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XW03:不思議な少女」(2008/03/11 (火) 12:37:24) の最新版変更点

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エルンストを新たにメンバーに加えたクリア達は、ひとまず見通しがよく敵にも見つかりやすいグラウンドを離れ、校舎の中に足を踏み入れていた。 一本道の廊下では、さすがのバグでも一度に飛びかかってくる数は限られてくるし、現役の生徒と教師である自分達にとっては全体の構造もほぼ把握している。 袋小路などに行ってしまわないようにさえ気をつければ、多少何かあっても対応は可能だろう。 ……今は、一階のとある教室の中に入っていた。 「私は攻撃・回復両立型の魔法使い――ううん、性質は神聖な感じっぽいから、僧侶ってところかしら?」 そんな中で、一同は変身後の自分達の能力性質について確認しあっていた。 お互いに仲間の能力の内容を知る事で、変身回数を温存する者、戦う者の判断もしやすくなるのは確かである。 「……私は剣を持ってて、変身してるときすっごく身体が軽く感じたから……たぶん、ゲームで言うと軽戦士だとおもう」 「私は弓兵みたい。 いつも弓道やってるからだと思うけど、すごくしっくりくるよー」 白い衣装に長剣を持つクリアと、矢筒を背負って弓を引くイル。そして後方から魔法で攻撃したり、仲間の治癒を行うエルナ。 これもゲームのような言い方になるが、前・後衛がはっきりとしたある意味理想的な組み合わせとも言えるだろう。 「エルンストさんは、まだ一度も使って無いんですよね」 「ああ。 ……頃合いを見て、一度どのような内容か見ておいたほうがいいかもしれないな」 「そうね。 そろそろここに来てから2~30分は経つから、みんな一回か二回分くらいは回数増えてるんじゃない?」 エルナのその一言に、一同は自分の携帯に目を落と、そしてトレースシステムの詳細画面を開いてみると…… ― 【残りXP】3 【チャージ状況】58% ― クリアの携帯では、変身の残り回数の項目ではそんな風に表示されていた。 推測するにチャージ状況という項目は、次に一回分のXPが回復するまでの数値、と言ったところだろう。 『ノコリ4カイ、チャージ状況ハ32%デス』 「……あれ?」 そんな時、ふと、聞こえてきたエルンストの携帯の音声。 彼自身も一応の確認はしておこうと思ったのだろう……が、クリアはその声に対して一つの疑問を抱いていた。 「クリア、どうしたのかしら?」 「回数はともかく……チャージ中の数値は同じはずですよね?」 一度も使っていないのだから、残り回数が他よりも一つ多いのは理解できる。 だが、チャージ状況の数字が違うというのはどういうことだろうか。 「……あ、そういうことね。 確かに、この世界に入った時点の数字は3回と0%のはずだから、15分で1回分、という条件を見ると、チャージの進行速度は全員同じはず、って言いたいわけね」 「はい。 私のは58%なんですけど……先生は?」 「私は3回と82%よ。 一応聞くけど、イルはどうかしら」 「はーい、2回と99%……あ、今3回になった」 「…………?」 この微妙な数値の差は一体なんなんだろうか。 進行速度が同じはずなら、%の部分は全員が同じ数字になるはずなのに。 そう思い、クリアは首をかしげたままでいる。 ……が、エルナはやれやれとばかりに肩を軽くすくめると、改めて口を開き、こう言った。 「この世界に撒き込まれた時間の差でしょ? エルンストの4回は使って無いからだから考えないで……この中だと、私が一番最初だったみたいね」 「あ、そうか……」 そういうことか、と手をポンと打つ。 どうやら全く同じ時間に全員が撒き込まれたわけではなく、それぞれ少しづつ違うタイミングでここに来てしまった、ということのようだ。 「……えっと、それじゃこの後どうしますか?」 なんとなく気まずくなり、話題を逸らすクリア。 まぁ実際問題として気にするべきはそちらで、この世界から抜け出す方法を捜すのが当面の目標である。 「まぁ普通に考えると、あちこちしらみつぶしに見て行くしかないわね」 「我々が撒き込まれた経緯を考えると、出口と言っても文字通り扉の形をしているとは思え無い。 恐らくもっと概念的なものだろう」 「そうだねー。 私は竹林でいつも通り練習してただけだったし……」 クリアも、いつものように家から学園へ向かおうとしているところで撒き込まれた形だった。 わかっているのはそれだけで、一体いつどこで入り込んでしまったのかは明確には分からない。 「……とにかく、動き回るしかないって事ね……」 概念的なものというと、例えばマンガやアニメでよくある『空間の穴』とか『次元の裂け目』などといったモノ、ということになるだろう。 普通は絶対に在り得ないもの――だからこそ、それはドコにあってもおかしくないという事でもあり、その場所の目星などつけようがない。 「まぁ、動くにしても……休みと変身回数の確保も兼ねて、あと15分ここで待機しましょ」 「賛成します」 とりあえずドアと窓は内側からカギをかけているから、壊されない限りは入ってこられる事は無い。 完全に安全が確保されているわけでは無いので警戒を解くわけにはいかないが、四人はとりあえず適当な椅子に座って身体を休めることにした。 ――そしてしばらく経って、校内廊下。 「とりあえず、学園の中心に向かってみましょう」 教室から出て、まず出てきたのはエルナのその一言だった。 そこになにかあるという保障は無いが、行ってみる価値はあるだろう、と一同は思いその意見に賛成した。 その理由は、最初に届いたメールの内容で――『学園』を中心にしたこの町の一定範囲がその世界のすべてです――という一言。 学園を中心に広がっている世界。 となれば、その学園の中心はこの世界の中心と言う事になり、なんらかのモノがある可能性が高い。 「って言っても、やっぱり広いですよね……この学園」 中高一貫、しかも一学年のクラス数も相当に上るマンモス校。 加えて校内の施設や中庭なども無駄に広く、いざ歩いて回ろうとするとかなりの時間がかかるのは必至だった。 「そうね……それに仲間が増えたとはいえできるだけバグも避けていきたいし、隠れながらだから余計に遅くなるわね」 曲がり角からすこし顔を出し、その向こうに何もいないのを確認して進み、いたら少し待ってやりすごすか、思いきって進行方向を変えるかの繰り返し。 先程の待機も含めて変身回数も全員が4回以上は確保できているので、さらに時間がたったら全員が変身を使っての強行突破も視野にいれてもいいかもしれない。 「――あれ、誰か戦ってる……?」 と、その時廊下の先で、黒い服に槍を持った少女と、私服で一振りの刀を持った青年が、野犬のような頭をした人型のバグと戦っているのが目に入った。 遠目ではあるが、見たところ背の高さから少女の方は中学生くらい、青年の方は大学生以上だろう。 「バグの数が多いわね……」 「加勢する?」 練習用の弓を持って、そう口にするイル。 弓道は本来人を撃つためのものではなく、根本的には精神鍛錬が目的とされている。 ……が、数十メートル先の的を射抜くその矢の勢いは相応の殺傷能力があるのも確か。 変身しなくても武器になりそうなものを持ち歩き、そしてそれを扱うことができるのは、この状況においては結構な強みだろう。 「後のためにも、この場は加勢するべきだろう。 今は、頭数を増やせる機会は逃すべきではない」 「冷静な判断ね。 エルンストがいてくれるのは有り難いわ」 そう言いながら、どこか満足気な笑みを浮かべるエルナ。 確かに、一人冷静で頭が切れるものがいれば、色々と頼れるのは確かである。 「じゃあ……とりあえず、残り回数が多い人から行くべきかな」 「わかった。 ……能力の内容を試すいい機会だ」 クリアの考えに同意し、エルンストは自分の携帯を取り出して、システムを起動させる。 ―SKILL TRACE SYSTEM ON. TIME COUNT 120sec ・・・・・・START― 前に自分の携帯で聞いたシステムボイスと同じもの。 だが、その変身後の能力は違う。 エルナが僧侶でイルが射手、そして自分は剣士。 目の前の人物はなんなのか……クリアは、それが少し楽しみになっていた。 「……イメージ的に、騎士ってところかしら?」 歴史上でも実在していたとされる、ゆらめく炎の形状を模した剣、フラムベルジュ。 ……変身時の発光の中から現れたのは、その剣を手にし、重厚な鎧を身につけたエルンストだった。 「―――不思議な感覚だな。 剣という扱ったことも無いものの使い方が、理解できる」 「あ、やっぱりみんなそうなんだ」 「私だって、魔法なんて知るわけないものを使ってるもんねぇ」 「そういえば、私もいつも以上に細かい弓の使い方が分かる気がしたなー」 エルナの魔法、クリアの剣。 どちらも現実では使う事の無いシロモノで、多少の戸惑いはあるだろう。 だがイルは元々弓を使う立場にあるために、変身後の能力への親和性は他のメンバーよりも高いかもしれない。 ――まぁ、それはこの場ではあまり関係の無い話であるが。 「イル、あなたは離れてその弓で援護。 エルンスト、時間が無いから急いで」 「はーい」 「わかった」 そう一言返事をすると、廊下を駆け出す二人。 クリアとエルナの二人は、自分達の後ろにバグがいないかを警戒しつつ、その一歩後ろを追うようにして走り出した。 「――エルンスト? ……後ろにエルナに、イル……それとクリア、か」 「騎士……なるほど、君らしい姿だな」 「その声……ティールと空也か」 途中にいたバグを斬り倒し、戦っていた二人――ティールと空也の下へとたどりついたエルンスト。 後方からは時折イルの矢が飛び、的確にバグの身体を撃ち抜いている。 ティールはエルンストが来た方へと目を向け、そこにいる残りのメンバーの姿も確認していた。 「よかった、あと20秒くらいだから、どうしようと思ってたんだ」 「そうか、なら手早く片づけなければな」 ティールが大きく槍で薙ぎ倒す横でエルンストが剣を振り、その隙を埋めるように空也が剣閃を走らせる。 ……空也だけは変身せずに素のままで刀を振り回しているようだが、さすが元々実戦の剣術を学んでいるだけに、変身している二人には劣るものの、エルンストと同様に、素でも多少の相手なら十分立ちまわれるレベルの力をもっているようだ。 「――これで最後!! ブレイブクロス!!」 ティールの変身時間が残り5秒を切った時、彼女はバグが固まっている場所に向けて十字の衝撃波を放った。 それはそこにいた数体のバグの身体を吹き飛ばし、その場所に突破口を開く。 そして変身中の素早さを生かし、残りの数秒の間に空いた隙間から包囲を抜け―― ―TIME OUT― 丁度そのタイミングで、彼女の変身は解除され、元の学園指定のセーラー服姿に戻っていた。 「やっぱりティールちゃん凄いなー……私じゃ、あんなにうまく立ち回れないよ。 残り時間とか考えてる余裕なんてないし」 一つ年下の、どこか不思議な空気をもった女の子。 そんな認識から始まったのが、小学校時代からのクリアとティールとの関係。 普段からすごい子だとは思っていたけれど、その華麗なまでの立ち回りを見て、その認識を強めていた。 「っていうか、逃げる方向間違ってない? 私達と逆方向に行っちゃったけど」 「……あ、ホントだ……」 一瞬感激すら覚えたクリアだったが、イルの一言で次の瞬間には現実に引き戻される。 少なくとも、自分達が走ってきた方向にはバグはおらず、ティールが逃げ込んだのはその保障が無い逆方向。 ――まぁ自分達のいる方も、後から集まってくる可能性も否定できないのだが、それなりの距離が空いているのですぐには来ないというのは確かだった。 「――危ないから離れて!!」 にもかかわらず、ティールはあと5分は変身が仕えないはずの携帯を手に、そんなことを叫んでいる。 変身が解除されると同時に持っていた武器も消えて、小柄な体格を考えても戦う手段は残されていないはずなのに…… 「ああ! エルンスト、こっちだ」 「……? わかった」 空也は彼女の思惑を理解しているのか、エルンストに呼びかけて、エルナ達の方へと走るよう促し、自らもそちらへとすでに足を進めていた。 エルンストもまた、少しの疑問を持ちつつもその確信に満ちた声に従って敵の密集地帯から外へと踏み出す。 「ティールちゃん、何考えてるの!?」 「クリアさん……だったな、危ないから近付かないほうがいい」 「で、でも……」 「大丈夫だ。 ……エルンスト、残り1分くらいだと思うが、近付いてくる相手は頼む」 「……ああ」 さらに一歩引き、バグとの距離をはかる空也。 そして、それを確認したティールは―― 「くらえ!!」 バグたちの頭上の辺りに携帯のアンテナを向けて、そう口にしながら決定キーを押していた。 ……その、次の瞬間。 「な、何っ!!?」 「わわわ、なんか出てきた!?」 丁度アンテナが差していたあたりから、無数の鉄球が現れて、次々とその下にいたバグ達の脳天にむかって落ちていく。 思いっきり鈍い音が周囲に鳴り響き、数秒もすると鉄球の雨は収まっていたが、その後にはバグの亡骸と落ちてきた鉄球が転がっているだけだった。 「これ……もしかして砲丸投げの球かしら。 第三体育倉庫にあったヤツよね?」 バグは、息絶えればその身体は消滅する。 今回も例に漏れず消えていくバグたちを尻目に、ごろごろと足元まで転がっていた鉄球に手を当て、エルナがそう口にした。 「ああ、校舎に入る前に、使えそうな物はないかと立ち寄った時にティールが回収していた」 「回収って…………っ!? ティールちゃん、後ろ!!」 戦闘が終わった、と思いこんで安堵していた一瞬。 ふとティールの方へと目を向けると、遅れて来たらしいバグが一体、ティールに向けて剣を振り被っているのが目に入った。 まだ変身時間が続いているエルンストも、微妙に距離が空いているために間に合いそうに無い。 空也もまた、同様である。 「甘いよ」 ――が、それを見越していたかのようにそう口を動かし、再び携帯の決定キーを押すティール。 そして今度出てきたのは、すでに安全ピンが外された消火器。 出現すると同時にホースとレバーに手を伸ばし、ティールはバグの顔面に向けて思いっきり消火液を吹きつけた。 「エルンスト!」 「……わかっている!」 いきなりの目つぶしに混乱したらしいバグは大きく攻撃を外し、その剣は床を叩くだけで終わった。 そして、次の瞬間にはエルンストの一撃が炸裂し、最後の一体も床に崩れ、空気に溶けるようにその身体は消滅していった。 「マテリアルキャプチャー……」 この世界に存在している物は、このシステムを使う事でデータ化して封入し、持ち歩く事が出来る。 しかしそれは質量や体積に比例して携帯の容量を使い、限界はある。 ……だが逆に言えば、限度一杯までならどんな重くて大きいものでも、持ち歩く事が出来るという事だろう。 「とにかく重い物をコレで回収しておけば、いざと言うとき武器になる。 消火器もデータ化した状態なら暴発もないし、それを利用して安全装置を外しておけば、実体化させると同時に使う事が出来る」 「……なるほどね、そういう使い方もあるわけか」 極端な話、先程のティールが砲丸投げの球を使ったように、車一台を回収して敵の頭上に実体化させる、などという攻撃も可能ということである。 まぁ、車一台の容量がどんなものなのかは不明なのが難点だが。 「利用手段は考えておいて損は無いよ。 空也やイルみたいな武器を持ってない人は、特にね」 ちなみに、空也の刀は竜泉家の茶室に飾られている本物で、この世界に撒き込まれた後に、変身以外で戦う手段を得るために、一度取りに帰ったものらしい。 「でもまぁ、なんにせよよかったよ。 ティールちゃんと空也さんがいてくれたら、この先も楽になるだろうし」 歳のわりに知識もあって知恵も回り、変身後の戦闘能力も、先程の戦いで見る限りは相当のモノであることには間違いない。 加えて、この世界での立ち回りもこの中では一番理解しているふしもあるので、現状仲間になってもっとも頼りになる存在だろう。 ……そう、思っていたのだが…… 「ごめん、私達もうしばらくこのまま動くことにしてるから」 「……え?」 予想もしていなかった返事に、思わず四人は黙り込んでしまった。 この後も先も分からない状況で、手数を増やすことを拒むという行動。 確かにこの二人の実力ならば、ある程度なら何があっても大丈夫かもしれないというのは理解できる。 「すまない。 だが、全員が一塊に動いていては効率が悪いと思うからな……」 「うん。 部隊を分けて、より広い範囲を同時に回った方が早いと思うしね」 「…それは、そうかもしれないけど…」 しかし、期待を裏切られた落胆は大きい。 勿論この二人なりの考え方があってのことなのは分かっているし、悪意があっての事だとは思ってはいないが…… 「…ごめんね、クリア。 まぁ代わりと言ったらなんだけど、一つ情報あげるよ」 「あら、何かしら」 それを察してか、少し申し訳無さそうな表情で言葉を続けるティール。 だが、ショックを引きずっているのか言葉が出ない様子のクリアの状態を察し、その一言への返答はエルナが行っていた。 「その前に聞くけど、ここにいるってことは学校の中心に行こうとしてるってところかな?」 「……ええ、そうだけど。 何か問題でもあったの?」 「ああ、我々も先程向かったのだが、見えない壁のようなものにぶつかってな」 「えっと、『壁』にぶつかった位置を考えると半径にして……500Mくらいかな? そのくらいの範囲で、中心には近寄れなくなってるみたいだよ」 「見えない壁って……もしかして、その向こうには”何もなかった”とか?」 クリアは、その言葉に思い当たるものがあった。 それは、この世界に入り込んだ直後にぶつかったもので、それはいわゆる『世界のはしっこ』 その壁の向こうには何もなくて、そこから向こうに踏み出すことも出来ない一種の境界。 そんな空間が、もしかしたら中心部にも広がっているのでは――そう、思っての一言だった。 「……いや、”外周”の壁と違って中心部は存在しているようだ。 ただ、”入れない”……としか言いようが無いな」 「これは……中央部に何かがある可能性が高くなってきたわね……」 ふぅ、と溜息をつきながらそう口にするエルナ。 仲間を加える事はできなかったが、有力な情報は得る事が出来た。 それだけでも、よしとしよう。 ――その溜息には、そんななんとも言えない感情が込められているかのようだった。 「私達はもう少し校内――踏み込める範囲を探索するつもりだけど、そっちは?」 その後、廊下のT字路までは6人固まって進み、それぞれ別方向への道へと立ち、そこでティールがそうきりだした。 言葉通り、ティールと空也が立っている方向は、学校の奥の方への道である。 またクリア達が立っているのは、一度校舎から出て、グラウンドや別校舎へと向かう道だった。 「そうね、中心に行けないなら、いっそ外周――校外を捜してみるのも一つの手かしら」 「そっか。 まぁ探索範囲は広い方がいいからね、外はお願いしようかな」 「…………」 何も言わなくても、話は進む。 クリアは学園全体で見ても比較的友達は多いほうだが、学園全生徒数、というレベルで考えるとやはり会ったこともない相手の方が多い。 そして……今回のこの状況。 この町でもごく一部の人間しかいないこの世界で、仲のいい友達に会う事が出来たのは何よりも安心できる出来事のはずだったのだ。 それが、逆にこの上ない寂しさに転じるこの瞬間。 今生の別れというわけではないが、急に一人だけ取り残されたような感覚に襲われていた。 「……クリア、何かあったら電話して。 こっちの状況もどうなるかわからないから約束はできないけど……必要があれば駆けつけるから」 「……ティールちゃん……」 「ここで出会えてよかったよ。 私も、知り合いに殆ど会えてなくてちょっと心細かったから……一度会えたら、連絡はいつでもとれるしね」 優しく微笑んで、ゆっくり語り掛けるようなその言葉。 年下のクセに、全てを悟ったような語り口調。 そのくせ、歳相応のものも持ち合わせているという、雲のようにつかみどころのない性格。 「……わかった。 ティールも、何かあったら私に連絡してよね!」 「もちろん、そのつもりだよ」 なのに、近くにいるとどこか安心できる……そんな不思議な空気を持つ友達。 気休めとわかっていても、彼女の言葉は妙に力になる何かがあった。 だから、精一杯の笑顔で答える。 「……纏まったようだな。 ティール、そろそろ行こう」 「わかった。 エルナ、そっちの引率お願いね」 「言うわねぇ、この中じゃ一番年下のクセに」 「性分でね。 ……じゃ、またね」 ---- PTキャラ残りX・P |クリア| |4回| |エルナ| |4回| |イル| |4回| |エルンスト| |4回| 連絡可能の別行動キャラ ティール 空也

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