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5月×日 17時45分30秒 (+0900) 東京 彩南町 商店街の路地裏

 

デビルーク第一王女、ララ・サタリン・デビルークの従者、ペケが立っている。

 

色のうすい目、短髪に円盤、黒いシャツに白いタイ、袖広のコート、黒タイツ。

 

ペケはロボットで、性別を持たないが、こうして少女の姿になる場合もあって、

入手した衣装のデータを、試着できるという点で、女性の身体は有益だった。

 

通行人の服で、気になるものがあったら、どんどん着てみよう、というわけだ。

 

手始めに他校の制服、セーラーやブレザーに、次々とフォームチェンジする。

 

その他、ニットのセーターや、パンツスーツ、医者の白衣、洗いざらしの紺絣、

シトー派の修道服に、山東絹のチャイナドレス、海軍バーのホステスの制服。

 

色々と試し、エネルギー消費が心配になり、元のツートンの衣装に戻した時。

 

「あれ? ペケ?」 「おや、リト殿!」

 

リトは制服を着ていて、学校の帰り道なのだろう、のんびりと平和そうな顔だ。

 

しかし、リトが近寄ってくるのを見て、ペケは嫌な予感(女の勘だろう)がして、

病的に足元のおぼつかないリトは、案の定、何もない路面で派手につまずく。

 

突っ込んでくる身体に対し、ペケは回れ右をして逃げたが、ちょっと遅かった。

 

リトの膝が、ペケの膝の裏に衝突して、いわゆるイェンドラシック反射が起き、

加えられた衝撃が上腕に伝導した結果、ペケの両腕が水平に跳ね上がって、

空いた腋の下に、リトの両腕が飛び込み、背後から抱きしめられる形になる。

 

「ひゃあっ!」

 

驚いたペケの衣装は、(驚いた時はそうなるものだが)スクール水着になった。

 

当然、通行人の注目を集めてしまったが、この際、そんなことはどうでもいい。

 

ペケにとって当面の問題は、リトの手が、胸部に食い込んでいる点にあって、

自身の感情としては、別段どうということもないが、少女の姿をしている以上、

器官をわしづかみにされている現状は、好ましからざる事態に相違なかった。

 

このような場合、名誉ある解決のために、いかなる言葉を発するのが適当か。

 

「リト殿……」 「えっ?」 「手…… ヤバイんですけど」

 

おわっ、と叫んで、リトは手を引っ込め、ペケは目を伏せて、胸に手を触れる。

 

「ゴ、ゴメンな…… ペケ」 「お気になさらないように」

 

話を簡単に終わらせ、お得意の皮肉を言うでもなしに、うしろ髪に手をやって、

苦笑した横顔には、少年のような、少女のような、ペケのような面影があった。

 

「リト殿…… 帰るとしましょうか」 「そ、その格好でか?」

 

ペケは一瞬、キョトンとしてから、スクール水着に包まれた身体を見下ろして、

頬を赤く染めると、手っ取り早く、目の前に見える服に、フォームチェンジした。

 

夕暮れの商店街を、彩南高校の制服を着たふたつの影が、肩を並べて去る。