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遊園地でのデートでグッと近付いたリトと唯。
2人の関係はその後も起こった様々なトラブルを通じて少しずつ深まっていった。
しかし、まだ人前でお互いを『リト』『唯』と呼び合うのは照れくさいようで、
「いざという時のとっておきなんだから!」
という事になっていた。
ちょっとアブナい雰囲気になったことも度々あったのだが、
「こ、高校生がそんな事しちゃダメでしょ!」
という唯のこだわりもあり、キスより先の行為にはなかなか進展しなかった。
そんなこんなでしばらく時の流れた、ある晴れた日曜日のこと……

『この電話は、現在電波の届かない場所にいるか……』
携帯電話から冷たいオペレータの声が流れて来る。
プチッ、と通話を切って唯がつぶやく。
「まったく。結城君ってば何やってるのかしら……」
せっかくの日曜日だからリトと買い物にでも行こうかと2時間くらい誘いの台詞を考えて、
ドキドキしながらやっとの事で誘いの電話をかけたのにこの仕打ちである。
せっかくの努力を無にされた唯は、自室のベッドの上ではぁ、とため息をついた。
「あーあ。無駄骨だったのか」
「お、お兄ちゃん!?」
振り向くと、ドアの所にニヤニヤ笑みを浮かべた兄の遊が立っていた。
「ったく。あいつ、いっつもタイミング悪いよなあ」
「まったく、本当に。……って、あれ? お兄ちゃん、結城君と何かあったの?」
「え!? い、いや、オレは別に……お、お前のこと言ってんだよ!」
何か不自然に動揺した兄の様子が少し気にかかったが、今はそれよりもリトに腹を立てていた。
(ほんっとに。タイミング最悪……)
こんな晴れた良い日なのに。せっかく一生懸命誘いの台詞を考えたっていうのに。
(あーあ、こんなことならもっと早く電話するんだったかな……)
そう考えてみると、長い間躊躇していた自分が悪いような気もしてきて、
唯は少し自己嫌悪に陥ってしまう。
「残念だったな。じゃ、オレは出かけて来るから」
「どこ行くの?」
遊がニヤリと笑みを浮かべる。
「ちょっと街でブラブラしてから、夜は秋穂さんとデート」
「よ、夜に、デート!?」
そう言われた唯の顔が、カーッと赤くなっていく。
「お前何想像してんだ? ま、多分その通りなんだけどな」
「は、ハレンチなっ!」
「おいおい。愛する恋人同士ならフツーだぜ? ガキじゃねーんだからさ」
「あ、う……」
しどろもどろになってしまった唯に向かって、遊がウインクしながら告げた。
「お前も、そろそろ結城にオネダリしてみたらどうだ?」
「ええっ!? な、何言ってんのよ! 私達、まだ高校生なのよ!」
フッ、と遊が呆れるように腕を組んで見せた。
「今時そんなこと言ってるのお前くらいのもんだぜ。オレがお前くらいの頃はな……」
「お兄ちゃんみたいなドスケベと一緒にしないでっ!!」
唯が枕を取って遊に投げつける。
遊はそれを片手で軽く受け止めると、ヒョイっと唯に返しながら告げる。
「じゃーな。今日はオレ遅くなるし母さんもいないみたいだから、別に男連れ込んでも構わないぜ」
「な……」
唯の肩がプルプル震え出す。
「ハ……ハレンチなーっ!!!」
パタン。
いつもの唯の絶叫を軽くドアで受け流して、遊は古手川家の玄関を後にした。

(まったくもう! お兄ちゃんってば、どうしてああなの!)
何度注意しても全く聞く耳持たない兄の性格に、唯はうんざりしながら街中を歩いていた。
『お前も、そろそろ結城にオネダリしてみたらどうだ?』
遊の言葉がどうしても耳から離れない。
(お、オネダリなんて、そんな……)
唯の頭の中にその光景が思い浮かぶ。

唯は下着姿でベッドの端に腰掛け、目の前に静かに佇むリトを見つめていた。
『リト……私、体が熱いの……』
『唯……オレが鎮めて上げるよ……』
唯の肩にリトの手がそっとかけられる。
微かにピクンと震えた唯の肩は、なんの抵抗もなくベッドの上に横たえられていく。
『唯……』
あくまで優しく、慈しみに満ちた眼差しで唯の瞳の奥底を覗き込むリト。
『リト……』
唯の頬は朱に染まり、潤んだ瞳からはリトへの愛おしさが滴となって零れ落ちていた。
『好きだぜ、唯……』
『私も……好きよ、リト……』
はぁ…… はぁ……
互いの唇から溢れ出す熱い吐息を飲み込むように2つの震える唇は近付いて行き、ついに……

ボッ!!
唯の顔が真っ赤になり、唯は思わず両手で頬を押さえてしまっていた。
(な、何考えてるの、私ったら……)
ブンブンと頭を振って甘い幻想を追い払う。
(まったく……お兄ちゃんが変なこと言うせいで……)
そこでふと我に返り、周りの様子を確認してみた。
(ここは……?)
考え事をしながら歩いていたため、唯はうっかり日頃はめったに来ない歓楽街に迷い込んでいた。
まだ夕暮れ時なのでさほど活発になってはいないが、
周囲の店にはやたらに派手な電飾を施した看板や露出度の高い女性の写真が飾られ、
店の前に佇む黒服を着た店員が何やら通行人に誘いをかけている。
(こ、こんなハレンチなとこ……)
慌てた唯は踵を返して元来た道を戻り出す。その時、
(あ……)
あるホテルの看板が目に入った。
でかでかと『ご休憩4800円』の文字が書かれた派手な看板。
(これって……ラブホテル……?)
ふと、遊の言葉を思い出してしまう。
『夜は秋穂さんとデート』
ボッ!!
また唯の顔が赤く染まってしまう。
(お兄ちゃんって……こ、こういう所で……その……あんなこととか……)
そして、このホテルの中には今もそういう行為をしているカップルがたくさんいるのだ。
そう意識してしまい、さらに唯の顔が真っ赤になってしまう。
『愛する恋人同士ならフツーだぜ?』
脳裏に浮かぶ遊の言葉が唯の胸をどんどん高鳴らせて行く。
(私もいつか、こういう所に結城君と来るのかな……)
それは、遠い未来の話なのか? それとも……
その黒塗りのガラス扉の向こうに自分のまだ見ぬ世界の広がりを感じた唯の足は、
なんとも言えない不安を覚えてホテルの入り口の前で釘付けになっていた。
と、その時。
ギィ、と重い音を立てて扉が開き、中から一人の女性が姿を現した。
(え……?)
それは、唯の良く知っている女性だった。
「も、籾岡さんっ!?」

唯に気が付いた里紗はニヤリと笑みを浮かべ、からかうような口調で話し掛けて来た。
「あーら、唯じゃない。こんにちは」
(な、なんでこんな所に!?)
いきなりの出会いに唯は一瞬動揺したが、すぐに正気を取り戻して声を張り上げた。
「も、籾岡さん! 高校生がこんなとこに来ちゃダメじゃないっ!!」
里紗が口の端を少し吊り上げて唯に告げる。
「あーら、ごめんなさいね。私のダーリンがどうしてもって言うから」
「な……!?」
唯の顔に動揺が浮かぶ。
(ダーリン……!?)
その言葉を聞いて、唯の脳裏にある光景が思い浮かんだ。
以前教室で、里紗がある男子にそう呼びかけてキスまでしていた事を。
(ま、まさか……)
そして黒塗りの扉が開かれ、そこから今唯が最も見たくなかった人物が現れた。
「籾岡っ!」
茶色のツンツン頭をしたその人物の顔を見た瞬間、唯の顔が真っ青になってしまう。
「ゆ……」
唯は驚きのあまり、その名前を最後まで呼ぶことが出来なかった。
(結城……くん!?)

唯の様子を窺っていた里紗がリトの方に振り返って告げる。
「あら、ダーリン♪ 待ってたんだから、もぅ……」
里紗はリトの腕にしがみついて、胸に顔をすり寄せた。
「お、おいっ!?」
(そ……そんな……)
その光景を見た唯の心の中で、ピシッ……と何かにヒビが入る音がした。
「ゆ……結城……くん……」
「えっ」
自分の名を呼ぶ声にようやく気が付いたリトが振り向くと、
唯はまるで化け物でも見たかのような茫然自失の表情でブルブルと肩を震わせていた。
リトが慌てて言い訳を始める。
「こ、古手川! ご、誤解だ! オレ達、別にそんなこと……」
そこに追い打ちをかけるように里紗が告げる。
「あーら、さっき私のこと、あんなに上手って誉めてくれたのに……」
(!!)
その言葉を聞いた瞬間。
(そんな……そんな……)
唯の心の中で思い描いていた甘い幻想がたちまち掻き消され、
裸のままで絡み合う淫らなリトと里紗の姿が取って代わっていた。
(うそ……うそよ……!)
唯はワナワナと肩を震わせ、目を見開いて里紗の顔を見つめた。
里紗は唯を見て勝ち誇ったように、唇を吊り上げてニヤリと笑みを浮かべた。
その冷酷さすら帯びた笑みを見た瞬間、
パキンッ……!!
唯の中で何かが粉々に砕け散る音が響き渡った。
もはや唯は耐え切れなくなり、瞳からとめどなく涙を流し始めた。
「お、おいっ!?」
慌てたリトが唯に駆け寄るが、唯は、
バシッ!!
「うっ!?」
辺りに音が響き渡るくらいの強烈な平手をリトの頬に叩き付けた。
震える喉から唯が声を絞り出す。
「結城君の……結城君の……バカっ!!」
唯は精一杯声を張り上げて叫ぶと、振り向いてリトの元からタッと駆け出した。

(結城君の……バカ……バカ……!)
涙を流しながら全力で逃げ出すように走り続ける唯。
時折通行人にぶつかったりもするが、謝る余裕すらなく目を擦りながらただひたすら駆け続ける。
その後ろからリトが全速力で追いかけて来た。
「待てっ! 古手川っ!!」
「バカっ! 追いかけて来ないでっ!」
しかしやはりリトの足は速く、次第に2人の距離は縮まってリトの手が唯の肩にかかる。
「おいっ!」
数歩歩いて足を止めた唯が呟く。
「なんで……追いかけて来るのよ」
「なんでって、お前が誤解してるから……」
「何が誤解なのよ」
「オレ、お前が思ってるようなことしてねーんだって」
唯がクルリと向きを変えて問い正す。
「じゃ、何やったって言うの!?」
「オレ、あいつとあそこでカラオケしてたんだ。それだけだって」
(カラオケ……!?)
そう言われた唯が、唇をギュッと噛み締める。そして、
「そう……分かった」
そう言って、一瞬黙り込む。
ようやく安心したリトが、ホッとしたように顔をゆるめて告げる。
「そっか、分かってくれたか!」
しかし、唯の顔は微塵も笑ってはいなかった。
「結城君が私をバカにしてるって事が、ね」
「え!?」
パシッ!!
「うっ!?」
再び唯の平手がリトの頬を打った。目に涙を浮かべた唯が告げる。
「私があそこが何する所か知らないとでも思ってるの……」
「お、おいっ……ちょっと……」
「結城君のハレンチ! 不潔! 痴漢! スケベ! 結城君なんか、大っ嫌い!!」
「ま、待てったら!」
リトが唯の肩を掴んで唯を制止しようとする。
ところが……
「ちょっと、君! 止めなさい!」
いきなり何者かがリトの両肩を羽交い締めにした。リトが驚いて振り向くと、
「えっ!?」
それは偶然そばを通りかかった警官だった。
「ちょ、ちょっと! オレ別に何もしてないんです! こ、古手川! なんとか言ってくれ!」
一瞬驚いた表情をした唯だったが、いきなりアカンベーをしてタッと駆け出した。
「ちょっと署まで来てもらおうか」
「お、おいっ! 古手川ーっ!!」
唯はその様子を振り返ってチラッと見たが……
『あーら、さっき私のこと、あんなに上手って誉めてくれたのに……』
またさっきの里紗の言葉が思い浮かんでしまい、
(フンっ! あんなハレンチなことする結城君なんて、逮捕されればいいのよ!)
もう一度振り返ってタッと走り去っていった。

そのまましばらく走った後、リトの姿がすっかり見えなくなった事を確認して唯は立ち止まった。
(まったく……あんなハレンチなこと……)
頭の中では、里紗とリトが裸で抱き合ってイチャ付き合う淫らな光景が……
(……ッ!)
唯は頭を振ってその光景を必死に頭から追い出そうとする。しかし、頭の中には……
『今時そんなこと言ってるのお前くらいのもんだぜ』
さっきの遊の言葉が浮かんでくる。
(私が……間違ってるって言うの!?)
頭の中の里紗が挑発してくる。
『あーら、唯。ボヤボヤしてたら、あんたのリトは私がもらっちゃうわよ? ウフフ……』
「や、止めてぇっ!!」
思わず、道端だというのにその場で叫び出してしまう。
驚いた周りの通行人達が唯に注目する。
(あ……)
恥ずかしくなった唯が顔を赤らめてその場を立ち去ろうとすると、
「あなた、古手川唯さん?」
「えっ!?」
いきなり名前を呼ばれた唯が振り返ると、そこには見知らぬ髪の長い女性が立っていた。

「初めまして。西連寺秋穂です」
「は、初めまして。古手川、唯です……」
秋穂と唯の2人は、秋穂の誘いで街中のとある喫茶店に来ていた。
(確か、お兄ちゃんの彼女の人よね……)
唯はまたさっきの遊の言葉を思い出していた。
『夜は秋穂さんとデート』
カッと唯の顔が赤くなってしまう。
「あら? どうしたの、唯さん」
興味深々の様子で秋穂が声をかけてくる。
「あ、秋穂さん、きょ、きょう、お兄ちゃんと、デートするって……」
「あー、知ってたんだ。まだ時間あるから。気にしないで」
唯は少し俯いてとまどった様子で秋穂に尋ねてみた。
「あ、あの、おふたりは、え、エッチなこととか……するんでしょうか……」
「ん? 気になる?」
聞き返された唯はますます恥ずかしくなって俯いてしまう。
その様子を見てクスリと笑った秋穂が答えを返す。
「答えはねー。分からない」
「え?」
意外な返答に唯は驚いて顔を上げる。
「私ね、いつも自分の思ったこと、好きなことをやるようにしてるの。
だから、もし今日遊君と会って、エッチしたいなと思ったらするんだろうし、
そうじゃなかったらしないかもしれない」
「え……でも……」
(さっきのお兄ちゃん、すごくやる気みたいだったけど……)
「んー? あ、そっか。遊君。やる気まんまんだった?」
唯の心の中を見透かしたように秋穂が告げた。
「ま、そこはね。男をうまく操縦するのが女のテクニックってものよ」
そう言って唯にニッコリ笑いかけて来る。
「へえ……」
唯は感心していた。
(このひと、すっごく大人なんだ……)
それに比べて自分は……。唯は少し引け目を感じてしまう。そこに秋穂が尋ねてきた。
「で、唯さん。今、悩んでることでもあるの?」
「え……」
唯は少しドキッとしてしまった。
「良かったら、お姉さんに相談してみない?」
秋穂にニッコリ笑いかけられて、唯は少し躊躇したあと、
「はい……」
小さく告げて、コクリとうなずいた。

「フーン。ホテルで知り合いの女の子と、ねえ」
「で、カラオケしたなんて言うんです。まったく、人をバカにして……」
その言葉を聞いて、秋穂はあっけらかんと言った。
「ん? あるよ、カラオケ。最近のラブホには時々ね。知らなかった?」
「えっ!?」
唯が驚く。
(そ、そうだったの!? てっきり私、結城君が言い訳してるとばっかり……)
「ま、でも、だから本当にカラオケしたとは限らないけどね。
その状況じゃ、フツーはやっちゃってるでしょうね」
そう言われて、また唯ががっかりして肩を落とす。
(やっぱり……)
「フツーは、だけどね」
「え?」
そう言われて唯がまた顔を上げて秋穂の方を見る。
「結城君って子、ものすごく奥手なんでしょ?」
「え……? 結城君のこと知ってるんですか?」
「うん。春菜から少し聞いてるから」
「あ……」
(そう言えば秋穂さん、西連寺さんのお姉さんだったんだ……)
「なんか、色んな女の子から言い寄られてるのに、絶対手を出さないんだって?
今時珍しいよねえ」
「はい……」
そう言われてもう一度唯が考え直してみる。
(じゃ、やっぱり結城君、カラオケしか……)
その思考を遮るように再び秋穂が声を掛ける。
「まあでも、やりたい盛りの男の子でもあるわけだしねえ。んー、ビミョーよねー」
(うっ……)
何度も揺さぶられて、唯の頭はだんだん混乱してきた。
「それより唯さん。あなたはどうなの?」
「えっ?」
いきなり自分のことを聞かれて、唯はとまどってしまった。
「あなたは結城君とエッチしたいの?」
「ええっ!?」
慌てて唯が否定し出す。
「わ、私達高校生なんです! そ、そんな、ハレンチな事……」
「んー? 高校生とかって、そんなに重要なことなのかな」
「えっ!?」
秋穂はニッコリ微笑んで語りかける。
「決まりってのは、まあ大事なこともあるけどね。
でも、自分にとってそれより大事なことがある時は、私ならそっちを優先するな」
「それより大事なこと……」
「唯さんと結城君の気持ち」
「!」
唯は目を見開いて秋穂の顔を見つめた。秋穂はクスッと笑いを浮かべる。
「もし、唯さんがどうしても決まりを破りたくなった時は、『ゴメンナサイ』って言いながら
手を合わせて神様に謝って見るの。きっと神様はね、寝そべってテレビでも見ながら
『んー、別にいいんちゃう?』とかテキトーな事言ってるはずだから」
「そ、そんないい加減な……」
秋穂はまたフッと笑った。
「男と女はね。いい加減な方が上手く行くこともあるのよ」
その言葉は、唯の心にピンと響いた。
(いい加減な方が、上手く行く……)

その様子を見た秋穂がクスリと笑みを浮かべ、スッと立ち上がって告げた。
「じゃ、私はそろそろ美容院の予約があるから」
そう言ってレシートを取ってレジまで歩いて行く。
「あ、私も自分の分は払います!」
「良いって良いって。唯さんは、私の未来の妹なんだしね」
「えっ……」
「じゃねー。頑張ってね」
秋穂はさっさと会計を済ませると、唯に向かって軽くウインクして店を出て行った。
店を出た秋穂は軽く舌を出して謝るような仕草をした。
(ごめんね、春菜。敵に塩を送っちゃったかな)
そして、軽く店の中を振り返る。
(でも、本当遊君の言う通りね。見てたら、ほっとけなくなっちゃうな……)
さっきの唯の頼りなげな顔を思い出してクスッと笑い、秋穂は雑踏の中に消えて行った。

喫茶店を出た唯は、今日の出来事を振り返るために町中から少し離れたとある河原に来ていた。
(久しぶりね、ここも……)
川を見つめながら腰を下ろす。
そこは、小さい頃唯が遊とケンカして家を飛び出した時に来た場所だった。
がむしゃらに走って来たために帰り道が分からなくなり悲しくなって泣いていた時、
探しに来てくれた遊を見た時のあの頼もしい顔は今でも覚えている。
(今は、あんなにハレンチな男の人になっちゃったけどね……)
クスッと笑ってまた川面を見つめる。
水面に映った、どことなく不安げな自分の顔。
今まで自分は『高校生だから』というルールの下に自分を抑え込んでいた気がする。しかし……
『高校生とかって、そんなに重要なことなのかな』
秋穂の言葉を聞いた瞬間、自分にとって絶対だったそのルールが、
もはや絶対なものでなくなった気がしていた。
(私の気持ち、か……)
昼間一度思い浮かべて、慌てて掻き消してしまった妄想をもう一度思い浮かべてみる。

『リト、私、あなたが欲しいの……』

今まで妄想の中のリトはいつも唯に甘く優しく接してくれていた。
しかし、今度は少しだけいつもと違った。

『唯、オレお前とセックスしたい』
『え……』

おとぎ話の世界の王子様だったリトが、
淫らな欲望を持った現実の一人の男として唯に話し掛けて来た。
『セックス』。
『ハレンチ』というレッテルを貼り付けて、敢えて目を反らし続けていたその行為。
でも……
(結城君……私としたいのかな……)
そして……
(私は……結城君と……)
トクン、トクン、トクン……
胸の鼓動が速くなり、頬が熱を帯びて朱色に染まって行く。
『愛する恋人同士ならフツーだぜ?』
ふと遊の言葉が胸をよぎる。
(愛する、恋人同士……)
その時、唯はハッと気が付いた。
(私まだ、結城君に一度も好きって言ってない……)
『好き』。
照れくさくて、恥ずかしくて、口に出来なかったその言葉。
それに……
(結城君も……)
あの告白以来、キスをしたりはしたが、リトは一度も自分のことを好きとは言っていない。
そもそもあの告白だって、本気だったかどうかは疑わしい。
その決定的な事実に気付いてしまった唯。
しかも……
『あら、ダーリン♪』
(!!)
唯は思わず目をつぶってしまう。
地面が急に無くなってしまったような不安な感覚。
(もし、結城君が籾岡さんのことが好きだったら……)
自分は……自分のこの気持ちは……一体どこへ行けばいいのだろう?
(イヤ……そんなのイヤ……!)
もう一度リトに会って確かめてみようか?
でも、もし、はねつけられてしまったら?
トクン、トクン、トクン……
もう辺りはすっかり暗くなり、唯の目に映る水面には夜空の星が映し出されていた。
暗く淀んだ水面の下は何も見る事が出来ない。
ちゃぷ……。
その水面下にある物が知りたくて、唯はそっと手を川に浸してみた。
その時だった。
ガサッ。
(!)
後ろで草を踏みしめる音がして、唯はビクンと体を震わせる。
(だ、誰……? もしかして、結城君……)
トクン、トクン、トクン……
唯の胸の鼓動が、速く、高くなって行く。
(ど、どうしよう……)
今リトと会ったら、自分は一体なんと言えば良いのだろう?
その答えが全く分からない唯は恐ろしくなり、後ろを振り返ることが出来なかった。
しかし。
次に聞こえてきたのは、唯が予想もしない人物の声だった。
「どうしたの、唯。こんなとこで」
(!!)
驚いて唯が振り返るとそこには……
「籾岡さん……!」
今唯が最も会いたくなかった、籾岡里紗がそこに立っていた。

(な、なんでここに……!?)
意表を突かれて唯は唖然としてしまう。
相変わらず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている里紗の顔。
(ううっ……)
今日、リトとラブホテルに入っていた里紗。
自分の心をズタズタにしてしまった里紗。
『あら、ダーリン♪ 待ってたんだから、もぅ……』
さっきの嬉しそうな里紗の顔が頭に思い浮かんで、
(……っ!)
ギュッと唇を噛み締めて、唯は立ち上がって歩き出そうとした。
「待ちなさいよ」
里紗が唯を呼び止めた。
「ちょっとおしゃべりでもして行かない?」

唯と里紗は河原に並んで腰掛けていた。
(い、一体この人、何考えてるの……?)
また、自分をバカにしに来たんだろうか?
もしそうなら、怒鳴り付けてサッサと帰ってやろう。唯がそう思っていると、
「あれから、どうしたの?」
あっけらかんと里紗が声をかけてきた。
神経を逆撫でするような飄々とした様子に唯は少しカッと来て、震える声で叫んだ。
「あ、あなたには関係ないじゃないっ!」
その唯の剣幕を受け流すように、里紗がサラリと答えた。
「そ、ね。私には関係ないな」
「えっ?」
里紗のあっさりした態度に、唯は逆に驚いてしまう。
(か、関係ないですって……!?)
リトと一緒にラブホテルまで入っておいて。関係ないとはどういうつもりなのか?
胸の中に疑問を抱える唯をよそに、里紗が続ける。
「私、別にリトの事なんてなんとも思ってないし」
「え……」
また驚いた表情を浮かべる唯に里紗がニヤリと笑いかける。
「さっきのアレはさ、私が無理矢理あそこにリトを連れてってカラオケで遊んでただけ。
リトだってそう言ってたでしょ?」
「あ……」
(やっぱり、そうだったの……)
リトの言っていたことは本当だったのだ。それなのに……
(私ったら、結城君の言う事ちっとも信じようとしないで……)
唯はさっきの自分の態度を後悔し始めていた。
そんな唯を里紗が嘲り笑うような顔で見つめながら告げた。
「あんた達の焦ってる顔が見たくて、からかってただけ」
「な、なにを……」
「だーって、あんたもリトも、すっげー面白いんだもん。からかった時の顔。
あー、思い出しただけで……ぷ、あーっはっはっは!」
「な……」
自分が真剣に悩んでいるのに、冗談のように笑われた唯はカッとなって怒鳴りつけてしまう。
「ふ、ふざけないでっ!! 私がどれだけ……」
「はいはい。悪かった悪かった」
里紗は懐から携帯電話を取り出して電話を掛け始めた。
「あ、ダーリン? 私だけど。あんたのお姫様、返すからさあ。受け取りに来てくんない?
いやー、本当にワガママで扱いに困ってるのよ」
さらにカッとなって唯が里紗を怒鳴りつける。
「だ、誰がワガママですって!」
「そ、河原のそばの……分かる? じゃ、すぐに来てね。
あー、5分以内に来なかったら、唯、あんたと一生口聞いてくれないんだってさ」
「だ、誰もそんなこと言ってないでしょ!」
「んじゃね。バイバイ、ダーリン♪」
里紗は携帯電話の通話を切ると、立ち上がって唯に微笑みかけた。
「じゃねー、唯。お幸せに♪」
「そ、そんな、いきなり……」
さっき考えていた事の結論も出ず、心の整理も出来ていない。
そんな状態でいきなりリトと会わされてしまうなんて……。
そんな唯の動揺をよそに、里紗が唯の耳元に口を寄せて囁きかけてきた。
「じゃ、明日、今晩どうだったか教えてよねー。よっ、この色女っ」
「なっ……」
(こ、今晩っ!? い、いきなりなんて、そんなっ……!?)
唯の顔が紅潮し、たちまち耳まで真っ赤に染まってしまう。
「そ、そんなハレンチなことするわけないでしょっ!!」
「えー? ま、いっけどさ。じゃねー」
里紗は唯にそう告げると、手を振って颯爽と立ち去って行った。

(な、何考えてるの、あの人!?)
里紗の考えが全く理解できず、唯は呆然と里紗の後ろ姿を見送っていた。
と、その時。
「古手川っ!!」
(!!)
里紗が去って行った反対側から、今度こそ唯の思い通りの人物がやって来た。

「ゆ、結城君……」
そう口に出した唯だったが、なかなか振り返る事が出来ない。
(ど、どんな顔で会えばいいの……!?)
トクン、トクン、トクン……
心臓が激しく鼓動を打っている。そんなことをしているうちに……
ザッ。
(!)
リトが唯の真後ろにまで辿り着いたようだ。
「ハァ……ハァ……」
どうやら里紗の電話を真に受けて、ここまで全速力で走って来たらしい。
荒い息を整え終えたリトが、唯の肩をガッと両手で掴む。
ビクンッ! 唯の体が反応する。
「古手川……」
そう言ってリトは唯の体を振り向かせようと手に力を込める。
リトに促されるまま、ゆっくりと振り向いた唯が見たリトの顔は……
(あ……!)
その全てが、幸せそうな笑みに満ちていた。
(結城君……!)
トクン、トクン、トクン……
もう唯の心臓の鼓動の速さは最高潮に達していた。
唯の顔はすっかり紅潮し切り、胸が高まり過ぎて声を出す事も出来ない。
そんな唯の顔を見てリトが告げた。
「良かった。オレてっきり、また怒られるんじゃないかと思ってたよ」
「え……」
ハッと唯が気が付く。
そういえば、唯とリトはさっき里紗のことでケンカ別れしたばかりなのだ。
ようやく少し落ち着きを取り戻した唯が、まだ顔を赤らめたままつぶやいた。
「さ、さっき、籾岡さんから聞いたから……」
「籾岡が?」
リトが不思議そうな顔をした。そして、少し考える素振りをした後納得したような顔をして、
「そうか……あいつ……」
遠くを見るような目をしてつぶやいた。そのリトの目を見た唯は、
(ムッ……)
何か、自分の知らないことを考えているような気がして、少し腹を立ててしまった。
「でも! なんでわざわざカラオケしにラブホテルに行く必要があるのよ!
カラオケボックスに行けばいいじゃない!」
「あ、ああ。あそこ、籾岡の知り合いのホテルで、安くなるってあいつが言ったんだ」
「ふーん、どうかしらね……。本当はハレンチなことしてきたんじゃないの?」
唯はまた波風を立てるような事を言ってしまう。
(ハッ! また私……)
すぐに後悔してしまう唯。

しかし、リトの反応は驚く程冷静だった。
「してない」
「え……」
いつもと違うリトの口調に唯は驚いて声を上げてしまう。
「オレ……さ。お前がいるから」
「!!」
少し頬を赤く染めながら恥ずかしげにそうつぶやいたリトの顔を見た唯は、
カーッ!!
頭全体が沸騰したように熱くなり、そのままフラっと倒れそうになってしまう。
「おいっ!」
慌てて唯の体を抱き止めるリト。そして……
(あ……!)
抱きかかえられた唯の瞳にリトの顔が大きく映し出される。
(ゆ、結城君……!)
唯の世界がリトで埋め尽くされたまま、時間が止まった気がした。
トクン…… トクン…… トクン……
さっきまであんなに速く感じられた心臓の鼓動が、今はひどくゆっくり感じられる。
「唯……」
リトの口から『とっておき』の言葉が放たれた。
それは、唯の心の奥底に隠された秘密の宝箱を開く唯一つの鍵。
その箱に秘められた唯の一番大切な想いを乗せて、唯の震える胸が言葉を紡ぎ出す。
「リト……」
トクン……  トクン……
リトに抱きかかえられてから、もう一時間は経っただろうか。
そんな錯覚を抱かせるほどの濃密な時の流れの中。
2人は、互いの食い違った部分を全て埋め合わせるように、力いっぱい抱き合ってキスを交わした。

◇     ◇     ◇

河原での逢瀬を終え、唯はリトに家まで送ってもらうことになった。
腕を組んで寄り添いながら、街灯に照らされた暗い夜の道を歩いて行く2人。
プップー!
けたたましい音を立てて、前から一台の車が走って来た。
「うわっ」
その車を避けて、腕を組んだ唯の体を道の端へと押しやるリト。
(あ……)
唯とリトの肩が触れ合い、唯はピクンと震えてしまう。
「ったく、あぶねーな。大丈夫か?」
「う、うん……」
(大丈夫じゃ、ない……)
トクン、トクン……
肩から感じるリトの体温が唯の体に広がって、唯の体全部が熱くなっていくような気がした。
ス……
「唯?」
唯はそのままリトの肩に頭をもたせかける。
「……」
リトは少し顔を赤くして、そのまま無言でゆっくり唯の家へと歩いて行った。

2人はついに唯の家に辿り着いた。
「……」
「……」
玄関の前で向かい合ったまま、少し俯いて無言で佇む2人。
唯の胸が膨らみ、何かを口にしようとして息が止まる。
「……!」
喉まで出掛かった言葉が、深いため息と共にフゥ……と吐き出されて消えて行く。
(わ、私……)
唯はとまどっていた。
自分の胸の中にあるこの気持ち。
あと一歩で言葉に出来そうなのに、言葉にならない。
言葉にして良いのかどうかも分からない。
ふとリトの顔を見ると、自分と同じくらい頬を赤くして、
唇を落ち着かな気に開いたり閉じたりしている。
(結城君も……迷ってるの……?)
トクン、トクン、トクン……
少し離れた所にいるはずのリトの鼓動の音が唯の耳に届き、
自分の鼓動と共鳴し合っているような気がした。
そして、永遠とも思える長い間の後、リトがたどたどしく口を開いた。
「じゃ……またな、唯」
(え……)
リトがゆっくり振り返る。
(結城君……!)
リトが前に一歩踏み出す。
(あ……!)
リトの体が離れて行くに連れ、唯の胸に強い喪失感が広がって行く。
(いや……)
もう一歩、リトが前に歩く。
(だめ……!)
ドクン! ドクン! 
唯の胸の奥底から何かとてつもなく強い力が衝き上げ、魂を激しく揺さぶる。
全身がわななき、手足が落ち着かな気にブルブル震えていた。
さらに一歩リトが歩いたとき唯の震えは最高潮に達し、唯は腹の底から力いっぱい叫んでいた。
「結城君っ!!」
その声を受けたリトは雷に打たれたようにその場に停止した。
ゆっくりとリトが唯の方に振り返る。
そして唯は……ついにその言葉を口にした。
「今日……家、誰もいないんだけど……あ、上がって行かない……?」

(ふぅ……)
ザーッ……
熱いシャワーを体に浴びながら、ようやく一息ついた唯。
目を閉じてシャワーを頭から浴びると、水が長い黒髪を伝ってポタポタと床に垂れ落ちて行く。
体が暖まるまでシャワーを浴びて体の隅々までキレイに洗った後、
唯はキュッとハンドルを回してシャワーを止めた。
そして、カラカラ……と浴室の扉を開いて脱衣所に入って体を拭くと、
体にバスタオルを巻いて脱衣所の扉を開いた。
「あ、上がったわよ」
「そっか。じゃ、オレもシャワー借りるな」
バスタオルで身を包んだ唯の横を通って、リトが脱衣所に入って行く。
パタン。
脱衣所の扉が閉まり、中でガサゴソと音がし出す。
その様子を見て、唯は今頃になって冷静さを取り戻し始めていた。
(私……こんなハレンチな事……)
唯の顔は真っ赤になり、胸はドキドキしっぱなしになっていた。
さっきは衝動に任せてあんな事を言ってしまったが、実際の所全く覚悟は出来ていなかった。
(本当に、こんなことしていいのかな……)
今までの、風紀委員として守り続けて来た自分の固い信念。
学生としての本分。未成年者としての節度。
自分の行動は、それを全てぶち壊そうとしているのではないか……?
唯の胸に罪悪感が込み上げ、
(やっぱり、止めた方がいいのかな……)
そんな事を考えてしまう。
しかし、そこで先程の秋穂の言葉を思い出した。
『どうしても決まりを破りたくなった時は、『ゴメンナサイ』って言いながら
手を合わせて神様に謝って見るの』
(神様に……?)
ふと唯の目に、居間にあった大きな姿見の鏡が入って来た。
そこに映し出された自分の姿。
その『唯』は、ハレンチな事をしている今の自分を見て今にも叱って来そうな気がした。
唯は鏡に向かって手を合わせて謝って見た。
(ごめんなさい、いつもの私……。今日だけ、今日だけ私を許して……)
すると鏡の中の唯がニッコリ笑って語りかけて来た。
(うーん、しょうがないわね。今日だけだからね!
その代わり、いっぱい幸せになって来るのよ! 唯!)
唯は鏡の自分に向かってもう一度微笑みかけた。
(うんっ! 私、頑張ってみるね! 唯!)
と、唯がそんなことをしている時……
「何やってんだ、お前。鏡の前でニヤニヤして」
「ひゃっ!?」
シャワーを終えて出て来たリトにいきなり声を掛けられて、唯の体がビクンッと飛び跳ねる。
そして、ゆっくりとリトの方を振り返り、
顔を真っ赤に染めながら肩をプルプル震えさせてつぶやいた。
「み、見たわね……」
「え、え?」
意味が分からないリトがとまどっていると……
「ちょっとはデリカシーをわきまえなさい!!」
バチィ!!
「おぶっ!?」
何がなんだか分からないまま、リトは唯の平手打ちをくらってしまっていた。

「まったく! せっかくの初めての時だって言うのに! なんてデリカシーのない!」
唯はすっかりキゲンを損ねて、自室のベッドの端にそっぽを向いて座っていた。
未だになぜ唯が怒っているのか分からないリトだったが、とにかく謝っておくことにした。
「わ、悪かったよ」
そのいい加減な謝罪にますますキゲンを損ねた唯が、リトの方を振り向いて説教を始める。
「なにその態度! 大体ね、あなたっていつもいつも……っ!」
唯の説教は、リトの唇に遮られてしまう。
「ん……ふぅ……」
リトは唯に唇を重ねながら、両手のひらで優しく唯の背中を撫で下ろしていく。
そしてしばらくの後、
「ぷ……はぁ……」
2人は唇を離した。
2人の唇を繋いだ透明なツバの橋が、ツツ……と垂れ下がって2人の隙間に落ちて行く。
少し顔を紅潮させた唯が、ちょっと不機嫌そうなとまどった声でつぶやく。
「もぅ……。結城君ってば、卑怯なんだから……」
そう言われて少し笑みを浮かべたリトが、唯の体を覆うバスタオルに手を掛ける。
「!」
しかし、唯は手でしっかりバスタオルを押さえつけていた。
「唯?」
唯はじっとリトの顔を睨みつけていた。
「結城君、もしかして私の体が目当てなんじゃないの?」
「へ?」
「大体私、結城君にまだ一回しか好きって言ってもらってないし……」
「あ……」
そう言われたリトは何かを思い出したようにハッとした顔をした。
「オレ……お前に言わなくちゃいけない事があったんだ」
「え?」
急にそんなことを言われて、唯がとまどってしまう。
「以前プールでお前に告白したろ。あれって間違いだったんだ」
「え……」
「本当は、別の人に告白しようと思ってたんだ。ごめん」
一瞬唯は、リトが何を言っているのか分からなかった。
(そ、それ、どういう事……!?)
唯は呆然として、口をパクパクさせたままリトの顔を見つめた。リトはまだ言葉を続ける。
「あの時オレ、お前のことまだなんとも思ってなかった」
(え……!?)
『ナントモオモッテナカッタ』
リトの放ったその一言に、唯の心が粉々に打ち砕かれた気がした。
(そ……そんなのって……今さら……)
唯の顔が青ざめ、体がプルプルと震え出す。
「待てっ! 最後まで聞いてくれっ!!」
魂が抜け出そうになっている唯の体を、リトは必死で繋ぎ止めた。
「でも……その時がオレにとって、お前との始まりだったんだ」
一度言葉を切って、キッと真剣な目をしてリトは唯を見つめた。
「最初は、さ。お前に間違ってあんな事言っちまった責任感からだったんだ。
けどオレ、それからお前のことずっと観察して、一緒に遊んだりして」
リトの頬が少しだけポッと赤く染まる。
「お前のこと、どんどん気になって来て……」
(え……!?)
次々と唯に投げかけられる衝撃的な言葉。
さっき自分を絶望させるような事を言ったかと思えば、今度は希望を持たせるようなことを言う。
あまりの変化の速さに着いて行けず、唯は呆然とリトを見つめていた。
「だから……オレ、今初めて本気でお前に告白するぜ」
真剣そのもののリトの眼差し。その眼差しそのままの鋭い言葉が唯に突き刺さった。
「唯。オレ、お前のことが好きだ」
「……!」
唯は少し口を開いたまま、押し黙ってしまった。

しばらくの後、ようやく唯が口を開いた。
「私を……ダマしてたのね」
「すまん……」
リトが目を落とす。すると唯が、パシ、と軽くリトの頬を手で叩いた。
「え……」
「これは私をダマしてくれたことへのオシオキ。そして、これが……」
チュッ。唯は音を立ててリトの唇に軽くキスをした。
「!」
「あなたの、本当の告白への返事」
「え……?」
唯はニッコリ笑って言った。
「私だって、最初はおかしいと思ってたのよ。いきなり、結城君が私のこと好きだ、なんてね。
でも結城君、私とずっと付き合ってくれてるし。
今にして思えば結城君、私を傷つけないように気を使ってくれたのよね」
「……」
「ま、でも私の体が目当てなら、一々そんなこと言う必要もないよね」
「え……?」
「だから、もし今度の告白が本当なら、許してあげる」
「唯……」
「誓ってくれる? 本当に……本当に私のこと、好きだって」
「ああ。誓う」
「本当に?」
「本当だ」
「絶対?」
「絶対」
唯はじっとリトの瞳を見つめ続けていた。
その曇り一つない瞳の中にはウソの一欠片も感じられない。
そんな唯にリトが声を掛けて来た。
「じゃ、お前はどうなんだ? オレのこと……」
「バカね……」
唯はバスタオルから手を離し、リトの背中に手を回した。
パサッ、と軽い音を立ててバスタオルがベッドサイドに落ちて行く。
「私はずっと……あなたの事好きだったわよ」
そう言って頬を赤らめた唯を見てリトはニッコリと笑い、両手でグッと唯を抱きしめる。
2人は、互いの中身を求め合うように、深い、深い口づけを交わした。

リトは唯の体を仰向けにベッドの上に寝転がらせ、自分がその上に覆い被さった。
そのまま唯の体を両手で抱きしめ、何もせずにただ胸と胸、腰と腰をくっつけ合う。
(あ……)
唯も呼応するようにリトの体をただひたすら抱きしめた。
何のテクニックも無い、ただの抱擁。
しかし、それは……
(私……結城君と裸で抱き合ってる……)
何物にも代え難い安心感を唯の体に与えていた。
ただ心と心で繋がり合って、相手を感じ合う。
リトの鼓動が唯に、唯の鼓動がリトに伝わり、言葉もなく互いの全てを伝え合う。
2人が一つになる瞬間。
(ああっ……結城君っ……)
唯はさらに力を込め、リトの体をギュッと抱きしめた。

しばらくの抱擁の後、リトは唯から手を離して体を少し引き離した。
まだ互いの体の感触が残っている2人の体。
リトは右手で唯の股間に軽く触れてみる。
「あ……」
唯の秘所は既にリトを受け入れる態勢を整えるかのように濡れ始めていた。
スス……
リトの指先がその表面を軽く撫で擦りながら少しずつ昇って行く。
「あ……あ……」
手のひらが唯の下腹部に軽く触れ、中指の腹が唯のクリトリスに触れる。
「んっ……」
そこでリトは指を小刻みに回して唯のクリトリスを軽くこね回した。
「は……ん……!」
唯の体がピクリと反応する。そして、リトが再び下へと手をズラしていく。
リトの中指が唯の割れ目をなぞるようにススス……と降りて行き、
膣内に探りを入れるように指先を少しクイと折り曲げる。
「んっ……!」
そこはさっきよりもまた湿度を帯びていた。
今度は中指の付け根の少し膨らんだ部分でクリトリスを弄りながら手をクイクイと小さく回した。
「ん……はあ……」
少しずつ、少しずつ唯の秘所から愛液が分泌され、湿度が増して行く。
その湿度に比例するように、リトの愛撫も徐々に力を増して行った。
だんだんと力を込めて、人差し指・中指・薬指、三本の指をクイ、クイと曲げて
唯の秘所を刺激する。
「んっ……!」
唯の背中がピクンと仰け反り、シーツとの間に隙間が出来る。
その隙間にリトがスル……と左手を滑り込ませ、唯の乳房を自分の方に引き寄せる。
口を乳首に寄せ、チュ……と優しくキスをする。
「ん……」
唯が目を閉じてさらに上半身を仰け反らせる。
リトはさらに秘所への愛撫を続けながら、チュ、チュと何度も乳首へのキスを繰り返す。
「ふ……んっ……」
他人に乳首を愛撫されるのが初めての経験だったためか、
まだ唯は乳首への刺激を快楽として受け入れることが出来ていないようだった。
そんな唯の感覚を包み込む薄皮を一枚ずつ剥がし、次第に研ぎ澄まして行くかのように、
丹念なリトの愛撫が続けられる。
左手を脊椎に沿ってススッとなぞりながら這わせ、
「ん……ん……ん……」
唇で乳首をついばんで、少しチュウっと吸い取っては離し、
「んっ!」
右手の指をクイクイ秘所の割れ目へと押し込んでは手のひらを小さく回してクリトリスを刺激する。
「ん……はぁ……!」
その3点攻めを続けられるうち、唯はだんだんと自分に与えられている愛撫を心地良く
感じられるようになってきていた。
(なに、これ……結城君……上手い……)
唯は少しとまどいを覚えていた。
リトの経験は自分とそう変わらないものだとばかり思っていたが、
この熟練の手付きは相当の経験を積んでいるかのように思えた。
(はっ!? まさか……)
そこでその可能性に思い至り、唯はいきなりリトを制止した。
「ちょ、ちょっと! 止めて!」

突然唯に制止されてしまったリトは、意味が分からずに唯の顔を見つめていた。
「ど、どうしたんだ?」
唯は訝しげな顔でリトを見つめていた。
「なんでこんなに上手いのよ! あなた、初めてじゃないの!?」
「え!? な、なんでって言われても……」
どもってしまったリトに唯が疑いの眼差しで問いかける。
「やっぱりあなた、籾岡さんと……」
「それは無いって!」
慌てて否定したリトだったが、実は唯の疑いは半分だけ当たっていた。
(まさか、女になってる時に籾岡に仕込まれた、なんて言えないしな……)
リトの頬を冷や汗がツツ……と流れ落ちて行く。
「さっき誓っただろ。オレ、そんなウソを言えるほど器用じゃないから」
「ふーん……」
まだ唯の疑いは晴れ切っていないようだったが、急にフッと力を抜いて告げた。
「ま、いいわ。もしウソついてたら、後で針千本飲ませるからね」
「ははは……」
なんとなく、針を五百本くらいは飲まされそうな気がしてしまうリトだった。

リトは、
「ここも大分濡れて来たみたいだな」
そう言いながら、唯の秘所をスス……と手で撫でた。
「んっ……」
唯の体がピクンと反応する。
「じゃ、そろそろいいか?」
そう言いながら、唯の目をじっと見つめた。
「ん……」
唯がコクリと小さく頷く。
リトが腰を少し上げ、ペニスの先端をリトの愛撫で十分に濡れた唯の秘所に押し当てる。
生まれて初めてペニスの先端の柔らかい感触を秘所で感じ、唯は不思議な感動を覚えていた。
(これが、結城君の……)
リトが腰をグッと押す。すると……
「んあっ」
ペニスにぬるりとした膣の熱い感触が伝わり、リトが思わず声を上げてしまう。
(これが、唯の中……)
リトはさらにペニスを唯の膣内へと押し進めて行った。
「んあ……はっ……!」
初めて自分の体内に愛する人の一部を受け入れる悦びに、唯が歓喜の声を上げる。
(ゆ、結城君が……私の中に……!)
今まで頑なに守り続けて来た、優等生としての、風紀委員としての自分。
その自分の殻が今リトのペニスによって打ち壊され、秘めていた本当の自分が曝け出されるような、
そんな感覚が唯の中に生まれていた。
『自分にとってそれより大事なことがある時は、私ならそっちを優先するな』
(私の一番大事なもの……)
それは、
(結城君……!)
唯の奥底に秘められ続けていたその想いがリトによって暴かれ、
自分の心の全てが塗り替えられる気がしてしまう。
(ああ……私……私……!)
トクン、トクン、トクン、トクン……
その転生の時を、唯は心臓を目一杯高鳴らせて怖れ、そして待ち望んでいた。

リトのペニスが唯の膣内をこじ開けながら進んで行くうち、リトはそれに気が付いた。
(これ、唯の……)
処女膜。純潔の証。それを今、リトは自らのペニスで押し破ろうとしていた。
「唯、いいか?」
リトが唯に最後の確認を促す。一瞬唯が押し黙ってしまう。
処女の喪失。
それは唯にとって、ただの肉体の変化にとどまらない大きな変化を意味していた。
(もし、これが破られてしまったら……)
もう、自分は優等生の風紀委員の古手川唯でも、男を知らない子供でも居られなくなり、
そして……もうリトへの愛に躊躇しない、大人の女性へと生まれ変わる。
あの、秋穂さんのような。
その変化を自ら望んだ唯は、決然とした意思を込めて、
「うん」
強く、リトに頷きかけた。
その返事を見てニッコリと笑ったリトは、
グッ!!
腰を押して、一気に唯のそれを貫いた。
「いっ……!」
一瞬、ビクンッと唯の体が跳ねた後、唯の全身を真っ二つに引き裂くような激烈な痛みが貫き、
「いいいいいいぃぃぃーっ!!!」
唯は部屋中に響き渡る叫び声を上げた。

「だ、大丈夫か!」
あまりの痛々しい叫び声に、リトが慌ててペニスを唯の膣から引き抜く。
「いいいっ……」
唯はまだ痛そうな表情を浮かべていたが、それを必死で堪えて肩で息をしながら、
「だ……大丈夫っ……!」
なんとか声を張り上げてそう返事した。
「大丈夫って、お前……」
「私が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なのっ!!」
顔中汗だくになりながら、気丈に言葉を返す唯。
「だから、つ、続けなさいよっ!」
強引に唯がリトを促す。
(まったく、こいつは……)
唯の強情さに少し呆れながらもフッと微笑みを浮かべ、リトは手を唯の痛い部分の真上に当てた。
「え!? な、何を……」
リトはその部分を優しく撫でて、暖かい刺激を送ってやる。
「あ……」
その暖かい手の感触が体の中にまで染み渡り、唯の痛みが少し和らいだ気がした。

そうしてしばらくリトが唯のお腹を撫でて唯の痛みが少し収まった頃、
リトはもう一度ゆっくりとペニスを唯に突き入れた。
「んっ……!」
また唯の膣の内奥にズキンと痛みが走り、唯が顔を歪める。
心配そうな顔で、リトが唯を見つめてつぶやく。
「今日はここまでにしとくか?」
その瞬間、唯が言葉を返す。
「イヤ」
「は?」
呆気に取られるリトを、唯は強い意志のこもった目で睨みつけていた。
「私の大切な初体験を、こんな中途半端で終わらせられるわけないじゃない!」
そのゆるぎない意思にリトは苦笑を浮かべて、最後まで付き合うことを決めた。
「分かったよ。でもま、無理はすんなよ」
そう言って、また唯の痛そうな場所を手で撫で擦ってやる。
「結城君……」

そして、ゆっくりとペニスを引き抜き、また挿入する。
そんなことを何度も繰り返しながら、どれくらい時間が経っただろうか。
だんだんと唯はリトのペニスの感触に慣れ始め、普通に会話する余裕を取り戻していた。
「もう、痛くないか?」
「うん……そんなには」
しかし、まだ感じるのは痛みだけで、快感を得られるまでにはなっていなかった。
(これは、あそこだけでイクのはまだ無理かな……)
そう判断したリトは、ペニスを唯の膣に挿入したまま他の場所を同時に攻めることにした。
ス……。
リトの手が唯の豊満な乳房に回され、唯の乳首を両手の親指と人差し指でこね回す。
「ん……」
ピクン。唯の体が反応する。
「それ、良い……もっとして」
唯がオネダリを始める。それに促されるままリトが唯の乳首を攻める。
「ん……」
次第に唯の声のトーンが高くなり、息が荒くなり始める。
「あぁ……結城君……」
そこでリトは唯に囁きかけた。
「そろそろいいんじゃないか?」
「えっ……?」
「オレのこと、リトって呼んでも」
カァ……。唯の顔が赤く染まる。
「リト……」
リトはニッコリと笑って乳首への攻めを続ける。
「あぁっ……リト……」
『リト』。
そう口に出すことで唯はリトへの愛おしさを感じ、
自分を攻めているリトの指によりいっそう感じ入ってしまう。
「リト……リト……」
唯の呼び声が止まらなくなってきた。
だんだんと勃起してきた乳首にリトがさらなる攻めをくわえる。
「あ……!」
さきほどの唇での愛撫で徐々に性感覚を研ぎ澄まされてきていた唯の乳首は、
指による攻めの快楽を少しずつ受け入れ始めていた。
「あ……あっ……!」
リトは少し身を引いて唯の乳首を口に含むと、赤ん坊のように乳首をチュウッと吸い上げる。
「んっ!」
唇で乳首を引っ張られる感触に唯が目を閉じてピクンと反応する。
それをしばらく続けたあと、リトはもう片方の乳首もチュウッと吸い上げてやる。
「ん……んあっ……!」
もう唯の乳首はすっかり勃起してしまっていた。
(や……やっぱり上手い……)
巧みなリトの攻めに唯の息使いが荒くなってくる。
唯の感じている具合を見て取ったリトが、勃起した唯の乳首をキッと爪先で摘む。
「あんっ!」
ピクンッ! 乳首に走ったチクリとした痛みに唯の体が小さく跳ねる。
そのままリトは、クリクリと手を小刻みに動かして乳首を刺激し続ける。
「あ……ああ……あっ!」
少しの痛みを伴ったリトの攻め。
唯はだんだんと上半身を仰け反らせ、その攻めに翻弄され始めていた。
今度は乳首をギュッと強く握ってグイッと引っ張る。
「んっ!!」
もう一度爪先で摘み、キッと爪先に力を入れる。
「あいっ!?」
かと思うと唇でくわえてちゅうっ……と吸い上げながら、
舌先でペロリ、ペロリとねっとりと舐めて優しく愛撫し続ける。
「ん……んん……んはぁ……あっ」
感覚を研ぎ澄まされてからくわえられる優しく蕩けるようなリトの攻めに、
唯はすっかり酔いしれて頬を紅潮させて感じ入っていた。
その時、リトがつぶやいた。
「まだ痛い?」
「え……」
先程から感じていた膣の痛み。
それが、リトの乳首への攻めを受け続けている内、その快感と入り交じって、
さほど気にならなくなって来ていた。
「もう、あんまり痛くない……」
素直に唯が答える。
「そっか」
リトがニッコリ笑う。そして、
「じゃ、そろそろ動いてもいいかな」
そう言ってリトはさっきから挿入しっぱなしだったペニスをそろそろと動かしてみた。
「あっ……あ!?」
唯は、自分の感覚に驚いてしまっていた。
さっきから感じていたはずの膣内の痛み。
それが、リトに乳首を攻め続けられた事により、
まるで魔法にでもかけられたかの様に快感へと変えられてしまっていたのだ。
(こ、これって……)
唯は自分自身の感覚が信じられず、一瞬呆然としてしまっていた。
それを見て取ったリトがさらに腰の抽送を続ける。
腰をグイッと引き……
「んんっ……」
ズン! と突き入れる。
「あんっ!」
引いて……
「んあっ」
突く。
「あひいっ!」
その間にも乳首への愛撫は続け、絶え間なく唯の体内へと快楽を送り込む。
「ああぁ……」
それをしばらく続けるうち、唯はとうとうリトにペニスを突き入れられることを
心地良く感じられるようになってきていた。
「いいっ……いいのっ……リトっ……」
そう言われて、さらにリトは腰の動きを早くする。
パン! パン! パン!
リトの腰が唯の太ももに当たる音が唯の部屋に響き渡る。
「あっ……あぁっ……あんっ……!」
2つの乳首と秘所。3点から受ける快楽に唯は酔いしれ、嬌声を上げ始めていた。
「すごい……すごいっ……いいっ……ああっ……」
唯の顔が快楽で蕩け、背中は弓なりにグイッと仰け反り、
唇の端から涎がタラタラと流れ落ちていた。
「あぁっ……リトっ……リトっ……いいっ……あはっ……」
唯の手は快楽を堪えるためにギュッとベッドのシーツを握りしめ、
足はリトにさらなる挿入をせがむようにガバッとMの字に開き切っていた。
「ああっ……もっと……もっと……あんっ……あはぁっ……」
パン! パン! パン!
リトの腰が唯の太ももに叩き付けられ、ペニスが唯の興奮そのままに熱く唯の欲望そのままに
ヌチョリとぬめりを帯びた膣で押し包まれてぬるっと締め付けられる。
それと同時に睾丸が唯の白く張りのある瑞々しい太ももに何度も当たって柔らかく圧迫され、
リトの射精への欲求を徐々に高めて行く。
「くっ……」
赤く染まって快楽で歪んだリトの顔。
唯の声がさらに高くなる。
「んっ……ああっ……リトっ……リトっ……!」
唯の手がリトの背中をガッと掴み、自らの限界が間近であることをリトに伝える。
リト自身ももう既に限界が近付いていた。
「いっ……いくぞっ……唯っ……」
「来て……来てっ……リトっ……!」
そして、リトが大きく腰を引き、パンッ! と大きな音を立てて最後の一突きを唯に叩き込んだ。
「うっ!!」
それと同時に、リトのペニスから唯の膣内にとめどない精液が放出される。
ドピュ! ドピュ! ドピュ!
リトの熱い迸りを体の中心部で受け止めた唯は、
(出てる……私の中に出てる……!)
それに感動して、
「ああっ!」
声を上げて体をブルブルと震わせる。
ビクン! ビクン!
唯の膣内で、リトのペニスが脈打ちながら精を放って行く。
その快楽を示すように、唯の真上でリトは目を閉じて陶酔の表情を浮かべていた。

しばらくの後、射精が止まると、リトは唯の膣からスッとペニスを引き抜いた。
トロリ……と赤と白の混じった液体が膣から垂れ落ちて来る。
「ふぅ……」
リトは深いため息をついてから、ニッコリ笑って唯に囁きかけた。
「良かったか? 唯」
ところが、唯の顔はちっとも笑っていなかった。
「え?」
不安な顔をしてしまうリトに、訝しげな顔をした唯が告げた。
「私、中に出して良いって言ったっけ?」
「えっ!?」
唯の言葉にリトは動揺してしまう。
「さ、さっき、いいかって聞いたら……」
唯がリトをキッと睨んで言い返す。
「あれは、中に入れてもいいって意味! 出してもいいって意味じゃないわよ!」
「それに、『来てっ』とか言ってた様な……」
「あ、あれはその……ちょっと、夢中になっちゃってたから……」
ポッと頬を赤く染めてしまう唯。
「と、とにかく! こういうのは男の子がきちんと我慢しなくちゃダメなの!」
「えーっ!?」
リトの顔が青ざめて行く。
「ま、まさか、お前、その……」
「まったく! 今日が危ない日だったらどうする気だったのよ!」
「え?」
唯はようやくニッコリ笑って告げた。
「今度から、中に出す時はちゃんと私に聞いてからにするの。いい?」
「じゃ、今日は……」
「多分、大丈夫だと思うけど……」
フーッとリトは胸をなで下ろした。
「でも……もし出来ちゃってたら、責任取ってくれる?」
「えっ!?」
じとっと上目遣いでリトを見つめる唯。
一瞬、部屋がシーンと静まり返る。少し躊躇しながらリトがもごもごと声を出す。
「そ、その時はまあ……仕方ないけどさ……」
「きちんと責任取るのね?」
「ああ……」
その返事を聞いて、唯がニッコリと微笑んだ。
「よろしい。じゃ、後始末するわよ」
「えぇっ!? もうちょっと、余韻とか、そういうのを……」
「だめ! こんなに血が付いちゃって、すぐに洗わないと落ちなくなっちゃうじゃない!」
唯はベッドから下りてテキパキとリトに指令を出す。
「ほら! お風呂場にシーツを運ぶわよ!」
(なんでこんなに急がせるんだ?)
やたらと急かせる唯に疑問を感じつつも、リトは渋々従ってシーツを運び出した。実は唯は、
(は、はやく洗っちゃわないと、お兄ちゃんにバレちゃうじゃない……)
遊の『男連れ込んでも構わないぜ』という発言通りのことをしてしまった自分が、
恥ずかしくてたまらなかった。

2人で浴室でシーツを洗って洗濯機に放り込むと、
「ほら! 私シャワー浴びるから出てって!」
「お、おい!」
唯はリトの背中をグイッと押して風呂場から追い出して扉をピシャリと閉めた。
「ふぅ……」
秘所を少し片手で広げてシャワーを押し当てると、
中からまだ残っていた血の混じったリトの精液が染み出して来る。
(私、本当に、結城君と……しちゃったんだ……)
ようやくリトとの行為を終えた実感が湧いて来て、唯の顔が赤く染まってしまう。
秘所を洗い終えると全身に熱いシャワーを浴び、キュッとハンドルを回してシャワーを止めた。
「ふぅ……」
ようやく一息ついて、自分の下腹部にそっと手を当ててみる。
体の中に残る、まだモノがはさまっているような違和感。
(ここに、結城君のが入ってたのよね……)
そして、リトの生命の滴が自分の中に入っていた……。
唯の胸に、ほっとするような、暖かいような、不思議な感慨が満ちていた。
(もし、本当に子供が出来ちゃってたら……私、結城君と結婚するのかな……)
目を閉じると、その光景が頭の中に浮かんでくる。

『ただいま、唯』
『おかえり、パパ。ほら、パパにご挨拶しなさい』
『まうー』
『ばぶー』
『ははは。お前達、今日も元気にしてたか?』
『うん。パパに良く似て、元気な子に育ってるわよ』
『おいおい。元気なのはお前の方だろ?』
『まあ』
アハハハ……。
玄関に2人の親と2人の子供の笑い声が響き合う。

(もう、夢じゃないのよね……)
もうそれはただの妄想ではなく、そう遠くないうちにきっと実現するはずの未来なんだ。
そう感じた唯は満足げにクスッと笑って自分のお腹をゆっくりと手でさすりながら、
目を閉じて、今まで自分を支え、育ててくれた人達に感謝の祈りを捧げた。
(ありがとう……リコさん、秋穂さん、それに、お兄ちゃん……)
急に風呂場の外からリトが声をかけてきた。
「おーい唯、オレも一緒にシャワー浴びていいかー?」
(結城君ったら……)
もうこんな仲になったんだし。許してもいいかな? 一瞬そう思った唯だったが、
『男をうまく操縦するのが女のテクニックってものよ』
秋穂の言葉を思い出して、クスッと笑って声を上げた。
「ダメ! もうちょっとそこで待ってなさい!」
そしてもう一度ゆっくりシャワーを浴びて体を暖めると、しっかり衣服を身に着けて風呂場を出た。

リトがシャワーを浴び終えると2人は一緒に新しいシーツをベッドに敷き直し、
もう一度ベッドの端に座り込んだ。
リトが爽やかな声で唯に話し掛けた。
「ふーっ。やっちゃったな、とうとう」
「あ……」
そう言われてまた意識してしまい、唯の顔が赤くなってしまう。
そのままキッとリトを睨みつけた唯が告げる。
「こ、こんな事したからって、学校でハレンチな事しちゃダメだからね!
今まで通りにするんだから! いい!?」
「わ、分かってるよ」
「それと、この事は絶対他の人には秘密だからね! 特に籾岡さんには!」
「あ、ああ」
リトは唯に返事をしながら、
(こいつの事だから、きっとバレバレな行動しちゃうんだろうなぁ……)
明日いかにも起こりそうなその光景を思い浮かべて苦笑していた。
その曖昧な笑みを見た唯がさらにリトを睨みつける。
「なに変な笑い方してるのよ! 大体あなたね、私を……」
また始まりそうな唯の説教を遮ってリトが言葉を掛ける。
「それはいいんだけどさ、一つ大事な話があるんだ」
リトの真剣な表情に、唯が少し驚いたような顔を浮かべる。
「大事な話?」
(さて……)
リトは深呼吸して、頭の中でこれから始まる大仕事の計画を練っていた。
(どうやったら、唯に首を締められずにララと春菜ちゃんと籾岡の事を話せるかなぁ……)
(終)