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ナナとモモの活躍によりラコスポとランジェラを撃退したリト一行
屋上で互いの無事を確認するも束の間、その場の勢いで再び祭りに行こうと言い始める
ララ達の輪の中で、リトは一人、フェンスにもたれながらぐで~っと伸びていた

「どーしたの? リト」
「あの人混みの中どんだけ走らされたと思ってんだよ。もうヘトヘトだぜ…」
「オヤジくさいよリト」
「うっせー」
美柑の揶揄にもいつもの調子がでない
「じゃあリトはここで休んでてよ! 私達でもうちょっと遊んでくるから!! 唯も一緒に来るよね? ね?」
「え…」

祭りに一人遅れてやって来た唯。突然の事態に事情もわからないまま置き去りにされ
やっと事情を呑み込めたと思ったら、今度は祭りの誘い

「わ、私は…」
相変わらずなララのペースに返答に困っている様子な唯に、リトは助け船を出す
「行ってこいよ! だってお前、全然、祭りまわってねーじゃん! せっかくの祭りなのにもったいないって!」
「そうだよ! 行こうよ唯」
「え…ええ。…で、でも結城くんはどうするのよ?」
「オレ? オレなら別に気にしなくたって平気だって! ここで休んだらそっちに行くからさ」
涼しそうな顔でそう振る舞うも、あきらかにリトの顔には疲労感が滲み出ている
「唯!」
背中を後押しするようなララの笑顔と、そんなリトの横顔を交互に見ながら、考える事十数秒
唯の出した答えは────

「ホントによかったのか? オレなら気にする事なんかなかったのに」
「い、いいでしょ別に! それに! 彩南高一の問題児であるあなたを一人にしとくと
何するかわかったもんじゃないからねっ! これは風紀委員として当然よ!!」
「あはは…」
未だに唯の中の自分の扱いが問題児事に、リトは軽くショックを受けた

屋上のフェンスにもたれながら待つ事、数十分
「おせーなァ。ララ達…」
「そうね…」
いっこうに戻ってくる気配のないララ達にリトは溜め息を吐いた
「大丈夫かしら…。また襲われてたりしたら…」
「ん~…ヤミもいるしそれは大丈夫だと思うけどな……よし!」
リトはフェンスから背中を離すと、隣にいる唯に顔を向けた
「オレ達も祭りに戻ろっか? ララ達を探しに」
「え? 大丈夫なの? 結城くん」
「ああ。もう平気だって! それにせっかくの祭りなんだしこんなトコで腐ってるワケにはいかねーだろ?」
さっきまでの元気のなさがウソの様なリトの笑顔に、心配でいっぱいだった唯の顔が晴れわたっていく


「古手川はどーする? その…よかったらオレとまわらねー?」
「え? 結城くんと?」
「あ、いや! 古手川も祭りに行くんなら一人より二人のほうがいいかなって思ってさ」
少し慌てた素振りで話すリトに、顔をしかめるも、今度こそ唯は首をコクンと縦に振った
「し、仕方ないわね! あなた一人じゃなにかあると大変だし、私もいくわ!」
「じゃあ決まりだな!!」
本当にうれしそうに満面の笑みを浮かべるリトに、唯はぷいっと顔を逸らしたのだった


「にしてもララのヤツ、どこ行ったんだ…」
「西連寺さんもいるから大丈夫だとは思うけど、心配ね」
リトの隣を歩きながらそう相槌を打つも、唯の表情はどこか複雑なものになっている 
「だよなァ。まーララの事だから大したことにはなってねーと思うけどな」
「……」
唯のほっぺが知らず知らずの内にぷくぅと膨らむ
「たぶん食いモノのトコにでもいるんじゃねーかなァ。そっち行ってみよっか?」
「…え…ええ」
いつの間にか唯の口はすっかり尖っている。そして、唯はムッとした顔のまま下を向いた
(何よ結城くん! さっきからずっとララさんの事ばっかり)
あれだけの騒ぎがあったのだから心配になるのは当たり前だし、自分だってクラスメイトとして、
友達として、ララ達の身を案じるのは当然だ
当然なのだが────
(だ、だからってもうちょっと……もう…ちょっと……)

二人だけの時間を楽しんでくれたっていいじゃない────!!

唯はチラリとリトの横顔を見ながらそんな事を思っていた
けれど同時に、リトにはそんな事が出来ない事もわかっていた
お人よしで、やさしくて、気持ちのいいほどに不器用で、思わず殴りたくなるほど鈍感で
いろんなリトに会って、いろんなリトに触れて、そうして辿り着いた答えは
”そんな結城くんが好き”だということ

好きだという気持ちと、誰かさんへの淡い嫉妬でもやもやしている時
ぐぅ~~~っとすぐ隣からいかにもお腹が空きましたと告げる腹の虫が鳴りだす
「あ…あははは……食べ物の話ししてたらお腹空いたみたいだな」
恥ずかしそうに苦笑いを浮かべるリトに唯はふんと腕を組みながらそっぽを向ける
「こんな時ぐらいもっと緊張感持ちなさいよね…! あきれるわ!」
「し、仕方ねーだろ! オレだって好きでこんな…」
ぐぅ~~~!!
「うぅ…」
再び鳴りだす腹の虫にリトの声が消えていく
「……はぁ~。それでどうするの?」
「どうするって?」
「この後よ! ララさん達を探すの? それとも…」
唯の視線が広場に並ぶ露店へと向けられる
その視線に何を感じたのか、リトのお腹がまた鳴りだす
「と、とりあえずなんか食いに行くか! もう一人のヤツもやっつけたって言ってるし、ちょっとぐらい大丈夫だろ」
ぎこちない笑みを浮かべるリトのお腹は、早く食わせろと急かす様に鳴り続けている
それに唯は小さく苦笑すると、リトの隣に並び露天へと足を向けた

こうして、二人だけの夏祭りが始まった


「おぉー! うまそーだなァ!! 古手川も食べる?」
くるっと後ろを振り返ったリトを出迎えたのは、リトの斜め後ろで腕を組みながらまだムスッとした顔の唯
「……私は別にいいわよ…」
「そっか。じゃあおっちゃん一つ!」
たこ焼きを待ってる間、リトはチラリと唯の横顔を覗き見た


(……古手川のヤツ、なんか怒ってる? オレなんかしたっけ……)
小首を傾げていると、おいしそうな匂いがリトの鼻を刺激する
「うわ! うまそー!」
逸る気持ちを抑えきれずに、早速たこ焼きを口に運ぶリト
その隣で唯は、そんなリトを複雑な気持ちで見ていた
(もぉ…結城くん、もうちょっとぐらい私の事…)
なんて思っていると、唯のお腹の虫が可愛い音を奏でた
「へ?」
「あっ」
慌ててお腹を押さえながら顔を背ける唯
「古手川?」
「ち、違っ…これはそういうのじゃなくて私はっ」
顔を赤くさせながら腕をぶんぶん振って全否定を繰り返す唯に、リトはニカっと笑みを浮かべた
「なんだよ! お腹すいてるならすいてるって言えばいいじゃん! ホラ、オレの食えよ?」
「え…ぁ」
「一緒に食べよーぜ! な?」
自分だけに向けられるその笑顔も気になったが、一番はやっぱり
(ぃ…一緒に…とか…)
差し出されたたこ焼きとリトの顔を交互に見つめながら、唯の顔はみるみると赤くなっていく
「早く食わねーと冷たくなっちゃうぜ?」
「…ぇ、じゃ、じゃあ…ぃ…ただきます…」
ぼそぼそと小声で話す唯に、リトは首を傾げながらも添えられている爪楊枝を唯に渡した

「フ~フ~」
と、何度も熱々のたこ焼きに息を吹きかける唯
「……」
「フ~フ~…ん…んく、熱ッ!」
「…古手川ってさ」
「ん? 何?」
「ひょっとしてネコ舌?」
ドキーーン!! と、唯の胸が警笛を鳴らす
「い、い、い、イイでしょ別にっ!! 舌がヤケドしたらどーするのよ!?」
「い…いや、そりゃそーだけどさ…。で、舌大丈夫なのか? なんか飲み物買ってこよーか?」
唯は戸惑う様に視線を彷徨わせた後、小さな舌をチロッと出すと、少し涙目になりながら舌を指で指した
「ちょ…ちょっとヤケドしちゃったみたい…かな」
見ると、確かに舌の先っぽが赤くなっていて…………リトの目が大きくなる
「って、なんですぐ言わねーんだよ!! 待ってろ! なんか冷たいもの買ってくるから!」
「え? ちょっと待っ…」
言い終わるよりも早く、猛ダッシュで人ゴミの中に消えていったリトの背中を唯は、ボーっと眺めていた


「そんな大げさにしなくても…」
なんて言ってしまうが、リトの慌てた顔や、走って買いに行ってくれるその後ろ姿に、
どうしようもなく胸がドキドキと高鳴る
(優しい…結城くん)
リトのやさしさに触れたのはこれで何度目なのか

いつもハレンチで問題ばかり起こすクセに
たまにどうしようもなく優しくなったり…カッコよくなったり…

宇宙人に攫われた時も、ゲームの世界に行った時も
教室で、コンビニの前で、そして、雨の中、公園で────

(結城くんってやっぱり…)

『古手川』

そう自分の名前を呼びながら笑顔を浮かべるリトの顔に、唯のホッペはリンゴあめの様に赤く染まる
(って私、何考えてるのよ!? ハレンチな!!)
一人ポカポカと頭を叩く唯の元に、息を切らせながらリトが戻ってきた
「お待たせ! って何やってんだ? おまえ…」
「あ…」
頭を叩く体勢のまま固まる唯
「よくわかんねーけど…ホラ、ジュース! オレンジジュースでよかった?」
「……ぇ…ええ! あ、ありがと」
唯は恥ずかしさを誤魔化すかの様にリトの手からジュースを受け取ると、急いで喉に流し込む
白い喉をコクコクと言わせながらどんどん中身の減っていく紙コップに、リトは心配そうに顔をくもらせた
「…ホントに大丈夫なのかよ? ヤケド」
「う、うん。もう平気! ぁ…ありがと…」
「そっか…? でもマジで焦ったよ! だって舌ヤケドしたらウマイもの食べれないもんなァ」
そう言いうとリトは、舌を出しながらニッと笑った
「…ッ…!!?」
瞬間、自分の胸がそれこそヤケドしたのではないかと思うほど熱くなるのを
感じると、唯は慌ててリトから視線を逸らした
「……ッ!!?」
「古手川?」
「…ッ…!」
真っ赤に染まったままの唯の横顔をリトはジッと見つめた
その視線だけで唯の顔はますます紅潮していく
「…やっぱまだヒリヒリするんじゃねーのか? 舌」
「違…そうじゃなくて…」
リトに視線を合わせられないどころか、まともに正面すら向けない
(もう…何やってるのよ私はっ!! これじゃまるで…)
ジッと見つめるその視線が熱い矢となって、キュンキュンと胸を射抜いていく
もちろんリトにそんな気はないのだが
「ぅ…うぅ…」
リトへの気持ちに気付いてからというもの、毎日、リトを想っては悶々としている唯
今日だって

いつもより長めにお風呂に入り、いつも以上に髪の手入れに時間をかけ、この日のために買った浴衣に袖を通し
そして、選びに選んだ髪留めで髪をセットして────

急に体をもじもじさせる唯にリトは眉を寄せた
(やっぱ、古手川ってよくわかんねー…)


結局、満足にたこ焼きを食べられなかった唯を連れて、リトは再び露店の前に戻って来た
「ん~古手川がネコ舌となると……やっぱ冷たいモノとかの方がいいよな…じゃー…」
リトは一旦立ち止まると、顔をくるっと唯に向けた


「カキ氷でも食べる? 冷たいし、それに甘くておいしいじゃん!」
「ぅ…うん」
甘いモノ好きな唯にとってカキ氷の魅力は十分すぎるほどだったが、今はそれ以上にリトという
存在が眩しすぎるほど大きく感じる
まだ、さきほどの余韻が残っていたのだ
胸がキューっと締め付けられて顔がずっと熱い
「ひょっとしてカキ氷嫌いとか? 別のにする? 向こうにいったら…」
様子のおかしい唯を怪訝に思ったのか、気を利かせたのであろうリトの言葉に唯は全力で首を横に振った
「ち、違うわ! 好きよカキ氷!! だからその、心配とかしないでっ」
「ホントにいいのか? じゃー何にする? いろいろあるから好きな味選べよ」
「え…えっと……じゃー…イ、イチゴ味で…」
「OK! じゃーオレは……ブルーハワイかな! おっちゃん、イチゴ一つとブルーハワイ一つ!」
カキ氷を待っている間。唯はリトの後ろ姿をジッと眺めていた

二人っきりの状況
それに、今日は夏祭り
浴衣姿の自分と、その隣には好きな人がいて

ここにきて唯は要約気付いた

(こ、これってもしかしてデ、デ、デートなんじゃ…)

『古手川』
『な、何よ?』
"いつかの時"と同じ、顔をなんだかキラキラと輝かせながら迫るリトに、唯は息を呑む
『今日は、いつも以上にかわいいと思ったら素敵な浴衣を着てきたんだ! オレのため?』
『ち、ち、ち、違うわ! こ、これは別に普通の浴衣よ! ど、どうして私が結城くんのためにそんな事…』
顔を真っ赤にさせながら身を捩る唯の頭にリトはポンと手を乗せる
『この髪留めも』
『え…』
『とっても素敵だよ! 唯』
『ちょ、ちょっと! な、馴れ馴れしく下の名前で…』
『唯』
『…だ…だから…』
『唯』
『…ぅ…う』

と、想像の世界がピークを迎えていた時、現実のリトの声が唯を呼び戻す
「古手川!!」
「は、はい!!」
ビクンと体を震えさせながら大声で返事をする唯にリトは眉を寄せた
「いや…カキ氷できたんだけど…?」
目をパチパチさせる唯の目の前には、カキ氷の入ったカップを二つ持つリトの姿
祭りの提灯よりも顔を赤くさせた唯は、大急ぎでリトからカキ氷を受け取った


(なんか……今日の古手川へん…だよなァ。うまく言えないけど…)
ぼけっと見つめる視線の先には、恥ずかしさを誤魔化す様に、カキ氷を口に運ぶ唯の姿がある
「ま、いっか」
細かい事よりも今は祭りとカキ氷が大事
リトはスプーン状に先を丸めたストローでサクサク氷を崩していった

「やっぱ、祭りと言えばカキ氷かたこ焼きだよなァ! 古手川はなんかほかに食べたいものある?」
「わ、私はもうお腹いっぱい! これ以上はムリよ!」
「そっか。にしても、古手川のカキ氷うまそうだな! ちょっともらってもいい?」
「え? ええ。いいわよ」
カキ氷を差し出すよりも早くリトの顔が唯に近づく
その距離わずか数センチ
唯の白い喉がコクンと音を立てる
「イチゴとブルーハワイ、どっちにしようか迷ったんだよなー! オレも好きだからさ、イチゴ味!」
ニカっと子供のような無邪気な笑みを浮かべるリトに唯の鼓動がどんどん早くなる
(ち、近い! 結城くんの顔近すぎるっ!!)
こんなに急接近したのはいつぶりなのか、あの雨の中の公園を思い出し、唯の
顔はいよいよ沸騰寸前まで赤くなっていく
「ん? 古手川も食べる? ブルーハワイ! すげーうまいぜ!!」
目の前のカキ氷よりもその屈託のない笑顔から目が離せない
彫像のように固まる事、たっぷり十数秒
ようやく動いた唯だったが、その顔はいつもの毅然としたものとは掛け離れていた
(う~ん。やっぱいつもと違うんだよなァ。ひょっとして古手川も祭りが好き
で、いつもよりテンションが上がってるとか?)
的外れな解釈をしてしまうリトと、すっかり恋する女の子モードに突入した唯
そんな二人だけの夏祭りはまだ続く

「なんかさっきよりも人、多くなってないか?」
「うん…。いろいろ騒ぎがあったからじゃない?」
「だよな」
気のない返事を返すリトの隣で、唯は顔をしかめた
(もう! いい加減落ち着きなさいよっ!! 結城くんといるだけじゃない! そうよ結城くんと一緒にいるだけじゃない!!)
"一緒に"
その単語に、唯の胸はまたドキンと音を立てる
(うぅ…これじゃあ逆効果じゃない! 何やってるのよ私は…)
なんて頭を抱え込みたくなる状況に拍車をかける出来事がこの後起こってしまう

「よお! そこのお熱いカップルの二人!!」
「へ?」
「カ、カップル!?」
と、素っ頓狂な声を上げながら、金魚すくい屋の前で立ち止まる二人
「かわいいカノジョにいいトコ見せてみないかい?」
突然カップルだ彼女だと言いだす露店のオヤジに早速唯は噛み付いてしまう
「ちょ、ちょっとおじさんっ!! 何わけわかんない事言ってんのよ!!」
「おや? 違ったのかい? オレぁってきり…まあいいや! それよりどーだい? いっちょやっていかないかい?」
どこか挑戦的な眼差しを向ける露店のオヤジに、リトの目がキュピーンと輝く
「…いいぜ! じゃあ一回!」
「ちょ…ちょっと結城くん! 私たち別に付き合ってるわけじゃ…」
「ん? まーそーだけどさ。得意なんだ! こーゆーヤツ! だからうまくいったら古手川にあげようって思ってさ」
「え…」
「ま、そーゆーワケでそこで見とけって! な?」
腕を捲りながら意気揚々と"ポイ"を水面に近づけるリトの横顔を唯はジッと見つめた
いつもの優しい眼差しとは違うすごく真剣な目


(こ、こういう時だけマジメになるんだから! ホント…)
なんてぼやきながらも唯の視線はリトから離れることはなかった

「おぉー! すげーじゃねーかカレシ! ホラよ! オレのお気に入りの特別なヤツだ!! もってけ!」
「サンキューおっちゃん!」
その腕前を遺憾無く発揮したリトは、オヤジから金魚を受け取ると、早速、唯に渡した
「ホラ! 古手川にやるよ!」
「え? わ、私に?」
「おまえにあげるって言ったろ?」
「そ、そうだけど…」
水の入ったビニールの袋の中では、キレイな尾びれを靡かせながら赤い金魚が優雅に泳いでいる
「ホ、ホントにいいの? だって…」
「いいんだって! だって古手川のためにがんばったんだぜ?」
「う…うん」
私のために────その想いを噛み締めながら受け取る唯を露店のオヤジはニヤニヤと眺めていた
「いや~青春っていいやねぇ~」

そして金魚屋を後にした二人はというと

「古手川! 次アレ! アレやってみようぜ!!」
「え? ちょ…ちょっと結城く…もう! ホントに落ち着きないんだからっ!!」
なんてホッペを膨らませるも、笑顔輝くリトにいつもの堅い表情もすぐにやわらかくなってしまう

「いや~すごいね! にいちゃん! ホラ、持ってきなっ!!」
「あはははは」
射的屋で大量の景品を手に誇らしげに笑うリトに、開いた口が塞がらなくなる唯
「……な、なんというか…ホントにムダな才能だわ…。あれぐらい勉強も集中すればもっと…」

「ぷはぁ~! やっぱ祭りと言えばラムネだよなー!! サンキュー古手川!!」
「うん」
リトから飲み掛けのラムネを受け取った唯は、自分もそれを口にしようとしてふと気付いてしまう
(ちょ、ちょっと待って! こ、これってもしかして間接キ…キ…)
ラムネを飲む途中で固まっている唯に、リトは不思議そうな顔を向ける
「古手川? 何やってんだ?」
(そうよ! そ、それに私も一回は口をつけてるんだから結城くんも…)
「古手川?」
(…ど、どうすればいいの? キ、キスとかそんなハレンチなこと…)
ラムネを手に一人固まる唯は、すでに別の世界へと飛んでいた

ビニール袋を提灯の灯りに照らしながら、金魚をうっとりと眺めている唯
優雅に泳いでいる赤の金魚。ありきたりな種類なのかもしれないが、見ているだけで心が躍る
だってそれはリトからのプレゼントなのだから


「名前…何にしよう…」
小さく呟きながらも、唯の中ではすでに名前が決まっていたりしていた

「うまいよなー!」
香ばしい匂いのする焼きトウモロコシを頬張りながら、リトは声を弾ませた
「あなたさっきから食べてばっかりね…」
「へ? そうか? だってせっかくの祭りだろ? この時しか食えねーのばっかだし、それにうまいじゃん!」
「まあ…そうだけど」
子供の様に歯を見せて笑うリトに唯は相づちを打ちながらも、ふぃっと顔を背けた
「でも、古手川だって人のこと言えないだろ?」
「え?」
「それ」
唯の手には、リトから貰った金魚にヨーヨー、そして、わたがしが大事そうに握られている
おまけにさっきのラムネまで捨てずに持っていて、唯は思わず顔を赤くさせた
「べ、別にいいでしょ!! 私の勝手じゃない!!」
カランとビー玉の音を立てながらも決して捨てようとしない唯に、ただただ不思議そうに
腕を組みながら首をかしげるリトだった

そして、祭も後半に差しかかった頃
「なんか人さっきよりもすごくないか?」
「う、うん。花火も終わったし、みんなお祭りに戻って来てるのよ」
ギュウギュウづめの中を進むリトと唯
次第に開きつつあるリトとの距離を必死に詰めようと、唯はリトの背中に付いていく
「ん…んん、結城く…ん!」
リトの手を掴む寸前、伸ばした手を引っ込めてしまう唯

『古手川、こっちだ!』
なんて言って手を繋いでほしいな

そんな淡い想いを抱きながら、唯はキュッと手を握りしめた
人の波はますます大きくなっていく
当然、背の高い人もいるわけで、高校生にしては背の低いリトの姿がふいに唯の視界から消えた
「え…」
思わずその場で立ち止まってしまう唯
キョロキョロと周りを見渡してもリトの姿は見えない
そればかりか、唯自身、人の波にのまれどこかに押し出されそうになってしまう
「ゆ…結城…くん」
一瞬見えたリトの姿にドンっと肩をぶつけられよろめきながらも、唯は一生懸命手を伸ばした
「結城く…ん」
愛しい人の名前と共に伸ばした手は、宙を彷徨う
それでも唯は必至に手を伸ばし続けた
いつかの様に、いつもの様に、きっとこの手を掴んでくれると信じているから
「ん…んん、結城…くんっ」
白い手は何度も宙を切り、やがて────
「古手川!」
「あ…」
人ごみを掻き分けて、息を切らせながらもこの手を掴んでくれたリトに、唯は思わず顔をほころばせた
「大丈夫か?」
「う…うん!」
「よかった! じゃあこっち」
「うん!」


コンビニの前で
雨の中
いつも自分を助けてくれる、そのぬくもりを唯はキュッと握り返す
(……また手、繋いじゃった…)
少し前を行くリトの背中を見つめながら、いつの間にか唯のホッペは真っ赤に染まっていた

「ふぅ~。ここまでくれば平気だろ?」
「そ…そうね」
二人は今、祭会場から少し離れた場所へとやってきていた
周りには人はあまりいない
そんな中、隣同士、並んで座る二人
(二人っきり…二人っきり…二人っきり…)
お尻の下の石畳の冷たい感触に反比例するかのように、唯の心拍数がどんどん上がっていく
(ど、ど、どうしたら…何話せばいいのよっ!?)
いつもと同じようにすればいいだけの話しなのだが
今の唯にそんな余裕は微塵もない
リトへの想いに気付いたその時から、唯の頭の中には常にリトがいて

『古手川、大丈夫か?』

さっき手を握ってくれた情景が頭の中に鮮明に再生されていく
(な、何考えてるのよ!? こんな時にっ!!)
また一人頭をポカポカさせる唯とそれを不思議そうに見つめるリトの目が合う
「何やってんだ? おまえ…今日なんか変だぞ?」
「ぅ…う」
いつもの調子がまるで出ない。そればかりか頭から湯気が出そうなほど顔が火照ってどうにかなっちゃいそうだ
(やっぱ古手川も祭りとなると、いろいろ変わるんだなァ)
見当違いの答えを導きだして一人納得してしまうリトの顔も、今の唯に
とったら眩しすぎてとても真正面からなんて見られない

それからしばらく、無言の時間だけが流れた

両腕を少し後ろに付きながら、ぼんやりと空を見上げていたリトの口が小さく開かれる
「にしても結局、花火見れなかったよなァ」
「…うん」
見上げる満天の星空は、それはそれでいてとてもキレイなのだが、今はそれが無性に寂しく思える
(…見たかったな……花火…)
チラリと横目でリトの横顔を見ながら、唯は心の中でそう呟いた
別に二人っきりで見られるだなんて思っていなかった
ただ、同じ花火を一緒に見られるだけでよかった
「……」
「ん~今年はもう……あ! そうだ! アレがあったんだ!! 忘れてたっ」
リトはピョンっと立ち上がると、ポケットの中から何やら取り出し始める
「結城くん?」
「ちょっと待っててくれ! 確か……あ! あったあった! コレだコレ!!」
リトが取り出したのは、数本の細長い紙縒りの束だった


「何んなのソレ?」
「へへ、さっき射的やった時に貰ったんだけど、線香花火! まあ、花火にしちゃショボイけどな」
少し苦笑いぎみのリトに唯はふっと表情をやわらげた
「そんな事ないわ! 好きよ線香花火! どうする? ここでする? あまり人もいないし…」
思った以上の唯の反応に、リトは思わず顔をほころばすと、コクンと首を振った

夏の夜の虫の音色に混じってパチパチと花火が音を奏でる
「キレイね」
「そだな。…っと、ああ! また落としちまった!」
灯りの消えた線香花火を手にガックリと肩を落とすリトに、唯は苦笑交じりに溜め息を吐く
「もう。あなたこれで何回目なのよ? 私なんてまだ一回も落としてないのよ?」
「だよなァ…。なんかコツでもあるのか?」
「ん~コツと言うか……あまり揺らさない様に上の方を持っちゃダメとか…
あとはなるべく、風に当てないようにとか…」
「上の方を持っちゃダメなのか…よし!」
一つ気合いを入れて、再び挑もうとするリトに、唯は釘を射すように目を細めた
「結城くん。長く持たせる事も大事だけど、ちゃんと線香花火を楽しまなきゃダメよ?」
「楽しむ? 楽しむって?」
「線香花火はね。"牡丹""松葉""柳""ちり菊"と言って、火が灯ってから
落ちる時までそれぞれ名前が付いてるのよ?」
「へ~」
「私、線香花火って好き! 繊細で儚くて、だけどちゃんと芯があってキレイで…とっても素敵だと思うわ」
花火の灯りに照らされた唯の顔は、これまでリトが見たどの時よりも一番やわらかく見えた
(古手川ってこんな…)
「まあ線香花火のことなんて意外と知られてないけどね!」
「…で、でもさすがだよな?」
「何が?」
「やっぱ古手川ってすげーって思ってさ!」
「そ、そんな事……だいたいこんなの知ってたってすごくもなんとも…」
顔をぷいっと逸らすが、線香花火の光が唯の頬を赤く染め上げる
「そんな事ねーって! だって古手川っていつも難しい本読んでるじゃん! オレなんか
分厚いのとか見ただけでクラクラしてくるのに…」
「……」
「オレからしたらそれだけもすげーって思うけどな! いつもマジメだし、風紀活動とかガンバってるしさ!!」
「…ぁ…」
"マジメ"
いつも、誰からも言われ続けたその言葉を、結城くんにだけは言ってほしくない
唯はそう思った
「…マ…マジメじゃないわ……」
「へ?」
「…わ…私だって…」
「え?」
「…私だって…普通の女の子なのよ? 結城くん…」
「え…」
花火の淡い光に照らされながら、二人の視線が交わる
が、唯はすぐに俯いてその表情を隠してしまう
長い前髪が前に掛かり、リトの視界からその顔が見えなくなってしまう
俯く前に一瞬見えた唯の表情に、リトはなんとも言えない気持ちを胸に抱いた


赤くなった頬に、どこか何か期待しているかの様な瞳
それはいつか見た時と似ているとリトは思った


夕暮れの誰もいない二人っきりの教室

『責任…取ってくれるとでも言うの…?』

夕日に照らされながら、唯はそう言った
期待と不安、両方を宿した瞳で

「古手…川」
リトのその声には何が宿っていたのか
言い終わると同時に、唯の線香花火は終わりを告げ、あたりにまた漆黒の闇が訪れる
「……花火、終わっちゃったわね?」
「あ…ああ」
いつもと同じようでいてどこか違う唯の声に、リトは自分の胸が妙に高鳴っているのを感じた
(何だ…コレ?)
闇夜の中、ふいに立ちあがる唯の気配にリトは慌てて立ちあがった
「大丈夫か? 暗いから気をつけろよ?」
「…ええ、平気よ」
暗がりで唯の表情はますますわからなくなってしまう
そして、その事がリトの胸をさらにざわざわとざわめかす
「あ、あのさ古手川。さっきの事なんだけど…アレってどーゆー…」
「…そろそろお祭り会場に戻った方がいいんじゃない? ララさん達も戻ってるかもしれないし」
「そ、そーだよな…」
なんだかうまい具合に話しをはぐらかされた感じがしてリトは眉を寄せた
(何だよコレ…)
すっきりしないまま終わりを迎えそうな雰囲気に溜め息をこぼしかけた時、リトの隣から小さな悲鳴が上がる
「キャッ」
「え? …古手川!?」
見ると、慣れない下駄で石に躓いてしまった唯がコケそうになっていたのだ
「あぶねっ!」
「ん!」
リトに抱き止めてもらいながら、そのままの勢いで地面に倒れる二人
「ってぇ…大丈夫か? 古手川?」
「う…うん。ありがと…」
しっかりと抱きとめられた唯の腰にはリトの腕がギュッと絡まり、胸を通してその体温がゆっくりと伝わっていく
「…ッ!」
そして、小さな吐息と共に、唯は動けなくなってしまう
間近にあるリトの顔から目を逸らすことができない
その白い手は、リトの両肩を掴んだまま離せない
どんどん高鳴る鼓動に、唯の顔は沸騰寸前まで赤くなっていく
「古手川? どしたんだ? どっか痛めたのか?」
「ち…違…」
ドキドキしすぎて満足に声すらでない
恥ずかしさと緊張で小さく震えるその体に、リトの腕にさらに力がこもる


「古手川?」
「…ッ…!!」
恥ずかしさの限界なのか、唯はその顔をリトの胸の中にうずめてしまう
「……」
ドクン、ドクンと、聞こえるリトの鼓動が唯の中にゆっくりと染み渡っていった
そして、それはリトも同じだった
トクン、トクン、トクンと、唯の胸の高鳴りに自然と顔が赤くなっていく
それはちょうど二つの音色が一つに溶け合っていくような
小柄な唯の体はますます小さくなり
緊張でリトの心臓は張り裂けんばかりに大きくなり

(古手川ってすげーやわらかくていい匂いがする…)
(結城くん…すごくドキドキしてる…。こ、これって私とこんな風にくっ付いてるからよね…)

トクン、トクン、トクン、トクン、トクン…と、心地いい胸の音色が二人を包み込んでいく
淡い期待と、甘い雰囲気の中、二人はその場から動けなくなってしまった

(もっとこうしていたい…)

どちらも同じことを考え、どちらも同じ気持ちになりかけた頃、遠くの方から二人の名前を呼ぶ声がし始める
「「……ッ!!?」」
その聞き覚えのある声に、二人は目を合わせると、一瞬で体を離した
「アレ? 何してたの?」
「な、何でもねーよ!」
「そ、そ、そうよ! べ、別に何もハレンチな事なんてしてないわ!!」
「む~」
どう見ても冷や汗を浮かべている二人に、ララは腕を組みながら小首を傾げた
「ん~~」
「ララ様、二人に伝えないといけないのでは?」
「あ! そーだった! あのねこれからみんなで花火するんだけど、リトも唯も来るよね? ね?」
「花火? 花火って?」
キョトンとするリトにララは満面の笑顔を向ける
「うん! リサとミオがね! せっかくみんな集まったんだから花火でもして盛り上がろ~! 
って、さっきコンビニで買ってきてくれたんだよ♪」
「へ~。まーあの二人らしいって言えばらしいけど…。古手川はどーする?」
「え? どうするって…」
"…結城くんはどうするのよ?" という声を呑み込むと、唯は腕を組んでララに向き直った
「あ、あなた達だけじゃ何が起こるかわからないから私も行くわ! 彩南高の風紀委員として当然よ!!」
「うん! じゃあ決まりだね!! 私、みんなに言いにいくね!」
そう言うや否や、ララは全速力で走り去ってしまった
「お、おい! ララ!! ったくどこでやるのかぐらい言っていけよな!」
すぐに見えなくなってしまうピンクの髪にリトの深い溜め息がこぼれる
「…まあとりあえず行こっか? 古手川」
「…ぅ…うん」
ニッコリと笑いながら差し伸べられたその手を、唯は戸惑いと迷いの混じった目で見つめた


(…わ…私は……)
「ん?」
唯は浴衣をキュッと握りしめると、その手を素通りしてそのままリトに身を寄せた
「え? 古手…」
「…ッ…!!」
真っ赤になった顔を俯かせながら、唯はリトのTシャツの袖をチョコンと握りしめた
もじもじと体を揺らしながら、視線はリトの顔と地面を行ったり来たり
そんな唯に何を思ったのか、リトはにんまりと笑うと、唯が転ばないよう、ゆっくりと歩き始めた

まだそのやさしさに甘えたりなんてできない
自分の気持ちに素直になるなんてもっとできない
だけど、それでも────

「また……また、みんなで集まって、夏祭りに行けたらいいよな?」
「…ぅん…」
"みんな"の部分にすぐにいい返事ができない自分に胸の中がチクリと痛む
「そン時は……そン時はまた、こんな風に二人で抜け出そっか? 今日みたいにっ!」
「え?」
暗がりでもはっきりとわかる、屈託ない少年のような輝く笑顔
自分の好きな、大好きなその笑顔とその言葉に唯はハッと息を呑んだ
「また…私と?」
「そ! って古手川がムリならあきらめるけど…。でも、そん時はまたその浴衣着て来てくれねーかな?
なんつーか…す、すげー似合ってると思うからさ! 浴衣…」
唯はもう何も言えず、ただ黙ってリトを見つめ続けた
その瞳の中のリトは、赤くなっていて、そして、誰よりも輝く笑顔を浮かべていた
唯、ただ一人のために

二人の間を夏の夜の涼しい風が吹き抜けていく

忘れない、忘れることの出来ない一欠片がまた一つ生まれた