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人生とは危険の連続だ。 安全な時期もあるけどそれは危険と危険の間にある緩衝地帯。 その次には危険が待っている。 どうがんばっても、そこから抜け出すことはできない。 そう、誰かが言っていた気がする。 だからといって、逃げ出さずにその場で突っ立ているわけにも行かない。 そうでなければ地面に埋まることは確実なのだから。 「いーやーーーーーっ!」 背中に届く地響きから逃れようと私はとにかく走り続けていた。 地響きはまっすぐこちらに向っており、そして私達の周囲に隠れる場所は無い。 振り向くと相手が見えた。 細長い足、もっさりとした胴体。 長い首に、鋭いクチバシ。 なんでこの場所でダチョウなんかに追われなければならないんだ。 仕事とはいえ、こんな場所でダチョウは無いだろう。 というか巨大動物の相手だなんて、マスターから聞いていない。 動物に追われている姿が微笑ましいと思う方は想像して欲しい。 私を軽く見下ろす体長があり、一歩一歩が地響きを起こすほどの重量を持った動物が 8ビートで後ろから迫ってくる様子を。 足のはえた巨大な荷物が迫っていると思ってもらってもいい。 魔物が低い姿勢からすばやく狙うのとは違うのだ。 「お、おいっ!とりあえず落ち着け!」 私の隣で走っているセオがダチョウに向って叫ぶ。 が― 「ぶっ!」 ハンコでも押された感じ。 大きく振り上げたダチョウの足が彼を地面に叩きつけ、 何事も無かったように私に向ってきた。 「セオ~!」 名前を呼ぶが救出しに行くヒマすらない。 死にはしないと思うがかなりのダメージを受けていそうだ。 また治療代が増えると思うと憂鬱になる。 「もうすぐ麻酔が届くからそれまで時間を稼ぐのじゃ!」 馬車の窓からおじさんが叫んでいる。 いま現在私達が逃げ回っている場所は 黒き森シュヴァルツヴァルト。 奥へ進むほど魔物は強くなるばかり。 いつまでもこうしてダチョウと鬼ごっこなんかしていられない。 「あーもうっいい加減にしてよー。」 思い切って足をとめ、痺れ薬がぬってあるナイフを取り出した。 今回の痺れ薬は、お姉ちゃんが新しく作ってみたのを借りてきた。 効果は、まだセオで試していないので保障はできないということらしい。 「よせ、そんなナイフ、ラファエルには効かん!」 おじさんが叫ぶが、試してみないとわからない。 にしても、このダチョウ。ラファエルって名前なのか…。 「イル、挟み込むぞー!」 復活したセオが、ラファエルのすぐそこまで来ている。。 ヴォルテクスを撃つつもりなのだろう。 「わかった。いくよ、セオ!」 私もナイフを構えて迎え撃つ。 その時だった。 ぐぅーー… ものの見事にお腹が減り、武器を持つ手に力が入らなくなった。 あーそういえば、最近まともなもの食べてなかったからなぁー。 そんなことを考えている間に、芸人の突っ込みを百倍に圧縮したような衝撃が来た。 ラファエルが私を跳ね飛ばしたらしい。 さらに、攻撃しようとしているセオに気付いたのか またターゲットを切り替え追い始める。 セオの悲鳴を聞きながら倒れる私。 土と血の匂いがする。 だんだんと意識がなくなってくる。 「うぅ……お腹減った。」 ダチョウの肉って、どんな味がするんだろう。 そんなことを考えているうちに、どんどんと意識が薄れていった。 「で、マスター。その依頼って言うのは?」 「ペットの捕獲さ。」 「場所は?」 「森林の町。シュヴァルだ。単なるペット相手だ。すぐ終わると思うぞ?」 その依頼を受けた結果、自分達はそのペットに踏まれることとなった。 「あいたたたた…」 後頭部がじくじく痛む。 まさか、踏まれるとは思わなかった。 よくよく触ってみれば血がでてるじゃないか。 頭から出血って…ちょっとまずいんじゃ…。 「おいっイル、生きてるか!?」 すぐ近くからセオの声がするあちらもどうにか生きているらしい。 周りはダチョウの足跡で一杯だ。 「ラファエル、どっち?」 足音が聞こえないということは遠くにいるはず。 「ひえぇぇ!」 瞬時に阿呆飼い主の声が背後から聞こえる。 振り向くとラファエルが、依頼主に蹴りをいれている。 積年の恨みだろうか、それともエサが欲しいのだろうか。 どっちにしろチャンスだ。 「セオ、ラファエルの足止め。お願い!」 「りょーかいっ」 正直むかついた。 あのダチョウには一撃食らわせないと気が済まない。 「ヤラレ役は全部セオが引き受ける役目なのに…」 「フザケたこと呟いてるなよ…俺だってごめんだ!」 セオが鞄からロープを取り出し、イルに投げる。 そして 「こっちこい長足!」 その声に反応したのかラファエルの首がグルリとセオの方に回る。 ―グェェェ! 喉から絞りだすような声を出して、ラファエルが突進してくる。 「久遠の雷鳴、この手に集え…。貫けっ!」 ヴォルテクスが、剣から空へと放たれラファエルの頭上へと飛んでいく。 「死ねぇぇっ!!」 セオがそう叫んだと同時に、雷がラファエルに落ちた。 「グェェェェェェェッ!!」 「うわぁぁぁっ!ラファエル!」 依頼主が悲鳴を上げているが、この程度であのダチョウは死なないと思う。 「お腹減ったな~。」 焦げたダチョウを見ていいニオイだと思ってしまった。 「で、セオ。加減した?」 「うん。焼き鳥にならないくらいに。」 気を失っていたラファエルが起きたようだ。 「よーやくおとなしくなったな、ラファエル。」 セオがラファエルに近づく。 『オゥ、ノォ……来る……我が元に!』 「あん?なにが来るって?」 『君にはわからないのか!?このバラの棘のように恐ろしい…あぁ。」 言いかけて気を失ったらしい。 「こら、起きろ。今度は丸焼きにするぞラファエル。」 『君、少しは手加減したまえ!これだから身分の低い奴は……』 「誰の身分が低いだコラァ! そもそもヒトのこと踏んづけといて言えた口かっ!んで? なにが来るんだって?」 『わ、わからない…だけど、暗雲のように我が胸を締め付けるサムシングが この近くに居るのだ!君は感じないのか?』 「いや、別に」 『あぁ、嘆かわしい……そんなに鈍感だなんて。 やはりコレは高貴な私にしか感じられない、ノーブルセンス?」 「なにがノーブルセンスだ!お前の気のせいじゃないのか?!」 何やらセオが馬鹿にされているようだ。 ぎゃーぎゃーと一匹と一人で喧嘩をしている光景はあまりにも珍しい。 動物と意思疎通ができるなんて、聞いていなかったし…。 とりあえず、暴走ダチョウの捕獲は完了。 「イル!」 あーそういえば、頭から出血してたんだぁ… あ、倒れる…。 そう思ったときには既に視界が暗くなり、やがてブラックアウトした。 目が覚めると、ベットの上だった。 頭にグルグルと包帯を巻かれ、あの捕物の痛々しさが垣間見えるが、 依頼主が呼んだ医者曰く、倒れた原因は栄養失調と貧血だそうだ。 頑丈な身体と喜ぶべきか、貧相な食事と嘆くべきか…。 謝礼も兼ねて依頼主からお昼をご馳走になることに。 リスのように口に食べ物を押し込むイルを見て、セオはただ苦笑するばかりだった。 セオはイルが倒れている間、周辺を走りまわりを走り回り 依頼主に不審者は居なかった。と報告をした。 またラファエルが暴れだすのではないかと不安だったが、 今度は鉄の檻に入れて厳重に管理するらしい。 そもそも最初からそうしろと言いたい。

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