよねっ!」
赤くなりながらもごもご話す唯にリトは笑みを浮かべる
「だって久し振りだしさ」
「もぉ…」
少し窘める様な口調に、リトはクスっと笑うと、割れ目に口を近づけていく
「あ…」
近づく息遣いに体を捩る唯
リトは目の前にある濡れた秘所を見つめると、入口を舌でチロっと舐め取った
「ひゃっ」
その細い腰を両手で掴むと、リトは舌を膣内へと入れていく
「ん…くぅぅ」
ザラついた肉の感触に膣全体がキュッと収縮する
「は…ぁ…ンく」
ずずっと侵入してくる舌に唯の口から自然と甘い声がもれる
それは普段は絶対聞くことのできない、唯の女の声
「お前の声、すげーカワイイ」
「バカ…」
シーツを握りしめながら、震える口でなんとか返す唯
リトは唯の反応を楽しむ様に、口を離そうとはしない
唾液混じりの舌で膣内を掻き回し、溢れる蜜を啜っていく
「ん…ンンッ…」


「唯の声、かわいい」
「も…もぉ、か…かわいいとかそんな事ッ、言っちゃ…ン」
言葉とは裏腹に、膣奥からはこれまで以上の愛液が溢れてくる
「ん…あ…ぁ」
腰をピクピクと浮き上がらせながら、割れ目をリトの口へと押し付ける唯
(気持ちいいのかな?)
リトはチラリと唯の顔を覗き見る
唯は頬を赤く染めながら、ギュッと目を瞑っている
そしてその手は何かを我慢する様に、ブルブルと握りしめていた
リトは目を細めると、舐める角度を変えた
「ひゃッ…あ…ぁ…んン」
少し腰を浮き上がらせながら、伸ばした手でリトの頭を掴む唯
「ダ…ダメぇ…そこはっ」
唯の手がリトの頭を引き離そうと力が入る
それでもリトは離れない。そればかりかますます顔を寄せ、奥へ奥へと舌を入れていく
「ゆ、結城…くんっ! ホントに…んッくぅ」
リトの舌が敏感なところに触れたのか、唯は反射的にリトの頭を太ももで挟んでしまった
「あ…ふぅ…」
太ももに挟まれながら、膣を貪るリト
(あ! 何かコレいいかも…)
両頬に当たるやわらかい太ももの感触に、股に顔を埋めながらも顔をニヤケさせる
そんなリトとは対照的に、唯は下腹部から這い上がってくる感覚に、ますます息を荒げていた
もうリトを離そうとする手には力が入っていない。そればかりか、愛しむ様にその頭を何度も撫でていく
もっとして! という気持ちが、イきそうになる事への羞恥心を上回っていく
(…結城くんの舌…私の中いっぱいに…)
唯はリトの頭を両手で強く掴むと、腰にぐいっと引き寄せる
「結…城くん、私…もうっ…んんンンぁああ!!」
リトの名前を呟いた後、下腹部から広がる波が唯の全身に広がっていった
一瞬浮き上がった体は、すぐにベッドへと沈み、全身で息をする荒い声だけがリトの耳に届いた
割れ目から唾液混じりの愛液の糸を引かせながら、リトはゆっくりと口を離していく
「はぁ…はぁ…んっ…はぁ…」
ぼーっと天井を見つめていた唯はふとリトの視線に気付くと、体を起こした
「もう! ダメって言ったでしょ!?」
少し頬を膨れさせながら、唯はむぅっとリトを睨んだ
リトは意地悪そうに笑うと、唯に体を寄せる
「…でも、すげー気持ちよさそうに見えたけど?」
「!!?」
リンゴの様に真っ赤に頬を染める唯
「あ、あなたがあんな…ダメって…私、何度も…」
唯は恥ずかしさでゴニョゴニョと小さくなってしまう
そんな唯の頬にリトは手を伸ばす
触れるだけで熱くて、やわらかい真っ赤な頬
「かわいい」
ぽぉ~っと耳まで赤くなっていく
「や、やめてっ! もぉ…」
顔をそらそうとするが、リトの手が邪魔をしてできない
目をそらそうとするが、ジッと見つめるリトの視線から逃げられない
リトの手に包まれて唯はどんどん小さくなっていく
「こ、これ以上はホントにダメなんだから…」
「うん」
「わ…私ばかりハレンチな事して」
「だな」
「…反省してるならもっと……」
「もっと何だよ? 何かして欲しいコトとかあるのか?」


唯は真っ赤になりながら目を泳がせると、ふっと下を向いてしまう
「キ…キ…キキ、キスとか…」
「ん? キス欲しいんだ?」
「ほ、欲しいとかじゃなくてっ! その…」
俯いていた顔を上げると、もうリトの顔が間近に来ていて
唯の胸はキュンとときめいてしまう

(結城くんの…キス…)
もうこれで何度したのかわからない
キスする度に唯の胸はトクンと音を立てる
それは決して慣れることのない、いつまで経っても最初の時と同じ感覚
唯はスッと目を閉じた
わずかに唇同士が触れた後、すぐにリトの舌が入ってくる
「ん…ふぅ…ン」
舌を絡めている内、唯はいつもと違う感触に眉を寄せた
顔を少し離したリトがぼそっと呟く
「お前の。さっき舐めてただろ?」
「あ…」
目を丸くしてリトに何か言おうとするが、すぐにリトがその口を塞ぐ
(私…自分の…)
リトの唾液に混じっているソレは、少し酸っぱくて、そして苦くて
嫌そうに抵抗する唯の口から息がもれる
リトは唯の頭に手を回すと、逃がさない様に力を入れた
「ん…ンン」
じゅる、じゅるとリトの舌が口内を犯していく
それと同時に、唯の口の中にねっとりとした愛液の味が広がる
一瞬顔をしかめた唯だったが、少しすると、その何とも言えない味に次第に体の力が抜けていった
麻酔にかかった様に頭が真っ白になっていく
リトは薄眼を開けて唯の様子を見ると、ゆっくりと口を離していった
「ぷは…はぁ…」
「どうだった?」
リトに質問に、唯は口元に手を当てて複雑な顔をする
こぼれた唾液をすくって口に入れる唯に、リトは小さく笑うと唯をベッドに寝かせた
少し潤んだ目でジッと見つめてくる唯を見ながら、リトの手が唯の下腹部へと伸びていく
触れるだけでくちゅ、くちゅと水音が鳴りだす
その感触を確かめるように、リトの指が何度も割れ目に沿って動かされる
「…やッ…んん」
指を上下に動かす度に、それに合わさる様に唯の腰がピクピクと震える
「まだダメ…。敏感になってる」
「知ってる」
リトは唯に軽くキスすると、肉ヒダを広げて中へと指を入れていった
「ん…くぅ」
唯は咄嗟にリトの腕を太ももで挟んでそれ以上の侵入を拒む
「もう遅いって」
「ん…」
耳元で悪戯っぽく囁くリトに唯は頬を上気させた
「や…ぁ…ン」
リトの言葉通り、すでに指は第二関節まで入っており、今もゆっくりと奥へ奥へ入っていこうとする
「ゆ、結城くんっ!?」
指を入れただけで軽くイッたのか、唯は小刻みに震える手を伸ばしてリトの腕を掴む
力いっぱい押し返そうとするが、力で敵うはずがなく
「ん…んン」
ゆっくりと入ってくる指の感覚に唯は足に力を入れた


くちゅっと濡れた音が鳴り、リトの指は第三関節まで入ってしまう
ぶるぶると肩を小刻みに震えさせる唯
「もしかしてまたイッたの?」
「ゆ…結城くんが…ダメって言ったのにっ」
体をギュッと小さくさせながら、唯は震える口でそう呟く
「そっか。じゃあ…」
リトは意地悪く口の端を歪めると、膣内の指を動かしていった
「ひゃっ!! あ…ダメぇー」
体を丸めてリトの腕にしがみ付く唯
そんな唯を愛おしげに背中から抱き締めると、リトは見せつける様に指を動かしていく
ヌチュ、ヌチュと水音が鳴り、シーツにみるみる染みが広がっていった
「結城…くんっ」
腕にしがみ付いたままの唯のうなじにキスをすると首筋を舌でなぞっていく
「ん…ん…ンく…んん」
リトが何かをする度に唯の体はピクンピクンと反応を見せた
「かわいい、唯」
「んんッ…」
「もっとかわいい声聞かせて」
わざと耳に熱い息を吹きかけながらそう呟くと、リトは耳たぶを甘噛みする
「ひゃ…あ…ぁ」
俯いていた顔を上げ、目を丸くする唯
リトの舌が耳を舐め回していく
「あ…あぁ…」
もう体に力が入らないのか、掴んでいた腕からは手が離れ、挟んでいた太ももはゆっくりと開いていく
リトは小さく笑うと、一旦指を引き抜き、今度は指を二本割れ目に当てた
「あ…あ…」
その様子がわかる唯は、首を動かし後ろのリトに視線を送る
「ダ…」
「入れるからな?」
唯の言葉を無視する様に、リトの指が容赦なく膣内へと戻っていく
前後に動く指に膣壁が蠢き、中に入っていく度に愛液を絡ませながら外に出てゆく
すぐにリトの手は愛液でベットリになった
どんどん熱くなっていく唯の体温が胸に伝わる
押し殺すような喘ぎにも熱がこもる
(そろそろかな?)
リトはチラリと唯の横顔を覗き込むと、唯の弱い部分を指でなぞった
一際大きく体をビクンと仰け反らせる唯
口元から涎がこぼれ、半開きの口からは舌を覗かせている
「ゆ…結ひくん…も、もうらめぇ」
ろれつの回らない言葉に、まったく力の入っていない身体
唯はリトの胸にもたれながら、されるがままになっている
「も…もうひゃめて…これひ上私…」
リトは親指を伸ばすと、真っ赤に充血したクリトリスをギュッと押した
「あ!! か…ぁ…」
膣内がキューっと指を締め付け、下腹部がガクガクと震えだす
「や…ンぁ…おっきいのが…おっきいのがきちゃうっ!!」
「イきそう?」
唯は首をコクコクと振ってリトに応える。もうしゃべる事すら大変みたいだ
リトは最後の仕上げとばかりに、膣内とクリトリスを責め立てる
二箇所同時の責めに唯はもうなすすべがない
唯は体を丸めるとギュッとリトの腕にしがみ付く
今度は拒むためではなく、求めるために
「結城くん…結城くん…」
精一杯口を動かして、愛おしい人の名を呼ぶ姿に、リトは背後からギュッと唯を抱きしめた


唯の手に、より一層力がこもる
「結城…くんっ! ンン…」
今まで以上の力でリトにしがみ付くと、唯は体を大きく震えさせた
「は…はぁ…ふ…あぁ…」
ビクン、ビクンと何度も痙攣させながら、唯は荒い息を吐く
次第に息が納まってくると、くてっとリトの肩に頭を乗せた
天井をボーっと見ながら息を整えていく唯
少しすると横目でジロっとリトを睨みつけた
「な、何?」
あきらかに怒っている様子の唯にリトの顔が引きつる
「……」
ジト~っと睨んだまま黙っている姿がリトの心臓を凍えさせる
「ゆ…唯?」
「…手、早くなんとかして」
リトは思い出したかのように慌てて指を膣から抜いた
「ん…く」
その割れ目からは白く白濁した愛液がとろりとこぼれ、リトの手を白く染めていた
(すげー! 唯の本気汁でいっぱいになってる…)
なんて事を思っていると、頬に走る痛みがリトを現実に引き戻した
いつの間にか身体を起こしていた唯が、リトの頬をギュッと引っ張っているのだ
「ほへ?」
「結城くん、私、言ったわよね? ダメって?」
唯はムッと頬を膨らませながら、静かに口を開く
「言ったわよね?」
「い、言った!」
即答するリトに唯の頬はますます赤く膨れていく
「じゃ…じゃあ、どーしてするのよ!?」
「何でそんな怒るんだ? 別にいいだろ!」
「いいワケないでしょ!? あんな恥ずかしい…」
さっきの醜態を思い出したのか、頬を真っ赤に染めて俯く唯
「恥ずかしいって……すげー可愛かったと思うけど?」
「か…かわ…かわいいって何言って…」
リトの言葉に反射的に顔を上げるも、唯はすぐにその目をそらしてしまう
「そ、そんなコト言わないでよねっ」
もごもごと話す唯にリトは怪訝な顔をする
「何で? だってお前すげーかわいいと思うけど?」
「だからそんなコト言っちゃダメ」
唯の声はますます小さくなっていく
リトは指で頬を掻いた
(相変わらずつーっか…)
唯はチラチラと横目でリトの様子を窺っている
何かを言おうにも恥ずかしさで何もできないようだ
リトは小さく溜め息を吐くと、唯の頭に手を置いた
「ん…」
何も言わずに頭を撫でるリトに、最初は怪訝な表情を浮かべるも、次第に柔らかくなっていく。
気持ちも表情も
「やっぱお前ってかわいい」
「もぉ」
拗ねた様に口を尖らせるも、赤く染まった頬が唯の内心を物語っている
むぅ~っと唸りながらも上目遣いで見つめてくる唯に、リトはクスクス笑った
(やっぱこいつ小さい時から全然変わってないんだな)


「何笑ってるのよ?」
頬を膨らませながら問いただす唯に、リトの笑みはさらに深くなる
「結城くん!?」
なんだか一人置いていかれている状況に、唯の目がどんどん険しくなっていく
唯は腰を浮かせると、ほとんど馬乗り状態でリトに詰め寄った
「な、何だよ?」
「それはこっちにセリフでしょ!? 何ヘンな事考えてるの!?」
「ヘ、ヘンな事って!? オレはそんな事考えてねーって!!」
「じゃあ、どうして顔がニヤニヤしてるのよ!?」
「ニヤニヤってオレは…」
咄嗟に顔を触るも唯の言うとおり確かに顔がだらしくなっていた事に、リトの額に冷や汗が浮かぶ
「こ、これはそんなんじゃなくて……オレはフツーにお前の事を……」
「お前の事を何よ?」
「えっと…」
リトの腰を膝立ちで跨ぎつつ腕を組んで目を細めている唯から逃げる場所も隙もありはしない
(こ、これはヤバい…)
一人蒼白になるリトの前に唯の腕がゆっくりと伸ばされる
ハレンチな! が来る!!
そう感じたリトは、思わず目を瞑り覚悟を決めてその時を待った。が────
(あれ?)
いつまで経ってもやってこないハレンチな! にリトが片目を開けた時、おでこにトンっと何かが当たる感触がした
「え…」
両目を開けて確認すると、唯がリトのおでこを人差し指で突っついていた
「え? 何だ…?」
キョトンとするリトの前で唯は顔を赤らめながら、ぼそっと呟く
「そんなヘンな事じゃなくて、もっと私の事想って…」
「え?」
「せっかくこうやって二人っきりなんだから……もっと他に…イロイロと…」
最後の方はゴニョゴニョ声ではっきりと聞こえなかったが、その気持ちや言いたい事は手に取る様にわかった
リトの下腹部に腰を沈めながら唯の腰が小刻みに揺れている
顔は赤というより紅潮していると言った方がいいかもしれない
沸騰しそうな表情で、だけど、ジッと見つめるその目にはリトだけを映している
リトは無意識に唯の腕を掴むと、そのまま体を抱き寄せた
「あ…」
短い悲鳴の後、唯はリトの上に重なった
一瞬の静寂の後、頬に感じるあったかい感触に唯は顔を上げた
「結城…くん」
いつもの様にニッと笑うリト。間近に感じるその大好きな笑顔に唯の体はポッと熱くなる
「オレ、別にヘンな事考えてたワケじゃないんだぞ」
「え…、じゃあ何を考えてたのよ?」
リトは笑みを深くすると、ギューっとギューっと唯を抱きしめた
「ちょ…結城くん!?」
リトの胸に顔を埋めながら、唯はくぐもった声を上げる
「く、苦しい! 何やって…」
「お前の事想ってた!」
「え?」
「お前の事考えてたんだって! ほかに何考えるんだよ?」
顔は見えないが、胸の鼓動の早さでリトの様子がわかる
きっと顔は真っ赤で、目だって泳いでるし、一生懸命声を出そうと必死な顔で
(結城くん…)
リトに包まれて、想われて
それだけで、唯の体は熱くなってしまう。理性が溶け、心までとろけきってしまう
起き上がろうとするリトの背中に、唯は精一杯の力を込めてしがみ付く
リトの膝の上に座りながら、唯はただ体を小さくさせていた
まるで小さな子どものように
その頭にリトはそっと手を乗せると、やさしく微笑む


「オレ、お前の事想って、考えて、それだけですげー幸せになれるんだ。この辺があったかくなる」
リトは自分の胸のあたりを手で触りながら、少し自慢気にそう言った
「うん」
うれしそうに頬を染めながら頷く唯のおでこにキスをすると、リトはそのまま唯をベッドに寝かせた

ふわっと広がる長くてキレイな髪が白いシーツにより一層、映える
下半身をもじもじさせながら、リトの事をジッと熱っぽく見つめる唯
リトは唯に覆いかぶさった
手は自然と胸へと這わされる
「ン…」
服の上から一撫でするだけで、ピクンと反応する身体
唯の身体はすでに準備万端だった
胸だけじゃない。今はどこを触られても感じてしまうほどに
服もブラジャーも身に着けている物全てが、窮屈でたまらないと思ってしまう
(結城くん…)
唯はもうリトが欲しくて欲しくてたまらなかった
ギュッと抱きしめ合って、たくさんキスをして、そして────
とろけきった心と体が唯をいつも以上に後押した

唯の手がモゾモゾとリトの下腹部へと伸ばされる
「え…」
リトの目が丸くなる
唯は下からジッとリトを見つめながら、ズボン越しにすっかり膨れ上がったモノを手で擦っていた
「ちょ…ちょ…唯!?」
唯の息は荒い。そればかりか目も熱を帯びて潤んでいる
リトはゴクリと喉を鳴らした
(マジかよ…)
あの唯が求めてきている
今まで少なからずそういった事はあったが、こんなにも直接的な事はなかった
唯は我慢できないのか、すでにベルトに手を掛けてすらいる
「ゆ、唯? お、落ち着けってお前…」
「嫌っ。私ばっかり…」
リトを見つめるその目はどこまでも真剣で、そして純粋なものだ
「…セックスしたいの」
「え?」
「結城くんとセックスしたいの」
「セ、セックスって…」
唯はリトから目を背けた
唯の顔は耳まで真っ赤になっているし、目だってもう泣き出しそうなほどだ
自分で何を言って、何をしようとしているのか唯はみんなわかっていた
わかっていても自分を止められない
寂しかった時の想いが唯の中で溢れかえっていた
寂しくて辛くて、でも今はリトがいて
たくさん想ってくれて、いっぱい好きをくれて
普段口に出せない気持ちや想いが唯を動かす
唯は止まっていた手を動かすと、カチャカチャとベルトの留め具を外していく
「唯…」
もう唯はリトの顔を見ていなかった
恥ずかしさを隠す様に、自分を鼓舞する様に、ズボンを脱がす事に必死だ
留め金はすぐに外され、ズボンのジッパーに唯の指がかかる
「も、もういいって!」
「……」
「あ…後はオレがするからさ」


唯はコクンと首を振ると、黙ってリトから手を離した
いそいそと体を起こすと、チラチラと唯の顔を見ながらリトはズボンを脱いでいく
心臓はバクバクと高鳴り、手には汗を掻いている
(何でオレこんなキンチョーしてんだ!?)
いつにない唯の行動がリトを昂らせていた

ズボンを脱ぎ終わったリトが振り返ると、唯はカバンの中から何かを取り出しているところだった
「まさかホントに使うだなんて思っていなかったわ」
などとブツブツ言いながら取り出したのは、ソファーで見たコンドームの箱だ
「セ、セックスはするけど……ちゃ、ちゃんと付けなきゃダメだからね!!」
「そんなことわかってるよ」
顔を赤くしつつ明後日の方向を見ながら箱を手渡す唯に、リトは苦笑を浮かべた
さきほどの積極的な行動がウソの様に、ベッドの上で正座しながら体をもじもじとさせる唯
そんな唯を見ながら箱からゴムを取り出していると、ふいにリトの脳裏に良からぬ事が浮かんだ
「なあ、唯」
「何?」
「コレさ、お前が付けてくれねーかな? ほら、そっちの方がうれしいってゆーかさ…」
「ななな、何でそうなるのよ!? いいから早く付けなさいよっ!」
真っ赤になりながら腕までぶんぶん振って声を荒げる唯だったが、体のうずきは収まりそうにない
下唇を噛み締め、リトの様子をチラチラと窺いながら、太ももをすりすりと擦り合わせ、必死に我慢している
「やっぱ、ダメ?」
「あ、当たり前…でしょ! そ、それより早くしなさいよね…」
消え入りそうな声で話す唯に、リトは更に突っ込んでお願いしてみる
「オレ、唯がそーいうコトしてくれたらすげーうれしいんだけど…」
「…ぅ…」
「ダメ?」
「…う…ぅ」
「ダメ?」
何度もお願いしてくるリトにしびれを切らしたのか、唯は膝立ちになると、リトのそばに寄せた
「お!」
パァっと顔を輝かせるリトに対し、咎める様に唯はその目をすっと細めた
「言っとくけど、今日だけ! 今日だけなんだから、ヘンな勘違いしないでよね!!」
「わ、わかってるけどさ、やっぱうれしいっつーか…」
引きつりぎみの笑みを浮かべながらも、リトはなんだか本当にうれしそうだ
「それにほら、前までお前ってこういうの嫌いだったのにさ、
ちゃんと避妊とかまで考えてるって事は、お前もしたかったって事…」
四角いビニールの袋を破りながら中身を取り出そうと、それまで黙って聞いていた唯の手がピタっと止まる
「そ、そんなワケないでしょ!? これはお兄ちゃんが入れた物だって、何回言わせれば気が済むのよっ!!」
「そ、それはもうわかってるって」
「わかってないわよ! じゃあ、どうして私がそんなハレンチな事したいだなんておかしな事言うワケ?」
「へ? だって、ホントに嫌ならウチに置いて来るか、途中のゴミ箱にでも捨てればいいじゃん? 
でも、捨てずに持って来たって事はやっぱ…」


リトの一言一言に唯の顔がみるみる赤くなっていく
そうなのだ
結局、捨てずにここまで持って来てしまった唯
本当は下着だって、お気に入りのまだ一度も付けていないものだった
リトはまるで気付いた様子はなかったが
唯は自分の気持ちを誤魔化す様にビニールの袋を破くと、いそいそとリトに詰め寄った
「唯?」
「い、いいからもっと寄りなさいよ」
「あ、ああ」
ずいっと目の前に出されたリトの反り返ったモノに唯の顔が自然と引きつる
何度も見てるはずがまるで慣れない
鼻に付く牡の匂いに、ビクビクと脈打っている太い血管の数々
「うぅ…」
見ない様に見ない様にと唯は、リトの亀頭にコンドームをかぶせていった
薄いゴムがピッタリと肉棒に張り付き、まるで付けていないかの様に、わずかなゴムの光沢を見せている
(な、な、何でこんなモノ……お兄ちゃんのバカーー!!)
心の中でそう叫ぶも、上から感じる視線に唯はハッとなる
「あ…あのさ唯、これって…」
「ち、違うの! 私が選んだんじゃなくてお兄…」
「わかってるって! だからそんな大声で怒んなよな…」
唯ははいお終い! とばかりにリトにそっぽ向けるとムスっと顔をしかめた
甘えたり、拗ねたり、求めてきたり、怒ったりとリトのする事全てにコロコロと変わる唯
(また怒らしたのかな?)
リトはそっと唯の腕を掴むと自分に顔を向けさせる
「……何?」
「その……しよっか?」
唯は何も返事をせず黙ってリトの顔を見つめた後、ベッドに体を寝かせた
「唯?」
唯は視線だけをリトに向けた
「ゆ…」
その視線はリトから全ての言葉を奪い取っていった
そこに寝ているだけの唯にリトは純粋な美しさを覚える
可愛くて、綺麗で、怒りんぼで、そして少し甘え下手で
高鳴る気持ちそのままにリトは唯に体を寄せた
ハイソックスに包まれた足を持つと、唯は緊張からか少し体に力を入れてしまう
リトは緊張をほぐす様に、何度も唯の足や膝小僧を舐めていく
「ン…」
次第に力が抜けていき、リトはその隙を付いてゆっくりと脚を広げていった
薄く口を開ける割れ目は、さっきの愛撫で、すっかり入口をヌラヌラと光らせている
リトが身体を寄せると、とろりと割れ目から密が溢れて来た
まるで早く欲しいと言わんばかりに
リトは一段と大きくなった肉棒を手に持つと、入口に近づけていく
近づく感触がわかるのか、唯の息が荒くなっていく
肉ヒダに先端が触れると、ヌチャっと愛液が糸を引いた
(もうグチュグチュになってる)
リトは手を動かすと、割れ目に沿って先っぽを擦っていく
「ん…あ」
ピクピクと震える唯の下半身
溢れた愛液でリトの先端はどんどん濡れていった
「ゆ…結城くん…」
もじもじと体を揺らす唯。もう待てないのか、その顔は苦悶に歪んでいる
「もぉ、焦らしちゃやだァ」
「…わ、わりィ。じゃあ入れるな?」
「あ…う、うん。ゆっくりね!」


唯の返事を待つと、リトは入り口を広げながらゆっくりと挿入していった
「あ…うぅ…」
唯の手がシーツを握りしめる
久しぶりの感触に体が痛みとも気持ちよさとも取れる感覚を唯に伝える
「大丈夫か?」
「へ…平気!だから…このままお願い!」
少し苦しそうな唯にリトはためらいがちに腰を動かしていく
「ん…ぁ…ふ…」
本人の苦しさとは裏腹に、膣内はキューっとリトを締め付けていった
膣壁が波打ち、リトを奥へ奥へ導こうと急かす
「や…やばッ」
背中にゾクゾクと電気が走った
まだ半分しか入れていないのに、リトは早くも射精感が込み上げて来てしまう
少し不安そうに見つめる唯に愛想笑いで応えるリト
だが、込み上げる欲望と、その焦りで、リトは一気に挿入してしまった
「あっ…くぅ」
唯の腰はビクビクと浮きあがり、半開きの口からは涎がこぼれ落ちている
「わ、悪い!」
咄嗟に引き抜こうとするが、それが仇となってしまう
「ん、ン…あぁあ、あ」
カリが唯の敏感な部分を擦り上げ、竿全体が肉壁をめくり上げる
一度の出入りだけで二度絶頂してしまった唯の身体は悲鳴を上げた
「は…はぅ、は…ぁ…」
シーツには唯の爪痕が刻まれ、その身体は小刻みに震えている
亀頭だけを膣内に残したリトの竿は、唯の本気汁で白くテカっている
「だ…大丈夫か?」
身も蓋もない言葉をかけるリトに、唯は震える口でなんとか返す
「バ…バカぁ」
手を伸ばそうとするも途中でふにゃんと折れてしまう
痙攣を繰り返す体には、まったく力が入らないのか、口元からとろりと唾液が滑り落ちた
リトは唯に覆いかぶさると、舌を使ってその唾液を掬い取り、そのまま口内へ持って行く
「ん…あふ」
突然のリトの行為に、唯は最初戸惑うも次第に舌を絡ませ始める
「ん、ちゅ…ぱぁ…ンン…はふ、ン…」
いつしか手を繋ぎ、指を絡ませ合いながら互いの口を貪るリトと唯
唾液の糸を何本も引かせながら、リトは唯から離れる
「やっぱ、お前の口ってすげーうまい」
「…ヘンな事言わないの」
唯はハニカム様に頬を染めると、口元についた唾液を指で取り、それを舌の上に這わせた
小さくクスっと笑う唯
淫靡さの中にすらある唯のたまらなくかわいい笑顔にリトの理性は崩壊する
リトは自分のモノを手にすると、唯の顔を見ながらその位置を確かめる様に何度も入口に押し付ける
「ン…あっん、そこ…違う」
「ここ…?」
唯はコクンと首を振ると、リトの首に腕を回した
ヌプヌプと音を立てて熱い肉棒が膣壁を押し広げていく
「あ…ン、うぅ」
再び感じる苦痛と快楽がごちゃ混ぜになった感覚
唯はリトを抱きしめた
「今度は大丈夫だから!ちゃんとするよ!」
「…当たり…前でしょ。優しくしなきゃダメだからね!?」


息を切らせながらも普段と同じ様に振る舞おうとする唯に、リトは苦笑した
リトのモノが根元近くまで入っていく
その動きに合わせる様に、唯はリトを上に乗せながら大きく深呼吸した
首にあたるリトの荒い息
すぐにでも打ち付けたいのか、リトの腰はぶるぶると震えている
「す…げー! お前の中、ピクピク痙攣しっぱなしだぞ?」
「ゆ、結城くんが乱暴にするからでしょ!?」
そう言いながら唯は足をずらすと、リトの腰にゆっくりと回していく
お尻に感じるハイソックスの感触にリトは顔をニヤケさせた
「動くな?」
「う…うん」
唯が言い終わるより早くリトは腰を動かした
パチュン、パチュンと卑猥な音を立てながら、リトは唯の中を掻き回していく
ネットリとした愛液と肉壁が出て行こうとする肉棒に絡みつき
また入ってくる肉棒を今度は離さないように締め付ける
「あ、あ…ふっ…や…」
リトが動く度に、唯の声がどんどん高くなっていく
リトを抱きしめる腕に力がこもり、その体を離さないように締め付ける
唯の腕と膣の抱擁に、リトは唯の首筋に顔を埋もれさせながら幸せいっぱいに笑った
「すげェ……気持ちよすぎ! 全部持って行かれそうになっちまう」
リトは手を伸ばすと、唯の頭をギュッと抱きしめる
「唯…」
「ン、あふ…あっ…あっ」
唯の体がますます熱を帯び、背中に回した腕に力がこもる
「あぁっ…あぁん…いい…わよ」
「え?」
「結城くんの好き…に動いても」
リトは腕に力を入れると上体を少し起こす
「いい…のか? その、好きにしても?」
唯はしばらくリトの顔を見つめた後、ふいっと顔をそらした
「そ…そんな事、聞き返さないでよ…」
ほんのりと赤くなっている唯に苦笑すると、リトは唯のおでこにキスをする
「ん!」
離れていくリトを名残惜しげな視線で見つめる唯
唯はリトのぬくもりが残る体を服の上から指でなぞっていく
その仕草がリトにはとても艶かしく映った
唯の細い腰を両手で掴むリト
もう繋がっているだけでは満足できない
キスも抱擁も甘い言葉でも
唯を内から外から、唯の全てを貪りたいと思った
ゆっくり入口ギリギリまで引き抜くと、今度は勢いを付けて突き入れる
「うっ…くぅぅ…」
一回動くだけで唯の口から高い声が上がった
とろけきった目に、上気して赤くなった頬
握りしめた手も、たぷたぷと揺れる胸も
久しぶりの感触というより、全てが新鮮に感じる
リトは夢中になって腰を打ち付けていった


「結城…くん」
「ん?」
リトは腰の動きをゆるめると唯の顔を覗き込む
「どした?ひょっとして痛かったとか?」
「ち…違…そうじゃなくて…」
「へ?」
唯は胸に手を当てると言い難そうに頬を染めた
「ムネ…ちょっと窮屈だから服、脱ぎたいの」
「え!? あ…ああ! わ、わかった」
リトは慌てて唯から離れようとするが、ふと何かを思い付いたかの様に動きを止めた
「何なの?」
「あのさ、オレが脱がすのってダメ?」
「え!? あ…あなたが!?」
ニコニコと楽しそうに笑っているリト
そんなリトを少し訝しむも、唯は小さく首を振った
リトは再び唯の覆いかぶさる
「じゃあ、オレの背中に腕回して?」
「こ、こう?」
言われたとおりに腕を回す唯に頷くと、リトはそのまま唯を抱えて体位を変えた
「キャ…ちょ…結城くん!?」
腕の中で慌てる唯を強く抱きしめると、リトはベッドの上に座りなおす
上と下から、向き合う形の対面座位に
「もぉ、するならするでちゃんと言ってよねっ!」
「わ、わりィ」
悪戯っぽく笑うリトに唯は鼻を鳴らすと、背中に回していた手をリトの肩に乗せた
強がっている反面、唯の顔は歪んでいる
体位を変えた事により、あたる角度も感じ方も変わる
反射的に腰を浮かしているが、唯の下腹部は早くも限界なのかぶるぶると震えていた
リトは唯のくびれの部分に手を当てる
「ん…くっ」
「我慢しなくてもこのまま腰沈めろって!」
「が、我慢とかじゃないのっ」
間近でムッとリトを睨むが、いつものような怖さは微塵もない
すぐに顔が歪み、肩に置いた手が震えだす
「ゆっくりでいいから」
「…うん」
リトに後押しされる様に、唯の腰がゆっくりと沈んでいく
「あ…ふぅ」
さっき以上に奥へと入って来る熱い肉の感触に、唯はギュッと目を瞑った
ズプズプと肉壁を押し広げて入ってくる肉棒は、やがてもう一つに入口にあたる
コツっという音と共に、唯は体を仰け反らせた
「あはぁ…あた…あたって…」
「オレのちゃんとあたってる?」
コクコクと何度も首を振って応える唯
リトは笑みを深くすると、腰から背中まで唯の身体を撫で回した
ふるふると震え出す唯の体
「結…城くん、お願ぃ…だから、服脱がして! 体が熱くて…」
肩に置いた手にはすでに力が入っておらず、枝垂れかかる様に唯はリトの胸に頭を乗せていた


リトの手がするすると服の中へ入っていく
背中に感じるその手の感触に唯は息を熱くさせた
「手、バンザイして」
唯は言われたとおりに腕を上に上げた
服を脱がすと、その下からショーツとお揃いの柄をしたブラジャーが現れる
フリルとリボンの付いた可愛らしい白い色のブラ
それをジーっと見ているリトに何を思ったのか、唯は顔を真っ赤にしてリトに噛みつく
「い、いいでしょ別に!? 私だって…」
「ちょ…何も言ってねーだろっ!!」
フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向く唯
(ったく…)
リトは半眼になりながら背中に手を回すとホックに指をかける
「で、取っていいのか?」
「……好きにしたら」
まだ機嫌が直らないのか唯の声は相変わらず尖ったまま
そんな唯の顔をしばらく見つめた後、リトはホックを外した
ポロリと外れるブラの下から、少し大き目だけれど、形の良い、白くて柔らかそうな胸が現れる
瞬間、ぽぉ~っと唯の頬が熱を帯びる
唯は恥ずかしさで顔をしかめた
リトはその横顔を見つめながら、乳房へと口を近づける
「…ムネ、舐めていい?」
「ダメ…」
短くて熱のこもったその声を無視する様に、リトは乳房へと吸い付く
「あ…ふっ…」
胸の一番敏感な部分へ吸い付くリトに、唯の肩は小刻みに震える
すでに赤く充血している乳首がリトの舌で転がされる
レロレロと舌で転がしたかと思うと、リトはいきなりむしゃぶり付いた
母乳を飲む様に乳首を吸い上げ、舌で何度も乳輪に円を描いていく
唾液でヌラヌラと濡れる乳房
リトは反対の胸に手を這わせると、思う存分揉みしだいていった
手の平の中でたぷたぷと揺らしながら、強く優しく弄ぶ
上下左右に弄られる乳房に、しゃぶり続けられる乳首
唯の口から自然と甘い声がこぼれ、太ももをもじもじとさせる
下腹部を休ませているリトを促す様に
リトの腰がそれに応える様に、少しずつ動いていった
結合部からはヌプヌプと卑猥な音が鳴り、唯の体は上下に弾む
「ンあ…く…ぅ、ああ…」
パチュン、パチュンと肉と愛液が絡み合い二人を昂らせる
リトは胸から離した手で、唯の腰を掴むと、更に奥へ深く突き入れていく
「ゆ…結城、くん! 深…あたって…あふぅ」
コツコツと子宮口に当たる度に唯の体は小刻みに震える
「お、奥…ダメっ! ダメぇ…結城くんっ!!」
「何だよ? もっと、もっと?」
「違…ンン!」
下腹部を襲う強烈な刺激に我慢できなくなった唯は、リトの首に腕を回し、その体を抱き寄せる
ムニュっと両頬に伝わる柔らかい乳房
胸の谷間を伝う汗を舌で舐め取ると、唯はますます腕に力を込めリトを抱きしめた


「あ、あのさ、これ気持ちいいんだけどさすがに苦しいってゆーかさ…」
胸に顔を埋めながら、くぐもった声を出すリト
唯はリトを抱きしめたまま、何も答えない
快感に全身を支配され、それどころではないようだ
(って全然、聞いてねー…)
それをいい事に、腰から離れたリトの手がするすると結合部へと伸ばされる
剥けた肉皮から顔を覗かせている赤く充血したクリトリス
チラリと上目遣いで確認するも、唯は気付いていない
リトは指の先で軽くクリトリスを押した
「ひゃっ…」
ビクンとリトの膝の上で、唯の体が跳ねる
リトは小さく笑うと、親指でグリグリとクリトリスを押しつぶしていった
「ああぁあ…くぅぅ…ンっ」
唯の中でいままで以上の波が全身に広がっていく
リトを抱きしめるその手がぶるぶる震え、奥歯がカチカチ鳴り出す
「ゆう…結城くん、やめ…それやめてぇ! ダメぇっ!!」
下腹部に集中する激しい刺激が唯の理性を溶かしていった
一瞬力が抜け、そのまま後ろのベッドに倒れようとする体を、なんとか後ろに手を付くことで防ぐ唯
角度の変わった体勢が、唯に新しい波を与えていく
奥へ奥へと子宮口を責めながら、リトは人差し指でクリトリスを転がしていく
ぐちゅぐちゅと肉棒が突き入れられる度に、秘所から白くなった蜜がシーツを汚していった
「す、すげーやらしい…」
ヌラヌラと輝く結合部にリトはゴクリと唾を飲み込んだ
「丸見えになってる。オレとお前のが」
「え…?」
口から涎をこぼしながら唯は、何気なくリトの見ている方へ視線を辿っていき────
とたんに火の出た様に顔を真っ赤にさせてしまう
少し唯の体が後ろに下がることで、二人の間に空間が出来き、結合部が丸見えになってしまっていた
「見える? オレのと繋がってるとこ」
「こ、こんなのハレンチすぎるわっ!!」
声を大きくさせて視線をそらす唯に、リトはぷっと吹き出す
「でもお前、腰動かすのはやめないんだな? すげー気持ちよさそうな顔してるぞ?」
「うぅ…」
唯は苦い顔をしながら、そっぽを向く
「気持ちいんだ?」
ギュッと目を瞑ってリトの言葉をやり過ごす唯
けれど体は正直だ
こんな時ですら、もっと、もっととリトを要求して止まらない
次第に、唯の口から嬌声が上がる
「すげーハレンチな声」
クスっと笑うリトに顔を耳まで赤くさせる唯
「違…違うの! これはっン…く違っ…」
シーツを握りしめる手に力が入る
快感と羞恥心が唯の体をどんどん昂らせる
ぞわぞわと膣壁が蠢き、竿を離さないように締め付けていく


腰をガクガクと震えさせる唯に、リトも額から汗を垂らしながら笑みを浮かべた
「もうイきそう?」
顔を赤くさせながら口を結ぶ唯
けれど、その目はチラチラとリトを見ては何か言いたそうだ
リトは溜め息を付くと、腕を伸ばし、唯の体を抱き寄せた
「ホラ、これでいいんだろ?」
リトにその身を抱きしめられ、その肩に額を乗せながら唯は小さく頷いた
「オレも。もうイきそう」
「う、うん」
唯はリトの首に腕を回してしがみ付くと、足を腰に回し、体をぴったりくっ付けて離れない様にする
胸板に柔らかい胸が押し付けられ、体が下から突き上げる度に、上下左右に形を変えていった
耳に直接聞こえる、唯の喘ぎ声
とろける様な甘さの中に熱がこもっていて、その声で必死にリトの名前を紡ごうとする唯
リトの中で我慢して抑えていた欲望が鎌首をもたげる
「も、もう出そう…」
「え? あ…ま、待って!」
何? と目で聞いてくるリトに唯はぽそぽそと小さな声で呟く
「キ…スし…」
「へ?」
「う…ぅぅ……キ、キスしながらじゃないとダメ」
狂いそうになる快楽の中、唯は目をギュッと瞑ると大きな声で口した
恥ずかしくて隠れたくなるほどの自分の気持ちを
今だって真っ赤になった顔をリトの首筋にうずめながら、必死にリトの返事を待っている
そんな唯にリトは屈託ない笑みを浮かべると、頭にそっと手を置いた
「オレもお前とキスしたい」
「え?」
ゆっくりと顔を上げた唯は、恥ずかしさで目がうるうるとなり、口だって小さく震えている
まるでいけない事を言ってしまった子どもが、怒られてしまうのではないかとビクビクしているかの様に
そんな唯の頭を撫でながら、リトはやさしく笑いかける
「キスしよ? 手も口もあそこも全部お前と繋がったままがいい!」
「…う……うん! うん!」
何度もコクコク首を振る唯にクスっと笑うと、リトは唇を重ねた
舌を絡め合い、唾液を交換し、口内を貪り
それらが結合部から聞こえる水音と合わさり、二人を淫靡に染め上げる

お互い口を離すと、おでことおでこをくっ付け合って、至近距離で見つめ合う
「ぷは…はぁ…んっは…ぁ…」
「…またキスする?」
とろんとなった顔のまま、唯は「うん」とだけ返事をした
顔を近づけながらリトはふと気づいた事を口にする
「思ったんだけどさ、キスはできても、手を繋ぎながら抱き合うのはムリ…だよな?」
「……なんとかしなさいよ」
「ムチャ言うなって」
苦笑いを浮かべるリトだったが、思いついた様に声を明るくさせた
「じゃあ、一回目はギュッと抱き合いながらしよ?手、繋ぐのは次って事でいいか?」
「…まだする気なの?」
「ダメ?」
バカ! っと小さく呟くと、唯はリトの体をギュッと抱き寄せた
胸に当たるやわらかい感触、火照った白い肌にしっとりと光る汗、
ほのかに香る唯の匂いに、リトの顔はほころぶ


「やっぱ最高」
「何が?」
「ん? いろいろだよ!」
「何よそれ? どうせまたおかしな事考えてるんでしょ?」
「ハハ…」
図星を付かれてつい苦笑い浮かべるリトの耳に手を伸ばすと、唯はギュッと耳を引っ張った
「い…いてぇ! ゆ、唯!?」
「おかしな事考えないでちゃんとしなさいよ! 私……もうガマンできないんだからぁ」
「そだな! オレももう…」
休めていた腰を再び動かすと、それに呼応するかの様に唯の腰を動いていく
すぐに忘れかけていた欲望が首をもたげ、リトは奥歯を噛み締めた
狭い膣の中でどんどん大きくなるリトの感触に唯の腰がガクガクと震える
「あ…ふぅ…結…城くん、結城くん…」
「唯…唯…」
互いの名を呼びながら、背中に回した腕に力をこめて抱き合う
苦しいけれどうれしくて、幸せで
ベッドをギシギシと軋らせながら、お互いを求める手は離さない
「唯…オレもう…」
「ん…うん! 私も…い、一緒に……一緒がいいのぉ…」
リトの腕にさらに力がこもると同時に、膣内がざわざわと蠢きリトをギューっと締め付けた
「結城…くん!! あ…ふ…あぁ…ぁあああ」
「で、出る!!」
ビュクビュクと勢いよく飛び出た欲望はゴムの中に溜まり
リトは腰を痙攣させながら荒い息を吐いた
「はふ…はぁ…は、は…ぁ…すごく…熱い…結城くんの…」
薄いゴム越しに伝わる熱い感触に、唯の口から涎がとろりとこぼれ落ちる
腰はビクビクと痙攣を繰り返し、体の震えは止まらない
「平気か?」
焦点が定っていないかの様にぼぉーっとなっている唯にリトは体を寄せた
断続的繰り返される荒い息遣いに、小刻みに痙攣を繰り返す下腹部
心配そうにジッと眺めるリトに、唯はゆっくりと向き直ると、本当に小さく笑った
「……結城くん、キスして。いっぱいギュってして」
一瞬、目を丸くさせたリトだったがすぐにニコッリ笑うと、薄く開いたままの小さな唇にキスをした
「ン…ん…ん」
汗で濡れる唇はいつもと違い少ししょっぱくて、抱き寄せた体はしっとりと濡れていてあたたかい
舌も愛撫もなにもない、ただ、余韻を味わうためだけのキス
顔を離した二人はどちらともなく、くすぐったそうに笑った
指で髪の毛を梳きながら、手で背中を撫でながら、ほっぺたにキスを繰り返しながら
二人は互いの顔をジッと見つめた
お互い肩で息をしながらも、恍惚な表情を浮かべている
唯はチラリと視線を下に向けた
まだリトと繋がっている結合部。そして、ビクビクと脈打っている熱い感触
「まだビクビクしてる…」
「ゴメン、久し振りだから…」
バツが悪そうな顔をするリトに、唯はクスっと笑いかける
「でも、気持ちよかったわよ。私も」
「唯…」
照れた顔を見られまいとリトを抱き寄せると、唯はその余韻を楽しむ様に、
リトの匂いで胸をいっぱいにさせた


ケータイを耳に当てながら、美柑は顔をムスっとしかめた
リトへの電話はこれで五回目
ちっとも出る気配のない兄に、美柑は電話口の向こうに愚痴を吐く
「ねェ、また出ないの?」
「…うん」
美柑はケータイを閉じると、隣を歩くララに向き直る
「ダメ。全然でない」
「む~…何やってるのかなァ。リト…」
「ホント、何やってるんだか」
美柑は可愛い眉を寄せると、ふいにララの手を取って歩き出した
「いこ! ララさん」
「え? いいの? だって今日…」
ララのくもりがちな声に美柑は思わず表情を崩してしまう
今日は美柑の案で、久しぶりにリトの好きな夕食にしようと買い物に来ていたのだが
リトの好きなメニューが多すぎなため、本人に今日は何食べたい? 
と、それとなく聞こうとさっきからケータイを鳴らし続けていたのだが……
一度止まりかけた足を再び動かすと、美柑はララを連れてさっさとデパートから出て行こうとする
「美柑…」
「い…いいの! いいの! ほっとこ!! あんなヤツ…」
「む~…リト何してるのかな……」
ララは美柑に手をぐいぐい引かれながら、俯きぎみのその横顔を見つめた

「や、めっ…ぁ…も、もう、限界だって…」
唯のお尻を両手で揉みながら、リトは夢中で腰を突き入れる
前後に体が揺さぶられる度に、唯の胸がたぷたぷと震えた
「ゆ…結城、くんっ!! あ…ふ…ああぁあ」
リトの方を振り返るも、下腹部を襲う電流の様な波に唯はギュッと目を瞑った
もうこれで何度絶頂を迎えたかわからない
何度体位を変え、何度白濁した欲望をかけられたか
床には拭き終えたティッシュがいくつも転がり、汚れたコンドームがヌラヌラと輝いている
リトも唯も、互いの体を心を貪るように交り続ける
腕から力が抜けていき、唯の上体はくてっとベッドに沈みこんだ
下半身はリトに支えられたまま、ビクビクと痙攣を繰り返している
「は…はふ…はぁ…」
汗に濡れた前髪をおでこに張り付かせながら、全身で息をする
唯はゆっくり首を動かすと、後ろのリトに視線を向けた
自分を心配そうに見つめるリトは、それでも「動いていい?」と言わんばかりの顔をしていて
「も…もうムリよ…。これ以上はホントに…」
消える様なか細い声がリトに聞こえるはずもなく、リトはゆっくりと再び腰を動かしていった
「ん…くぅ…」
また唯の体にざわざわと波が波立ち始める
敏感になっている膣内は容易に唯を昂らせた
「結城…くんっ! まだダメ…ダメだってばっ!!」
ギュッとシーツを握りしめる唯
ぐちゅぐちゅと肉棒が膣内を掻き回していき、結合部から精液と混じり合った愛液がとろりとシーツに滴る


「結…城くん、嫌ぁ…こんなカッコでするのぉ…ン…」
リトは後ろから唯の中に突き入れながら、顔を歪ませる
「こんなカッコって犬みたいなって事?」
唯は息も絶え絶えに首をコクコクと動かす
「なんか犯されてるみたいで?」
「そんな…ン…ン…」
奥歯を噛み締めて何も応えられない唯に代わって、膣内がキューっと蠢く
「お前の膣内、あったかくって、ギュウギュウ締め付けてきて、すげー気持ちいい!!」
すでにコンドームは付けていない
生のままの感触が唯の膣をさらに刺激し、悦びの声を上げさせる
リトは夢中になって腰を動かし、唯の中を掻き回していった
汗でしっとりと濡れた唯の背中には、長い黒髪が張り付き
汗の珠が唯の頬を伝ってシーツにポトポトと落ちていった
リトは上体を屈めると、舌を出し、唯の背中を首筋から腰のラインまで一気に這わせていく
「ひゃ…あぁ…」
ビクンと大きく唯は背中を仰け反らせた
「お前の背中、汗の味がしておいしい」
「バ…バカぁ、何言って…」
震える声でなんとか返すも、すぐに来る快感の波に唯の腕はぷるぷると震える
リトは背中に何度もキスを繰り返しながら、伸ばした手で、唯の胸をたぷたぷと揉み始めた
「や…め…ン、ンン…あぁ…」
手の平全体で揉みしだき、二本の指で乳首を摘み、コリコリと弄るリト
「お前のムネ、やわらかくて気持ちいい…」
耳元でそう囁くリトに、唯はギュッと目を瞑った
「もっと揉んでいい?」
「ダ…メぇ…」
リトは背中にもう一度キスをすると、唯の胸の前に腕を回し、その体を抱き掛かると横にゴロンと寝そべった
「な…結城くん!?」
突然の事に少し不安な声を上げる唯
シーツに擦りつけた左頬を上げると、視線だけをリトに向けた
「大丈夫だって! ちょっと姿勢変えただけだからさ」
「う…うん」
背中に当たるリトの胸のぬくもりに唯は少しずつ平常を取り戻していく
「動いていい?」
「ゆ…ゆっくりね?」
リトは唯の後ろ髪を掻き上げると、赤く上気した右頬に軽くキスをした
それが合図だったかの様に、リトの腰がゆっくりと動き出す
角度の変わった挿入に、初めての体位が二人の感度を上げていく
鼻孔をくすぐる髪の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、リトは再び胸に手を這わしていった
ムニュムニュと柔らかい肉感に、今は火照った温かさが加わり、リトは手の中で思う存分乳房を揉みしだく
「結城…くん……結城くん…ン、ンン」
息を切らせながら何度も自分の名前を呼ぶ唯に、リトはくすぐったい様な笑みを浮かべた
たまらく可愛いと思うと同時に、もうこれ以上離れたくない、離したくないと感じる
リトは両腕でギュッと唯の体を抱きしめた
その体を強く強く抱きしめながら、リトは夢中で腰を振った
痛いほど締め付けるリトの抱擁に、唯の口から苦悶の声がこぼれる
それでも唯は嫌だとは言わなかった
眉を歪め、奥歯を噛み締めながら、ただ、リトに身を任せる
ジュプジュプと繰り返す肉の出し入れに、シーツには大きな染みが広がり
触れ合う胸と背中には、汗がネットリと光っている
全身を体液で染めながら、二人は互いの体を貪り続けた
リトは腕を解くと、唯の太ももに手を伸ばし、右足を持ち上げる


「や…あ…ぁ」
とたんに唯の口から嬌声が上がる
「な…何して…」
「これでもっと奥まで届くだろ?」
頬に当たるリトの熱い息遣いに唯は顔を歪めた
リトは見せつける様に股を広げさせると、深いところまで突き入れていく
「ン…ンン…ああぁあ…」
噛み締める様に我慢していた唯の口から、どんどん卑猥な声が溢れ出す
亀頭が子宮口をノックし、戻る時のカリが唯の敏感な部分を擦っていった
堪らずリトから逃れる様に、体を捩る唯
リトは逃すまいと腕に力を込めて動けない様にする
動けない体に下腹部を襲う電流の様な波。唯はどんどん感度を上げていく
ゆっくりとした動きから、激しい動きへと変わったその変化に、体が過剰に反応する
下腹部を襲う震えは、次第に上へ上へと広がり、唯は全身を激しく痙攣させた
「か…ふぅ…ああぁあ」
一突き一突きがまるで絶頂を与えるような感覚
リトの先端が子宮口を押し広げ、更に中に入ろうとする
(ウソでしょ……結城くんのが…これ以上…)
リトの腕を掴む唯の手に力がこもる
耳に直接聞こえるリトの自分の名を呼ぶ声
(結城…くん…)
白くとろけていく意識の中、それでもその声だけははっきりと聞こえる
唯は自分の指をリトの指に絡ませていった
「唯?」
「…手、繋ぎたい。結城くんの顔、見えないから」
ぼそっとそう呟いた唯の顔は耳まで赤くなっていて、リトは小さく笑みを浮かべた
「じゃー手、繋ごっか?」
「…うん」
リトに背中から抱き締められながら、小さくなる唯
リトはそんな唯の肩に二度三度とキスを繰り返すと、唯から肉棒を引き抜いた
「え…」
離れていくその感触に唯は目を丸くさせた
「結城くん…?」
顔をぽかんとさせる唯に笑みを送ると、リトはその場で脚を伸ばしながら座った
「ほら、おいで唯」
「うん…」
唯は立ち上がるとリトの腰を跨ぎ、自分の腰をゆっくりと沈めていった
「自分でする?」
「結城くんがしなさいよ……今だってすごく恥ずかしいんだからね」
ぼそぼそと文句を言いながらも決して拒もうとしない唯に、リトは苦笑を浮かべた
手をスッと伸ばして、割れ目をゆっくりと広げていく
秘所からこぼれた愛液が唯の太ももをつーっと伝っていく様子に、リトの喉に唾が落ちていった
「じゃ、じゃあ入れるぞ?」
「うん…ン、ンぁ」
短い返事を待たずして、リトは唯の腰を深く沈めていく
すぐに亀頭を咥えこんだ入口は、そのまま残りの竿を咥えようと収縮を繰り返す
「ゆ…ゆっくり…してぇ…」
少し体を硬くさせる唯のお願いに応える様に、リトはゆっくりと唯を導いていった
相変わらず唯の中は狭く、奥へ入っていく度にギチギチと締め付ける
「入っ…たァ」
「うん。お前の中すげー気持ちいいよ」
リトのその言葉に唯はハニカム様に小さく笑った


「唯、手」
「ん…」
伸ばした手と手が触れ合い、指と指とが求め合うように絡み合う
互いを見つめ合いながら、その間を埋める様に、手を握り合う二人
「動いていい?」
「うん…」
リトは勢いをつけて奥に竿を突き入れていく
「あ…ふぅ、あぁあ…」
握りしめる手に力がこもり、唯の体は上下に跳ねた
「おくぅ…奥にあた…ンン…あぁあ」
「奥がいいんだ?」
「だって…こんな…ン…くぅ」
唯の反応に、リトはますます昂る自分のモノを突き入れていく
「ダ…メ…ダメぇ! 奥ばっかり私…ンっ」
「お前の中、ずっと痙攣しっぱなしで、すごい」
「結城くんが…何回も何回も私の事…ン…イジメるからでしょ!?」
リトは少し口を尖らせている唯の手を引っ張ると、腰をぐっと引き寄せる
ヌチャっと音が鳴り、結合部から白濁した本気汁がとろりと溢れ出す
痙攣を繰り返す唯の奥歯は、すぐにカチカチと音を立て始めている
リトは子宮口を押し広げる様に、奥へ奥へと肉棒を突き刺していった
子宮に直接響くリトの肉棒に、半開きになった唯の口から涎がこぼれ落ちる
「かぁ…やめ…ぁ…ああぁあ」
唯の下半身は痙攣を繰り返し、力が抜けた足はだらしなく伸びきっている
パチュ、パチュと水音を鳴らしながらリトは腰を打ち付ける
リトが動く度に、前後左右へたぷたぷと波打つ胸
「す…げェ、お前のムネさっきからムチャクチャ揺れてる」
口の端に笑みを浮かべながら、リトは込み上げる射精感に眉を歪ませた
「もう…出そう」
唯は視線だけをリトに向けた
「お前の中に出したい」
突然、唯の手がリトの手から離れていった
「え?」
キョトンとするリトに唯は何も言わず両手を伸ばす
「唯?」
顔を赤くさせながら、もじもじと体を揺する唯にリトはクスっと笑った
リトも同じ様に両手を伸ばすと、その細い体をギュッと抱き寄せる
「ホラ、これでいいんだろ?」
リトの背中に腕を回しながら、唯はコクンと頷いた
触れ合う頬が唯が赤くなっている事をリトに伝える
(フツーに言えばいいのにホント、こいつは…)
「動いて…」
「ああ。でも、これじゃあ中に出しちゃうけどその……いいのか?」
リトを抱きしめる腕に力がこもり、次第にリトの腰に足を絡ませていく
「え…ちょ…」
「…ちゃんとしなさいよ?」
「え?」
唯は体を少し離すと、真っ直ぐにリトの事を見つめた
「ちゃんとしなきゃダメだからね?」
「ちゃんと?」
それは結婚?責任?それとも別の────
リトを映す唯の目には強い想いが宿っている
リトはコクっと首を振ると、その背中に腕を回し、再び唯をギュッと抱きしめた


数秒で抑えていた射精感が戻ってきた
耳元に聞こえるリトの荒い息遣いに、唯もそれに重ねる様に息を荒げた
リトのモノが膣内でさらに大きくなる
「ン…く…ぅ」
首筋に回した腕に力がこもり、唯は両手をギュッと握りしめた
リトの腰の動きが速くなる。後はもう欲望を吐き出すだけ
唯と呼吸を合わせる様に、唯を促がす様に
肉と肉がパンパンと合わさり離れていく
一瞬ごとに二人の気持ちを昂らせた
「唯…オレ、もうイきそう…」
「う…うん! 私も!!」
リトは唯の奥まで腰を突き刺すと、その中へ欲望を吐き出した
「あ…ふ…ぅ…ン、ンぁああ…」
子宮の壁を叩く精液の奔流に、唯は二度三度と腰を浮き上がらせた
「あ…あ…ぁ…出て…出てる結城くんのが中で…出てる…」
ビュルビュルと勢いよく出た欲望が子宮内に入っていく
膣どころか子宮全体を熱くさせる射精に唯の体がガクガクと震えた
それは、リトの欲望が子宮内に叩きつける様に飛び出す度に続く
二度三度と連続してイかされ続ける唯
ビクビクと下半身を痙攣させながらも、リトを抱くその手は緩めない
「き…気持ち良すぎ…」
その余韻に浸る様にぐったりとしたまま、リトは唯から体を離した
ゴポリと割れ目から白濁した欲望がこぼれてくる
「あふ…は…ぁ…はぁ、すご…い。いっぱい出て…」
子宮に満ちる濃い種と、体を襲う感じたことない快楽に、唯の腕から次第に力が抜けていき
唯の体は後ろにふにゃっと倒れていく
リトは慌てて腕を伸ばすと、途中で唯を受け止めた
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込むリトに、唯はぼそっと呟いた
「さっきみたいにちゃんとギュッてしてくれないとダメでしょ?」
「へ!?」
腕の中の自分を見つめながら戸惑ったように言葉に詰まるリトに、唯はムッと口を尖らせた
「結城くん!?」
「え? あ…は、はい!!」
大きな声で返事をするとリトは、腕の中でまだ小さく痙攣を繰り返すその体をそっと胸に抱き寄せた
「こ、これでいい?」
「……」
「唯?」
「…そんな事聞かないでよ」
「だ、だよな」
リトの肩におでこをトンっと当てながら、表情を隠す様に唯は口を開いた
「それより結城くん、ちゃんとわかってるわよね?」
「へ!? な、何が?」
こんな時まで間の抜けた事言うなんて!!
唯は複雑な気持ちになりながらも、ゆっくりと顔を上げた
どうしても聞かなければならない事があるからだ
肩から顔を上げた唯は、心なしかいつもより小さくなっていて、その細い体が今は震えている
それは、緊張のためか恥ずかしさのためかあるいは────
「唯?」
俯いていた唯は、やがて上気した顔を上げるとすっとリトの顔を見つめた
もじもじと揺れる体は止まらない


「何だよ? どしたんだ?」
「言ったでしょ? ちゃんとわかってるの? って…」
「ん? まー…な」
頬を指で掻きながらリトは、バツが悪そうに笑う
(ホラ、やっぱりわかっていない!)
ふつふつと次第にある感情が湧き上がってくる中
唯はぽつりぽつりと話し始めた
「結城くんは私を一人するし」
「う…だ、だから悪かったって謝ってるだろ?」
「全然、電話もくれないし」
「だから…」
「あんなに約束したのに…」
自分の体を抱きしめる様に唯は胸の前で腕を組む
チラリとリトに視線を送りながら、小さく、だけどはっきりと告げる
「私の中にあんなに出して……。赤ちゃん出来てもしらないんだから」
「そ…それは……」
あたふたと一人テンパるリト
唯は長い睫毛を伏せながらポツリと呟いた
「……ねェ結城くん。結城くんは、私のこと幸せにしてくれるの?」
窓から吹き込む春の風が、唯の髪を撫でていく
ほのかに香る唯の髪の匂いの中で、リトはただ唯の事を見つめていた
「しあわ…せ?」
「そう。ちゃんとしてくれる?」
気持ちを確かめるために、気持ちを知るために、リトの顔を覗き込んでその答えを待つ唯
そんな唯にリトははっきりとした口調で答えを返そうと思った
「そ、そんな事は当りま……ぇ…」
けれど言葉が小さくなって消えていく
唯を幸せにする
そんな事は当たり前だし、いつもどんな時だって想ってる事だ
だけど、なぜかこの時は、その事を軽々しく口に出してはダメだとリトは思った
唯は怒ってるでも、悲しんでるでも、拗ねてるワケでもない
どこまでもいつも唯で、いつもの顔で
だけど、その目だけは今日は違った
透き通るような黒い瞳はリトだけを見ている
他の物は見ていない。ベッドも、枕も、部屋も壁も全て映っていない
リトだけをその目に映している
「結城くん?」
この時になって初めてリトは気付く
淡々とした声の中に、唯の期待と不安が混じっている事に
それは、ひょっとしたらリトにしかわからないほどの小さな事なのかもしれない

──ちゃんとしなきゃダメだ──

頭ではなく心がそう言った
今言わないときっと次はない
次に期待なんかしてたらダメだ、と
開いたり閉じたりそわそわさせていた手を一度握りしめると、唯の顔を真正面から見つめる
「…しょ、正直よくわかんねェ…。お前の事好きだし、これからも一緒にいたいって思ってるけど
、お前の事ちゃんと幸せにできるかどうか……わかんねェ…」
「……」


「オレがお前にできる事っつったら、休みの日にデートに行って、買い物して、
ケーキでも食いながらお前と話して、んで…ウチに帰っていっぱいエッチして…
誕生日とか記念日とか何か行事とかあれば二人でお祝いして…
すげー背伸びして、高いとこでメシ食ったり、お前の欲しい物とかガンバってプレゼントもするけどさ」
リトは俯いていた顔を上げると、バツが悪そうに頬を指で掻いた
「…オレ、これからもお前にこれぐらいしかしてやれないと思う…。情けねーけどさ」
「ホントね」
黙ってリトの話しを聞いていた唯は小さく笑って応えた
「ハハ…ハ…」
リトの口から力ない溜め息がこぼれた
「…それがあなたの言う幸せにするってコトなの?」
「その…」
言いよどむリトに唯は体を寄せるとその顔を覗き込む
「そうなの?」
「…ゴメン。オレにできる精一杯の事だと思う…」
「そう…」
リトは何気なく唯の顔を見た
唯はいつの間にかジト目になって自分の事を見つめていた
「え?」
「普通、こういう時ってもっと大きな事を言うものじゃないの?ウソでも冗談でも」
「ええ?」
「『毎月必ずおいしいところに連れて行く』とか『旅行は毎回私の行きたいところでいいよ』とか」
「え…あの…」
「せめて『世界で一番幸せにする!!』 ぐらいは言いなさいよ!!」
「確かに…」
ガックリ力なく項垂れるリト
そんなリトに唯はクスクスと笑みを浮かべた
(ホント…こんな時でも『いつもの結城くん』なんだから)

いつまで経っても変わらないリト
変わって欲しくないと感じるリトの好きなところ

唯は両手をすっと伸ばすと、リトの両頬をムギュっと引っ張った
「へ!?」
左右に引っ張られながら、リトの頬がどんどん赤くなっていく
「な、何だよ? いたひって!!」
痛がるリトに対し、唯はムスっと頬を膨らませながら手の力を緩めない
「唯!?」
「お返しよ! 私の事、散々イジメたんだからこれぐらい当然でしょ!」
フンっと鼻を鳴らしながら要約リトのほっぺを解放する唯
キリキリと痛む頬を手で擦りながらリトは、口を尖らせた
「ってぇ……。あのな、イジメたとか言うけど「甘えたい」とか「好きに動いて」とか言ったのお前の方だろ?」
「だから何よ?」
「全然甘えてこないお前が悪いんじゃねーのかよ?」
「ななな、何を言って…そんなのあなたが……う……うぅ…」
次第に動揺する様にふるふると揺れていた目に、やがて薄っすらと涙で滲んでいった
「あ、あれ?」
キョトンするリトの胸に唯はポスンっと握った拳を当てた
「な、何だよ?」
「そ…それならそれでちゃんとリードしなさいよね!」
「そ、それはまあ…」
リト自身テクがあるワケでもない。ましていつも緊張と興奮でいっぱいいっぱいになってしまう


唯はポカポカとリトの胸を叩き続ける
「だいたい、私を不安にさせないんじゃなかったの? 寂しい時はどうするのよ?
私を一人にしないって! 私にちゃんと好きって言うってそう約束したじゃない!!
私まだ、許したワケじゃないんだからね!?」
「わ、わかってるって! でも……あれ? お前、ちっちゃくなった時の記憶なかったんじゃ…」
「黙って!!」
顔を俯かせながら唯は一際大きな力でリトの胸を叩いた
「そんな事どうでもいいの! それよりちゃんと反省しなさい!!」
「で、でも今はこーやって一緒にいる…」
「今はでしょ!! ……過去は取り戻せないんだからね…、その時の寂しさとかは消えないんだから…」
俯く唯の頭にリトはそっと手を置いた
「…何?」
「取り戻せないし、消せないかもしれないけどさ、だからその分オレが思いっきりがんばるからさ! 責任取らなきゃ、だろ?」
「え…」
「心配すんなって! オレがゼッタイお前の中からその嫌な気持ち消してやるからさ!!」
「ま、また調子のいい事言って!! だいたい結城くんはい…つも…」
それ以上言葉が出てこなかった
目の前でニッと笑うリトの姿に息が止まりそうになってしまう
まるでイタズラを考えている少年の様な笑顔
ふんわりと心にふれるその顔が、いつも唯の気持ちをあたためてくれる
(もぉ…なんでいつもこうなのよ? それならそれで、もっと最初からちゃんと…)
ゴニョゴニョと下を向きながら小さくなる唯の頭を、リトはニコニコしながら撫でている
次第に唯の肩がぷるぷると震え始めた
「もう! いつまでそうしてるつもり!? いい加減撫でるのやめてっ。私、子どもじゃないんだからね!!」
ムッと頬を膨らませる唯にリトは不思議そうな眼を向けた
「あれ? お前、こーやって撫でられるの好きじゃなかったっけ?」
「そ…それは……と、時と場合っていうものが…」
「嫌ならやめるけど?」
「う! …うぅ……い、今だけ許してあげてもいいわ」
「そっか!」とまたニコニコ顔で頭を撫でるリトに、唯の顔は真っ赤に染まる
何だかんだと最後はいつもリトに負けている事に、唯はこの時まだ自覚していなかった
「やっぱ唯ってかわいい」
「か、かわ…いい!!?」
「そ! 食べちゃいたいぐらいかわいいって思う」
「た、食べるとか……そ、そんな事ハレンチだわっ!!」
手の下で声をキツクさせる唯にリトは慌てて言いワケを始めた
「そーいう意味じゃねーって!! オレが言いたいのは…」
「同じよ事よ! だいたい結城くん。あなたさっきから私を子ども扱いばっかりして」
「子ども扱いって…」
唯は頭の手をパシっと払いのけると、そのままビシっとリトに指を指した
「ちょっとは反省しなさいよっ!!」
指を突き付けたまま唯はぷぅっと頬を膨らませる
しばらくそんな唯を見つめた後、リトは小さく溜め息を吐くと、再び唯の頭に手をポンっと乗せた


「ちょ、ちょっと…」
「そうだよな。お前はオレの子どもじゃないもんな」
「え…そ、そうよ! わかれば…」
「だってお前は、オレの彼女で、一番大事なヤツで、一番大切な存在で、そして世界で一番大好きな人だもんな!」
照れくさそうに笑うリトから目を背けると、唯はまたポスンっとリトの胸を叩いた
「遅いわよ。言うのが…」
下を向きながらぼそっとそう呟く唯をリトは、抱き寄せた
胸にトンっと頭を当てながら、唯はリトの鼓動を感じていた
ドクン、ドクンといつもより大きく聞こえるのは緊張と興奮の表れだ
(まったく、ムリしすぎよ)
そう思うも、リトの真心がこもった言葉に唯自身、いつも以上に胸は高鳴っていた
ふっと顔を上げた唯とリトの視線が交わる
互いに頬を染めたまま見つめ合う事数秒、リトの目を見たまま唯が口を開いた
「私、甘いもの食べたい」
「へ? 甘いもの? いいよ! ってか、お前好きだもんな」
「うん。あと…行きたいところとか、見たいお店いっぱいあるんだけど」
いっぱいの部分にリトの顔が軽く引きつる
「いいんでしょ? 思いっきり甘えてもいいって言ったの結城くんなんだから」
「ま、まぁ…な」
「ん、じゃあ行くわよ! 結城くん」
そう言って離れようとする唯の腕を、ふいにリトは掴んだ
「え…なに…」
唯が言い終わるよりも早く、その体をぐっと引き寄せるリト
「コ、コラ! なに考えて…」
「キスしたい」
「え? キ…キス!? な、なに言ってるのよ? これから外に出かけるんでしょ?」
「わかってる! けどその前に…」
「ちょ…ちょっと待っ…ン、うンン」
抗議の声をその口で封じると、舌を絡めつつリトは唯の背中に腕を回した
唾液の糸を引かせながら離れていくリトに、唯はムスっと顔をしかめた
「どういうつもり?」
「ゴメン。ガマンできなくてさ」
「…それならそれで、ちゃんとしなさいよね!」
口調こそ怒っているものの、どこか表情がやわらかい唯にリトはホッと溜め息をこぼした


「じゃあ、あらためて…」
まっすぐに見つめるリトの目が唯の気持ちを捉える

「好きだよ唯」
わかってるわよ
「もう一人させないから」
信じてあげる
「オレがゼッタイお前のこと幸せにするから」
期待してるんだからね!

唯はリトの首に腕を回すと、そっと顔を寄せていく

好き
私も結城くんが大好き
誰よりも何よりも一番大切だから
私もあなたの事幸せにするから
だから

私も結城くんのこと食べちゃいたいぐらい大好き!!

決して面と向かって言えない言葉を込めながら唯はリトと体を重ねていった


それからおよそ二時間後、雨も上がり出かける準備の整った二人を出迎えたのは、帰って来た美柑とララだった
「唯! やっぱり来てたんだ♪」
「おじゃましてます」
ペコリとおじきをする唯の腕に早速ララが飛びついてくる
そんな二人の横で美柑は冷めた目でリトを見ていた
「何だよ?」
何もわかっていない様子の兄に美柑の怒りはふつふつと煮えたぎっていく

結局その後、散々美柑からシャーベットの事を含めて文句を言い聞かされたリト
そのリトと何をやっていたのかと楽しそうに聞いて来るララに真っ赤になりながらあたふたと慌てる唯
二人がデートに行くのはもう少し後になってからになった