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晴れ渡る空。白い雲。
今日の気分にピッタリの晴れやかな天気だ。
オレ、結城リトの通う才南高校は今日から新年度を迎える。
今度はどんな人と同じクラスになるんだろう?新しいクラスメイトを考えただけで心が踊る。
でも、クラス替えがあっても離れたくない人もいる。例えば――
「おはよう、結城くん」
「さ、西連寺!おはよう!」
背後から突然声をかけられ思わず裏返ってしまう。
これが例えば付き合いの長い猿山とかなら、ここまで同様することもなかったはずだ。
しかし、今オレが向かい合っているのはサルみたいな顔をした親友でもなければ、男子ですらない。
中学時代からずっと憧れてきた女の子――西連寺春菜ちゃんだ。
そう、オレが離れたくない相手というのは何を隠そう彼女のこと。
去年一年間で結構話すことは多くなったと思う。多分。
今みたいに声をかけられるくらいには進展したし。
だから今年こそはなんとしても春菜ちゃんに自分の想いを伝えるんだ!
そのためにはまた彼女と同じクラスにならないと。うちはそんなに生徒数の多い学校じゃないから大丈夫だとは思うけど。
「どうしたの?結城くん。ぼーっとして」
「え?あぁいや、なんでもないよ!」
しまった、思わず考えにふけってしまった。
「……?くす、変な結城くん」
不思議そうに首を傾げたあと、口元をゆるめて笑う春菜ちゃん。
うう、いつも可愛いけど笑うとさらに可愛いなぁ。
と、あんまりのんびりもしていられないんだっけ。
今日はクラス発表もあるから遅れられないし。
少しだけ歩くペースを速めつつ、春菜ちゃんとの会話に花を咲かせながら学校へと向かう。
いつも「一人で」歩く通学路は春菜ちゃんのおかげでとても楽しげなものになった。
「おはー、結城に春菜!」
「またみんな同じクラスだねー」
教室に入るなり話しかけてきたのは籾岡里紗と沢田未央・通称リサミオコンビ。
二人は中学時代からの親友で、春菜ちゃんとは高校に入ってから知り合ったらしいけど、いつも3人でいるのが当然というくらい仲がいい。
春菜ちゃんとリサミオじゃ結構タイプが違うと思うんだけど、それを言ったらオレと猿山も全然違うか。
「結城ぃ~、今日も二人仲良く登校なんてアツアツだね~」
「な、何言ってんだよ!オレはいつも一人で来てるっての」
「うっそー?だっていつも結城と……誰だっけ?」
「春菜じゃないよね」
「だから、お前らの勘違いだろ」
まったく……オレにそんな毎日いっしょに登校してくれるような女の子がいるわけないのに。
今日だって春菜ちゃんと偶然会ったってだけで、毎日こんないい思いができるわけじゃない。
でも、新学期の朝からラッキーなことが起こったってことは、なんかこれからいいことありそうな気がする。

リサミオ達との会話もそこそこに、黒板に張り出された席に座る。
オレの席は窓際から二番目、一番うしろの席だ。
春菜ちゃんの席は……大分遠い。残念。
いっしょのクラスになれただけでもラッキーか。
幸い右隣には見知った顔の籾岡がいる。
籾岡は顔が広いし性格も明るい。1年生のときもクラスの中心人物だった。
もうひとつ向こうの席の人は去年は別のクラスだったはずだけど、もう親しげに昨日のテレビの話なんかをしている。
そんな社交能力の高さに半分感心半分呆れながら、反対方向の席――窓際の一番うしろの席を振り返る。
その席の主はまだ来ていないらしく、誰も座っていない。
もうすぐ先生が来る時間なのに、新学期早々遅刻してるんだろうか。
席表を見たときに誰の席か確認すればよかったんだけど、人が多くて自分の席を見つけるのが精一杯だった。
すぐにわかることだし、そこまで興味があったわけじゃないからいいんだけど。
そうこうしているうちに、去年から引き続き担任の骨川先生が教室にやってきた。
結局隣の席の人は間に合わなかったらしい。
先生は新しいクラスの面々に手短に自己紹介を済ませ、生徒達の出席を取ろうとする。
と、そこで思い出したように手をぽんと叩いた。
「そうじゃ、忘れとった。実は新学期の始まる今日からこの学校に転校生が入ることになったんじゃが」
教室がざわつく。
転校生?
「その配属がこのクラスになったんじゃ」
……いや、そんな大事なこと忘れるなよ。
おそらくクラスの大半が同じようなことを思ったのだろう、苦笑混じりの表情を浮かべている。
先生はそんなオレ達にはお構いなしに、廊下へとつながるドアに声をかけた。
「キミ、入りなさい」
「はーい」
凛とした響き。
どこか幼さを感じさせるような声音を携え、彼女はドアを開けた。
転校生って女の子なのか。
のんびりとそんなことを考えていたオレの頭は、入ってきた少女を見た途端に思考を停止させた。
スラッとした細身でありながら、要所においては女性としての魅力をふんだんに感じさせるふくらみを持った体つき。
腰下まで伸びる不思議な色をしたロングヘアー。
形のよい眉毛に宝石のように輝きを放つ瞳。
白い頬にはうっすらと赤みがさし、期待に満ちた微笑みを浮かべている。
物凄い美少女のことをよく「人形のようだ」なんて言うけど、黒板の前に立つ彼女はどう見ても人形のようには見えない。
とても生気に満ち溢れていて、見るものの心を照らしてくれるような光を放っていた。
言葉を失っているのはどうやらオレだけじゃなく、男女関係なくクラス中が彼女に目を奪われていた。
「それじゃ自己紹介を」
「はいっ。えーと、今日からみんなといっしょに勉強することになった宝条ララです。よろしくお願いしますっ」
そう言って彼女――宝条はぺこりと腰を折ってお辞儀した。
有り得ないくらい美人なのに、まったく気取ったところのないあいさつとその仕草にはやくも男子の何人かは撃沈していた。
そういうオレもかなり危なかったけど。
「宝条くんは去年まで海外にいたそうじゃが、両親の都合で今年から日本で暮らすらしい。わからないことも多いじゃろうから、みんな助けてやるんじゃぞ」
海外か……もしかしてハーフなんだろうか?
顔立ちは日本人ぽいけど、エメラルドグリーンの瞳や薄いピンク色の髪は見慣れないし、ララという名前の響きも独特だ。
外国人にピンク色の髪の人がいるというのは初耳だけど。
すると話が途切れたところで誰かが突然手を挙げた。
「はいっ、質問!ララちゃんは彼氏いるんですか?」
ガクッ
いきなりそれかよ。しかも会ったばかりなのにララちゃんって。
そんな恥知らずなことを言う輩はどこのどいつだ、と声した方に目をやると、短く切った髪をツンツンに立たせたサルみたいな顔をした男の姿があった。
猿山だった。友達の縁を切りたくなった。
「あのねぇ猿山、たとえララちぃに彼氏がいなくたって、アンタみたいなの相手にするわけないでしょうが!」
隣で籾岡が汚いものを見るような目を猿山に向けながら言った。
ララちぃ?それって宝条のこと?あだ名付けるの早すぎじゃないか?
猿山と籾岡がぎゃあぎゃあ言い始めたところで黙っていた宝条が口を開く。
「えと、カレシ?はいないけど、好きな人なら……」
みんなが見守るなか、そこまで言ったところで口を閉ざす。
そしておもむろに視線をさ迷わせ、あるところでその動きを止める。
なぜか目が合う。
……え?
「と、とにかく、よろしくねっ」
もう一度大きくお辞儀すると、彼女は先生に指示され席に向かって歩きだした。
と言っても、この教室に空いている席は一つしかない。
窓際の一番うしろ……つまり、オレの左隣の席。
ああ、もしかして目が合ったと思ったのは自分の席を確認していただけなんだろうか。
というかそうとしか考えられない。なのに、自分に視線を向けられたと勘違いするなんて、恥ずかしすぎる。
そんなことを考えている間にも彼女は歩みを進める。
彼女が机と机の間を通り過ぎる度、その席に座っている人が心を奪われたように彼女を振り返る。
こんな光景って本当にあるもんなんだな、なんて心の中で苦笑しているうちに、宝条は自分の席までやって来ていた。
そして今度は本当に目が合う。
「え、と……」
オレが何かを言うよりも先に彼女の口が開いた。
「よろしくね♪」
花が咲いたような笑顔。
あまりの眩しさにオレはしばらくまともに声を出すことも出来なかった。
「ん?」
微笑んだまま不思議そうに首を傾げる彼女の仕草でやっと我に帰る。
「あっ、と、オレは結城リト。よろしくな、宝条。わからないことがあったら何でも言ってくれよ」
「……うん!」
ふと、オレの言葉を聞いた宝条の顔が一瞬だけ曇ったような気がした。
何かまずいこと言ったんだろうか?
でもすぐに元のニコニコした笑顔になったし、多分気のせいなんだろう。
「なぁに、結城ったら。アンタまで鼻の下伸ばしちゃって。まあララちぃや私みたいな美人の隣になったら当然か」
「伸ばしてない。あとさりげなく自分を混ぜるな」
「ララちぃ、私は籾岡里紗っていうの!リサって呼んでね~」
サラッと無視された。
「うん、よろしくね」
初めて会ったばかりなのに馴れ馴れしすぎるんじゃないかと思ったけど、宝条も気にしてないみたいだしまあいいか。
それに確かに籾岡の言う通り、両隣がどちらも学年トップクラスの美少女というのは悪い気はしない。
少なくとも恥知らずな元親友や嫌みなナルシストの隣になるよりはずっとマシだ。
今朝の予感――何か良いことありそうな気がする――は、はやくも当たったかも知れない。