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ピンポ~ン
玄関の呼び鈴の音にキッチンの奥から、パタパタとかわいい足音を立てながら走って
くると、美柑は、ガチャリと玄関のドアを開けた
「―――ハイ。どちらさまですか?」
ドアの隙間からヒョイっと顔を覗かせた美柑が見たものは、スラリと背の高い、綺麗な
ブロンドに、琥珀色をした瞳の女の子だった
「…結城リト」
「え…?」
女の子――――沙姫は腰に手を当てながらスッと目を細めた
「あなた、結城リトの妹か何か?」
「は、はい。まあ…妹ですけど…」
どんな相手でも、例え宇宙人でも物怖じない美柑が、珍しく口籠る
無理もなかった
それだけ美柑から見た沙姫は、いろんな意味ですごかった
(む…むちゃくちゃキレイな人なんだけど!?)
美柑の好奇に満ち満ちた眼差しを受けながらも、沙姫はいつもと変わらず、澄まし顔
そればかりか、ツンと顎を上げながら興味なさ気な視線を美柑につき返す
「ふ~ん……で、結城リトはどこですの?」
「リトならまだ寝てますけど…?」
「起こしてきて」
「は?」
「私が来た、と言って起こしてきなさい。早く!」
「え…あ、あの…」
まるで命令をするかの様に、顎で行くように合図を送る沙姫に首を捻りながらも、美柑は
言われるままにリトを起こしに家の中へと戻っていった


「―――とりあず、どうぞ」
カチャっとテーブルの上に置かれたティーカップに、沙姫の視線がチラリと向けられる
「リトなら今、着替えてる最中だと思うので、もうちょっとしたら来ると思います」
「そう」
沙姫はそれだけ言うと、音も立てずにソーサごとティーカップを持ち上げた
カップの中から熱い湯気と、それに混じって紅茶の茶葉のほどよい香りが胸の奥まで
沁み込んでいく
薄いサクラ色のグロスを引いた唇で、一口、紅茶を口にした沙姫の目が大きくなる
「…おいしい」
「え…」
思ってもいなかった言葉に美柑は、トレイを両手で持ったまま固まってしまう
「コレ、あなたが淹れましたの?」
「そうですけど…」
沙姫はキョトンとした顔の美柑を一瞥すると、二度三度と紅茶を口にした
「…やっぱりおいしい!」
「そう…ですか? 市販されてるフツーの紅茶ですけど…?」

沙姫の物腰や着ている服から、沙姫が普通の人じゃないと即座に見抜いた美柑は、ウチで
用意できる最高の品を用意しなくては、と思った。思ったのだが
やはりそんな大層な物が都合よく置いてあるはずもなく、美柑はまだ開けていない新品の
紅茶を仕方なく出すことにした

「まあ確かに、茶葉は安物だけど…」
沙姫は一度カップをテーブルに戻すと、口元に淡い笑みを浮かべた
「あなた上手に淹れますわね。ありがとう。とってもおいしかったですわ」
「!?」
紅茶を褒められる。そんな人生初めての体験よりも何よりも。こんなキレイな人に褒められた
事のほうが、美柑にとっての衝撃は大きかった
(それに何…コレ…)
なんだか胸のあたりがモヤモヤする
それは沙姫の浮かべた笑みのせいなのか
褒められたからなのか
美柑は小さな手を握りしめながら、沙姫に向き直った
「あ、あの。一つ訊いてもいいですか?」
「何?」
沙姫は再びカップに口をつけている最中
美柑の胸がトクンと音を立てる
「り、リトと、ウチのリトとどーいった関係ですか?」
若干、"ウチの"の部分に声が上ずってしまった事に美柑は頬を赤く染めた
それを察したのか、沙姫は初めてカチャっと音を立てて、ソーサの上にカップを戻す
沙姫はゆっくりと美柑に視線を向けた
真っ直ぐに向けられた沙姫の瞳の色は、これまで見てきたどの瞳よりも綺麗で、美柑は目を瞬かせる
混じり合うまだ幼い視線と、少し大人の視線
先に目を逸らしたのは沙姫の方だった
「…あなたはどう思ってますの? 私たちの関係を」
「ど…どーって…」

"恋人…? まさかリトが? ありえない! あんな冴えないヤツがこんなキレイな人と
付き合えるはずないじゃん。……じゃーいったい何なの…?"

「知りたい?」
沙姫の言葉の意味。そして、その言葉の先
知りたいけれど、知りたくない。そんなわけのわからない気持ちに美柑の胸の中は、クルクルと廻る
「べ、別にそんな深い意味はないから! ウチに女のコが来るなんてすごくめずらしいだけで、私は…」
ゴニョゴニョと口籠る美柑の様子に、沙姫は楽しそうに口の端に笑みを浮かばせる
そして、顎先に細長い人差し指を当てながら伝えるべき言葉を探す
「ん~…そうですわね。私たちは…」
と、答えを言おうとした時、ガチャリとリビングのドアが開いた
「あら?」
「リト!?」
まだ寝ぼけ眼のリトが、ぼさぼさ髪のままリビングへとやってきた
「あなた、今、何時だと思ってますの?」
「そーだよリト! 休みだからっていつまでも寝ててイイわけないんだよ!」
「うっ…」
起きたばかりにうるさい声が堪えたのか、リトは苦い顔になる
「仕方ねーだろ! 昨日の夜は一晩中、ララの実験とかに付き合わされたんだからさ」
欠伸を噛み殺しながらそう言いわけするリトに、沙姫は目を細めながら、小さく溜め息を吐いた
「…まァ、いいですわ…。そんな事よりも、今日は、あなた達二人にとても大事な話しがあってきました」
「二人って私もって事?」
自分を指さしそう訊いてくる美柑に、沙姫はやわらかい笑みで返す
「ええ! あなた達、二人。今日の夜、行われる私たち天条院家のパーティーに出席して
もらう事に決めました!」
「えっ…!?」
「いや、決めましたって…んな事、急にいわれても…」
「もう決めた事よ!」
横暴ともいえる沙姫の振る舞いに、兄妹はそろって顔を唖然とさせた
そんな二人の様子に沙姫は、素知らぬ顔で組んでいた足を組み変えながら、淡々と、まるで
予定表の続きを読み上げる様に話す

「今日の夕方過ぎ、迎えの車を寄こすから、それに乗ってきなさい」
「い、いや、ちょっと待…」
口を挟み掛けたリトを、横からクイクイと服の袖を引っ張る美柑が制止させる
「どーすんの?」
「どーするって…」
頬を掻きながら沙姫の顔をチラリと窺うと、沙姫は紅茶に口をつけている最中
その横顔からは、何を考えているのかまったく読み取れない
(…ったく、またなんかヘンな事考えてるんじゃないだろーな?)
これまでの経験上、碌でもない事が待ち受けている事は明白だった
「ま、私は行ってもいいと思うよ! パーティーなんて行ったことないし」
半信半疑のリトとは違い、美柑の目はすでにキラキラと輝いている
一人取り残されたリトは、深い深い溜め息を吐いた
「ま、どーせ何言っても聞かないしな…」

そして、夕方過ぎ

迎えに来た黒塗りのリムジンで屋敷まで来たリトと美柑は、その光景に思わず息を呑んだ
「うわっ…何ココ?」
「すげー…!!」

豪勢なシャンデリアが吊るされている二階建ての広い吹き抜けのパーティー会場には、音
楽が流れ、スーツ姿やドレス姿のいかにもお金持ちといった感じの人々が大勢行きかっている
音楽に混じって聞こえてくるのは、他愛無い談笑もあれば、大きな声では言えない様な会話まで
そんな人々の波を割って、一際、一目を惹く人物が二人の前へとやってくる

「やっと来ましたわね」
腰に手を当てながら、少し声にトゲを含ませるのは沙姫だ
「すご…! 沙姫さん」
素直に感嘆の言葉を口にする美柑の横で、リトは声も出せず目の前の沙姫に見惚れる

ブルーローズの妖しい青に純白のフリルが付いた、胸元と背中が大きく開いたドレス
髪を留めるリボンの色も、いつもの赤とは違い、ドレスに合わせてブルーになっている
大人びた顔立ちに妖しい雰囲気が合わさり、リトにいつもとは違う印象を与える

ボーっとしているリトの前に、沙姫が歩み寄る
近くに来た沙姫は、さらに美しさを増したような気を起こさせる
普段とは違う、トワレの香りがそうさせているのかもしれないが
「リト」
「へ…?」
間の抜けた返事をするリトに沙姫の蠱惑的な視線が向けられる
いつもより濃く深い琥珀色の瞳に、リトは喉の奥に唾が落ちていくのを感じた
「どうしましたの? 黙っていないで何か言いなさい」
「え、えっと」
沙姫から思わず視線を逸らしてしまったリトが次に見たものは、大胆にも大きく開いた
ドレスの胸元、沙姫の胸の谷間だった
「うっ…!?」
「ん?」
顔を赤くしながらますます視線を逸らすリトに、さすがに呆れたのか、沙姫は腕を
組みながら溜め息を吐いた
「まったく、そんな調子じゃ困りますわ…。今日は、お父様も来てるというのに」
「え…? お父…様!?」
「ええ。そうですわ。今日は、あなたをお父様に紹介したくてココに呼んだのです」
「な…!?」
リトと美柑は二人して絶句した
沙姫はそんな二人をまるで意に介した様子はなく、いつもと変わらずマイペース
「何か問題でも?」と、言った様子で二人の視線を受け流すと、顔を別方向に向けた

「あれが私の父です」
沙姫の視線の先には、スラリと背の高い、高級スーツを着た男が見える
リトは自分の心拍数がありえないほど上がっていくのを感じた
「ちょ…ちょっと待ってくれ! そんな事、急に言われてもオレ…」
「誰も今すぐなんて言っていませんわ! 何事にもタイミングがあるでしょう? お父様も
今は、お知り合いの方たちと話してる最中ですし…。とりあえず、今はパーティーを楽しみましょう」
「けど…」
不安と戸惑いの表情をいっぱいに浮かべるリトを無視し、沙姫は隣にいる美柑に話しを向ける
「あなたもそっちの方がいいでしょう? せっかく来てくれたんですもの!」
「そ、それはそーだけど…。」
沙姫に返事を返しながら美柑は、リトの横顔を伺った
(リト…)
リトを見つめる目には、不安や心配、そしてわずかな戸惑いが混じる
そんな美柑の様子に何を思ったのか、沙姫は少し膝を屈めると、美柑と視線を合わせる
「それじゃあ、まずは何か食べません? お腹空いてるでしょ?」
「え!?」
沙姫の声と、ぐぅぅ~と、かわいいお腹の音が唱和する
美柑は慌ててお腹を押さえると、少し顔を赤くしながら沙姫に相づちを返した
「それじゃあ行きましょう」
沙姫は美柑の背中を押しながら、一人難しい顔をしているリトの横を通っていく
その途中、沙姫はそっとリトに耳打ちをした
「しっかりしなさい。何もカッコつけろだなんて言っていませんわ。普段のあなたのままでいいのよ…」
「……っ」
小声だけれどよく通るその声は、リトの胸の奥まで響き、ズシりと重しとなる
「普段のままっつーけど…」
見渡せば、セレブやいかにも大会社の会長や社長といった面々ばかり
リトはげんなりと溜め息を吐きながら、沙姫たちの後についていった

「スゲー! うまそー!」
テーブルの上には、ビュッフェ形式の料理がずらりと並んでいる
見ているだけで涎が出てきそうなその光景に、リトは皿を手にさっそく目当ての料理を取りに行こうとする
「ちょっと待ちなさい!」
そんなリトの襟首を鋭い声と共に沙姫が掴み上げる
「あなた、何をしようとしましたの?」
「いや、肉取ろうとしただけだけど…?」
はぁ…と、重い重い溜め息を吐く沙姫に、リトは眉を寄せた
「何だよ?」
「リト。こーゆーところにもマナーってあるんだよ?」
と、皿にオードブルを盛りつけながら美柑が冷たい声で釘を射す
「なんでもかんでも自由に取っていいんじゃなくて! ちゃんと前菜とかから取らないとダメなんだよ」
「そーですわ! 美柑の方がわかってるじゃない!」
「う…」
苦い顔を浮かべるリトに、美柑の止めの一撃が入る

「こんなのフツー常識だよ…。情けないよリト!」
「そこまで言うことないだろ…」
どこまでも冷ややかな美柑と沙姫に睨まれながら、リトはしゅん…と肩を落とした
そんなリトを余所に、二人は皿に料理を盛り付けていく

「コレ、すごくいい匂いがする」
「あなた、中々、見る目がありますわね」
結城家の小さな料理人に感嘆の声を上げながら、沙姫は、シェフにムール貝とフヌイユの
スパイシースープとエトリーユのクリームスープを美柑と自分とに、それぞれ淹れるよう命じる
その横では美柑が、サーディンのリエットをパンに塗りながら、もう次の料理に目を向けていた
「あ、コレもおいしそー! 沙姫さんのも取ってあげるよ」
「ゴメンなさい…。私、生魚ってキライなのよ…。どんな味を加えても、口に広がる生臭さ
が消えなくて…。ソレがたまらなく不快なの」
「へ~、何でも食べるイメージあるんだけどな…」

なんて会話を聞きながら、リトは、この日、何度目かになる溜め息を吐く
パーティー会場に来て、まだ一時間あまり。それだというのにリトはすでに疲労困憊になっていた
「パーティーって疲れるんだな…」

それから時間は少し経ち――――

結局、あれから意気消沈したままのリトは、何も口に入れる事も無く
パーティー会場の隅っこで、ジュース片手に一人ぼんやりとしていると、ベル・エレーヌを
皿に乗せた美柑が歩み寄って来た
「沙姫さんって思った以上にイイ人じゃん」
「なんだよ急に…」
リトの視線の先では、沙姫がさっきから父親関係の連中なのか、ひっきりなしに挨拶を交わしていた
自分よりも一回りも二回りも年の離れた大人たち相手に笑顔を浮かべたり、物怖じる事なく
談笑を続けたりする沙姫を見ながら、リトはコップに残ったジュースを一気に飲み干す
「…つか、いろいろ大変なんだなァ、とは思うけどな」
「ん?」
微妙な声のニュアンスに横顔を見るも、美柑の目にはリトの心の内が読めなかった
リトの視線の先には常に沙姫がいて
沙姫が会釈や笑みを交わしている姿をずっと追っている
「ん~…普段の沙姫さんとかよくわかんないけど…。結構、あんたの事考えてるんだなァ、とは思うけど?」
「そーか? だってアイツ、いつもは…」
と、空のグラスをウェイターに渡しながら美柑に応えていると、パーティー会場に流れて
いた音楽が変わった
すると、それまでざわついていたフロアの雰囲気も変わる
皿やグラスをテーブルに置き、みな思い思いの人と手を取り合って、中央にポッカリと
空いたフロアに躍り出る
パーティー会場が、談笑タイムからダンスタイムへと変わったのだ
呆気にとられるリトの前に、ドレスのスカートを優雅に揺らしながら、沙姫が歩み寄って来た
「お相手してくださらない?」
「え…?」
すっと差し出された白い手と沙姫の顔を交互に見ながら、我に返ったようにリトは慌てて首を振った
「お、踊りってムチャ言うなよ!? 躍ったことなんかないのにできるワケないだろっ!」
あからさまなリトの拒絶に沙姫の目が細まる

「…私の誘いを断るというの?」
「そーだよリト。踊ってあげればいいじゃん!」
二つの冷たい視線と非難を浴びながら、リトはますますうろたえる
「つ、つかムリに決まってるだろ! こんな事ッ!! 他のヤツに言えよッ!!」
「なッ…!?」
"他のヤツ"の部分に、沙姫はあからさまに表情を一変させると、何も言わずリトの手
を取り、そのままフロア真ん中へと連れていく
「お、おい!? 何考えて…」
「あなたに拒否権があるとでも思ってるんですの?」
沙姫の声は有無を言わさない、鋭いトゲとなってリトの反論を刺し止める
フロアの中心に来ると、沙姫はクルりとリトに向き直る
「コレでもう逃げられませんわよ」
「だから、ホントにオレ、ダンスなんてやった事ないんだって!」
「いいから私の腰に手を置きなさい」
すっと体を寄せてきた沙姫の腰に、リトは言われたまま手を置いた
間近に感じる沙姫の体温もだが、その見事な胸の谷間に目のやり場に困ってしまう
沙姫はさらに顔を寄せると、そっとリトの耳元に囁く
「言っておくけど、お父様も見ているのよ。ちゃんとしないと……わかりますわよね? 私たちの将来のこととか」
「え…?」
最後の言葉は忠告なのか、いつものイジワルなのか、リトはわからなかった
答えを聞こうとしても、沙姫は甘い香りを残し、離れていってしまう
淡い琥珀の瞳は、真っ直ぐにリトを見つめ続ける
その視線は心の奥底まで覗き込んでくる。心の奥底まで、踏み込んでくる
睫毛が揺れ、リトは沙姫が笑ったように見えた
その胸の内にはどんな答えがあるのか――――?
「さァ、それでは、ダンスの時間ですわよ? リト…」
トワレと同じ甘い声でそう呟くと、沙姫の手がリトの手を握った

「もう! しっかりしなさい!」
「そんな事いったってっ…」
沙姫とリトのペアはフロアの真ん中で、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ
まるで出来の悪いからくり人形の踊りのような二人のステップに、そこかしこから失笑が漏れだす
「ちょ…ちょっと! あなた、マジメにやってますの!?」
「当たり前だろ!」
いつまで経っても合わないステップに、繰り返される言い合い
いつしかフロアはそんな二人の独壇場となっていた
「り、リト。もっと私に合わせなさい!」
「合わせるったってどーやるんだよ…!?」

フロアの真ん中でいつまでも文句の応酬を繰り広げる二人に、メロンにフォークを突き刺し
ながら美柑は溜め息を吐いた
「…ま、わかってはいたけど。まさかあそこまでヒドイとはね…」
妹の務めとして最後まで見届けようと決意した美柑だったが、その顔は暗い。どこまでもどこまでも

踊り続けて十数分。今や二人は格好の笑いの対象と化していた
そんな不甲斐ない状況に沙姫の奥歯がギリっと音を立てる
「い、一応、これでも一生懸命やってるんだけどな…はは」
「当たり前でしょう!!」
苦笑いを浮かべるリトに沙姫の鋭い声が突き刺さる
さらに文句を言おうとした時、ふいに沙姫の目に父親である劉我の姿が映る
(お父様―――!?)
沙姫の目に映る劉我は怒っているようで、呆れているようで
リトの手を握る沙姫の手に思わず力が入る

(こ、このままではリトと…)
なんとかイイところを見せようと、ダンスを立て直そうとした時、急激な動きの変化に
ついていけないリトの足が沙姫の足を踏んでしまう
「いッ…ちょっと…!?」
「ご、ごめん!」
そして、そのまま縺れ合う二人
ドスン――――と、見事に尻モチを付いた二人の姿に、パーティー会場のそこかしこから笑いの声が起こる
「…ってぇ…。大丈夫か? 沙姫」
「…くッッ…!?」
お尻を痛そうに撫でながら手を差し伸べてくれるリトを沙姫は、目尻に涙を浮かべながら
反射的に睨みつけてしまう
「その…悪かったよ…」
バツが悪そうに顔を顰めるリト
その顔に何を感じたのか、リトの手を無視すると、沙姫は黙ったまま立ち上がった
俯いた顔に前髪がかかり、表情がよくわからない沙姫に、心配になったリトは声をかけようとした時――――
パーティー会場中にパンッと、乾いた音が響き渡った
「……へ?」
赤くなった頬を押さえながら、目を丸くさせるリトに、肩をわなわなと震わせながら、沙姫は鋭い視線を向ける
それは今まで見たどの目よりも、キツくて、怒っていて、揺れていて
込み上げてくるモノを隠す様に、沙姫は視線を背けると、変わりに言葉で斬りかかる
「あ、あなたね…。私がどんな想いで今日、躍ったと…」
「沙姫…」
沙姫の体は震えていた
その震えは怒っているからなのか、それとも――――
「もういい…。もういいですわ…」
沙姫はリトに背中を向けると、そのまま歩き出してしまう
「お、おい!」
フロアに一人残されたリトは、なんて言葉をかけていいのかもわからず、後を追う事も
できずに、その場に立ちつくしてしまった


「まったく、ちょっと情けなすぎだよ! リト」
「わかってるよ」
パーティー会場の隅っこで椅子に座りながら、テーブルに頬杖を突くリトに、美柑は
溜め息混じりに声をかける
「わかってるんだったら何とかしなよ? 沙姫さんともう一度話すとかさ」
「話すって何を?」
「それは…」
あのダンスは、リトをお父さんに紹介するためのものだったという事は、美柑の
目から見ても明らかだった
そのとっておきの舞台をつぶされたのだ。それも因りにも因ってリトの下手なダンスのせいで
「そりゃ、全部アンタが悪いとは言わないけどさ…。でも、なんとかしなきゃならないの
はアンタだと思う」
「何んとか、か…」

踊り以前に、今日、ココに来た時から、ずっと空回ってばかりだった事にリトは気付いていた
気付いていながらずるずるとココまできてしまった事
そして、踊りの場面でイイところどころか、逆に怒らせてしまった事
本来なら、男である自分がリードしなくちゃいけない場面で

「よし…!」
リトは一声、そう言うと、頬杖を解いた

「今から謝ってくる」
「ん、やっと決心がついたんだ? 遅すぎだってば」
「だよな…」
リトは苦笑いを浮かべると、美柑の頭をポンポンと叩いた
「何よ?」
「ありがとな。美柑。お前のおかげだよ」
「…ッ!?」
リトの手の下で美柑は慌てて顔をぷいっと逸らした
「う、うまい事いっちゃって…。そんな事は沙姫さんとちゃんと仲直りしてから言ってよね」
「そーだな。でも、ホント、ありがとな!」
「…フン」
顔をぷいっと逸らす妹にリトは苦笑を浮かべた


時計の針が十時を指した頃
リトは美柑を家まで送っていってもらうように頼むと、あれからどこに行ったのか。
広い広い屋敷の中、沙姫を探しに出かけた
噴水のある中庭、長いテーブルがあるダイニングルーム、暖炉のある部屋、プール
いくつもいくつも部屋を廻って最後に行き着いた場所は――――


「沙姫―――?」
そっと扉を開けて中を覗き見たのは、沙姫の部屋
開けっぱなしのバルコニーから入ってくる風が、白いカーテンをゆらゆらと揺らすだけで、
部屋の中に沙姫はいない
「ホント、どこ行ったんだ…?」
頭を掻きながらリトは、何気なく部屋の中へと足を進める
相変わらず踝まで埋まるやわらかい絨毯の感触を堪能しながら、それと同時に、胸の中を
いっぱいにする沙姫の匂い
何度も情事を交わしたベッドを手で撫でながら、リトは苦笑を浮かべた

沙姫は大切な恋人であり、学校のセンパイであり、時にはお姉さんであり
キツイ物腰に、どこまでも高圧的な口調に、だけど時折見せる女のコの部分

いろんな一面を見せる恋人の事を想い浮かべながら、リトはベッドにゴロンと横になる
ふわふわの羽毛が身体を包み込み、リトを眠りへと誘うのに、そう時間はかからなかった


「ん…」
かすかに聞こえる衣ずれの音
鼻孔をくすぐるのは、甘い花のトワレの香り
コトン
と、すぐ近くで聞こえた物音に、リトはようやく眠りから覚めた
「ん…、んん」
重い瞼を開くと、自分を見下ろす瞳と出合う
「沙…姫?」
「あら? 起きましたの?」

淡々とした声色に瞳の色はどこまでも黄昏色。ただし、それは冬空を思わせるほどに冷たい
「あれ…? オレ、いつ寝て…。つか沙姫、お前どこ行ってたんだ?」
重たそうな頭を持ち上げながらそう訊いてくるリトに、沙姫は溜め息を吐きながら応える
「私は、お父様の友人の方たちに挨拶をしていました」
と、一旦、声を止めると、胸のあたりで腕を組み直す
ムニュっ、と寄せて上げて強調される胸の谷間にリトは、一人顔を赤くする
「どこかの誰かとは違って、私は忙しいのよ」
「だ、だよな…はは」
どこを見ていいのかわからないしどろもどろなリトを、沙姫の目がどこまでも冷たく見下ろす
「それであなたは何をしていましたの?」
「え…?」
「私が一人で挨拶をして回っている時にあなたは、何をしていましたの?」
「そ、それはその…」
沙姫の目がナイフの様に鋭く、氷のように冷たく光る
「まさか寝ていたのかしら? それも私のベッドを勝手に使って」
「う…」
「いい身分ですわね? 結城リト」
「ゴメン…」
さっきのダンスの一件で沙姫は機嫌を損ねたまま
その事がいつも以上に二人の間に、重い空気を作る
どちらも無言のまま時間だけが過ぎていく
先に折れたのは沙姫のほうだった
はぁ…、と短い溜め息を吐くと組んでいた腕を解き、リトの顔に手を伸ばす
「え…?」
わけがわからずパチパチと瞬きをするリトを無視し、沙姫の細い指がそっとリトのほっぺにふれる
まだ赤い、少し熱い頬の感触に、沙姫の瞳がわずかに揺れる
「ああ…。コレならへーきだって! つか悪いオレだし。沙姫が気にすることないって」
「私は別に…」
ニッと笑みを浮かべるリトから、沙姫は逃げる様に手を離した
「あのさ…。こんな時にあれなんだけど、いっこ頼みがあるんだ」
「頼み…? 何ですの?」
「ダンス。さっきのやつ。アレ、オレにちゃんと教えてほしいんだ! 今すぐってワケにはいかねーけど…。
来年! 次までにはちゃんと踊れるようにガンバるからさ! だから頼むよ!!」
「……」
リトのいつにもまして真摯な眼差しを、沙姫は真正面から受け止めた
そして、徐に手をリトのおデコに近づけると、前髪をかき分けて、おデコをピンっと人差し指で弾いた
「ってぇ…!? 何だよ!? オレはこれでも真剣に…」
「来年…」
「は?」
おデコを押さえながら涙目になるリトの目に、俯いて前髪で隠れている沙姫の目が一瞬映る
驚きと、戸惑いと、そして、うれしさが滲んだ様に見えたその目は、すぐにいつもの少し
冷たい、どこまでも透き通る琥珀色に戻ってしまう
「…あなたには、もっと他にやるべき事があるでしょう?」
「何だよ? やるべき事って」
「身長!」
「身長?」
「そうですわ! まずはその背の低さをなんとかしなさいっ! 踊りとか以前に、こっち
は腕を組むのもやりにくいって言うのにっ!」
沙姫は腕を組みながらふいっとリトから顔を逸らした

「いや、そんな事言われても…」
「つべこべ言うヒマがあるなら、ちょっとでもその情けない身長をなんとかする方法でも考えなさい! 
踊りは……それからですわ」
沙姫はツンと顔を背けると、そのままリトに背中を見せて、その場から歩き出す
「おい。どこ行くんだよ?」
「挨拶の続きですわ。こう見えて忙しいのよ! あなたと違って…!」
後ろを振り返ることなく、トゲが混じる声をリトにぶつける沙姫
その足が、部屋の扉の前で止まった
「そうそう。一つ言い忘れていましたわ」
「何だよ」
白い背中にプラチナブロンドの髪を揺らしながら、沙姫はクルッと後ろを振り返る
「そこに置いてあるモノだけど。帰ったら私が食べるからちゃんと残しておいてね!」
沙姫の視線を追っていくと、すぐそばのテーブルの上にいろんな料理が盛られた皿が置いてある
「食べないって!」
「そう…」
そう短く返事を残すと、沙姫は部屋の扉を閉めた

ベッドの上に一人残されたリト
あぐらを組みながら小さく溜め息を一回
「…オレって全然、信用されてないんだな…」
テーブルの上の皿に目を向けると、おいしそうな匂いが湯気とともにリトの腹腔をくすぐる
適当に選んだのか、皿に盛られている種類は様々だ
オマールのマセドニア、鹿のポワレと季節のラタトィユ、フランボワーズのサブレ、
ヒラメのカルパッチョの――――…
「あれ…?」
おいしそうな料理を目で追っていく内にリトは違和感を覚えた
透明なヒラメの切り身に、柑橘系の泡ソース、オリーブ油風味がかかったもの
「沙姫って生魚キライじゃなかったっけ?」

『私、生魚ってキライなのよ…。どんな味を加えても、口に広がる生臭さが消えなくて…。
ソレがたまらなく不快なの!』

パーティー会場で、顔を顰めながらそう言っていたはずだ。それなのに――――
「…なんでわざわざ取ってきたんだ…?」
腕を組みながら眉を寄せていると、おいしそうな匂いに釣られたのか、リトのお腹の虫が
ぐぅぅぅっと鳴りだす
「そーいやオレ、今日、何にも食べてなかったんだった…」
お腹を押さえながら弱々しく呟くリト
おいしそうな匂いに、空腹感はどんどん増していく
「こんな事なら何か食っとけばよかったぜ…」
熱々のスープから立ち上るおしそうな湯気に後悔一色の溜め息を吐いた時、リトはあることに気付く

「アレ…? ひょっとしてコレってオレのため…」
熱々のスープに、キライなはずの生魚を使った料理等々
沙姫のさりげない優しさに顔をほころばせると、リトは皿に手を伸ばし、フォークで鴨の胸肉を突き刺した
「ったく…ありがとな。それじゃ、いただきます」

それから一時間あまり経ち

また別の皿を手にして、沙姫は部屋に戻って来た
その顔は、不機嫌なのか、ムスッと拗ねているようにも見える
「お帰り。遅かったじゃん」
「…ええ。まァ…」
二言三言そう返事を返すと、沙姫はベッドに腰を下ろした
近くで見るその横顔は、不機嫌というよりも疲れている様に見える
「どしたんだ? 何かあったのか?」
リトの問いを無視し、持っていた皿を枕の隣に置くと、テーブルの上の空いた皿に一瞥を送った
「私のモノ、勝手に食べましたわね?」
「いや、その…うまかったよ」
うれしそうに笑みを浮かべるリトに、沙姫はフンっと鼻を鳴らすと、ベッドに仰向けに寝転がる
「ん…んん……んっーーー……はぁ…」
う~んと、思いっきり両手両足を伸ばすと、急に糸が切れた様にパタンとベッドに体を沈めた
「沙姫?」
少し経っても何の反応を見せない沙姫に、リトは心配そうに声をかける
「…ホントに大丈夫か?」
「……」
「おいって!」
普段、どんな時でも弱音を言ったり弱さを見せたりしない沙姫
その沙姫が初めて見せる疲れ果てた姿に、リトは胸のどこかがズキリと痛むのを覚える
「……キライなのよ」
「え…?」
枕に顔を沈めたまま、沙姫はリトに言葉を返す
その声はいつもと比べてトーンが低い
「…キライなの。ああいう挨拶とか愛想振り撒いたりするのって…」
(沙姫…)
パーティー会場で見せた、作り笑いやお世辞の数々
社交辞令とかパーティーマナーとか言ったものなんだと思っていのだが――――
リトは顔の見えない恋人に表情を曇らせると、そっとその頭に手を置いた
「…何ですの?」
「な、なんとなく…」
「なんとなくってあなたね…」
文句を言おうと顔を起こしかけた沙姫だったが、また枕に顔を沈めると、それ以上なにも言ってこなかった
「お疲れ様…。沙姫」
「……」
沈黙。けれど、その沈黙こそが沙姫なりのありがとうの気持ちなんだと、リトは頭を撫でながらそう感じた

それから少し時間が経ち

プラチナブロンドの髪は手を這わせるだけで、シルクの様に指の間をすり抜けていく
そして、髪からほのかに香るシャンプーの香りが胸をくすぐる
そんななんとも言えない心地よさを堪能していると、ふいに沙姫が枕から顔を上げた

「どしたんだ?」
沙姫は頭に手をやると、結んであったブルーのリボンを全部解いていく
シュルシュルとベッドの上に落ちていくリボンに続いて、沙姫の長い髪が二房落ちていく
少しくずれた縦ロールと相まって、いつもとは違った印象をリトに植え付けた
「…ありがとう」
「え…? あ、ああ…」
小さなお礼に、上ずった声が応える
沙姫は少しドキドキしている様子のリトを横目に、再びベッドに横になると、枕元に置いた
皿に手を伸ばす
皿の上には料理ではなく、いろんなお菓子がのっている

クイニーアマンやビスキュイ、マカロンにミルクガナッシュ、メゾン・ボワシエのキャンディ、
ほかにはポワールのetc.…

見ているだけでクラクラしてきそうな甘いお菓子の数々を、沙姫は寝転がりながらパクパク
口に入れていく
「…つか下にいる時も結構食べてたのによく食えるよな」
「甘いモノはいつでも別腹ですわよ。リト」
ネコのような笑みを湛えながら、沙姫は近くに置いてあった本に手を伸ばす
分厚い本の表紙には英語だろうか? 本の題名があるのだが、あいにくリトには読めない
パラパラとページを捲って本を読み始めた沙姫に、リトはあぐらを組みながら、その様子
をジッと見つめていた
長い睫毛を揺らしながら忙しなく動く瞳よりも、細い指でページを捲るその真剣な表情よ
りも、ずっと気になるコトがある
(…そーいや、沙姫とこんな風にゆっくりする事なんてなかったよなァ…)
予定通りにいかなかったらキーキー怒るし
ちょっとでも頼りないところを見せればとたんに眼つきを鋭くさせるし
いつもツンと澄まして、いつも見下ろすような視線で、いつも高圧的な口調で
ほっぺをポリポリと掻きながらこれまでの事を思い返していたリトの顔が、どんどん暗くなっていく
(ま、まー、それが沙姫なんだろうけどな…)
一人で導き出した答えに無理やり満足すると、リトはほんの少しだけ身体を沙姫に寄せた
別に何かをしようとか、話しかけようと思ったわけではない
(つーか今の沙姫に話しかけたらスゲー怒りそうだしな)
苦笑いを浮かべるリトが想った事はたった一つのコト
それは純粋に、好きな人のそばに少しでも寄りたい、そんな小さな想いだった
相変わらず沙姫は、本に没頭したままリトの接近に気づかない
リトは、少し本を覗き込んでみる
びっしりと書き込まれた文字の多さに、頭が痛くなる
挿絵も何もないそれは、今まで漫画程度しか読んだことのないリトにとっては、近寄り
難いモノだった
(よくこんなモノ読めるよな…)
感嘆と呆れが入り混じる溜め息を吐くと、そのせいなのか沙姫の髪が、はらりと背中の
上を滑り落ちていく
「…ッ…!?」
背中の大きく開いたドレス。髪の下に見えるその白い背中にリトは息を呑む
(やっぱすげーキレイだよな…)
白くて、シミ一つない艶々の肌
何度も見て、触れているはずの背中が、今日はいつにも増して、艶美に映る
ゴク――――っと、唾を喉の奥に流し込みながら、男の本能なのか、リトの手が
ゆっくりっと背中に伸ばされる
「ねェ、リト」
「え…!?」
突然呼びかけられたリトは、慌てて手を引っ込めた

「な、何だよ…?」
「……」
リトのしようとしていた事がわかっていたのか、一度も本から視線を逸らさないまま、沙姫
は勿体ぶるかの様に言葉を止める
その間がひどく長く感じられる
一秒、二秒と、どんどん心拍数が上がっていき、手におかしな汗すら滲み出す
(何だよ…? 言いたい事があるならさっさと言えよな…!)
その間も沙姫の指がページを捲っていく
「あ、あのさ沙…」
「マッサージ。お願いしてもいいかしら?」
「へ…?」
これ以上ないってぐらい間の抜けた返事を返すリトに、沙姫は淡々と言葉を投げかけていく
「聞こえなかった? マッサージをお願いしてるのだけど? というか、あなたね、そん
なところで座ってる暇があるなら、私にちょっとは気を使おうとか思いませんの?」
「い、いや…」
「それとも何? 私のお願いが聞けないとでも言うつもり?」
本から離れた沙姫の視線は鋭い、氷の刃となってリトに突き刺さる
リトは慌てて、沙姫に体を寄せた
「別にいいけど…。オレ、マッサージなんかやった事ないぞ…?」
「いいからやりなさい!」
有無を言わさない口調の沙姫に、リトは渋々と言った表情で溜め息を吐いた
「え~っと…とりあえず、ドコすればいいんだ?」
「そうですわね……脚と腰かしら」
「脚と腰…」
言われた方に視線を向けると、ドレスの上からでもわかる魅力的なくびれと、白いニーソ
ックスに包まれた長い脚がリトを待っていた
(なんかすごく…)
「何してるんですの? グズは嫌いですわよ!」
顔を赤くさせながら見惚れていたリトは、沙姫の声で我に返る
けれども、マッサージなどした事のないリトは、具体的にどうすればいいのかわからない
マッサージの知識なんて、たまにテレビで見るぐらいのものだ
「え~…えっと…」
頭の奥から知識を引っ張りだし、テレビで見た、見よう見まねで沙姫の身体に触れていく
(とりあえずは…腰からだな)
腰のラインに這わせる様にそっと触れてみる
(細ッ!! …つかこんな細かったっけ…?)
ぐいっとほんのちょっとでも力を込めれば折れそうなほどに感じる、沙姫の腰
リトは慎重に親指を背骨の辺りに押し込んでいく
「何やってるんですの? 全然、気持ちよくありませんわ!」
「ご、ゴメン!」
勢い余って、両手全部を使って押し込まれた腰に、沙姫の口からか細い吐息がこぼれる
「…ぁ…っく」
「えと、大丈夫か? その力加減とかさ…」
肩を震わせながら本に顔を埋める沙姫に、リトは不安そうに声をあげる
「ぃ…から…」
「え?」
「いいから早く続きをやりなさい!」
頬を赤く染めながら声を荒げる沙姫に、リトは冷や汗を浮かべながら続きをやり始めた


「ココ…?」
「ち…違ッ…ぅ」
「じゃー…ココ?」
リトが腰に力を込める度に、沙姫の口から吐息混じりの言葉が返ってくる
そしてソレは、肩の震えと同じだけ、だんだんと激しくなっていく

「そ…ソコ…ッ…ぁ」
「え?」
相変わらず本に顔を埋めたままの沙姫に、リトは眉を寄せる
(せめて気持ちいいのかどーかぐらい言ってほしいんだけどな…)
眉を寄せながらもリトの手が沙姫の腰や背中に這わされ、押し付けられ、揉んでいく
その度に沙姫の身体が小刻みに震え、口からはなんとも言えない声がこぼれる
「も…もう腰はいいですわ! 次は脚の方をお願い!」
「脚? 腰はもういいのか?」
「い…いいって言ってるでしょ!!」
いつの間にか本ではなく大きな枕に顔を埋めながら、沙姫は枕の中からくぐもった声を出す
リトは眉を寄せながらも、言われたとおりに脚の方へと視線を向けた
長い足が少し短めのスカートから伸びる光景は、リトと言えど身体が熱くなる
(え…えと、とりあえずどこからやればいいんだ…?)
「何してますの!? 早くなさい!」
バタバタと駄々っ子の様に足をベッドに打ち付ける沙姫に、慌ててリトの手が足に触れる
まず最初は膝の裏からふくろはぎにかけて

ニーソックスの柔らかい生地の感触を味わいながら、リトの手がふくろはぎをやさしく揉んでいく
「…ッん…!」
クッと足の指を丸めながら、何かに耐えている沙姫
真っ白な足をふるふると震わせる沙姫にリトは苦笑を浮かべた
(…そーいやオレ、よくこの足でイジメられたよな…)

『何ですのコレは? 結城リト』
椅子に座りながら足で踏みつけているのは、情けなくも反応してしまっているリトの下腹部
そして、それ以上に情けない声を上げるリトの醜態に、沙姫の目が愉しそうに笑う
『うっ…あ…ちょ、ちょっと待っ…!!』
『待つ? 待つって何をですの?』
そう言いながら、沙姫の足がグリグリとリトの下腹部を踏みつける
足の指が亀頭を擦り上げ、その刺激にリトの奥歯がギリッと音を立てた
『あらあら。何ですの? この汚らしいネバネバしたモノは』
リトの先走り汁で、沙姫の足の爪が妖しく輝く
指と指の間にかかるカウパー液のアーチをぬちゃぬちゃ言わせながら、沙姫の指が亀頭を
押しつぶした
『あっ…くっっぅう…!』
『情けない顔! とても男の顔とは思えませんわ』
侮蔑と嘲笑が入り混じる声でそう吐き捨てると、沙姫は足を下腹部から離した
代わりに爪先がリトの顎を持ち上げ、見下す目と見上げる目が出会う
『私の前で俯くなんて許せませんわね! せっかくこの私が、あなたの痴態を見てあげて
いるというのに』
爪先がさらに持ち上がり、リトの顎も同じだけ持ち上がる
スラリと長く伸びた脚の付け根、スカートの奥にチラチラと見える純白の下着に、リトの
喉にゴクリと唾が落ちていく
その様子に沙姫はわざとスカートの中を見せながら、瞳を爛と輝かせた
『もしかして触りたいのかしら? 私の胸に…』
そのしなやかな手が服の上から胸に這わされる様に、リトは釘付けになる
『貪りたい? 私の口を』
細い指が唇をなぞり、赤い舌が指に絡みつく

『私の脚を、太ももを撫で回して…』
スカートの裾をスッと持ち上げながら、その目を愉しそうに歪める
『私のココに挿入れたいんでしょ?』
足をわずかに動かすだけで、ショーツの奥からクチュリと音が聞こえ、リトを誘惑する
『何度も私を犯して、中に出して…そうですわよね? リト』
『…ッ!?』
喉の奥に消えていく唾の音を爪先で感じながら、沙姫は口に酷薄な笑みを浮かべた。そして――――
『…でもダメですわよ』
『え…!?』
信じられないモノでも見るかの様に目を丸くさせるリトを、沙姫のどこまでも冷たい瞳が出迎える
『今日はダメ…! それとも何? まさか出来るとでも思っていたの?』
『だ、だって…』
『だって…? だって何ですの?』
リトの言葉に沙姫の眉がピクンと動く
喉元に当てていた爪先をすっと上に上げると、リトの口に押し付けた
『んっむぐっ!?』
『何? よく聞き取れませんでしたわ。もう一度そのお口で言ってくださる?』
口に押し付けられた足は、リトの唾液でベトベトに汚れていく
『あ~あ。どうしてくださるのかしら? この足』
『……っ!』
沙姫に足を押し付けられたまま、リトは顔を顰めた
『もちろん、キレイにしてくださるのよね? あなたの口で』
スッと目の前に差し出された足は、唾液とカウパー液のせいですっかり汚れてしまっている
『早くなさい! 結城リト』
鋭い声を上げる沙姫の顔は、いつも以上に高圧的で、そしてキレイに見えた
ゾクゾクと背中から這い上がってくるモノに導かれる様に、リトは口を近づけていった

「―――ト…。…リト! 結城リトッ!!」
「へ…?」
太ももに手を這わせたままの姿勢で固まっていたリトは、沙姫の声でハッと我に返った
「あ、あれ…?」
「あれ? じゃなくて! あなた何してるんですの? ヒトの足を触ったままぼーっとして!!」
「な、何って…」
さきほどまで頭の中をぐるぐると廻っていた卑猥な過去を無理やり奥に押し込めると、リト
はなんとか苦笑いを浮かべた
そんなリトを冷ややかに見つめていた沙姫は、ベッドから身体を起こすと、身体を寄せてきた
「な、何だよ?」
沙姫の目はどこまでも冷ややかだ。まるで、「あなたの考えていた事などお見通しですわ」
と言わんばかりに
沙姫は目をキュッと細めると、その長い人差し指をリトの顔の前にかざし、くるくると円
を描き始めた
?マークを浮かべるリトに、沙姫の小悪魔な笑顔が応える
「何を考えていたのかしら」
「え…」
冷や汗を浮かべるリトを嘲笑うかの様に、人差し指は下に下に降りていく

「さ、沙姫? ちょっ…!」
後ろに手を付き、腰を引きぎみにしながら、リトはその指から逃げる様に後ろに下がろうとする
その腰の真ん中。少しズボンを下から持ち上げている部分に沙姫の指はピタリと止まった
「コレは何かしら」
「え…えっと…」
「リト」
「は、はい」
まさか昔のことを考えていたから…なんて応えられるはずもなく。けれど、その瞳から逃げ
られるわけもなく
観念したのか、リトは目を泳がせながら、ぽそぽそと話し始めた
「こ、コレはその…さっきのマッサージで…」
「ふ~ん」
リトの言葉を訊きながらも、沙姫の指がズボン越しに先端へと這わされる
ツンと爪で引っ掻いたかと思うと、今度はやさしく円を描くように指を這わせるその動き
に、リトの言葉も途切れがちになってしまう
「ちょ…ちょっと昔の事を…思い出したっ…てだけで、だから…」
「だから?」
「だっ…だから…」
指の動きをやめないままジッと言葉を待つ沙姫
その沙姫の両肩を掴むと、リトはそのままドンっとベッドに押し倒した
白いシーツの上に広がるプラチナブロンドの美しさに、一瞬、リトは言葉を忘れてしまう
「何ですの?」
「何って…その…」
「―――このまま私を犯す?」
「え!?」
下から真っ直ぐにこちらを見つめてくる沙姫の目は、縄を外したペットの子犬の行く末を
見守るかのように楽しげだ
「な、何言って…」
「私を痛めつけて、縛って、犯して…。何度も何度も。あなたの好きなように」
次々に出てくる言葉の数々に、リトは奥歯を噛み締めた
「ちょっ…ちょっと待てって! そんな事オレが…」
「するわけない?」
「…ッ!?」
真っ直ぐな瞳は、楽しげで、可笑しげで
「そ、そんな事したいわけ…」
奥歯を噛み締め苦い顔のままのリトの様子に、次第に、愉しげだった瞳の色がすぅっと薄らいでいく
「―――つまらないですわね…」
「え…?」
「つまらないと言ったのよ! 結城リト」
沙姫はそう言うと手を伸ばし、枕元にある皿の上から、マスカットを一房、取り上げる
そして、小さな舌をチロリと出すと、一番先端の一粒をレロレロと舐め、歯で噛み取った
モゴモゴと咀嚼を続ける沙姫を見つめるだけのリトと、沙姫の目が出会う
リトは沙姫が笑ったように見えた
が、その事を確認するよりも早く、沙姫の手がリトの襟首を掴み、そのまま引き寄せる
「な、何…ッ!?」
目の前で長い睫毛が揺れたかと思うと、沙姫の唇がリトの続く言葉を塞いでしまう
「ん…!? ん、んんっ」
あまりの急な出来事にリトは目をパチパチさせるだけで、展開についていけない
そして、口内に感じる違和感
熱い舌と共に入ってくる別の何かに、見開いたその目がさらに大きくなる
(な、何だ…?)
ほどなくして、唾液の味と一緒に口の中にひろがるもう一つの味に、リトはようやくその
正体がわかった
(マスカット…? さっきの…)
果肉がつぶれ、皮だけになったマスカットが二人の口を行ったり来たりを繰り返す
少しすると、すっかりマスカット本来の味が消えた皮を、沙姫はコクンと白い喉を鳴ら
しながら嚥下した

「ぷは…ぁ…はぁ…」
銀色のアーチを描きながら離れていく沙姫の口元を見ながら、まだ口に残る唾液とマスカットの
味に、リトは何ともいえない戸惑いの表情を浮かべる
「とってもおしかったでしょう? コレ…」
沙姫は二粒目を噛み切ると、舌の上でコロコロと転がしながら、楽しそうに目を細めた
そして三粒目
上体を起こし、顎を持ち上げ、高く掲げたマスカットの房に舌を伸ばしながら、チュパチュパと
頬張る沙姫を、リトはジッと見つめていた
見惚れていると言ったほうがいいのかもしれない
つぶれた果肉から溢れ出た果汁が、口元からこぼれ、顎を伝い、そして広く開けたドレスの
胸元へと落ちていく
白い肌にうっすらと引かれる、透明なライン
そわそわしながらも一歩も前に、何も言えないでいるリトに、沙姫はすっと流し目を送る
「どうしましたの? リト…。そんなところでボーっとして」
「ボーっとつーかその…」
赤くなった頬を掻きながらゴニョゴニョと話すリトに、沙姫は手を差し伸ばした
「沙姫…」
「いつまで続けさせれば気が済むんですの?」
「え?」
「私を道化にしたてあげて、見てるだけで楽しい?」
「何言って…」
沙姫が言おうとしている事がチンプンカンプンなリトは、困った様に眉を寄せた
そんなリトに沙姫は、重たくて深い溜め息を吐く
リトを見つめる目に本物の失望感と呆れが混じる
「普通、こういった事は女の方から言うべきではありませんのに…」
「えっと…あのさ。さっきから何のこと言ってるのか、マジでわからないんだけど…?」
頭痛がしてきたのか、沙姫は眉間に人差し指を当てながら、俯き、なんて言えばいいのかを本気で考えた
そして、考えた結果――――

バフっと派手にベッドの上に押し倒されるリト
身体を起こしながら文句を言おうとした時、腰の上に沙姫がドレスの裾を翻しながら跨ってくる
「ちょ…ちょっと待て! 何だよ!?」
「最初からこうすればよかったですわ! 何をチマチマやっていたのかしら…」
沙姫はそう言いながらテキパキと、さきほど髪をほどいたリボンでリトの両手首を縛り、
それをベッドの天蓋を支える支柱へと括りつけた
両腕をバンザイする形でベッドに仰向けに寝転がるリトを下に組み敷きながら、沙姫は
愉しそうに口の端を歪める
「さ、沙姫!?」
少し青い顔になっているリトに沙姫は顔を近づける
お互いの睫毛と睫毛が触れ合いそうな距離で、沙姫はふっとやわらかい笑みをこぼした
「沙姫…?」
目の前で艶然とほほ笑む恋人を前に、目を瞬かせるリト
縛られている状況にも関わらず、沙姫の美しさが、リトの琴線を激しく刺激する
沙姫は少しばかりそんなリトを見つめた後、リトの顔の至る所にキスを繰り返した
おデコや目元、沙姫の睫毛が頬をかすめる感触にリトの喉が鳴る
そして、口
ふっとかすめるだけのキスは、それでもリトに甘い香りを残し去っていく――――バタフライキス
キスの余韻に包まれているリトの首筋に熱いモノが触れる
チロっと舌を出しながら、沙姫が愉しそうに舌を躍らせていた
そして、その手はリトのベルトへと伸ばされる

ベルトを見ずにカチャカチャと器用に留め金を外していく沙姫。ものの数秒でカチャッと
留め金は外れてしまった
「ちょっ…!?」
「黙って!」
リトを見つめるその目に強烈な圧迫感を込めながら、ジッパーを下していく
トランクスの中にある、すでにしっかりと自己主張しているモノを指の感触だけで味わい、
確かめると、沙姫はリトを見つめながら瞳の色を変えた
「あら? もうこんなにして…。ひょっとして溜まっていたんですの?」
「溜まってるとかじゃなくて! お前がさっきからいろいろするから…」
「いろいろってもしかして…」
沙姫の白い手がトランクスの中へと伸び、中のモノに指を這わせていく
「ちょ…!?」
「……こういうコト?」
「!!?」
竿が上下にしごかれ、トランクスに染みを作っていく
「ふふ…。ちょっと触っただけでもうこんなに…。あなたってホントにヘンタイですわね」
トランクスの中から洩れだす卑猥な音に、リトは赤面した
中がどんな有様なのか想像するのも容易い
沙姫の手は握る強さを絶妙に変えて、竿、全体を刺激する
ヌチャヌチャとカウパーを指に絡ませながらしごく沙姫は、本当に楽しそうで
その瞳の色もいつになく濃く、悦びに溢れている
沙姫はトランクスからすっと手を出すと、手にベットリと付いたカウパー液を前に、笑みを浮かべた
そして舌を出すと、指に這わせていく
「あふ…こんないやらしい味…はふっ…チュ…んっん…」
指の一本一本を丹念に舐め取っていく沙姫の手は、唾液と相まって、なんとも言えないほどに
卑猥に輝く
沙姫は手の甲に残った最後の先走り汁を舐め取ると、舌舐めずりしながら、リトの
トランクスをするすると脱がしていく

反り返るモノに沙姫の瞳が、爛と輝きを増した
その場で立ち上がると、するするとショーツを脱いでいき、リトの腰に跨り、スカートの
裾を両手でチョコンと持ち上げる
「リ~ト」
「え…」
どこまで楽しげな声に、不安げな声が応える
沙姫は今にも泣き出しそうなリトを見下ろしながら、少しずつスカートを持ち上げていく
まず最初に、ずっとスカートに隠れていた白いニーソックスに包まれた足が見え、膝が見え、
そして――――
「何が見える?」
「何がって…。沙姫の足」
「それから?」
「えっと…太…もも…」
スカートの影に隠れながら、チラチラとその姿を覗かせる太もも
太ももに食い込むニーソックスのゴムの光景が、沙姫の下腹部のムチムチ感を強調させる
「…他は?」
「他?」
沙姫の顔とスカートの中を交互に見ながら、リトは必死に沙姫の欲しがっている答えを探す
もし間違ったり、気に入らない事を言おうものなら、碌でもない事が起こるのは、今の
自分の現状が物語っている

「え、えっと…」
ジッと見つめるスカートの中から、その時、つーっと何かが肌の上を伝い落ちていった
「へ…?」
太ももを伝うソレは、ニーソックスに触れると、そこに染みを作る
「もう! あなたが答えるのが遅いから…」
?マークを顔に浮かべるリトの前で、沙姫はスカートが持ち上げた
するすると裾が持ち上がり、太ももを、秘所を露わにする
「…ッ!?」
リトの喉がゴクリと音を立てる
「ホラ…、もうこんなに…。あなたに見られてると思うだけで、私のココはこんな風になってしまいますのよ」
薄く口を開けた割れ目からは、ヌラヌラと愛液が輝き
独特の女の匂いがリトの鼻を刺激する
「でも、残念ですわね…。リト」
「残念…?」
「ええ…。あなたには別にモノが必要ですわ」
沙姫の両手から離れたスカートが、ふわっと舞い上がりながら、落ちていく
そのスカートと入れ違うように、ゆっくりと沙姫の足が持ち上がる
「フフ…。答えられないダメな子には、おしおきが、必要ですわね? リト」
目をパチパチと瞬くリトの目に前で、沙姫の足がいきり立つ下腹部に当てられる
ニーソックスの柔らかい生地の感触に続いて、沙姫の体温が伝わってくる
「フフフ。さァ、覚悟はよろしくて?」
「え…」
キョトンとした顔をするリトに妖しい笑みを浮かべながら、沙姫の足に力が入っていく
「ちょっ…待っ…!?」
ぐにゅっと音が鳴りそうなほどに踏みつけられた下腹部を走る激痛に、リトは思わず、声にできない声を上げた
苦悶の表情を浮かべるリトを可笑しそうに見下ろしながら、沙姫の足責めは続く

指を器用に動かしながら、亀頭の形が変わるほどに押しつぶす
爪でカリを擦り、カウパーで濡れた指で裏スジを刺激する
そして、踵に力入れた時――――

ギシギシと音がなり続けるベッドの上で、リトは脂汗を浮かべながら、顔を歪ませる
苦痛と快楽と、胸の奥から込み上げてくるなんとも言えない気持ちとで、いっぱいいっぱいになっていた
逃げる事も、身体を捩る事もできない状況で、リトは震える口で言葉を紡いでいく
「…ったい…」
「何?」
息も絶え絶えに話すリトを、沙姫の愉悦に満ちた目が見つめる
「出し…ったい! つかもうガマンできないッ!」
「…………ふ~ん」
たっぷりと時間をかけて返した返事はそれだけだった
再び沙姫の足が卑猥な動きを見せ始める
「さ…沙姫ッ!?」
「…さァ、知りませんわ」
弾む声でそう返しながら沙姫は、親指と人差し指を使ってカリ首をキュッと挟んだ
「あっ…ぐぅ!?」
「あらあら、どーしましたの?」
鈴口から溢れるカウパー液が指を汚していくのも構わず、爪先でグリグリ亀頭を刺激する沙姫
汗と涙でぐしょぐしょのリトを、愉しそうに見つめる目には、どこか愛情とは違う何かが滲んでいる

「だ、だから! ま…待って…」
「さっきから何ですの? まったく興がそがれますわね」
つまらなさそうに溜め息を吐きながらも、足はしっかりとリトを責め立てる
リトは唇を噛み締めると、懇願する様に、声を上げた
「もう限界だって! 出ちまう」
「それで?」
「それでって…」
あまりにも淡々としたその口調に、リトは思わず次の言葉を失った
二人の視線は一瞬で解かれ、沙姫の視線はまた下腹部へと戻る
グリグリと踏みつけられた先端からは、ひっきりなしにカウパーが溢れ、ニーソックスに
いくつも汚れた染みを作っていた
ガチガチに堅くなった竿に、パンパンに膨らんだ袋
そっと裏スジを撫でるだけで、今にも欲望を噴き出してしまいそうだ
沙姫は視線をリトへと戻した
「それで何なの? って、訊いているのだけど?」
そう訊きながら、リトが達しないよう、爪先が絶妙な力加減でやわやわと下腹部をもみしだく
「あっ…ん…」
女の子のような情けない声を上げながら、リトの口からか細い声が溢れ出る
「出…し…」
「よく聞こえませんわね!」
「も…もうこれ以上は限界だってッ! 頼むから出させてくれよ沙姫!!」
その必死の声が届いたのか、沙姫の足がピタリと止まる
と、次の瞬間、これまでにない力が足の裏に込められ、下腹部を押しつぶす
「あ…がっ…ッ」
「何ですの? その口の訊き方はッ?」
一言一言に力を込めながら足を押し付ける沙姫に、リトは奥歯をギリッと噛み締め、顔を
苦痛で歪ませる
「どうやらあなたは、口の訊き方というものがわかっていないようですわね?」
目に涙を浮かべながら何か言いたそうなリトの視線を、沙姫は余裕で受け流す
「"出させてください。お願いします。沙姫様"、でしょう?」
横暴な沙姫に文句の一つも言ってやりたい
けれども、もうこれ以上は我慢できない射精感と、何より淫惑に輝く沙姫の瞳に、リトは
抗議の言葉を喉の奥に押し込めた
「…出させて…ください…。お願い…します」
「沙姫様は?」
「…沙姫様」
絞り出すようにして呟くリトの言葉を聞きながら、沙姫はどこまでも愉快そうに声を弾ませる
「ダメ! 全然ダメですわ! 言葉に気持ちがこもっていませんもの。もう一度最初からよ!」
「……」
「リト!!」
鋭い声に奥歯を鳴らしながらもリトは、言われたとおりに声を紡ぎだす
「出させてください。沙姫様…。お願いします…」
「あぁ…。いいですわリト! その顔、その声! たまりませんわ…」
沙姫の足が微妙に押さえつけていた角度をずらすと同時に、押さえつけていた欲望が、一
気に吐き出される
ビュクビュクと吐き出された白い欲望は、リトのお腹といわず、その顔まで汚していった
その様子をうっとりとした顔で見つめる沙姫
白濁液と鼻水でグチャグチャになった半泣き状態のリトをしばらく見つめた後、沙姫は
すっと足を離した

疑問符を浮かべるリトのそばにすっと歩み寄ると、沙姫は真上からジッとリトを見つめた
リトの目が沙姫の目を捉える
淡い黄昏色を湛えた瞳は、見ているだけで背筋をゾクリと総毛立たせる
目に涙を浮かびながらジッと見つめてくるリトに、沙姫はクスっと笑みを浮かべた
「何…だよ?」
沙姫は何も言わず、爪先でリトの顔に触れた
涙と精液を爪先で器用に掬い取ると、それをリトの口に持っていき、唇に塗りたくる
「んっ!? んんっ…んっんっ…」
「あなたの出したモノでしょう? だったら自分で処理なさい」
有無を言わさないその口調は、リトを瞬時に黙らせる

そして一頻り遊んだ後、ヌチャリと汚れた糸を引かせながら沙姫は、爪先を離した
すっかり汚れたしまったニーソックスに沙姫の端整な顔が歪む
「私のお気に入りが…。誰のせいでこうなったのかしら?」
「誰ってそりゃ…」
「あなたですわよね? リト」
沙姫はそう言うと、足をリトに差し出す
「汚らしくてこんなモノ、もう、穿けませんわ。脱がして!」
「脱がっ…でもどーやってだよ?」
リトが身体を捩ると、両手首を拘束しているリボンがギリギリと音を立てる
「いい加減、コレ外してくれよ!」
「…その口はなんのためにあるんですの?」
「は?」
「口でしなさい! そう言ってるのよ」
爪先が唇を割って、口内に入ってくる
「んぐっ! むっ…」
「ほら、早くなさい! 言っておきますけど、ちょっとでも指に歯を当てたら、その顔を
踏みつぶしますわよ!」
沙姫の目はどこまでも冷たく、見ているだけで背中におかしな汗が浮かぶ
リトは慎重に歯でニーソックスの先端を噛むと、顎の力だけでゆっくりと脱がしていった

「…ホラ、これでいいんだろ?」
ぜぇぜぇと息を切らせながら恨みがましく見てくるリトに、沙姫は脱がしてもらったばか
りの素足で、その顔を踏みつけた
「何言ってますの? 次もあるのよ」
ぐいぐいと足の裏を押し付けてくる沙姫に、リトは呼吸もままならないまま、足の下から
くぐもった声を出す
「わか…わかったから! やればいいんだろ! やれば! ったく…」
さっきと同じ要領で脱がしていくリト
意地と自棄が混じるその必死な顔に、沙姫はやわらかい笑みを口の端に歪めた
そして、全て脱がし終わったリトの顔の横に座ると、その顔を真上からジッと覗きこむ
「…何だよ? まだなんかあるのかよ?」
ムッと睨みつけてくるリトの前髪を、沙姫のやわらかい手が払いのけていく
そして露わにおデコ
「沙姫? 何…ちょ…!?」
そのおデコに軽くキスをした沙姫に、リトは目をパチパチさせる
キスをされた事よりも、自分をジッと見つめる沙姫のなんとも言えない顔から目を逸らせ
なくなってしまう
琥珀の瞳が神秘的に輝き、柔和な笑みを湛える沙姫の顔に、胸の中が熱くなってくる
さっきまでの怒りもどこかに消えていく
こんな状況にあってもキレイだと思ってしまう自分は、愚かなのだろうか――――?

「リト…」
透き通る声に愛情をいっぱいに込めて、囁くように沙姫は名前を呼んだ
「何だよ…?」
まだ拭えないモヤモヤを声に滲ませながら応えるリト
その口に、甘い香りがする沙姫の唇が触れる
「ん…ん…っ…」
唇を重ねるだけのキス。それだけでリトの気持ちを氷解させた
沙姫はリトの頭をやさしく撫でながら、ジッと目を見つめる
「沙姫…」
「何ですの? リト」
さきほどまでの出来事がウソの様な、久し振りの安らぎの時間
リトはふっと全身の力を抜くと、沙姫を見つめた
いつ見てもキレイだと思わせるその瞳は、見ているだけで吸い込まれてしまいそうになる
何も言ってこないリトに沙姫は小首を傾げた
耳に掛かった長い髪がハラリと落ち、リトのほっぺをくすぐる
沙姫はそんなリトの顔を覗き込みながら、手を伸ばすと、拘束していたリボンをシュルシュ
ルと解いていく
そして、解き終わると、リトの耳にそっと呟く
「言っておきますけど、コレで終わりではありませんわよ。さっきのは前菜。メインは
これからですわよ! リト」
「へ…?」
チュッと頬に触れる唇の感触に、リトの間の抜けた声が応える
沙姫の手が翻り、また違う形でリトを拘束していった

――――それから数時間後

パーティーもすっかり終わり、屋敷から喧騒が消えた深夜
薄暗い部屋から沙姫は、バルコニーへと躍り出た
「はぁ…」
と、溜め息を吐きながら、白磁の柵の上に頬杖をついている沙姫は全裸だ
雲の隙間から姿を見せた月の光が、沙姫の身体を妖しく彩り、
背中を伝い落ちる汗の珠が、月の光を反射して真珠の様に輝く
プラチナブロンドを風にまかせるままに揺らしながら、沙姫はぼーっと夜の庭園を見ていた
アレから何度、身体を交じり合わせ、求めてを繰り返したのか

「あふ…激しっ…激しすぎですわ! もっとやさしくっ」
「急に何だよ? さっきまであんなに腰振ってたのに」
「私だって…たまにはっ…んっ」
リトに跨りながら、沙姫は欲望にまかせて腰を振り続けた
体も顔も、汗と精液でベットリと汚れてしまった沙姫に普段の面影はもうなかった
あるのは純粋な欲望だけ
沙姫の手がリトの背中を鷲掴み、爪が肌を裂き、血を滲ませる

「つかもう止まらねーよ! だって沙姫のことが…好きだからっ…」
「…ッ!?」
キュンと胸の奥で音がなった
沙姫は両腕でギュッとリトを抱き締める
「…っと…もっと言って」
沙姫の身体を抱きしめながら、リトは腰の動きを加速させた
「もっと…! もっと! もっと…!!」
「好きだ…スゲー好き! 沙姫が大好きだ!」
水音よりも腰が合わさる数よりも、互いを想う言葉が多くなる
リトの肩に爪を食い込ませながら、沙姫は真正面からリトの顔を見つめる
「…だったら私の中に好きなだけ出して、私を妊娠させるぐらいの事しなさい!」
「いい…のかよ?」
不安と戸惑いが混じる視線を向けてくるリトに、沙姫は小さく溜め息を吐いた後、ギュッとそのほっぺを抓った
「ひ…ひたひって!!」
「そーいう情けないところが全然ダメですわね! リト! もっとしっかり男を見せてほしいですわ!」
すっと目を細める沙姫
けれど、その瞳は、怒ったというより、拗ねているように見える
結局、その後、回を重ね、なんとか満足はしたものの――――

はぁ…と、沙姫は星空に向かって白い息を吐いた
「…今日はちょっとイジワルしすぎましたわね」
ベッドの上で、すーすーと、気持ちよさそうな寝息を立てているリトの顔を想い浮かべな
がら、沙姫は小さく笑った
そして、自分のお腹にそっと手で触れる
「…別にいいのに…」
と、呟きだけを後ろに残して、すっかり冷えきった体を温めに、沙姫は部屋へと戻っていく

「そーですわね。明日はうんと甘えさせてあげようかしら」
ベッドの上で幸せそうに眠っているリトの頭を撫でながら、沙姫はそうやさしく囁いた