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じ~…
「…むう~…」
ララがテレビの画面を見ながら何やら唸っている。
「何してんの?ララさん」
洗濯物を取り込んだ美柑はララに声をかけるが、ララは美柑の呼びかけに気付いていないようである。
「ラーラさん」
「ふえ?」
「ようやく気付いたね。何?料理番組?」
美柑の声にようやく気付いたララが美柑の方へと振り向く。
ララが見ていたのは料理番組で、シェフがおいしそうな料理を作っていた。
「あ~…うん…」
ララにしては少し歯切れの悪い返事をし、今度はララは美柑の方をじっと見つめる。
じ~…
洗濯物を畳み始めた美柑はララの視線に気付いた。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「…うぅん…」
「…?」
「はあ…」
ララはため息を一つついてリビングから姿を消した。
「どうしたんだろう?ララさん…」
美柑は少し心配になって、その夜リトにララのことを相談した。
「ララがなんか元気ないって?」
「そう。リトって最近ララさんの相手してるの?」
美柑はどうやらリトがララの相手を疎かにしていると思っているらしい。
正直なところ今一番体を重ねた相手はララで、彼女はいつも自分に甘えるだけ甘えてぐっすり眠っている。
それなのに美柑にそんなことを思われてはリトも心外である。
「相手してないわけないだろ。でもちょっと心配だな。あいつ思い詰めると何するかわかんないところがあるし…」
「まあ、気にかけといてね。じゃ、おやすみ」
美柑は部屋に戻るとベッドに体を投げ出してぼんやりと暗い天井を見つめた。
そういえばなんか私の方を見てため息ついてたような…。何だったんだろう…?
美柑はララのことを気にかけながらもそのうち睡魔に襲われ、深い眠りに落ちていった。

翌朝、美柑が朝食を用意していたときのことである。
いつもより早い時間なのにララがキッチンにやってきた。
「あれ?ララさん?まだ朝ご飯できてないよ」
「うん、わかってる」
「…?」
ララは何をするわけでもなく、美柑の方をじっと見つめている。
美柑はララに構わずてきぱきと朝食を用意していく。
その様子をララは食い入るように見つめていた。
そして朝食の時間、いつものように美柑、リト、セリーヌ、デビルーク三姉妹の六人が食卓を囲んだ。
味噌汁に口をつけたリトがふと口を開いた。
「お?美柑、味噌汁の出汁が今日はいつもと違うな」
「まあね。いつもとちょっと趣向を変えてみたんだ。いつもはかつおベースだけど、今日は昆布ベースに変えてみたの。だからいつもより甘口な感じかもね」
「でもうまいよ。これからもたまにこの出汁で作ってくれると嬉しいな」
リトがそう言うと美柑は得意げに笑って答えた。
「はいはい。そのうちね?」
「まうっ、まう~」
セリーヌは新しい出汁の味噌汁が気に入ったらしく、もう一杯目を食べつくして二杯目を美柑にねだっている。
「もう飲んじゃったの?セリーヌ。ちょっと待ってね」
キッチンのコンロに置かれた味噌汁の鍋に向かう美柑の背を見ていたリトはちらっとララの方へ視線を向けた。
ララはというと味噌汁を啜りながら何やら考え込んでいるような顔をしている。
いつもの彼女とは明らかに様子が違う。
「……」
ララは味噌汁を少し口に含むとよく噛むようにして顔をしかめるような仕草を見せ、それから味噌汁を喉の奥へ流し込んだ。
なんだかソムリエがワインの味見をしているような風にも見える。
そして朝食後、美柑が食器の片付けをしているところにララがやってきて突如こう言った。
「…美柑ってさ、リトのお嫁さんみたいだよね」

キッチンの中を沈黙が満たし、ララと美柑はお互いの目を見つめ合ったまま時が止まった。
そして…
「え?えっ!?な…何言ってんのよララさん!?」
美柑がひっくり返った声で沈黙を破ったが、ララは落ち着いたトーンのまま続きを口にする。
「だってさ、リトにご飯作ってあげたり、家こともやって、私はリトの恋人だけど、実質のお嫁さんはどう見ても美柑だもん」
ララはそこまで言ってはあ~と深いため息をついた。
それを見た美柑はララが落ち込んでいた理由がなんとなく見えてきていた。
「…私はリトが喜ぶ料理も作れないし、リトは美柑のご飯がやっぱり一番おいしいみたいだし…」
要するにララは自分がリトのお嫁さんとしてのスキルを備えていないのではないかと不安になっていたのである。
今朝味噌汁を妙な飲み方をしていたのも彼女なりに美柑の味を研究するためだったのだ。

「ねえ美柑…。私も美柑みたいになれるかなあ?」
子犬のような目でララは美柑を見つめるが、美柑はそうされても困るだけである。
「んー…、そう言われてもなあ…。じゃあさ、ララさん。リトが喜んでくれるように練習する?」
美柑はララの想いに負けてそう言った。
「私が教えるからさ」
美柑の言葉を聞いてララはぱっと明るい顔をした。
「本当?ありがとう、美柑!」
ララは飛び跳ねて喜び、その勢いでぎゅっと美柑を抱きしめる。
ララの胸に顔を埋める形になり、美柑はララから逃れようとする。
「ちょ…ララさんってば、苦しいよぉ…」
とは言えララの太陽のような笑顔に美柑のまんざらでもない気分だったので、少し彼女の好きなようにさせておくことにした。
そして夕飯前、ララはエプロンをつけて美柑とともにキッチンへ向かった。
「今日のメニューはリトの好きなから揚げと、ご飯、味噌汁、サラダね」
「…うん」
ララは美柑の教えてもらいながら作ることに緊張しているらしく、少し声も硬くなっている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって。じゃ、始めようか」
ララは美柑に教えてもらいながら鶏肉の下味をつけていく。
一口大に切った鶏肉に粗引きにんにくと塩コショウ、少量の生姜で臭みをとって香りづけをし、衣をつけて油に入れていく。
決して手際が良いとは言えなかったがララの一生懸命さが見ている美柑にも伝わってくる。
真剣なんだな、ララさん…
美柑が鶏肉を揚げているララをじっと見つめていると、いきなり鍋の油が飛び跳ねてララに襲いかかった。
「あつっ!!」
「大丈夫!?ララさん…」
「あ、うん。平気だよ…」
水道の水で油のかかった手を冷やしながらララは笑った。
「代わろうか?」
美柑の申し出をララは断る。
「それはだめ。私がやらないと意味がないもん。いきなり美柑みたいにうまくはできないけど、それでも私が最後までやりたいんだ」
ララは手を冷やすともう一度鍋に向かう。
それを見た美柑は昼間ララが言った言葉を思い出していた。
私がリトのお嫁さんみたい…か…
実際のところ今の自分とララがしていることは、小姑が兄の嫁に兄の好む料理を教えている、ということである。
…リトってば本当にいいお嫁さんをもらったよなあ…
一生懸命鍋に向かうララをぼんやりと見つめながら美柑は心の中でそうつぶやいた。
ララだけではない。リトには他にも相手がいる。
でもその誰もがリトのことを任せられる女性だ。
美柑はもう納得したことのはずなのに、少しだけ寂しい気持ちになった。
私とリトは兄妹。一番近くにいるのに決して結ばれることはない…
美柑がぼーっとしていると、鍋の油がバチバチとけたたましい音を上げ始めた。
その音に美柑はハッと我に返り、ララに慌てて指示を出す。
「ララさん!もう肉を鍋から上げて!」
「えっ?う、うんっ!!」
ララが鍋からから揚げを上げると、衣は少し焦げてしまっていた。

そして夕食、リトは食卓に並ぶ少し焦げたから揚げを見て言った。
「珍しいな。美柑がから揚げに失敗するなんて」
リトはララが美柑と一緒にいた時間ずっと自室にいたため、このから揚げを作ったのがララだとは知らなかった。
「このから揚げね、ララさんが作ったんだよ」
美柑がそう言うとリトは驚いて目を丸くする。
「え?本当か?」
ララはリトの言葉に驚きだけではなく、警戒の意味も含まれていることを察知したが、笑顔を崩さずに口を開いた。
「大丈夫だよぉ。美柑に教えてもらって作ったんだもん」
「そうか?じゃあ…いただきます」
じっとララが見つめる前でリトはから揚げを口にする。
「…うまい…」
リトの口からこぼれるその言葉にララはこの上ないくらいまぶしい笑顔を見せる。
「やったあ!」
「本当にびっくりしたよ。まさかララの手からうまい料理が生まれるなんて…」
照れ隠しなのか冗談なのかリトがそんな言葉を口にすると、ララは少し唇を尖らせた。
「もう。私だってやればできるんだもん。失礼しちゃうなあ」
そう言いながらララは自分の箸でから揚げを一つ取り、リトに向かって差し出す。
「はい。リト、あーんして?」
少し照れくさかったが、リトはララが一生懸命このから揚げを作ってくれたのだと思うと断るのは悪い気がした。
ララに言われたとおり口を大きく開ける。
リトがララの箸に掴まれたから揚げを口に入れると、ララはほっこりとした笑顔になった。

次の日、美柑がいつも通り朝食を作りにキッチンに下りると、そこにはララがいた。
「おはようララさん。何してるの?」
「あ、美柑。今日はリトと二人でピクニックに行くからお弁当作ってるんだ」
ララは昨晩の料理でコツを掴んだらしく、昨晩より綺麗に揚がったから揚げをはじめおにぎりや野菜の煮物なども作っていた。
「ちょっと見た目は悪いけど、味は大丈夫だよ」
「へえ…。ちょっともらっていい?」
ララが味に自信があるようなので美柑もララの料理をつまんでみたくなる。
「いいよ。美柑の味にはまだ敵わないかもしれないけど」
確かに見た目はそこまで綺麗ではないのだが、味は確かだった。
美柑はララの上達ぶりに目を見張る。
「…すごいね、ララさん」
「えへへ~♪ありがとう」
今のララにはトンデモ料理を作っていたころの面影などどこにもなかった。

リトとララは町のはずれにある小高い丘のある緑地に来ていた。
丘の上の大きな木の陰に座って弁当を食べるリト、大きな麦わら帽子をかぶってリトに寄り添うララ、そして…
なんでこそこそとついてきちゃったんだろ…
二人の様子を影から観察しているのは美柑だった。
美柑は二人に見つからないよう二人が腰を下ろしている位置と木を挟んで反対側に回り込む。
そうすると二人の会話が聞こえてきた。
「ララ、料理が本当にうまくなったよな」
「…美柑のおかげだよ。私思ってたんだけどさ、美柑ってリトのお嫁さんみたいだよね」
急にララがそんな話をし始めたのでリトも盗み聞きしている美柑も慌てだす。
「な…なに言ってんだよララ…。美柑は妹だぞ?」
「でも美柑はご飯作ったり家のことをしたりして、お嫁さんみたいじゃない?それに…」
ララが少し溜めを作ってから続けた。
「きっとリトのこと、誰よりも大切に思ってる」
リトはララの口から出てきた言葉に返す言葉を失う。
「だから美柑の料理をリトがとってもおいしそうに食べるんだろうなって、私ちょっと美柑が羨ましくなってさ。だから美柑に料理教えてって頼んだの」
「ララ…」
ララさん…そんな風に思ってたんだ…
「そうだな。美柑に大切にされてるの、すごく感じるよ」
「うん。だからリトも美柑のことをずっと大切にしてね」
ララはそう言ってリトに寄りかかる。
リトがララの肩を抱いていると、ララの頭から麦わら帽子が落ちた。
「ん?ララ?」
リトが見るとララは目を閉じて寝息を立てている。
どうやら早起きして弁当を作った疲れが出たようだ。
「やれやれ…」
リトはララの頭を膝枕してやり、そのままララが起きるまでこのままにしておくことにした。
美柑はそっとこの場を後にすることにした。

私はリトの妹、リトと結ばれることはないかもしれない
でも私はリトの一番近くにいる
私とリトの距離だからこそ私はリトの優しさをずっと感じて生きてきた
これからもそれは変わらないだろう

その日の夜、美柑はリトを呼び出した。
「ねえリト。私とも今度ピクニックに行こうよ」
「うん?どうしたんだ?いきなり…」
リトは美柑からそんな申し出を受けるとは思っていなかったため、少し驚いている。
「なによ?ララさんとは行けて私とは行けないわけ?」
「いや…そうじゃないけど…」
「よし、じゃあ当日のお弁当は私のスペシャルメニューにするから、楽しみにしててね♪おやすみ、リト」
上機嫌で自室に戻っていく美柑をリトは無言で見送った。
「…なんなんだ、全く…」
そう言いながらリトも眠気を感じ、自室に戻った。
月光が夜空を照らし、兄妹はそれぞれの部屋から同じ空を見つめる。
月は太陽の光を反射して光っている。
リトと美柑の関係もそうかもしれない。
ただ、太陽と月の関係と違うのは、お互いがお互いの太陽であり、かつ月であるということ。
そんな考えが二人の頭をよぎったわけではないが、二人は優しい月光が照らす夜空を見ながらなんとなく優しい笑みを浮かべた。