・多治見要蔵
大正×年当時の東屋当主。
早く両親を失い、二人の伯母に育てられた。
眼と眼のあいだがつまって、額がせまく、顎のとがっているところが、いかにも険悪な相。
若いころから、粗暴残虐の振舞いが多かった。


・田治見久弥
要蔵の息子。
田治見家の現当主。
四十一歳だが、肺病でやつれているせいか五十にはたしかに見える。
骨ばった皮膚には生気がない。
病人特有の、ギラギラと油のういたような眼。
顔色にはどこか精悍の気が溢れている。
ゴロゴロ痰のからまるような声。

長いこと床についており、気むずかしくなっている。
里村慎太郎を嫌っており、彼が来るといつも機嫌が悪い。


・田治見春代
要蔵の長女。
歳は三十五、六。
いちど結婚したが田治見家に戻っている。
少し髪のちぢれた色の小白い、いかにも生気のない顔色。
かん高い調子の声で、いかにも仰山そう。
なんとなく声の調子に熱がなく、動作がのろのろとしている。
心臓でも悪いのか、蒼くむくんだような顔。
眼のいろに力がない。
まずまずやっと十人並みという器量。
善良で気の好さそう。
腎臓が悪い。


・田治見小梅/小竹
双生児。
生涯良人を持たず、いかず後家として田治見家の一切の采配をふるう。
たぶん、もう八十を越えている。
皺の一筋から、皮膚のシミにいたるまで、そっくり同じ。
猿が二匹座っているような感じ。
真っ白な髪を、ちんまりうしろにたばねて、背を丸くして座っている。
顔も体も掌の中に丸めてしまえそうなほど小さい。
若い頃はさぞ美しかったろうと思われるような面影。
年齢のわりには色艶もよく、歯のない唇を、巾着の口のようにすぼめている。
里村慎太郎を嫌っている。


・里村慎太郎
要蔵の弟、修二の子。
要蔵の母の実家を継いだ。
年齢は春代とおっつかっつというところ。
戦時中は少佐で、参謀本部づき。
尾羽打ち枯らして村に戻り、失意の身で百姓の真似事のようなことをやっている。
独身。

肥り肉の、色の白い大男。
体はいたって頑健。
頭は丸刈り。
不精髯がもじゃもじゃと生えていて、かなり爺むさい感じ。
人間ぎらい。
どんなときでも眉根ひとつ動かさず、平々淡々としている。
大胆不敵とも一種の虚脱状態にあるとも見える。


・里村典子
慎太郎の妹。
八カ月の早産で生まれた。
額の広い、頬のこけた醜い女。
成熟しそこなったという感じ。
月足らずということが、ひとめで分かるようなひ弱さ。
日陰に咲いた花のよう。
びっくりするほど長い首で、必ずしも悪いかたちではなく、反対に、どこかなまめかしいところがあった。

体が弱く、少し働きすぎるとすぐ倒れる。
うまれたての赤ん坊のように、天真爛漫。
大胆で楽天的で勇敢。


・井川鶴子
村の博労の娘。
郵便局の女事務員。
辰弥の母。
辰弥が七歳の時に死亡。

小柄で万事小造り。
顔も小さければ、眼も鼻も口もちんまりと小さく整っていてまるでお雛様のよう。
子供と変わらないほどの小さな手。
終始沈んだ様子で、口数も少なく、外へ出ることはめったにない。
口調は物柔らかな岡山弁。
真夜中などに発作に襲われて激しく泣き出すことがあった。


・井川丑松
博労。
鶴子の父。
年齢はたぶん六十から七十までのあいだ。
胡麻塩頭を丸坊主にしている。
渋紙色に染めあげられた顔色。
ゴツゴツと節くれ立って、煙草の脂に染まった指。
どう見ても田舎のひと。


・寺田辰弥
要蔵と鶴子の息子。
亀井陽一と鶴子との子だという噂がある。
寺田虎造の養子。
物心ついてから、ずっと神戸でそだつ。
商業学校を出た年に養父と衝突して家を飛び出し、和解の機会がなかった。
徴兵されて南方に送られ、昭和二十一年に復員。
学生時代の友人に世話をされ、新興の化粧品会社に就職。

焼け火箸でも当てがったような疵跡が体の縦横無尽にある。
肌はたいへん白く、きめも細かで、女のように美しい。
幼いときから孤独になれ、ひとの意見を叩いたり、他人の同情にすがったりすることを好まない。
日頃はいたって弱気なくせに、最後の土壇場になると、不思議なほど勇気が出てくる性分。
非常につかれたときや神経を使いすぎたときに、夜寝ているとかなしばりの状態におちいる癖がある。


・森美也子
野村家の当主荘吉の弟、達雄の未亡人。
年齢はたぶん三十をいくらか出ているのだろう。
焼け出されるまでは東京にいた。

美しいのみならず、都会的に洗練されている。
肌の白くてきめの細かいことは上質の練り絹を見るよう。
面長な、どちらかといえば古風な顔立ち。
古臭い感じはどこにもなく近代的な才気がピチピチ躍動している。
髪をアップにした襟足の色気はこぼれるばかり。
魅力ある体臭。
姉御肌。
日本の女には珍しい大胆さと実行力を持った女。
同性の眼から見るとかげのある。


・亀井陽一
村の小学校の訓導。
鶴子と言いかわしていた。
八つ墓村の出身ではなく、他から転勤してきた。
地質に興味を持ち、よく鍾乳洞の探検に出かけていた。


・長英
隣村の真言寺、麻呂尾寺の住持。
よほどの高齢。
色艶もよく、いかにも福々しい眉をした。
体も大きくよく肥えていた。
中風で長く臥している。
起居が不自由だが、呂律は怪しくない。


・妙蓮
濃茶に庵室を結んでいる。
通称濃茶の尼。
年齢はもう五十か、あるいはもっといっている。
兎口の唇は三つに裂け、まくれあがって、その下から馬のような大きな、黄色い乱杭歯がのぞいている。
盗癖がある。
電気を消すと寝られず、いつもつけっぱなしで寝ている。


・梅幸
姥ヶ市(バンカチ)にある慶勝院の院主。
年齢は六十を越えているらしい。
村のちゃんとした筋目のもので、春代が物心ついた時分からすでに尼であった。
きれいで上品。
色白の小ぶとりにふとった顔は、観音様のように柔和。


・英泉
麻呂尾寺の所化。
五十の坂をとっくに越したらしい年配。
戦後まもなく寺へころげこんできた。
以前は満州の寺で布教にあたっていた。
長英とふるいお馴染み。

胡麻塩の毛のこわそうな。
度の強い眼鏡をかけているので、眼がつりあがったように見える。
両の頬にいっぽんずつ、深い皺がたてに走っている。


・洪禅
田治見家の菩提寺、禅宗の蓮光寺の和尚。
年齢は三十をちょっとすぎたばかり。
痩せぎすで、度のつよそうな眼鏡をかけた。
書生にちょっと毛の生えたようにしか見えぬ。


・諏訪
弁護士。
八つ墓村出身で、野村家の縁者。
色の白い、でっぷりと肥った、いかにも人柄のよさそうな人物。
辰弥探索の件は商売気をはなれて引き受け、八つ墓村から関係者が神戸へ出て来たときには、いつも宿を提供していた。
事務所は北長狭通三丁目、日東ビル四階にある。
自宅は上筒井。


・新居修平
疎開医者。
年齢は四十五、六。
色の白い、鼻下に美しい髭をはやした紳士。
言葉は歯切れのいい江戸弁。
肌ざわりが柔らかい。


・久野恒実
要蔵の従兄。
村の医者。
年齢は六十ちかい。
痩せぎすで眼のギロリとした、胡麻塩の髪の毛の硬そうな。
面長の鼻の高い、若いときは相当好男子であったろうと思われるような顔立ち。

たくさんの子持ち。
新居医師に患者を奪われて困窮している。
探偵小説に夢中。


・吉蔵
博労。
年頃五十前後。
顔も体もゴツゴツといかつい、井川丑松と同じような体質の男。


・周吉
西屋の若者頭。
六十くらい。
白髪の老爺。
皺の深い、眼玉のギロリとしたあから顔。