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「にゃ~」
「あ…!」
幼稚園の帰り道、いつもの通り道に見慣れないモノが一つ
道路の端に置かれた段ボールの箱の中から、こっちを見つめる小さな二つの瞳に、唯の足は止まった
「にゃ」
「ん~…」
周りをキョロキョロ見渡しながら、トテトテと段ボールの箱に駆け寄る唯
「わぁ~!」
箱の中を覗くと、黒い子猫が一匹
全身、黒というわけではなく、どういうわけか足だけが白という、まるで白いブーツを履いて
いるかの様な子猫に、唯の目がキラキラと輝く
そして、そのつぶらな瞳に唯の小さな胸がキュンと音を奏でる
「カワイイ…」
まだ幼い、子ども特有の純粋さで溢れた笑顔
それは幼稚園の誰も見たことのない満面の笑顔だった
唯は小さな手を差し出すと、おいでおいで、と子猫に合図を送る
ヒラヒラと動く手をジッと見つめる事数秒、子猫はツンとそっぽを向けてしまった
「!?」
自分に興味をなくしたかの様に毛繕いを始めしまった子猫に、唯のほっぺがぷっくりと膨らむ
「ふ、ふん! 別にいいもん!」
唯も負けず劣らず、ツンとそっぽを向ける
けれど、ものの数秒でまた子猫に視線がいってしまい、そして、その愛らしさに釘付けになってしまう
(カワイイ…。カワイイなァ。唯、抱っこちたいな…)
指を咥えながら、ジッと子猫の様子を窺っていると、唯の顔に影が射す
「あ、ネコじゃん! スゲーかわいい! お前のネコ?」
「え…、ち、違…」
いつの間にか後ろに立っていたその男の子は、唯の隣に屈むと、唯と同じ様に子猫においでおいでと手を動かす
ヒラヒラと動く手に毛繕いを中断させ、興味深げに小さな瞳が後を追っていく
(誰―――? このコ…)
年齢は自分と同じぐらい
だけど、幼稚園で見たことのない顔だった
茶色の髪に、いかにも男の子といった感じで、手や顔にドロが付いている
「お! こっち来た!」
「え…!?」
視線を子猫に戻すと、男の子の手を警戒しながら子猫は顔を近づけていく
そして、男の子の顔をジッと見つめた後、その手に顔を擦りつけていった
「あはっ、やめろって! くすぐったいって!」
(な、何よ!? 唯のときは、こんなコトちてくれなかったのにッ!)
出会ったばかりでもう子猫と戯れるその男の子に、嫉妬という名の対抗心が生まれる
「うぅ…」
「…にしてコイツどしたんだ?」
「え?」
クイクイっと動く人差し指にネコパンチを繰り返す子猫を見つめる男の子の目に、陰りが射す
「だってこんな寒いときに、こんな段ボールに入れられて外にいるなんておかしーじゃん?」
「うん…」
「もしかしてコイツ…」
子猫を見つめる二人の顔がどんどん沈んでいく


「ど、どーちよ…」
「どーするって……お前んチじゃ飼えないのか?」
「唯のおウチはダメ…。動物、飼っちゃいけないコトになってるから…」
「そっか…。オレのトコもなんだ…。ん~どーするか……」
「何んとかちて!」
「何んとかって言われてもなァ…」

唯自身、どうして出会ったばかりの男の子に、こんなにすがるのかわからなかった
ただ、なんとなく
この目の前の男のコならなんとかしてくれるに違いない!
そんな想いがいつの間にか胸の中にできていた

男の子は腕を組みながら、うんうんと頭を巡らせている
そんな男の子に、段ボールの中の子猫は、箱にしがみつくようにして、しきりに小さな手を伸ばしていた
もっと遊んで! と言っている様に何度も何度も
(何んとかちてあげたい…! 何とか…)
自分には全然、懐いてくれるどころか興味を示してくれる気配もない
だけど、それでも――――
「よし!」
男の子は一人そう声を上げると、子猫の頭をポンポンと手で撫でいく
「なにかイイ事おもいついたの?」
「まーイイ事かどーかわかんないけどさ。とりあえずオレの通ってる幼稚園につれて行こ
うかなって思ってるんだ」
「幼稚園に…?」
「そ! で、ココで飼ってもいいですか? って幼稚園の先生に相談しよっかなって。
まー、まだどうなるかわかんない…」
男の子の言葉を最後まで待たず唯は、勢いよく立ち上がった
「じゃあ早くいこー! こんなところにいつまでもいたらこのコ、風邪ひいちゃう!」
「そりゃそうだけど、とりあえず落ちつ…」
「やッ! 早くあったかいところに連れていって、あったかいモノ食べさせてあげたいのッ!」
両手を握りしめながら、ジッと見つめてくるその真剣な眼差しを、男の子は真っ直ぐに見つめ返した
「優しいんだな。お前」
「え…!?」
「会ったばかりだってゆーのにさ、そこまでマジになれるなんて優しい証拠だよ!」
「だ、だって…ゆ、唯…そんなんじゃなくて…その…」
スカートを握りしめながら、真っ赤になった顔で急にもじもじし始める唯の様子に、男の子はクスっと笑みを浮かべた
そして、両手で子猫を抱きかかえると、胸に抱いた
「よし! それじゃー行くか!」
「う、うん」
男の子につられるように、唯はコクンと頷く


幼稚園に連れていくと、二人の話しを聞いた先生は、困ったような、なんとも言えない顔を浮かべた
その顔に、二人の顔にも不安がいっぱい溢れる
子猫をギュッと抱き締める男の子と、その男の子の服の裾を掴んで離さない唯の
様子に、先生は溜め息を吐きながら二人を幼稚園の中に入れ、「ちょっと待っててね」と告げて
奥に行ってしまった

「大丈夫かな…?」
「さあなァ…」
「も、もし、もしダメだったら、唯、おかーさんにいっぱいいっぱいお願いちて、それでそれで…ぅぅ…ぐずっ…」
目に涙をいっぱい溜め、小さな手を握りしめながら話す唯に、男の子はその頭にそっと手を置いた


「心配すんなって! 絶対大丈夫だから、な?」
ニッと歯を見せて笑うその顔に、子猫も膝の上で「にゃ~」と鳴き声を上げる
「ホント…?」
「当たり前だろ!」
男の子の笑顔に胸のどこかが熱くなるのを感じながら、唯はゴシゴシと涙を拭いた
「う…うん」

それからどれだけ時間が経ったのか
(遅いな…)
隣を見ると、退屈そうに男の子は足をプラプラさせている
そして、その膝の上で丸くなって眠っている子猫
唯たちがこんなにガンバってるのに! と思ってしまうが、その天使のような寝顔に
そんな気持ちもどこかに吹き飛んでしまう
男の子の指の動きに反応するように、ピクピクと髭や前足を動かす子猫
その様子をおもしろそうに見つめている男の子の横顔に、唯は自然と笑みを浮かべた
(やさちくて、ちょ…ちょっとカッコよくて…。なんて名前なんだろ…?)
男の子を見つめる回数も時間も、子猫と同じぐらいか、もしかしたら――――…

そうこうしていると―――――

「じゃ、じゃあココで飼っても…」
先生の話しによると、どうやらココで飼ってもいいとの事
唯は喜びを爆発させるように子猫を撫でようとして、その手を引っ込めてしまう
「何だよ? 撫でないのか?」
「だ、だって唯、嫌われてる…」
「そんな事ないって! だってホラ」
「え…?」
しゅん…となった顔を上げると、子猫がしきりに前足を動かし、唯の方へ身体を伸ばそうとしていた
「あ…」
「な? ホラ、抱いてみろって」
「え、え…で、でも…」
「いいから! ホラ」
「う…うん」
恐る恐る男の子から子猫を受け取る唯
腕の中の子猫は、まん丸で、ふわふわで、あったかくって
「にゃ~」
顔を見ながら気持ちよさそうに鳴き声を上げる子猫に、唯は硬くなっていた顔をほころばした
「カワイイ」
「だろ? お前のこときっと好きなんだよ。そいつ」
「そ、そっかな?」
恥ずかしさとうれしさで顔が熱くなるのも忘れ唯は、腕の中の子猫にそっと笑顔を浮かべた
「おウチ見つかってよかったね!」
「にゃ~」

そして別れの時――――
「今日はいろいろありがと」
「いいって! 気にすんな! それよりホントにいいのか? ネコ…」
「うん…」
幼稚園の違う唯が、これ以上してやれる事はもうない
新しい家も、あったかい毛布も、おいしいゴハンも、もうあるのだから


「いいの…」
小さく呟いた口とは正反対に、その黒い瞳がゆらゆらと大きく揺れる
肩も少し震えながら、それでも決して"ホントの気持ち"を言わない意地っ張りな唯に、
男の子はほっぺを掻きながらぼそっと呟いた
「また来いよな…」
「え?」
「その…お前がよければだけどさ。お前が来たらきっとアイツも喜ぶと思うし」
男の子の視線は、後ろに見える幼稚園の校舎に向けられている
「いいの…? また、来ても…」
「当たり前だろ! つーかオレ一人でアイツの世話なんてできないって」
「じゃ、じゃあ…」
「たまにでいいからさ。アイツの顔を見に来てくれよな」
「う、うん」
ぱぁっとお日様の様な笑顔を浮かべる唯に、男の子の頬が赤く染まる
(か…かわいい…!)
「どーちたの?」
「い、いや、その、なんつーかさ…。そ、そーだ! 名前! まだオレたち名前言ってなかったよな?」
「名前…? あ、そういえば…」
無理矢理話しをはぐらかされた事に、少し引っかかりつつも、唯は姿勢を正すと真っ直ぐに男に子に視線を向けた
「唯の名前は、古手川唯っていうの。あなたは?」
「オレ? オレは―――」


その日から少し時が経ち――――
塀の上を歩く一匹の白ネコを見ると、唯はそっと手招きをした
「おいで、おいで」
チラッとこちらを見たものの、白ネコはすぐにふいっと顔を背けると、そのままトコトコ歩いて行ってしまった
「ふ、ふん! 別に来なくていいわよ!」
と一人ほっぺを膨らませる唯
そんないつもの光景に、後ろから声がかかる
「あれ、古手川じゃん」
「まうー!」
散歩の途中なのか、セリーヌを肩車しながらリトが声をかけてきた
「ゆ…結城くん……とセリーヌちゃん!?」
どこか顔を赤くしながら驚いた様に目を丸くする唯の元に、リトとセリーヌが合流する

そんな三人の様子をジッと見つめるネコが一匹、塀の上にいる
黒い毛並みに白いブーツを履いているかの様な、ちょっとオシャレなそのネコは、一声
「にゃ~」と鳴くと、塀を飛び越え、どこかへ消えて行ってしまった

今も昔も、ネコが巡り合わせる二人の出会い
それは、きっと運命の巡り合わせ――――