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それは、ある日の夕方のこと―――
風紀委員の仕事を終えた唯は、徐々に夕日で朱に染まっていく教室で、一人帰る支度をしていた。

「はぁ…全く、何でみんな普通の生活ができないのかしら…」

 

ご存じ校長があんなんなここ、彩南高校は、学校全体の風紀もかなり緩めである。それ故、唯のような風紀委員の仕事は大変なものになりがちであった。

 

(さて…もう帰らなきゃ。夜道は変な人やハレンチ極まりない人やらがうろついてて、危ないしね…)

 

と、急いで帰ろうとした時、一つの机に、筆箱が置きっぱなしになっているのを見つけた。
自分の、斜め前の席。その席の主は―――

 

(…結城くんったら、筆箱置き忘れてるじゃない…もう)

 

そう、我らが主人公、そして…唯の密かな想い人・結城リトだった。

 

(ど、どうしよう…困ってるわよね…今日数学の宿題たくさん出てたし…)

 

一瞬、どうすべきか迷う唯。
しかし…いつも自分が困っているとき、あの人は助けてくれた。
それを考えれば…自分がやるべき事は、ハッキリしていた。

 

(だ、誰も居ないわよね…)

 

辺りを見回し、自分一人であることを確認した唯は、リトの筆箱を自分の鞄の中に入れた。

 

(結城くんの家に行って…これを届けなきゃ…!)

 

決心した唯はやや駆け足で教室、そして学校を出て、帰路とは反対の方向へと向かっていった。


リトの家に向かって歩きだすこと数分…唯は、自分のある変化に気づいた。
胸が、どんどん高鳴っていく。


(た、ただの届け物とは言え…やっぱり結城くんの家に行くなんて、緊張するわ…
ダ、ダメよ!落ち着くのよ私…)

 

しかし、高鳴りは落ち着くどころか、一歩一歩結城家に近づく毎に、どんどん強まっていった。

 

――結城家前――


(き、来ちゃった…結城くんの家に…)


今や最高潮に近いほどの胸の高鳴りを感じながら、唯は結城家の前に立っていた。


(と、とりあえず、早く緊張を解さなきゃ…)


鈍感な結城くんやララさんが出てくるならまだしも、他の家族が出てくる場合だってある。特に、あの聡明そうな妹の美柑ちゃんに、今の自分を見られたら…
そう考えた唯は、とりあえず深呼吸して落ち着くことを図った。

 

(スー…ハー…スー…ハー…よ、よし、ちょっと落ち着いたわ…)

 

やや大げさな動きで深呼吸をした唯は、少し落ち着いたのを確認すると、思い切ってインターホンを押した。
―ピンポーン…―

 

(だ、誰が出るかしら…)


待つこと数秒、応答に出たのは、聞いたことのない女性の声だった。

 

「はーい、どちら様?」

 

「(?)あ、あの、古手川と申しますけれども…」

 

「んー、ちょっと待っててね?」


―ブチッ―

 

(…誰かしら今の?美柑ちゃんじゃないみたいだけど…)

 

そう考えていると扉が開き、見知らぬ女性が迎え出てきた。
リトと同じ髪の色をした、快活そうな女性。
一目見た途端、リトの事を思い浮かべてしまい思わずドキッとしてしまった。

 

「いらっしゃい古手川さん。リトと同じクラスの娘ね?」

 

見知らぬ彼女が自分の事を知っている様子なので、唯は面喰ってしまう。

 

「え!?あ、あの、何で知って…」

 

しかしその疑問はすぐに解けた。

 

「美柑に聞いたのよ♪」

 

そう言われ奥を見てみると、以前会ったリトの妹・美柑が立っていた。

 

こんにちは古手川さん。久しぶりだね♪」

 

「こ、こんにちは美柑ちゃん…」

 

兄と違って鋭そうなこの妹に、先ほどまでのドキドキを読み取られぬよう、唯はややぎこちない感じで挨拶を返した。

 

「あ、あの、こちらの方は…?」

 

「ん?私とリトの母さんだよ?」

 

「そ、林檎っていいます、よろしくね古手川さん♪」

 

リトと美柑の母・林檎はにこやかに唯に挨拶をする。

 

「(え!?前聞いた話じゃ、ご両親はほとんど家に居ないってことだったけど…)

こ、こちらこそよろしくお願いします…」


予定外にリトの母親を前にして、思わず緊張してしまう唯。
そんな様子を察してか、美柑が間に入ってきた。

 

「ところで今日は、何の用で来たの、古手川さん?」

 

「あ、結城くんが筆箱を忘れてったから、その、届けに来たんだけど…」

 

「あー、ごめんね、リトならさっき出かけちゃったんだけど…なんか、買い物があるとかで」

 

「え…?そ、そっか…」

(!!…って!なにこんなに残念がってるのよ私!?)

 

慌てて普通の表情に戻そうとする唯。
しかし、それを見逃すこの親子ではなかった

「あら…もしかして期待外れだった?ごめんなさいねホントに…」

 

「い、いえ!そんなことな、ないです!あ、あの、じゃあこの筆箱、結城くんに渡しておいてもらえますか?」

 

この人も娘に勝るとも劣らぬ鋭さを持っているようだから、これ以上話してると色々マズい。
そう思った唯は、少し残念だがこの場を出来るだけ早く離れようとした。
しかし…

 

「あら、せっかく来たんだし、あの子が帰ってくるまで上がって待ってたら?」

 

「え!?えっと、そ、その…」

 

「いいじゃん、そうしてきなよ古手川さん。私も話したいことが有るし♪」

 

「え、えっと…じゃ、じゃあそうします…」

 

とっさの機転の利いた嘘をつくのが苦手な上、断りきれないと思った唯は、素直に上がることにした。

靴を脱いで、家に上がる唯。

 

(な…成り行きとはいえおジャマする事になっちゃったなんて…何か持ってこれば良かったわ…)

 

そんな事を考えていると…ふと、林檎が自分を見つめているのに気が付いた。

 

「…?ど、どうしたんですか?」

 

「……ちょっとツンとした感じだけど、プロポーションは抜群…これは…」

 

ブツブツと独り言を言う林檎。

 

「ま、まさか…;」

 

美柑の脳裏に嫌な予感がよぎる。

そして林檎の目が妖しく光り…

 

「…ちょっとよく見せて!!」

 

の声と共に、唯の体をまさぐり始めた。

 

「キャ…キャッ!ちょっと、やめてくださ…あ、あんっ…」

 

「お母さん!!初対面の人にいきなり…;」

 

美柑が止めに入ると、林檎の手がピタリと止まる。

 

「B88W59H87ってとこね…!まあ、ララさん張りのスタイルじゃない!発育の良い最近の娘の中でも、これはイイわね…!」

 

「ど、どうも…(な、何この人… !まさか結城くんがハレンチなのは、この人の影響…?)」

 

「ご、ごめんね~古手川さん…さ、さ!こちらへどーぞ!」


美柑に、リビングに案内される唯。

 

「じゃあ、ここで待ってて?今飲み物入れてくるから…コーヒーでいい?」

 

「あ、あの、コーヒー飲めないんで…」

 

「じゃあ、紅茶淹れてくるわね?」

 

そう言って林檎は、キッチンに入っていった。

 

「どうぞ。遠慮なく座って♪」

 

「あ、ありがと…」

 

美柑に勧められ、ソファーに腰掛ける唯。
美柑も、唯の隣に腰掛ける。

 

「…あれ?そういえば、ララさんやナナちゃんモモちゃん、セリーヌちゃんは?」

 

「みんなしてどっかに出かけちゃったよ。でも、ララさんが確か『リトに料理作ってあげたいから、ナナとモモに教わるんだ~♪』って言ってたから、多分彩南商店街とかその辺りじゃないかな?」

 

「へ、へぇ…そっか…(頑張ってるのねララさん…)」

 

いつもただリトにベタベタくっついていただけだと思っていた唯は、ララの意外な努力に軽く驚く。

 

「…それにしても、こうやって2人きりで話すのって初めてだよね、古手川さん?」

「え、ええ、そうね…」

 

一度しか会った事がない上、元々人と接するのが上手でない唯はやや気まずくなる。
しかし美柑の方は流石しっかり者、話題には事欠かなかった。

 

「リトは学校でどんな感じ?」

 

「え?んー…ララさんと一緒にとても騒がしいわ。ホントにもう…」

 

「そっかー…ごめんね古手川さん、いつもリトが迷惑かけて」

 

美柑が申し訳なさそうな顔をしたので、唯は慌てて取り繕う。

 

「そ、そんな、いいのよ美柑ちゃん!別に美柑ちゃんが悪いわけじゃないし…
そ、それに、良いところだってあるし…」

 

その唯の言葉を聞いて、気のせいか、美柑の口元がほんの少し緩む。

 

「へー…例えば、どんな?」

 

「え、えっと…風紀委員の仕事で根を詰めすぎちゃった時に気遣ってくれたり…街で不良の人たちに変な事されそうになった時には、走って助けに来てくれたり…あ、あと、夕立ちで制服が濡れちゃった時には、ハンカチ貸してくれたり…ほ、本当に優しくて…」

 

と、ここまで言って、唯は、自分の頬が紅くなっている事に気が付いた。
…と同時に、美柑がニヤニヤしながら自分を見つめている事にも気付いた。

 

「ぷっ…あはは、やっぱりね!そうじゃないかと思ってたんだけどね…
一度古手川さんの口から話を聞いとこうと思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだ♪」

 

「え?な、何のこと?」

 

見るからに唯は慌てふためき始める。

 

「またまた…隠さなくても良いんだよ古手川さん?私、もう気付いちゃってるんだから…」

 

「な、何に気付いて…?」

 

と言ってはみたものの、既に答えは明白だった。

 

「古手川さん…スキなんでしょ?リトのコト…」

 

美柑にひっそりとそう囁かれた唯は、一瞬で沸騰し、パニックになる。

 

「な、な、なっ、何言ってるのよ美柑ちゃん!?わ、私は別にそ、そんな…」

 

「そんなに顔真っ赤にしてちゃ説得力無いよ、古手川さん~?」

 

「うっ、う…」

 

少し落ち着いた唯に、巧みに追い打ちをかける美柑。

 

「隠さなくたって大丈夫だよ?リトにはもちろん、誰にも言わないからさ」

 

この一言で少し安心した唯は、遂に

 

「う…うん…」

 

と認めた。

 

「ホント、アイツってば時々、自分でも気づいてないだろうけど、本当に罪なオトコになるからね…分からなくはないよ、古手川さんのキモチ」

 

美柑の言葉に、唯は俯いたまま頷く。

 

「でも…きっと大変だろうなー、古手川さん…アイツ鈍感だし、側ではいつもララさんが猛アタックしてるし…」

 

「…そ、そうよね…」

 

改めて他人の口から聞いてみると、自分の状況がいかに不利かが分かる。唯は、突き付けられた現実に落胆する。

 

「でも…」

 

「?」

 

「…でも、だからこそ、頑張らなきゃ!」

 

「え…?」

 

思いがけない美柑の言葉に、唯は顔を上げる。

 

「不利な状況だからこそ、頑張らなきゃ。でしょ、古手川さん?」

 

「み、美柑ちゃん…」

 

「私…なんとなく分かるんだ、古手川さんのキモチ。だって、私も…」

 

と、ここまで言いかけてハッと口をつむぐ美柑。

 

「え?『私も』って…?」

 

「な、何でもないよ!と、とにかく、『ララさんに先を越されないぞ』ってくらいの心意気で…」

 

「あら~、何が『ララさんに先を越されないぞ』なの?」

 

キッチンから、紅茶を2つ淹れてきた林檎が戻ってきた。

 

「え?え、えっと、何でもないよ母さん!ね、古手川さん?」

 

「え?う、うん…」

 

慌てふためきながら、隠そうとする2人。しかし、そんなものが通用する彼女ではなかった。
林檎は美柑の隣にしゃがみ、

 

(冗談よ…ねえ美柑、私が知らない間に、更に面白い事になってるじゃない?)

 

と、密かに耳打ちした。

 

(あ、やっぱバレちゃったか…でしょ?リトのヤツ、ホントに罪なオトコになっちゃってるんだから…)

 

「あ、あの…」

 

2人が気がかりでしょうがない唯が、2人に声をかける。

 

「あ、ううん何でもないのよ古手川さん?それにしても、リトったら遅いわねぇ…こんな可愛いコ待たせちゃって…」

 

と、ちょうどその時、玄関の扉が開いた。

 

「ただいまー…」

 

「あ!帰ってきた!」

 

心なしか、歓声の混じった声をあげる美柑。
その隣で、唯は、突然リトの声を聞いて、三度胸が高鳴る。

リトが、リビングに入ってきた。

 

「美柑?玄関に知らない靴が有るけど、誰か来て…って、古手川!?」

 

やや驚いた様子で、リトは唯に気付く。

 

「あんたが筆箱忘れてったから、わざわざ届けに来てくれたのよ?感謝しなさいよリト~」

 

「あ、ああ、サンキュな、古手川」

 

笑顔でお礼を言うリト。

 

「い、いいわよ別に…」

 

そんなリトの笑顔を見て、やはり意図せずツンが出てしまう唯。

 

「は、はい、コレ。もう忘れちゃダメなんだからね、結城くん?」

 

「あ、あぁ…(ま、また怒ったような顔してる…;)」

 

リトはややバツが悪そうに、筆箱を受け取る。

 


ふと外を見ると、もう夕焼けの日が暗闇混じりになってきていた。

 

「あ、あの…それじゃ私、もうこの辺で…あんまり遅くなるといけないですし…」

 

そう言って、唯は立ち上がる。

 

「あら、もう帰るの?…でもまあ、もう遅くなってきてるし、その方がいいかも…あ!」

 

何か思いついた様子の林檎。

 

「リト、もう結構暗くなってきたし…夜道に女の子一人じゃ危ないから、古手川さん家まで一緒に行ってあげたら?」

 

「え、え!?」

 

思いもよらぬ林檎の提案に驚く唯。

 

「ああ、そうだな…じゃあ古手川、家まで一緒に行ってやるぜ?」

 

リトもその気な様子。

 

「い、いいわよ、わざわざそんな…」

 

「遠慮すんなって、古手川。オレの為にこんなに帰りを遅くさせちゃったようなもんだし…それで帰りに何か有ったら、申し訳ないしさ」

 

そう唯を諭すリトの眼は、真剣そのものだった。
そのリトの真剣な眼差しを見れば…唯が、断れる筈はなかった。

 

「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えさせてくとするわ」

 

しかしその言葉を聞いて、何故かリトは突然噴き出す。

 

「?ちょっと、何がおかしいのよ?」

 

少しムッとして、唯がリトに尋ねる。

 

「い、いや…古手川が『甘える』って、何か似合わないよなぁとか思っちゃって…ははっ」

 

そう言い終わった刹那…リトはもう、後悔し始めていた。
明らかに唯の肩が震え、顔は赤くなってきていたからだ。

 

(や、ヤベぇ…!)

 

しかし、もう後の祭りだった。

 

「なっ、何よ!ただの言葉のアヤじゃない!?」

 

「わ、わ、ご、ゴメン!じゃ、じゃあオレ、外で待ってるから、準備出来たら来てくれ!」

 

そう言ってリトは一目散に外へと走って行った。

―バタン―

 

「ホントにもう!何よ…わ、私が甘えちゃ…」

 

「え?ってことは、古手川さんはリトに甘えたいの?」

 

唯の背後から美柑が囁く。

 

「……っ」

 

何も答えなかった唯だが、どんどん紅くなっていくその顔から、答えは明白だった。

 

「…やっぱり、古手川さんって結構可愛いところがあるよね♪」

 

「…!も、もう、年上をからかっちゃダメよ美柑ちゃん…」

 


とりあえず気を持ち直して、林檎の方を向く唯。

 

「あ、あの…今日はお邪魔しました」

 

「いえいえ、全然構わないわよ?リトの同級生の娘と話す機会なんて、滅多に無いし…」

 

快活な笑顔で、そう答える林檎。

 

「そうだよ古手川さん、また機会があったらおいでよ?話したいこともまだ色々ある…というか、出来ちゃったしね♪」

 

少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら答える美柑。

 

「そ、それじゃ私、もう行きます。結城くん、待ってるでしょうし…」

 

「うん、そうね…じゃあね、古手川さん。それから…」

 

「?」

 

疑問の表情を浮かべる唯のそばに、林檎は近づいた。
そして、唯の耳元で囁く。

 

「…がんばってね!」

 

「が、がんばってねって…え、え!?」

 

驚愕の声をあげると同時に、唯は美柑の方に振り向く

「てへっ、もうバレちゃってたみたい。お母さん、私より鋭いから…」

 

想い人の妹のみならず、遂に母親にまでバレてしまった。
恥ずかしいやら何やらで一気に居づらくなった唯は、ダッシュで玄関まで駆けて行き、

 

「そ、それじゃ、さようなら!」

 

と、慌ただしく結城家を出て行った。

 

「ふふっ、可愛いわねあの娘…スタイルも抜群だったし」

 

「そうだね。まあ、ちょっとリトにツンツンしすぎな所も有るけど…
アイツ鈍感だし、あれじゃ絶対伝わらないよねー…苦労しそう、古手川さん」

 

残った二人は、既知者同士の会話を楽しむ。

 

「まあ、分かってる人から見れば、ああいうのも面白くて可愛らしんだけどね…♪」

 

「そうだね…」

 

 

「お、お待たせ結城くん…」

 

ダッシュで結城家を出てきた唯は、手をヒザにつき、息を切らしていた。

 

「だ、大丈夫かよ古手川?なんか顔赤いし、息切らしてるし…」

 

「だ、大丈夫よ!さ、さあ、早く行くわよ!」

 

「ホントかよ…ま、古手川がそう言うなら良いか…」

 

リトと唯は、古手川家の方向に向けて歩き出した。


しばらく歩き続けて居た二人だが、リトがふと立ち止まった。

 

「あ、そうそう、古手川」

 

「な、何?」

 

先ほどのが治まりきってないのか、まだいつもよりツンとした表情の唯。

 

「さっき渡そうと思ってたんだけど、渡しそびれちまったから、ここで…はい、コレ」

 

そう言いながらリトは、ずっと持っていた手提げから1つの箱を取り出し、唯に渡した。

 

「え?これ、私に…?でも、何で…?」

 

「ホラ、この前セリーヌが勝手にお店のコーラ飲んじまった時に、代わりにお金払ってくれたろ?そのお礼ってことでさ」

 

「そ、そんな…よかったのに、わざわざ…」

 

「いいからいいから、受け取っとけよ。ほんの気持ちだからさ」

 

「あ、ありがとう…」

 

突然のリトからのプレゼントに驚く唯。
気づけば心の中が、言い表せないほどの嬉しさと期待に占められていく。

 

「ね、ねえ…ここで開けても、構わないかしら?」

 

いつになく子供っぽい表情で尋ねる唯。

 

「え?ま、まあ良いけど…」


(こ、古手川もこんな表情するんだな…)

 

逸る気持ちを抑えつつ、丁寧に箱を開けていく。そして開け終わり、夕日に照らし出されたその中身は――

 

「…!わぁ…か、可愛い…」

 

中には、少し小さめのサイズの、白いネコのぬいぐるみが入っていた。

 

「良かった。気に入ってくれるかどうかと思ってたんだけど…やっぱ、古手川にならネコのモノがベストかなーと思ってさ」

 

ホッとした表情を浮かべるリト。

 

(結城くん・・・私が、ネコ好きなこと…覚えててくれたんだ…)

 

リトにとっては、ただのクラスメイトというだけであるはずの自分。そんな自分の事を、ここまで気遣い、ここまで覚えててくれるなんて。
胸が、今までになくハッキリと、キュンとなる唯。
自分の中で、リトへの想いが増すのを感じる。
そして…それは、もう隠しておくには辛すぎる事も、感じ取れた。

更に、唯の脳裏に、先ほど美柑に言われた言葉を思い出す。

 

『と、とにかく、ララさんに先を越されないぞって位の心意気で…』

 

今の、このままの状況では…結城くんは自分の思いに気づくことのないまま…ララさんの想いに応えるだろう。
では…自分がララさんに先を越されないようにするにはどうしたら良いか。
いや、少なくとも…同じ土俵に立つには、どうしたら良いのだろうか。
…自分も、リトに想いを知ってもらうしかない。
隠すのが辛い程にまでなったこの想いを…素直に伝えなければならない。

 

「…古手川?大丈夫か?」

 

リトの一言で、唯は今の自分の状態にハッと気付く。
ずっと下を向いて思いつめてた為、たぶん心配して声をかけてくれたのだろう。

…言うなら、今がその時だ。
自分の次の言葉を待っている、今の状態なら…

 

「…結城くん」

 

「?どした?」

 

緊張で胸が高鳴るのを感じながら、唯は精一杯力を振り絞って次の言葉を出す。

 

「わ、私…」

 

「?」

 

「……っ」

 

…次の言葉がなかなか出ず、沈黙が訪れる。

 

「?なんだよ古手川、どうして…」

 

と、ここでリトは、いつもと違う唯の様子に気付く。
いつもの怒った顔とは違った、恥じらいを伴った不安げな表情。いつもの強気な眼とは違った、潤んだ瞳。そして、いつものビシッとした立ち方とは違った、思わず支えてあげたくなるような立ち居振る舞い…
そして、そんな唯を見ている内に…リトの胸の鼓動のリズムが、次第に早く、短くなっていく。

 

(!?な、なんでオレ、こんなにドキドキして…?)

 

しかし、そんな唯を見れば見るほど…普段とのギャップにより、信じられないほど魅力的に見えてくる。何か、熱いものがこみ上げてくるのを感じる。

 

(ダ、ダメだろオレ!何こんなにドキドキして…ど、どうしたんだオレ…?)

 

目の前に立つ唯を見て、ひとり困惑し始めるリト。


そんなリトと同じく…唯も一人、心の中で葛藤していた。
頑張ってはみるものの…次の言葉が出ない。
言う事に、これほどの勇気が要るなんて。
今までの17年間の人生の中で、一番勇気を試されている時間のように感じる。
時間が経つにつれ、勇気が出てくるどころか…だんだん、萎んでいってしまう。

 

(や…やっぱり、私には…)

 


しかし、その時…ふと、とある過去を思い出す。

結城くんや美柑ちゃんと一緒に、仮想RPGの世界へ行った時のこと。
あの時結城くんは…勇気を出して、ララさんに、自分の想いを伝えた。
しかも、自分達他の人が居る前で…

あの時結城くんが振り絞った勇気は、一体どれほど大きなものだっただろう。
それに比べれば、今の自分の状況なら…

結城くんは、勇気を出して伝えた。
ならば、自分も…それに倣って、想いを伝えることはきっと出来るはず。
唯はありったけの勇気を振り絞り、遂に長い沈黙を破って言葉を出した。

 

「ゆ…結城くん」

 

「え?…あ、ああ、何?」

 

唯の言葉で、困惑していたリトはふと我に返る。

 

(そ、そうだ、ともかく今は、古手川が何言うのかっしっかり聞いといてやらねーと…)

 

落ち着きを取り戻し、改めて唯を見つめるリト。

改めて見つめ直してくるリトの視線に、また少し緊張させられる唯。
しかし、ここでまた黙ってしまう訳にはいかない。
結城くんが、自分の言葉を待っててくれている。
唯は、覚悟を決めた。
唯は、ありったけの勇気を振り絞り、想いを言葉に出した。

 

「わ、私…!あなたの、結城くんのコトが……!」

 

『まう、まうー!』

 

唯の言葉は、突然飛び込んできた声と物体に阻まれ、最後まで言い遂す事は出来なかった。

 

「え…?」

 

「まうっ♪」

 

「キャッ!セ…セリーヌちゃん?」

 

どこからかセリーヌが、元気よく飛び跳ねて唯の胸に飛び込んできた。

 

「セリーヌ!?ってことは…」

 

ふと振り向くと、ララ、ナナ、モモのデビルーク姉妹達が、小走りでこちらに向かって来ていた。

 

「あ、リト~!ユイ~!セリーヌ見つけてくれたの、ありがと~!」

 

ララが急いでリトと唯に駆け寄る。

 

「も~、ダメだよセリーヌ、勝手に飛び跳ねてっちゃ」

 

しかし当のセリーヌは、唯に夢中で聞こえていない様子。

 

「このコったら、突然飛び跳ねてっちゃったからどうしたかと思ったんですけど…どうやら、古手川さんが来るのが分かったから、会いたくてイッちゃったみたいですね♪」

 

モモの言う通り、唯の腕の中で、セリーヌは嬉しさを表すかの如く、小さな手足をバタバタさせていた。

 

「懐かれてるんだなーコケ川…アタシ達ん時はこんなにはならないもんなー」とナナ。

 

「え、ええ、そうね…嬉しいわ…」
(…嬉しいと言えば嬉しいんだけど…はぁ…)

 

「?どーしたの唯?イマイチ元気無いみたいだけど…」

 

少し心配そうに尋ねるララ。

 

「え?あ、だ、大丈夫!何もないわよ、本当に…ね、セリーヌちゃん?」

 

「まうまうー♪」

 

唯に咄嗟の出しに使われたのも露知らず、セリーヌは元気よく唯の問いかけに答える。

 

「そっか、良かった♪」

 

「まったく、心配させんなよなコケ川」

 

素直に納得した様子のララとナナ。
しかし…こういう面では姉や片割れよりも鋭いモモは、一人疑いの眼差しを唯に向けていた。

 

(どう見ても、何故かガッカリしてる…怪しい…)

 

「?どーしたのモモ?」

 

「え?あ、いえ、何でもないですわお姉様♪」

 

驚くべき切り替わりの早さで、モモはララに笑顔を向ける。

 


そんな中リトは、3姉妹のやり取りを尻目に、唯の胸で元気にバタつくセリーヌを見つめていた。

 

「…しっかし、ホントに懐かれてるよな古手川って」

 

「え、ええ、そうね」

 

腕の中で暴れるセリーヌに半ば困惑したまま、答える唯。

 

「これだけ子供に好かれるって事は…将来、絶対いいお嫁さんになりそうだよなー…」

 


リトにとっては、何気ない一言。
しかし唯にとっては、鋼の理性を打ち砕き、己の隠された妄想癖に火を付け、あっちの世界に誘うには充分過ぎる一言だった。

 

『ただいまー。帰ったぞー、唯』


スーツを着た大人の(しかもイケメンぶりに少々磨きがかかった)リトが、玄関の戸を開けながらこう言う。

 

『おかえりなさい、あなた♪
ね、ねえ…ご飯にする?お風呂にする?そ、それとも…』

 

『ん?それとも?』

 

『わ、わた…って、何言わせるのよもう、ハレンチなんだからっ…』

 

『ははっ、悪い悪い…じゃあ、まず皆で夕食にして、それからお風呂に入って…その「それとも」は、後でゆっくり、な…』

 

『も、もう、ホントにハレンチなんだからっ…』

 

唯の脳内に、こんな光景が一瞬にして飛び込んでくる。

 

(な、なっ…)

 

無論これだけでは収まるはずもない。

家の中で、自分が、リトと自分との子を抱いて、側にいるリトと一緒にあやす光景。
自分が、ネコの絵がプリントされたエプロンを着ながら、家族の分の夕食を作る光景…
そんな類の光景が、止めどなく頭の中に浮かんでは消えていった。

 

「…コケ川?顔真っ赤だぞ?」

 

ナナのその一言で、唯はハッと我に返った。
ナナの隣ではモモが、

 

(これは…もう、確定でしょうね…♪)

 

と、独り合点していた。

 

「…ゆ、結城くん」

 

「?な、なんだ古手川?」

 

そう聞きながら、リトは嫌な予感がしていた。

今の唯は、いつもより赤面してるところ以外は…既にいつもの唯に戻っていたように見えたからだ。

 

(な、なんかオレ、変な事言ったか…?)

 

しかし、もう考えても遅かった。

 

「あ、あ、あなたって人は!!ホントに…ホントに美柑ちゃんの言う通りの人なんだからっ!!!」

 

「まう?」

 

驚いたセリーヌが、唯から飛び降りる。
そしてツンと顔を背けると、唯は自分の家に向かって、走って行ってしまった。

 

「え、え?あ、待てよ古手川…あー…行っちゃったか…」

 

「ど、どうしたんだコケ川?」

 

「さぁ…さっきはなんか元気も無かったし、今は顔も赤かったから…熱でも有ったのかなぁ?」

 

そんな的外れな考察をしている姉妹二人をよそに、モモは

 

(確かに美人ですけど…あれじゃ、お姉様のライバルにはなり得そうにもないですね♪)

 

と、ひとり安心していた。

 

「…まあ、ここからだったら古手川の家はすぐだから、もう無事に家に着いてるだろうし…オレ達も帰るか?」

 

やや疲れた様子で提案するリト。

 

「さんせーい♪」

 

「じゃ、そうしましょ♪」

 

「そうだなー、あたしも早く帰ってシャワー浴びたいし…」

 

「そっか…じゃ、帰るか」

 

リト達4人もまた、帰宅すべく歩き出した。

 

 

帰路を辿る途中、リトはふと立ち止まる。

 

(古手川…一体、何をオレに伝えて…?)

 

「リト~?どうしたの、早く行こーよ!」

 

ララの声で、我に返るリト。

 

「あ、ああ、わりぃわりぃ…」

 

リトはララ達に追いつくため、小走りで帰路を再び辿り始めた。


  

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
――――数日後――――
彩南高校、2A教室。
リトはいつものように、猿山に猥談を持ちかけられ、半ば仕方なさそうに受け答えしていた。

 

「しっかしリト、さっきの体育の時間…ララちゃんのおっぱい凄かったよな!?ぷるんぷるん揺れるんだもんよ…見てて飽きねーぜ」

 

「何見てんだよお前は…;」

 

やや呆れたように返すリト。

と、背後から、今ではもう聞き慣れた声が飛んでくる。

 

「ちょっと結城くん!?何学校でハレンチな話してるのよ!?」

 

振り返ると、少し怒ったような表情の唯が、腕組みして立っていた。

 

「なっ、べ、別にいいだろ話すくらい…それに、持ちかけてきたのは猿山の方だし…」

 

なっ!オレに全部回すなよリト!それに…お前も、見てたっちゃ見てたんだろ~?」

 

「あ、ああ、まあな…って、お前何言わせ…」
(…って、ヤ、ヤベぇ!)

 

唯を見ると、案の定肩をワナワナと震わせて、明らかに怒っていた。

 

「ハ、ハ…ハレンチなっ!!何考えてるのよ全く!!」

 

「わ、わりぃ…」

 

しかし、そんな言葉だけでは唯の嫉妬…じゃなくて怒りは収まらない。

 

「ホントにもう!あなたがそんなにハレンチだと困るのよ!!」

 

「な、何で?」

 

「クラスの風紀、ひいては学校全体の風紀も乱れるでしょ?そ、それに将来…」

 

「しょ、将来?」

 

リトに指摘され、ハッと口をつむぐ唯。そして、みるみる頬は紅くなっていき…そのまま固まってしまう。

そのまま数秒…唯がそのままの状態で何も言って来ないので、リトは恐る恐る唯に声をかける。

 

「あ、あの~…古手川?」

 

リトに声をかけられ、びっくりしたかのように唯は我に返り、現実の世界に引き戻された。
しかし…顔はまだ、何故か紅くなったままだった。

が…リトは、唯の表情が変わっている事に気が付く。
怒っている訳ではなく…なにか、恥ずかしさを感じさせる表情になっていた。

 

(こ、古手川…?)

 

そんな唯に困惑しているリトに、唯は少しだけ近づき、聞き取れるかどうかというほどの小声で呟く。

 

「…あ、あなたのせいなんだからね、結城くん…」

 

「…え?」

 

「……っ」

 

そう言って唯は、小走りで教室を出て行ってしまった。

 

「な、なんなんだリト?どうしたんだ古手川のヤツ?」

 

訳が分からないといった顔で、猿山がリトに尋ねる。

 

「さ、さあ…オレにもさっぱり…」

 

同じような表情で返すリト。

 

(…でも古手川、あの時からああなんだよな…昨日や一昨日も、オレと話してる時急に固まってたし…)

 

そんな事を考えている内に、リトはあの時の事を思い出す。

 

あの時、夕暮れの中で…自分に何か伝えようとしていた時の、古手川の表情。
いつもの唯とは違った、恥じらいと女の子らしさを醸し出していた、古手川の表情…
そして、さっき走り去る間際にリトに見せた、あの表情…

 

(って、何思い出してんだオレは…)

 

しかし、ふと自分の異変に気が付くリト。

 

胸の鼓動が、いつもより早い。更に、だんだん速くなっていく。
顔に手を当ててみると、いつもより熱い。間違いなく、自分の頬は紅潮していた。

 

(ま、またオレ、あの時みたいに…だ、ダメだろ!こんなこと考えてちゃ…)

 

しかし、そう思えば思うほど…鼓動のリズムは速くなり、頭の中は白くなり…あの時の唯が、より鮮明に脳内に映ってくる。

 

(お…おい…これって…まさかオレ…)

 

リトは自分が信じられない気持ちでいた。

古手川は、ただのクラスメイト。
少しよく分からないところも有る、頑張り屋で、生真面目な普通の女の子。
その見方は、変わることは無いだろうと思っていた。

しかし…現実の今の自分は、そんな古手川の事を思い出し、こんなにドキドキしている。
紛れもなく…今の自分は、春菜やララに抱いたのと同じ感情を…古手川唯に抱いていた。

 

(な、な…何考えてんだオレ!?オ、オレにはもう、春菜ちゃんや、ララが…!)

 

リトの頭の中で、人知れず壮絶な戦いが始まっていた。

 


教室を出た飛び出た唯は、廊下の中ほどで壁にもたれかかり、落ち着こうとしていた。

 

(はぁ、はぁ…もう…!ホントに、あなたのせいなんだからね、結城くん…!)

 

あの時以来…リトを見る度に、不意に彼に言われた言葉を思い出してしまう。

 

『将来、絶対いいお嫁さんになりそうだよなー…』

 

更に、その言葉を思い出すと…同時に、あの時してしまった、思い出すのも恥ずかしい妄想が、ポンポン蘇ってきてしまう始末だった。


結城くんと自分の、将来の妄想…

 

(はぁ…でも…)

 

冷静に考えてみれば…先ほどの自分の行為は、鈍感な結城くんにとって、ものすごく奇妙に見えただろう。
そう思うと、今更ながら、落胆の念が押し寄せてくる。

 

(はぁ…これじゃ、ララさんに負けちゃうわよね…)

 

そんな事を考えていると―――

 

「おーい!ユイ~♪」

 

噂をすれば、なんとやら。ララが、向こうからやってきた。

 

「どーしたの唯?なんか元気無いよ?」

 

自分の隠れたライバルとは露知らず、純粋に心配した顔で唯に尋ねるララ。

 

「う、うん、ちょっとね…」

 

いつも散々煩く言ってしまっているのに…目の前に立つララは、いつも自分に無邪気に接してくれている。
そんなララを見て…唯は、軽い羨望と嫉妬の念を心に抱く。

 

(私が…敵うはず無いわよね…こんなに可愛くて、無邪気で、純粋で、素直なララさんに…)

 

諦めかけていた、その時…唯の脳裏に、ある言葉が浮かんだ。
あの日、リトの家に行った時、美柑に言われた言葉。

 

『不利な状況だからこそ、頑張らなきゃ。でしょ、古手川さん?』

 

―――自分は、何を諦めようとしていたんだろう。
確かに自分は…ララさんには劣っているかもしれない。けれど、これだけ想いは募っているのに…諦めることは、やっぱりしたくない。

そして、美柑の言う通り…例え不利な状況であっても、諦めてはいけない。不利な状況だからこそ、頑張らなくてはならない。

 

(そうよ…私は…)

 

唯はシャキッと顔を上げ、ララの顔を見つめた。

 

「ララさん?」

 

「?どしたの唯?」

 

唯は、思ったままの事を言葉にした。

 

「わ、私も頑張るから…ま、負けないからね!」

 

「え?」

 

「……っ」

 

そう言って唯は、廊下の更に向こうへと走り去ってしまった。

 

「?どーしたんだろ唯…何が、『負けない』なのかな?」

 

純粋過ぎるララは、知る由もなかった。
たった今、リトを巡る恋のライバルをされたという事は…

 


―――そして、その夜遅く―――

 

唯は自室で、今日の出来事を頭の中で反芻していた。

 

(はぁ…私、どうしちゃったんだろう…何で、ララさんにあんな事…)

 

半ば後悔する唯。
しかし、残り半分は…今やった事に、満足していた。
伝わったかどうかは別だが…これで、自分の中での隠し事は、一つ減った事になる訳だし、心なしか少しスッキリした。

 

唯は、一つのぬいぐるみを手に取り、ベッドへと入る。
それは、あの日…リトがプレゼントした、あの白ネコのぬいぐるみだった。
リトから貰ったぬいぐるみを見つめながら、唯はぼんやりと考える。

 

結城くんに対する、この恋…勝ち目は少ないけれど、自分の初恋。
精一杯、頑張りたい。

そんな事を考えつつ…唯はぬいぐるみを優しく抱きしめ、目を閉じる。
そして、眠りに落ちる間際、とても小さな…しかし、ハッキリとした声で呟いた。

 

「負けないからね、ララさん…
そして……、おやすみ、結城くん…」