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No.02

葦刈物語(あしかりものがたり )

悲運の夫婦の再会説話。

内容

 京の都に貧しい男が居た。父母も親類も、頼りになる知己もなく、定まった家も無かったので、然るべき所に身を寄せて使われていた。しかし、将来の見通しには大変暗いものがあった。
 そんな彼には不似合いにも、若く美しく気立ての優しい妻が居た。夫の貧しいのにも愚痴もこぼさず連れ添っていたが、夫は「頑張っているのに、一向にうだつが上がらないのは、二人で居るのが良くないのかもしれない。いっそ別れて、お互いに一からやり直してみてはどうかと思う」と言い出した。妻は、「私は別れたいとは思っていません。お互いに飢え死ぬ覚悟で一緒に暮らしたいと思っていました。でも、あなたがそういうお気持ちだったら、別れるのも止むを得ないでしょう」と、泣く泣く別れたのであった。
 妻は若くて美貌だったので、さる貴族の屋敷に仕える事が出来た。気立ても良かったので、主人から可愛がられていた所、主人の妻が亡くなった為、後妻となり、屋敷の事は、全てその貴族の北の方となった彼女の手に任される事となった。
 北の方の夫はやがて摂津守となり、彼女も摂津に赴いた。摂津の難波は葦が生い茂り、景色のよい所である。北の方が一族を引き連れ、難波で車に乗って野遊びをしていた時、葦を刈る下衆たちの一人に目が止まった。身分の低い者にも似ず、どこか品格のある男だったからである。それも道理、実は、その下衆こそ、以前の夫であったたのだ。運命の随意(まにま)に、失業者の妻から、摂津守夫人へと出世した妻の方とは対照的に、夫の方は葦刈り者へと転落してしまっていたのであった。
 北の方は、それと知って、さりげなく使いの者に命じて、元の夫を、自分の乗る車の近くへ呼び寄せた。かつての夫は変わり果てていた。麻の衣も袖もちぎれ、顔も手足も泥まみれで、脛には蛭という虫が食いついて血が流れている。
 北の方は、使いの者に言いつけて、元の夫に、ものを食べさせ、酒などを飲ませたが、彼は、目の前の車の簾の中に、貴婦人となったかつての妻が自分を見守っているとは知る由もの無く、久しぶりの酒食を貪り食っている有様は、まことに惨めであった。
 何とかしてやらねばと、北の方は、元の夫に衣をひとつ、車の中から与えるとともに、

あしからじとおもひてこそはわかれしか などかなにはのうらにしもすむ
(お互い悪くならないようにと思って私たちは別れたのに、どうしてこの難波の浦で、あなたは葦を刈る有様にまでなってしまったのでしょうか)

という歌を添えたのである。

 歌の筆跡は、忘れられないかつての妻のものである。驚愕と羞恥の中で、夫は、さきの妻と、今思いももうけぬ形で再会を果たした事を知ったのである。彼も歌を返した。

きみなくてあしかりけりとおもふには いとどなにはのうらぞすみうき
(あなたと別れて悪かったと思うにつけても、難波でのくらしのますます住みづらいことです。)

そして、元の夫はそれきり姿を消してしまったという事である。

出展

今昔物語集(平安末期)