そんな二人の様子をビーチから見ながら、リトは眉を寄せた
「────何話してんだ? 二人とも」

ワイワイと身振り手振り、楽しそうに話しをしている二人
唯と美柑が今以上に仲良くなるのはいいことだと思うが、会話が気になる
時折、こっちをチラチラ見たかと思うと急に顔を赤くしたり
どこか得意そうに話す美柑と、少しびっくりしている様子な唯

「…なんか変なこと言ってなきゃいいんだけどな……」
頬を指で掻きながらぼそっと呟くリトのすぐそばで明るい声が上がる
「リト~! オイル塗って♪」
「はぁ?」
オイルを手に輝く笑顔で抱き付いてくるララに、リトは顔を引きつらせた
「オ、オイルってなんで…」
「ん? チキューじゃ肌が焼けないように女のコはみんな塗るんじゃないの?」
胸をムギュ~っと押し付けてくるララにリトの頭から湯気が立ち上り始める
「み、み、みんなってワケじゃ…」
「でも塗るんだよね? リト、塗って! お願い!」
「ん~……」
眉間に皺を寄せながらチラリと視線を向けた先は、もちろん唯たちのいる海の家
相変わらず美柑と談笑中の唯を気にしながらリトは、溜め息を吐いた
「…仕方ねーなー! じゃあちょっとだけだぞ?」
「うん! ありがーリト♪」
「はぁ~…」
再び笑顔全開で腕に抱き付いてくるララに溜め息をこぼしつつ、その表情をフッと和らげるリトだった
(ま、コイツが地球にどんどん馴染んでいくのはイイことだよな)


おいしそうな香ばしい匂いをさせる焼きトウモロコシを口に運びながら、唯の目が次第に細められていく

「あんっ。くすぐったいよ~」
「し、仕方ねーだろ! オイルってこーゆーモンなんだからッ!!」

トウモロコシを持ったまま唯はピクリとも動かない

「んっ、んん…リト…そんなトコ触っちゃダメだよ…」
「そんなトコって誤解を招くいいかたするなって!!」

そんなリトの絶叫を余所に、唯の肩がぷるぷると震え出す

「ん…く…ぅぅ、し、尻尾…尻尾はダメぇ~」
(そーいやララって尻尾触られるの苦手だったんだっけ)

リトの卑猥な手付き(もちろんリトにそんな意思ないのだけど)に妖しい声を出しながら悶えるララ
そんな二人の周りにはいつの間にかちょっとした人だかりが出来ていた

「…何やってんのアイツ…」
アイスを舌で舐めながら美柑の冷ややかな声が海の家に流れる
その時、リトの背後に一つの気配が現れる
「…ッ!!?」
瞬間、ゾワリと背中が逆立つのを感じたリトだったが、時すでに遅し。
振り返ったリトが見たものは、どこまでもどこまでも冷たい眼をした唯の姿だった
「ゆ…唯? ど、どーした…」
「何やってるのよ!? あなた達はッ!! ララさんも変な声だすのやめなさい!!!」
「ユイ?」
寝そべっていた砂浜から体を起こしたララが、キョトンとした顔のまま唯を見つめた
唯は真っ赤になった顔のまま、握りしめた手をふるふると震えさせている
「どーしたの?」
「どうしたの? じゃないわよ!! 何やってるのよ!!?」
「む~。だってこのオイルってとっても気持ちいんだもん♪ クセになりそうだよ~! ユイもやってみる?」
「…へ!?」
予想外のララの発言に唯は咄嗟にリトの顔を見つめた

『オレが塗ってやるよ! 唯』

頭の中のリトはもちろん溢れんばかりの笑顔で
唯の顔がいよいよ真っ赤に染まっていく
「へ?」
「…ッ」
ビクビクしつつも、どこか不思議そうな目で見つめてくるリトに、唯は言いたい事も言えず
その場で立ちつくしたまま
それでも目はリトの持つオイルと、ララの白い背中を行ったり来たり
(……な、何よッ…結城くん…)
「唯?」
(私には何もないクセに…! 私をほうっておいてこんな…こんな…)

何も言わずにふいっと顔を背けるだけの唯に、リトはワケもわからず頬を指で掻くだけ
その顔はありありと「何だよ?」と言いたげなものになっている
そんな二人の姿を交互に見ると、ララはスッと立ち上がって唯の腕を取った

「え? ちょ…」
「唯もしてもらおーよ! ね?」
「え…え!?」
「リトのオイル塗りとーっても気持ちイイんだよ!」
「き、気持ち…いい?」
「うん! だから唯も、ね?」
ぐいぐいと引っ張られていく唯の目に、一人キョトンとなっているリトの姿が映る
「…ッ!?」
「なんだ?」
リトの小首を傾げるその仕草に唯は目をギュッと瞑ると、ララの腕を解いた
「こ、こ、こんなハレンチな事ダメに決まってるでしょッ!!」
「え!? 唯?」
唯はララから離れると、浮き輪を手に一目散に駈け出して行く
「唯~…」
「…結局、何がしたかったんだ? アイツは…」
そんな途方に暮れている二人の背中に美柑は冷たい声を投げかける
「…バカリト」


浮き輪にギュッとしがみ付きながら唯は、足元までしかこない波に向かってパシャパシャ
と足を動かしていた
「……結城くんの……バカ…」


「ったく唯のヤツ…」
「アンタが悪いんだよ? リト」
メロン味のカキ氷の山をスプーンで崩しながら、冷たい視線でそう呟く妹にリトは、鋭い視線を返す
「悪いって何が?」
「唯さんのコトずっとほっといたじゃない?」
「ほっといたって……あのなァ。お前らがずっと話してたからオレは…」
そこまで言ってから、いつの間にかこっちをジッと睨んでくる美柑に、リトは口を噤む
「…なんだよ」
「アンタ、ホントに何もわかってないんだ? いい? 話してるとか誰かと一緒にいるとか
関係ないの! アンタに声かけてほしいって思ってるに決まってるじゃん! 一緒に
いたいって思ってるに決まってるじゃん!」
「ん~…そうか…?」
「ハァ~…。だいたいアンタが海に行こうって言ったんでしょ? だったらアンタが
ちゃんとしなきゃダメじゃないの?」
「そりゃ…」
「女のコはわがままだし、甘えんぼうなんだよリト? そこのところちゃんとわかってなきゃダメだよ!!」
気を利かせたつもりが逆に仇になってしまった事にまだ納得出来かねるも、リトは渋々首を振った
「ま、まあ……そーだよな! オレが誘ったんだし、ほっといたのはオレの責任だしさ」
む~っと兄を見る美柑の目は、明らかに「ホントにわかってんの?」と言いたげな様子だ
(…ま、それがリトらしいって言えばらしいんだけどね)
頬杖をつきながら美柑は、うれしそうにリトの事を話す唯の姿を思い返す
(…それにこんなのでも私にとったらお兄ちゃ…)
さっきまでの会話の余韻なのか、薄っすらと頬を染める美柑に、何もわかっていないリトが
当たり前のように質問をし始める
「つーか…おまえらさっきまで何話してたんだ? やけに盛り上がってたろ?」
「え…!?」
キュンと小さな胸が音を立てる
「あ、あんたには関係ないじゃない!」
珍しく一人取り乱す美柑に、リトは腕を組みながら小首を傾げた
「お、女のコ同士の秘密なんだからッ! 男のアンタには関係ないのッ!!」
「秘密ねェ…」
どうせこれ以上聞いても碌でもない事を聞かされると感じたリトは、美柑から視線を
逸らすと、ペケと二人で浜辺に巨大な砂の城を作っているララに目を向けた
「……あれ? そーいや…唯は?」
「え?」
まだ赤くなった頬のままキョトンと聞き返す美柑を残してリトは席を立つと、浜辺に降り立った
「おーい! ララー!!」
ペケと一緒に砂で出来たカキ氷を作っているララの元に、息を切らせながらリトは走り寄る
「どーしたの? リト」
「唯は? アイツどこにいったんだ?」
「唯? 唯ならさっきまで浮き輪に乗って遊んでたよ?」
「遊んでた……?」
ララの見つめる先には、数人が泳いでいるだけで唯の姿は見当たらない
次第にリトの顔から冷静さが消えていく
「遊んでたっていつ? どの辺だよッ?」
「え…えっと…」
「たぶん三十分ぐらい前かと思います」
砂のトンネルの中からペケが声をだす
「三十分前!? 三十分前にココにいたって事か?」
「はい。何やら考え事をしていらっしゃる様子でした」
「考え事? ってまた唯のヤツ…」
頭を掻きながら眉間に眉を寄せしばらく頭を悩ませると、リトはララに向き直った
「ララ。オレちょっと唯のヤツ探してくる」
「え? 私も行くよ!」
立ち上がりかけたララを手で制止ながら、リトはすでにララに背中を向けていた
「いいって! オレ一人でいいから! お前は美柑にこの事伝えて、留守番しててくれ!!」
「うん…。大丈夫だよね? 唯…」
「心配すんなって! いつもの事だからさ」
ララを元気づかせようとニッと笑顔を向けると、リトはその場を駈け出した
「…ったく唯のヤツ……」

一方唯は、人の疎らになった砂浜を一人トボトボと歩いていた
「……こんなところまで来て何やってるのよ。私…」

「美柑~。大変なの! 唯がね…」
と走りながら大声でそう伝えてくるララの傍ら、美柑はリトに視線を送っていた
(まったく…! アンタがしっかりしなきゃダメなんだよ、リト)
ぶすっとした顔をしながらも、どこか兄へのエールともとれる言葉を心の中だけで呟くと、
美柑は走って来たララと二人の帰りを待つ事にした

「唯のヤツ、どこに行ったんだ?」
キョロキョロ周りを見渡しながら浜辺をひたすら歩いていると、いつの間にか人気のいない
岩場付近まできている事にリトは気付く
「うわっ、危ねー」
むき出しのゴツゴツした岩に気を付けながら少し遠くに視線を向けると、大きな岩がまる
で通せんぼしてるかの様に行く手を遮っていた
「さすがにあんなトコまで行ってないだろ? ……でも、ん~~…」
でも、どこか胸がざわざわする
ひょっとしたらと思う気持ちが大きくなっていく
それは理屈でもない、言葉にも言い表せない感覚
リトはその気持ちに導かれる様に、その大きな岩の向こうを目指して歩き出した


砂浜に腰かけながら、唯はぼんやりと海を眺めていた
海に入るのは怖いけれど、海を眺めるのは好きだった
青い空と白い雲、そして、碧い海のコントラストが心を洗い流してくれるようで
波の音を聞きながら、唯は目を瞑って考える
寄せては返す波
それはまるで自分たち二人の様だと唯は思う
進んではまた後ろに下がり、また進んでは――――
はぁ~っと唯の口から溜め息がこぼれる

本当はわかってる
進むばかりじゃダメだってコト
そして、結城くんは自分だけのものではないということ
わかってる! み~んなわかってる!!
わかってるはずなのに――――…

「はぁ…」
今度はさっきよりも深く短く
「ホントは寂しがり屋のくせに私……こんなところで何やってるのよ…」
唯はいつかヤミが言っていた言葉を思い返していた

『────二人の心は時計の針の如く離れては近づき────やがて重なる…』

それはきっと誰かを好きになって、付き合っても変わらないモノ
恋をすると毎日が大変で、毎日が勝負で
どうでもいい時はそばにいるクセに、いざという時、そばにいてくれない
そんな事の繰り返しで
「結城くん…」
波の音を聞きながら唯の指が砂の上を踊っていく
それはリトの名前と自分の名前。そして、二人の間に傘があって、その上にハートマークがあって
ぼーっと相合傘を見ていると胸に込み上げてくるモノがある

もっと、スキって気持ちがほしい
もっと、私のコトを見てほしい
もっと、私に触れてほしい
もっと、その笑顔がほしい
もっと……もっと……

寄せては返す波が唯の足元を濡らしていく
「私って…ワガママなの……?」
恋をするまでまさか自分がこんな風になるだなんて想像もしてなかった
一途ゆえの純粋で素直な気持ちに胸が締め付けられる

"本当に、本当に、こんな時こそそばにいてほしいのに――――"

また溜め息を吐きかけた時、岩に当たって返る波が相合傘の一部を持って行ってしまった
「あ…!?」
とっさに立ちあがって相合傘を守る様に、唯はその前にしゃがみ込んだ
背中に当たる波しぶきを感じながら唯は、ジッと相合傘を見つめる
別に特別でもない普通の絵。だけど、この時だけは、この時だけでは、消えないでほしいと思った

波はますます勢いを増し、唯の背中と言わず髪まで濡らしていく
「…ん…!」
キュッと唇を噛み締めて耐えると、ようやく波が収まったのか、辺りにまた静寂が戻っていく
ホッと溜め息を吐きかけたその時、今まで以上の波が唯を襲った
頭から覆いかぶさった波は、岩にぶつかり、そして、返す波が唯の小柄な体を海へ持っていこうとする
「え…」
と驚く間もなく、唯は海の中へと連れ込まれてしまった

海の中でキリモミになりながらもなんとか目を開けると、光に向って必死に手足をバタつかせる
それはとても泳ぐとは言えない様な動き
それでもその必死さが実ったのか、唯の身体はゆっくりと上昇を始める
「ぷはっ…はぁ」
海面に顔を出した唯は必死に浮き輪を探した。が、パニックになった頭では満足に思考を紡げない
さっきいたところまで5メートル以上も離れてしまっている

「助…助け…ぷはぁ…う…うぅ結城…く…」
いたずらをするかのように顔めがけて押し寄せる波にうまく声をあげることもできない
唯は心の中で何度もリトの名前を叫び続けた

(結城くん助けて! 助けて!)

徐々に身体は海中へと沈んでいく。薄れいく意識の中、それでも唯は、リトの顔を想い浮かべ
名前を呼び続けた
すると────

「唯!?」
力強い腕に抱きしめられたまま唯は海面へと顔を出した
「ケホ! ケホケホ…」
「唯!!? 大丈夫か?」
薄く眼を開けると、ぼんやりとした景色の中に見慣れたいつもの顔をあって
唯は、堪え切れず、リトにギュッと抱き付いた
「…う…ぅぅ…ひっ…ぐ」
細い身体を目いっぱい震わせながら、唯はリトの胸に顔をうずめ泣きじゃくった
恐怖と安心が一度にドッと押し寄せた繊細な心は悲鳴を上げていた
「もう大丈夫だぞ! オレがちゃんとそばにいるから!!」
「う…ぐ…うぅ」
泣き続ける唯をギュッと抱きしめながら、リトはゆっくりと浜辺に向かって泳ぎ始める

すっかりずぶ濡れになってしまった唯を浜に上げると、今も抱き付いたまま離れようとはしない
唯に優しい声を掛ける
「大丈夫か? 唯」
「ひっぐ…う…ぅ」
しゃくりながらも胸の中から見上げたリトは、どこまでも真剣で心配そうな顔で
「…なによ……」
唯は背中に回していた手を握りしめた

(そうやっていつもハレンチで、私以外のコを見たり、私を放ってどっかいっちゃうクセに……! いっちゃうクセに……!)

「おい、唯!! ホントに平気なのかよ?」
「……」
「唯」
唯はリトの胸におデコを当てながら震える肩でそっと呟いた
「……何…よ…! もっと早く来てくれたっていいじゃない!」
「…だな。ごめん…」
「…………でも────ありがと…」
「ああ」
リトは小さく笑うと、そっと唯の頭を抱きしめた
胸に当たる乱れ気味の息と震えていた肩は、次第に収まっていき、唯は、しばらくすると顔を上げた
「……もう大丈夫なのか?」
「…ええ」
少し表情が暗いものの、いつもの調子を取り戻しつつある唯に、リトは笑みを浮かべる
「そっか! 安心した!!」
「……ッ!?」
ニッコリと笑うリトの笑顔は、夏の太陽よりも眩しくて────
それを正面から、それも至近距離で見てしまった唯の心拍数が急上昇を始める
冷たくなっていた身体にポッと熱がこもり、頬が紅潮していく
(…な、何よ…! こんな時にそんな顔しなくたって…)
「ん?」
もちろん唯をどうこうしようだなんて邪まな気持ちなど微塵もなく、あくまで普通に笑顔を
浮かべただけのリトにとっては、今の唯はとても不思議に映ってしまい。リトは眉を寄せた

「どしたんだ?」
「……」
「唯?」
中々、目を合わそうとしない唯に、リトは怪訝そうに眉を寄せる
「おいって」
「…私…が…」
「え…?」
ゴニョゴニョと口籠る唯にますますリトはわからなくなってしまう
(……唯ってたまにホント、よくわかんなくなる時があるんだよなァ)
腕を組みながら小首を傾げるリト、そのリトの膝の上で身体をそわそわとさせる唯
合わさりそうで合わさらない気持ちと身体は、やがて、一つのきっかけで前に進む
「あのなァ…」
「…ッ…!」
溜め息を吐くリトに唯はムスッとした顔のまま口を開く
「私が…私があんな目にあったっていうのになんか結城くんって…」
「え?」
「…余裕っていうかその…もっと心配とか……」
拗ねているような、駄々を捏ねているような、子どもの様に口を尖らせる唯にリトは苦笑を浮かべる
「……余裕なんかじゃねーよ。だってほら…」
リトは唯の手を取ると自分の胸に当てた
「え…ちょ、ちょっと…!?」 
目をパチパチさせる唯にリトは恥ずかしそうに告白を始める
「な? すごいドキドキしてるだろ?」
「ぁ…う、うん。結城くんの…すごいドキドキしてる…。私と同じ…」
「だろ? オレたち一緒だな」
「……っ!」
二カッと笑うその顔に、唯の胸がキュンと音を奏でる
「正直さ…。溺れてるお前を見た時、スゲー焦って、怖くて、何も考えられなくなって…。
でも気づいたら海に飛び込んでて。あとはもう無我夢中っつーか…」
「……」
「今だってちょっと震えてるしな」
よく見るとリトの手が小刻みに震えているのがわかる
唯は顔を曇らせた
「ごめん…なさい…」
「何でお前が謝るんだよ?」
「だって…」
「謝るコトなんて何もないって。つか無事でホントによかったよ…。ホントに…」
リトの声は、心からの安堵感でいっぱいに溢れていた
「ありがと…」
「だからそんなんじゃないって! つかお前にそんなに風に言われると、なんか新鮮って
言うかヘンな感じがする」
言い終わった瞬間、リトはしまったと思った
すぐ目の前の唯の顔が、みるみると険しくなっていっているからだ
「…それ、どういう意味よ?」
「いや…」
「私だって"ありがとう"も"ごめんなさい"も言うわよ! それとも何? 私がそんな事
を言ったらおかしいワケ? ヘンなワケ? ねぇ?」
ずいずいと迫ってくる唯の迫力にリトはすでに逃げ腰になっている
「だ、だからちょっと落ちつ…」
「結城くんッ!!」
「は、はい!」
ビクンと肩を震わせながらそう返事をしたリトを唯は、しばらく何も言わずにジッと睨みつけた

「何…だよ…?」
黒い瞳の中に映る自分の姿に、リトは自然と口籠ってしまう
唯の口は相変わらず尖っているし、目はジト~っとなって自分の事を睨んでいる
リトはゴクリと唾を喉の奥に流し込んだ
(や…ヤバい。マジで怒られる…!)
今までの経験上、この後待っているであろう状況は、容易に想像がつく
頬を伝う冷や汗を感じながらリトは、唯の言葉を待った
「結城くん…」
「あ、ああ」
ひどく落ち着いた声に、自分でも情けないと感じてしまう弱々しい声が応える
ゴク――――リ、と二回目の唾を流し込む途中で、リトは、唇に感じた違和感に息を呑む
(へ…? 唯…?)
目いっぱいに映る唯の顔と、唇に感じる柔らかい感触。そして、夏の匂いが混じる唯の香り
触れ合う唇は、リトにうれしさよりもただ、驚きを与えた
「…ん、ん…っはぁ……ゆ、唯…?」
「……ッ」
唯はふいっとリトから目を背ける。そして、ぽそぽそと波の音にかき消されてしまいそうなほどの小さな声を紡ぎ出す
「き…キスしたくなって…。その…意味は特になくて…、えっとでも、いっぱいあって…だから…」
「唯…。お前…」
支離滅裂な言葉の裏に隠された唯の精一杯の想いが、少しずつリトの中へと染み込んでいく
リトはクスッと笑みを浮かべると、何も言わずにそっと唯の唇に自分の唇を重ね合わせた
波の音すら掻き消していく二人だけの世界がゆっくりと、二人を包み込んでいく
離れていくリトの口を、唯の目が名残惜しげに追っていく
唯はジリっとリトに身体を寄せると震える声で呟く
「…もっと…」
「え?」
「もっと…。結城くんの…」
唯の顔は赤を通り越して、真紅に染まる
胸だって、恥ずかしさでリトに聞こえてしまいそうなほどに激しく音を奏でている
「唯?」
これ以上ないぐらいに呆けた顔をするリトに、唯は声を大きくさせた
「もぅ、悪かったわね!!? 私だってそういう時ぐらいあるわよッ!! どうしようもなくなっちゃう時とかッ!! 悪いッ?」
「い、いや悪いっつーかその…」
「何よ?」
「意外っつーか、ビックリっつーか…」
せっかくの告白にもまるで要領を得ないリトに、ついに唯は恥ずかしさの限界を迎えてしまう
「もう! はっきりしてよねッ!! どーするの!?」
「ど…どーするって…」
まだ胸の動揺は収まらない
けれど、こういう時こそ男である自分が、リードしなくてはいけないのだとリトは強く思った
「え、え~とじゃ、じゃあその……しよっか?」
「え?」
リトの返事に、一瞬、顔をキョトンとさせたあと、唯は下を向くと小さく口を開いた
「う…うん」
さっきまでの強気な口調がウソの様な声
耳まで真っ赤になった顔で俯きながら話すその声は、いつもとは正反対と言っていいほど、
甘く震えた女の子の声

リトの両手がゆっくりと唯の両肩に置かれる
ピクンと身を捩る唯を落ち着かせる様に、リトはゆっくりと身体を寄せた
その唇の感触に、唯の胸は瞬時にキュンと音を立てる
触れ合う唇同士が、唯の意識を徐々にとろけさせていく
「は…む、ん…」
唇を割って入ってくる舌の熱い感触と、惜しげもなく送り込まれる唾液
白い喉がコクコクと鳴る
「ん、んぁ…ちゅ…ぷ…はぁ…」
「はぁ、は…あぁ…」
荒い息を吐きながら口を離すも、その束の間すら惜しむ様に、唯の口は小さく上下に動く
もっと欲しい……と
リトはクスっと笑みを浮かべると、チュっと唯のおデコにキスを送り、そして、そのまま唯を砂浜に押し倒した
白い砂浜に映える長い黒髪に見惚れるのもすぐ、リトの手が唯の身体に這わされていく
「ん、ぅ」
ピクンっと反応する唯を楽しむかの様に、リトの指先はおヘソの周りや胸の谷間を行ったり来たり
「や…ぁ、もぅ、ちゃんとしてよ」
ムッと頬を膨らませる唯にリトはいたずらっぽく笑みを浮かべる
「こーゆーの嫌い?」
「…嫌いとかじゃなくて……もっと…こう…」
急に口ごもる唯に、リトの手が早速その要求に応えるために動き出す
「ん…や、ぁ」
先ほどまでとは違い荒々しく胸を揉みしだくリトの手
ムニュムニュと形を変える胸に合わせて、唯の口から甘い声がこぼれだす
その声に誘われたかの様に、リトの手が唯のビキニをずらした
ぷるんっ、と形のいい柔らかい乳房と、すでに充血した突起にリトの理性が限界を迎える
「あぅ…ん、ん…ぁ」
すっかり牡の顔へと変貌したリトによって、唯の胸は弄ばれる
揉みしだかれて、吸われて、しゃぶらて、甘く強く噛まれて
まるで子供が大好きなおもちゃを与えられたかの様な顔をするリトに、唯は小さく笑みを浮かべた
(かわいい…)
ハレンチな事はハレンチなのだが、母性本能なのか、その不思議な感覚に、唯は両手で
リトの頭をギュッと抱きしめた

ハレンチで優柔不断だけど愛しくて、可愛くて、カッコよくて、やさしくて、そして、大好きで
唯はこの時間が好きだった
リトを本当の意味で一人占めできるから
普段、どんなに一緒にいても、ララが抱きつけば目の色が変わっちゃうし、ルンとハレンチ
なトラブルが起きればつい声を大きくさせてしまうし
リトがモテるのはいいのだけれど、いいのだけれど――――

そんな複雑な女の子の事情なんてリトにはわからない
そんな事より、今は目の前のおいしくてやわらかいムネだ

忙しくなく動き続ける舌に口に手に、唯はますます感度を上げていく
ギュッと抱きしめる腕にも力が入り、声も甘いものから卑猥なものへと変わっていく
太ももをもじもじと擦り合わせ、無意識に腰をリトの下腹部へと押し当てる

(…私、どんどんハレンチになっていく……)

そんな心の迷いとは裏腹に、身体は正直に反応する
太ももを擦り合わせる度に、溢れた愛液がクチュクチュと小さく音を立てる

「ん、はふ…ぁ」
リトに声を聞かれない様に自分を自制する唯
だけど、気づいてほしいとも思ってしまう
しばらくすると、そんな唯の気持ちを知ってか知らずか、リトの手が秘所に伸ばされる
「あっく…うぅ…」
くちゅっ、と指がビキニの上から割れ目を一撫でするだけで、唯の腰がビクンと震えた
そして、リトの手の動きに合わせて、震えも大きくなっていく
(だ…ダメッ! ガマン…できない…)
リトをギュッと抱きしめながら、唯は耳元で震える声色で囁く
「ほ…ほ…しぃ…」
「え…」
真上から覗き込むリトに、唯の濡れた黒い瞳が揺れる
ジッとその瞳の中にリトの顔を映しながら、唯は真っ赤になった顔のまま、膝を軽く曲げる
「ん…ちょ…」
すでにいっぱいに膨れ上がった自身のモノに触れる膝の感触に、リトは目を丸くした
その様子を下から見ながら、唯は躊躇いながらもほんの少しだけ膝に力を入れる
(結城くんのすごい…)
膝小僧に当たる、堅くて熱い感触に胸の奥が熱くなっていく
すぐ上で切なそうに顔を歪めるリトが可愛くて、唯は膝を動かし始める
ぐりぐりと押し付けられる圧迫感に、早くも射精感が込み上げてくるのをグッとガマンしながら、リトは咄嗟に唯から離れる
「え…どーして…」
「ごめん。もうガマンできない!」
そう言うや否や、リトは海パンから取り出したモノを唯の前に見せつける
「……ッ!?」
コクリ――――とハレンチだと思いながらも、喉の奥に消えていくツバの感触を感じずにはおれない
先走り汁でテカる先端に、頭の中がどんどん高揚してくる
唯は上半身を起こすと、そのままリトの前で屈んだ
「へ…」
キョトンとした顔で素っ頓狂な声を上げたリトの前で、唯は恐る恐るその勃起したモノを手で掴む
「え…ちょ…ちょ…唯!?」
「…ッ」
動揺を隠せないリトにチラリと上目遣いで視線を送ると、唯は徐に手で持った肉棒を口に近づける
「ちょ…!!?」
声にならない驚きと悲鳴を上げるリトを余所に、唯は亀頭にゆっくりとキスを繰り返す
先端から一度口を離し、カウパー液でヌラヌラと光るソレをジッと見つめる
(結城くんの…)
決意と強い想いを胸に、唯はギュッと目を瞑りながらチロリと先端を舐め取った
舌に付いたカウパー液の味を確かめる様に、何度も口の中をもごもごと動かす
(苦い…。ヘンな味)
顔を顰めながらもう一度舌で舐め取る。何度も。何度も
やがて、唾液で先端がベットリになってきた頃、ずっと前屈みだったため、前に垂れてきた
髪を唯は竿を持つ反対の手で耳にかけ直す
その仕草と表情があまりにも可愛くて煽情的で
リトは恐る恐る、唯の頭に手を置いた

「……オレの咥えて」
上目遣いの黒い瞳と、躊躇いがちな瞳とが合わり、唯は小さく頷いた
目いっぱい口を広げ、リトのモノを咥える

少しずつ上下に動かすも、下手すぎて、歯が当たり、どこを舐めてどう口を動かしていいのかもわからない
リトの様子を窺うように何度も顔をチラチラと見ながら、不安そうな顔を覗かせる
「ん…ん、んっ…ちゅぷ…んくっ…ぅぅ」
長い髪が眼にかかるも、唯は必至に口を動かしていく
咽返りながら、それでも一生懸命な唯の姿に、リトは笑みをこぼした
正直、気持ちよくはない。けれど、それ以上に、唯への愛しさが膨れあがっていく
唯は不安そうな顔のまま、息継ぎを兼ねて一度口を離した
「ん…ちゅぷ…んっん…ちゅ…ぷは…は…ぁ…はぁ、そ、その…気持ちいい?」
顔だけじゃなく、声にまで不安をいっぱい滲ませながら訊いてくる唯に、リトの笑みは深くなる
頭に置いた手で髪を撫でながらリトは一言だけ言った
「続きやって」
「う…うん」
笑顔なリトに眉を顰めるも、唯は再びカウパー液と唾液で卑猥に光る肉棒を口に咥える
(何なの…。どうなのか言ってほしいんだけど…)
断続的に聞こえてくるリトの荒い息遣いと、少し震えている下腹部
(それになんだか…さっきよりもずっと堅くなって…)
唯は鈴口の部分を舌でチロチロと舐めながら、ジッと上目遣いでリトの顔を見つめた
「ゆ…唯…そこ…」
「ん…ここ?」
舌が鈴口から亀頭の裏側を通り、裏スジへと向かう
(結城くん…。こんなところがいいわけ?)
と疑問が浮かぶが、リトがソコだと言ってくれたなら、その部分を気持ちよくしたいと思ってしまう
やがて、ブルっと震えながらリトの口から切なそうな声が出てくる
「唯…もう…出そうッ」
「ん…」
唯がソレを理解するより早く、リトの手が一瞬早く唯の頭を押さえこみ、喉の奥まで咥え込ませる
「んっ…んん!?」
「出したい…お前の口の中にッ」
「ふぇ? ひょ…ひょっと待っ…」
と言い終わらない内に、口の中に勢いよく吐き出されるモノに唯は、目を丸くさせた
ビュクビュクと吐き出される欲望はすぐに口の中いっぱいになり、唯は白い喉をコクコク
いわせながら嚥下していく
涙が浮かぶ眼でジッとリトを睨むも、当のリトは、いつの間にか膝立ちになり、腰を震わ
せながら自分の口に向かって腰を振っている有様
唯はムッと眼をキツくさせた

やがて、射精も終わり、ようやく解放されると唯は勢いよく咳き込む
「ケホ、ケホ…。ゴホッ」
「わ…わりぃ! そ、そのすごい気持ち…よかったからつい…。ホント、ごめん」
ペコペコと頭を下げるリトに、唯のどこまでも冷たい氷の様な視線が向けられる
「……何考えてるわけ?」
「だ、だからごめんって…」
「よくもあんなコト…」
「だ、大丈夫だったか? その…飲み込んでくれたからさ…」
身も蓋もない事を言っているのはわかっているが、それでも唯の身を案じるのは当然の事
唯はジト~っと目を細めながらトゲを投げつける
「すっごく苦いし、まずかったわ…」
「そ、そーだよな…」
自分のモノなど口にした事はないけれど、それでもおいしくないとはわかる
リトは唯のそばに寄ると、その頭を抱きよせ、謝った

「ホントごめん! せっかくガンバってくれたのにオレ…」
ふわっと広がるリトの匂いに混じった、反省と後悔の念に押しつぶされたその声に、唯はふっと表情を和らげる
「もういいわよ…」
「え…」
「もういいの…。ホントはね。そんなに怒ってないから…」
「え…そーなのか?」
目をパチパチとさせるリトに、唯はふっと目を背ける
「ま、まービックリしたのはしたけど…」
「唯…。よかった! オレてっきりもう…」
「だからって、もうあんな事したらダメだからね! 次したら本気で怒るんだから…。
そのへんはちゃんとわかってるの?」
頬を染めながらも、ちゃんと釘を射してくる唯にリトは慌てて首を振る
「も、もちろんわかってるって! はは…」
愛想笑い浮かべるリトに、また文句の一つでもかけてやろうと身を乗り出した唯の目に、あるモノが映る
「……結城くんのまだおっきなまま…」
「だってそりゃ…唯があんなコトしてくれたんだしさ」
恥ずかしそうに顔を赤らめるリトに、唯はそれ以上に顔を赤くしながら身体を寄せた
「じゃ…じゃあ、どうするの?」
「そーだな…。今度はオレが唯を気持ちよくする番だろ?」
リトは唯の腰に手を回すと、自分の膝に来るように引き寄せた
腰に跨りながら、唯の視線とリトの視線が混じり合う
「私だけじゃなくて…、結城くんも、でしょ?」
「…だな」
見つめ合ったままキスをし、そして、唯はそのまま腰を落とした

「んっ…あ…」
ズブズブと入ってく肉の感触に、両肩に置いた唯の手が震える
「へーきか?」
「ん…ぅん。だいじょう…ぶ…だからぁ。動いても…」
キレイに整えられた眉を歪めながら、涙で滲む目でリトを見つめる
唯の膣内は、最初の時と相も変わらず、ギッチリとリトを締め付けて離さない
唯はリトから目を逸らすと、そのやわらかいほっぺを擦り付けながら懇願する
「も…もぅ! ボーっとしてないで動きなさいよねッ! バカ…」
「わ、わり」
リトは背中から細い腰へと手を移動させると、そのくびれに腕を回した
「あ…」
か細い吐息と共に、唯はリトに抱き締められる
胸板で押しつぶされるやわらかい感触を味わいながら、リトの腰が動き出す

少しすると、波の音に混じって、パチュパチュと水音がし始める
唯はリトにギュッとしがみ付きながら、その膝の上で快楽に身を投じていく
腰を卑猥に振り、背中で長い髪が躍る
「ハ…ァ…っ…気持ち…イイ…?」
「気持ちイイよ。唯の中、トロトロになってる」
「うん…。う…んっ」
密着している肌の部分に汗の珠がいくつも浮かび、擦れ合う度に、二人の身体を濡らす
唯は舌を出すと、リトの鎖骨をそのラインに沿ってすぅーっと舌でなぞっていった

「うっ」
耳元に聞こえるリトの切ない声に思わず笑みをこぼしながら、唯は鎖骨から首筋までを
キスを交えながら舌を這わせる
「ちょ…ちょ…唯!?」
「いつも私にしてる分、お返しよ!」
可愛いトゲが含むその声に、リトは首筋と下腹部を襲う激しい波に声を震わせる
「ちょっ…もう…出…っ」
「……出して。いっぱい私の中に…。結城くんがイイって言うまで何回だって」
「ゆ…唯…っ! もう…」
唯の細い身体を力いっぱい抱き締めると、リトはその膣内に欲望を吐き出した
ビュービューと勢いよく吐き出される欲望は、すぐに唯の子宮をいっぱいにし、唯自身を震わせる
結合部から混じり合った白い愛液が溢れてくるも、唯の腰は止まらない
一滴残らず搾り取るように、残さない様に、何度も腰を動かしては締め付ける強さを弱めない
好きな人の全てをその身に刻みこむ様に
「あ…ふ…はぁ…いっぱい出てる…ぅ。結城くんの…すご…ぃ…」
身体が赤くなるほど抱き締めるリトの腕の力も、その痛さも、今の唯には心地よく思える
もっともっと締め付けてほしいと願うほどに
リトは腕の力を緩めると、唯の肩に頭を預けながら、ぐったりと息を吐く
「ごめん…。お前より早くなっちまって」
「いいわよ。別に…」
すぐそばでシュンとなっている顔の見えない恋人に、唯は鈴の鳴るような声をかける
「結城くんが可愛かったからね」
「なんだよそれ…」
くすぐったそうに笑みを浮かべながら頭を上げると、そこにはジッと自分の事を見つめる唯の姿がある
紫がかった黒い瞳にジッと"何か"を宿しながら、唯はリトの顔を映し続ける
リトは手を伸ばすと、汗で頬に張り付いた髪をそっと払いながら、赤く火照る頬に手を添えた
「ん…」
ピクンと眉を寄せる、相変わらず自分のする事やる事全てに何かの反応を見せてくれる唯に、リトは笑みを深めた
「…何?」
「ん~ん。別に…。つかまたしてもいい?」
「え…」
「さっき言ったろ? オレがイイって言うまで何回でもって」
「え…!? あ…あれはそういう雰囲気だったからで別に…ってなにもう硬くして…んっ」
返事を待たずにすでに動き出しているリトに、唯は喘ぎをこぼしながらもしっかりと鋭い目を向けるのを忘れない
「だって唯の舌使いがスゲーエロかったからな」
「ば、バッ…あっ…ちょ…っと…もぅ…っ」
「今さらムリだって」
「あ…あとでお説教…ッ…だから…ねっ! わかった?」
引きつった笑みを浮かべるリトにフンっと鼻を鳴らしながら唯は、再び身体をリトに預けた

触れ合う肌のぬくもりが唯に心地よさを与える
それは、快楽とはまた違う気持ちよさだと唯は思う
唯はリトの背中に腕を回すと、ギュッと腕に力をこめた
「つかさ…、今日のお前、なんかスゲー締め付けてくるよな」
「え…」
「腕とかもだけど、おもにアソコとか」
「なっ!?」
顔から火を噴かしながら唯は慌ててリトから身体を離す
「やっぱ外でしてるせい? 興奮してるとか」
「ち…違ッ…! 私、そんなハレンチじゃないわッ!!」
「し~! 声でかいって! 誰かに聞かれたどーすんだよ?」
唯はハッとなって慌てて手で口を塞ぐ。リトはそれにイタズラっぽく笑いかける

「な? やっぱ締め付けが強くなった。やっぱお前…」
「だ、だから違うって…その…」
「なんだよ…?」
ちょっとやり過ぎたか? と冷や汗を浮かべながらリトは顔を曇らせた
「唯?」
「……私の事…とか。今してる事とか…。誰かに見られてもいいの…?」
「は?」
「いいの? 私の事見られても…」
不安そうに揺れめく紫水晶の瞳。リトは唯の頬にそっと手を当てた
「やだな。ゼッタイに! オレしか見ちゃダメだ!」
「…じゃ…じゃあ、私を結城くんだけのものにして」
「もうなってるだろ」
「足りないの…。もっと、もっと…」
「もっと?」
「もっとして」
唯はリトの首に腕を回すと、身体を抱き寄せそして、キスをした
それは、胸板にあたるやわらかい感触も、甘い髪の香りも、全てとけて消えていって
しまいそうなほどに、想いのこもったキスだった
リトはそのまま唯を砂浜に押し倒すと、本能のまま腰を打ち付ける
「唯…唯…」
「な…ッ…に?」
潤んだ黒い瞳が妖しい光沢を帯び、その視線を受けたリトの背中を電流が駆け上がっていく
「…ッしたい! もう一回、お前の中…」
「……何回でもって言ったの忘れたの?」
と小さく微笑みながら唯の手がリトの頬を撫でていく
海の匂いに混じって唯の香りが鼻孔をくすぐる
「唯…!」
リトの腕が唯の小柄な身体を抱き締め、貪るように腰を打ち付けていく
結合部からは、さっき出したばかりの精液と愛液とが混じり合ったモノが、卑猥な音をたてながら溢れていた
コツコツと子宮口を叩く強さが増すだけ、唯の腕の強さも増していく
リトの背中に回した手は、爪が立ちそうなぐらいに食い込んでいた
「唯…唯…」
「う…んっ。あっ…ぁ…ん、んっ…うん」
リトが名前を一つ呼ぶ毎に、唯の口から喘ぎと一緒に返事が返る
ギュッと目を瞑ると、目尻に浮かんだ涙が頬を濡らしていく
そして、リトを切なそうに締め付けていく
「唯…ごめ…もうっ」
「んっ…わよ…。私も…ッ…ぅ…!!」
声にならない声はそれでもリトに限界を教える
リトは、さっきのキスのお返しとばかりに唯の口を塞ぐと、その膣内に欲望を吐き出した
「んっ…んん!! ん…うっ…ううぅぅうう!!!」
射精しながらの腰の激しい動きが、子宮にゴポゴポと精が満ちていく感覚に、頭に霞が
かかるのを強引に阻止させる
口元から涎を溢れさせながら唯は、顔を顰めた

ようやくリトから解放された唯は、すっかり身体の力が抜けきり
今まで以上にたっぷり出された唯の上の口も、下の口も、唾液と欲望で汚されきっていた

「はぁ…ぁ…出しすぎよ…バカ」
割れ目からゴポリと溢れ出す白濁液に顔を赤くさせながら、リトは苦笑いを浮かべた
「ごめん…。スゲー気持ちよくって」
「それとこれとは…ぁ…話しがッ…別でしょ…」
フラつきながら上体を起こす唯に、リトは手を差し伸ばす
「大丈夫か?」
「……そう思うならもっと私に気を遣ってくれたっていいじゃない」
リトの手を取りながら唯は声を尖らせる
「だよな…。いつもごめん」
しゅん…と項垂れるリトの手を握ると、唯は身体を寄せる
「え?」
「…許してあげるからもう謝ったりしないで。わかった?」
「あ、ああ」
伸ばした膝の上に女の子座りをしながら、ジッと見つめてくる唯の表情に、リトの心拍数が上がっていく
「な…何だよ…?」
「…別に。ただ…こーしたかっただけよ。ダメなの…?」
「い…イヤ。ダメっつーか…」
真っ直ぐな視線を上目遣いへと変えながら、唯の視線攻撃は続く
「ジーーー」
「え…えっと…そのほ、ほら、お前がこんな事するのって珍しいっつーか…だから…」
「ジーーー」
「だ、だからその……ああ、もう!!」
リトは唯の両腕を取るとグッと身体を近づけさせる
「…ッ!?」
「……キス…しよ?」
「え…?」
「キス! なんか今スゲーしたい!」
「な、なによそれは!? もっとちゃんと…」
「ダメ?」
「…………ダメ…じゃないわよ。して…」
唯の返事にリトはホッと笑顔を浮かべると、顔を近づけていく
軽く重なるだけだったキスは、次第に、何度も相手を求めるキスへと変わっていく
背中に回していた腕を離し、互いの手を握り合い、おデコとおデコをくっ付け合い
お互いの息が鼻にかかる距離で二人は言葉を紡いでいく
「なあ、いっこ訊いてもいい?」
「何?」
「おまえってなんで最後こう…ギュって抱き付いてくるワケ?」
「え!? …………い、イヤなの? そ、それならそうって言いなさいよね! そしたら私…」
リトの膝の上で、唯はツンとそっぽを向けた。だけど、その瞳は心なしか揺れている
「イヤっつーか、そーゆーんじゃなくてその……ちょっと気になったってゆーか……」
唯の急激な変化にリトは、冷や汗を浮かべながらしどろもどろになる
「あ、アレ? 唯?」
「……」
そっぽを向いたまま中々、こちらを見てくれない唯にリトは、"しまった…"、と心の中で後悔した
「あ…あのさ、その……」
「…か…ぃ…から…」
「へ?」
唯はムッと頬を膨らませながら、ようやくリトを正面から見つめる
「かわいいから! 結城くんの事が!! これじゃダメなわけ?」
「え…えっと……かわいい?」
「そ、そうよ…! ……もう! だって、結城くんってすごく一生懸命動いてて、それに、
すごく切なそうな顔するから…その……」
言葉を濁しながら唯の頬は、真っ赤に染まっていく
「そんな結城くんが可愛くて、大切で…大事で…………大好きだから…」
波の音でかき消されてしまいそうなその小さな声は、けれど、はっきりとリトの耳に届いた
「大好きなんだ?」
「うっ…!?」
ドキン、とリトにも聞こえてしまいそうなほどに高鳴る鼓動に、唯の顔はみるみる耳まで赤くなっていく
「い、いい、いいでしょ!! ホントのコトなんだから…」
チラチラと自分の顔を見ながらぽそぽそ話す唯に、リトは笑みを深くした
「いいよ! だって、オレも唯が大好きだから」
そう言ってニッコリ笑うリトに唯はもう何も言えなくなってしまう
かわりに身体をそっと寄せると、リトの肩にトンっとおデコを乗せた
「だったらもっと私のそばにいなさいよね…! いつか寂しくて
ホントに、ホントに、泣いてもしらないから……」
「わ…わかった! 約束する」
あたふたと慌て続けるリトに少し口を尖らせながらも、唯はもう一度力を込めてリトに抱きつく
「…ちゃんと…ちゃんとしなきゃダメだからね? わかった…?」
「ほ、ホントにわかったから」
ドキドキ、と張り裂けんばかりの胸の高鳴りを感じながら、顔をポッと赤くさせる唯
そんな唯を愛しむ様にそっと背中に腕を回すリト
二人の気持ちが絡み合い、とけ合って、そして、ひとつになっていく

(…結城くん。大好き…)

愛しい人のぬくもりと気持ちをいっぱい感じながら、一時の夢を見るかの様に、唯はそっと目を閉じた


戻って来た二人を待っていたのは、今にも泣き出しそうな美柑と、不安いっぱいなララの抱擁だった
「ちょっとララさん…美柑ちゃんも!?」
「…唯さんのバカッ! 一人でどっかに行ったらダメだよ! 心配したんだからねッ!!」
「そーだよ! どこに行ってたの? リトも唯も」
リトと唯は顔を合わせると気まずさからか顔を赤くさせ、それぞれそっぽを向いた
その仕草に美柑はキュピンと閃き、ララは?マークを顔に浮かべる
「は…はは」
「…っ」

キレイな夕焼け空の下、いつまでも話しをはぐらかす影と、それを聞きだそうとする影が浜辺に浮かび
いつまでも絶えることのない楽しそうな話し声が、黄昏色に染まる海へと流れていった

これから少しあと、唯の身体の中に変化が訪れるのだが、それはまた別の話し――――

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最終更新:2009年03月12日 20:53