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―Alice in Wonderland― 「すぅ……くぅ………」 艦隊を指揮するブラック・シップの一室。 それほど広くもなく、ベッドと小さなクローゼット……他は、最低限の家具だけが配置されたその部屋のベッドの上で、一人の少女が寝息をたてていた。 そして、その傍らの椅子に、スペード・クラブ・ハート・ダイヤと、4つのトランプマークがあしらわれたエプロンドレスを身につけた、メイドと思わしき人物が佇んでいる。 「……お静かに願います、カリフ」 そのメイドが小声でそう口にすると、がちゃり、と外から鍵が開けられる音が聞こえ、その向こうから、両手で抱える程のジルコンを手にした一人の女性―カリフが、部屋の中へと入りこんできた。 「アル、貴方は私に命令できる立場なの?」 「私はあなた方の部下ではありません。 私の主はただ一人、アリス様だけです」 すくっと立ち上がり、厳しい目をカリフへと向ける少女―アリスの従者、アル。 だが、そんな挑発的な視線を向けられているにも関わらず、カリフは勝ち誇ったように嘲笑を浮かべている。 「貴方が何を言おうと、その主様とやらが我らに逆らえない限り、貴方もまた我らに逆らうことが出来ない」 「……」 「従者とは、主の命に忠実に従うことが全てですからね」 そこまで言うと、ふふ、と聞こえるように笑みを浮かべるカリフ。 しかし、アルは特に表情を変えることなく、ただの戯言、とでも言うかのような態度で聞き流していた。 「……改めて言っておくが、私はお前達を信用していない。 我らが王、シャマル様が”使える能力だ”と言うからこそ生かしているのだ……殺す事に、躊躇などはない」 それが気に入らなかったのか、挑発するようにその手のジルコンをベッドの上のアリスに向ける。 ……だが、本気でこの場で始末しようと思っていないのは分かっているのか、アルはそれでも淡々とその言葉に応対する。 「その王とやらにアリス様が従うと言うのなら、私も付き従いましょう。 ですが、アリス様が貴方たちに従っているのは決して本意からでは無い。 それをお忘れなきように」 「たかがウサギ一匹を人質にしただけで従う娘。 ……本意でないとしても、これほど扱いやすい人間もいないでしょう?」 ここにきて始めて、アルがぴくり、と表情にわずかな怒りを射し込んでいた。 ”たかがウサギ” その言葉は彼女にとって……そして、その主であるアリスにとっても、決して許せる一言ではなかったのだ。 「あのウサギは母君様の忘れ形見! 幼くして両親を失ったアリス様にとって、唯一の家族だ! たかがなどと言うな!!」 ”静かにしろ”と最初に言った人間が張り上げるにしては、異様なほどに大きな叫び。 だが、カリフはいつも冷淡に振舞っている彼女の、怒りに狂う態度を見ることこそが目的だったのか、怒声を浴びせかけられながら、むしろ満足したように怪しい笑みを浮かべていた。 「ふふ。 ……目を覚ましたらあなたの主様伝えなさい、戦いに出ろ、と」 「……天下の黒船艦体が、旗艦に進入を許すのですか?」 「……勝手に言っておきなさい。 貴方達は我らの命に従っていればそれでいいのだから」 挑発するかのようなアルの言葉を受け流し、笑みを浮かべたまま切り返す。 そして、そのまま部屋の外へと出て行ってしまい、直後にガチャリ、と鍵の閉まる音が聞こえてきた。 それから数分後…… 「―ぅん……おふぁよ……」 「おはようございます、アリス様」 アリスが寝惚けたような調子でむくりと身体を起こし、うまく回っているとは言えないろれつのまま朝の挨拶を交わす。 アルは既に昼間を過ぎていると言うほど無粋な者では無いのか、素直にそれに受け答えしていた。 「……アル、ラビの事、おこること、ないよ……?」 ラビ。 それはアリスのウサギの名前で、アルの耳にも慣れた固有名詞でもあった。 それに対して、”怒ることはない”と言う事は…… 「起きていらしたのですか…?」 アルの認識上にある事で、そのことを差す事柄といえば、先ほどのカリフとの口論くらいのものだろう。 「ふみゅ………服~……」 だが寝惚けているせいか、その問いは耳にはいっていなかったのか、はベッドから降り、そのままふらふらとした足取りでクローゼットへと向かおうとしていた。 「あ、お待ちください。 服なら私が取りに参りますので」 「……ん、ありがとー」 ぽやーっとした瞳をアルへと向けて、にこりと笑顔を浮かべるアリス。 アルはその顔を受け、自分も微笑みを浮かべると、主に代わってクローゼットから空色のドレスを取り出した。

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