――――――
保健室――。
「それで、結局下着買いに行く羽目になっちゃった訳?」
「ぇぇ……まぁ…」
「だから言ったじゃないの、せめてショーツ位は穿いて行きなさいって。結城君が変に拘ったりなんかするから――」
試験管を軽く振りながら、御門先生が呆れた様な声で言う。
「いや、だって…、オレにだって男としてのプライドってモンがありますから、
そんな女の下着を付けるなんてマネ…」
「あなたに今更そんなプライドなんて物が有ったんですか?結城リト」
「………それどーゆー意味だよ?ヤミ」
窓際で小難しそうな分厚い本を読みながら失礼なツッコミを入れる金色の闇を軽く睨むリト。
「大体お前何でこんな所に居るんだよ?いやそもそも何でオレが『結城リト』だって事知ってるんだよ?」
「居たり知ってたりしちゃ悪いんですか?」
本から目を離さずに憎まれ口を返すヤミ。
「なんかね、何時も居る図書室が今日は大掃除をやってて入れないらしくて。
それで「ここが一番静かそうだから」って言うから。
結城君の事は、私がその時うっかり口を滑らせちゃって…」
御門先生が笑いながら代わりに答える。
「あ、そういえばHRでも言ってたっけ?今日一日図書室が使えないって」
その事を思い出し、リトはヤミがここで本を読んでいる理由を納得した。
………だが――。
「………………先生」
「ん?」
「オレの事はワザとでしょ?」
「や~ね~♪何の事~?」
手をひらひらさせて、内側に邪気がたっぷり含まれてそうな無邪気な笑顔で答える御門先生。
(あ、こりゃ絶対ワザとだな…)
リトは確信した。
そりゃあもう、その笑顔を見ただけで疲労感が津波の如く押し寄せる程に…。
「大丈夫よ、ヤミちゃんもこの事は内緒にしといてくれるって約束してくれたから♪」
「そもそもこんな非常識な話、話した所で誰も信じたりなんかしませんよ」
「……」
「そう言うお前もララと同じく十分非常識なんだけどな」とは思ってても口には出さない。
出したらその場で即、人生THE ENDなのは目に見えていたからだ。
「しかし…」
一言呟き、ヤミは視線をリトの方へ――。
「?」
「……」
不思議そうな顔をするリトをよそに、ボーっと今のリトの姿をまじまじ見つめるヤミ。
「どーした?オレの顔に何か付いてるか?」
「いえ、別に…」
視線を本に戻すヤミ。
だが、頬がほんのり染まってる様に見えるのは気のせいだろうか?
(ドクターから話は聞いてましたけど…、本当に違和感が全く感じられませんね…。
外見だけならプリンセスにも引けを取っていないのでは…?いろんな意味で)
なんか色々と――、聞く人によってはちょっと妖しい事を考えてるヤミ。
「結城リト……、生まれてくる性別を間違えたのでは…?」(ボソッ…)
「ん?何か言ったか?」
「……いえ、何でも…。ただ、あなたがその身体を使って……その…………えっちぃ事をやってないか気になっただけで…///」
「はっ!?なな、何言ってるんだよお前は!?///」
「だってあなたの事だから、今の身体なのをイイ事にあんな事やこんな事――///」
「すっする訳ねーだろ、そんな事!!///」
いやいや、やってたじゃん。昨日風呂場で身体洗ってる時に――。
「るせーよ、黙ってろ!!」
はいはい…。
「?、誰と話してるんですかあなたは…?」
「いやなんでもねー、こっちの話…」
そう言って、ここに来る前に買ってきたカフェオレのパックにストローを刺す。
「……にしても先生…」
「んー…?」
カフェオレをちびちび飲みながら、顕微鏡を覗き込む御門先生に話し掛ける。
「結構細かい事もやるんスね、それ」
「だから言ったでしょ?思いの外時間が掛かっちゃうって。」
リトの言う『それ』とは、勿論元に戻る薬(とゆーより飲んだ物と同じ薬)の事である。
「コレ、ホントに凄く細かい分量で調合しなきゃいけないから神経すり減っちゃいそうになっちゃうのよね~。
しかも使う物もどれも普通じゃ手に入らない物ばかりだし、ほんの僅かでも調合が狂っても十分な効力は得られないし、
やり直すにも材料を集めるのにどれくらいの時間が掛かっちゃうか…。
オマケに保健の職務もこなさなきゃいけないし、ぐすっ…先生もしかしたら過労死しちゃうかも――」
「いやいやいやいや、元々先生がオレにこんな薬飲ませたからこんな事になっているのであって、
言ってみればこれは自業自得でしょーが」
よよよ…と時代劇風な悲しみ方をする御門先生に、顔色一つ変えずに淡々とツッコミを入れるリト。
「だってぇ…、元々コレを作ってくれって言ったのは別の娘であって、私はただ命じられるままにやっただけで…ひっく…」
「うん、それは知ってます。でも飲ませたのは先生のミスですよね?」
「しくしく……、結城君…、先生いぢめて楽しい…?」
「………はぁ~…、てゆーか、疲れるからもうやめませんか?」
「ちぇっ、つれないなぁ~」
軽く拗ねながら、御門先生は泣くマネを止めた。
「大体そうじゃなくても、こんな事先生しか頼れないんですから真面目にお願いしますよ。」
「アレ?先生もしかして期待されてる?」
「あーはいはい、だからホントに頼みます」m(_ _)m
「おっけ~、それじゃ先生頑張っちゃうからね~♪必ず結城君の編入期間内には完成させてあげるから♪」
そう言って、様々な薬剤をコンマレベルで量って混合させていくる御門先生。
「ふ~、とりあえずやる気出してくれて良かった…」
ホッと一安心して、リトはカフェオレを一気に飲み干した――。
「あ、分量間違えた」
『ブーーーーーッ!!!』
そして盛大に吹いた。
「冗談よ♪」
「笑えんわぁ!!!」
「あの、少し静かにしてもらえませんか?集中出来ないんで…」
――――――
「じゃ、オレもう行きますから、薬の方宜しくお願いしますね」
「は~い、まっかせなさ~い♪」
それだけ告げて、リトは保健室を後にした。
「ちょっと時間食っちまったな。もうみんな待ってるかな?」
少し急ぎ目で校門へと向かうリト。
と、そこに――。
「ねぇそこの人、ちょっといいかな?」
「へ?」
突然誰かに呼ばれて、振り返ると…。
(…………ルン?)
おそらく今回の騒動の諸悪の根元…じゃなかった、根本的原因だと思われる人物、ルンが立っていた。
しかも…。
(アレ?ルンさん何か怒ってる?)
笑顔なんだけど何故か殺気立っているように見えるのは、多分気のせいではない。
「もしかしてあなた?今日編入してきたリトくんのイトコっていう娘は?」
「え!?ぇぇ…まぁ……そーですけど…」
「そっ。私はルンよ。ルン・エルシ・ジュエリア。あなたは確か……結城レモンさん…だったっけ?」
「あ、ああ、リトから話は聞いてます。なんでもくしゃみをすると性別が変わるとか何とか。
特に女の子の方は今まで見たことも無いような『絶世の』美少女だとか♪」
何か雲行きが怪しくなりそうだったので、とりあえずおだててご機嫌を取ってやり過ごそうとするリト。
わざわざ『絶世』の部分を強調して。
「えっ!?リトくん私の事そんな風に思ってくれてたんだ~、きゃはぁ♪///
…………って、そんな事は『今は』どーだっていいの!! 」
(ぅ…おだて作戦失敗…)
人生、そんなに甘くはない…。
「ちょっとあなたに聞きたい事があってね…」
「き……聞きたい事?」
「ええ」
そう言って、ずいっとリト(レモン)に顔を近付けるルン。いや、『睨み付ける』と行った方が正しいか?
(ち……近いっす、顔近いっすよ、ルンさん///)
嫌な予感はバリバリしてたのだが、女の子――それもかなりの美少女の顔が至近距離にあるため、
それ以上にドキドキして顔が赤くなってしまう。
「あなた、リトくんの事どう思ってるの!?」
「…………………は?」
凄みのある顔をして何を言い出すかと思えば、『ちょっと言ってる意味が分からない』といった感じの質問をされて、
キョトンとした顔で疑問符を浮かべるリト。
「『は?』じゃなくて、リトくんの事どう思ってるのかって聞ーてるの!」
「いや、あの……、それってどーゆー…」
「決まってるでしょ!?好きなのか嫌いなのか、どっち!?」
「えと…、ナゼそんな事を…?」
「これ以上ライバルに増えられると益々リトくんに近付けなくなるじゃない!」
「や、やだなぁ…、そんなライバルだなんて…。ボクとリトはイトコ同士ですよ?そんなルンさんが思ってる様な関係なワケ――」
「確かイトコ同士でも結婚は出来るって聞いた事あるけど…」
「……」
「……」
「ぁの~……、一応参考までに聞きますけど…、もし…、ボクがリトを好きって言ったら――」
「そんなの決まってるでしょ?♪」
ルンがニコッと笑って――。
「ライバルは早めに潰ぅす!!」
グッと拳を握り締めてそう言った。
「ぁ……ぁははは…」
リト、おもわず苦笑い。
「こっちはあなたやララと違って活動に制限があるんだからうかうかしてらんないのよね。
御門先生にも性別を強制的に私に固定させる薬を作ってくれる様頼んだんだけど、どうも完成が遅れてるみたいだし…」
(あ、やっぱりお前だったんだ、あんなバカげた薬頼んだの…)
大体予想はしていたが、いざ確証を得ると疲労感も倍になる。
(てゆーか、ルンってこんな奴だったっけ?オレの知ってるルンより随分黒い様な…)
リトが知らないのも無理は無い。なぜなら、ルンは普段――とゆーかリトの前ではいつも猫を被っているからだ。
しかし、その裏ではララを闇討ちしようとしたり暗殺依頼を出したりと、結構悪どい事もやっている。
ま、やる事なす事成功した試しは一度も無いのだが…。
「さ、ちゃっちゃと答えてよ。リトくんの事どう思ってるの!?」
「いや、だから…、そんな事言われても答えようが…」
(オレの事だし…)
「好きか嫌いか言うだけが何でそんなに答え辛いのよ~……………はっ、まさか…!?」
「えっ!?な、何!?」
「あなた…………リトくん――!!」
「ギクッ!!」
(ヤベェ、バレた!!?)
「――と既に親密な関係にあるんじゃあ――!!!」
「ずるーーー!!!」
ルンの倒置法発言におもわずズッコケてしまった。
「そーなんでしょ!?何かリトくんと密接な関係にあるんでしょ!!?」
「ち、違うってば!そーゆー事じゃ無くって――」
(ある意味当たってるけど…)
「じゃあ、どーゆー事なのさ!?」
「ぇ…え~っと……それは…」
返答に困り、しどろもどろになるリト。
と、その時――。
『ヒューーー……』
「おわっ」
「きゃっ」
廊下の窓から強めの隙間風が吹き――。
『ムズムズ…』
「はっ!」
その反動で、ルンの髪が自らの鼻をくすぐる。
「ゃ……やば……は……は……は……はくちっ!!」
『ボゥン!!』
「うわっ!?」
ルンがくしゃみをすると、辺りをケムリが覆い…。
「……ん?」
「レ…レン…」
その中からもう一つの男の人格、レン登場。
「え…?え…?え…?」
突然表に出てきて、茫然としたまま辺りを見回すレン。
「って……」
ふと、レンは自分の身体を見下ろし、今の格好(勿論、女子の制服)を理解すると…。
「うわぁあーー!!またこんな格好を~~!!!///」
顔を真っ赤にして、一目散にその場から逃げ出した。
「……」
その様子をポカーンと眺めていたリトだったが…。
「と……とりあえず助かった~…」
状況を理解し、安堵感一杯の溜め息をついた。
「しかしさっきレンを見てふと思ったんだが…」
ここでリトから素朴な疑問。
「ルンの奴、『薬で性別を自分に固定させる』って言ってたけど…、そしたらレンの方はどーなるんだ?」
ふと、そんな考えが浮かんでしまった。
(一定時間したら元に戻んのかな?いやそれだとあんまり意味をなさないし第一オレも元に戻ってもいいはずだし…
『固定』って言ってたから、一回飲んだらずっと『ルン』のままって事なのか?あれ?だとしたら『レン』の方は…)
……………。
…………。
………。
「…………深く考えない様にしよう…」
何か怖くなったので、リトは考えるのを止めた。
「って、こんな所で道草食ってる場合じゃなかった!みんな待ってるだろうから急がねーと!」
という事で、リトは駆け足でララ達が待つ校門へ向かった――。
途中、体育教師らしき人に「廊下を走るな!!」と説教を食らい、更に時間をロスした事は一応追記しておこう…。
――――――
一方、保健室――。
「ところでヤミちゃん、さっきから何を見てるの?」
「何って、『ハ○ーポッター』という本です。結構人気があるらしく、『面白いから』と進められまして…」
「いや、そうじゃなくって、その本の裏にある中学生みたいな隠し方をして読んでる本の事」
「えっ!?な、何を言ってるんですか!?私は何も隠してなんか――あっ!///」
『バサッ』
「あら、落としちゃったわね。……ってコレ、ファッション誌じゃない」
「あ、あのドクター、ちょっと待っ――!///」
「えーと何々…、『必見!!オトコを骨抜きに出来る最新・流行のランジェリー特集』……」
……………。
…………。
………。
「………………へぇ~♪」(にや~)
「ぅ……ぅぅ………///」
「そっかそっかぁ♪ヤミちゃんも女の子だもんねぇ~。そういう事を気にするお年頃かぁ♪」
「ちっ違いますっ!!これは…その…い、今の流行というものを把握するのに丁度良い資料だったから見てたのであって…、
それに……地球の衣類は中々多彩な物が多いし、おもわず目が惹かれる物も一杯あるし………だから…///」
金色の闇、只今『見えない所でのオシャレ』がマイブーム。
「くすっ、別にそんなに必死に隠さなくたって良いじゃない。女の子なら当然の事なんだから♪
心配しなくても誰にも言ったりなんかしないわよ」
「ドクター…」
「で、ヤミちゃんは一体誰を骨抜きにしたいのかなぁ?やっぱり結城君?」
『ジャキッ!』
「ドクターミカド…、それ以上変な事を言うのならいくらあなたといえど――」
「じょじょ、冗談よジョーダン!もーヤミちゃんったら怒りっぽいんだから~」
「…………まぁいいです。それでは、私はこれで…」
「あら、どっか行くの?」
「いえ別に…」
『ピシャッ』
「…………ぅ~ん、結城君てばホントに苦労が絶えないわねぇ~。いろんな意味で」
――――――
校門前――。
「あっ、レモン来たぁ~。お~いレモン~♪」
ララが元気一杯に手を振ってリトを呼ぶ。
校門前には、既に全員揃っていて待ちぼうけていたようだ。
「はぁ…はぁ…、お待たせみんな」
「遅いよレモり~ん。今まで何やってたのさ~?」
籾岡がちょっと膨れっ面気味で尋ねる。
「ごめんごめん、ちょっと先生に捕まっちゃって…」
ルンの事はあえて伏せておく。
「……って、あれ?」
ここでリトが何かに気付いた。
「………古手川さん?」
知らない間に面子に唯が加わっている事に驚くリト。
その唯はというと、『何故自分がこんな所にいるのか分からない』という感じで、ちょっと不機嫌そうな顔をしている。
「えへへ、私が誘ったんだよ~。リサがケーキバイキングの割引券が余ってるって言ってたし、
やっぱりこーゆーのはみんなで行った方が楽しいもん♪」
「……私、風紀委員の仕事があるって言ったハズだけど…」
楽しそうに語るララに対して、ツンツンモード全開で抗議する唯。
「まーまー良いじゃん唯っち。ここはレモりんとの親交を深めるいい機会じゃないの♪」
「そーそー、それに何時もそうやって肩肘張ってばかりだと疲れちゃうでしょ?たまには息抜きも必要だよ♪」
無邪気な笑顔でそう言う籾岡と沢田だが…。
「いや『親交を深める』云々は納得出来るけども、実際はあなた達がバカ騒ぎしたいだけでしょ?」
「トーゼン♪」
「当たり前でしょーが♪」
「…………よくもそんなハッキリとまぁ…」
核心を突いたツッコミを軽く受け流し、あっさりと認める二人。それに対し、ガックリ肩を落とす唯。
その表情からは何ともいえない疲労感が見て取れる。
「………ぁー、ゴメンね古手川さん…。ボクのせいで…」
「本当にごめんなさい古手川さん。私がちゃんとみんなを抑えてれば…」
ちょっと罪悪感を感じたリトと春菜は、とりあえず唯に謝った。
「…………ホントそうね」
「ぐ…」
「う…」
「――なんて別に思ってないわよ。あなた達が謝る事は無いわ」
少し諦めた様な感じ唯が二人を気遣う。
「古手川……さん…」
「ありがと、古手川さん…」
「べ、別にお礼なんか言わなくてもいいわよ。一応、結城さんの歓迎会ってのは私も良い事だと思ってるし…、
たまには羽を伸ばすのも良いかなと思ったのも事実だし…///」
照れくささからか、明後日の方向にそっぽを向く唯。
「つまり最初っから乗り気だったって事でしょ?唯っち♪」
「始めからそれ位素直になればいいのに、唯っちってばホントツンデレさんなんだから~♪」
「良かった~、ホントは喜んでくれてたんだね~♪今日はいっぱい楽しもうね唯♪」
「………まぁもっとも、この三人にもいい加減『人に迷惑を掛けている』という事を自覚してもらいたいのも事実だけど…」
「「ホンット~~にすみませんっ!!」」
こめかみをピクつかせる唯に、とにかく平謝りするリトと春菜だった。
「さてっ、それじゃ早速行きましょーか。まずはレモりんのパンツ買いに♪」
(ぅ゛……やっぱり本気なんだ…)
心の中でうなだれるリト。
「は?歓迎会に行くんじゃないの?何その『パンツ買いに』って?」
「何って……あーそっか、唯っち知らなかったんだね。実は――未央すわぁ~ん♪」
「はいなぁ~♪」
おもむろにリト(レモン)に近付く沢田。そして…。
「ペロンッと♪」
「わぁぁぁっ!!///」
思いっ切りリト(レモン)のスカートをめくり上げ、穿いている下着(トランクス)を露わにした。
「何すんだよいきなりぃっ!!///」
慌ててスカートを押さえるリト。
「……」
そして、その異様な組み合わせを目の当たりにして目を点にする唯。
「分かった?唯っち」
「…………ぃゃ…、別に良いんじゃないの?女の子が男の子の下着を穿いてたって…。好みなんか人それぞれなんだし…」
「全然良くないわよ!レモりんみたいな娘がトランクスよ!?こんなんじゃ全く萌えないでしょーが!」
「いや萌える萌えないとかそんなの知らないけど、それ以前にあなた達に他人の好みをとやかく言う筋合いは無いでしょ?」
「解ってないなぁ~唯っち。これはあたし達がレモりんの事を思ってしてあげてる事なの!レモりん元々可愛いけど、もっと可愛い下着を付けてもらってもっと可愛くいてもらいたいという純真な想いから言ってる訳なんだよ!」
「あなた達…」
二人の言い分と熱い想いを受け、しばし黙り込む唯。
――が。
「そんな事言って、ホントは今回の事を口実にしてただあなた達が結城さんをオモチャにして楽しみたいだけなんでしょ?」
「「その通ーりっ!♪」」
とてもスバラシイ笑顔で、親指を立ててサムズアップする籾岡と沢田。
「『その通ーりっ!♪』じゃなぁーい!!全く、あなた達の頭にはいつもそういう事しか無い訳!?」
「自慢じゃないけどそーゆー事で頭がいっぱいです♪」
「威張って言うな!!」
まるでテンポの良い漫才を見ているかの如く、籾岡の大ボケ発言に間髪入れずツッコミを入れる唯。
その光景を見たリトは…。
(ツッコミが増えると楽できて良いよなぁ…)
――と、同じツッコミ属性として心の中で唯に感謝の涙を流したという…。
「じゃあ行こ行こ、さくさく行きましょ~♪」
「お~♪」
「ってちょっとあなた達!人の話をちゃんと――!」
「落ち着きなよ唯~。何時も思うんだけどそんなに怒ってばっかだと余計に疲れちゃうよ~?」
「そう思うなら少しは自重しなさい!!主に誰の所為だと思ってんの!?」
という事で、唯の怒りのツッコミと共に一行は街へと繰り出した――。
「なぁ西連寺…」
「何?」
「オレ……………キレイなままで帰れるかなぁ…」
「………………………………ぅ゛ーん…」
「あの、そこで黙られると困るんだけど…」
早々に、とてつもなく不安を感じるリトだった…。
――――――
下着屋――。
「はいっ、とーちゃ~く♪」
「なんかあっという間に着いたね~。移動した気がしないんだけど…」
「ララちぃ、気にしちゃ負けだよ♪」
前ページから一瞬で舞台が変わるのは良くある事なので…。
「結城くん大丈夫?何か顔色悪いけど…」(小声)
「ダイジョブダイジョブ…。ただちょっとこの場違いっぽい雰囲気とこれから起りそうな事を想像しちまって
億劫になってるだけだから…」(小声)
「……ぁー………何ていうか………………頑張ってね?」(小声)
これから死地(?)に赴く想い人に対して、春菜はただ苦笑いで声援を贈ることしか思い付かなかった…。
「じゃ、まずは胸のサイズを測りましょーかぁ~♪」
「ちゃんと自分に合ったブラをしなきゃ血行悪くなっちゃうからねぇ~♪」
そう言って、手をワキワキさせてかなり怪しい笑顔でリト(レモン)に近付く籾岡と沢田。
「な、ナニ!?その危なそうな目と卑猥な手つきは!?」
「決まってんじゃ~ん。レモりんのバストを測るんだよ~♪」
「だいじょーぶ。あたし触診には自信があるから♪」
「すいません、胸のサイズを測りたいのでメジャーを貸してもらえませんか?」
「――ってちょっと唯っちぃ!?」
(サンキュ、古手川っ!)
唯が機転を利かせてくれたお陰で、本日何度目かのセクハラを免れる事が出来た。
「それじゃ測るね、結城さん」
「う、うん…。あ、服は…」
「そのままで良いわよ、大体分かるから。それに…」
「えー、こーゆーのはやっぱ直接測るモンでしょ~!?ナマ乳に直に触れてさ~!」
「そーだよ~、それじゃサイズがズレちゃうし、何よりレモりんのナマ乳が見れないじゃん~!」
「――とまあ、こんなオジサン臭いハレンチな人達の前であなたも脱ぎたくはないでしょ?」
「お心遣い、ホントありがとうございます」
「古手川がいてくれてホントに良かった~!」という思いを込めて、深々と唯にお辞儀するリト。
「はい、じゃ腕上げて」
「は、はい…///」
バンザーイとリトが腕を上げて、その後ろから腕を回してメジャーを通す唯。
(うぅ…、何か恥ずかし……///)
顔を赤らめその状態のまま硬直するリト(レモン)をよそに、唯はメジャーをぐるりとリト(レモン)の胸を一周させる。
「えっと大きさは……………………90ね」
「「きゅうじゅう!!?」」
見事にハモったセクハラーズのお二方。
「ララちぃ!ちなみにララちぃの大きさは!?」
「えーっと…、89(リトママ談)だよ~」
「ララちぃより1cmデカーい!しかも90台ー!!」
「出たよー、大台出ちゃったよー!!」
「ふ…二人共何でそんなに騒いでんの…?1cmなんかそんなに差は無いじゃない」
「分かってないなぁ~レモりん、『1cmの差』というものの重さが!!」
「レモりんみたいな娘には分からないだろうけど、女の子がその『1cm』をモノにするのにどれだけの時間と気力を要する事かっ!
それはまさに農家の人達が手間暇かけてお米を育てるのと同じ様なものなのだよ!!分かるっ!!?」
「胸の1cm差、それすなわちオリンピックのコンマ何秒の僅差に匹敵すると言っても過言じゃないの!!OK!!?」
「え…えーと……、お米とかオリンピック云々はともかく、とりあえず二人が胸の1cmにも深ーく拘ってる事はよく分かったよ…」
籾岡と沢田の鬼気迫る程の勢いに押されておもわずタジタジになるリト。
「よしっ、じゃレモりんも分かってくれた所で――♪」
「早速レモりんに似合うランジェリーを選びましょー♪」
「お~、頑張るぞ~♪」
という事で、きゃいきゃいはしゃぎながら商品を選びに行く籾岡・沢田・ララの三人。
(テンション高ぇ~…)
(何か……いつも以上に活き活きしてる…?)
(不安……、果てしなく不安…)
そして、リト(レモン)・春菜・唯の三人はその様子を見ながら何とも言えない不安を感じずにはいられなかった…。
――――――
「ねぇねぇ、コレなんか良いんじゃない?レモりん♪」
「いや……それは…………どーかと思うんだけど…///」
「えー、可愛いじゃんコレ~。両側紐だよヒモ。リサとお揃い~♪」
「――と言われましても……ボクはちょっと…そーゆーのには……抵抗が…///」
「大丈夫だって、レモりんのエロさなら♪」
「『エロさ』ってどーゆー意味だよ、『エロさ』って」
淡いブルーの紐パンを片手に失敬な事を言う沢田にツッコミを入れるリト。
「甘いよ未央。やっぱレモりんにはコッチの方が良いって♪」
「あの…籾岡さん?結城さんキャバ嬢じゃないんだからそんなド派手なのもどうかと…」
「あ、やっぱり黒の方が良かった?」
「そういう意味じゃ無くてっ!大体ソレ校則違反じゃない!」
「大丈夫だって、あの校長なら100%OK出すって♪」
「私がOK出さないわよ!!出してたまるもんですか!!」
負けじと、ゴージャスそうなルージュのTバック(ガーターベルト付)を薦めてくる籾岡にツッコミを入れる唯。
「ねーねー、そしたらコレは~?」
「おぉぉ!ララちぃライトグリーンとはあざとい所を突いてくるねぇ~♪しかもフリル付き!」
「わー、いいねいいね~♪でもやはりガーターも付けた方が萌えると思うし…」
「ぁの…里沙?一応学校に付けていく物なんだから、そーゆーのはどーかと…」
ツッコミ若葉マークの春菜も頑張ってツッコミを入れる。
――とまぁこんな風に、さっきからこの様なやりとりが続き、『レモン』の下着選びは難航を極めていた。
とゆーかこの三人、ワザとやってるのかはたまた本気でそう思ってるのか、あまりマトモとは思えない下着ばかり選んできている。
それに対して、リトは唯と連携して片っ端から却下していく。
リト一人だったら間違いなく押し切られてしまうのだろうが、今日はもう一人のツッコミ属性である唯がいるので、非常に心強い。
加えて、春菜も慣れないながらも支援してくれているので、何とか持ちこたえる事が出来ている。
とはいえ、間髪入れずに次から次へとカワリモノの下着を持ってくるので、流石にツッコミのキレも鈍くなり疲労感も否めない。
それでも、ここで屈する訳にもいかないので、自分を奮い立たせツッコミを入れ続ける。
「それならレモりん、コレはどーかな~?」
「………あのさ籾岡さん」
「ん?」
「何で迷彩柄なの?」
「カッコいいでしょ♪」
「いやいやカッコいい云々じゃなくて、ボクはどこぞの女兵士ですか!?第一、コレも校則違反でしょ!?」
「えー、ダメ~?」
「ダメ!!」
「じゃあさ、コッチなんかどうかな?」
「――ってちょっと待ちなさい沢田さん!その下着スッケスケじゃないの!!それじゃちゃんと隠れないじゃない!!///」
「それはレモりんの全身から漲るオトナの色気でカバー出来るから問題ナシ♪」
「出来るかぁ!!///」
「問題大アリよ!!///」
「あーはいはい、じゃあコッチならいいでしょ?コレは透けてないし」
「――ってちょっとぉ!!何でコレ穴が開いてんのぉ!?///」
「コレ穿いたままでもヤレる様にじゃないの?」
「そーゆー事聞いてるんじゃなくてっ!つーかこれならさっきの方がまだマシでしょ!?///」
「あ、じゃさっきのヤツにする?」
「しねーよ!!!」
「両方却下に決まってるでしょ!!?」
「ぶ~、ワガママだなぁ、レモりんも唯っちも」
「ワガママじゃない!選ぶんならちゃんとした物を選んでほしいと言ってんの!!」
「ちゃんとした物ねぇ…」
「ねーねー、それだったらコッチの方がいいのかな?」
「おぉぉ!ララちぃそれはっ!?」
「一部で大人気のストライプー!!(しかも青と白)」
「「一部ってナニ!!?」」
リトと唯のツッコミは見事にハモった。
「ストライプをバカにしちゃいけないよ!!実は白よりもコッチの柄の方が世の中の需要度は高いんだからね!!
コレを完璧に穿きこなす事こそこの世の中を征する事と言っても過言じゃないと思うのよあたしは!!!」
「り、里沙…、とりあえず落ち着こ?」
自らのストライプ理論について力説する籾岡を、春菜が苦笑いを浮かべながら宥める。
「加えて、レモりんの美貌があれば正に完璧!鬼に金棒!(一部の)男共狂喜乱舞間違いナシ!!
とゆー訳でどう?世の中の需要に応える為にもぜひ――♪」
「いやいや、一々そんな需要に応えてたらこの世の中犯罪者だらけになるんじゃないの?」
「大体そんな説明聞かされて「ハイ、分かりました」なんて言える訳ないでしょうが」
「ちぇっ、ホント贅沢だなぁ~」
ことごとく却下されて、流石に軽く拗ね始める籾岡。
「ええぃ、それなら取っておきだ!コレは間違いなくレモりんに似合うから♪」
――と言って、(怪しい含み笑いと共に)籾岡が自信満々に提供してきたのは…。
「――ってうをぉい、ちょっと待てぇい!!コレ下着の意味がまるでねーじゃねーかよぉ!!つーか下着かコレぇ!!?///」
説明不可能につき、ご想像にお任せします。
つーかもしもし、口調元に戻ってますよ?気持ちは分からなくもないけど…
「でもコレがこの店で一番人気があるんだよ?」
「コレがぁ!!?コレ一番人気ぃ!?世の中間違ってんじゃないの!!?///」
「つーかこんなモンまで置いて、ここどんな下着屋だよ!!?///」
現在の流行(+店のラインナップ)という物に愕然とするリトと唯。
「ならば仕方ない…、こうなったら究極の切り札を…」
「究極?」
「それって…?」
「ニップレスと前張り。しかも肌色♪」
「絶っ対断わぁぁぁる!!!///」
「てゆうかあなた達、真面目に選ぶ気あるのぉ!!!」
ついに怒り爆発のツッコミコンビ。そして…。
(結城くんと古手川さん、息ピッタリだなぁ~…)
見事なまでのコンビネーションツッコミをやってのける二人に、素直に感心してしまう春菜だった…。
――――――
「じゃ、早いトコ着て見せてね♪」
「あの…、やっぱり今付けなきゃダメ?///」
「トーゼン!さ、早く早く♪」
「ぅ………ぅん…///」
ようやく選んだ下着(結局唯がチョイスした)を抱えて、リトは試着室へと入っていった。
(はぁ~……、仕方ない、こーなったら腹くくるか…///)
覚悟を決めて、制服のリボンに手を掛けるリト。
昨日に比べれば、少しは自分の身体にも慣れたが、それでもやはり健全な男子としてはどうしても目のやり場に困ってしまう。
なので、顔を赤くしつつ、後ろの鏡を極力見ないようにしながら一枚ずつゆっくりと着ている服を脱いでいく。
(ぅ゛ーん……、こんな狭い個室の中で素っ裸になるのって、ちょっと変な気分になるよなぁ~…///)
少々イケナイ事を考えながらも、まずはパンツを穿いて、続いてブラジャーを手に取る――が。
(コレ…、どーやって着けるんだ?)
ブラジャーの着け方が分からず、軽く困り果てるリト。
「……あの~、誰かそこにいます?」
『ん?どーしたのリト……レモン~?』
返事を返したのはララ。
「なぁ…、ブラジャーってどーやって着けりゃいいんだ?」
『え?あぁ、それはね――』
『シャーッ』
いきなりララがカーテンを開けた。
「わぁぁバカ開けんなぁ!!///」
慌ててカーテンを閉めるリト。
『え~?教えてって言ったのレモンじゃ~ん』
「口で教えてくれりゃ良いだろ!何でわざわざカーテン開ける必要があるんだよ!?///」
『直接やって見せた方が分かりやすいかな~って思って』
「いいよ、余計な気遣いしなくてっ!言葉で説明してくれりゃ大体分かるから!///」
『む~、そお?』
どうにも腑に落ちない表情だが、ララは要望通り、口でブラジャーの着け方をリトに教えてあげた。
『分かった~?』
「あぁバッチリ、サンキュ」
――という事で、ララに教えてもらった通りにブラジャーを身に着ける。
(む、なるほど…。これが『寄せて上げて』ってヤツなのか…///)
その過程で、男じゃまず知り得ない様な事を発見したりもした。
そして…。
「で…出来たよ~…///」
「あ、終わった?じゃもう開けてい~い?」
「ぉ……ぉぅ……///」
「でわ、それー♪」
『シャーッ』
ララが勢い良く御開帳~。
「「おおぉーーーー!!!」」
瞬間、籾岡と沢田から驚きの声が挙がった。
「ぅ……ぅぅ……///」
清純そうな白の下着を身に着けて、とても恥ずかしそうにもじもじするリト。
その姿は、昨日のコスプレとは比べ物にならない程の凶悪なオーラを放っていた。
「かわいい~~~!!♪」
おもわずリトに抱き付くララ。
「いい!!レモりん凄くいいよ!!」
「ホント恐ろしい位似合ってるよね!!」
続いて、ベタ褒めしまくる籾岡と沢田。
(た…、確かに…///)
(結城くん…、それは反則だって…///)
そして、あまりの衝撃にリト(レモン)を直視出来ず、顔を真っ赤にして目を逸らす唯と春菜。
「ね、ねぇ…、もういいでしょ?服着ても///」
両腕で下着を隠しながら懇願するリト。
――が、これがマズかった…。
「え?何?服着たいの?」
「き、着たいよそりゃ!///」
「じゃあ…、お願いしてみてよ」
「はあ!?///」
見下し目でリト(レモン)に提案――というか命令する籾岡。
どうやら、さっきのリト(レモン)のリアクションを見て、スイッチがSモードに入ってしまった様だ。
「ホラ早く。服着たいんでしょ?」
「ぐ……うぅぅ……///」
軽~く籾岡に対して殺意が芽生えたリト。
――が、これ以上この格好のまま時間を取りたくないので、ここはあえて従っておく事にした。
「ぉ………お願い…します……。そろそろボクに………服を…着させて下さい……///」(ボソッ)
「え?何?聞こえないよ~。ね?未央♪」
「うん♪全然聞こえないよね~、リサ♪」
「え?私はちゃんと聞こえ――むぐっ!?」
「ホラレモりん、もっと大きな声であたし達に聞こえる様に言ってよね♪」
ララの口を塞ぎながらリト(レモン)を煽る籾岡。
「あ…、あなた達ねぇ…」
見かねた唯が二人を怒鳴りつけようとしたが…。
「お願い……しますっ…!どうか……どうかボクに………服を着させて下さいっ…!///」
一瞬早く、リト(レモン)の方が先に口を開いた。
もういい加減に服を着たい一心で、涙目上目遣いで二人を見つめ、さっきよりも大きく、今にも泣き出しそうな声でお願いする。
(実際泣きそうな気分になってたけど…)
『……』
全員フリーズ。
(…………………アレ?)
……………。
…………。
………。
『ギュムッ♪』×2
「――ってえぇぇーーーちょっとぉぉぉーーー!!!///」
いきなり、籾岡と沢田の二人に抱き付かれた。
「あぁぁもうホント可愛いなレモりんはっ!!」
「もう襲っていい?襲っていいかな?襲っちゃってもいいかなぁ~!!///」
「だ、ダメに決まってるでしょーが!!てか…、苦し…!///」
「あーズルいよ~!私もギュッてしたいのに~!」
更に、ララまで触発されてリトに抱き付いてきた。
「……///」
一方、未だに顔を赤らめたままフリーズしっぱなしの唯。
「……………はっ!!?///」
お、ようやく我に返った様だ。
「ちょっ、ちょっとあなた達何やってるのよ!!?///」
「いやだって、レモりんがあんまりにも可愛すぎるんだもん♪」
「あんなリアクション見せられたらそりゃ抱き締めたくもなっちゃうでしょ?」
「えへへ、レモン~。すりすり♪」
「とっ、とにかく!結城さんが嫌がってるから今すぐ離れなさい!!」
「「「やだ♪」」」
声を揃えて、笑顔で拒否る三人。
「ぐぬぬぬ……、西連寺さんっ、あなたからも何か言ってあげて――!!って、アレ?西連寺さん?」
唯が振り向くと、さっきまで隣にいた筈の春菜が姿を消していた。
――が。
「ああああああのあのあのあのあのさささささ西連寺さぁぁぁぁん!!?///」
「へ?んなぁ!!?///」
リト(レモン)の叫び声で振り返り、目に入った光景に驚愕する唯。
何時の間にか春菜が、リト(レモン)の事を力一杯ギュッと抱き締めていたからだ。
「西連寺さんっ!!あなたまで何をやってるのよぉ!!?///」
「………はっ!!?///」
唯の叫び声で不意に我に返り、春菜は慌ててリトから離れた。
「ごごごごごごごめんなさいっ!!何か身体が勝手にぃ!!!///」
「だだだだだだ大丈夫大丈夫っ!!これもまた役得……じゃなくてっ!!///」
「全く何やってるのよあなたまで!!私だって我慢してるっていうのに…」
「「………え?」」
「い、いや、何でも無いわよ何でも、ホントに!!///」
顔を真っ赤にして誤魔化す唯。
「ねぇねぇレモりん、やっぱりコレ着けてみてくんない?白でこのレベルならコッチはまだスゴい事になると思うから♪」
そう言って、リト(レモン)にストライプの下着を渡す籾岡。
「――ってまだ諦めてなかったのぉ!?///」
「だってレモりんにどうしても着けてもらいたいんだも~ん!!」
「あ、じゃあコッチも着けてみてよレモりん♪」
フリル付きのライトグリーンの下着を薦めてくる沢田。
「あ、それじゃ私は――」
「――って待て待て待てぇ!!///」
「あなた達、いい加減に――!!」
怒鳴り散らそうとしたリト(レモン)と唯だが、三人共全く聞いちゃいない。
しかも――。
「ぇ……ぇーと………私は…コッチの方が…///」
(は……春菜ちゃん……)
(西連寺さん…、あなたまで…)
味方だった筈の春菜まで向こう側に加わり、形勢は圧倒的に不利になってしまった。
「ホラホラレモりん、早くこのストライプを着けてみてよ♪」
「いやいや、まずはこのフリルのライトグリーンから♪」
「え~?レモンならオレンジの方が似合うよ~」
「ぁ…あの…、チェックも中々良いと思うんだけど…///」
「あーーもう!!何でもいいから一分一秒でも早くオレをここから解放して下さーーい!!!」
リトの切実な願いが店中に響き渡った――。
――――――
駅前広場――。
「うぅぅ~…、もうおヨメ……じゃなかった、おムコに行けない……」
「ご…、ごめんなさい、結城くん…」
「西連寺……、オレ……汚されちゃった…」
「そ…そんなオーバーな…」
広場のベンチでズーンと暗い影を落として落ち込むリトを、反省の意も込めて必死に慰めようとする春菜。
あの後、ピンからキリまで様々なランジェリーを無理矢理着せられ、リトの精神は昨日のコスプレパーティーをも遥かに凌駕する程のダメージを負っていた。
ちなみに、リトがどんな辱めを受けたかと言うと…。
「止めてくれぇ!!これ以上あんな悪夢を思い出させないでくれぇ!!!」(ガクガク、ブルブル)
――とまあ、本人もこう言っておりますので、あまり深く追求しないでいただきたい…。
「……あ、そういやララ達は?」
「なんかね、『向こうに展示してあるテレビでマジカルキョーコを流してる』って言って飛んで行っちゃった。
里沙と未央もそれに追いて行っちゃって…」
「そっか…」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あの……、古手川さんは?」
「あ、あぁ、古手川なら『ついでに買っておきたい物があるから』っつってそこの本屋に行ったよ」
「そ、そうなんだ…」
「ぅん…」
「……」
「……」
「……」
「……」
……………。
…………。
………。
((き………気まず~……///))
図らずも二人っきりになってしまって、妙にぎこちなくなってしまうリトと春菜。
(何か…、何か話題振らねーと。でないと何か間が持たねーって!///)
(ど、どうしよう…、こういう時一体何話したらいいんだろ…///)
お互い頭の中で必死に会話の話題を模索する。
そして…。
「「あの――へっ!?///」」
意を決して話し掛けようとしたが、ものの見事にタイミングが被ってしまった。
「なっ、何?結城くん///」
「えっ!?い、いや~あの~…その~…、きょ、今日はいい天気だな~って///」
「ぁ、そ、そうだね、今日は良く晴れてるよね。うん///」
「さ、西連寺はどーしたんだ?///」
「えっ!?え~と……その……、あ、明日もいい天気になるらしいよ///」
「そっ、そっか、明日も晴れか。そりゃあ良かった!は…はははは…///」
「ぁ…ぁははは…///」
お互い、精一杯愛想笑いを浮かべるが…。
「ぁー…///」
「ぅぅ…///」
益々気まずい雰囲気になってしまった。
「わ………私ちょっと飲み物買ってくるねっ!///」
「おっおう!///」
居たたまれなくなって、春菜は逃げる様にその場から離れた。
「…………………………………はぁ~~~…///」
――と同時に、リトが深い溜め息をついた。
「な~んでこんな時に限って『女』なんだろーなー…、オレ…///」
せっかく良い雰囲気になれたのに、肝心の自分は『男』じゃないという事に心底ウンザリした瞬間だった…。
「どうしたの?溜め息なんかついて…。まだ立ち直れそうにない?」
「あ、古手川……さん」
そこへ、唯が本屋から帰ってきた。
「ごめんなさいね、編入早々あんなハレンチな目に遭わせちゃって…」
そう言ってリト(レモン)の隣に座る唯。
「ぁ、あぁ、大丈夫だよ、こーゆー騒動にはもう慣れてるから…」
「え、慣れてるって…?」
「い、いやこっちの話だよ!!こっちの話!!」
「そ、そう?」
必死に誤魔化すリト(レモン)に少々引っ掛かったが、唯はさほど気に留めなかった。
「それに…、結構嬉しかったりもするんだ…」
「嬉しい?」
「行動そのものはアレだけど、ボクの為に色々と気を利かせてくれてる気持ちは良く分かったから…」
「え?本当にそう思ってるの?」
「…………二割程は」
「じゃあ、残り八割は?」
「ただ悪ふざけしてる様にしか見えない」
「何それ」
おもわずツッコんだ唯。
「でもまぁ、(たとえ二割だけでも)楽しんでくれてるなら幸いだけど…」
「ははは…」
リト苦笑い。
「……」
そんなリト(レモン)の顔をジッと見つめる唯。
「?、ど、どうしたの?」
「ん?いや、ちょっと…、不思議な人だなぁって思って…」
「へ?何で?」
「だってあなたと話してると、何か結城くんと話をしてるみたいで…」
「え゛っ!?」
突然核心を突く様な事を言われてドキッとするリト。
「何て言うのかな~…、雰囲気もそうなんだろうけど、話し方とか仕草とか、あとツッコミのキレ具合とかも、
どれをとっても結城くんにそっくりなんだもん」
「そ、そんなに似てる?」
「ええ、とっても♪」
そう言って、唯は柔らかく微笑んだ。
(今日からしばらく結城くんが来ないって聞いた時は変な違和感を感じちゃったけど、彼女がいれば大丈夫かしらね…)
いつの間にかクラス……いや、唯の中で大きくなっていた『結城リト』という存在…。
普段からララと共に色々とハレンチな騒動(ほとんど不可抗力)を引き起こしてる彼だが、
その反面、いざという時には危険を顧みず助けに来てくれる正義感と行動力、
何より、お日様みたいな暖かい優しさを持っているという事を唯は知っている。
そんな彼がしばらく学校に来ないと聞いた時は、「これでしばらくは楽が出来る」と思う以上に、
何とも言えない不安と淋しさが押し寄せて来た。
その気持ちがどこから来ているのかは理解出来なかったが、少なくとも『淋しい』と感じた事は確かだった。
だからこそ、今日『レモン』と話をしてみてそんな発見が出来た事は、凄く安心出来て救われた事なのだと唯は思う。
「……」
ただ、その当の本人はというと、何やらキョトンとして唯の顔を見続けている。
「?、どしたの?結城さん」
「いや…、その~…」
不思議そうな顔をする唯をよそに、何か言いにくそうに言葉を濁すリト。
で、意を決して出した一言は――。
「古手川さん…、ちゃんと微笑えるんだな~……って…」
「んなぁ!!?///」
リト(レモン)の一言に顔を紅潮させて目を丸くする唯。
「そそそれどーゆー意味よっ!!?それじゃまるで私が愛想が無い女みたいじゃないの!!!///」
「い、いやだってさ!!古手川さんが微笑ってる所なんていつも……じゃない、今日初めて見たし…!!」
「あ、あのねぇ!あなたまで結城くんみたいな事言わないでよ!!///」
「ご、ごめんなさい…」
「全く…、失礼しちゃうわ…!///」
さっきまでと一転、不機嫌モードでそっぽを向く唯。
「でも…、何か勿体無いな…」
「は?何が」
「だって……、いつもそーゆー笑顔を見せてくれたら、もっと可愛いと思うのに」
「へっ!!?///」
一切の淀みも無い無邪気な笑顔で答えるリト(レモン)に更に一転、またしても、それも先程よりも唯の顔が真っ赤になった。
「なな、何言ってんのよあなたは!変な事言ってからかわないでよ!///」
「へ?からかってなんか無いよ。ボクは本気でそう思ってるんだけど…」
ラブコメ主人公特有の超鈍感スキルから来る、馬鹿が付くほどの素直さをここぞとばかりに(無意識に)発揮するリト。
こういう物程効果は絶大で、現に唯は顔を茹で蛸みたいにして俯いてしまった。
「ば……バカじゃないの…?そんな台詞、恥ずかしげも無くハッキリと…///」
「……………照れてる?」
「照れてないっ!!!///」
核心を突かれ、唯はおもわず声を張り上げて反論してしまった。
(何なのよもう…、何かまるで結城くんに言われてるみたいで変な感じがしちゃったじゃない…。
てゆーかそもそも何でこんなにドキドキしてんのよ私は…///)
自分自身の、何とも言えない不思議な気持ちに戸惑う唯。
と、その時――。
『きゃあっ!!』
「「へっ!?」」
突然、悲鳴の様なものが聞こえて来た。
「い、今の声って…」
「西連寺!!?」
「あっ、ちょっと結城さんっ――!?」
気が付いたら、リトは声がした方へ駆け出していた――。
――――――
「あの…、私急いでますから…」
「そんなカタい事言わなくてもいーじゃ~ん。俺らと遊ぼーぜ~♪」
「そーそー、絶対退屈させないからさ~♪」
飲み物を買いに行った春菜だったが、その帰り道、三人組の街のチンピラ共にナンパされていた。
しかもこのチンピラ、今時天然記念物並みに珍しい昭和のヤーサンみたいな格好だったりする。
「あの、連れも待ってるんです。通して下さい!」
「ヒュー、怒ったもまたナウいねぇ~。」
「いーじゃん、そんなのほっといて。俺らと一緒にパンチDEデートの方が楽しいって」
「そーそー、そいでもってヨコスカでダンシングオールナイトでもしよーぜ~」
古っ!!ナンパの仕方古っ!!今日び今時の若者が『ナウい』なんて言葉使うか普通!!?
しかもなんだ『パンチDEデート』って!!?時代錯誤もいいとこでしょ!!?
「んだぁコラ!!何か文句でもあんのか!!つか誰だテメェ、ぁあっ!!?」
「これが今時の『流行り』ってヤツなんだよ!!ぉお、コラァ!!」
「俺らは常に時代の最先端を突っ走ってんだよ!!分かったかぁ!!?」
…………………ちなみに好きなロックバンドは?
「「「横○銀蠅、夜露死苦ぅ!!!」」」
やっぱり古いじゃん。
「「「ぁああーん!!?」」」
(何だか良く分かんないけど…、今の内に!)
という訳で、この隙にコソコソとこの場から離脱しようとする春菜だったが…。
「おっと、どこ行くんだよねーちゃん」
『ガシッ』
「きゃあっ!!」
チンピラの一人に気付かれ、腕を捕まれてしまった。
「い、いやっ、離してっ!!」
「へへへ…、逃がさねーよ。こーなりゃ無理矢理にでも――」
と、その時――。
「その娘に触んなぁぁぁーーー!!!」
「あ?」
(結城くんっ!!)
春菜のピンチに颯爽と――ではなく、鬼気迫る程の怒涛の勢いでリトが突撃してきて…。
「チェストぉ!!!」
『ガキーーン!!!』
「はぅわっ!!?」
――という効果音が聞こえてきそうな位に、サッカーで鍛えた足腰を活かして思いっ切り金的蹴りをブチかました。
「西連寺、大丈夫か!?」
「ぅ、ぅん…」
「西連寺さん、結城さんっ!!」
唯もようやく追い付き、春菜の傍に駆け寄る。
「マローン(あだ名)!!大丈夫かぁーー!!?」
悶絶するチンピラその3に慌てて駆け寄るチンピラその1。
「うぅ…、ショコラ(あだ名)の兄貴ぃ…、き…キ○タマがぁ…」
「この野郎っ!!よくも大事な弟分の大事な弟分をぉ!!」
「まぁ待てワッフル(あだ名)よ、良く見りゃコイツ達、マブい奴らばっかじゃねーかよ」
そう言って激高するチンピラその2を抑え、チンピラその1が冷たい笑みを浮かべる。
「よぉ、ねーちゃん達、よくもウチの弟分のジュニアを潰してくれたなぁ…、お陰でコイツ一生イ○ポになっちまったじゃねーか」
(下品…)
「何言ってるのよ!!先に手を出したのはそっちじゃない!!
大体何!?その半世紀前からタイムスリップしてきた様な格好は!?恥ずかしくないの!!?」
「こっ、このガキ…」
「おーおーいいのかねぇ~、そんな事言って。俺らは理不尽な暴力を受けた被害者なのに」
「このっ…!」
「待って、古手川さん」
反論しようとした唯を、リトが制止する。
「で?ボク達に一体どうしろと?」
「なぁに、ちょいとお宅達に責任を取ってもらいたいのさ。その身体で」
「…っ!!」
「なっ…!!」
「くっ…!」
不条理な要求をされ怯える春菜。
そんな春菜を庇う様に肩を抱き身構える唯。
そして、恐怖心に耐えながら二人を守る様に前に立ちはだかるリト。
「断る……と言ったら?」
「へっ、その時は…」
『ジャキッ!』
「強引にでもヤらせてもらうよぉ!!」
チンピラ共が懐からナイフを取り出し、本格的に脅しにかかって来た。
(やべぇ…!)
「古手川さん、西連寺さんを連れて逃げて!コイツ達はボクが引き付けておくから!」
「なっ…!」
「結城く……零紋さん何を!?」
リト(レモン)の危険すぎる申し出に驚愕する二人。
「何言ってるのよ!!あなたを置いて逃げるなんて、そんな事――!!」
「大丈夫、ボクこう見えても結構頑丈だから!」
「そんな問題じゃなくて――!!」
「ハッ、逃がすと思うかよぉ!!」
そう叫んで、チンピラその1がナイフを突き出してリト(レモン)に突っ込んできた。
「……っ!!」
「結城さん、危ないっ!!!」
「きゃあぁぁぁーーーーー!!!」
春菜が恐怖心のあまり、目を両手で覆ったその時――。
『ガシッ』
「へっ…!?」
「なっ…!?」
突如、誰かの手が横からチンピラその1の腕を掴み、ふとリトが横を見ると…。
(ヤミ!?)
紙袋を小脇に抱えたヤミが、全身に殺気を纏って立っていた。
「私の標的に――」(ボソッ)
「あ?――へ?」
何かを言おうとしたチンピラその1だが、気が付いた時には天地が逆転していた。
ヤミが腕を掴んだまま上空へ投げ飛ばし、そして――。
「手を出さないで下さいっ!」
『ドガァッ!!』
「がはぁっ!!?」
彼女の特徴である金色の髪を巨大な拳に変身させ、そのままチンピラその1にバックブローを叩き込んだ。
「んだぁ、このガ――!!」
――と言ってる時には既に遅く、ヤミは一瞬でチンピラその2の懐に飛び込み――。
「ふっ!」
髪の毛が無数の拳に変身して――。
――――――
『ドガッ!!バキッ!!バカッ!!ドゴッ!!――』
『必殺、超熱々息(チョーアツアツブレス)ーー!!』
『ドォーーーン!!!』
『今日も事件を燃やして解決っ☆マジカルキョーコ~~~♪』
「やったぁー、キョーコちゃん勝った~~!!♪」
「ぁー…、ララちぃホントにマジカルキョーコ好きなんだねぇ…」
「うんっ、だってキョーコちゃんカッコいいんだもん♪私もこんな風になりたいなぁ~」
「いや大丈夫だって、ララちぃもある意味キョーコちゃんに負けてないから」
「えー、そんな事無いよ~。私火吹けないもん」
「いやいや別に吹く必要も無いでしょ!?それじゃもう完全に怪獣か何かだから、冗談抜きで!」
「む~、でも私もあんな感じでゴーッってやりたいなぁ~。こう……ちょーあつあつぶれすーーー!!」
『ボォォォウッ!!!』
「「わぁぁぁっ!!?」」
「……………あれ?」
インフォメーション 終わり。
――――――
「ぅ……ぅわ―……」
「悲惨…」
「……(放心状態)」
死屍累々、見るも無惨な光景を目の当たりにして茫然とするリト達三人。
「あの………大丈夫か?」
「見ての通り、かすり傷一つ付けられていませんよ」
「いやそうじゃなくて、ソイツ達はちゃんと生きてんのかって聞いてんの」
転がってる物体からウーウーと呻き声が聞こえて来たので、とりあえず生きてはいるようだ。
「まぁ…ありがとな、助かったよ」
「ありがとヤミちゃん」
「ありがと…」
「…別に。私はただ依頼遂行の邪魔をされたくなかっただけですよ、結城リ……いや、レモンでしたね」
表情を変えずにそっぽを向いて、淡々とそんな事を言うヤミ。
しかし、若干頬を染めて照れてる様に見えるのは気のせいだろうか?
「にしても、結城さん無茶しすぎよ。怪我でもしたらどうするつもりだったの?」
「いや…、何て言うか身体が勝手に反応してね…。それに、怪我するだけで二人が助かるなら安いモンだとも思ったし…」
「そんな所まで結城くんに似なくてもいいの!結城さん女の子なんだから!」
「ははは…」
「ホントは男なんだけどね」とは思ったが、口には出せないので笑って流す。
「『女の子』……………………………ぷっ」
(――って、オレ今ヤミに笑われた!!?)(ガーン!!)
リトはかなりショックを受けた。
「ぇ…えーっと……、と、ところでヤミちゃんもお買い物か何か?」
これ以上リトを傷つけさせない様にと、ヤミが抱えている紙袋に視線を向け強引に話題を変える春菜。
「え……ぇぇ…まぁ…」
「へぇ~、何買ったの?」
(どうせたい焼きだろうけど…)
「えっ!?そ…それは……その…///」
「?、どしたの?何でそんなに挙動不審になるの?」
「ぁ…あなたには関係無いじゃないですか…///」
リトからの質問に何故か言葉を濁し、目を泳がせながらも何とか誤魔化そうとするヤミ。
――と。
『ビリッ!――バサッ!』
「へ?あっ…!!///」
さっき大暴れしたせいか、紙袋の底が破れ中身が地面に落ちてしまった。
「…って」
「あら?」
「これって…」
紙袋から出て来たのは、赤・白・黄色等々の色とりどりの――。
「……………パンツ?」
「っ!!!///」
『ドカッ!!』
「だっ!!?」
いきなりヤミに髪の毛チョッピングライトをかまされ、リトは地面に突っ伏されてしまった。
「………ぉぃ、なぜ殴る?」
「………辱めを受けました。えっちぃのは嫌いです…///」
「オレ何にもやってないバズだろ…」(小声)
「でも元はあなたのせいです………多分…///」
恥ずかしさを隠す為なのか、落ちた下着を拾い集めながらリトに理不尽な怒りをぶつけるヤミ。
「や、ヤミちゃん…、一体何があったのかは知らないけど、この娘女の子なんだからそんな結城くんを殴り飛ばすかの様な暴力的な事は…」
「大丈夫です…、この人は結城リト並に頑丈ですから…」
(とゆーか本人ですから)
「そ…そうなの?」
(そこまで結城くん似なの?この娘)
あまりにも『リト』との共通点が多すぎる『レモン』に、感心を通り越して逆に不気味さを感じ、冷や汗を流す唯。
「あっ、いたいた。おーいレモり~ん、春菜~、唯っち~!」
――と、ここでようやくララ・籾岡・沢田が合流した。
「ったく、捜したよ~。こんな所で何やってたのさ~!」
「いえ、ちょっと色々あって……………ってあなた達、何でそんなに黒コゲになってるの?」
「いや、ちょっとね…」
「万国びっくりショーを間近で見ちゃってね…」
「は?」
「何言ってんの?この人達」的な感じで、頭に?マークを浮かべる唯。
「む~、おかしいなぁ~。さっきどーやったんだっけ~?」
そして、その後ろでさっきの怪獣技を練習しているララ。
「こんにちは、プリンセス」
「ん?あー!ヤミちゃ~ん♪」
ここでララ達がようやくヤミの存在に気付いた。
「おぉ、きぐーだねヤミヤミ♪何してんの?こんな所で」
「いえ、別に…」
「およ?ヤミヤミ、その紙袋何?」
「え゛っ!?ぃや……これは…その…///」
「へ~、ヤミちゃんもお買い物してたんだ~♪何買ったの~?」
「な、何でもいいじゃないですか別に!そっ、それよりもプリンセス達は一体何を?」
「私達?私達はこの後レモンの歓迎会に行くんだ~♪」
楽しそうに語るララ。誤魔化されてる事にも気付かずに…。
「そーだ!ねーねー、ヤミちゃんも一緒に行こ?」
「えっ?わ…私も…?」
「うんっ、一人でも大勢いた方が楽しいじゃん♪良いでしょ?レモン~」
「いや、ボクは別に構わないけど…、ケーキバイキングの割引券は…?」
「大丈夫っ!都合よく割引券は七枚あったから♪」
「ホントに都合が良いな、オイ」
これがいわゆるご都合設定。
「良しっ!それじゃヤミヤミも加わった所で♪」
「早速行きましょーか、ケーキバイキング♪」
「あの、私はまだ行くとは…」
「「いざ、ケーキバイキングへGOー♪」」
「聞いてませんね…」
「………まぁ、いいだろ?別に。さっきのお礼もしたいしさ」
「行こ~?ヤミちゃ~ん」
「………なら…、せっかくですからご同行しましょう…」
「わ~い、やったぁー♪」
――という事で、面子にヤミを加えた一行は、ようやくケーキバイキングの店へと向かった――。
「ところでリト~、ヤミちゃんが何買ったのか知ってる?やっぱりたい焼き?」
「いや、それが結構派手めの下ぎぃぃぃーーー!!!」
足をハンマーに変身させたヤミに、思いっ切り足を踏んづけられてしまった。
――――――
ケーキバイキング――。
「ここはお菓子の家かいっ!?」
――と、おもわずリトがツッコんでしまうのも無理はない。
何故ならこの店、思ってた以上に店中ケーキ尽くしだったからだ。
ショーケースの中は勿論の事、周りの陳列棚も見渡す限り様々なケーキで埋め尽くされている。だがそれはまだ良い。
店中の椅子・テーブルから壁紙の至る所まで、パイ生地・クッキー・チョコレート等をモチーフにしたかの様な徹底した仕様に、
リトは軽く引いてしまった。
「ぅぅ…、見てるだけで口ん中が甘ったるくなっちまう…」
げんなりとするリト。だか…。
「わは~♪おいしそ~♪」
「ホラ早く行こうよレモりん♪人気あるヤツとかすぐ無くなっちゃうよ。」
「アレまだあるかな~?スペシャルモンブラン」
「……(うずうず)」
「ま…まぁせっかく来たんだから、楽しまなきゃ籾岡さんに悪いわよね。うん…」
女性陣(リト・ヤミ除く)はもう完全に糖分補給モードに入った様で、陳列された沢山のケーキに目移りしていた。
「現金な人達ですね…」
そんな様子を見て、一言ぽつりと呟くヤミ。
「まぁ、女の子にとって甘い物は必要不可欠であるという事は聞いた事あるが…」
「心なしか皆さん、ちょっと殺気立ってませんか?」
「うーむ…、これが俗に言う『スイーツマジック』というヤツなのか?」
「ホラレモりん、ヤミヤミ!モタモタしてないでさっさと来る!!」
「レモン、ヤミちゃん、早くー!」
籾岡とララが早く来る様促す。
既に目が戦闘態勢に入っており、いつでもすぐケーキに飛びつける感じである。
「あーはいはい、行くぞヤミ」
「やれやれですね…」
「ちょっとはしたないんじゃないか?」と思いつつ、リトとヤミは皆の所へ向かった――。
――――――
「お前、そんなに食いきれるのか?取りすぎだろ明らかに」
「えー?これ位普通だよ」
「マジでか」
「だって『甘いものは別腹』なんだよ~♪」
「……さいですか」
トレイにケーキを山積みしているララを見て、少し呆気に取られるリト。
「あれ?春菜そんだけでいいの?」
「えっ?」
対照的に、控え目にケーキが置かれた春菜のトレイを見て、籾岡が尋ねる。
「もしかしてダイエットでも始めた?」
「そ、そういう訳じゃ無いけど…。私そんなに食べられないから…」
「な~に言ってんの♪あんたいつも十個位は軽く平らげ「わー!!わー!!わー!!///」」
笑いながら語る沢田の口を慌てて塞ぐ春菜。
「ちっ、違うからね!私ホントにあんまり食べられなくて、決して無理して我慢してる訳じゃなくて――!///」
「……何故そこまで必死になってレモりんに言い訳する?」
「別にそんなに慌てる必要性はないでしょ?男に聞かれてる訳じゃあるまいし♪」
(いや、いるんですけどね男…)
心の中で軽く籾岡にツッコむリト。
(にしても…、春菜ちゃんそんな一面もあったんだ…。可愛いよなぁ~♪)
想い人の新しい一面を発見出来て、おもわず顔がにやついてしまうリト。
(うぅぅ…、なんか結城くんが笑ってる…。意地汚い娘だと思われちゃったのかな…?///)
そんなリトの反応を見て、どうしても事態をマイナス方面に考えてしまう春菜。
こうして、また一つ二人は余計なすれ違いをしてしまった…。
正直見ててじれったい。
(あ、意外な一面といえば…、コイツも…)
ふと隣に目線を向けると…。
「な……何よ…///」
ララにも負けない位にトレイにケーキを山積みした唯が怪訝そうに尋ねる。
「いや…、古手川さんって…意外と甘党だったんだなぁ~って…」
「いっ、『意外と』って何よ『意外と』って!?私がこんなにケーキ食べちゃ悪いの!!?///」
顔を真っ赤にして、失敬な事を言うリト(レモン)に抗議する唯。ま、怒るのも無理は無いが…。
「あぁっ、ごめんごめん!別に悪いとか言ってる訳じゃなくて!!」
慌てて唯に謝るリト。そして…。
「ただ…、古手川さんにもそんな女の子らしい一面があったんだなぁ~って」
「な…!///」
無邪気な笑顔で無意識の天然ジゴロ発言、発動。
「な…何よそれ…、それってちょっと失礼じゃないの…?///」
そう言って、ぷいっとリト(レモン)から視線を逸らす唯。
だが、気恥ずかしさからか発する言葉はトーンダウンしている。
(…って、何で私はこんなにドキドキしてんのよ…。それも女の子相手に…///)
「?、どうかした?なんか顔赤いけど…」
「なっ、何でもないわよ!!///」
「???」
唯のリアクションに?マークを三つばっかり浮かべるリト。
流石驚異の天然ジゴロと言うべきか…。鈍さも天下一品である。
「(まいっか…)あ、これいただき――」
リトは考えるのを止めて、たまたま視界に入ったケーキをトレイに置いた。
――と。
「あぁぁぁーーーー!!!」
「うぇっ!!?」
突然、籾岡が声を荒げて叫んだ。
「ソレっ!!この店の超限定品のスペシャルレアチーズケーキじゃないの!!?」
「へ?」
さっきケーキが乗ってた皿を見てみると、確かに『一日限定十個、売り切れ必至、早い者勝ち!』と書かれた札が付いていた。
「いーな~レモりん、あたしもソレ食べてみたいなぁ~って思ってたんだけど…」
「あ、ごめん。コレがラスト一個だったみたい…」
「うぁー残念。ここに来る度に狙ってるんだけど、いっつも売り切れてるんだよね、あたしの場合」
「ぁ…ぁははは…、たまたま運が良かっただけだよ」
「はぁ~…、一度でいいからどんな味なのか知りたいな~…。でも売り切れじゃあ仕方ないよね~…」
「ぁ…ぁの……」
「あ~、レモりんが羨ましいなぁ~。あたしも欲しかったなぁ~…」
「……」
「でもしょーがないか、何せ早い者勝ちだし…。いやしかし――」
「……分かったよ譲るよ、このケーキ君にあげるから…」
「えっマジ!?ありがとー♪」
嬉々としてリト(レモン)のトレイから限定ケーキを取る籾岡。
(これ………オレの歓迎会だよな…?)
リトは、そう思わずにはいられなかった。それ位籾岡には遠慮の欠片も感じられなかった。
「さーて、一通り取り終えた所でみんな席に戻りましょー♪」
目的の物を手に入れて(横取りして)ご満悦の籾岡。意気揚々と席へと戻る。
「あいつは…」
「ま、まぁまぁ…、落ち着いて零紋さん」
「あの娘のアレはいつもの事だから、気にするだけ無駄だって…」
拳をワナワナと震わせるリトを出来る限り冷静に宥める春菜と唯。
「三人共、早く早くー!」
「でないと、あたし達だけで勝手に食べ始めちゃうわよー♪」
そんな事など知ってか知らずか――いや、知ったこっちゃ無いという感じで笑顔で手招きする籾岡と沢田。
「レモン~、春菜~、唯~、早く戻ろーよ~。私お腹ペコペコ~」
そしてララはララで、こんな時でもゴーイングマイウェイを貫いていたりする。
「………ねぇ、一発だけ殴ってきても良いかなマジで…」
「気持ちは分かるけど止めなさい…」
ぽんっとリト(レモン)の肩に手を置いて制止する唯。哀れみの涙を流しながら…。
「ほ、ほら、早く行こ?こういう時は甘いの食べるのが一番だって」
そう言って、リトの手を引いて席へと促す春菜。
「ぁ………ぅん…///」
突然春菜に手を握られ、リトはおもわず顔を赤らめてしまい、さっきまでの怒りは一遍に吹っ飛んでしまった。
(ま………いっか、得したし…///)
そう自分に言い聞かせ、ララ達の待つ席へと戻っていった――。
「ところでさ~、一つ聞きたいんだけど…」
「何?」
ふと隣を見ると、ヤミが(なんとなく)満足そうな表情でトレイを眺めていた。
別にそれ自体はおかしくないのだが…。
「たい焼きって…、思ったよりも色んな種類があるんですね…」
「何でケーキバイキングにたい焼きがあんの!?」
それもいわゆるご都合設定。
――――――
「えーそれでは、レモりんの彩南高編入(短期間だけど)を歓迎して、カンパーイ!♪」
『カンパーイ!♪』
「……かんぱい」
籾岡の号令で、全員一斉にグラスを合わせる。
「あ…ありがとねみんな…、ボクの為にこんな…」
なんだかんだあったが、自分の為にここまでお祝いしてくれてる事が嬉しかったので、リトはお礼と共に頭を下げた。
「水臭い事言わないの。あたし達もう友達じゃん♪」
「そーそー、友達を歓迎するのは当たり前の事だよ♪」
「籾岡さん…、沢田さん…」
籾岡と沢田の言葉に、不覚にも涙腺が少し潤んでしまい、おもわず俯いてしまった。
「ありがとう…、二人には今日散々セクハラされて正直かなりムカついてたけど、そんな風に思ってくれててボク――!」
感謝の言葉を言おうと頭を上げると――。
「うまっ!このチーズケーキうまっ!流石限定十個の超人気商品だけあるわぁ~♪」
「う~んデリシャァス♪やっぱここに来たらコレは外せないでしょ~♪」
(――って聞いてねぇ…)
心の中で前言撤回すると共に、この二人に対して不覚にも感謝の念を抱いてしまった自分が恥ずかしくなった。
「結…零紋さん…、里沙も未央も今日の行動はアレだったけど、ホントは二人共零紋さんと仲良くなれた事を喜んでるんだよ。
だからあんまり気を悪くしないで多目に見てあげて」
やはり友達を悪く思われるのは辛いのか、春菜が二人を弁護する。
「…………ホントに?」
「うん、私が保証する♪」
「…………なら良いんだけどさ…」
春菜の言葉は素直に受け止めるリト。本当に単純というか…。
「春菜ちゃんはウソつかねーの!」
あ、そ…。
「おいふぃ~♪」
一方、ケーキを口いっぱいに頬張り、とても幸せそうな顔をしているララ。
「あ、ほらララさん、鼻にクリームが付いてる」
そう言って、唯が指でクリームを拭い取ってあげる。
「ありがと、唯♪」
「全く…、子供じゃないんだからもう少し落ち着いて食べなさい。あむ…」
ララにやんわり注意して、さっき取ったクリームを口に含んだ。
「……」
「?、何?籾岡さん」
「いやさぁ…、そーゆーのって女同士じゃなくてカップルでやるモンじゃないの?」
「はぁ!?///」
いきなりな籾岡の発言とさっきの自分の行動を思い出して、唯の顔がみるみるうちに赤らんでいく。
「やっぱさぁ~、そーゆーのは男と女で
『ほら、もうあわてんぼだな~唯は♪』
『きゃっ♪唯恥ずかしぃ~♪』
みたいなシチュエーションでやる方が何かと萌えるでしょ~?」
「なななな何言ってんのよあなたは!!私は別にそんなつもりで――!!///」
「へー、そっかぁ~…、じゃあ今度はリトと一緒にやってみよ♪」
「やんねーよ」(ボソッ)
リト、小声で拒否る。
「……(もぐもぐ)」
そんな中、黙々と目の前のたい焼きを堪能しているヤミ。
「美味いか?それ」
「やはりたい焼きはカスタードよりも餡ですね。この組み合わせこそ王道であり究極です。
そもそもたい焼きにカスタードを入れる事自体が間違ってるんです。たこ焼きの中にイカを入れて
『たこ焼き』だと言い張るのと同じ位の暴挙ですよ。大体――」
リトからの問い掛けに対して、自らのたい焼き理論を話し始める。
心なしかいつものヤミに比べて少々熱くなってる様に見えるが、多分それは気のせいではない。
「…………お前ホントにたい焼き好きだよな~」
「?、何ですか?突然…」
「いや……、まさかお前がそこまでたい焼きに執着してるとは思わなくて…」
「…………結城リト、それって遠回しに馬鹿にしてますか?」
若干ヤミから殺気が放出される。
「ち、違げーよ!ただお前が食べ物に対してそんなこだわりを持ってたのが意外だって思っただけ!」
「…………まぁ良いでしょう、深く追求しないでおきます」
慌てて弁明するリトに、ヤミは溜め息を一つ吐いて咎めるのを止めた。
「てゆうか誰の所為ですか誰の…」(ボソッ)
「ん?、何か言った?」
「………何でもありません…」
「?、変な奴…」
そんな呟きと共に、ドリンクを一口飲むリト。
「レモン、レモン~」
「何?ララちゃん」
「はいっ、あ~ん♪」
『ブーーーーーッ!!!』
「汚いですね、いきなり」
ララの唐突な行動に思いっ切り噴いてしまい、ヤミから非難を受けた。
「いいいいいきなり何やってんの!!?///」
「何って、コレ美味しいからレモンにも食べさせてあげようと思って」
「だったら皿ごと渡せば良いでしょ!?なんでわざわざ……その……『あ~ん♪』とかする訳!?///」
「レモン可愛いからしてあげたくなったの♪」
「しなくていい!!///」
「………なるほど、一理ある…」
「確かに解らなくもない…」
「……………あの~、お二人共何を…」
「レモりん、あ~ん♪」
「こっちもあ~ん♪」
「ちょっ………ちょっと…?///」
「ホラホラ、レモりんこのケーキ食べたかったんでしょ?あ~ん♪」
「こっちのケーキも美味しいよレモりん。あ~ん♪」
「あーリサミオズルいよ~!私が先だったのに~」
「いやいや、誰が先だろーとやんないからっ!!――ってちょっと聞いてる!?///」
ひたすら三人の『あ~ん♪』攻撃を拒否しまくるリトだが、まるで聞く耳を持ってもらえず次第に押されていく。
「ぅぅ……///」
(だめよ…、だめよ唯…。そんな『私もあの場に混ざりたい』なんて事考えちゃ…。ハレンチでしょ唯…!///)
一方で、二人の常識人は心の中で葛藤していた。持てる理性を総動員させて内なる欲と激しい殴り合いを繰り広げる。
「「「あ~ん♪」」」
「勘弁してくれーーーーー!!///」
「むぐむぐ…、ふぁへふぁへへふへ…」
そしてヤミはそんな光景を眺めながら、たい焼きを頬張りつつ呆れ全開の溜め息を吐いていた…。
――――――
「えへへ…♪楽しかったね~、リト♪」
「ァァ…ソウネ……」
「ぁははは……」
帰り道、『満喫しました』と書いてある様な笑顔で話し掛けるララに対して、
体力も気力も底をついたかの様な力の無い声で返事を返すリト。
そらあんだけやられれば返事もカタカナになるだろうし後ろの春菜も苦笑いしか出来ないだろーね~…。
「もう帰ったらソッコー寝てやる…。とにかく一秒でも長く休みたい…」
「ぁー………お疲れ様、結城くん…」
なんとなく労いの言葉が出てしまった春菜。
「えー寝ちゃうの~!?帰ったらリトに着てもらいたい服があるのに~!」
「――ってコラ待て、またあんなコスプレさせる気かよ!?」
「だって昨日と違って今日はソレもあるからもっと可愛くなるはずなんだもん~!」
ソレ=今日籾岡達に買ってもらった(無理矢理買わされた)ランジェリー一式。
「断固拒否する!今日はもう疲れたの!テコでもやんねー!!」
「むー仕方ない…、じゃあ明日に回し――」
「明日だろーと明後日だろーと永久にやらねーよ!!」
「ケチ~」
「ケチで結構!!それで男の尊厳が守れるなら安いもんだ!!」
「………残念」(ボソッ)
「「……え?」」
「なっ何でもないよ何でも!!ホントに!!///」
そんな事を話してる内に、別れ道に差し掛かった。
「それじゃ、私達コッチだから。またね春菜♪」
「また明日な、西連寺」
春菜に別れを告げて、リトとララは家路に――。
「あっ、結城く――!」
『ギュッ…』
(え…?///)
――つこうとしたが、不意に春菜が制服の袖を引いてリトを引き留めた。
「さ………西連…寺…?///」
「ぁ…ぁの……その………ま、まだちゃんとお礼言ってなかったから…///」
袖を掴んだまま、春菜はリトの顔を真っ直ぐ見据える。
「……ありがと、結城くん…。あの時助けてくれて…///」
「ぃ…ぃゃ……オレは別に大して役に立てなかったし……。それに結局、あの場を治めたのはヤミだったし…///」
「でも、結城くんが真っ先に来てくれたよね…?私……凄く嬉しかったよ…///」
「そ…そうかな…///」
「うんっ…♪///」
「リート~、何やってんの~!?早く帰ろーよ~!!」
先を歩いていたララが、しびれを切らしてリトを呼ぶ。と同時に、春菜が袖から手を離した。
「それじゃ、また明日ね。結城くん///」
「あ、ああ。また明日///」
夕焼けと同じ様な色に頬を染めて別れの挨拶を告げ、二人はそれぞれの家路についた。
「ねーねー、春菜と何話してたの~?」
「え゛っ!?い、いや~、別に大した事じゃねーよ。うん…」
「そお?」
「そおそお♪あ…ぁははは…」
さっきのやり取りを知られたくない故に、必死になって誤魔化すリト。
「まいっか♪それよりも早く帰ろ。私もうお腹ペコペコ~」
「――ってお前、あんだけケーキ食っといてまだ食う気か?」
「『甘いものは別腹、美柑のご飯は本腹』なの~♪」
「随分都合の良い腹してんだな…」
「もしかしたらコイツには本当に『別腹』という拡張機能があるのかもしれない」と思わずにはいられないリトだった…。
そんなこんなで、女の子生活二日目は無事(?)幕を閉じた――。
「しかしララ…」
「ん?」
「…………『女』って大変なんだなぁ…」
ふと上を見上げながら、今日一日の感想を凝縮させたかの様な呟きが黄昏時の空に消えていった――。