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結城家――。


「ん~……」

柔らかな日差し、小鳥達のさえずりが心地良い目覚ましとなって、一人の少年……いや『元』少年結城リトは目を覚ました。

「ふぁ~……ぁふ…………ん…うーーん…」

むくりと起き上がり、欠伸を噛み潰して身体を伸ばし、眠たげな目をくしくし擦りながらベッドから降りる。
この身体になって大分日数も経ったから流石に慣れてきたのか、或いは眠気で頭が回ってないせいなのか、
着崩れたTシャツと下着(パンツのみ)だけという女の子としては何とも霰もない格好を気にする気配が微塵も感じられない。
まぁそれでも、平然と裸で家の中をウロつく居候の宇宙人の女の子よりはマシなのだが…。

(ねむ……)

まだ半分夢の中にいる様な感じで、寝ぼけ眼でしばらくそのまま目の前のドアを無意味にボーーっと見つめてしまう。

(ん~………とりあえずシャワー浴びよ…)

頭をぽりぽり掻きながら朧気にそう思い、眠気覚ましの為にシャワーを浴びようと
制服とブラジャーを抱えてよたよたおぼつかない足取りで浴室へ――。


――――――


一呼吸置いて、シャワーのバルブを回す。
丁度良い温度のお湯が全身に降り注ぎ、肌がお湯を弾くにつれて少しずつ意識が覚醒していく。

「ふぅ……」

髪を掻き上げて小さく一息つくリト。
窓から差し込む朝日に濡れた肢体が照らされて、その整った女の子独特のプロポーションが更に際立たされる。
その光景はまさに、ぜひ一枚の絵にして眺めていたいと請け合う事間違い無いだろう。
勿論、その『女の子』の中身が『男の子』だという事は知らないという事前提で。



『リトーー!』

シャワーの音に紛れて、扉の向こうからララが呼び掛ける声が聞こえてきた。


「んー?何だー?」


『朝ゴハン出来たから早く食べよー?遅刻しちゃう~』


「んー、分かったー」

それだけ告げてララが出て行ったと同時に、シャワーのバルブを閉じた。

「………うし」

小さく気合を入れてから浴室を出て、丹念に全身を拭いてから下着を身に着けていくリト。……が。

「ん……んんっ?」

ブラジャーのホックを止めようとした時、ある違和感に気付いた。

(何か………ブラがちょっとキツい…。昨日まで何とも無かったのに…)

自身の胸をゆさゆさ触りながらちょっと困った様な顔になる。

(もしかして成長してんのかな…?それとも…)

同時に、頭の中に事ある毎に自分にセクハラを仕掛けてくる二人組の顔が浮かんできた。

(あいつ達が所構わず揉んでくるからか…?どっちにしてもまた新しいの買ってこなきゃダメかなぁ…)

そんな事を考えながらリトは制服に袖を通して、きっちり身嗜みを整えてから浴室を出た――。


――――――


「遅いよリト~、私お腹ペコペコ~」

「ごめんごめん、どーも眠気が払えなくて…」

「ほら、話は後にして早く食べちゃってよ。ホントに遅刻しちゃうよ?」

「あーはいはい。んじゃ、いただきます」

「いただきま~す♪」

美柑に促されて、朝食に箸を延ばす。

「あ、そーいや今日は体育の授業があったんだっけ?はぁ……憂鬱だなぁ…」

「あれ?リトって体育得意じゃ無かったっけ?」

「いや、体育自体は別に嫌いじゃない、むしろ好きな方なんだけどさ…。ただ……佐清がな…」

「佐清センセ?」

「あの人…、何かオレと話すときにさ、オレの目じゃなくて胸ばっかり見てる気がするんだよな…」

「?、それが何か問題なの?私もそんな気はするけどちっとも気にならないよ?」

「それはお前に羞恥心という物が無いからだ!普通の人は気にするの!」

「そんなモンなの?」

「そんなモンなの!」

「でもそれってセンセに限った事じゃ無いでしょ?ガッコの大半の男の子は大体そんな感じだよ?(リトは違うけど)」

「そーなんだよなぁ~…。いっつも事ある毎に四方八方からヤラしい視線が刺さって…………うぅぅ、思い出すだけで悪寒が…」

「どーして男の子って女の子とお話する時に胸ばっかり見るんだろーね~?」

「オレに聞かれたって解るかよ、そんな奴らの考えなんか…。全く…、コレだから男ってヤツは――」


ふと、ここで急にリトの動きが止まった。


「?、リト?」

「……」


……………。


…………。


………。


「『慣れ』って恐ろしい…」

突然深ーい溜め息を吐いて、リトはその場にガックリ突っ伏してしまった。

(いかんなぁ…、気が付かない内に普通に『女の子』としての自分に順応してしまっている…。
つーか何だよさっきの台詞は…、オレだって元々『男』だろーが…)

今の今まで無意識の内に、しかも全く違和感無く『女の子』としての行動を取っていた自分に物凄く苦悩するリト。

「いや~、あれからもうすぐ一週間位経つけど、リトも大分『女の子』が板についてきたよねぇ~♪」

そんな兄・リトの様子を見て、ニヤニヤしながら茶化す妹・美柑。

「……今更言うのもなんだけど、お前間違い無く楽しんでるだろ?」

「うん♪」

「言い切りやがったよオイ…」

最早返す言葉も見つからない…。

「リト、もういっそのことこのまま女の子として生活していっても良いんじゃないの?
あたしも実は前々からお姉ちゃん欲しいなぁ~って思ってたし♪これって何か一粒で二度美味しい的な感じ?」

「何でお前の都合に合わせてオレの今までの『男』としての人生全てを捨てなきゃなんねーんだよ!?」

「でもここ最近のリト、行動がすっかり女の子っぽくなったよね?今日だって、普段のリトなら朝からシャワー浴びたりしないし…」

「ぅぐ…」

ララからの素朴なツッコミに言葉を詰まらす。

「こりゃ近い内に心身共に完全な女の子になる日も近いかなぁ~?」(ニヤニヤ)

「なってたまるかぁーーい!!」

美柑の悪戯っぽい笑みと台詞に、リトは近所迷惑も考えずに声を張り上げ叫んだ。

「そーだよ。リトが男の子に戻ってくれなきゃ、私リトと結婚出来ないじゃん」

「………ォィォィ…///」

直後、ララから面と向かってハッキリそう告げられ、おもわずドキッとなった。
何となくララの顔が見れなくて、顔を赤らめ背けてしまう。

「……ホント、色んな意味で宇宙一の果報者だねぇ、我が兄は。あ、今は『姉』か」

わざわざ『色んな意味で』を強調してリトをからかう美柑。

「な、なに言ってんだよお前はっ!つーかそもそもの原因は――!///」

「あ、もうこんな時間だ。早いトコ片付けて学校行きましょう。ね?『レモンお姉ちゃん』♪」

「今日も一日頑張ろーねリト――じゃなくて、『レモン』♪」

「……」



まぁ、そんなこんなで…。


結城リトの『結城レモン』としての生活は、早くも一週間近く経とうとしていた――。


――――――


彩南高校、二年A組教室――。


「とゆー訳で――!」

「何が『とゆー訳』なのさ?何?いきなり…」

昼休み、お馴染みの面子(リト(レモン)・ララ・春菜・唯・籾岡・沢田)+α(ついでに猿山)で弁当を食べていた時、突然籾岡の声が教室内に響く。
反射的に自分の役割(ツッコミ)を果たしたリトだが、籾岡は気に止めずに話を進める。


「いよいよ明日に迫ってまいりました!一泊二日の温泉旅行~♪」

「は?温泉?」

「あぁ、そっか。そっから説明しなきゃなんないか。実はさ――」





籾岡の説明を要約すると――。


先日、沢田と春菜と一緒に商店街で買い物をしていた所に丁度福引きをやっていたらしく、
軽いノリで三人一回ずつやってみたら、見事春菜が『一泊二日温泉旅行、団体様無料招待券』を獲得したらしい…。





「それで、使わないのも勿体無いから今度の連休を利用してみんなで行こうって話になったって訳♪期限も丁度明日で切れちゃうし。
でもって、今からその参加者を募ろうと思ってるの」

「へぇ~、そーなんだ。……でも一ついい?」

「何かなレモりん?」

「……何故前日ギリギリになってそれを言う?」

「忘れてました。そりゃあもうスッカリと♪」

「にこやかに言うな」

あっけらかんと答える籾岡に対して、とりあえず呆れ+冷ややかな視線でツッコミを入れておく。

「とゆー事でどう?ララちぃとレモりんも一緒に温泉に行かない?」

「行きたーーい♪」

間髪入れずにララが手を挙げる。

「はいっ、ララちぃ参加っと♪」

「レモりんはどーすんの?」

「えーと、ボクは…」

沢田に聞かれてちょっと考え込むリト。

「行って損は無いよレモりん♪空気は美味しいし景色も最高、編入の思い出作りにはもってこいだし、
何と言ってもここの温泉、美容・健康にも抜群の効果があるらしいから」

「効果って?」

春菜の方を向いて温泉の効能を問う。

「えっと…、主に美肌効果に疲労回復・成長の促進…、後は……肩こり・腰痛等にも効果があるらしいよ」

「肩こりかぁ…、そーいえばボク、何か知らないけど良く肩が凝って仕方ないんだよね~…」

「あ、レモンも?実は私もなんだ~」

「ララ…ちゃんも?」

「うん。何か分かんないけど気が付いたら肩が凝っちゃってるってゆーか」

「でしょ?別に特別な事やった覚えは無いんだけど無意味に肩が凝っちゃって――」

そんな風に、ララと肩こり談義を繰り広げていると…。

「おーおー、それはまさしく『勝者』独特のお悩みですなぁ~!羨ましいこって!」

「あーあー、あたしも一度で良いからそんな肩こりについて悩まされてみたいわぁ~!」

(……あれ?何か急に不機嫌になった?)

籾岡と沢田の唐突な変わり様に戸惑うリト。

「で?レモりんは行くの?行かないの?」

「へ?あぁ、行きます行きます」
(春菜ちゃんと旅行なんてそうそう出来るモンじゃないし…///)

「はい、『巨乳その2』のレモりん参加っと」

「…………あの~、ボク何か気に障る様な事言ったのかな?」

「「いーえ何にも!♪」」

(笑顔なんだけど目が全然笑ってねー…)

「ぁ……ぁははは…」

最早、苦笑いしか出来ない春菜。

「ぁの……、こっ古手川さんはどうかな?」

そして、空気の流れを変えようと唯に話を振る。

「え?私も?」

「う、うん。せっかくだから一緒に行こ?やっぱりこういうのは大勢いた方が楽しいと思うし」

「私も別に構わないんだけど…、でも学生だけで旅行というのはちょっと問題なんじゃ…」

「あ、それは大丈夫。うちのお姉ちゃんに引率を頼んだから。後、御門先生にもお願いしようと思ってるの」

「そう?……それじゃあ私も行きましょうか」

「唯っち参加っと。春菜のお姉さんと御門先生も合わせてこれで八人だね」

「最高十二人まで使えるからあと四人は誘えるね」

「さて、後は誰を誘うか…」

籾岡と沢田が腕を組んでうーんと考え込む。

「あ、そーいえばララちぃ、結城の奴はどうなの?時間が取れるなら誘っても良いんだけど…」

「ララちぃだって一応結城がいた方が良いでしょ?あたし達はどっちでもいいけど…」

「え゛っ!?えーと~……」

目線をその当人の方へ向けて助けを求めるララ。

「あーそれがね~…、昨日リトから電話があったんだけど、未だにアトリエに缶詰状態らしくてかなり修羅場ってるみたいなんだ~…。
だから多分行くのは無理なんじゃないのかなぁ~…」

「缶詰状態って…、漫画を書くのってそんなに大変な事なの?
てゆーか結城くん、そんな極限状態でちゃんと休めてるの?倒れたりしてないのかしら…」

唯がちょっと心配そうに話に入ってくる。

「ま、まぁリトにとってはそれが日常茶飯事だったから流石に慣れちゃったんじゃないのかな?」

「……」

ふと、何かを考え込む唯。そして――。

「……ねぇ結城さん、前から考えてたんだけど、もし良かったら一度結城くんの様子を見に行
「ダメー!!それはダメェーーー!!!」ぇ……え?」

唯からの嬉しくも冗談ではない申し出におもわず声を荒げて力一杯拒否するリト。
対して、予想外の拒否反応にキョトンとなる唯。

「いい、古手川さんっ!?漫画家の修羅場と化したアトリエっていうのは君が想像してる以上に恐ろしい所なの!!
この間なんか差し入れ持っていてあげた時にアシスタントさんの一人が丸ペン落としただけで
オヤジ――才培の叔父さんに「ウルセェんだよこの×××がぁぁぁ!!!」ってタコ殴りにされてたのを間近で見ちゃったんだからっ!!
そんな危険すぎる所に古手川さんみたいな女の子を放り込むなんて出来る訳無いよ!!リトだってきっとそう言う!!」

「そ、そんな大袈裟――」

「――に言ってると思う!!?」

「……」

唯の両肩をガシッと掴んで、有無を言わさぬ鬼気迫る程の勢いで説得に当たるリト。
実際にその現場を見た事でもあるのか、その言葉は妙に説得力を含み、
唯はその勢いに押されて何も言うことが出来ずにタジタジになる。

「だから気持ちは嬉しいけど自分の命をドブに捨てる様な真似はしないで、お願い!!
リトにはボクが伝えておくから、『古手川さんが心配してた』って!!OK!!?」

「ぁ………ぅん…分かった…」

(ふ~、やっべぇやっべぇ…)

心の中で汗を拭う動作をしながら、リトは盛大な安堵の溜め息を吐いた。

「………ぇーと……とりあえず今回は結城は来れないって事で良いの……よね?」

「残念だったね、ララちぃ」

「う、うん…。いや~残念だなぁ~、リトと一緒に行きたかったなぁ~…」

物凄くワザとらしく悔しがるララ。これでバレないのだから不思議な物である。

「うーん、そしたらどーするか…」

「何だったら身内の人を誘っても良いんだけど…」

「あ、それだったら代わりと言っちゃ何だけど、美柑も連れて来ていいかな?」

「ミカン?」

「誰それ?」

「あぁ、オレ――じゃない、リトの妹さんなんだけど…、
あの子いつも家事とかで忙しくしてるからたまには羽を伸ばさせてあげたくてさ。
それに二日も家に一人っきりにさせる訳にもいかないし…」

「あっ、それさんせ~♪」

「まぁ、そんな事情ならあたしは全然構わないけどさ」

「レモりん優しいんだね。あたしも全然OKだよ♪」

「ありがとう、二人とも♪」

感謝の言葉と共に、二人にニッコリ微笑みかけるリト。

「「ぅ゛…///」」

その笑顔を見て、おもわず顔を赤らめて目を逸らす籾岡と沢田。

(な……なんて凶悪な笑顔を放つんだ、この娘はっ!?おもわず襲い掛かっちゃいそうになっちゃったじゃない…///)

(あっぶな~…、一瞬意識がアンドロメダまで吹っ飛ぶトコだったよ…///)

「?、どしたの二人とも?顔赤いけど」

「「なっ、何でもないよっ!!///」」

「?」

「そっそれよりも後は誰を誘おっか?///」

「そっそうだね!後は誰がいたっけ?///」

誤魔化す様に籾岡と沢田が腕を組んで再びうーんと(若干ワザとらしく)考え込む。


と――。


「あっ!ヤミちゃんがいるーっ♪おーいヤミちゃ~~ん!♪」

ララが窓から中庭のベンチで本を読んでいるヤミを発見した。
手を思いっ切りぶんぶん振って大声でヤミを呼び、それに気付いたヤミが背中に翼を変身させてこちらに飛んでくる。

「何ですか?プリンセス」

「ねーねーヤミちゃん、ヤミちゃんも一緒に温泉行こーよ~♪」

「温泉……ですか?」

「うんっ♪」

「いえ、私は…」

「遠慮しておきます」と言おうとしたが、何故かその言葉が口から出ずに押し黙ってしまう。
何故かというと…。


「わくわく♪(キラキラ)」

目をランランに輝かせて『行く』と言ってくれるのを明らかに期待しているララを目の当たりにしてしまって、
この笑顔を崩してしまう罪悪感から、断りの台詞を言うに言えなくなってしまったからだ。

「ヤミちゃん行こーよ~。美柑も一緒なんだよ~。きっと楽しいよ~♪」

「ぇ…」

美柑の名前を出した途端、ヤミの表情が少しだけ柔らかくなった。

「美柑……も来るんですか?」

「うん、来るよ♪」

(おいおい、まだ話通してないだろ?)

――と思ったリトだが、ここでそれを言うのも野暮という物なので心の中に押し留めておく。

「じゃあ……行きます…」

「やったぁー♪」

「ヤミヤミ参加っと。これで十人だね♪」

「あと二人か~…、他には誰が…」


『ガラッ』
「ララちゃーーん♪」


「あ、レンちゃん」

見計らったかの様なタイミングで突然レンが乱入してきた。

「おぉレンレン、丁度良いところに」

「レンレン、明日ヒマ?」

「へ?明日は特に何の用事も無いけど、どーかしたの?」

「あぁ、それはね………………ララちぃ、ご説明を」

「え?私が?なんで?」

「「いいからいいから♪」」

二人に促されて、ララは少し腑に落ちないながらもレンに説明を始める。

「あのねレンちゃん、明日みんなで温泉に行こうって話をしてたの」

「温泉?『みんな』って事はララちゃんも行くのかい?」

「うん、行くよ♪」

「しかも今回は結城は欠席だよ」(ボソッ)

籾岡が小声でレンに耳打ちする。

「でね、もし良いのならレンちゃんも「行きます!!是非ララちゃんと一緒に行かせていただきます!!」」

某宇宙刑事の蒸○並のスピードで返事を返してきた。

(チャンス到来っ!!まさかこんな形でララちゃんと親睦を深められる機会が巡ってくるとはっ!!
しかも今回は邪魔な結城がいないなんて…、このチャンス、絶対逃がす訳にはいかないっ!!)

顔をニヤつかせながら、今にも飛び上がりそうな感じで喜ぶレン。
『ララが一緒でリトがいない』という事実が余程嬉しかったのか、心の中でガッツポーズを取っているのが手に取るように解る。

「……」

その一方、そんなレンの態度が何となく気に入らないのか、横目で軽くレンを睨み付ける『来ないと思われているリト』

「……レンくん、随分嬉しそうだね?」

「そりゃ嬉しいさ♪ララちゃんと一緒に旅行なんて初めての経験なんだから。いや~、楽しみだなぁ~♪」

「………あっそ」
(何か分かんないけどムカつく…)

そう呟いてプイッとそっぽをむくリト。

「?、レモンちゃん、何でそんなに不機嫌なんだい?」

「別に」
(とりあえずコイツは元に戻ったら力一杯殴り飛ばす…と)

自分でも良く分からない苛立ちに流されながら、リトは何となくそんな決意を固めておいた。

「ほっほ~う…♪」
「これはこれは…♪」

そんなリト(レモン)の様子を、籾岡と沢田がニヤニヤしながら眺めていた。

「?、何?」

「いえいえ別にぃ~♪」
「そっかそっかぁ♪レモりんはそーだったんだぁ。いや~、青春だねぇ~♪」

「?」

二人の言ってる意味が解らず頭に?マークを浮かべるリト。完全に何かしらの誤解をされてるみたいだが全く気付く気配が無い。
ま、世の中知らない方が良い事もあるという事で

「さて、これで全員分誘ったかな?」

「そだね。んじゃ、このメンバーで行き「ぅおぉーい、ちょっと待てぇぇぇっ!!!」――ん?」

話をまとめようとした時、いきなり怒号が聞こえてきて、その声が聞こえてきた方を見ると…。

「あれ?猿山いたの?」

「いただろーが最初っからぁ!!場面切り替え時の冒頭の文章にも載ってただろぉ!!」

気になった方はぜひご確認を。

「つーかお前ら、何普通に話まとめようとしてんだよ!!まだ全員分誘ってないだろ!?」

「え?ちゃんと十二人全員誘ったでしょ?ね、未央?」

「えっと、まずあたしとリサでしょ?春菜とそのお姉さん、ララちぃにレモりんに唯っちに御門先生、
それからヤミヤミと結城の妹さん、後は………レンレンとルンルンだね」

「ほら、ちゃんと十二人いるじゃん」

「レンとルンちゃんは二人で一人分だろぉ!!?実質後一人分余るだろ!!」


「あーもう、うっさいなぁ~。で、何よ?何が言いたい訳?」

「オレも混ぜて♪」

「「え~…?」」

明らかにイヤそうな顔をする籾岡と沢田。

「何だよ!リトやレンだったら別にいいのにオレはダメなのかよ!?」

「だってあんた、何かまたロクでもない事考えてるでしょ?あんた連れて行くとなると何か身の危険を感じるんだよね~」

「結城の場合はララちぃと必ずセットになってるみたいなモンだし、
連れて行かないとララちぃ泣いちゃうもん(今回は不参加みたいだけど)
それにレンレンは半分女の子だしね」

「………確かに猿山くんよりは結城くんの方がマシだと思うけど…」

「そもそもこんな人いましたっけ?」

「ガーーーン!!!」

籾岡・沢田に加え、唯やヤミにまでボロクソに言われて、あまりの再起不能並のショックを受けてその場に突っ伏してしまった。

「猿山くん、ちょっと可哀想…(小声)」

「自業自得っちゃあ自業自得だけど(小声)」

「ぁ……ぁはは……、結城くんも結構冷たいんだね…。解らなくも無いんだけど…(小声)」

「解るんだ西連寺…(小声)」
(春菜ちゃんも結構ヒドい…)

傍観者に徹しているリトと春菜だが、こちらも小声で猿山に対して結構冷たい会話を繰り広げていたりする。
最早この場に味方不在、絶望的状況に追いやられた猿山。


だが、ここで猿山に救いの手が――。


「別にいいじゃん。行きたいなら連れて行ってあげても♪」

『へ?』

「ラッ、ララちゃぁ~~~ん!!(泣)」

ララからのありがた~いお言葉に伏せた顔を勢い良く上げて、幸せオーラ全開で感謝の涙を流す猿山。

「良いのララちぃ?」

「うんっ♪人数はいっぱいいた方が楽しいじゃん♪せっかくの旅行なんだし」

「いや、でもねぇ~…」

「ありがとう!!ララちゃんありがとう!!」

馴れ馴れしくララの手を取って、ブンブンと上下に振りながら握手をする猿山。

「仕方ないわねぇ…、特別だかんね猿山」

「もし変な事したらヤミヤミにお仕置きしてもらうから」

「三割引でお引き受けしても良いですけど…」

「分かってる分かってる♪」

手をヒラヒラさせて笑顔で答える猿山。
……………だが…。

(ぐふふふ…、ララちゃんやレモンちゃんと温泉…。露天風呂で身体を暖めてオレも二人から身体を暖められて………
なんて事になったらどーしよっかなぁ~~!!♪)

心の中では物凄く邪な妄想を繰り広げてニヤついていた。予想通りに。
つーかそんな場面、リトだったらまだしもお前みたいな奴じゃあり得るはず無いから。あってもやらないから。

「何だよぉ!!オレだって夢見たっていいだろぉ!!オレにも夢を見る権利を!!」

見ても良いけどシナリオ書くのボクだから。
ですので絶対そんなシチュはやりません。趣味じゃ無いんで。

「キッビシィーーー!!!」


「………何ブツブツ言ってんの?あのサル顔は」

「やっぱ連れて行くの止めた方が良いんじゃない?」

そんな事を話し合ってる籾岡と沢田をよそに――。

(……………何かまた一悶着ありそうな予感…)

今までの経験から、とてつもなくイヤな予感を感じずにはいられないリトだった――。


――――――


「はっ?温泉?しかも明日ぁ?」

「うんっ、そだよ♪」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!?そんな事急に言われても!
てゆーか何でそんな大事な事をこんな前日ギリギリになって言ってくるのよ!!?」

「仕方ねーだろ、オレ達だって今日初めて聞かされたんだから!」

その日の夜、『明日みんなで泊まりがけで温泉に行く』という事情を美柑に説明。
あまりに急なイベントに案の定慌てふためいたが…。

「美柑~、もしかして行きたくないの~?ヤミちゃんも来るんだよ~?」

「いや………行きたいけどさ…」

「じゃあ決まりだねっ♪早速準備しよー♪」

「あ、ちょっと、ララさん!?」

ズルズルララに押されて、気が付けば決定事項に。
美柑の呼び止める声など耳に入らず、ララは明日の準備の為にスキップをしながら自分の部屋へと戻っていった。

「…………リトでしょ?あたしを連れて来るって言ったの」

「まぁな」

「……あのねぇ、何のつもりか知らないけど流石に二日も家を空ける訳にはいかないじゃん。万が一の事があったらどーする訳?
後その間誰かセリーヌにお水あげるのさ!?そこんトコの心配もちゃんと気掛けて――」

「オレから言わせりゃお前一人を家に置いていく方がよっぽど心配だ!」

「………ぇ///」

美柑の言い分を一蹴して自分の偽り無い気持ちを伝えるリト。
その台詞におもわずドキッとなり、美柑の顔が徐々に赤らんでいく。

「家とセリーヌの事はザスティンに任せてあるから、たまには家事の事は忘れて思いっ切り羽を伸ばせ。
いつも世話になりっぱなしじゃ兄貴として情けないからな、これはほんのお礼だよ♪」

そう言って、リトは美柑の頭を優しく撫でた。
その光景は、妹の事を大事に想う兄の気持ちが良く理解出来る。

「……………バカ///」

真っ赤にした顔を俯かせて力無く、聞き取りづらい程の小声で文句を吐き捨てる美柑。
だがそれでも、頭を撫でるリトの手を払いのけたりはしない。むしろ、リトに撫でてもらってるのがとても気持ちよさそうに見える。

「……もういいわ、あたしも早いトコ準備しちゃお」

「おぅ、行ってきな」

その言葉と共に美柑の頭から手を離す。
ちょっと名残惜しそうにしていた美柑だが、その事を悟られない様にそそくさと部屋へと――。

「あ、そーいえばリト。リトはどーするのさ?」

「は?」

――向かおうとしたが、不意に立ち止まってそんな事を聞いてきた。

「どーするって何を?」

「だから温泉」

「そりゃ行くさ。オレだって結構楽しみにしてんだぞ?」

「いや、そーじゃなくて」

「へ?」

「お風呂は男湯と女湯、どっちに入るつもりなのよ?」

「……」

「……」


……………。


…………。


………。


「…………………………誰もいない時を見計らって入ります…///」





そんなこんなで、旅行前日の夜は更けてゆく…。

 

 

 

 

――――――


翌日、彩南高校校門前――。


「「ねむ~~~い…」」

「だらしないなぁ、二人共…」

「うっせー、お前と違って……ふぁ~…んぅ……こんな朝早くから起きる事に慣れてねーの…」

「うみゅ~……zzz」

現在空も白みかけてきた早朝午前六時、リト・ララ・美柑の三人は、集合場所である彩南高校の校門前で待ちぼうけていた。
いつも早起きなので割と平気そうな美柑に対して、リトは欠伸を噛み潰し、焦点が合ってなさそうな目をくしくし擦って文句を言う。
ララに到っては、直立したまま首をカックンカックンとフネこぎまくりで半分夢の中。端から見れば立ったまま寝てる様にも見える。
これが漫画の中だったら鼻ちょーちんの一つ位は出してるのでわなかろーか…?

「てゆーか何で集合時間をこんな朝早くにした訳?」

「あー何でもな、その温泉かなりの山奥にある秘湯中の秘湯らしいんだよ。
だからこれ位早く集まって出発しなきゃ丁度良い時間に着かないんだってさ。ふわぁ~…」

美柑の質問に答えた後、リトはまた大きな欠伸。

「むにゅ~……zzz」

ララはララでフネをこぐ範囲が更に広がり爆睡モード一歩手前。これでも寝ちゃわない様に必死で頑張ってるんです。

「ララさん、昨日はちゃんと寝れた?」

「ん~…?あんまりぃ~……zzz」

「よっぽど楽しみだったのかな?今日の旅行」

「違うよ~…。昨日は御門センセに色々頼まれて…、その準備してたら寝る時間が無くなっちゃった~……むにゃむにゃ…zzz」

(寝言…)
(…じゃ無いよね?)

どー見ても寝てる様にしか見えないが、一応起きているという方向で質問を続ける。

「御門先生が?色々頼まれてって何を?」

「ん~……私も良く分かんな~い……。ただ今回の旅行に絶対必要だからって………く~…zzz」

「ふ~ん…」
(また何か良からぬ事を企んでるんじゃないだろーな、あの人は…)

基本的には何かと頼りになる、身の回りの人間の中で極めて貴重な存在なのだが、
その反面、何かと悪戯好きな所もあるので油断は出来ない。
何故なら大抵その厄介事に巻き込まれるのは自分自身なのだから。

「みゅ~……ねむいよ~…zzz」

「ガムならあるけど食べる?ブラックだけど」

「ん~……私ソレキライ~……zzz」

「じゃあもうその辺で寝てたらどうだ?みんなが来たら起こしてやるから」

「ん~……そーすりゅ~…zzz」

そう言って、ララはぽすっと寄りかかって寝に入ろうとした。
………リトの胸に。

「……オイ、ララちゃん」

「ん~…♪ん~…?」

「……何故いちいちオレの胸に顔を埋める?」

「ココが一番落ち着く~…。リトのおっぱいマクラ~…♪」

「いや、オレは落ち着かねーって!つーかどー考えたって寝にくいだろ、お前膝立ちだし――ってひゃんっ!?
こ、こら頭ぁ!!頭動かすんじゃなぁい!!てゆーかお前ホントは起きてんじゃないのか!?絶対ワザとやってるだろお前!?」

「ん~、すりすり…♪」

事ある毎にリトの胸に顔を埋めてくるララを顔を真っ赤にして引き剥がす。
このやり取りもこの一週間の間で最早恒例になっていた。
端から見たら仲の良い女子二人がじゃれ合ってる様に見えるが、リトは本当に引き剥がそうと必死なのだ。
決してララをワザと受け入れてこの状況を楽しんでる訳ではない。

「だからいい加減コイツを止めてくんないか!?そこでニヤニヤしている我が妹!」

「え~?でも妹としてわお二人のお邪魔をしちゃ悪いすぃ~♪
てゆーかリトもなんだかんだで結構楽しんでそうだすぃ~♪」(ニヤニヤ)

「違うわぁーー!!!」
『ガバッ!!』

「あぁん」

怒りのツッコミと共にララを胸から引き剥がした。

「オメーも寝るならあっちで寝なさい!枕ならカバンを使えば良いだろ!?人の胸を枕代わりにするんじゃない!!」

「ぶ~」

「『ぶ~』じゃない!」


『プップー♪』


そーこー言ってる間に一台の車がクラクションを鳴らしてリト達の前に止まった。

「ふわぁ~……やっほ~、早かったのね結城君達。一番乗りだと思ったのに」

「おはようございます、プリンセス、美柑…。あと結城リト」

「あ、御門センセ~…」

「ヤミさんっ♪」

「ヲイッ、オレはついでかい」

大きな欠伸と共に、御門先生とヤミが車から出て来た。
三者三様、それぞれ返事を返す。

「つーか先生、まさかそんな寝ぼけ眼で車運転してきたんスか?」

「だってぇ~…私朝弱いんだもん~…ぁふ……。ココに来る前にも三回位意識がトんだ覚えがあるんだけど…」

「あからさまな居眠り運転じゃないスか!!良くそれで事故りませんでしたね!?」

「あぁ、それ位大丈夫よ。私勘は良いから♪」

「勘で運転すんなよ、勘で!!アンタ一応教師で引率者でしょ!?命預かる側の人間でしょ!?
もし万が一の事があったらどう責任取るつもりなんスか!!?」

「フッ、心配要らないわ…。人間いざとなったら眠れる力が発揮されるものなのだから…。
大事なのは………心の目を信じる事よ!」(キラーン☆)

「そんな都合の良い話があるかい、漫画じゃあるまいし!!」

「何言ってんの♪そんなモンこの話の作者の都合で何とでも「危ない発言禁止ーー!!!」」

慌てて御門先生の口を塞ぐリト。

「いや~結城君、朝からトバすわね~♪」

「アンタがさせてんでしょーが!!」

そんな風にリトを軽くイジった後、御門先生はカバンに頭を置いて寝っ転がってるララの方を向いた。

「あらあら、ララさんも随分眠そうね。大変だったでしょ?」

「みゅ~……センセ~…私ガンバった~……zzz」

力無く片腕を上げてガンバった感をアピールするララ。

「ごめんなさいね、私のお願いで睡眠時間削っちゃって。でもどうしても必要な事だったから」

「ん~………これで旅行楽しくなる~…?」

「ええ、もうバッチリ♪」

とてもスバラシイ笑顔で親指を立てる御門先生。
その笑顔を見てララもニパーっと笑顔になる。
その一方で、端から見てたリトは嫌な予感満面の怪訝顔になる。

「あの…御門先生、ララに一体何を頼んだんスか?」

「ん?とっても大事な事♪薬の事もあるからとても私一人じゃ準備しきれなくて」

「いや、だから何を…」

「ナ~イ~ショ♪」

すごーく楽しそうに言う御門先生に、リトはますます不安感が増した。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。結城君に迷惑掛ける様な事じゃ無いから♪今回はコッチ側だしね」

「コッチ側?」

「そ、コッチ側♪」

「……」

結局言ってる事はイマイチ理解出来なかったが、とりあえず警戒だけはしっかりしておこうと心に誓うリトだった…。



「ヤミさんっ、おはよ♪」

「……おはようございます、美柑…」

一方、満面の笑顔でヤミに駆け寄って腕に抱き付く美柑。
それに対していつも通りのポーカーフェイスで挨拶を返すヤミだが、いつもと違い警戒心が全く無い。
表情と纏っている雰囲気が明らかに柔らかな物であり、その姿は殺し屋らしからぬ、
何処にでも居そうな普通の女の子そのものだった。

「えへへ…♪」

「……嬉しそうですね、美柑…」

「だってヤミさんと一緒に旅行に行けるんだよ?嬉しいに決まってんじゃん♪」

「そう……ですか…」

「ヤミさんは嬉しくない?あたしと旅行…」

「……いえ、決してそんな…」

(じっ…)

「……」

少し不安そうに上目遣いで見つめる美柑に、胸の辺りがチクッと痛む。
おもわず数秒程目を逸らしてしまったが、ヤミはすぐに自分を諫めて、そんな美柑の目を(少し照れ気味に)真っ直ぐ見据え…。

「私も……嬉しい…ですよ…。美柑と旅行に行ける事が…」

微笑んだりはしなかったが、とても穏やかな目で…、美柑を安心させる様に優しい口調で自分の気持ちを伝えた。

「ホント!?良かった~♪」

本当に心から嬉しそうに無邪気に喜ぶ美柑。抱き付いた腕に更にぎゅーっと力が篭もる。
その姿は、普段の大人ぶってる姿とは違い、まさしく年相応のお年頃の女の子の姿である。

「……」

そんな美柑が何となく直視出来ず、顔をほんのり赤らめて再び目を逸らすヤミ。
さっきの『罪悪感から』とは違って、明らかに『照れ隠し』である事がバレバレだ。

「くくくく……♪」

端からその一部始終を見ていたリトは、おもわず含み笑いを漏らしてしまった。

「……何が可笑しいんですか?結城リト」

「いやいや、おかしくはねーよおかしくは♪」

「顔をニヤつかせて言われても全く説得力ありませんよ…」

若干ヤミから殺気が放出される。が、すぐ傍に美柑が居るからあまり強くは出られない。
見かねた美柑がヤミに代わってリトに抗議する。

「リト!あんまりヤミさんをおちょくらないで!」

「だから違げーって。ちょっと驚いて嬉しくなっただけ♪」

「は?何で?」

「さぁ何ででしょーねぇ~?にひひひ…♪」

ワザとらしくトボケてまた含み笑い。そんなリトの様子を二人は『訳分かんない』といった感じで眺める。
でもって、ヤミがおもわず発した一言は――。

「何が可笑しいのか知りませんが、あなたのその格好の方がよっぽど可笑しいと思うのですが…」


『ビキッ!!』


言った瞬間、リト石化。


「え~?私は可愛いと思うけど?何か今日は一段と『女の子』って感じで♪」

「それは………私もそう思いますが…。けどドクター、この人は元々男性なのですよ?
そんな人が堂々と異性の服を着て往来を歩いているのは大問題だと思いますが…」

「好きでこんな格好したんじゃねーよ!!」

何とか復活したリト。顔を真っ赤にして御門先生とヤミに抗議する。

「オレだって最初は普通の――自分の普段着で来ようとしてたんだよ!!それをララと美柑の奴が――!!」

「いや~、リトがどーしても女の子の格好がしたいって言ってくるモンだから♪」

「ウソ吐くんじゃねーよ!!オメー随分楽しそうに――」


『ゴメ~ン、間違ってリトの服全部洗濯しちゃった♪だから代わりにララさんの服かお母さんの秘蔵品でも着といて♪』


「――ってワザとらしく言ってたじゃねーか!!それでララと二人してこんな格好に無理矢理――!!」

「しょーがないじゃん。着る服が無いんなら♪」

「幾ら何でもオレの服全部洗濯に出すなんざ無理がありすぎるだろ!?明らかな確信犯じゃねーか!!」

「まぁまぁ、別に良いじゃないの♪とても良く似合ってるわよ『レモンちゃん』♪」

「そーそー、凄く可愛いよ、『レモンお姉ちゃん』♪あたし何か惚れ惚れしちゃうなぁ~♪ね、ヤミさんもそう思うでしょ?」

「そう……ですね…。似合ってるのは……本当ですよ…、結城『レモン』…」

「だからそんな『似合ってる』なんか言われたって全然嬉しくなんか――!!………ん?」

「ここは一つビシッと言ってやろう」と思って文句を言おうとした時、リトはある三つの違和感に気が付いた。


一つは、皆の自分の呼び方が『リト(結城君)』から『レモン』に変わった事…。


そしてもう二つは――。




何かお尻の辺りがスースーしてる事と胸を鷲掴みにされてる感覚…。
 
 


「ふむ、今日はピンクですかレモりん…」

「レモり~ん、いい加減あたしが選んだストライプも穿いてみてよ~」

「……ってのわぁぁぁ!!!お前達どっから湧いて出たぁ!!?てゆーかいきなり何やってんだぁ!!!」

「朝の挨拶も兼ねての下着チェック♪」
「朝の挨拶も兼ねてのバストチェック♪」

「爽やかに言うなぁ!!!」

何時の間にか沢田が背後でスカートを捲って、籾岡がリト(レモン)の胸を後ろから揉みしだいていた。
慌ててそこから飛び退いて、両腕でスカートと胸を押さえながらツッコミを入れるリト。

「いやいや、何かレモりんの服が似合ってるだの何だのどーこー言ってたみたいだったから
ちゃんとその服に合うパンツ穿いてんのかなぁ~って思って確認を♪」

「後レモりんのおっぱいがどれ位育ってるのかの確認も♪ちょっと大っきくなったでしょ?」

「しなくていいっての!!つーか何でアンタ達は毎度毎度オレ……ボクに対してセクハラばっかり――!!」

「ただのスキンシップじゃ~ん、そんな人聞きの悪い…。別に減るモンじゃ無いんだから♪」

「それにレモりんってば油断してるとすぐ男物に走るでしょ?ダメだよ、女の子がそんなんじゃ――。
そーならない為にあたし達がしっかりと管理を――♪」

「余計なお世話だっての!!!」

全く悪びれた様子も無く手をヒラヒラさせて言う籾岡と沢田を怒鳴りつけるリト。
「多分……いやきっと無駄なんだろーなー…」と心のどこかで思ったりもしてるが、それでも言わずにはいられない。
悲しいかな、ツッコミ属性の本能…。

「先生も!!気付いてたんなら止めて下さいよ!!」

「うふふ~、ゴメンね~レモンちゃん♪でも私もレモンちゃんがどんな下着を穿いてるのか気になっちゃって♪」

「アンタねぇ、少しは教師としての自覚を――!!」

「ほら、そーやって油断してると…♪」

「え?――ひゃうっ!!?」

「またセクハラ受けちゃうわよ?――って、ちょっと遅かったわねぇ~♪」

再びリト(レモン)の胸を鷲掴みにするエロオヤジ籾岡と、スカートの中に顔を突っ込んで、頬でお尻をすりすりするその2沢田。
でも御門先生は全く止める気配が無い。この様子をニヤニヤしながら眺めて、明らかに楽しんでいる。
過去に被害履歴があるヤミも、被害を喰らわない様に美柑を連れて既に遠くへ避難済み。
そしてララは既に爆睡モードに入っており、つまりこの二人を止める者は誰もいない…。

「にっひっひっひっ――♪ええか~?ええのんか~?ココがええんやろおじょーちゃん~♪」

「う~ん、レモりんお尻もスベスベ~♪」

「ひゃっ!!?ちょっ……二人共止め……あんっ!せ…せんせ……助け…!!」

「いや~、仲が良いって微笑ましくてイイ事よねぇ~♪先生レモンちゃんがちゃんと学校に馴染んでくれてて嬉しいわん♪」

「ちょっとぉ!!御門せんせ……あっ…!」

「う~ん、イイ声♪」

「顔ヨシ、スタイルヨシ、その上感度もバッチリ。完璧だねレモりん♪」

「ただ性格が結城っぽいってのがちょっと戴けないけどね」

「ちょっ……お前達いい加減に……!!」

二人を無理矢理にでも振り解こうと身体をよじらすリト。
だが、何せ二人掛かりで身体を抑えられているから上手く動く事が出来ない。
最早このままなすがままに蹂躙されるしかないのかと思ったその時――。


「朝っぱらから何ハレンチな事やってんの!!」
『スパンッ!スパンッ!!』

「だっ!?」
「あたっ!?」


突然張りの良い音が二つ響いて、籾岡と沢田が頭を抱えてその場に座り込んだ。
その拍子にようやく解放されたリトもその場に座り込み、呼吸を整えながら何が起こったのか確認しようと振り返ると…。

「大丈夫?結城さん」

「こ……古手川さぁ~ん…」

そこには、リト(レモン)を心配そうに見下ろす唯が立っていた。
どっから出したのか、何故か片手にハリセンを抱えて。

「っ~~~。いきなり何すんのさ唯っち~」

「頭ヘコんだかと思ったじゃ~ん」

「五月蝿いっ!!あなた達が朝から結城さんにハレンチな事してるからでしょ!?」

涙目で抗議する二人を軽く一蹴して説教モードに入る唯。

「ただのスキンシップだってば~。別に男にセクハラされてる訳じゃ無いんだから♪」

「だからって、同性にセクハラなんかして何が楽しいの!?」

「あれ?じゃ異性にならセクハラしてもいいの?それはそれで大問題でしょ?風紀委員さん」

「セクハラ自体が駄目な事でしょうが!!屁理屈言うんじゃないの!!」

ハリセンの先端をビッと二人に向けて怒鳴りつける唯。
そしてその後、御門先生の方へと視線を向ける。

「御門先生!!先生も見てたんなら止めて下さい!!それが教師の役目でしょう!?」

「あ、ゴメンね~。何か楽しそうだったから放っといても良いかな~ってつい♪」

笑顔で謝る御門先生。間違い無く『悪い』とは思っていない。確実に。

「………はぁ…、どうして朝からこんなに疲れなきゃなんないのかしら…」

「………同感…」


「「はぁ~~…」」


おもわず漏らした溜め息は見事にシンクロした。
やはりこの二人、中々ウマが合う。

「分かったわよ、もうレモりんの身体には触らない」

「スカートの中も覗かない」

「分かればいいの」

若干ヤケ気味に言う籾岡と沢田。だが…。

「それじゃあ…」
「代わりに…」

不意に、隅の方で寝ているララに視線を向けて…。

「ララちぃのバストチェックを♪」
「今日のパンツチェックを♪」

「「やめんかい(なさい)」」

全然懲りてないセクハラーズに二人のシンクロツッコミが発動した。


『プップー♪』


そこへ、また車がクラクションを鳴らしてリト達の前に止まった。

「おはよう、結……零紋さん、古手川さん」

(春菜ちゃん…♪)
「お、おはよ西連寺…さん」
「おはよう」

車から出てきた春菜に、たまたま前にいたリトと唯が最初に返事を返す。

「お、春菜やっと来た」
「遅いぞ~春菜」
「春菜さん、おはよー」
「……どうも」
「ハ~イ♪」

続けて、残りのメンバー(ララ以外)が声を掛け、春菜は律儀に一人ずつと挨拶を交わしていく。
その間に、例の二人から(恒例の(?))セクハラを受けた事はあえて省略させて頂こう。

「ララさん、寝てるの?」

「何か昨日は遅くまで起きてたみたいでさ…。御門先生から何かを頼まれたらしくて…」

「え?それって…」

「一体何を?」と訪ねようとした所――。

「ちょっと春菜、自分の荷物位自分で出してよね!」

「あ、うんっ!ごめん、お姉ちゃん!」

遅れて車から出てきた姉・西連寺秋穂の声に会話を遮られ、春菜は慌てて荷物を降ろしに戻った。

(あの人が春菜ちゃんのお姉さんか…。やっぱ美人だ…)

初めて会う春菜の姉・秋穂の姿に少し見惚れるリト。

「ん?」

(あ゛…)

不意に秋穂と目が合ってしまい、少し焦るリト。
そんなリトをよそに、秋穂が笑顔で近付いて来た。

「キミは……初めましてよね?」

「えっ!?あっ、はい!どうも…」

「いつも妹がお世話になってます。姉の西連寺秋穂です♪」

「い、いえっ!こちらこそお世話になりっぱなしで――!あ、レモンといいます!結城レモン…」

自己紹介と軽いお辞儀をした秋穂に対して、かなりテンパりながらこちらも挨拶を返して軽くお辞儀をするリト。
すると…。

「………ユウキ?」

名乗った瞬間、秋穂が何かに引っかかった様な小難しそうな顔になった。

「キミ……女の子よね?」

「えっ!?えぇ……まぁ…」

「そっかぁ……。じゃ違うのかな……。私てっきり…」(小声)

「ぁ……あの、何か?」

「え?あぁううん、大した事じゃないの。ただ春菜から良くユウキく「お、お姉ちゃんっ!!」」

今度は春菜の声に会話を遮られた。

「お姉ちゃんっ!自分の荷物は自分で降ろしてよ!」

「あーはいはい。さっきと逆になっちゃったわね」

踵を返して車へ戻る秋穂。
その入れ違いで、春菜が荷物を抱えて苦笑い気味に戻って来た。
「ご、ごめんね結城く……零紋さん。お話の途中で居なくなっちゃって」

「い、いや、別に良いって。でもお姉さん、さっきは何を言お「そっ、そーいえばさっ!」は、はいっ!?」

「言おうとしたんだろ…」という言葉は、春菜のかなり慌てた声に掻き消された。
春菜のテンパり気味に半分唖然とするリトをよそに、当の本人は何とか誤魔化そうと強引に話を切り替える。

「れ、零紋さんのその服装、とっても可愛いね」

「………西連寺もそれを言いますか…」

「あ、あれ?結城くん――じゃなかった、零紋さん!?どうしてそんなに落ち込んじゃうの!?」

そしてリトをヘコませて更に慌てる。

「レモンお姉ちゃ~ん♪良かったね~、春菜さんが『似合う』って言ってくれてるんだから♪」(ニヤニヤ)

「ぐ…ぐぅぅ……」

原因を作った一人に呑気な事を言われて、軽~く美柑に「どついたろか」とも思ったが、
春菜から『似合う』と言ってもらって少し嬉しかったのも事実なのであまり強く出られない。
やり場の無い怒りに、リトは手をワナワナさせて悶絶するジェスチャー。

「ぇ……ぇっと………きょ、今日の旅行楽しみだね零紋さん」

「へ?あ、あぁうん」

これ以上リトの精神に負担を掛けない様、再び強引に話を切り替える春菜。しかし、そんな同じ手は何度も通じる筈が無い。
――のだが、リトは春菜に話し掛けてもらえるのが嬉しいあまり、その事に全く気付いておらず、あっさり誘導に引っ掛かる。
これも『恋は盲目』の定義の一つなのだろうか?

「私、温泉に行くのって初めてなんだ。だから昨日はちょっとドキドキしちゃってあんまり寝れなかったんだ」

「あ、そうなんだ。ボクも結構楽しみにしてたんだ」
(何せ春菜ちゃんと一緒に旅行に行けるんだし…♪)

「それに……ね…」

「ん?」

ふと、声がトーンダウンして、顔を赤らめて俯く春菜。そして…。

「それに……………………結城くんも…一緒だから「うおぉぉぉーーーーー!!!」…え?」

モジモジしながらボソッっと漏らした本音は、突然聞こえてきた誰かの雄叫びに掻き消されてしまった。

「な、何だ?」

「………って、何!?あの土煙」

唯が指差した方向、遙か遠くから何者かが土煙を巻き上げてこちらに突撃してくる。
その中心にいたのは――。

「ラーーラーーちゅわぁぁぁーーーーん!!!」


『レッ、レンッ(くんっ)!!?』


「うおぉぉはよおぉぉーーーー!!!」
『ズザザザザザ――!!!』

ララへ挨拶をしながら、そのまま校門を通り過ぎて30m付近で急停止した。

「ララちゃんっ!!今日は誘ってくれてありがとう!!ボクは今日という日が待ち遠しくて夜も眠れなかったよ!!
まさかキミと二人で旅行に行けるとは夢にも思わなかったから!!しかも結城などでは無くこのボクを選んでくれるなんて!!
キミはいつも結城結城と言っていつもボクを困らせていたけど、やはり本当はボクの事に気を掛けてくれて――!!」

「すぴ~……zzz」

「……」

踵を返し、こちらへ歩いてきながら自身の熱き想いを一呼吸の息継ぎの間も無く言い放つレンだが、
肝心のララはぐっすり爆睡中の為返事を返される事は無く、
レンの魂の発言は空しく朝焼けに消えて、当の本人は暗いオーラと共に膝と両手を地面につけてガックリ突っ伏してしまった。
分かりやすく説明するとorzである。

「バーカ」(ボソッ)
「ぁ……ぁははは……」

その様子を見ていたリトがおもわず漏らしてしまった感想に春菜苦笑い。
だが…。

「レモりん、妬かない妬かない♪」

「まだまだこれからだって♪レモりんならきっと大丈夫♪」

「は?何が?」

「またまた~♪隠したい気持ちは分かるけどさぁ~」

「あたし達はいつでも力になってあげるから、遠慮無く相談してね♪」

「?」

籾岡と沢田からぽんっと肩を叩かれ謎のエールを贈られてキョトンとなる。

(あ、結城くんまた何か厄介な事になってるっぽい…)

察しが良い春菜はなんとなく状況が飲み込めた様で、盛大な勘違いをされているリトを心の中で哀れむ。

「なぁ西連寺、籾岡達は一体何故オレにあんな言い方を?」(小声)

「ぁー…と……き、気にしない方が良いよ。むしろ気にしちゃだめだって。それがきっと結城くんの為だから」(小声)

「???」

春菜の回りくどい言い方に、頭の中が?マークで一杯になるリトだった…。

そして、この後猿山も合流して、ようやくメンバーが全員そろ――。

「ちょっと待てやぁ!!何でオレだけ登場シーンがねーんだよぉ!!」

だってもう面倒くさくなったんだもん。良いでしょ?別に。どうせ脇の脇なんだから。

「失礼な事言うなぁ!!!大体お前――!!」


「猿山、一体誰に対してそんな大声で怒鳴り散らしてんのさ?」

「普段からしょーもない事ばっかり考えているからとうとう頭の方が……くっ…」

「そこぉ!!可哀想な人を見る様な目でオレを見るなぁ!!」

「じゃ、みんな揃った所で早速出発しましょーか♪」

「それぞれ五人ずつに別れて御門先生か春菜のお姉さんの車に搭乗してくださーい♪あ、レンレンと猿山はワンセットだから」

「その上ナチュラルに流すなぁーー!!お前達一体オレを何だと――!!」



「ララちゃん、起きて。そろそろ出発するよ?」

「えへへへ……リト~…♪zzz」

「ほら、さっさと起きる!置いてっちゃうよ?」

「ん……ぅ~ん………ぁ、リトおはよぉ~…♪」

「……レモンね」

「え?あ、そっかぁ。えへへへ♪」


「ヤミさんっ♪一緒に乗ろ?」

「……すみません、美柑。私はドクターを抑えなければなりませんので…」

「『抑える』って……何で?」

「………知らない方が良いです」

「そ、そぉ?」


「ララさん、寝ぼけ過ぎ」
「おはよ、ララさん」

「春菜~♪唯~♪おはよぉ~♪」

「はいはい、挨拶はいいから早く車に乗りましょ。遅れちゃうわよ?」

「うんっ♪」

「ほらレンくんも!何時までも固まってないで――!」

「……」

「……」


『スパーン!!』


「あ痛たぁ!!はっ、ボクは今まで一体――!」

「気が付いた?もうすぐ出発するって」

「あ、あぁ。ありがとう」

「猿山くんっ!!猿山くんもそんな所でボケーッとしてないで――!!」




「……………うおぉぉぉぉーーーー!!!みんな薄情だぁぁぁーーーー!!!」


そんな猿山の魂の雄叫びが空高く響き渡り、一同 は一路、温泉旅館を目指して出発した――。



「ところで唯、そのハリセンどっから出したの?」

「………企業秘密よ」


――――――


車乗員割り振り。


御門車――。

御門先生(運転手)・リト(レモン)(助手席)・レン・籾岡・沢田・猿山。
 
 

秋穂車――。

秋穂(運転手)・春菜(助手席)・ララ・美柑・ヤミ・唯。





――――――


「すいません先生。こんな突拍子な企画に付き合ってもらっちゃって」

「良いのよ、可愛い生徒の頼みとあらば。そのおかげで私も温泉に行けるんだし♪」

御門車の車内――。
引率を引き受けてくれた御門先生にリトが代表してお礼を言う。
みんな浮かれっぱなしで和気藹々とした雰囲気から、これから始まる楽しい旅行に期待を膨らませているのが一目瞭然である。

「でもちょっと意外だったわね~」

「何がですか?」

「レモンちゃんの事だから間違い無く向こうの車に乗ると思ってたのに。ララさんや西連寺さんもいるし♪」

「いや、ちょっと訳ありで…」


後部座席にいるメンバーにバレない様に、偽名の方で呼んで質問する御門先生。
苦笑いを浮かべながら、リトも『レモン』として答える。

「美柑がどーしてもヤミ……ちゃんと一緒がいいって言いまして、
それでヤミちゃんは渋ってたんですけど無理矢理入れ代わったんですよ」

「美柑ちゃん…って確か、結城君の妹さんよね?見た所、随分ヤミちゃんに懐いてたみたいだったけど…」

「ええ。それにヤミちゃんも、顔には出してないけどまんざらでもなさそうだし…」

「そう…、今まで殺し屋として生きてきたあの子が…」

「ええ…、美柑と一緒に居る時は本当に楽しそうに見えて…」

「………良い傾向ね♪」

「はい、良い傾向です♪」

お互い顔を見合わせて、おもわず顔がほころぶ。

「それで、更に仲を深めてあげようと無理矢理一緒に乗せたと。優しいのね、わざわざ気を利かせてあげるなんて♪」

「いや、そんな大した事は――」

「でも良いの?レモンちゃんだって他人に気を掛けている場合じゃないはずでしょ?
せっかく仲を深めるチャンスなのに」(ニヤニヤ)

「う゛…、そ、それは……、ボクだって分かってますけど…」

からかい半分でそんな事を言う御門先生に対して、顔を赤らめて俯くリト。
――と。


「その点に関してもバッチリ問題無いよね?レモり~ん♪」


「わっ!?」

いきなり籾岡が後ろからひょっこり顔を出しておもわずビクッとなる。

「あら?それってどーゆー事?」

「そ、そーだよ。それってどーゆー…」

御門先生が興味津々に、リトは全く意味が分からないと怪訝そうに籾岡に尋ねる。

「にっひっひっひっ…♪」

しかし籾岡は何も答えず、怪しい含み笑いを発しながら視線を後ろに向ける。
その視線の先にあったのは――。





「はぁ~~……」

「およ?レンレンどーしたの?そんな深ーい溜め息吐いて…」

出発したばかりだというのに、溜め息なんか吐いて妙にテンションが低いレンと、
そんなレンに対して怪訝そうに尋ねる沢田。

「せっかくの旅行なのに、ララちゃんと一緒の車じゃないなんて…」

「おやおや?何さ、あたし達と一緒じゃ不満?」

ボソッと聞こえてきた一言に、からかいとムカつきを7:3でブレンドさせた感じででレンに問い詰める沢田。

「い、いや、そーゆー訳じゃあないんだ!ただ今日は結城の奴がいないから
せっかくララちゃんといっぱい話をするチャンスなのに一緒に乗れないのはちょっと残念だなぁ~と!」

「それってとどのつまり、あたし達じゃ不満って事でしょ?
ヒドいレンレン、未央…傷ついちゃう……ぐす…」

明らかに理解していながら、顔のニヤケを隠して軽蔑風の眼差しを向け、
その後あからさまなウソ泣きでレンの良心を煽る沢田。

「いや、だから、ララちゃんが居ないのが残念なだけで決してみんなに不満があるわけじゃあ――!」





「あの……、レン…くんがどーかしたの?」

「おろろ~、レモりんてばホントに自分でも気付いてなかったんだ~。
あたしてっきりとぼけてるモンだと思ってたんだけど…」

「いや、とぼけるも何も、ボクはホントに意味が分からな――」

「あっ、なーるほど♪」

籾岡の言いたい事が全く理解出来ないリトとは裏腹に、何かがピーンと来たらしい御門先生。

「そっかそっかぁ~♪そーいえばそんなフシもあった様な…♪」

「……あの、御門先生?一人だけ随分納得してるみたいですけど、一体何がなるほどなんですか?」

「あー良いの良いの、気にしないで。レモンちゃんは気にしなくても良い事だから♪」

「いや、そんな言い方されると余計気になるんですけど…」

「んー…、でもねぇ…、これは私の口から言う事じゃないわ。あくまで自分で気付かなきゃ。
ね?『レ・モ・ン・ちゃん』♪」

物凄くニヤニヤしながらリトにそんな事を言う御門先生。
200%誤解だと分かってるハズなのに全く止める気が無い。明らかにこの状況を面白がって楽しんでいる。

(何なんだぁ……?一体…)

訳が分からないといった感じで首を傾げるリト。
なんとなく横目で沈んでるレンの顔を見つめる。

「………ん?」

ふと、レンと目が合った。

(あ、やば。あんま見てると怪しまれちまう)

慌てて目を逸らすリト。

「どうかしたのかい?レモンちゃん」

「べ、別に」

若干冷や汗を掻きながら、苦笑いとよそよそしい態度で返事を返す。
リト本人としてはただの誤魔化しでしかないこの行動…。
………だが。

「ほほう…、未央さん今の見ました~?」

「見た見た。レモりん無意識にそんな胸キュン行動とはなかなかのツワモノだねぇ~…♪」

(さすが結城君…、やる事なす事全部面白い方向に転がっていくわぁ~…)

周りの人達には更に要らぬ誤解を招いてしまった事は最早お約束。
(一人だけ理解していながらあえて黙ってるが…)

「レン!!てめぇ、一発殴らせろぉ!!」

「うわぁ!?な、なんだい猿山くん!?ボク何かやったぁ!!?」

「うるせぇ!!お前だけは…、お前だけはリトと違うと思っていたのにぃーーー!!!(泣)」

「ちょっと猿山、狭いんだから暴れないでよ!!」

「そーだよ!つーかあんた身の程をわきまえなさいよ!どーせあんたはオマケなんだからぁ!!」

そして約一名、血の涙を流しながらレンに殴りかかって、籾岡と沢田からブースカ文句を言われる。
男のジェラシーってみっともないよね…。

「………あ、そういえば先生」

唯一止められる可能性を持つツッコミ役は、この現状を軽く無視して御門先生に話し掛ける。

「実はこっちに乗る際、ヤミちゃんが気になる事を言ってましてね…」

「気になる事?なぁに?」

「それが――」



『………そ、そこまで言うなら…別に構いませんが……、その代わり、ドクターが何か問題を起こさない様に
ちゃんとドクターを抑えて下さいね…』
(………無理だと思いますけど)



「――って言ってたんですよ」
(それも結構浮かれ気味で)

「あらあら、なぁにヤミちゃんたら。それじゃ私がまるでいつも危ない運転をしてるみたいじゃないの」

「いや、実際今朝方もやってたでしょ?居眠り運転」

「大丈夫よぉ~♪もう眠気はバッチリ覚めたし、それに可愛い生徒の命預かってるんだからそんな心配しなくても――」


と、その時――。




『ブロロロロ――!!』


「のわっ!?」
「きゃっ!?」

後ろから来た一台の車が、御門車を掠める様に猛スピードで横切って行った。

「あっぶねーな――ぁ、いかんいかん、危ないなぁ…、何?今の」

「そーいえばココ、走り屋を良く見かけるって言ってたっけ?」

籾岡がちょっとムカつき気味に答える。
危うく当てられそうになった事に怒りを覚えながらも、助手席に座ってる以上、運転に悪影響が出ちゃいけないと思い冷静に心を落ち着ける。


…………しかし。


「良くこんな山道であんなにスピード出せますよね~。ね?先せ――」

リトがなるべく御門先生を動揺させない様フレンドリーに話し掛けようとした時――。





「……………この野郎…」(ボソッ)





「…………へ?」

多分幻聴だと思うが、何か御門先生から聞いちゃいけない様な言葉がボソッと聞こえてきた。

「………ぁの、先生?」

「ん?なぁに?レモンちゃん♪」

「ひぃっ!?」

爽やかな笑顔でリトに返事を返す御門先生………なのだが――。

(な…何故だろう……、その笑顔が逆に怖い…)

御門先生の全身からドス黒いオーラが放出されているのが見えているのは多分気のせいじゃない。
否が応にも何か得体の知れない恐怖心を感じ取り、頬を冷や汗がツツーッと流れ落ちる。
とりあえずこちらも笑顔を取り繕って御門先生に合わせるリトだが、顔が思いっ切り引きつってしまっている。
後部座席のメンバーも同様で、みんな揃って一番後ろの隅っこに固まってガタガタ震えている。

「あら?どーしたのみんな?何をそんなに怖がってるの?」

『いっ、いーえ何にも!!』

全員声を揃えて必死に首を横に振る。
ハッキリ言って説得力の欠片も無い。

「クスッ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。みんなの命は先生が守ってあげるから♪」

《いや、何かここに居る方がよっぽど危険な気がするんですが、これは気のせいでしょーか!!?》

そして全員同じ様な事を思ったが口には出さない。というより出せない。
今の御門先生があまりに怖すぎるから。



『ブオォォン――!!』


「あ」

そんなやり取りをしてる間に、また一台車がスレスレを横切って行った。

「……」(ピクピク)

御門先生、ハンドルを握る手が震えています。力が込もりすぎて。
こめかみも異常にピクついてる様に見えます。


更に…。




『ブゥゥゥゥン――!!』



「……」(ビキッ!)

また一台抜かれたと同時に、御門先生に青筋発生。

「せ……先せ「大丈夫よ、私はいたって冷静だから」はっはい!すいませんっ!!」

『別にあなたの精神状態を聞いた訳じゃ無いんですが』
とは当然言えず、意味もなく謝ってしまったリト。
それもかなり低い声で告げられて更に恐怖感upするオプション付きで。


『ブオォォン――!!ブッブー!!』

『わっ!?』

御門先生のダークネスオーラに気を取られすぎたせいか、いきなりクラクションの音が聞こえてきてビクッとなる一同。
気付かない内に更に一台、御門車の横にピッタリ併走されており、そして――。


『オラァ!!ノロノロ走ってんじゃねーぞクソアマがぁ!!邪魔なんだよぉ!!!』


相手に好き放題暴言を吐かれた挙げ句、排気ガスを浴びせられながら抜かれていった。

「……」






『ブチッ!!』



(あれ?今何か『ブチッ』って…)

リトがそんな事を思ってた頃には時既に遅し――。


「なめてんじゃないわよぉぉーーー!!!」

『わあぁぁ!!?』

とうとうブチギレた御門先生。思いっ切りアクセルを踏み込んでさっき抜いていった車を追撃し始めた。
いきなり急加速したので、後部座席のメンバーは成す術無く後ろに飛ばされてしまい、
助手席でシートベルトをしていたリトは飛ばされはしなかったが、
山道を猛スピードで走り抜ける恐怖感と押し寄せる圧力で身動きが取れない。

「ちょっ、先生ぇ!!?スピード出し過ぎぃ!!」

「しっかり捕まってなさいよぉ、吹っ飛ばされても知らないからぁ!!」

「いや…、実際もう吹っ飛ばされてますからぁぁぁぁーーー!!?」

引きつった苦笑いと共に入れようとしたリトのツッコミは、突然の急カーブによって遮られてしまった。
ハンドル握ると性格変わる人ってよくいると思うけど、ここまで豹変する人も珍しい。

「ホラホラ、追い付いたわよクサレフニャチン野郎!こちとら伊達に当たり屋で食ってる訳じゃ無いんだからねぇ!!」

「いや、アンタ教師でしょーが!つーかなんちゅー下品な台詞をぉぉぉーーー!!」

更に急カーブで、またしてもリトのツッコミは掻き消された。

「イヤァーー!!助けてぇーー!!」
「お母さーーーん!!」
「ボクまだ死にたくなぁーい!!」
「%◎□@″♂$☆!!」

後部座席もパニック状態に陥って、正に阿鼻叫喚の嵐。
みんな例外無く命の危機を感じ取って、本能的に助けを求める。
猿山に至っては、テンパり過ぎて何を喋ってるのか全然分からない程である。

「先生、スピード落として!!別にあんなのと張り合わなくたって――!!」

「むむっ、ドリフトでブロックとはなかなか小癪な事を…!でもね、こんな事で私を止められるとは――!!」

(――って全然聞いてくれてねぇ~~~!!)

御門先生には最早前方の車しか見えておらず、必死に止めようとするリトの声は全く届いちゃいない。
気分は正に頭○字Dって感じである。
………読んだ事無いけど。

(あそこだ…、あそこのヘアピンカーブ…!そこしか逆転のチャンスは無い!!)

逆転って…、これはいつの間に勝負事になったんでしょーか?――などというツッコミはもうこの人には意味が無いでしょう。
こーゆーシチュエーションって無条件で燃えるモンだし気分が――(略)。

「仕掛けるっ!!」

『わぁぁっ!!?』

その言葉を合図に、御門先生はアクセルを目一杯踏み込んで、前の車を抜いてカーブに突っ込んで行った。
全員吹っ飛ばされながら、御門先生のこの行動(とゆーか自殺行為)に驚愕、全力で止めにかかる。

「御門先生ぇ!ブレーキブレーキぃ!!」
「ぶつかるーー!!ガードレールぶつかっちゃうからぁーーー!!」
「いやぁぁーーっ!!死にたくなぁーーーい!!」
「ララちゃん助けてーーー!!」

誰しもが、ここで自分の人生が終わりを告げると悟りかけたその瞬間――。

「死なないわよぉ!!秘技・溝落とし!!」

どっかの漫画みたいに御門先生の叫びに車が応えるが如く、
カーブに差し掛かると同時に、片輪を排水溝に落として車体を安定、そのままのスピードで強引にカーブを曲がり切って
奇跡的に突破する事に成功した。

「よっしゃあぁぁーー!!」

片腕を高く上げてガッツポーズを取る御門先生。

『……』

そして、魂が抜けてしまったかの様にグッタリするその他の面々。

「生きてる…?ねぇ…生きてる…?」
「あたし…、まだ現世に存在してるよね…?ね…?」
「一瞬お花畑みたいな物が見えたんだけど…」
「ボクはちょっと川を渡りかけたけど…」
「……」(失神)

「フッ、大袈裟よみんな。私に掛かればこれ位軽い軽い――」

「ぁ……あのですねぇ……って先生!?前、前ぇ!!!」

「へ?」

一難去ってまた一難。気付いた時には前方に別の車がいた。それもかなりの至近距離に。
あまりに近付き過ぎた為に、ブレーキも間に合いそうに無い。

『ぅわぁぁぁ~~!!今度こそぶつかる~~~!!!」

「なんのぉ!!!」

またまたどっかの漫画みたく、御門先生の叫びに応える様に車の片側が突然持ち上がって、
片輪走行でセンターラインを越えて前方の車を避わす。

『のぉぉぉ~~!!?』

「みっ、みんなぁ!?」

その反動で、シートベルトをしていない後部座席の面々が端の方に吹っ飛ばされる。
そのどさくさに紛れて、レンの手が沢田の身体に触れた。

「ちょっ、レンレン変なトコ触んないでよ!」

「すすすすすまない沢田さん!決してワザとじゃあ――ってぇ!?今度は対向車来たーーー!!!」

「問題無ぁーーし!!!」

更に勢い任せに、素早く車体を下ろして元の車線に戻り対向車を避わす。
その反動で、今度は猿山が籾岡の方へ飛んでいって――。

「だぁーー!こっち来んな猿山ぁ!!」
『ドガッ!!』

「ぶほっ!?」

籾岡、掌底による迎撃。

「ちょっ、先生ぇ!!いい加減落ち着いて――ってわぁっ!?先生もっと車間距離取って!近付き過ぎ――って対向車対向車ぁ!!
先生、もっと安全運転をぉ!!コレ絶対いつか事故りますってぇ!!」

リト、生と死の狭間を彷徨いながらも御門先生の暴走を止めようと必死に呼び掛けるが…。

「関係無い!!敵対する者は全て破壊――じゃない、追越するっ!!!
どんな車だろうと、ただ打ち貫――じゃなくて、横切り追い抜くのみっ!!!」

御門先生、やはりリトの言ってる事などまるで聞いちゃくれない。
それどころか、さっきまでのスリル満点以上のドライブで余計にヒートアップしてしまっている。
その証拠にこのお姉さん、ノリが頭○字Dからス○ロボに移行していらっしゃいます。

「ふはははは――!!!この首都高に我を阻む者無ぁぁぁーーし!!!」


『いや、ココ首都高じゃありませんからぁぁぁ~~~!!!たーーすけてぇぇぇ~~~――!!!』


御門先生の高笑いと五人のツッコミ(一人オチてるから本当は四人)と絶叫が果てしなく響きながら、
この後旅館に到着するまでこの恐怖は続いたという…。





――――――





そんな感じで御門車内が地獄絵図と化している一方、遙か後方を走っている秋穂車の面々は――。



「凄いわね~、もうあんなトコにいる…。春菜の学校の先生ってあんな個性的な人が多いの?」

「ぃ、ぃゃ~…、あんな一面があった事なんて初めて知ったんだけど…」

妙に関心してる秋穂さんと、苦笑いを浮かべながら軽く引く春菜。

「わ~、レモン達楽しそ~。私もあっちに乗れば良かったかな~」

本気なのか冗談なのか、いや多分本気なんだろーな~と思える位あっけらかんと言ってのけるララ。

((よ、良かった~…、向こうに乗らなくて…))

そして、命拾いをして心の底から安堵の溜め息を吐く美柑と唯。

(……だから無理だって言ったんです。ドクターの暴走は半端じゃありませんから…)

そんでもって、御門先生の犠牲になった同乗者のみんなを心の底から哀れむヤミだった。

「………まぁ、それはそれとして」

ここで秋穂さん、軽く流す様に話を切り替える。

「ねぇ、ララちゃん」

「ん?な~に?春菜のおねーさん」

「……ユウキくんてどんなコ?」

「へ?リトの事?」

 

「ええ♪ララちゃんって確かそのコと一緒に住んでるんでしょ?ちょっと教えてくんない?」


「おっ、お姉ちゃんっ!?」

秋穂さんの発言に可愛く首を傾げるララと慌てふためく春菜。

「お姉ちゃん、いきなり何言い出すの!?」

「だって気になるじゃない。春菜いっつもユウキくんユウキくんって言ってるから、一体どんなコなのかな~って♪」

「ちょっ!?」

「春菜が?」

「ええ♪そりゃあもうそのユウキくんの話題が出ない日は無い位連日のごと「わぁぁ~~!!!」」

ニヤニヤ含み笑いをしながら話す秋穂さんの言葉を、顔を真っ赤にしながら大声を出して遮る春菜。

「何でそんなに慌ててんの春菜?」

「え゛!?ゎ…私は別に…」

「なら別に聞いたって良いわよねぇ~?(ニヤニヤ)」

「ぅ゛…」

返す言葉も見つからず、春菜は顔を隠す様に俯いてしまった。

「んとね~、リトは~、優しくて~、カッコよくって~、かわいいトコもあって~、
ちょっと怒りんぼなトコもあるけど~、宇宙でいっちばん頼りになる人なんだよ~♪」

「へぇ~、凄く信頼されてるのねそのコ♪」

(ララさん、ちょっと美化入ってるけどね…)

ふとそう思った美柑だが、別に訂正する必要も無いのであえて口に出さない。
(八割方は自分でもそう思ってるから)

「それじゃララちゃん、ララちゃんはそんなユウキくんの事をどう思ってるの?」

「大好きーっ♪♪」

ニパー♪って効果音が聞こえてきそうな位の眩しい笑顔で答える。

「あらあら、清々しい位はっきり言っちゃうのね~♪」

「だってホントの事だもん」

「まぁ。んふふふ――♪」

恥ずかしげも無くララにキッパリ言われて、おもわず秋穂さんは笑みを零した。



「……」

対照的に、改めてララのリトに対する気持ちを聞かされて、複雑な気持ちになる春菜。

好きな人に想いを伝えたい気持ちと、大切な友達に想いを叶えて欲しい気持ち…。
矛盾した二つの思いが板挟みになって、余計に自分の想いを苦しめ、胸が締め付けられる。

「春菜」

「え?」

沈みかけた所で秋穂さんに話し掛けられて顔を上げる。
そして…。


「負けちゃ駄目だよ♪」(口パク)

「ぁ…」

春菜に気を使って、口パクでエールを送ってウインクする秋穂さん。
こーゆー所は、やはり『お姉ちゃん』なのだと思わされる。

「……」(こく…)

そんな秋穂さんの想いに心打たれて、春菜はただ顔を赤らめて小さく頷いた…。



「……」

一方、リトの話題で悶々としてる少女がここにも一人…。

(何なの…?何で私、さっきから結城くんの事ばっかり考えちゃってるの…?)

みんなに悟られない様に赤らめた顔を背け、窓を流れる景色を眺めながら、
唯は自分の中の不思議な気持ちに戸惑っていた。
さっきララが『大好き』と言った瞬間、胸がドキンと跳ね上がり、
何故か分からないが、そこからしばらく動悸が止まらなくなっていた。


(だ…大体結城くんなんかいっつもハレンチな事ばっかしでかしてすっごい迷惑してるんだからねっ…!
そ…そりゃあ、そーゆー優しい所や責任感も持ってる所もあるし…、ちょっと……格好良いなって思う事もある…けど………
って、私は何を考えるのよっ!)

頭をブンブン振って、さっき思った事を掻き消す唯。
でも、どんなに誤魔化そうとしても、リトの顔が頭から離れない。

(………結城くん…、今頃何してるんだろ…)

そして、唯はリトに想いを馳せる。自分の気持ちは理解出来てないけど…。
今も父親の仕事の手伝いで四苦八苦してるリトに想いを馳せる…。
まさかその当人は女になってこの旅行に参加してるとは思いも寄らずに。




「はぁ~…、ホントリトってば罪な男…」

「?、どうしました?美柑…」

「んーん、別に」

ヤミの問い掛けに笑顔で受け答えながら、色々と罪作りな我が兄に呆れつつも、この状況を楽しそうに傍観する美柑。

(さて…、一体誰があたしの未来のお姉ちゃんになるのかな?)

今から楽しみだなぁ~っと、美柑はおもわず含み笑いを零した。

「個人的にはヤミさんがなってくれたら嬉しいんだけどな~…♪」

「なんの話ですか?」

「あー、気にしない気にしな~い♪」


「あっ、見えてきた~♪ねーねー春菜、旅館ってあそこでしょ?」

「あ、うん。あそこが私達が泊まる旅館だよ」

「もう先生方も着いてるみたいね。私達も急ぎましょ」

「楽しみだなぁ~♪」



とゆー事で、こちらはいたって平和的に旅館へ辿り着いた――。

 

 

――――――


温泉旅館――。


「ハ~イ、遅かったわねみんな。待ちくたびれちゃったわよん♪」

秋穂車が旅館に着くと、えらくスッキリした感じの御門先生が極上スマイルで待っていた。

『……』

そして、真っ白に燃え尽きた同乗者の皆様方。
何か口から白いモノが出ている様ですが、とりあえず皆さん生きておられてますのであしからず。

「あら?どうしたのみんな?旅行は始まったばかりなのにそんなに沈んじゃってさ。車酔いでもした?」

「………マァ、概ネソンナ所デスヨ…。先生ノオ陰デ…」

何でこんな事になってるのか全く自覚していない御門先生に対して、
リトは出来る限り皮肉をたっぷり含めて返事を返す。
――が。

「あらあら、困った子達ねぇ~。みんな若いんだからもっと元気出さなきゃ駄目よ?」

《アンタの所為だよ!!頼むから少しは自覚しろ!!》

――と叫びたかった。みんな揃って声を大にして叫んでやりたかった。
だが、それすら出来ない位にリト達の精神力は極限まで搾り取られていた。


「だいじょぶ?レモン、みんな~」

ちょっと心配そうにララがリト達の顔を覗き込む。

「ぁの……、口から魂みたいなモノが…」

(何か…、触ったら崩れちゃいそうね…)

リト(レモン)達犠牲者の現状を目の当たりにしてドン引き、哀れむ春菜と唯。

「……」(ぽんっ)

無言でリトの肩に手を置き(爪先立ちで)、目頭を押さえる美柑。

「………まぁ、とりあえずご苦労様でした。結城リ――レモン…」

そしてヤミから労いの言葉を貰った。

「………とりあえずなぁ…、オレは一つだけ理解出来た事があるわ…」(ボソッ)

「何?」

『ガバッ』

「ふぇっ!?」

小声で何か呟いたかと思ったら、小首を傾げるララをいきなりギュッて抱き締めて、そして…。

「………生きてるって素晴らしい事だよなぁ~……(泣)」

ララの胸に顔を埋めて泣きついた。
普段のリトからは考えられない大胆な行動――。
よっぽどさっきのデス・ドライブが恐かったと見える。

「よしよし♪」

流石のララも突然のこの行動に一瞬キョトンとしたが、
すぐに元の笑顔に戻って、そんなリトの頭を優しく撫で撫でしてあげる。
やはりリトに甘えられてる事がよっぽど嬉しいのか、
端から見ても分かる位に幸せの浮かれオーラを醸し出しているのが見て取れる。

「………はっ!?ごごゴメンっ!オレ一体何をうわっぷ!!?」

「や~ん、もーちょっとぉ♪」

ここでようやくリトは我に返って、慌ててララから離れようとした。
が、すっかり上機嫌のララにがっちりホールドされて身動きがとれず、再び胸の中へ顔を埋まされる。

「ラッ、ララ!?」

「んふ~♪レモン~、いいコいいコ♪♪」

赤面するリトをよそに、楽しそうに頭を撫で撫でしながら頬を寄せてすりすりするララ。
抱き寄せる力も更に込もって、しばらく離してくれそうにない気がする。


「……」

「春菜さん…、そんな羨ましそうに見なくたって…」

「えぇっ!?わっ私は別にそんな…」

その横で、美柑のツッコミに春菜は顔を赤くさせて慌てふためく。

「ララさん、そろそろ離してあげなさい。結城さん窒息しちゃうわよ?」

見かねた唯がリト(レモン)に救いの手を伸ばす。

「え~、だめ~?」

「ダ・メ」

「む~…」

ハッキリ唯に告げられて、ララは渋々リトを解放した。

「ぷはぁっ!はぁ……ひぃ……ふぅ……、あ゛ー死ぬかと思った~…」

「大丈夫?結城さん」

「あ、うん。ありがと、古手川さん♪」

「………い、良いわよ、これくらい…」

ペッカーって感じの眩しい笑顔でお礼を言うリト。
その笑顔を見て、何故か唯は頬を赤らめてぷいっと顔を逸らした。

「………えーっと…、ボク何か粗相を…?」

「ぃ…いや…、そうじゃなくって…」

『また何かやらかしてしまったのか!?』と内心焦るリト。しかし…


(な……何で!?何で結城くんの顔が浮かんでくる訳!?そりゃ確かに結城さんと結城くんって似てる所が一杯あるけど…。
いやその前に何で私こんなに結城くんの事意識してるのよっ!?)

どうやら唯は『レモン』の笑顔がリトの笑顔と重ね見えていたらしく、
その気恥ずかしさからおもわず顔を背けてしまったらしい。
………同一人物だから仕方無いと言えば仕方無いのかもしれないが…。


「さてと、ここでずっと立ち話してるのもナンだからそろそろ旅館に入りましょうか♪ねぇ、幹事さん?」

手をぽんっと合わせて話を区切り、旅館の中に入ろうと幹事こと籾岡達の方を振り向き促す御門先生。
――が。


『……』


一同(リト以外)、まだ真っ白になって固まってます…。

「む、世話が焼けるわね~…」

そう呟いて御門先生、おもむろに籾岡に近付き…。

「ごにょごにょ――」

何かを耳打ち。


すると――。


「ナニィィィーーー!!?」


アラ不思議、籾岡さんの石化が解けました。


更に――。


「そんでもって、ごにょごにょ――」


「はいぃぃーーー!!?」
「うそぉぉーーん!!?」


立て続けに沢田とレンに何かを耳打ちして石化を解除させる御門先生。


そして――。


「さて、この子にはとっておきのヤツを…♪」

最後に残った猿山に対して怪しい笑顔を浮かべ、他の三人と同じ様に何かを耳打ちする。
すると――。


「ぶはぁっ!!?」


猿山、何故か大量の鼻血を噴射してぶっ倒れてしまった。


「あら?やっぱりこの子には刺激が強すぎたみたいね」


(い……一体何を言ったんだ…?)

(気になる…。気になるけど何か知りたくない…みたいな…)

その様子を見て、リトと唯は御門先生が何をしたのか物凄く気になったが、あえて追求はしない。
何故なら――


「ま……まさかアレがアレであんなになって…」
「アレがそーなってそんな事になるなんて…」
「恐ろしい…、恐ろし過ぎる…!絵――いや、字にも書けない恐ろしさとは正にこの事!!」


――とまぁこんな感じで、やたらと怯える籾岡・沢田・レンの姿を見て、本能的に『聞いちゃダメだ』と感じ取ってしまったから。
追求『しない』と言うより『出来ない』と言った方が正しい。

「ねーねー御門センセ~、リサミオ達に何言ったの~?何かみんなガタガタしてるけど」

もっとも、この娘にはそんな空気など『そんなの関係ねぇ』って感じらしく、
純粋な興味本位で御門先生に尋ねるララ。
好奇心旺盛……とゆーか怖いもの知らずにも程がある。

「知りたい?」

「うん♪」

「実はね「ダーメーだぁぁぁーーー!!!」むぐっ!?」

レンが御門先生の口を慌てて塞ぐ。

「あれ?レンちゃん?」

「知らなくて良い!!ララちゃんは知らなくても良いからっ!!」

「えぇぇー、何で~!?教えてよレンちゃ~ん!」

両腕をぶんぶん振って、可愛く教えてと請うララ。
この行動にちょっと……いや、かなりグラッと来たレンだが、
『ここはララちゃんの為に』と心を鬼にして、流されそうな精神をグッと踏ん張る。

「ララちぃ、世の中ね、知らない方が幸せな事もあるんだよ…」

「これはララちぃが知るべき事じゃあない。むしろ知っちゃいけない事なんだよ…。分かって…」

籾岡と沢田もララの肩をガシッと掴んで、無理のある悟らせ論を説く。
普段だったら面白半分でこの状況を引っ掻き回して楽しむ二人がここまでマジになって止めにかかるとは…。
よっぽどさっき御門先生から聞かされた事が衝撃的だったらしい…。

「む~、そんな風に言われたら余計に気になっちゃうよ~。ね~、ちょっとだけ――」

「「「とっとにかくっ!ダメなものはダメーっ!!」」」

「む~…、でもやっぱり気にな「はいはい、そこまで」むぐっ!?」

しつこく疑問を投げかけるララの口をリトが無理矢理塞ぐ。

「さっ、この話はおしまいっ!皆さん旅館に入りましょー!」

無理矢理話を打ち切って、そそくさ旅館へ入っていくヒミツな三人。
後の面子も、話の内容が気になりつつもこれ以上追求せずそれに続く。


「何で止めるの?リト~」

「ララ、あんまり気にしちゃ身体に毒だぞ?せっかく旅行に来てるのに
そんなしょーもない事で台無しにしたくはないだろ?」

「ぅ…ぅん…」

「な?三人も決してララにいじわるしてる訳じゃなくて、むしろララの事を想って言ってる訳だから、
その気持ちは分かってあげような?」

「む~…、リトがそー言うなら分かった~…」

本心は未だに気になりまくってるのだが、リトをこれ以上困らせたくないので渋々引き下がるララ。

(ふー、やっと引き下がってくれたよ…)

気になりまくってるのは自分も同じだったが、これは絶対知ってはいけない事だ――と、
こーゆー事に関してはニュー○イプ並みの直感を発揮し、危険を察知するリト。
ララがなんとか諦めてくれて心の中で冷や汗を拭う。

「ぁ……ぁははは…」

そしてひたすら苦笑いの春菜。
この娘はこーゆーカラミでは苦笑いしかしていない様な気がする。

「リト――じゃない、レモンお姉ちゃん達、何してんのー!早く行こー!」

「分かってるー!行こうぜ、二人とも」

「は~い」
「うん」

美柑の呼び声で話を止め、三人は旅館へ入って行った。



………未だ出血多量で悶絶している猿山をほったらかしにして…。