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調停者の力」(2007/04/10 (火) 09:00:53) の最新版変更点

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「やれやれ……」 船の甲板状で、ぼーっと仲間達(仮)の様子を眺めるヒミン。 もはやツッコミ疲れたというか、ボケをボケで返したボケがボケを呼ぶという、自分の手では対処しきれないよくわからない状況に突入し、もはやあきれて何も言えなくなっていた。 と言うより、ツッコミをあきらめたと言った方がいいかもしれない。 「賑やかなお仲間達ですね」 そんな様子をどこか楽しげに眺めるクウヤが、そんなヒミンに声をかける。 「いや……私の仲間はソールとマーニだけなんですけど……行きがかり上彼女達とも同行する事になって……」 その行きがかりの原因は主にマーニの『ルナティック』だけれども。 どちらにせよ、侵略者を倒すためにわざわざ北部まできたのだから、出会う出会わないに関わらず突入は予定のうちだった。 自分達は基本的に魔力に秀でて体力で劣る妖精で、ソールの様に前衛を張れる妖精ははっきり言って珍種である。 と言っても、それはこちらの世界に飛んできてから『方向性』の決定の際により際立った特徴で、元々の彼女は全てを焼き尽くし、また全てを癒す大魔法の使い手だった。 ……ともかく、十六夜の武人という前衛の仲間が多くいるという点については運がよかったのかもしれない。 「……それにしても、マーニって人間とあんまり関わりたがらない子なんだけどなぁ」 「人の巡りなどそんなものですよ。 ふとしたきっかけが大きな転機となる事もある、それがよくでるか悪く出るかの差はあれど……ね」 まぁ、目の前にいる『セレスティアガーデン』を名乗る少女達は、それぞれがかなり特徴的な人間で、そこにいるだけで周囲を呑み込むような勢いがある。 その分ヒミンの胃痛もひどくなる一方なのが難点だが……ある意味、それは自分の仲間であるソールと似たような存在。 ソールの場合は、どんな暗い空気でも明るく照らしてしまう太陽のようなプラスの雰囲気を持っているが、彼女達の持つ空気は今だ計り知れない。 ……まあ、色々とどうでもよく感じてきてしまうのはどうかと思うが 「それより、そろそろ敵艦近辺に突入します。 船への進入を妨げようと敵が殺到してくるでしょう」 そう口にすると共にキッと表情を変え、向かう先……ブラック・シップへと目を向けるクウヤ。 確かに、目の前の空間は多くの浮遊する敵が見られ、艦に近付こうとする者達を妨げる『壁』のように布陣している。 「みたいね。 魔法使うのも久々だけど……まぁ、&ruby(ヒミン){天}の名にかけて、足手まといにはならないわ」 クウヤの言葉にそう答えると、ヒミンは全身のメンタルを高め始めた。 「――宵闇の時を飾る望月、其を封ぜし”アールタラ”――界の調停者たる我、ここに汝の力を欲す――」 高らかに両手を天空に向けて差し出し、『解放』の呪文を唱えるマーニ。 同時にその両腕に彩られた腕輪……『アールタラ』が青白い光を放ち始め、首から下げている月光昌もその光に共鳴するかのように輝きを増していく。 「……効果覿面、剣抜怒張、この石、思っていたより強い――これなら……」 「マーニちゃん! 危ない!!」 腕輪と月光昌の力が解放され、真に戦闘体制に入ったマーニだったが、その間に彼女に向けて一体の鳥型の魔物が飛びかかっていた。 マーニはリリーの声でそれに気付いた様子だったが、特に慌てた様子もなく、ピクリとも動かずに呪文の詠唱に入る。 「バカ! 今から詠唱して間に合うわけ……」 あまりに遅すぎるマーニの詠唱開始に、助けに入ろうとするマグノリアだったが、助けるためには距離があり、一歩とどかない。 「サンライズスロー!!」 だが、魔物の爪がマーニの身体に触れる直前、光り輝くレーザーのような刃がその身体に直撃し、魔物は一瞬仰け反ってしまう。 そして、何事かと目を見張ったその直後、レーザーが飛んできた方向から、猛スピードで突撃するソールの姿。 「フェアリーダンス!」 両腕の腕輪から発生している光剣『ファグラヴェール』と、上下左右と三次元に動き回れる妖精の飛行能力が組み合わさり、魔物は一瞬にして全身を切り裂かれ、墜落していく。 中距離からミラージュスローの上位技らしい『サンライズスロー』を放ち、放った刃をそのまま追いかけて追撃する。 妖精のセイクリッドである彼女ならではの連続技である。 「――界の調停者たる我が命に従い 愚かなる輩に裁きの一矢を――  月弓・アルテミス!!」 同時に唱えていたマーニの詠唱も完成し、その手に三日月を思わせる光の弓矢が現れ、目の前を飛ぶまた別の魔物へと撃ち放たれた。 「ダメ、あれじゃ避けられるよ……って、ぇえ!?」 光の矢の弾道とその先にいた敵の動き、それを見て到底命中は敵わないとシルエラは感じられたが、矢はそれ自体がまるで意思を持っているかのように自ら弾道を曲げ、魔物が動いた方向へと向かい、そのまま相手の心臓部を貫通する。 「昼間から大丈夫かなと思ってたけど、その石、思ったより強力みたいね」 そのまま再び詠唱に入ろうとするマーニに、安心したように微笑んで呼びかけるヒミン。 マーニも詠唱を止めて少し笑い、口を開く。 「うん、全力は出せないけど……あの程度の相手なら、十分」 「でも、私も負けないよ。 ――界の調停者たる我が命に従い 彼方より出でよ星界の矢―― スターライト!!」 そのまま周囲の状況に目をやり、ヒミンは素早く呪文を完成させ……高らかに響いた呪文と共に、天空の彼方から雨のように無数の光弾が降り注ぐ。 それは巧みに発動領域が設定され、乱雑に降り注いでいるように見えて、味方には一発たりとも命中していない。 「うーん、やっぱり私もマージナル系選んでおいた方がよかったかな?」 その様子を目にしていたらしいソールは、敵の相手をしながらのんきにそんな事を口にしていた。 とはいえ、セイクリッド系の行動速度に妖精の飛行能力も加わり、驚異的な速度と機動性で光の刃を振り回す彼女も、決して二人より見劣りはしない。 『ギャアアアアアアアア!!』 「ソールさん、下がってください!!」 その時、外周部では押さえ切れなかったらしいマンティコアが、船の甲板上に足をかけた。 ライオンの身体にコウモリの翼とサソリの尾を併せ持つその身体は、妖精のソールが相手をするには大きすぎる。 スピードでかき回す事は可能かもしれないが、妖精サイズではどうしてもパワー不足になる。 「ううん、大丈夫だよクウヤさん」 しかし、そんな不利などなんとも思っていないのか、にっこりと笑って答えるソール。 ……しかし、なぜか急に今までのように常に高速で飛び回るのをやめ、ぴたりと船上の一点に制止する。 「へーんしーん♪」 「……はぁ!?」 最後の間の抜けた叫び声は一体誰が上げたものだったのか、それは後々になっても一切判明しなかった事実。 ……と言うより、そんな些細な事などどうでもよくなるかのような現象が、目の前で起こっていた。 一瞬目を塞ぎたくなるような強烈な光に包まれたソールの姿が、光が収まった時には手の平サイズだった妖精から、おそらく12歳前後と推測される人間の少女の姿に変化していた。 髪型や顔つきは全く変わっていないが、背中の羽根も消え、言われなければ人間にしか見えないだろう。 「いっくよー!」 そして、今度は先程までのような光剣ではなく、変身と共に現れたらしい本物の短剣を両腰の鞘から抜き放ち、マンティコアに向かって走り出した。 スピードこそ妖精の姿の時より劣っているが、元々セイクリッドは速度を重視したジョブで、気になるほどではない。 それどころか、その分上昇しているらしいパワーの面で、変身による速度低下のデメリットは充分埋められている。 「……アレって、あんたたちも出来るわけ?」 横でその様子を見ていたセーが、珍しく呆然とした顔でマーニとヒミンに尋ねていた。 「うん、でも、私達の場合は意味無いからしないけどね」 確かに、魔術師系に身体のサイズはあまり関係ない。 それなら変身で無駄に力を消費するより、魔法にまわしたほうが幾分か利口だろう。 「なるほど、やはり面白いお嬢さん方だ」 見た事も無い変則的な戦い方をする一同に、クウヤは素直に感心していた。 もっとも、自分が見習える範疇を飛び抜けているので、あくまで感心に留まるレベルではあるのだが。 ……その間にも船は、着実にブラック・シップへと近付いていた。

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