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6時間目の授業が終わり、一気に開放感が広がる教室内。
帰りのホームルームを前に、仲の良い友人どおしが集まって
今日どうする?
カラオケでも行こーよ
などと楽しげな会話が教室中で展開されている。

ある一角を除いて―――


「結城君!あなたって人は、また授業中居眠りして!!」

声の主は、古手川唯。
もう少しで腰にまで届こうかという長く美しい黒髪。
整った顔立ち、細く長い脚。
美少女揃いと評判の二ーAでもトップクラスの美少女だ。
しかしこのクラスのいったい何人が彼女の美しさに、
いや、かわいさに気づいているのだろう。
つまり唯はクラスの男子からウケが悪いのだ。
曲がったことが大嫌いでな性格で、風紀にうるさいことから
男子は皆唯を避けている節があり、いつも明るく元気なララや
おっとりした西蓮寺春菜を好みのタイプとしてあげることが多い。

そして唯は今日も今日とて男子に向かって怒っていた。
顔をやや紅潮させ、身を乗り出すようにして声をあげているその先で、
怒鳴られ役の結城リトはぐったりと机に突っ伏していた。
「5時間目は耐えたじゃねーかよ・・・」
「何時間目かは関係ないの! だいたい結城君は―――」

一週間前の席替えで隣どおしになって以来、毎日こんな調子だ。
授業中いつも居眠りしてしまうリトを叱る唯。
「・・・居眠りくらい他のやつもしてるだろう?・・・何で俺だけ?」
リトは不満げというよりも、眠くてしょうがないといった様子で弱弱しく言葉を返す。

リトの言い分は、生徒として正しいかどうかは別だが事実ではある。
授業中に寝るものなど一クラスに数人は確実にいるし、
昼食後ともなればその数は増加するのが普通だ。
「そ、それは、あなたがわたしのとなりの席だからよ!」
少し詰まりながら、唯は理不尽極まりない言い分をリトに返す。
ふぁぁ、と大きく一つ欠伸をして、リトはようやく顔を上げ唯に目を向ける。
「そんな顔真っ赤にして怒らなくても・・・」
「な、、何言ってるのよ、結城君!赤くなんてなってないわ///」
ますます頬を染めながら、叫ぶように唯は言う。
寝起きのリトには、そのボリュームはちとキツく、思わず顔をしかめる。
「悪かったよ。これからは寝ないように気をつける」
これ以上怒られるのは遠慮したいし、相手は正しいわけだから素直に降参する。
「分かればいいのよ///」
唯はまだ少し赤い顔をぷいっとリトから背けて、
つぶやくように言うと教室を出て行った。

(やっぱ俺って古手川にとっては未だに問題児なのかなぁ。
最近はだいぶ打ち解けてくれたと思ったのに。ま、オレがわるいんだけどさ)
また怒られてやんのー、とからかいに来た猿山を華麗にスルーしつつ
リトはぼんやりとそんなことを考えていた。

一方唯はというと、教室を出たものの特に行くべき場所があるわけではない。
階段の踊り場で手すりに軽く寄りかかり、ハァ、と物憂げなため息を一つ。
(またやっちゃった・・・)
誰が見ているわけではないが、バツの悪い表情になってしまう。
「何で俺だけ?」
リトのその問いに、唯は無理矢理な答えを返すしかなかった。
実際、リト以外のクラスメートだったら、小声で注意くらいはするだろうが
あんな風に毎日大きな声をあげたりはしないだろう。
ましてや、リトは漫画家である父親の手伝いが
忙しいのであろうことも察しがついているのに。
そして、どうして怒ってしまうのか自分ではわかっていなかった。
(わけがわからないわ。これって一体何なのかしら///)

唯はリトと隣の席になってからのこの一週間、
自身の心の異変に動揺しっぱなしなのだった。

リトを見るたびにドキドキする―――。

出会った頃は風紀を乱すものとして、嫌悪感すら抱いていたのに。
その後時間を共有する機会も多くあり、少なくともリトが
風紀を乱そうと思って乱しているわけではないことは理解した。
そしてリトが、とても優しい男の子だということも。
一緒にいると怒ってばかりだけれど、怒った後にはいつも
なんとなく嬉しいような、優しいような気持ちになることも。


「結城君か・・・」
唇に人差し指を当て、足元を見つめながら唯は無意識に呟いた。
「リトがどうかしたのー??」
ビクッと体が震えてしまう。
見ると授業終了と同時に自動販売機へと向かったらしいララ、春菜等
リトを除くお馴染みのメンバーたちが階段の上ってくるところだった。
「べ、べつに何でもないわ///」
唯は意識して不機嫌そうな声を出す。
「さてはまた結城と喧嘩したなー」とリオ。
「喧嘩って言うより、一方的だけどね」とミサ。
「あはは・・・」いつものように苦笑の春菜。
「ゆいー、リトのことあんまり怒らないであげてね。
お父さんの手伝いでつかれてるんだよ」
「それは結城君次第よ。さ、ホームルームの時間よ」
「あ、待ってよー」
スタスタと足早に歩いていく唯を小走りに追いかけるララたち。
(きっとこれは一時の気の迷いなんだわ。結城君なんて、ハレンチだし///)


唯が自分の気持ちに気づくことになるのはもう少し先の話―――