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無限迷宮」(2008/01/28 (月) 20:28:53) の最新版変更点

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9/12 天気の良い日だった。 まるで太陽すらもアルティア様の祝福を運ぶかのように 私はリゼッタと結ばれた。 その記念日である今日を開始にこの日記を書き綴る。 リゼッタは、町の商人屋敷の一人娘だ。 町の誰もが高嶺の花に感嘆の息をつく人物。 そのリゼッタと知り合ったきっかけは、館から目を盗んで飛び出し お忍びで歩いていたところにスライムが飛びついたところを救っただけの話し。 だが、そのきっかけから私達は進む事が出来。こうして今がある。 しかし、弊害があった。 間には、青年の苦悩と大きな壁を呪い。自らの無力さを嘆く文が書き綴られている。 また、そんな自らを慰めるかのような、リゼッタとの楽しかった思い出を一つ一つ丁寧に思い出すかのような文も 9/17 五日。どんなに蔑まれようとも、どんなに痛い目をみようとも、罵倒されようとも 彼女の父に結婚を認めてもらうよう願った。 しかし、彼女の父は「良家の商人の息子さんと結婚する事こそが長い目で見た娘の幸せ。一時の感情でその永い幸せを砕く事など出来ぬ」 の一点張り。 その裏は、言うなれば私腹を肥やす為の政略結婚。しかし、その「疑い」だけでは一兵騎士の自分ではどうする事も出来なかった。 しかし、青年も愚かではなかった。 間には、どうすればいいか。この問題を闇雲とはいえ解決に探す青年の思慮があった。 9/19 機転が訪れた。 さる冒険者が、遊びで肝試しを行っていた新月の晩。 偶然にも新たな場所を見つけたという。 人々の噂より、「無限迷宮」という呼び名が定着したようだ。 もしもその迷宮より風の短剣並みの宝を手に入れれば、私とリゼッタとの結婚を彼女の父は認めざるを得なくなるだろう しかし、ダンジョンに潜るというのは即ち職務放棄。騎士が業務の合間に支援士職をする事とはワケが違う。 それでも、私は――――― この間には、白紙しかない。だが、次のページには日付を綴らず、直ぐに本文へと入っていた。 歓喜に震える姿を容易に想像出きる筆記がそこにあった。 何日かは判らなかったが、ようやく私はまたこの日記を記す事が出来た。 無限迷宮から、なんとか生きて帰れた。 あそこは、人工のトラップ。合成魔獣。溶液生物。悪魔などの巣窟であった。 しかし、それでも私は宝物の一室を発見する事が出来た。 あくまで一室でしかないが、リゼッタと共になるには十分とも言えた。 それを彼女と彼女の父に報告に向かえば、歓喜し、リゼッタとの結婚も認めてくれた 私の悲願は叶ったのだ。 明日。新月の晩。私は彼女の父・・・いや、お義父さんの私兵と共に無限迷宮へと向かう。 私とリゼッタの日々に幸多からんと願いを込めて 私は、これからもこの日記を記し続ける 「ふむ」  『これからもこの日記を記し続ける』と書かれているものの  その続きは真っ白のページでしかなかった。  それどころか、この日記が置かれていたのは幸せな家庭を作っているであろう青年の部屋ではなく  明日にでも取り壊されてしまうのではないかというほどのあばら屋であったのだから。  その日記を堂々と読んでいた男は興味をなくしたかのように閉じて元の机の上に置き  振り返り、その部屋をあとにする。  ジャラリ。と、コートのような服の裾についた大量の剣が、その時に音を立てて擦れた。 「さて。今晩は無限迷宮が姿を現すことは無い・・・か」  月明かりの夜に男は照らされ、独り言を漏らす。 「ふう。哀れなものだ。人の我欲の深さを知らぬまま自らの命を絶ってしまうとはな」  男は誰に言うでもなく独り言を洩らしたつもりだった。  しかし、その声に答える様に。紅の髪をした少女がそちらを見るでもなく答えた。 「でも、私達の存在はこの世界に深く浸透する事は無い」 「ああ。だが、我々を通してヒントを授ける事くらいは可能だろう?」 「たしかに」  それだけ言うと少女は姿を消し、それを見計らったかのように男は語り始めた。 「その後、青年はリゼッタの父親の私兵と共に宝の部屋へと案内をした。  空気に流され喜びはしたものの、その光景を見るまでは半信半疑だったリゼッタの父親も  その宝を前に感嘆の息をついた。  そして、その直後に計画へと考えを切り替えた。  「ほら、本当だったでしょう!」と、喜びに振り返った青年の次に襲ったものは絶望  青年の体には幾重もの槍が突き刺さる。  自らの鮮血がその視界に入ろうとも、その状況を理解し得れなかった。  薄れる意識の中、悠々と宝を持ち運ぶ作業に入るリゼッタの父の姿を見たとき、ようやく青年は理解した。  始めから騙されていたのだった。  しかし、それでも彼は最後までリゼッタ嬢の事を思い、絶命するかに思えた。  だが、死の間際。ほんの意識が残るか残らぬかの刹那。彼は耳にした。  このダンジョンには似つかわしくない耳を劈く女性の悲鳴。聞きなれた声。  そして耳にした情報。「リゼッタの死」。  青年がリゼッタ嬢を求めてやまなかったのに対し、また彼女も青年を求めてやまなかった。  しかし、ただのお嬢様が魔物に叶うはずもない。  ならばなぜ無限迷宮へと彼女は飛び込んだのか?  親の考えなど手に取るように判ったリゼッタ嬢は、説得にも応じぬ父に痺れを切らし  心中を覚悟に来たという事である。  それはさておき・・・リゼッタの死。そのたった一つの情報が、青年の黒い心に火をつけた。  ここは無限迷宮。古代の実験による廃棄魔獣。悪魔系の魔物も存在する場所。  その黒い心を美味とする餌に喰いつく悪魔など数え切れぬほど存在する。  潰れる音。砕ける音。噴出す音。それらの音が一つ鳴る度に、命という炎は吹き消す程容易く消えていった。  やがて、青年は悪魔と豹変し、この無限に続く迷宮を永遠に彷徨い歩く事になるという悲しい話だ」  長く語ったためか、男は一つ息をつき  そして咳払いの後に誰に告げているのか。宣言をした。 「さて。冒険者諸君。この無限迷宮の舞台は整った筈だ  そんな君たちの活躍を期待しているよ」  薄ら笑いながら男はその場を後にし、  後には、誰かが居たと言う痕跡すら残ってはいなかった
9/12 天気の良い日だった。 まるで太陽すらもアルティア様の祝福を運ぶかのように 私はリゼッタと結ばれた。 その記念日である今日を開始にこの日記を書き綴る。 リゼッタは、町の商人屋敷の一人娘だ。 町の誰もが高嶺の花に感嘆の息をつく人物。 そのリゼッタと知り合ったきっかけは、館から目を盗んで飛び出し お忍びで歩いていたところにスライムが飛びついたところを救っただけの話し。 だが、そのきっかけから私達は進む事が出来。こうして今がある。 しかし、弊害があった。 間には、青年の苦悩と大きな壁を呪い。自らの無力さを嘆く文が書き綴られている。 また、そんな自らを慰めるかのような、リゼッタとの楽しかった思い出を一つ一つ丁寧に思い出すかのような文も 9/17 五日。どんなに蔑まれようとも、どんなに痛い目をみようとも、罵倒されようとも 彼女の父に結婚を認めてもらうよう願った。 しかし、彼女の父は「良家の商人の息子さんと結婚する事こそが長い目で見た娘の幸せ。一時の感情でその永い幸せを砕く事など出来ぬ」 の一点張り。 その裏は、言うなれば私腹を肥やす為の政略結婚。しかし、その「疑い」だけでは一兵騎士の自分ではどうする事も出来なかった。 しかし、青年も愚かではなかった。 間には、どうすればいいか。この問題を闇雲とはいえ解決に探す青年の思慮があった。 9/19 機転が訪れた。 さる冒険者が、遊びで肝試しを行っていた新月の晩。 偶然にも新たな場所を見つけたという。 人々の噂より、「無限迷宮」という呼び名が定着したようだ。 もしもその迷宮より風の短剣並みの宝を手に入れれば、私とリゼッタとの結婚を彼女の父は認めざるを得なくなるだろう しかし、ダンジョンに潜るというのは即ち職務放棄。騎士が業務の合間に支援士職をする事とはワケが違う。 それでも、私は――――― この間には、白紙しかない。だが、次のページには日付を綴らず、直ぐに本文へと入っていた。 歓喜に震える姿を容易に想像出きる筆記がそこにあった。 何日かは判らなかったが、ようやく私はまたこの日記を記す事が出来た。 無限迷宮から、なんとか生きて帰れた。 あそこは、人工のトラップ。合成魔獣。溶液生物。悪魔などの巣窟であった。 しかし、それでも私は宝物の一室を発見する事が出来た。 あくまで一室でしかないが、リゼッタと共になるには十分とも言えた。 証拠の指輪を私は一つ持ち帰った。 それを彼女と彼女の父に報告に向かえば、歓喜し、リゼッタとの結婚も認めてくれた その時に私は正式にリゼッタへプロポーズをし、一つの指輪を彼女に渡した。 彼女は、恥ずかしそうに赤らめながらそれを受け取ってくれた。 私の悲願は叶ったのだ。 明日。新月の晩。私は彼女の父・・・いや、お義父さんの私兵と共に無限迷宮へと向かう。 私とリゼッタの日々に幸多からんと願いを込めて 私は、これからもこの日記を記し続ける 「ふむ」  『これからもこの日記を記し続ける』と書かれているものの  その続きは真っ白のページでしかなかった。  それどころか、この日記が置かれていたのは幸せな家庭を作っているであろう青年の部屋ではなく  明日にでも取り壊されてしまうのではないかというほどのあばら屋であったのだから。  その日記を堂々と読んでいた男は興味をなくしたかのように閉じて元の机の上に置き  振り返り、その部屋をあとにする。  ジャラリ。と、コートのような服の裾についた大量の剣が、その時に音を立てて擦れた。 「さて。今晩は無限迷宮が姿を現すことは無い・・・か」  月明かりの夜に男は照らされ、独り言を漏らす。 「ふう。哀れなものだ。人の我欲の深さを知らぬまま自らの命を絶ってしまうとはな」  男は誰に言うでもなく独り言を洩らしたつもりだった。  しかし、その声に答える様に。紅の髪をした少女がそちらを見るでもなく答えた。 「でも、私達の存在はこの世界に深く浸透する事は無い」 「ああ。だが、我々を通してヒントを授ける事くらいは可能だろう?」 「たしかに」  それだけ言うと少女は姿を消し、それを見計らったかのように男は語り始めた。 「その後、青年はリゼッタの父親の私兵と共に宝の部屋へと案内をした。  空気に流され喜びはしたものの、その光景を見るまでは半信半疑だったリゼッタの父親も  その宝を前に感嘆の息をついた。  そして、その直後に計画へと考えを切り替えた。  「ほら、本当だったでしょう!」と、喜びに振り返った青年の次に襲ったものは絶望  青年の体には幾重もの槍が突き刺さる。  自らの鮮血がその視界に入ろうとも、その状況を理解し得れなかった。  薄れる意識の中、悠々と宝を持ち運ぶ作業に入るリゼッタの父の姿を見たとき、ようやく青年は理解した。  始めから騙されていたのだった。  しかし、それでも彼は最後までリゼッタ嬢の事を思い、絶命するかに思えた。  だが、死の間際。ほんの意識が残るか残らぬかの刹那。彼は耳にした。  このダンジョンには似つかわしくない耳を劈く女性の悲鳴。聞きなれた声。  そして耳にした情報。「リゼッタの死」。  青年がリゼッタ嬢を求めてやまなかったのに対し、また彼女も青年を求めてやまなかった。  しかし、ただのお嬢様が魔物に叶うはずもない。  ならばなぜ無限迷宮へと彼女は飛び込んだのか?  親の考えなど手に取るように判ったリゼッタ嬢は、説得にも応じぬ父に痺れを切らし  心中を覚悟に来たという事である。  それはさておき・・・リゼッタの死。そのたった一つの情報が、青年の黒い心に火をつけた。  ここは無限迷宮。古代の実験による廃棄魔獣。悪魔系の魔物も存在する場所。  その黒い心を美味とする餌に喰いつく悪魔など数え切れぬほど存在する。  潰れる音。砕ける音。噴出す音。それらの音が一つ鳴る度に、命という炎は吹き消す程容易く消えていった。  やがて、青年は悪魔と豹変し、この無限に続く迷宮を永遠に彷徨い歩く事になるという悲しい話だ」  長く語ったためか、男は一つ息をつき  そして咳払いの後に誰に告げているのか。宣言をした。 「さて。冒険者諸君。この無限迷宮の舞台は整った筈だ  そんな君たちの活躍を期待しているよ」  薄ら笑いながら男はその場を後にし、  後には、誰かが居たと言う痕跡すら残ってはいなかった

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