―雨が降っていた。

空は肌寒い空気を呼び込んで黒く澱んでいる。
昇降口にて、一人静かに佇む少女―古手川唯は、沈痛な面持ちのまま、どんよりとした空を仰ぎ見る。
「雨、か…」
唯はその小さな唇でそっと静かに呟くと、そのまま視線を落とした。
絶えず地面を打つ雨だれを、唯はぼんやりと見つめ続ける。
「今日は、降らないと思っていたのに…」
放課後、先ほどまでの快晴が嘘のように急に降り始めた雨。
唯はふっとため息をついてしまう。
風紀委員としての仕事を片付け、これから下校しようとしていた矢先のでき事だっただけに、やり切れない感情が沸き上がる。
普段の唯であれば、きちんと折り畳み傘を持参している筈なのだが。
「もう!降水確率0%って、嘘じゃない!」
今朝の天気予報に悪態を吐きながらも、持て余した右手で長い黒髪を耳の上にそっとかけ直す。

降ってしまったものは仕方がない。心を落ち着け、そのままゆっくりと瞼を閉じると、唯は静かに耳を澄ました。
唯は、雨音が好きだった。周囲の余計な雑音を消し、勉強や読書が捗るそれには、確かな情緒があると感じていたからである。
人気の無い校舎。屋根を打つ滴。規則正しく動く、自分自身の鼓動。
だんだんと穏やかになっていく気持ちに、唯は心地よい感覚を覚え始めていた。
「たまにはこうやって、何もしないでのんびりとするのも良いのかもしれないわね」
くすりと呟きながら、そっと自身の肩を抱きすくめる。雨によって運ばれてくるひんやりとした空気に、唯の体は小刻みに震えた。
「ちょっと、寒くなってきたかしら…」
いつまでもこうして立ち竦んでいても仕方が無い。職員室に行って傘でも借りてこよう。
そう思って踵を返す…と、下駄箱に向かって全速力で走ってくる一人の少年―結城リトの姿が目に止まった。
「いけね!遅くなっちまった!」
部活にも委員会にも入っていないリトが、こんな時間まで校舎に残っているとは珍しい。
ずっとここまで走ってきたのだろうか。息を乱しながら下駄箱から靴を取り出すリトに、唯は興味を抱く。
唯は、高くなっていく鼓動を感じながら、そっとリトに近づき、声を掛けた。
「結城君じゃない、こんな遅くまでどうしたの?」
昂ぶる気持ちを抑えて、できるだけ自然に語りかけてみる。
唯の存在に気づいたリトは靴を履く手を止め、はにかんだ笑顔を唯に向ける。
「ああ、古手川。いや、今日の小テストまたぼろぼろでさー、先生に補習喰らってた。しかも俺一人…」
笑いながら恥ずかしがるリトの表情に、唯は半ば呆れながらも、二人っきりで会話が出来るこの状況に心を躍らせていた。
「そうだったの。もう、ちゃんと勉強しなきゃダメよ?次の期末テストまで、あんまり時間も無いんだからね?」
上機嫌な唯は、優しく諭すようにリトにお説教をする。
リトに本当に伝えたいことはこんなお説教ではないのだけれども、素直になれない自分の気持ちにもどかしさを感じ、唯の胸はちくりと痛んだ。
唯のいつもとは異なった様子の穏やかなお説教に、リトは少々困惑しながらも素直に耳を傾ける。
「わ、わかってるよ…ちゃんと次のテストに向けて、頑張って勉強するって」
唯はその返答にふんわりと微笑むと、今度は鞄を持つ手にぎゅっと力を込めてリトを見つめる。
「そ、その…結城くん、今から帰りよね?」
「ああ、そうだけど。古手川も?」
「う、うん。そうなんだけど…」
唯はこくりと頷くと、そっと目を伏せる。
「傘…持ってきてなくて」
いつもリトに対して偉そうにお説教をしてるくせに、傘を持ってきていないだなんて、だらしのない女の子だと思われてしまうのではないか?そんな些細な心配事が、唯の心を曇らせる。
「そうだよな。ふつう今日みたいな日は誰だって持ってきてないって!みんな職員室に行って、落とし物の傘を借りて帰ったらしいぜ?」
リトの、本人は意識していないであろうさりげない心遣いに、唯は救われた気持ちになる。
「そうなの…え?ってことは、もしかして今から職員室に行っても…」
唯はふと思い至った疑問を口にしようとするが、一瞬躊躇った間にリトが述べる。
「ああ、もう品切れだろうな…」
「そ、そうよね…」
流石に、職員室が保管している傘がそんなに多くないことは、容易に想像が付いた。
「ど、どうしようかしら…」

再び落ち込む唯。唇をきゅっと結び、思い悩んだ表情のまま俯く。そんな唯を見ていられなかったリトは、思い切って声を掛けた。
「古手川!その…俺ので良ければ使ってくれ!」
そう言うとリトは、唯に対して自分の持っていた折り畳み傘を差し出した。
「え?ゆ、結城くん?」
戸惑いながらも唯はそっと受け取る。
両手に握られた、男物の無骨な傘。それを見やると、やがて唯の心はみるみるうちに暖かくなる。
「偉いのね結城くん。こんな日にまで傘を用意してるだなんて」
珍しく唯から素直に褒められたリトは、恥ずかしそうにして視線を逸らす。
「ち、違うんだ…俺、いつもロッカーの中に一本だけ折り畳み傘を置いとくようにしてるんだ。そ、その…今日みたいな日の為にさ!」
照れながらそう語るリトを見つめがら、唯の心は嬉しさでいっぱいになる。
が、またふと浮かんだ疑問を唯は投げかけずには居られなかった。
「ということは、結城くん…もしかして教科書とかも全部ロッカーに置きっぱなしなんでしょう!?」
「ギクッ!!」
瞬間、図星を付かれたリトは体を硬直させるも、急ぎ靴を履いて昇降口から逃げようとした。
「ちょ、ちょっと待って結城くん!結城くんの分の傘はあるの?」
呼び止められて振り返るリトは、困ったような表情を見せる。
「いや、無いけど…」
じゃあ一緒に…と唯が言おうとするよりも早く
「その傘小さくて、一人しか入れないんだ」
そう述べるリトに対し、唯は複雑な想いを抱く。
確かにリトの言うとおり、この折り畳み傘では、相合い傘は難しいだろう。
「だからって、結城くん一人が濡れながら帰らなきゃいけないだなんて…」
そんな唯の、申し訳なさそうな言葉に対して、リトはニカッと笑って答える。
「気にすんなって!古手川は女の子じゃないか。俺なら全然平気だって!」
「で、でも…」
まだ納得のいかない唯に対してリトは背を向けると、全速力で昇降口から飛び出していった。
「あ、ちょっと結城くん!」
「じゃあな、古手川!また明日!」
そう言い残し、雨の中駈けだしていくリトを見つめながら、唯は貰った折り畳み傘を両手でぎゅっと抱きしめる。
「結城くん…///」
リトの優しさに身を捩らせながら、唯はその背中が見えなくなるまで見送った。

「どうしよう…結城くんに、傘借りちゃった…///」

その夜、唯は机に突っ伏しながら、下校時の出来事に想いを馳せる。
いつもであれば、この時間は勉強に励む唯も、この日ばかりはなかなか身が入らないでいた。
机の縁をつぅっと指でなぞりながら、自分に背を向け走り出したリトの姿を思い返す。
「べ、別に、カッコいいとか、そういうことを思ってるわけじゃないんだから!///」
唯は一旦我に返るも、一度紡ぎ出したリトへの想いは止められなかった。
「でも…優しいな…///」
そう言うと唯は、枕元に置いてあるクマのぬいぐるみを手に取って抱きしめた。
柔らかい綿の感触が、溢れる気持ちを更に促す。
「結城くん、か…」
結城リト。
唯は彼のことを、最初こそクラスの風紀を乱す問題児だとばかり思っていたが、彼の純粋な心と優しさに触れ、今となっては特別な存在となっていた。
それが恋なのかと問われれば難しいところだが、唯が何かしらの形でリトに好意を抱いていることは、紛れもない事実であった。
熱っぽくなった心を懸命に静めて、両目を強く瞑る。
これまで男の子と深い仲になったことの無い唯は、嬉しさと戸惑いの入り交じった心境で悶々としていた。

あの後、リトの傘をさしながらご機嫌で帰宅した唯は、玄関先にて兄の遊と入れ違いになった。
「あれ?お兄ちゃんどこに行くの?」
「ああ、今日からサークルの合宿で3日くらい家空けるから、留守番宜しくな」
短く言い放ち、遊はせっせと靴紐を結んでいく。
「そ、そう、今日だったわね。行ってらっしゃい」
「ああ……ん?」
ふと、遊は唯が大事に持つ見覚えの無い傘に視線をやり、更に唯の上気した頬に注目すると瞬時に事情を見抜いたのか、ニヤリと口元を歪めた。
「へぇ、お前男から傘借りたのか。やるじゃん」
「な!?///」
なぜわかったのかと驚いた唯は、それこそ動揺を露わに顔を真っ赤にさせながら口をわなわなと震わせる。
遊はそんな初々しい妹の反応が可笑しくて仕方がないといった様に微笑みながら、くしゃりとその頭を撫でると玄関のドアに手を掛けた。
「きちんと乾かして、それから綺麗に畳んで返してやるんだぞ?男はそういう心遣いに結構弱いからな」
「わ、わかってるわよ!お兄ちゃんには、関係ないでしょ…///」
遊に何もかも見透かされて面白くないのか、唯は視線を逸らすとぷぅっと顔を膨らませる。
「まぁそう怒んなって。じゃあな唯、お土産期待しながら大人しくしていろよ」
「う、うん、気を付けてね」
旅行鞄と傘を手に家を出る遊を、唯は不機嫌ながらも寂しい面持ちで見送った。
遊からのアドバイスは、唯にとっては煩わしくもあり、また頼もしいものでもあった。
遊が自分のことをからかいつつも心配してくれていることは、唯の心にちゃんと伝わっていた。
それだけで、この兄妹は十分だった。

今、リトの傘はバスルームに干してある。明日の朝には乾く筈だ。
「ええと、そうしたら、綺麗に畳んで…ああ、それから、何かお礼をしなくちゃいけないわね」
唯は上機嫌にぬいぐるみを抱きしめたまま、リトが喜んでくれそうなプレゼントを思い描く。
「手編みのマフラーなんかどうかしら?ううん、でも今から編むには時間がかかるし、そういうのはクリスマスとかに用意するものよね。どうしよう…」
唯はぎゅうっとぬいぐるみを抱きすくめる…と、ある考えが思いついた。
「そうよ!心が籠もっていれば、別に物じゃなくても良いわよね。例えばうちに招待してあげたり、或いはデートとか…」
そこまで言うと、はっと唯は我に返り、頬を染めながらぬいぐるみに顔を埋める。
「な、何がデートよ…私ったら浮かれすぎ…ハレンチだわ///」
唯は心を落ち着けようと、指先の手入れを始めた。
リトのことを考えると、いつもよりも念入りに仕上げようと気合いが入ってしまう。
オイルでマッサージしてから、甘皮の処理をする。1日の終わりに行う、唯のささやかなおしゃれ。
ネイルは校則違反なので、せめて爪磨きで整えようと、唯は丁寧に手入れをしていく。
「結城くん、風邪ひいたりしてないかしら…」
結城家が学校から近いとは言え、流石にあの雨の中を濡れずに帰れたはずがない。
「大丈夫かしら?明日、学校来れると良いんだけど…」
唯は手入れを終えると、天井の蛍光灯に向けて両手をかざす。
その視線の先に、綺麗に仕上がった自分の指先が映り、唯は満足した様子で頷いた。
「もし結城くんが風邪をひいたら、私がお見舞いに行ってあげなくちゃ///」
リトの為にと、あれこれ看病をする様子を思い描きながら楽しそうに笑うと、唯は机から離れてベッドへと腰掛ける、と
「…っくしゅん!」
くしゃみをした唯は、震える自分の肩を抱きすくめる。
風呂から上がってからというもの、唯は暖かい格好をするのも忘れてリトへの想いに没頭していたのだった。
「湯冷め…しちゃったかしら?もう!私としたことが…早く寝ましょ」
唯はそそくさとベッドに入ると、ぬいぐるみを枕元において声を掛ける。
「うふふ…おやすみなさい、結城くん…///」
ぬいぐるみの頭をよしよしと撫でると、唯は幸せそうに眠りについた。

「38.2℃…よくもまぁ、学校に来ることが出来たわねぇ」
唯の脇から取り出した体温計を凝視すると、御門先生が素直に感嘆の声を上げる。
保健室のベッドに横たわった唯は、熱い吐息を吐きながら天井をぼぅっと見つめていた。
「一体どうしたの?もしかして昨日、雨に濡れて帰っちゃったのかしら?」
―いや、雨に濡れながら帰ったのは私じゃなくて結城くんなんだけれど…と、この場に関係のないリトの話題を出せるわけもなく、唯はただ己の体調管理の甘さを嘆いていた。
「ご迷惑をおかけしてすみません…もう大丈夫ですから…」
そう言ってベッドから降りて上履きを履こうとする唯を、御門先生にしては珍しく、慌てて制する。
「ダ、ダメよ、まだ大人しくしていなくちゃ。今薬をあげるから待ってなさい」
唯の体に丁寧に毛布をかけ直すと、御門先生は棚から薬の入った瓶を選び始める。
焦点の定まらない視線を虚空に漂わせながら、唯は今までの出来事を思い出す。
「ええと、朝起きて…頭が痛かったけど、結城くんの傘を畳んで登校して、それから…」
「骨川先生から聞いたわよ。あなた、授業中に突然倒れたんですって?」
唯は思い出した。
数学の授業中、指名されて黒板の問題を解いていた唯は、急にそのまま崩れ落ちるようにして気を失ってしまったのだった。
ついさっきまで意識がなかった唯は慌てて自分の身の回りをチェックする。
辺りを見回すと、自分の物と思しきブレザーが壁際に丁寧にかけられ、寝苦しくならないよう配慮してくれたのか、胸元のリボンも外されていた。
時刻を確認すると、午後3時。今日は半日授業なので、とっくに放課後。
数学の授業は4限だったので、かれこれ3時間以上は眠っていたことになる。
「私…どうやってここへ?」
「うふふ、結城くんが背負って運んでくれたのよ♪」
ふと浮かんだ唯の疑問に対し、御門先生はウインクをして答える。
「えっ、結城くんが…///」
瞬間、唯の鼓動が高鳴る。
「ええ。彼ったら一生懸命、教室から保健室まであなたを運んでくれたのよ。ほんと、優しい彼氏を持ったじゃない古手川さん♪」
御門先生の言い放つ「彼氏」という響きに、唯は顔を真っ赤にしながら慌てて言い繕う。
「そ、そんな…違います!結城くんはそういうのじゃなくて…///」
そんな唯の反応に、御門先生は口に手を当て、楽しそうにころころと笑う。
「噂をすれば、かしら?」
「え?」
唯が疑問を口にすると同時に、保健室のドアが勢いよく開かれた。
「唯ー!大丈夫!?」
「ラ、ララさん!?」
ふわりと胸に飛び込んでくるララの甘い香りが、唯の鼻腔を擽る。
戸惑う唯を尻目に、ララはいきなり自分の額を唯の額へと当てて体温を計る。
「あ、熱ぅ!うわぁ、すごいお熱だねぇ唯。大丈夫?辛くない?」
ララの心配そうな表情に、唯はたじろぎながらも嬉しい気持ちで一杯だった。
「え、ええ…もう大丈夫よ。心配してくれて…ありがとう…///」
唯の感謝の言葉に全身で喜びを露わにしたララは、両手を広げるや否や、ぎゅうっと唯を抱きしめる。
「唯ったら急に倒れちゃったりするんだから。本当に心配したんだよ!」
「もぅ、ララさんったら…///」
恥ずかしそうに身を捩らせて抵抗する唯に、ララはどこから取り出したのか、手にした冷○ピタを唯の額に綺麗に貼り付ける。
ひんやりとした心地よい感触に、唯の不快感は徐々に消え去っていく。
「お熱が出たときには、これを貼ると良いんだよね?どう、唯?気持ちいい?」
「ええ…ありがとうララさん///」
気持ちよさそうな唯の表情に嬉しそうに頷いたララは、まるで姉が妹をあやすかの様にぽんぽんと唯の頭を撫でる。
「ちょ、ちょっと、子供扱いしないでよね///」
「えー、いいじゃなーい♪」
ララからのスキンシップに、唯は熱によって上気した顔を更に赤くさせる。

「古手川さん、お加減はどう?」
ララの背中からひょっこりと顔を出したのは春菜だった。
「勝手だったとは思うんだけれど、古手川さんの帰りの準備はしておいたからね」
春菜は手にした唯の鞄を、そっと渡す。
「早く風邪治して、元気になってね!」
そう言うと、春菜は自分の手を唯の手に重ね合わせてぎゅっと握った。
「あ、ありがとう西連寺さん…ララさんも…///」
そう言うと、唯の頬に、つーっと一筋の涙が伝わった。
「え?ちょ、ちょっと唯?」
「こ、古手川さん?」
二人が驚きの声を上げるも、一度溢れだした感情は止められない。
今までずっと孤独だった唯にとって、二人の暖かな優しさは、唯の心を溶かすのには十分だった。
止めどなく流れ出る涙。唯は恥ずかしさで顔を両手で覆う。
「ご、ごめんなさい!私ったら…///」
「そんな!謝ることなんてないよ!」
「ララさんの言う通りよ!」
ララと春菜が、優しく唯の体を、そして心を、包み込むように抱きしめる。
「暖かい…///」
こんなにも自分を想ってくれる友達の存在に、唯は心の底から喜びを感じていた。


一頻り泣いて落ち着いた唯に、御門先生が「どうぞ」と薬を渡す。
「明日は日曜日なんだし、今日のところは早く帰ってゆっくりと休みなさい。お家の方に迎えに来てもらいましょう」
そう言って電話を取ろうとする御門先生に、唯は小さな声で遮った。
「そ、それが…両親は海外へ出張中で、兄もサークルの合宿に行っているので…家には私しか居ないんです…」
俯きながら語る唯の言葉を受けて、御門先生は思案に暮れる。
「そうなの。じゃあ私が…って言いたいところだけど、これから職員会議があるのよねぇ」
人差し指を口元にあてがって考えていた御門先生だが、やがて意を決した様に口を開く。
「じゃあ、結城くんにお願いするわ」
「そうだね!リト、頑張って!」
「ええ、結城くん、悪いけどお願いね」
三人の視線が、保健室の入り口に突っ立っているリトへと向けられた。
「え?…俺っすか?」
リトは自分を指差して聞き返す。
「そうよ。だってあなたじゃない。古手川さんをここまで背負って運んできてくれたのは♪」
御門先生からの「当然でしょ」とでも言いたげな物言いに、やがてリトは観念したように首を縦に振った。
「ありがとう結城くん」
御門先生は満足げに微笑むと「よろしくね」と職員室へと足を向けた。
「じゃあリト、私たちも先に帰るけどー」
「何かあったらいつでも呼んでね結城くん」
ララと春菜はリトにそう言い残すと、唯に「お大事に」と笑顔で手を振って保健室を後にした。

「……………」
「……………」
停止する時間。
唯は恥ずかしさを露わにしながら、震える声でリトに問いかける。
「も、もしかして結城くん…最初からそこに居た?」
「え、えーっと、そのー…」
リトは曖昧な表情をしていたが、やがて引きつった笑顔のまま、申し訳無さそうに頷いた。

リトの胸元で、唯が手に持つ二人分の鞄が揺れる。
「ごめんなさい、結城くん。家まで送ってくれるだなんて…」
「気にすんなって。それに古手川、すっげぇ軽いし」
「そ、そう…///」
唯をその背にしっかりと背負いながら帰路につくリト。
負担をかけない様、一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
「俺の方こそごめんな。二人分の鞄持たせちまって」
「大丈夫よこれくらい。結城くん、手が塞がっているんだから仕方ないわ」
そう言うと唯は、リトの背中にこつんと額を当てる。
(結城くんの背中って、意外と大きいのね…)
クラスの中でも決して大柄とは言えないリトの背中も、今の唯にとってはとても頼もしく思えた。
「そ、その…さっきは恥ずかしい所を見られちゃったわね///」
唯は火照った頬をリトの肩越しに押しつけるようにして話す。リトに顔を見られることの無いこの体勢が、唯を無意識のうちに素直にさせていた。
「そんなことないって!俺、感動したんだ!女の子同士の友情って、いいなぁって」
迷うことなく自分の気持ちを述べるリトの言葉を受け、唯の頬は更に赤みを増していく。
「ララも西連寺も、古手川の目が覚めるまでずっと待っていてくれたんだぜ?ほんと、二人とも優しいよな」
まるで自分がしてもらったかのように、嬉しそうに話すリト。
「え、ええ…///」
今まで自分を心配してくれる友達など居なかった唯にとって、二人の献身的な優しさは、何物にも代え難い喜びであった。
「…でも、私が教室で倒れたとき、保健室まで運んでくれたのは結城くんなんでしょ?御門先生から聞いたわ」
「え、あ…いや…」
「その…ありがとう…///」
唯からの素直な感謝の言葉に不意を付かれ、一瞬口ごもってしまったリトだったが、しっかりと前を見据えると静かな声で唯に告げる。
「古手川に、お礼がしたかったんだ」
「え?」
「俺が体育祭でケガしたとき、古手川は自分のリレーを棄権してまで付き添ってくれただろ?だから、そのお礼だよ…」
「ゆ、結城くん…///」
自分のことを気遣い、助けてくれたこの少年の存在を、唯はただただ愛おしいと感じていた。
二人はお互いを意識してしまい暫く無言になっていたが、やがてリトの言葉が沈黙を破った。
「それにしても…」
「え?」
リトの含みを持った語り出しに、唯は少し身を強ばらせる。
「なんで昨日傘を使ったお前が風邪ひいてるんだよー!ふつうは逆だろー!」
「な!?そ、それは…///」
―結城くんを想って悶々としているうちに、湯冷めしちゃったのよ…などとは言えるわけもなく、唯はリトの背中で恥ずかしそうに震えた。
今まで我慢していたのか、一気にまくし立てたリトは、心底可笑しそうに盛大に笑い出す。
そんなリトの笑い声に恥ずかしさを抑えきれない唯は、必死に抵抗するかのように、力の入らない手で鞄をリトの胸に叩きつける。
「バ、バカ!私は、結城くんと違って…そ、その…せ、繊細なんだから!///」
「へぇー、ほぉー、ふぅーん…古手川が繊細ねー、そうだったのかー」
「も、もう…知らない!///」

そんな唯の反応を微笑ましく思いながらも、実を言うとリトはかなり切羽詰まっていた。
両の掌に収まるしっとりした太股の肉感。
背中に密着して押しつけられる柔らかい胸の感触。
そして絶えず耳元を擽る、熱を帯びた唯の吐息に、リトの理性は崩壊寸前だった。
唯をからかうことによって気を紛らわそうとしたものの、そんなものは焼け石に水であったことは言うまでもない。
(た、耐えろ俺!古手川の気持ちを踏みにじるな!)

そんなリトが苦境に立っていることなどいざ知らず、唯はゆっくりと流れていく景色に目を見やる。
(小さい頃、よくこうやって、お父さんにおんぶしてもらったっけ…)
くすりと笑うと、その背中をギュッと抱きしめる。リトには気づかれない様に、優しく、そして心を込めて。
遠き日の追憶を辿りながら、唯はどこか懐かしさを感じる安らぎに身を委ねていた。

「古手川、入るぞ?」
コンコンと控えめなノックと同時に、リトの声が唯の部屋に響く。
「いいわよ」
唯は濡れた髪の毛を乾かす手を休めると、リトを自室へと招き入れた。
「気分はどうだ古手川………っ!?」
リトは唯の姿を見るやいなや、途端に絶句する。
しっとりと濡れたしなやかな髪、熱によって赤みの差した頬、そして初めて見る唯の可愛らしいパジャマ姿に、リトは扇情的な感慨にとらわれた。
「な、何よ…じろじろ見ないで///」
唯は胸元を隠すようにして身を縮ませる。勿論パジャマはきちんと着ているのだが、家族以外の男性…特にリトに、自分の風呂上がりの格好を見られることが、唯の羞恥心をかき立てた。
「わ、悪い…さっぱりしたか?」
「う、うん。ありがとう」
唯はタオルを丁寧に畳むと、ごそごそとベッドへと入っていった。
「その…お腹空いてないかな?と思って、古手川が風呂入っている間にちょっと作ってみたんだ」
そう言うと、リトは小さなお盆に乗った料理を唯の目の前まで持ってくる。
リトが作ったのは、カボチャのリゾットとレモネードだった。ひんやりとした室内に広がる、食欲を刺激する匂い。
唯は思わず驚嘆の声を上げる。
「こ、これ…結城くんが作ったの?」
「え、あ、いや…俺もお粥なら経験あるんだけど、リゾットの方は作るの初めてなんだ。居間に置いてあったレシピを見ながら、勝手に冷蔵庫の中の物を使わせてもらって、その…余計なお世話だったかな…?」
しどろもどろしながら説明するリトに対し、唯は首を振って答える。
「ううん、そんなことない!結城くん、料理も出来るだなんて凄いわ。その…ちょっと妬けちゃうかも…///」
「そ、そうか」
鈍感なリトは悲しいことに、唯の妬ける対象を理解できなかったものの、褒められた嬉しさを露わにしながら身を乗り出す。
「じゃあさ古手川、食べてくれよ。口開けて」
「へ!?///」
目の前に差し出されたスプーンに唯は一瞬戸惑うも、リトの言葉の意味に気が付き顔を真っ赤にさせる。
「こ、子供扱いしないで!自分で食べられるわよ!///」
「そ、そういう意味で言ったんじゃないって。俺が、その…古手川に食べさせたいんだ…」
「え!?そ、そんな…え、ええと…///」
必死に食い下がるリト。その目は真剣そのものだった。
しばしの沈黙。やがて唯は観念したかのように目を閉じると、リトに向けて口を突き出す。
「古手川…?」
「し、仕方ないわね…ちゃんと食べてあげるけど、こんなことは…もうこれっきりなんだからね!///」
唯のその言葉に満面の笑顔を見せると、リトはリゾットをスプーンで掬って唯の口元へと運ぶ。
「はい古手川、あーんして」
「っ…///」

唯は恥ずかしさに眉根を寄せながら、小さな口でスプーンを受けるとゆっくりと咀嚼する。
その仕草に、リトは期待と不安に満ちた眼差しを向ける。
「ど、どう…?」
「うーん…」
何かを考えるようにしながら味わっていた唯だが、やがて咽下すると唇を指でなぞるようにしながら感想を述べる。
「ちょっと、味が濃いかしら…」
「マ、マジで?ごめん!バターと塩の分量間違えたかな…」
そう言いながらリトは面目無さそうに頭をかく。
そんなリトを見た唯は大袈裟に手を振ると、慌てるようにしながらフォローを入れる。
「で、でも美味しいわよ!口の中でとろけるみたいになって、後味も悪くないし、さっきまで私あんまり食欲無かったんだけれど全部食べれそう!本当よ!///」
自分の感想がリトの気に障ったのだと思ったのか、唯は一気にまくし立てると、また口先をリトへと突き出す。
「古手川…」
リトは感動を覚えた。別に大したことはない。古手川に、ただ少しのお礼がしたかっただけなんだ。
そう自分に言い聞かせても、自然と笑みがこぼれそうになるのだった。
「じゃあさ、これも飲んでみてくれよ」
リトは唯の手に、レモネードが入ったコップを持たせる。輪切りにされたレモンがゆったりと浸かっており、唯はそれをスプーンでかき混ぜる。
喉が渇いていたのか、こくこくと美味しそうに喉を鳴らすと一気に飲み干していった。
「冷たくて美味しい…」
「本当は暖かくするもんなんだけどさ、お風呂上がりなら冷たい方が良いかなって思って。古手川、一杯汗かいちゃってたし」
リトの、一つ一つの細やかな心遣いが、唯の心を擽っていく。
「あの、私だけ食べているのも気が引けるし、結城くんも一緒に食べましょ?」
「そうか?わかった。じゃあ、俺の分もここに持ってくるからな」
ベッド脇から立ち上がったリトは、そのままとてとてと台所へと向かっていった。
その後ろ姿を見つめながら、唯は溢れる自分の気持ちを抑えるかのように、枕元のぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめた。

「古手川、洗い物終わったよ」
「うん、ありがとう」

「古手川、洗濯物取り込んだよ」
「う、うん、ありがとう」

「古手川、ゴミ捨て終わったよ」
「う、うん…ありがとう…」

「古手川、これ体拭くお湯とタオルね」
「あ、ありがとう…///」

「古手川、じゃあ俺帰るから」
「へ!?///」

唯の家に来てから早4時間あまり。やるだけのことはやったと満足して帰ろうとするリトの言葉に、唯は慌てふためく。
「も、もっとゆっくりしていっても良いのに…」
「ゆっくりって…お前、それ病人が言う台詞じゃ無いだろ」
リトの言う通りなのだが、唯の心の奥で、リトをこのまま引き留めたいという想いがくすぶっていた。
「それに古手川、家に帰ってから全然眠ってないじゃん」
「そ、それは…そうだけど…」
唯は毛布の端を握りしめると、そのまま引き寄せて顔を埋めていく。
「俺のせいでゴタゴタさせて悪かったな。明日は日曜日だし、もう今日はゆっくり休めって」
「う、うん…」
(せっかく結城くんに家に来てもらったのに、看病と家事だけ押しつけて帰らせるだなんて…)
唯は唇をキュッと噛むと上目遣いにリトを見上げる。
そんな唯の視線にも気が付かないリトは、せっせと帰り支度を始めていた。
「えーっと鞄は持ったし、財布…ケータイ…」
と、そのとき、窓をポツポツと叩く静かな音が部屋に届き、二人は思わず顔を見合わせた。
「え、まさか…」
「雨、かしら…?」
リトは窓辺にかかるカーテンを開けると、外の風景を覗き見る。
突然降り出した雨に、街灯の下を通勤帰りの大人たちが小走りに去っていく姿が見受けられた。
「また雨かよ、こりゃ本降りになる前に早く帰らないと!」
リトはカーテンを閉め、くるりと振り返るとベッド脇に座る。
「じゃあな古手川、お大事に。しっかり眠って早く風邪治せよ」
リトの別れの挨拶にも、唯は俯いたまま答えない。
憮然とした表情。
リトはその心を窺うことが出来なかったが、やがて諦めたように唯の髪をかき回すと「じゃあな」と短く告げ、背を向けて立ち上がる……が、くっとその体が突然止まる。
「行かないで…」
「古手川…」
唯が、リトの制服の袖を、その細い指先で懸命に掴んでいたのだった。
「私を、一人にしないで…」
背中越しに、唯の懇願にも似た声が聞こえてくる。
「お願い、結城くん…」
それが今の唯に出来る、精一杯の抵抗であり、我が儘であり、望みであった。
その切実な願いに、リトの心は鷲掴みにされる。
リトは自分の手をそっと唯の指先に触れる。握り返してくる唯の暖かい手。
こんなにも冷えきった部屋に、誰も居ない家に、たった一人で過ごさねばならない寂しい夜。
そんな孤独を、リトは、この少女に味わわせたくはなかった。
リトは唯に向き直ると、決心したかのように口を開く。
「わかった…今夜は俺、ずっと古手川の傍に居るから」
「ゆ、結城くん…///」
唯は心の底からありがとうを込めて、リトの腰に抱きついた。

「ごめんなさい。お兄ちゃんの服、結城くんには大きかったかしら?」
風呂上がりのリトに対し、唯は遊のシャツを差し出した。
「いや、まぁちょっと大きいけど、ゆったりしてて寝るのには丁度いいよ」
「そう、なら良かったわ」
にっこりと微笑む唯。
ふとリトは、今まで思っていた感情をぶつける。
「古手川って、最近変わったよな」
「へ!?///」
思いがけないリトの言葉に、唯は面食らった顔をする。
「なんていうかこう、会ったばかりの頃に比べて柔らかくなったっていうか…」
「な、な、な…///」
口を震えさせるも二の句が継げない唯に対し、リトは更に駄目押しの文句を繋げた。
「だから俺、今の古手川のこと…なんていうかその…素敵だと思うぜ…?」
唯の心はもう、爆発寸前であった。
そんな唯の気持ちを知ってか知らずか、照れくさそうに頬をポリポリとかきながら、リトは就寝の体勢に入った。
唯が用意してくれた布団をせっせと床に敷くと、そそくさと入り込み、ふぅっと息をつける。

「じゃあ寝ようぜ古手川。電気消してくれ」
「………」
「古手川?」
「な、なによ…」
「何で電気消さないんだ?」
「そ、それは…///」
「お前まさか、いつも電気付けっぱなしのまま寝てるのか?」
「…っ!?///」

どうやら当たったらしい。
リトはクスクスと笑うと、それ以上は追求しないようにして、ばさっと毛布を被った。



どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
静寂を破ったのは唯だった。
「結城くん、起きてる?」
「ああ…」
(っていうか、明るくて寝れないんだけど)
という言葉を飲み込んで、リトは答える。
「あの…あのね…そ、その…///」
「ん?」
何か言い何か言いたげな唯であったが、なかなかその口からは本題が出てこない。
唯の、ただならない様子に何かを感じ取ったのか、リトは布団から這い出て面目無さそうに謝った。
「ああ、悪いな。俺が居ると眠れないよな。やっぱり俺、廊下で寝るよ」
「ち、違う!そうじゃないの!///」
唯はガバッと布団を跳ね除けて起きあがると、上目遣いにリトを見つめる。
「そ、その…い、一緒に寝てくれない?///」
「……………は?」
唯からの提案がリトの脳内に正確に届くまで、きっかり5秒間は要した。
「だ、だから!私と一緒にベッドで寝て欲しいって言ってるのよ!///」
耳まで真っ赤にさせながら、唯は喚き散らすようにしてリトに言い放つ。
「で、でもね?隙間は5センチくらい空けて…あ、あとハレンチなことは絶対にしないでよね!///」
無理難題な唯の注目に、リトは最初こそ固まっていたものの、やがて頬を引き締め直すと、その瞳を見据えてしっかりと頷いた。


「結城くん、起きてる?」
「ああ…」
(だから眠れないってば)
蛍光灯に明るく照らされた室内。
隣には艶っぽい吐息を吐きながら、熱い体を寄せてくる女の子。
どう考えても眠気が来るほうがおかしかった。
リトは明るい天井をぽけーっと見つめながら、唯の言葉に耳を傾ける。
「今日は、本当に色々とありがとう。
ええっと…傘を貸してくれて、
倒れた私を保健室まで運んでくれて、
家に着いてからは看病と家事をしてくれて…
ご飯、本当に美味しかったわ、ご馳走様。
今度、あのリゾットの作り方教えてくれる?それから…」
文字通り熱に浮かされたかのように、唯の感謝の言葉は止まらない。
リトはそれを少々恥ずかしくも誇らしげに聞いていたが、やがて唯の口がピタリと止む。
「…古手川?」
リトは寝返りを打って唯に向き直る。
「ほ、本当はね…」
込み上げてくる胸の熱さに耐えるようにしながら、震える唯の整った唇。
リトは、為す術もなく目を奪われる。
「本当は、私が…私が結城くんの看病をしたかったんだから!///」
「え!?」
唯の決壊した想いは、もう誰にも止められなかった。
「昨日だって、結城くんに傘貸してもらえて嬉しくて、
お礼をしなきゃって思って、結城くんが風邪ひいたと思って、
どうやって看病しようかなって考えていたら湯冷めしちゃって風邪ひいちゃって、
でも結城くんは元気で、逆に私に優しく看病してくれて……もう、私、バカみたいじゃないのよ!!////」
溢れる想いと同時に、唯は泣き出した。
唯の告白とも取れる感情の吐露に打ちひしがれたリトは、無意識のまま、その腕に唯を抱き寄せて包み込んだ。
「結城くんのことが好きなの!好き!好き!大好き!!///」
リトの胸で泣きじゃくりながら、唯は心の赴くままに叫んだ。
「ありがとう…俺も、古手川のことが…」
リトは抱き寄せる腕に力を込めると、すぅーっと深く息をする。
こんなにも自分の事を想ってくれるこの女の子のことが、リトは、ただただ愛おしくて堪らなかった。
「俺も、古手川のことが…好きだ!」
瞬間、リトの背中をぎゅっと唯の両腕が抱きしめる。
「嬉しい…!///」
声を上げて唯は泣き続ける。それは、至上の喜びと同義。
「やっと…やっと言えたよぉ…!///」
唯はリトの胸に顔を埋めて抱きついた。それは本当の意味で、二人の想いが一つに重なった瞬間であった。

外を降りしきる雨はとどまることを知らず、益々強くなっていく。
雨音と硬質な時計の音だけが、二人っきりの空間に響き渡っていた。
どれほど抱き合っていたのだろうか。
リトは唯に回す腕を緩めると、その小さな体に語り掛ける。
「古手川、起きてるか?」
「バ、バカ…眠れるわけないじゃない///」
(古手川もなのか)
眠れないのは目の前の少女も同じなのかとわかると、リトは顔を綻ばせた。
「古手川って、案外寂しがりやなんだな」
「わ、悪かったわね///」
笑いながら問い掛けるリトの言葉にも、唯は否定しない。
自分を理解してくれるリトの優しさが、どうしようもなく嬉しかったからだ。
リトは唯の体に覆い被さると、その熱い頬に自分の手を重ねる。
互いの吐息がかかるほどに近づいた距離で、二人は見つめ合った。
どくんどくん、と鼓動が徐々に早くなっていくのがわかる。
それが自分のものなのか、相手のものなのかは最早関係ない。同じ事だ。
リトはしっかりと唯を見据えて、その心に刻み付けるように口を開いた。

「俺、古手川を抱きたい…」
「……へ!?///」
素っ頓狂な声を上げる唯に構わずリトは繰り返す。
「古手川を、抱きたいんだ…!」
「そ、そんな…ダメよ結城くん…ハレンチだわ…///」
そう拒むものの、言葉とは裏腹に唯は体をリトに密着させる。
「古手川…」
「ゆ、結城くん…そ、そんな…私たちにはまだ、その…う、うぅ…///」
リトの澄み切った瞳に、唯は吸い込まれるようにして見入ってしまう。
純粋で、真摯で、あどけない少年の輝きを未だに残したその眼は、唯の心に深く染み渡っていった。
「ハ、ハレンチな…!///」
そう言うと唯は、自分の胸にリトを抱き寄せる。
「こ、古手川…?」
てっきり殴られるものだと思ったらしいリトは、意外に満ちた声を上げる。
「い、良いわよ…結城くんに、私を…抱かせてあげる///」
「ほ、本当か!?」
「た、但し…」
驚きの声を上げるリトに対し、唯は覚悟の籠もった口調で遮る。
「優しくして!そして絶対に私を離さないでいて!それから…後でみっちりとお説教なんだからね!///」


「んっ…ちゅっ…んふぅ、うぅん…ちゅる…」
二人は唇を重ねると、お互いを貪り合うように深く舌を絡める。
(な、何これ…気持ち良い…)
初めてのキス、しかもディープキスのとろけるような感触に、唯は夢中になってリトに吸い付く。
「ちゅ、ちゅ…んふ、んん…ダ、ダメ…も、もっと…もっとしてぇ…」
唯の激しい攻めに驚いて口を離したリトを、逃がすまいと抱きついて唇を塞ぐ。
「んふ…ちゅる…ちゅ、んん…ちゅ…んん?…も、もぅ…ちゅ…んふぅ…」
ベッドの縁に追いつめられたリトは、負けじと唯のしなやかな黒髪を左手でゆっくりと梳く。
それが気に入ったのか、唯は気持ち良さそうに身を捩らせた。
やがて唇を離すと、二人の間を唾液がつーっと糸を引く。
唯が舌を使ってそれを掬い取るようにして口に含むと、今度は触れるだけの口付けをリトに交わす。
楽しそうに、えへへと笑う唯を、リトはぎゅっと抱きしめた。
「も、もう、結城くんったらさっきから抱きしめてばかりじゃない///」
「し、仕方ないだろ、古手川が可愛いのがイケないんだ…」
「バ、バカ…///」
唯はリトの体から離れると、ころんとベッドに寝っころがる。
高熱によって赤みが差したその体は、いつも以上に唯の色香を醸し出していた。
リトはその上に覆い被さると、唯の胸をパジャマの上から掬い上げるようにしてやんわりと揉みしだく。
「古手川の胸、柔らかくて気持ち良い…」
唯の内面を表すかのような、情熱的な赤い色のパジャマ。
寝るときはブラジャーを付けないのか、唯の熱い乳房を布越しにリトは味わった。
「あっ…ん…ゆ、結城くん…も、もっと…して…」
涙に濡れる瞳で懇願する唯。
その愛らしい表情に、リトは背筋をぞくりとさせる。
リトは緊張に震える手で、唯のパジャマのボタンを一つずつ開けていく。
その手を、唯は優しく両手で包む。
「クスッ、結城くんの手、震えてる…」
「ご、ごめん…俺、その…こういうの全然慣れてなくて…」
指摘されたリトは、申し訳無さそうに唯に謝る。
「え?じゃあ結城くんも…初めてなの?」
「古手川も…?」
二人は同時にこくりと頷き、赤くして俯いた。
「あ、焦らないで良いから、結城くんの好きなようにして、ね?」
優しく促されたリトは恥ずかしそうに微笑むと、唯の口元をそっと持ち上げて、そのままキスをした。
「ありがとう、古手川…」
そうして、唯の上のパジャマをゆっくりと脱がせる。
リトは思わずゴクリと喉を鳴らした。
煌々と照らされた蛍光灯の下に、唯の美しい裸体が晒れる。
「い、いや!そんなに見ないで結城くん!で、電気…電気消してよぉ…///」

余程恥ずかしいのか、唯は胸元を両手で隠すと、身をくねらせてリトから逃れようとする。
「ダメだ…古手川の体、すっげぇ綺麗!もっと見せて!」
我慢できなくなったリトは、唯の両肩を掴むと自分の下に組敷く。その体は熱かった。
「あんっ…ゆ、結城くん…んっ…優しくして…」
唯の言葉など耳に入らないリトは、誘われるように乳房を揉みしだく。
「きゃっ…結城くんの手、冷たい…///」
しっとりと汗に濡れた唯の乳房は熱を帯びて熱くなっており、リトの手にしっかりと吸い付いてきた。初めて直に触れる唯の胸に、リトは心の中で歓喜の声を上げる。
「古手川って、結構胸大きいよな…」
「そ、そんなこと…ないわよ…ん、あっ…くぅっ…」
リトの手に収まりきらない、唯の豊満な乳房。
ゆっくりと揉みしだいていると、その手に暖かい唯の手が重ねられる。
「あんっ…だ、大丈夫よ…もっと強く揉んでも…平気よ…」
自分の手で握りしめるようにリトの手を導く唯の手。
リトは指先で唯の桜色の乳首を摘むと優しくこね回す。
「あんっ!んん!はぁっ…気持ち良い…」
「古手川、乳首が好きなの?」
リトの問い掛けに、唯は目を瞑ってぶんぶんと首を振る。
「す、好きだなんて…違うわよぉ…そんな…あ、でも…ダメ!ああっ…」
リトは左の乳房もこね回すように弄りながら、今度は右の乳首に口を付けると吸い付いた。
「ダ、ダメぇ…!そ、そんな、ハレンチ過ぎるわ…んっ…んん…!」
リトはわざと音を立てるようにして乳首を吸い、乳輪をなぞるように下で舐めあげる。
「んあっ…!んん…くっ…こ、こんなの…ダメ、なんだからぁ…あん…!」
唯は両腕でリトの頭を自分の胸へと抑えつけるようにしながら抱きしめる。
「そ…そんなに吸った、って…おっぱい…出ないわ、よぉ……んあ!…」
調子に乗ったリトは、その乳首にそっと歯を立てる。
「ダ、ダメ!…お願い…お願い、だ…から…噛まないで…あ…ああ…す、すご……あんっ…」
しばらく無我夢中で乳首を吸っていたリトだったがやがて口を離すと、涙をいっぱいに溜めた唯の目尻をそっと人差し指で拭う。
「ごめんな、古手川…でも、古手川のおっぱい、すげぇ美味しかった」
「そ、そんなこと言ったって、許してあげないんだから…///」
ツンとそっぽを向く唯。リトは苦笑すると、今度は下のパジャマに手をかける。
「古手川、下も脱がすよ?」
「っ…///」
唯はリトが脱がせやすいように腰をあげる。
「うわ…」
唯のショーツはぐっしょりと愛液に濡れており、秘所の形がくっきりと目に見えてわかった。
リトはショーツの上から割れ目を指先でなぞるようにして這わす。
「んんっ…そ、そこは…んっ、んんっー!」
唯は自分の口を塞ぎ、喘ぎ声を必死に抑えていた。


リトが指を立てて押し込む度に、唯の秘所がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。
「古手川、こんなに濡れたのを穿いていたら気持ち悪いだろ?今脱がしてやるからな…」
「ちょ、ちょっと待って!そこは…あっ…!」
唯が声を上げるも虚しく、ずり下ろされていくショーツ。
秘所からはつーっと愛液が糸を引いていき、その光景にリトは心を踊らす。
ショーツまで奪い去られた唯。身につけているものは黒い色のハイソックスだけになる。
「すげぇよ古手川、こんなに濡れて…感じていてくれたんだ…」
「ち、違うわよ!そ、それは…汗よ!///」
「へぇ、古手川の汗ってこんなに粘っこいんだ」
わざと冷たくリトは言い放つと、指で広げるようにして覗き見る。
「古手川のここ、すげぇ綺麗…」
唯の陰唇は、すでに何かを欲しがるかのように、内部へと誘う様に収縮していた。
初めて間近に見る女の子の大切な場所に、リトの鼓動は一段と高鳴る。
「そ、そんなに…じろじろ見ないでってば…///」
唯はその体全体を真っ赤に染め上げながら、涙混じりの声で訴える。
リトは左の手で広げながら、右の指を唯の秘所にゆっくりと入れていく。
くちゅっという音とともに、唯に飲み込まれる。
第一関節まで入れると、膣内で折り曲げるようにして動かした。
「あっ…ダ、ダメ…結城くん!…かき回さないで…そんな…あ、ああん…!」
肉襞がざわめくようにしてリトの指にきゅうっと絡み付く。
その初めての感触に、リトは驚きの声を上げる。
「古手川、指が痛いって、もうちょっと力抜いてくれよ」
「そ、そんなこと…言われたって…」
唯は空気を求めるように大きく息を吸うと、熱っぽい吐息をゆっくりと吐く。
「自分の指だって…入れたこと無いんだからぁ…///」
(か、可愛い…)
今にも泣き出しそうなその表情がとても愛おしく、リトは唯の頬に優しく手を合わせる。
「可愛いよ古手川…本当に、本当に可愛い!」
「ゆ、結城くん…///」
(そんな…可愛いだなんて…私…)
リトのどこまでも素直な言葉にきゅっと反応する唯の膣内。
「でもこのままじゃ痛いと思うから、ちょっとほぐすな?」
そう言うとリトは、ゆっくりと中指を出し入れするように動かす。
膣内に溜まった唯の愛液が、リトの指でかき出されてシーツを汚していく。
「あっ、あっ…んっ!そ、それ…き、気持ち良いかも…///」
唯の嬉しそうな声に気を良くしたリトは、浅い所を集中的に攻める。
「ふぁ…そこ…ダ、ダメよ…おかしくなっちゃう…んっ…んぁぁっ…!」
やがて、リトは指を動かすペースを緩めると、一番奥まで押し込み、そのまま止める。
「んんっ……結城くん、どうしたの?」
「そろそろかな?と思って」
何が?と唯が言うよりも早く、リトは唯に髪を梳きながら訊ねる。
「古手川と…一つになりたい」
「…///」
顔を真っ赤にさせて戸惑う唯であったが、リトの頬に手を添えると、微笑みながら頷いた。

「ほ、本当に、こんな体勢でするの?///」
仰向けに寝るリトの上に跨る唯は、不安そうな表情で何度もリトに確認を取る。
「ああ、女の子が初めての場合は騎乗位が良いって聞いたことがあるから」
「そ、そうなの…」
少し訝しむ様にリトを見つめていた唯だが、すごすごと納得するとリトのモノを自分の秘所にあてがう。
「結城くんの、大きい…本当にこれ、私の中に入るのかしら…?」
指先でちょんとリトのモノを突っつく唯。
「くっ…こ、古手川…」
「ご、ごめんなさい結城くん!痛かったかしら?」
「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけ…」
リトは笑うと、両手で唯の細い腰を支えるようにして掴む。
「焦らないで良いから、ゆっくり腰を落としてみて?」
「う、うん…」
唯はリトのお腹に両手を付くと、ゆっくりと腰を沈めていく…が、狙いが外れたてリトの太股の上にすとん、と座ってしまう。
「ご、ごめんなさい…///」
そんな唯の恥じらう表情に、リトは我慢出来ずに上体を起こすとぎゅっと抱きしめる。
「きゃっ…結城くん、どうしたの?」
「いや、古手川がすげぇ可愛くて…俺、なんか死にそうだよ…」
「へ!?///」
思わぬ死亡宣言に唯は驚くも、リトの頭をよしよしと撫でてからちゅっと頬にキスをする。
「良くわからないけど…私に好きって言ってくれた以上、簡単に死ぬだなんて言わないでよね!///」
そんな唯の健気な態度に、リトの心は簡単に捕らわれてしまう。
「ごめん、もう言わないって…だから俺がずっと、古手川の傍に居るよ!」
「結城くん///」
唯は微笑みながら頷くと、再びリトの上に跨って挿入を試みる。
くちゅりと音がして、リトの亀頭が唯の秘所に飲み込まれていく。
「は、入った…入ったよ結城くん!」
悦びの声を上げながら、なおも唯は腰を沈める。
リトのお腹に付いた両腕では支えきれなくなってきたのか、苦しそうに下半身をガクガクと震わせる。
「大丈夫か古手川!」
リトも唯の腰を掴んでいた腕に力を込める。
「私は、大丈夫だから…」
そこでピクンと唯の体が止まる。処女膜に当たったのだ。
「古手川、ここから先は痛いと思うけど…」
「大丈夫」
自分を心配してくれるリトに対し、唯は微笑みながら答える。
「だって私、結城くんのことが大好きだもの…それに、これからも結城くんが、ずっと私の傍に居てくれるんでしょ?///」
「古手川…ああ、約束する!俺は、絶対に古手川を離したりなんかしない!」
唯は嬉しさで綻ぶ口元で「ありがとう」と呟くと、今度こそ一気に腰を落とす。
「っーーー!!」
膜を破った感触の後、リトのモノは奥まで突き進む。
暖かく包み込むような肉襞を味わいながらも、リトは心配そうに唯を見上げる。
唯の秘所はリトのモノを根本まで加え込み、結合部からは愛液にまみれた破瓜の証がつーっと垂れ落ちて来た。
「いっ!……んんっ…はぁっはぁっ…!」
唯は痛みに耐えながら、上体を反らして乱れる息を整えた。
「大丈夫か古手川?無理しないでそのままゆっくりしてろ」

下からの問い掛けに、唯は苦しそうに答える。
「ええ、そうさせてもらうわ…」
唯は気持ちを落ち着ける様に、ゆっくりと息を整えていく。
その度に唯の形の良い乳房が揺れ、膣内がきゅっ、きゅっと蠢く。
「んあっ…くっ…!」
その声を上げていたのはリトだ。
絶えず快感を与えてくる唯の膣内に、リトは射精しそうになるのを何とか堪えていた。
「だ、大丈夫結城くん?もしかして、結城くんも痛いの?」
唯の覗きこむ様な問い掛けに、リトは笑いながら首を振る。
「ち、違うんだ…古手川の膣内、気持ち良すぎて…」
「え?///」
予想外の返答に、唯は体を硬直させる。
「あぅっ…だ、だから、そんなに締め付けるなって…」
「そ、そんなこと言われても///」
勝手に締まってしまうのだから仕方がない。
そう言おうとしたが、リトの我慢する表情に、思わず唯から笑みがこぼれる。
(私の中、気持ち良いんだ…)
唯は腰をグラインドさせるようにして動かし始めた。
「ちょ、ちょっと古手川、動いても平気なのか?っていうか平気じゃないのは俺の方かもしれないけど…」
唯は両手でリトの頬を包み込むようにして、親指でリトの目の下をぐっと押す。
「我慢しないで、私の膣内に出して良いのよ?そ、その…今日は大丈夫な日だから…」
「ほ、本当か?」
ぎこちなく頷く唯。その表情がリトの目にはどこか曖昧に映った。
訝しむも、すぐに下半身を襲ってくる快楽に、リトの気は奪われてしまう。
「う、うわぁ……」
両手をリトのお腹に付け、規則正しく上下に動く唯の体。
それだけでも、リトにとっては十分過ぎる程の快感を与えていた。
「う…んん、あん…はぁん……ど、どう結城くん、気持ち良い…?」
唯の両腕の間で、綺麗な乳房が悩ましげに歪みながら揺れ、リトの目はその二つの膨らみに釘付けだった。
「んんっ…も、もう結城くんったら…おっぱいばっかり見ないでよ…///」
リトは何かに操られるようにしながら、絶え間なく揺れる胸へと手を伸ばす。
「ひゃんっ!ゆ、結城くん…お、おっぱいは…今はそれ、ダメぇ…!///」
乳房を握る度に唯の膣内も反応してきゅんきゅんと締まり、その感触にリトは夢中になって没頭した。
「あっあっあっ……ダ、ダメって…言ってるのに…バカぁ…///」

リトは指を唯のしっとりした乳房に食い込ませる。張りのある弾力がリトの指を包み込み、またその手を押し返すように弾んだ。
このまま自分の全てを唯に搾り取られてしまうのではないか?そんな錯覚がリトを襲う。
「ゆ、唯…手、出して…」
ずっと揉み続けていた乳房からようやく手を離すと、リトは唯の両手を掴む。
二人は手を繋ぎながら、高みへと上りつめていった。
「あっ…私、もうダメぇ…本当にダメぇ…!」
「お、俺も…もう…だ、出すな!唯の膣内に…!」
「うん!良いわよ!私の膣内に…結城くんの、たくさんちょうだい…!」
リトは下から一気に突き上げると、最奥に欲望を放った。
「あっ…ふ、ふぁぁん…くぅっ…あ、熱い…結城くんのが、上ってくるみたい……」
唯は大きく背中を反らして絶頂に達した。お腹の中を満たしていくリトの精子に下腹部をぶるぶると痙攣させながら味わう。
「はぁはぁはぁ…」
全てを唯の膣内に注ぎ終えると、リトは唯と繋いでた両手をぎゅっと握りしめる。
「唯…その…すげぇ気持ちよかった。本当に全部唯に吸い取られると思ったくらい…」
「わ、私も、最初は痛かったけど…結城くんのが奥に出されたとき、その…気持ちよかったわ///」
恥じらいながらも素直に気持ちを告げる唯。
「それに結城くん、いつの間にか私のこと…唯って呼んでる///」
指摘されて初めて気づいたのか、リトは顔を真っ赤にさせて、言い澱む。
「ご、ごめん!俺、つい古手川のことを…」
唯は嬉しそうに微笑むと、リトの唇に人差し指を当てる。
「謝ることなんて無いわ。そ、その…これからは私のこと、唯って呼んでも、良いわよ…///」
「っ…!」
そんな愛らしく微笑む唯の言葉に、リトは最早我慢の限界だった。
急いで上体を起こして体勢を立て直すと、とん、と唯をベッドに押し倒したのだった。

ぱさぁっとシーツに広がる、黒く美しい、しなやかな髪。
(すげぇ綺麗…なんか、シャンプーの宣伝みたいだ)
CMと違う点を挙げるとすれば、本当にシャンプーの香りがすること。
そして直に触れることだ。
リトはその黒髪にそっと手を伸ばすと、指を使って優しく梳いていく。
そんなリトの手が気持ちいいのかくすぐったいのか、唯は小さく甘い声をあげるとその身をふるふるっとくねらせた。
「俺、唯の髪すげぇ好きなんだ」
「あ、ありがとう///」
自分の髪には自信があるのか、唯は少し誇らしげに微笑む。
唯の透き通るような白い肌とは対照的な黒い髪が、そこはかとなく映えていた。
リトは慣れない手つきながらも唯の髪を整え終えると、その瞳を見つめて交わりの許可を求める。
「もう一度、唯を抱きたい」
唯はリトの首筋に腕を回すと、熱の籠もった眼差しで見上げた。
「ええ、良いわよ。結城くんの好きなだけ、私の膣内に出して良いから…」
ゴクリと喉を鳴らすリト。
正常位で繋がる二人。
最初はゆっくりと、腰を前後に振り出す。
「あっ、あっ……」
リトが腰を突き出す度、唯の乳房が応える様にして震える。
リトの目の前で揺れるのが恥ずかしいのか、唯は両腕でそれを隠してしまう。
「そんなことしないでくれ!俺、唯のおっぱいが見たい!」
リトは力尽くで唯の腕を退けると、その手を合わせてシーツへと押さえつけてしまう。
「あっ…ちょ、ちょっと…!」
解放された唯の豊かな乳房は、再びリトの下で震え始める。
組み伏せられてしまった格好に、唯は怒ったような、困ったような複雑な表情で睨む。
「バ、バカ…本当に、ハレンチなんだからぁ…///」
可愛く、甘い声で文句を言う唯。
リトは堪らなくなり、最初の気遣いも忘れて欲望の赴くままに腰を打ち付けた。
「あんっ…あぁっ…結城くん…は、激し…す、すご…あっ…んんっ…!」
ぱんぱんっと肉と肉がぶつかり合う音が、二人だけの世界に響きわたる。
すっかりとリトのモノに適応した、唯の膣内。
止めどなく溢れる愛液、そして波を打つようにざわめく肉襞が、リトのモノを奥へ奥へと導き、激しく責め立てて射精を促す。
「んあっ…ダ、ダメ…当たってる…当たってるのぉ…!」
リトが更に奥へと打ち付けると、コツコツと亀頭が子宮口に当たる。
「唯、気持ち良いよ!とろけちまう!」
「あっあっあっあっ………ああんっ!」
リトの言葉も最早耳に入っていないのか、唯は両手を頭の上にあげ、ベッドの縁に掴みながら激しく乱れる。
「俺…もうダメ!!…出すよ唯!」
「あっ…んっ…んんっ…ふぁっ…はぁぁぁぁぁぁんっ…!」
リトは二度目の欲望を唯の膣内へたっぷりと解き放つ。

唯の呼吸に合わせる様にして収縮する無数の肉の襞、それがリトのモノを限界まで絞り出す。
「くぅっ……んんっ…ふぁぁっ…!」
子宮に送り込まれるリトの精子に、唯は体が浮き上がるような感覚に陥る。
まだ射精を続ける自分のモノに構わず、またリトは激しく腰を動かし始めた。
「はぁはぁ…え?ゆ、結城くん?まだ出るの?」
「ごめん唯、これで最後だから…」
悪戯っぽく笑いながら腰を振り動かすリト。
唯はふんわりと包み込むように抱きしめる。
「わかったわ…結城くんの、残らず私に全部ちょうだい!///」
本当にそうなりそうだ、と思いながら、唯のおへその下を指で撫でる。
「唯のここに、本当に俺のが入ってるんだよな…」
唯もまた、リトの手に重ねるようにして自分の子宮に手を当てる。
「うん、結城くんのが…ずっと私の中で暴れているの…///」
激しく息を乱しながら見つめ合う二人。
そのままキスをすると、深く舌を絡め合わせる。
「ちゅ…ちゅ…ん、んふぅ、んん…ちゅ…ちゅぱ…ちゅ…」
唯の唇を奪いながら、リトはその細い腰には不釣り合いな乳房へと手を伸ばす。
「んふぅ!…ら、らめぇ…おっぱいは…ちゅ…ちゅ…んんんっ…!」
唯の抗議を無視して、無理矢理唇を塞ぐ。
貪欲に絡み付いてくる、唯の膣内。
リトは、一心不乱に、夢中になって唯の体に溺れていく。
ぱちゅぱちゅっと激しい水音が立つのも構わずに腰を突き出す。
「んっ…んんっ…ああっ…はぁぁっ…」
唯の可愛い喘ぎ声が、リトの脳髄を刺激する。
乱暴に腰を打ち付け、唇を吸い、おっぱいを握った。
「くっ…あっ…んあっ…ああん…お、奥…奥が良いのぉ…お願い結城くん…!」
腰をひくリトに対し、唯は自分の腰を持ち上げて最奥へと誘う。
「も、もう私…んっ…イッちゃう…あんっ…結城くん…一緒にぃ…あっ…ああっ…!」
「俺も、もう…出すな!唯の子宮に!」
唯はリトの腰に脚を絡めると、奥へ奥へとリトのモノを導く。
「お願い…出して結城くん!…私、全部、受け止めるから…!」
「唯!唯!唯!」
「結城くん…あっ…はぁぁぁぁん…!」
きゅーっと引き締まる唯の膣内に、リトは三度目となる欲望をぶちまける。
リトは、亀頭を唯の子宮口に擦り付けるようにして断続的に射精する。
「ふぁっ…んっ…くぅっ…あっ…ふぁぁぁん……!」
リトの精子は唯の胎内で渦巻き、子宮を隙間なく埋め尽くしていく。
「ま、まだ出てるよぉ…結城くん…!」
唯はリトの首筋に腕を回して引き寄せる唇を求める。
深く舌をねじ込み、唯と絡め合う。
唾液を送り込み、精子を注ぎ込む。
リトは本当の意味で、唯と一つにとろけ合う感覚に陥った。
「ゆ、結城くん…」

自分の名を呼び続ける、愛しい少女。
いつまでも離したくない。
そんな想いと共に、リトはしっかりと唯を抱きしめた。


「もう、入りきらないわよ…///」
結合部から、唯の子宮に収まりきらないリトの精子が溢れ出し、空気を含んで気
泡までもが生じている。
全ての欲望を吐き出したリトは、ぐったりと唯の体に倒れ込む。
「ダ、ダメよ結城くん…私、汗臭いわよ…」
「そんなことないって。唯は、本当にいい匂いがする」
嘘ではなかった。
「バカ…///」
言葉とは裏腹に、精一杯の愛情を込めて、唯は愛しい人を抱きしめた。

事が終わった後も、何となくお互いに離れたくなかったのか、二人は繋がったまま長い余韻を味わっていた。
唯が、ハイソックスにくるまれた脹ら脛でリトの背中を撫でると、お返しとばかりにリトは唯のおっぱいを揉む。
腰も打ち付けはしないが、未練がましく擦り合わせる。
その度に唯は甘い矯声を上げ、リトも快感に身を震わせた。
汗に濡れた肌が密着するのも、今の二人にはとても心地良く感じた。
「俺、ずっとこうやって唯と繋がっていたい」
そんなリトを見上げると、唯は艶美にくすくすと笑った。
「結城くんので、お腹の中がいっぱいよ…///」
そう言いながら下腹部を撫でさする唯。
心なしかお腹が重く感じていた。
「それと、結城くんが、こんなに甘えん坊だとは思わなかったわ…」
「え!?」
唐突な唯からの告白に、リトは不意を付かれる。
「結城くんのハレンチ!おっぱい好き!甘えん坊!///」
思い付く限りの罵声をリトに浴びせながら、唯はとろんとした目をリトに向ける。
「でもね…私は…そんな結城くんのことが…本当に…」
唯は震える手でリトの頭を撫でると、最高の笑顔で想いを捧げる。
「大、好き…///」
すとん、と唯の手がベッドへと落ちる。
「唯…?」
リトが唯の肩を揺すって呼びかける…が、しばらくすると、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「初めてで、しかも風邪ひいてるってのに、無理させちゃったな…」
リトは少し後悔しながら、唯の中から自身を引き抜く。
くちゅっという音と共に、蓋を失った唯の秘所からは止めどなく精子が溢れ出す。
「お、俺、こんなにいっぱい出したのかよ…」
それ程に、唯の体に夢中になった自分。
リトはなんだが気恥ずかしい気持ちになってきた。
その綺麗な肢体をお湯で濡らしたタオルで丁寧に拭いてから服を着せてやる。
「さて、俺も寝るか…」
そう言って欠伸をしたリトの目に、ふと枕元にちょこんと座った、クマのぬいぐるみが目に入る。
「これは…」
どうやら唯の大切にしているぬいぐるみらしい。
それを手に取ると、リトはゆっくりと抱きしめる。
「唯の匂いがする…」
リトは突然、どうしようもない罪悪感に苛まれた。
唯はまだ、こんな可愛らしいぬいぐるみを大好きで、手放すことさえ出来ないほどの純真な女の子だったのだ。
いつもこのぬいぐるみを抱いて寝ているであろう唯のことを考えると、リトの心はズキズキと痛んだ。
「俺が…唯を汚しちまったんだ…」
リトは、すやすやと安らかな寝息を立てながら眠りにつく唯の頭を慈しむように撫でる
「ごめん…ごめんな、唯…」
心の底から、この美しく可愛らしい少女に謝ると、静かに布団をかけ直し、その手をしっかりと握りしめて眠りについた。

「くふっ…あっあっ…うっ…んんっー…!」
唯はシャワーから勢いよく出るお湯を、自身の秘所にあてがって喘ぎ声を上げていた。

唯が目が覚ましたのはちょうど10時を過ぎた頃だった。
唯よりも少し早く起きたらしいリトは、先にシャワーを済ませ、今は食事の準備をしている。

曇りガラスから差し込む陽の光を浴びながら、唯はシャワーを浴びて汗を流していたのだが…。
「んんっ…あっ…結城くんのが、どんどん溢れてくる…///」
昨夜のリトとの初体験では、その迸りを全て膣内で受けた唯。精子を目にするのも初めてであった。
手に取り興味津々に観察する唯。
「ミルクみたいって聞いてたけど、それよりもジャムに似ているんじゃないかしら?でも、こんなので赤ちゃんが出来るだなんて、なんだか素敵ね…///」
止めどなく溢れてくるリトの精子に、唯は顔を赤くする。
「結城くん、こんなにたくさん出してくれたんだ…んんっ…///」
流れ出るのが勿体無いと感じた唯は下腹部に力を込めてそれを止めようとするが、やがて力尽きたように息を吐くと再びそこにシャワーをあてがう。
「妊娠…しちゃったかしら…」
唯は小さな唇で呟く。
リトに、遠慮なく抱いて欲しかった唯は、愚かだとはわかっていたものの、安全日だと、とっさに嘘を付いてしまったのだった。
きゅっと蛇口を捻ってお湯を止める。
唯は自分のお腹を両手で押さえると、穏やかな口調で続ける。
「結城くんは悪くないわ。中に出すことを許した、私の責任だもの…」
唯はバスタオルを取ると、決意に満ちた表情で風呂から上がった。

「じゃあな唯。俺、帰るから」
「あ、待って結城くん!」
帰ろうと身支度を整えるリトを、唯は呼び止める。
「これ、遅くなっちゃったけど…その…ありがとう///」
唯が差し出したのは、一昨日リトが貸した折り畳み傘だった。
唯が綺麗に干してから畳んだのであろう。
まるで新品になって返ってきたかのような折り畳み傘に、リトは目を見張る。
「古手川って器用なんだな!男に貸すと、ふつうぐちゃぐちゃで返ってくるんだけどな!」
リトはニカッと笑うと、嬉しそうに鞄に傘をしまう。
「あの…今度結城くんにお礼をしたいから、その…」
「お礼?そんなの要らないって!それにもう俺、貰ったし…」
一瞬、何のことだろう?と思案していた唯だったが、やがて思いつくと、顔を真っ赤にさせてリトを睨む。
「風邪もすっかり治ったみたいだな。や、やっぱり俺のぶっとい注射のお陰だったりして…」
「ハ、ハレンチな!///」
「げふぅ!」
口元を綻ばせて昨夜の情義に想いを馳せるリトに対して、唯は久しぶりに「ハレンチな!」をお見舞いした。
吹っ飛ぶリトに目もくれず、唯は機嫌を損ねてふんっとそっぽを向いてしまう。
そんな唯をリトは笑いながら見つめていたが、やがてその肩を両手で掴むと真剣な眼差しで語りかける。
「俺、生半可な気持ちで唯を抱いたんじゃない。これからもずっと、俺は唯の傍に居るから。それだけは絶対に約束する!」
「な!?///」
リトの熱の籠もった眼差しに目を奪われていた唯だったが、やがてまたふんっと視線を逸らす。
「わ、わかってるわよ!そんなこと、最初から心配してないわ!///」
リトはそんな唯に満足したかの様に頷くと、とんとんと履いた靴を地面に打ち鳴らして元気良く片手を上げる。
「じゃあな、唯!また明日!」
「うん、また明日///」
唯は、遠くなっていくリトの背中を見送った。

「今度は、絶対に私が看病してあげるんだからね、結城くん…///」

昨夜の雨が嘘のように晴れ上がった空は、まるで澄み切った唯の心をそのまま表しているかの様だった。
太陽の下を走り去っていく恋人の背中を、唯はいつまでも見つめ続けていた。


















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最終更新:2008年03月09日 21:46