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「チャプター9.極みへ至る瞳」(2007/04/09 (月) 18:41:30) の最新版変更点
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―9―
「――極意・空牙舞風閃!!」
ホタルの目の前で刀を振り上げていた鎧武者が、矢の様な勢いをもって駆け抜けた一陣の風によって胴斬りにされ、次の瞬間には今まで消えていった鎧武者と同様に、空気の中にかき消えていった。
一瞬遅れて、ホタルはその風が吹き抜けた先に視線を向け……そしてその先に、ある一人の武人の姿をその目に映した。
「ホタル殿、お怪我は?」
振向きざまに間合いの中にいたらしい鎧武者を斬り裂きつつ、そう口にするブレイブマスターの青年。
ホタルは呆然としつつも、一度ごしごしと目をこすり、確認するように改めてその姿を見つめる。
……幼い頃からの友人にして、自分の剣を使うと約束した『竜泉』の後継者……
「クウヤさん!」
竜泉空也。 まぎれもなく、その人だった。
「クウヤ? さっき言ってた討伐隊のヤツか!?」
また別の鎧武者を相手にしながら、横目に呼びかけるディン。
メンタルによる攻撃でしかとどめを差せないという点から、エミリアの魔法を主軸にして戦っているようだった。
「ああ、周辺の探索を終え、最後の確認に戻ってきたのだが……すまない、どうやら討ち漏らしがいたようだ」
「謝罪はいいから手を貸してくれ!」
「承知。 ホタル殿、そこを動かないよう願います。 直ぐに他の討伐隊の者達も到着いたしますので」
「はいっ!」
ホタルのその返事だけを確認すると片刃剣を構え直し、鎧武者の一団へと駆け出した。
「はぁあ!!」
目にも留まらぬ速さとは、まさにこのことなのだろうか。
クウヤを狙い向かっていく鎧武者達の脇を、流れるような足さばきですり抜けると同時に、すれ違った相手の全身には無数の剣閃が走り、瞬く間に5体の鎧武者を消滅させた。
「すげっ……」
「さすがは『竜泉』か……見たところAの後期…いや、Sの初級いったところじゃな」
「私など、父上と比べればまだまだです。 それより、御二人の名は?」
すっ、とディンとエミリアの近くへ寄り、二人の名を問いかけるクウヤ。
こっちに来てホタルは大丈夫なのか……と口にしかけたディンだったが、見るとホタルの方へと向かいつつあった一団は、先ほどの一閃ですでに一通り殲滅してしまったようだ。
残っているのは、むしろディンとクウヤの持つ剣を狙う一団。
「…俺はディン、こっちはエミリア。 見てのとおり、パラディンナイトとマージナルだ」
「私の名を聞き、『竜泉』を口にしたという事は、私の事はホタル殿からお聞きしているようですね」
「うむ、名前だけじゃがな」
「では改めて、私は竜泉支空(シクウ)が一子、竜泉空也。 以後、お見知りおきを」
「ああ。 ……と、そんなのんきに話こんでる場合じゃないな」
大分数は減ってきたものの、まだ数体残っている鎧武者に向けて太刀を構えなおすディン。
クウヤも”そうですね”と口にすると、それに続くかのように構えをとる。
「―我が命に従い現れ出でよ冬の精―」
エミリアは二人のその様子を確認すると、静かに目を閉ざし、その杖を地面に垂直に立てるような体勢で、呪文の詠唱に入る。
「―ふっ…!」
それに合わせるようにしてディンとクウヤの二人も地を蹴り、居並ぶ鎧武者の懐へと飛び出した。
「速さと技……身のこなし……さすがクウヤさん」
一歩離れた位置で、戦闘の様子の観察を続けるホタル。
先程までの、ディンの戦い方を見て気付かされた、武器に求められる重要な要素。
それは一人一人少しづつ違ったものをもっているもので、それを見極めるには、刀工自身がその境地を悟るしかない。
「……疾風の剣技、縦横無尽に駆ける足……そして、『嵐』の力を、高次元で使いこなしていること……」
戦闘におけるクウヤの一挙一動を、その目に焼き付けようとするホタル。
……だが、正直な感想を聞かれると”私の目では追い切れない”と答えるだろう。
それでも、目の前の戦いを見ることこそが、今の自分にとって最も大きな一歩となるだろう……そう信じて、ただその瞳に映る光景を、まばたきをする間も惜しんで見つめている。
「クウヤさんの技はシクウさんと同じ『竜泉』の技……でも違う。 クウヤさんは、クウヤさんの形で『竜泉』の技を継いだんだ」
それは、気付いてみれば簡単な事だった。
名を継ぐことは、技を継ぐこと。 しかし、技を継ぐ事は、先代を真似る事では無い
「……父さま、申し訳ありません。 名を継ぐ事で満足していた私は、未熟でした」
……継いだ技と共に自身が鍛え上げた技で、より高いところを目指す……
先代に追いついたからといって、そこで足を止めては剣の極みなど見えるはずも無い。
「――極意・空牙蒼天斬!!」
ホタルのその決意に答えるかのように、クウヤの剣から、天地を断つかのごとき強大な嵐の刃が解き放たれた。
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