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コンコン、とドアをノックする音と共に、遠慮がちなリトの声が部屋の中に入ってくる
「お~い。美柑、起きてるか?」
「ん?」
ベッドの上で身体を起こした美柑は軽く返事を返すと、部屋の中にリトを招き入れる


「とりあえずメシ作ってみたんだけど…」
「リトが作ったの!?」
「ああ…料理本で風邪に効くメニュー探しててさ」
野菜や鶏肉が入ったスープからは、"一応"おいしそうな匂いが美柑のお腹を刺激してくる
(ま…お腹もすいたことだし…)
添えられていたウッド製のスプーンを手に美柑は、不安と期待が入り混じる顔でスープを一口掬ってみた
(リトの手料理か…。いつぶりだろ…)
小さい頃の大失敗の数々を思い出しながら、美柑はスプーンの中でゆらゆらと揺れるスープを口に運ぶ
「ん~~どれどれ」
パクっと一口
「うまいか?」
「……」
「美柑?」
「う゛…」
「え!?」
スープを口に運んで数秒、露骨に顔をしかめる妹にリトは大慌てで詰め寄った
「まっまずかったか!? 味付けまちがったかな……」
「う゛ぅ~~…」
「い、いらないなら残してもいいぞ!」
泡を食ったように慌てまくる兄の姿にジト目を送りつつ
文句を言おうとして口を開きかけた時、美柑の目にふとリトの手が映る
(バンソーコー…? ケガ…してる……)
よくよく見ると、リトの指には何枚か絆創膏が貼られており、所々赤くなってもいる
「……ッ!?」
「いやホント! マジで残してもいいからさっ。オレ、もっと身体にイイの買ってくるからっ」
(……私のため、に…?)
両手に持った皿の中のスープが、なぜだかポッと温かくなった気がする
(ホント、ムリしちゃって…)
スープの湯気に中てられたのか、美柑の頬にほんのりと熱がこもる
「とりあえずソレ片付けて…」
「…ぃ…よ」
「へ?」
「いいよ…」
「ムリしなくてもいいんだぞ?」
「全部食べる! だってせっかく作ってくれたんだもん」
少しそっぽを向いて急に余所余所しくなった美柑に、リトは首を傾げた
「美柑…?」
「う、うん。薬だと思えば…うん」
何度も頷きながら、まるで話しをはぐらかすかの様な美柑
リトはしばらく、そんな美柑の様子を見つめた後、溜め息を吐いた


「……やっぱ、スゲーよな美柑は…」
「えっ」
「美柑の料理いつも旨いもんな~…。オレなんかこの程度の料理でもスゲー苦労しちゃってさ」
妹のことを語るリトの顔は、どこか自慢気で得意気で
美柑の小さな胸をトクン、と揺らめかせる

(な、何言ってるのよ…リトのヤツ…!)

「―――道具もどこに何をしまってあるかとか結構わかんなくてさ…。やっぱ、美柑がいなきゃダメだな~って…」
照れくささが混じる苦笑いを浮かべるリト
そんなリトに美柑の幼い心は、少しずつ揺れる
水面に小さな波紋が広がっていく様に
少しずつ、少しずつ

(リト…)

「って今さらだけどな」
あはは、とバツが悪そうに笑みを浮かべるリトに美柑はぷいっと顔を背けた
「う、うまい事言っちゃって…。やっぱけっこう罪な男だよね…リトって…」
「へ?」

(そうだよ…。どーせ、いっつもそんな感じでララさんとか古手川さんとかにも…)

布団の上で握りしめた小さな手に熱がこもる

(ホントわかってないんだから…。アンタのせいでみんなどんな気持ちになってるかとか…。
私の…気持ちとかさ……)

火照った身体がどんどん熱くなっていく
それは風邪のせいなのか、この"気持ち"のせいかのか
俯く美柑の顔は、いつもより熱っぽく、そして、その黒い瞳もいつもより濡れている様に見えた
「美柑? …マジで大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込んでくるリトにも美柑は何も応えない
沈黙で返事を返す妹にリトは眉を寄せた
「……ハァ、もうムリすんなって! こんな時ぐらいゆっくり…」
と、溜め息混じりにズレタ布団を美柑にかけ直そうとするリトの手を、小さな手が掴む
「ん? 何だよ?」
「……」
「美柑? ってさっきからホントにどーしたんだよ? しんどいなら早く…」
「リト」
「へ? っておわぁ!!」
リトの声を遮る様に美柑は、リトに身体を寄せた
「み…美柑!?」
ぎゅ~っと抱き付いてくる美柑に一瞬、抗議の声も忘れてしまうが、美柑の上半身がベッ
ドからはみ出ている事に気付くとリトは、慌てて声を上げる
「ってちょっと待てって! 何してんだよお前はっ」
「…ん? 何ってスキンシップだよ。スキンシップ。小さいころはよくこーやってくっ付いてたじゃん」
「そーじゃなくてッ! 熱! お前、熱出してんのにこれ以上ひどくなったらどーするんだよ!?」
美柑は一度、腕の力をゆるめると、その可愛い眉をう~ん、と寄せながら思案顔をつくる
「ん~…その時は…」
「その時は…何だよ?」
少しの沈黙
身体寄せ合っているせいか、ほんのわずかな時間もひどく長く感じる
やがて、美柑はジッとリトを見つめると、ニッと笑みを浮かべた


「その時はアンタが私のメンドー見てよ! ナニからナニまで」
「な、ナニからって……ど、どーゆー…」
あからさまに顔を赤くさせる兄に美柑の目はますます妖しい光を帯始める
「知りたい?」
「え…?」
「教えてあげよっか? 今からさ」
「お、教え…え?」
"今から"の部分に含みを持たせながらにんまりと笑う美柑
小学生とは思えないその蟲惑的な視線にリトの心拍数が高鳴る
美柑はぐいっと身体を寄せた
そのタイミングと、寄せるというよりはもう密着といっていいほどの至近距離な妹に、リトの理性は危うくなっていく
「お、落ち着けって! そろそろ寝ないと…」
「リト」
リトの声を遮る様に美柑は、唇を寄せた
「ん、ん!」
小学生のまだ小さな唇とやわらかな感触に頭のどこかがとろけていく
そして、妹との背徳的な行為がそれに拍車を掛ける

薄い唇を割って入ってくる小さな舌にリトは目を丸くさせた
美柑は舌で歯をノックして、舌を絡ませるように促してくる
リトは戸惑いながらもゆっくりと舌を動かしていく

チロチロと絡み合う、大きさの違う舌
その甘酸っぱい感触に次第に、水音も大きくなっていく

「ん…ん、ん…ちゅる…ちゅぷ…んん…ぁ…ぷはっ…ハァ」
息継ぎも兼ねて離れた二人の間には、透明な糸が何本もアーチを描いている
「け、結構うまいじゃん! ひょっとしてもう経験してたとか?」
「んなワケないだろ! ……初めてだよ。こーゆーのは」
「そ、そっか」
なんて素っ気なく応えるも内心は、初めてのキスというドキドキでいっぱいになっている
「ね…ねェ、リト」
「な、何だよ…」
「もっとしようよ」
「は?」
「もっと…」
そう言いながら美柑の手は、すでにリトの肩に回っている
「もっとってあのなッ」
「もっと! アンタに私の風邪が移るまでしてやるんだから覚悟してよね」
と、イタズラ心満載な視線を送りつつ、美柑は顔を寄せる

今度は最初から舌を絡めてのキス
有無を言わさないキスにリトは終始押されっぱなしになってしまう
やがて口内を蹂躙される感触に慣れ始めた頃。ふいに美柑は顔を離した

「……ねェリト…。私、なんか熱くなってきちゃった。コレ、脱がして欲しいんだけど?」
「へ…」
ベッドの上で女の子座りをしながら、おねだりしてくる美柑が指さしているのはパジャマだ
膨らみ掛けの胸元に汗の珠が落ちていく光景にリトの喉がゴクリと鳴る
「な、何言ってんだ!? そんなの自分で着がえろよッ」
「別にいいじゃん。子どものころはよくこーやって着がえさせてくれたくせにさ」
「あの頃はまだお前がちっちゃかったからだろ! つーかそれぐらい自分でやれよッ」
「ふ~ん……じゃーいいんだ? 私の熱がこれ以上あがっても」
「うっ」
痛いところを突かれたのかリトの口からくぐもった声が出る
その様子に美柑は楽しそうに笑みを浮かべる


「リ~ト」
「……わかったよ! やればいいんだろ! やれば!」
半ばやけ気味になりつつも、ボタンを一つずつ外していく様に美柑は内心、満面の笑みを浮かべる
うれしくて、なんだか懐かしいあったかい感触に包まれていく

『おにーちゃん。ふくがなんかヘンなの』
ボタンをかけ間違ったせいで、いびつに歪んだ美柑のブラウス
『ったく何やってんだよ? ほら、こっち来いって』
『うん』
にっこりと笑うと、美柑はリトの膝の上に座った
その場所はずっと美柑専用の特等席
『あのな。ボタンってちゃんととめないと…』
『うん。うん』
何度も頷きながらうれしそうにリトに背中を預けると、美柑は小さな足をパタパタと上下に動かす
『ほら。これでできた!』
『ありがとーおにーちゃん』
少し呆れぎみのやさしい笑顔と、満面の太陽のような笑顔が交わる、まだ幼かった頃の一ページ

「―――っと、ほら。できたぞ」
美柑を現実に引き戻したのは、照れているのか。顔を真っ赤にさせているリトの声
ハラりと捲れるパジャマから顔を背けながら、リトは美柑から慌てて離れた
そんなリトに美柑の妖しい色を湛えた眼が向けられる
「何してんのよリト。このままだともっと風邪引いちゃうじゃん! ちゃんと脱がして、汗も拭かないとさ」
「な…ちょ…」
「私の身体がこれ以上悪くなってもいいわけ?」
「それとこれとは話しが違うだろっ」
「いいわけ?」
「だから」
「いいわけ?」
「う…ぅ」
頭を悩ませること数十秒
諦めと、どっと疲れたような顔で溜め息を吐くと、リトはタオルを手に立ち上がる
「ったく、これぐらい自分でしろよな…」
「いいじゃん! こんな時ぐらいもっと労わってくれたって」
いつもの様に軽口で返す美柑の声が弾んでいる事にリトは気づけただろうか
目を細めながら問い質してくる美柑に、リトは渋々といった顔で溜め息を吐くと、タオルを水に浸していく
その姿にベッドに腰かけている美柑は、足をパタパタ動かす
「つーかお前さ…。何か楽しんでないか?」
「ん、そんな事ないよ! ま~…たまにはこんな身分になってみるのもわるくないかなァ、って思ってはいるけどね」
舌をチロっと出しながら、イタズラっぽく笑う美柑にリトの溜め息も深くなる
「ったく……じゃー身体拭くから上脱げよ」
「ん? リトが脱がすんじゃないの?」
リトは無言の上、半眼
さすがにやり過ぎたと思ったのか。美柑は仕方がないなァ、と言った顔でパジャマを脱いでいく
水玉模様の可愛らしいパジャマの下から現れた、まだ未発達の身体に、リトの顔が自然と赤くなっていく


「と、とりあえず上だけな…」
「うん。リトにまかせる!」
リトは美柑の前に屈むと、遠慮気味に濡らしたタオルをピトっと身体にあてた
「ひゃッ! もぅ! 冷たすぎだってば!」
「わ、ワリィ」
急いで水を切りなおすリトに、怒った顔もすぐにやわらかくなる
(でもなんかイイな…。こんな感じ。……よし!)
ギュ~っとタオルをしぼるリトの背中に美柑は、イタズラっぽく声を尖らせる
「リト」
「なんだよ?」
「いいからこっち向いてよ」
「ん?」
振り向いたリトを出迎えたのは、上半身裸の上に、悩ましげな流し目を送る美柑の姿
「なん…だよ?」
その上目遣いに濡れタオルを持つ手が止まる
「さっきから全然してくれないからさ…。ナニしてるのかな? って思ったの」
「え?」
「…さわりたかったらさわってもいいんだけど?」
「…………は?」
思考が停止
頭の中で言われた言葉を反芻させる

『さわりたかったらさわってもいいんだけど?』

……え? ナニを?

リトの視線は美柑の赤くなった顔と、身体をいったりきたり
「そ、そりゃ、ララさんや古手川さんみたいに大きくはないけど…。私だってちょっとはさ…」
と、言いつつ、美柑は少し前屈みになり、両腕で挟んで無理やり作った胸の谷間を、リトに見せる
「ちょ…ちょっと待てって! さっきからマジで何の冗談…」
「冗談なんかじゃないよ」
「え」
「私は本気だよ……リト」
美柑の真っ直ぐな視線を、真正面から受け止めたリト
その幼い瞳の中にある一生懸命な気持ちに言うべき言葉も忘れてジッと見つめ返してしまう
「リト…」
小さく、だけど、胸に響く声が紡がれていく
「私じゃ…ダメ?」
「え…」
「私じゃあの人たちに敵わない?」
「あの人たち?」
「アンタは鈍感だし天然だからわかってないかもしれないけどさ…」
「何だよ? どーゆー…」
まるでわかっている様子のないリトに胸の中の何かがズキリと痛む
霧のようにもやもやとしていて、知恵の輪の様に複雑に絡み合う幼い胸の内
ジッと見つめていたその目がふいに揺らめいたかと思うと、美柑は、すっとリトに身体を寄せた
反射的に後ろに下がろうとするリトを逃さない様に、その首筋に腕を回して抱き付いてくる美柑
リトの喉がゴクリと音を立てる


「リト…」
「ちょ…ちょっと待…っ」
ベッドからほとんど半身を乗り出す様な姿勢のまま身体を寄せてくる美柑に、リトはどう
していいものか、その手を宙に彷徨わせる
その間も美柑の動きは止まらない
熱のせいか、少し荒くなった息に、汗でしっとりと濡れた素肌
耳元に寄せられた口は、しきりにリトの名前を紡んでいる
「み、美柑…? 何考えて…」
「…さっき言ったじゃん。本気だよ、って」
「だ、だからどーいう…」
なんて言っている間もリトの頭の中では美柑との邪まな行為が渦巻いている
リトは慌てて頭を振った
「落ち着けって! オレ達は兄妹なワケでっ。こ、こーゆーのは…」
「―――そんなの関係ないよ」
「え…」
急に声のトーンが下がった美柑にリトは思わず訊き返してしまう
いつの間にかあんなにぎゅ~っと抱き付いていた腕の力もなくなっている
「…美柑…?」
「……」
美柑は黙ったまま腕を解き、身体を離した
俯いたまま何も話さなくなる美柑
その身体はいつにもまして小さく見える
「リト…と…」
ベッドの上で女の子座りをしながら、美柑はぼそぼそっと口を開く
やがてすっと顔を上げた美柑の顔は、今にも泣き出しそうになっていて
美柑は自分の気持ちをしぼりだすかのように呟いた
「……じゃなきゃ…かったのに…」
「え? 何て…」
「そしたらさ…そしたら…」

『リト♪』
『あのね…結城くん』
『ちょっと結城くん。またあなたは…』

「私も……私も…あの中に、はいれるのにな…」
「美柑…?」
幼い瞳はゆらゆらと揺らめき、小さな手はふるふると震えている
美柑は小さな口を動かしながらうわ言のように言葉を紡いでいく
「リト…、知ってる…?」
「何をだよ」
「……うん…。やっぱ知らないよね…あんたはさ」
「だから何の事だよ?」
美柑はずっと下を見続けながら、その長い睫毛を揺らした

「私たちが…、血の繋がった兄妹じゃないって事…」

「…………へ?」
たっぷり時間をかけて考えてもリトには美柑の言った言葉の意味がわからなかった
そればかりか頭の中がグルグル回り続けて、まともに思考すら紡げない
「な、なな、何だって!? ど、どーいう事だよ美柑!!」
「……」
何も応えてくれない妹にリトの思考は、ますます乱れ千切れていく


「きょ…兄妹じゃないってそれってつまり…えとその…」
「……」
しばらく沈黙を守り続けた美柑は、やがて、小さくぽつりと口を開く
まるで、何かの想いに突き動かされていく様に
「…ねェ…リト」
「…へ?」
「…あんたは私の事をどー想ってるか知らないけどさ、私は…私はあんたの事が…」
「美柑?」
ずっと俯き続ける美柑の手が痛いほどに握りしめられている事にリトはようやく気付く
そして、その顔が、切ないほどに寂しく悲しそうに歪められている事に
美柑は顔を上げると、いつもの強気な目を潤ませて、ジッとリトを見つめた
その大きな黒い瞳に、純粋さと無垢さと、そして愛情をたっぷり宿しながら
それは、いつもの結城家の小さながんばり屋さんの目じゃない
まだ幼い小学生の、年相応の目だった
「リト…」
小さなほっぺをリンゴの様に赤く染めながら、すがる様な目で見つめてくる美柑
「…美柑」

久し振りに見たような気がした.
妹の、美柑の、こんな姿を
小さい頃、遊びに行って一人きりにさせた時は、いつもこんな風に目に涙をいっぱい溜めて玄関で待っていた
そして、そんな時はきまって、泣きながらポカポカ叩く
何度も。何度も。涙をポロポロこぼしながら

今は涙こそ出ていないが、リトの目には美柑が泣いている様に見える
寂しくて、辛くて、ひとりで気持ちを抱え込んでいて
リトはそっと美柑の頭に手を置いた
「…ぅ…リト」
「どうしたんだよ? 美柑」

そういえば…こんな風に頭を撫でたのっていつぶりだっけ――――?

手の下の美柑は、目をまん丸にさせた後、やがてうるうると目を滲ませていった
「…ふ…ぇ…リトぉ…」
「ん? なんか下から持って来てやろうか?」
「…ゃッ…」
頭をぶんぶん振って主張する美柑
「ん~…じゃあ…っておい!?」
思案中、がばっと思いっきり抱きつかれたリトは思わず声を上げた


「美柑!?」
「いいよ何もしなくて! 何もしなくていいから…そんなのいいから…だから…だから…ここにいてよリト!」
「美柑…」
腰に腕を回してギュッと抱き付いてくる美柑に最初こそ驚いたものの、リトは少しすると、
その頭にポンっと手を置いた
「そーだな。じゃあ今日はずっと一緒にいような、な?」
腰に顔を埋めながら小さくコクコク頷く美柑に苦笑を浮かべるも、リトはその頭を撫で続ける
幼い日、いつもこうやって仲直りしていた頃のことを思い出しながら


しばらくすると、目をゴシゴシと擦りながら美柑は顔を上げた
その目はまだ赤く腫れていて、どこかバツが悪そうに泳いでいる
「…へ、変に取り乱しちゃってその……ありがと…」
「別にいいって。それよりもう平気か?」
「…ま…まーね」
幾分、落ち着きを取り出したものの、美柑はどんな顔をすればいいのか、一度もリトをま
ともに見られないでいる

(…ま、らしいといえばらしいんだけどな…)

頬を指で掻きながら、さっきまでの事を考えていたリト
急なことだとはいえ、美柑に抱き付かれた事に内心赤くなっていた
「…あ、あのさ」
「え…」
「さっきの事なんだけど…」
「さっき…?」
「兄妹じゃないって話し」
「あ、ああ…。あれか…」
何度思い返してみても、リトにはまったく身に覚えのない話しだった
一度もそんな話しをされたこともないし、そんな話しが出たこともない
緊張とおかしな興奮にも似たモノがゴクリと喉の奥に消えていく


「私たちさ、兄妹じゃないからケッコンもできるんだよね!」
「け、ケッコン!?」
「覚えてる? リト。小さい頃、よくリトのお嫁さんになる~って私、言ってたよね?」
「そ、そりゃ…」
リトの頭の中で幼い日の思い出がぐるぐると渦巻いて止まらない
「だ、だってアレはそーゆーんじゃなくて! なんつーか…」
「……」
汗が噴き出て止まらない
口からは意味のない言葉ばかりが出てくる
「えっと…だから…」
「――――なーんてね」
「は?」
「あはははっ。なに真に受けてんの! そんなドラマみたいな展開あるわけないじゃん!」
美柑はリトを真っ直ぐ見つめると、口の端を歪める
「ホント、リトってからかいがいがあるよね―――」
(こいつ…)
顔面蒼白のリトにも美柑の笑顔は絶えない
そんな美柑に呆れつつも、いつもの調子を取り戻した様子にリトは「やれやれ」と腰に手
を当てながら溜め息を吐く
「ったく。せっかく人が心配してやってんのに……」
「……わかってるよ! ちゃんと感謝してるって」
美柑はリトから視線を逸らすと、どこか遠い目になる
その眼は何を映しているのか、リトにはわからない
(……そうだよ。ちゃんとわかってる。ちゃんと)

『アタシ、おにーちゃんのおよめさんになる! ううん。なりたい! なりたいの!』
『だからおにーちゃん。アタシいがいのコのこと、スキになったりしたらダメだからね!』
『おにーちゃんのこと大スキ! ずっと、ず~っと大スキ!』
『お兄ちゃんって呼ばなくなってもずっとずっと…。ね? リト』

「ありがと…お兄ちゃん」
ポッと赤くなった顔のまま上目遣いで見つめてくる美柑に、リトは照れくささを隠す様に、
指で頬をぽりぽりと掻いた
「よ、よせよ。いまさらそんな呼び方……」
「たまにはいいじゃん。たまには」
「まーな…。つーかそれより服着ろよ…。ホントに熱上がるぞ?」
「それなら大丈夫だよ! さっき全部リトに移してきたからさ」
「おい…」
本気で心配になったのか、とっさに自分のおデコに手を当てるリトを、おかしそうに見な
がら、美柑は再び自分の胸の中の気持ちに触れた


―――だから、リト
いつか私の気持ち、ちゃんとアンタに届けてやるんだから
その時は覚悟してよね! お兄ちゃん