※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


リト、知ってる…?

知らないよね、あんたは… 私たちが…

血の繋がった兄妹じゃないって事…

……

突然に言われたので驚いたが、どうやら、あれは冗談だったようだ。

しかし、そんな冗談を思いついた理由というのが、まるで分からない。

38度2分の熱に浮かされると、妙な空想にとりつかれるものなのか。

夜明け前の深い闇にくるまれて、リトは自分のベッドで寝返りを打つ。

朝までには熱が下がっているといいけど、と思いながら、目を閉じる。

……

「いにしへも――――」

骨川先生の声が、不思議にはっきりと耳に届いて、リトは目を開けた。

顔を上げて、きょろきょろと見回せば、午後の教室は光に満ちていた。

窓の外では、桜の枝がふわりとゆれ、やさしい風に花びらを散らした。

こんな春の陽気に、目を開けていられる生徒が、いるはずもなかった。

もう一度、静かに目を閉じれば、眩しい光だけが目に焼きつけられた。

「山の端の こころも知らで 行く月は――――」


黄色い満月が、ぷかりと浮かんで、フクロウの鳴き声が聞こえている。

夜露に袖を濡らして、旧校舎に入っていくと、白い着物の娘が現れる。

「お静ちゃん?」

裾が乱れ、しなだれかかるのを抱きとめれば、うなじが朱色に染まる。

「私と… せ… 接吻してくださいっ…!」

着崩した衿を引き、愛らしい口もとに顔を近寄せると、魂が飛び出る。

「はわ?」

湿った暗闇の中で、周囲を見回せば、霊と肉体に挟み込まれている。

霞がかかる……

夜風に酔わされながら、西洋風の庭園を歩いていくと、歌が聞こえる。

「――――朧月夜に 似るものぞなき」

慕い寄って、小屋に引っぱり込んでみれば、ドレスが闇に浮き上がる。

「センパイ…」

震えてはいたが、はねつけるような野暮に、陥るつもりもないと見える。

「私を… ムチャクチャにしてくださいまし…」

白い手に手を捉えられ、導かれた先の、丸い胸のふくらみが誘惑する。

巻き毛の金色を光が透かし、顔を上げると、桜が常夜灯に輝いている。



す… 好きな人… って…

わ… 私は別にそんな人…

緑地公園の昼下り、満開の桜の下で、美柑が誰かと話し込んでいる。

ななっ 何でリトなのよっ

突然に風が吹き荒れて、桜吹雪が視界を奪い去り、人影が失われる。

……

目を開けてみると、教室は夕陽に赤く染まり、他の生徒はいなかった。

古臭い歌の残された黒板を、ぼんやりと見ながら、リトはあくびをした。

ゆっくりと立ち上がると、教室を後にして、無人の廊下を歩いて行った。

つきあたりに倉庫の鉄扉があって、開けてみれば、美柑の体が見えた。

純白の体操服の胸もとに、ネームをつけて、マットに身を横たえていた。

……

こっちを見つめる黒い瞳は、素直さの内側に、生意気な表情を秘め、
ひょいと首をかしげて、作って見せる形は、母親ゆずりのものだった。

気楽に身を寄せて、頭を撫でようとすると、留めていたビーズが外れ、
はらりと広がって、肩に落ちかかった黒髪が、つやつやと輝いていた。

中に顔を埋めると、髪の湿った匂いに混じって、ライムの芳香が浮き、
トワレかコロンか、そんなものを纏っているとは、今まで知らなかった。

おでこに唇を触れ、耳たぶに這っていけば、すでに赤く染まっていて、
桜の綻びかけたような、可憐な唇には、どこかで会ったように思えた。

記憶をたどってみると、接吻その他は、旧校舎と庭園で終えていたし、
肌が覚えているのか、妙に気が急いて、深紅のブルマに手をかけた。

「えっ? えっ? ウソ…」

太腿と腰をひねって、逃げようとするところへ、身体ごと覆い被さって、
肩をマットに押しつければ、誘う瞳の中に、おびえが忍び込んでいた。

体育のマットは、汗と埃の混じった、饐えた臭いがして、顔を上げると、
しわの寄った体操服の下から、へそが覗いて、底が深いように見えた。

ちょっと舐めると、ぴくりと震え、その間にも、手探りでブルマを脱がせ、
片方の脚を抜いてしまうと、もう一方の膝のあたりで、くしゃっとなった。

ズボンを下ろし、やわらかな太腿をさすって、ふくらはぎを手でつかみ、
白い布の脇から、少しの湿り気を帯びたところに、ぐうっと腰を入れた。

きりきりと歯の鳴るのが聞こえて、唇の間から、こもった呻き声がもれ、
目尻から涙が線を引き、喉はのけぞって、どこかの関節が音を立てた。

身体を起こし、つながったばかりの部分へ、そっと目を落としてみれば、
白い布の端の小さなしるしは、桜どころか、彼岸花よりも赤いのだった。



目を開けようとしても、窓から差し込んでくる、朝の陽光が眩しい。

リトは、ベッドの上に起き上がり、半びらきの目で部屋を見回した。

何か、ひどい夢を見たような……

ふらふらと部屋を出て、洗面所へ行こうとしたところで、思い出す。

もう、熱は下がったかな……?

カーテンの閉められた美柑の部屋は、まるで深夜のように見える。

ベッドの上には、くるまれた寝姿があって、紫のパジャマが動いた。

「具合は……?」

近づくと、夜具の中にもぐり込んで、気むずかしく顔を隠してしまう。

ベッドの端に腰を下ろし、ふとんを引きのけて、真上から覗き込む。

びっしょりと汗に濡れた蒼い顔の、おでこに前髪が貼りついていた。

「おい…… 大丈夫か?」

声をかけてみると、こっちを静かに見上げて、震える声でつぶやく。

「どうして…… あんな……」

濡れた瞳の中に、恨めしげな表情が見えて、すっと背筋が寒くなる。

桜の枝がふわりとゆれ、美柑の体は花びらに包まれて、消えていく。

見送りながら、リトは自分が夢の中にいるのだと、はっきりと覚った。