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―プロローグ― 大陸最北の町、十六夜。 夏でも全てが溶け去ることは無い深い雪原の上に居を構える者達が築き上げたその町は、他の町ではあまり見る事の出来ない『和』と呼ばれる独特の文化で構成されていた。 建築様式も他と比べると特異なもので、始めてこの地を訪れた者がまず口から漏らすものは、感嘆の息かも知れない。 そんな独特な文化の元に成り立つ十六夜だが、支援士の時代と呼ばれる昨今、彼らの持つ文化で最も注目されているものを一つ上げよと問われれば、誰もが『片刃剣』と答えることだろう。 ―それは、『折れず、曲がらず、よく斬れる』の要素を高い次元で実現した十六夜の民の誇りであり、作り上げる武器の特異性から『刀匠』とも呼ばれる<ruby>鍛冶師<rt>ブラックスミス</ruby>にのみ伝えられる、門外不出の技法でもあった。 寒さの際立つある冬の日。 そんな町の一角に建てられた、一人の刀匠の工房の中…… 十六夜製の軽鎧の上に薄布で織られた上着を羽織った一人の男性と、十六夜の刀匠が身につけるとされる衣服を纏った女性が、一本の片刃剣を挟んで言葉を交わしていた。 ……いや、厳密に言うならば”言葉を交わす”などという行為は行われていない。 だが、もしこの光景を目にする者があれば、この二人の間には、言葉を越えた何かで対話が行われているかのように感じる事だろう。 「…………」 男は黙って剣を鞘から抜き、窓から篭れ入る明かりをその刀身に映し出す。 その剣は刻まれた波紋の美しさもさることながら、鋭く黒光りする刀身は見る者を虜にするような……紛れも無く名刀と呼ばれる剣だろう。 「……先代の技をここまで再現する域に達したか」 張り詰めた空気の中、男がふと口にする言葉。 その言葉を耳にした女は少し目を見開くが、まだ何も言わず、次の言葉を待つように目の前の男の瞳を見つめている。 「紛れも無く、シエン殿の剣と同じ輝き……二十に満たないその身でこれだけの技を身につけるとは、ホタル殿も大したものだ」 「クウヤさん、では!?」 男……クウヤがその一言を口にしたその瞬間、その刀を打った刀匠であるホタルは、弾かれたようにそう口に出していた。 父であり、師であるシエンの刀剣鍛冶の技……この日まで、その技を継ぐために心血を注いできた彼女には、その言葉こそが待ち望んでいたものだったのだろう。 「……だが、それだけだ」 「…………え?」 しかし、クウヤは失望したように剣を鞘に戻した。 ホタルは、一瞬どんな言葉を耳にしたのか理解できず、呆然とした表情を見せる 「……これは貴方の父、シエン殿の剣を模しただけの贋作。 『天之』の銘を刻む価値は無い」 そう言いながら、鞘に収めた剣を突き返す。 その瞬間の顔に見られるのは、失望と悲哀、そして叱咤。 「……ホタル殿、貴方はシエン殿の技を余す所無く受け継いだ。 だが、それだけでは意味がないのだ」 「そ、そんな……」 「『天乃』の名を継ぐということ、その意味を貴方は理解していない。 もう一度、そこから見つめなおすべきだ」 自らの手に戻された剣を見つめ、クウヤの言葉を黙って聞くホタル。 「……では、本日はこれで」 ……この剣は、紛れも無く渾身の力作だった。 父、シエンの…『天乃』の名を汚さぬよう、父に教わった技の全てを込めたものだった。 それを否定され、崩れ落ちるホタルに気遣う様子もなく、クウヤはそれ以上何一つとして言葉をかけず、黙って工房から立ち去っていった。 「……クウヤさん……なにが……なにが足りないと言うのですか……?」 [[次へ>>>チャプター1.日課]]
―プロローグ― 大陸最北の町、十六夜。 夏でも全てが溶け去ることは無い深い雪原の上に居を構える者達が築き上げたその町は、他の町ではあまり見る事の出来ない『和』と呼ばれる独特の文化で構成されていた。 建築様式も他と比べると特異なもので、始めてこの地を訪れた者がまず口から漏らすものは、感嘆の息かも知れない。 そんな独特な文化の元に成り立つ十六夜だが、支援士の時代と呼ばれる昨今、彼らの持つ文化で最も注目されているものを一つ上げよと問われれば、誰もが『片刃剣』と答えることだろう。 ―それは、『折れず、曲がらず、よく斬れる』の要素を高い次元で実現した十六夜の民の誇りであり、作り上げる武器の特異性から『刀匠』とも呼ばれる&ruby(ブラックスミス){鍛冶師}にのみ伝えられる、門外不出の技法でもあった。 寒さの際立つある冬の日。 そんな町の一角に建てられた、一人の刀匠の工房の中…… 十六夜製の軽鎧の上に薄布で織られた上着を羽織った一人の男性と、十六夜の刀匠が身につけるとされる衣服を纏った女性が、一本の片刃剣を挟んで言葉を交わしていた。 ……いや、厳密に言うならば”言葉を交わす”などという行為は行われていない。 だが、もしこの光景を目にする者があれば、この二人の間には、言葉を越えた何かで対話が行われているかのように感じる事だろう。 「…………」 男は黙って剣を鞘から抜き、窓から篭れ入る明かりをその刀身に映し出す。 その剣は刻まれた波紋の美しさもさることながら、鋭く黒光りする刀身は見る者を虜にするような……紛れも無く名刀と呼ばれる剣だろう。 「……先代の技をここまで再現する域に達したか」 張り詰めた空気の中、男がふと口にする言葉。 その言葉を耳にした女は少し目を見開くが、まだ何も言わず、次の言葉を待つように目の前の男の瞳を見つめている。 「紛れも無く、シエン殿の剣と同じ輝き……二十に満たないその身でこれだけの技を身につけるとは、ホタル殿も大したものだ」 「クウヤさん、では!?」 男……クウヤがその一言を口にしたその瞬間、その刀を打った刀匠であるホタルは、弾かれたようにそう口に出していた。 父であり、師であるシエンの刀剣鍛冶の技……この日まで、その技を継ぐために心血を注いできた彼女には、その言葉こそが待ち望んでいたものだったのだろう。 「……だが、それだけだ」 「…………え?」 しかし、クウヤは失望したように剣を鞘に戻した。 ホタルは、一瞬どんな言葉を耳にしたのか理解できず、呆然とした表情を見せる 「……これは貴方の父、シエン殿の剣を模しただけの贋作。 『天之』の銘を刻む価値は無い」 そう言いながら、鞘に収めた剣を突き返す。 その瞬間の顔に見られるのは、失望と悲哀、そして叱咤。 「……ホタル殿、貴方はシエン殿の技を余す所無く受け継いだ。 だが、それだけでは意味がないのだ」 「そ、そんな……」 「『天乃』の名を継ぐということ、その意味を貴方は理解していない。 もう一度、そこから見つめなおすべきだ」 自らの手に戻された剣を見つめ、クウヤの言葉を黙って聞くホタル。 「……では、本日はこれで」 ……この剣は、紛れも無く渾身の力作だった。 父、シエンの…『天乃』の名を汚さぬよう、父に教わった技の全てを込めたものだった。 それを否定され、崩れ落ちるホタルに気遣う様子もなく、クウヤはそれ以上何一つとして言葉をかけず、黙って工房から立ち去っていった。 「……クウヤさん……なにが……なにが足りないと言うのですか……?」 [[次へ>>>チャプター1.日課]]

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