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開かずの扉」(2007/04/10 (火) 08:14:43) の最新版変更点

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 「……………………………………うぅっ…。 …エンリケ…ジュリア……、敵兵は…、もう…大丈夫なのですか?」 「カネモリぃ……、無事だったのか!? 心配かけやがってぇ!」 「そーだよぉ! キミがいなくなッちゃったら…ボクたち…。」 「黒の錬金術師」が意識を失っていたのは、ほんの僅かな時間だった。 しかし、その間にも仲間の身を案じ、彼の無事を確認した支援士たちの声は 込み上げてくる感情で上ずっている。 「…すみません、ご心配を掛けました。 それにしても、不正な手段で鍵を解くとドアノブに電気が流れるとは 本当に厳重な仕掛けですね? やはりこの扉の向こう側には、重大な秘密が隠されているはずです。」 「…あのさカネモリ、『でんき』ッて…ナニ?」 「うぅ~ん…。 …分かりやすく説明すれば、『雷』のようなものです。 雷とは、巨大な電気が集まったものなのですよ。」 そう説明しながら鍵穴を覗き込む彼の右手は激しい電撃で掌が焼けただれ、 衝撃で破裂した血管からは血が流れ出している。 「よーし、だったらこの扉、一撃で蹴破ッてやる!」 「いけません! …ここは慎重にゆきましょう。」 太い足を振り上げるエンリケを制止し、カネモリが有り合わせの粉薬を扉に振り掛ける。 すると… 〈パチパチッッ!!〉 扉の縦横に張り巡らされている真鍮で出来た装飾の間で、紫電の火花が飛び散った! 『……………………〈顔面蒼白〉』 「…ふぅ、これでは扉に触れることさえできませんね…。」 ………………………………………………。 ……………………………。 ………………。  「そうだっ! ボクに任せてよ☆」 扉から少し距離を置いて、正拳突きの構えを取るジュリア。 「『気拳打撃《ブロウ・フィスト》』!!」 〈ガンッ! ガンガンッッ!!〉 彼女の繰り出す拳の先から放たれた気が何度も扉を強打するものの… 「…はうぅっ……、もう…限界★」 この技は決して打撃力を何倍にも増幅するものではない。 分厚く頑丈な木材の板を打ち破る腕力を、ジュリアは持ち合わせていなかったのだ。 「参ったな。…お前さんの魔法でどうにかできないのか、カネモリ?」 「…残念ながら、わたくしの操る『水』は電気を伝えるのです。 『爆裂薬』を振り掛ければ破壊できるかもしれませんが、それも水薬。 いま用いるのは…、とても危険です。」 『うぅ~~ん……』 ………………………………………………。 ……………………………。 ………………。 「…仕方ないね。 ここは素直に、この扉の鍵手に入れようよ。 この艦船(フネ)でいちばん偉い人なら、きっと持ってるよ!」 「それは艦長ですね、ジュリア。甲板(うえ)で戦闘を指揮しているのでしょう。 …さぁ、いったん上がりましょう。」 「おいっ! お前さんの手の手当ては…」 「エンリケ、今は時間が惜しいのです。急いで下さい!」  〈…………………〉 軍艦の甲板上は、異様な静けさに満ちていた。 支援士集団の活躍で異人軍の戦力はほぼ制圧され、彼らは全員で武器を構えて 豪華な鎧を身に着けたひとりの褐色の肌の男を取り囲んでいる…。 「…さぁ艦長、『例のオパール球』の在り処を白状なさい。 返答次第によっては…、あなたを四方八方から串刺しにしますわよッ!」 大振りのハルバードの切ッ先を艦長に突き付け、パラディンナイトの女性が詰問する。 『………。』 他の方向からは彼女が統率するレンジャーナイトたちが同じように、槍を向けている。 「…言えぬ。 それだけは決して…、我が口が裂けようとも…ッ!」 艦長の要職にある者だけに、これほど絶望的な境地に追いやられようとも 頑なな態度をなかなか崩さない。 「…!」 〈ザッ!〉 女パラディンナイトが視線で合図を送ると、レンジャーナイトたちは一歩ずつ前進! 彼女たちの鋭い刃(やいば)は、もう艦長の身体からいくらも離れていない。 「……うむぅっっ………」 もはや艦長は絶体絶命。 (たとえ征魔の珠の在り処を白状しても、この小癪な奴等には手出しできまい。 今すぐに口を割れば、あるいは捕虜として命を繋ぐ道も残されている…) 黒い男の焦茶色の瞳に諦めの色が浮かんだとき、 「…スティングレイっ!!」 〈ザパッッ!!!〉 先の戦闘で倒れた兵卒のひとりから発せられた必死の叫びに呼応して右舷の海面から 一匹の巨大エイが飛び上がり、 「うわぁぁぁーーーーッッッ!!!」 命運尽きた艦長を銜えた(くわえた)まま、左舷の彼方へと消えてしまった! 『………………………………………………………。』 「…『その秘密を漏らす者は上官とて構わず消せ』。 ……それが大王様の勅命なのだ……ウグッ。」 口元から血の泡を吐きながらそう呻く(うめく)と、異人の兵士は事切れた。  「支援士のみなさん! 艦長の居場所をご存知ありませんでしょうかッ?」 普段は滅多に出ることのないカネモリの大声が甲板に発せられたとき、 〈ザワザワザワザワ……〉 軍艦の甲板上には、動揺と混乱の喧騒が溢れ返っていた。 「…あなたが教会と連名で『例の依頼』を出した、『黒の錬金術師』ですわね?」 「えぇ。艦長の居場所をご存知なのですか?」 「艦長に何かご用なのかしら? …でも残念ですわ。今先ほど…」 女パラディンナイトから事の顛末を伝え聞いた彼の表情が、次第に険しくなってゆく。 「…何ということですか!? あぁ…。あの部屋の鍵は、もう海の藻屑です…。 ふたりとも、こうなったら自力で扉を破るしかありません。戻りましょう。」 「『鍵』!? 『扉』!? いったい何のことですの!?!? それよりも…」 「…『例のオパール』のことですね? それはきっと、これからあの洋上に姿を見せる『もう一隻の艦船』の中ですよ!」 艦隊の隙間に開けた虚ろな海面を指差しながら、三人は再び艦内に駆け込んでいった。 『……………………!?!?!?』 錬金術師の男が示した場所に『炎の壁』に囲まれた圧倒的な巨艦の姿が浮かび上がって くるのを目の当たりにして、驚愕の余り支援士たちが再び沈黙したのは その直後の出来事だった…。  「…大王様ッ! 第2護衛艦と第1結界艦が立て続けに轟沈!! 第4護衛艦と第3結界艦もまた、相次いで敵の手に落ちてございますッッ!!!」 黒船艦隊を統べる巨大なる海の要塞・旗艦(フラッグ・シップ)の一室。 『世界制覇』の野望を心に抱いた若き指揮官と三人の臣下の元に、 ひとりの異人兵が駆け込んで思いも寄らぬ戦況を報告する。 「何事ッ! 我らが偉大なるシャマル王の軍勢を押し返すことすらできぬ奴等が…、 如何にして…ッッ!!?」 頭の毛を一本残らず剃り落とした筋骨隆々の巨漢が、苛立ちの声を上げる。 「…狼狽え(うろたえ)るな、カムシン。 『大軍で押し返せない相手に対し少数精鋭の戦力を潜入させる』。 兵法の心得ある者ならば、いつかは思い付く作戦。 …そうでありましょう、ギブリ殿?」 「左様でございますな。カリフ。 しかし、万に一つもない危機に対しても万全の策を前もって打つのが我らの流儀。 …大王様がお心揺るがせることなどございません。」 怒りに打ち震える親衛隊長・カムシンを冷静に制した妖艶なる女参謀・カリフと、 彼女の問い掛けに落ち着き払って答える、白髪の老宰相・ギブリ。 「うむ。 ギブリ、カリフ、カムシンよ。 速やかに建て直しを図り、侵入者に備えるのだ。 …四人とも、下がって良いぞ。」 『はっ!』 臣下たちが声を揃えて退室し、ひとり広い船室に残った褐色の大王シャマル。 「……おのれ…、小賢しき大陸の民どもよ。 我が無敵なる艦隊を…よくも……。」 大王は右手に掲げていたオパールの宝珠を机上に置き、傍らに立ててあった両手剣を 荒々しく抜き放つ。 「…我の前に姿見せることあるならば、こうしてくれるッッ!!!」 〈カッ! スサッ!! シャッッ!!!〉 黒と白銀の波紋が浮かび上がった剣身が三度振り払われると… 〈ガランッッッ!!!〉 …すでに大王が征服した王国から奪い取った板金鎧(フルプレート・アーマー)がバラバラと なり、厚手の絨毯の上に散らばり落ちた。

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