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■定例友会三日目  「さて、三日間の定例友会も最終日。皆さんとお別れする日がやってきました」  初日の交流会と同じく、最後のお別れ会も生徒皆が一つの部屋に集まり、対面して座る形になっており  そして、初日と同様に進行をするビショップの話を聞いていた。  違いがあるとすれば、今回はお菓子やケーキは置いておらず、机の上にあるものは、お喋りで乾いた喉を潤す為のお茶と水である。というくらいのものだろうか。 「まあ、また来年辺りに会えますが、少なくとも教会の行事で会えるのはしばらく先になります。  まだリエステール組の皆さんが出発するまで時間がありますので、   お手紙の交換をする約束をするなり、友達の顔をしっかり覚えるなりと、それまで自由にしていてください」  以上で説明を終わります。と、ビショップが話を締めるその直後に、  エルナは淡々とした様子で手を上げて 「先生」  と、ビショップに声を掛けた。  どちらかと言えば全体的に内向的になりがちな教会生の中で、こうして質問してくる生徒は珍しく、  しかも、それがエルナであるという事もあってか、少しざわついた。  しかしそんな事を気にも留めず、エルナはスクッと立ち上がり、少し上目遣い。  そして、まるで“清楚なお嬢様”という感じにニコリと笑い  そのビショップに告げた。 「少し体調が思わしくありませんので、引率教員の所で休んでいても良いでしょうか?」 「え、あ、え、ええ」  エルナが似合わない態度を取ったのは、こうして“素直で可愛い生徒”を演じれば  その“内側”を知らない相手であれば、大抵、嘘を付いていると思わせない事を判りきっているからである。  しかし、その狙ってた効果以上に。そのエルナの急な態度にドギマギしてしまったビショップに、エルナは態度とは裏腹に内心笑っていた。  たぶん、教師になって間もないのだろう。  それでも、教師は顔を赤らめてコホンと咳払いを一つして、エルナの質問に答え始めた。 「体調が悪いのならば仕方がありません。けれど、最後のお別れは宜しいんですか?」  ビショップの心配気な言葉にも、エルナはゆっくりと首を横に振って、 「いえ。わたしが挨拶したい子は居ませんから」  と、ハッキリと口にした。  後ろから、動揺が伝わってくる―――じくりと、心が痛んだ。  思わず胸を押さえ、「はぁぁ・・」と、苦しい息を吐く。 「判りました。先生の部屋まで行けますか?」 「はい。では、失礼しますね」  そうして、有無を言わさずにエルナは教室を出た。  ずいぶん意表を付いたやり方だと思うが、こうでもしなければ交流会場から抜け出すまでの間に、また“アレ”から声を掛けられる。 (どーせ経歴に傷を付けたくないんでしょ。きっと、そうに決まってる)  そんな事を思いながら  エルナは廊下を歩いていると、 「ちょっと」 「ま、待ちなさいよ!」  後ろから、同年代の声が聞こえた。  走ってきたのか、少し息切れている。 「・・・何?」  先ほどの清楚な作り笑いはすでに跡形も無く、  エルナはどこまでも冷たく、そのアリスの二人につまらなそうな声を返していた。 「あんたが何をどうしようと私達の知ったことじゃないけど、来年の定例友会には参加しないでよね」  ただ、向こうも好意的では無かったのだろう。  エルナのような冷徹さを言葉に含められる程ではなかったが、嫌悪している事を伝えるには十分な口調であった。 「そうよそうよ。アンタみたいなのと付き合うと、シアちゃんがダメになっちゃう!」 「・・・ま、そうでしょうね」  もう一人のアリスは、嫌悪や嫌味という口調は無かったが、ただ必死に“アレ”の為にならないから  エルナを責めている。という感じであった。  だが、その言葉をあっさりと認めたエルナに、二人はきょとんとした顔を浮かべる。 「わたしなんかと関わればダメになる。わたしなんか相手にしない方が良い。判りきってた事よ。  ・・・・ご心配しなくとも、次の定例友会に参加する気は無いわ」 「そ、そう! 判ってるんなら、言う事なんか無いわよ!」  動揺。ただし、調子に乗ったそれは不利益な事が避けられた安堵からの動揺だろう。  大方、ケンカになる事を覚悟して来たんじゃないだろうか。 「皆!! 何してるの!!」 「シアちゃん!?」 「ふぇ!?」 「・・・・」  二人のアリスの驚きの声と、片方が、「もうっ、皆にシアちゃんの引き留め頼んでおいたのに・・」と呟くのが聞こえた。  バツの悪そうに佇む二人に、エルナはこれ以上用が無いと判断して、踵を返した。 「エルナさん待って! お願い話を聞いて!!」 「・・・アンタの話、そこの二人なら喜んで聞いてくれるんじゃない、じゃあね」 「エルナさん!!」  廊下を平然とした態度で立ち去り、曲がり角を曲がってあいつ等の死角に入った瞬間、  エルナは我慢しきれず、駆け出した。  何かから逃げるように、ただ必死に。  ―――そして、リックテールを後にするまで一人大聖堂で座っていた―――― ■三日目夜  昼にリックテールを後にしたリエステール組は、あれから夕方に掛けてルナータへと付いた。  そしてこれから、ルナータで一休みした後、明け方に船に乗り、昼を少し過ぎた頃にフローナへ。  そして、フローナからリエステールに付く頃には夜中になるだろう。という予定であった。  リエステール組が食堂を後にし、セントロザリオ・アリスキュアそれぞれが大部屋に戻る  ―――― 一方、エルナはカーディアルトのアエリルに呼び出しを受けていた。 「まあ、エルナちゃんの事だから“判ってない”のでは無くて、“守る気が無い”っていう方が正解なんでしょうけど・・・」 「うん」  はぁぁ・・、と頭を抱えて、アエリルは睡眠不足のまぶたを擦っていた。  そのアエリルの表情には、睡眠不足だけではなく悲しさも混じっていたが、エルナは気付いていなかった。 (どうしたら良いのですか・・・先生)  結局、リックテールの定例友会も、エルナの事に関しては失敗に終わった。  きっとシアと友達になったんだと思い、嬉しくて放った。たった一言だったが・・・明らかに、失言だった。  そう、アエリルは悔やんでいた。 「あのね、エルナちゃん――――」 「スミマセン。支援士の者ですが」  無駄かも知れないけれど、必死になって伝えたかったであろう、シアの言葉を代弁しようとした刹那  パッと見、16~17くらいのブレイザーの少年が、ノックの後に入ってきた。  彼の告げたとおり、支援士の者ならば、何か用事があって来たのだろう。  アエリルは、彼に向き直って声を掛けた。 「はい。なんでしょう?」 「人探しです。こちらに、シア・スノーフレークという女の子が来ていませんか?」 「・・・っ!」 「え・・・あの、シアちゃんが、何か?」  恐る恐る。という感じで、アエリルはその言葉の真意を問い返す。  だが、ブレイザーの少年は「あれ?」と言った後、 「オカシイな。街道には居なかったのに」  と、独り言を呟いた後、  アエリルの問いかけに答えた。 「いえ、なんでも昼の大聖堂でのお祈りの際に、シアという生徒さんが居ない事に気付いて、酒場の方にも依頼が来たんですよ。  丁度駐屯していた僕がそれを引き受けたんですけど・・・おっかしいなぁ。  でもまあ、東口の門番さんは“見たかも知れない”ってしか言ってなかったし  あの人、いっつもボーっとしていますからね」  アハハ。と、ブレイザーの少年は笑うが、  アエリルは、「まさか」と驚愕していた。  あのシアが、お祈りをサボるとは思えない。だとしたらそこには何かしらの事情が入り込む筈だ。  その事情が事情なら、シアは間違いなく教師に許可を得てから行動を行う筈である。  ―――或いは、許可が降りるはずがない。と、判っている事情ならば?  その可能性を考え、アエリルはちらりと、一瞬だけエルナの方を見た。  が、 「っ、どいてっ!!!」 「おわっと!?」 「エルナちゃん!!??!?」  既に、ブレイザーの少年を押しのけ、ドアを開けて飛び出していた。  そのまま、ルナータからリックテール東街道に向かって走っていくのが見える。  アエリルは、慌ててそれを追いかける一方で、 「ちょっとあなた!! 他の引率の先生に話しておいて!!!」 「ええ!? ちょ、そんないきなり!?」  走る。走る。走る――――  息が上がる。苦しい。  だけど、それでも止まるわけには行かなかった。 (ばか!! ばかばか!! なんで、そんなに考えなしなのよっ!!!)  街道には魔物が出る。アリスキュア一人で何が出来ると言うんだ。  だけど、エルナは何となく気付いていた。  あのバカが、こんなとんでもない行動をする理由なんて、 (どこ、どこに居るのよっ・・!!)          ――――コッチ 「!?」  突然、言葉・・いや、言葉と認識するのにも怪しい。  何だろう、『伝わった』というのが一番言葉としてしっくり来るのだが、  なにか、そんな風に感じた気配。 (フィナ・・?)  その気配は、ペンダントから感じた。  導く先は、街道から少し外れた木と藪のある所。  ―――そこに、 「むぐぅっ!! ふぅぅ!!」 「くそっ、中々しぶといな」 「おい、商品価値を下げる真似だけはするなよ」  二人の男に羽交い絞めにされている形で居た、 「“シア”!!!」 「なっ!?」  飛び込むエルナに、驚く男二人。  その隙を突いて、手で被せられていた布を払いのけ、シアは立ち上がろうとする。  しかし、直ぐに気付いた男が、手首を掴んで押さえ込む 「エルナ、さん・・!」 「シア、シアぁ!!」 「やっと、名前、呼んでくれた・・・わたし、エルナさんの誤解、解きたくて・・・」 「おい、勝手に喋ってんじゃねぇ!」 「むぐっ!!」  男は再びシアの口を布で押さえ、身動きを封じる。 「おい、そいつはどうせまともに動けないから良い。それよりこいつも捕まえるぞ」 「ああ? あぁ・・そうか、アリスキュアか。ヒヒ、アリス二匹なんて、こりゃあしばらく遊べるんじゃねぇの?」  そうして男の一人はシアを話、ひょろりと蛇のような動きで立ち上がった。 「・・・ぁ・・」  どさりと、シアは地面に崩れる。  それを見て、エルナは俯いた。 「・・・・許さない・・」  涙で、声が震えるのを隠さずに。 「・・・でも、それよりも・・一番許せないのは・・・つまんない意地で、シアをこんな目に遭わせた、わたしだ・・・」 「あ? なにぶつぶつ言ってんだ?」 「テメェ!!! “わたしの大事な友達”に傷一つでも付けてみろ!! 地獄すら生ぬるい苦痛を味合わせてやるからなっ!!!」  涙を拭った先に現れたのは、怒り。  突然の大声に怯んだ男二人だったが、  直ぐに気を取り直してエルナへと駆け寄ってくる。 (お願いフィナ。力を貸して・・・!!)  ペンダントは、熱いくらいにエルナの思いに反応し、  翠水晶石からは、輝く光を隠しもせずに放ち続けている。 「うほぉ!! 翠水晶石までもってやがるぜコイツ!!」 「・・・・・・・聖フロリアの聖法なる裁きの左手よ――――」  残り三歩。その蛇のように襲い掛かる腕が、エルナに伸びた。  後ろの男は、エルナも手に入った事を確信し、ニヤリと笑う。  だが、         ――― 裁 け ! 「裁け! アルテナフレア!!!!」 「あ? ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!」 「な、なんだとっ!!??」  本来、範囲魔法であるアルテナフレア。その力が、蛇のような男一点に集中して飛ぶ。  前衛系であろう男が、その一撃を受けるにはあまりに重い。  白炎(ビャクエン)に包まれ、死ぬことの出来ない裁きを与える炎が男の悪を消し去る程に燃え上がり、苦しめる。 「あああああああ!!!!!」  苦しみの声を上げる一方、後ろ側に居た男は「ヒィッ」と声をあげて、エルナを見た。  何よりも疑問なのは、たかだかアリスキュアに使えるような術式ではないという事だ。  それこそ、ジャッジメントの能力であると言えるだろう。  先ほどは、カモにしか見えなかったアリスキュア。  だが、今では地獄の沙汰を計る閻魔にも見えた。 「・・・・・・」 「ひ、ひぃぃ!!!」  ザッと、男の前に立ったエルナに怯えた男は、  白炎に苦しむ彼の仲間であろう、男を見捨てて、走り去っていった。 「・・・っ・・・」 「ぁ・・シア!!!」  エルナは、地面に倒れているシアを抱き起こし、様態を見る。  意識がハッキリとしていない。ただ、エルナが触れたときに異常なまでにビクンと身体を跳ねさせた。  ―――神経麻痺。  おそらく、男の持っていた布には気化性の薬物が染みていたのだろう。  その効能は身体を麻痺させ、身体の自由を奪う。 「そんな・・わたし、キュアパラライなんか覚えてないよぉ・・!」  そんな時、ふと思い出した言葉があった。 『まあ、そっちはもう聖術基礎の78ページまで行ってるの?』 『うん。と言っても、先生の授業が早すぎて、復習が大変なんだけどさ』  なんて事は無い、定例友会初日の名前も知らないような誰かの会話だ。  聖術基礎78ページなど、既にキュアパラライのところなんか終わっているだろう。  一ヶ月、自分が引きこもっている間にそれだけ進んでいて、  そして、その事で目の前の、やっと素直に友達になれると思ったシアを助けることも出来ない  ―――だけど、 (ぁ・・フィナ・・?)  背中が暖かい。今までに無いくらい、どこまでも暖かく  フィナが、エルナをそっと包み込むように抱きしめる。そんな感じがした。 「うん。もう一度だけ、力を貸して」  紡ぐ、カーディアルトの奇跡を―――― 「ノーマライズ!!」  辺りが完全に暗くなり、夜になった時、  街道をルナータの方へ歩いていた。  シアは目覚めておらず。彼女をおぶって、一歩、また一歩  そうすると、見知った人影に出会った。  その人影もエルナのほうに気付き、驚いて駆けつけてくる。 「エルナちゃん!! シアちゃん!!」  カーディアルト―――シスターアエリル。  ボロボロのわたし達を抱きしめ、涙を流しながら無事であることを安堵した。  こうして、いつもより波乱だったと後に誰かが語っていた定例友会は、終わりを告げたのだった。 ■四日目朝 「んぅ・・」  目が覚めると、ベッドにつっぷす形でエルナは眠っていた。  そのベッドには、すやすやと眠るシアが居た。  それで、エルナはようやく看病の途中に寝てしまった事を思い出した。 (全く。変わってないな)  フィナの看病をしてた時も、よくこうして眠っちゃってた気がする。  そんな事を思っていた。そのタイミングで、シアのまぶたがピクリと動き、  そして、ゆっくりと目を開ける。 「あ・・エルナ、さん・・・?」 「シア・・!!」  その声を聞いて、堪えきれずにエルナはシアに抱きついた。  目覚めたばかりで良く判っていなかったのか、シアは急に抱きつかれて少し動揺を見せたが、  すぐに、いつものように落ち着いた態度をしていた。 「ごめ・・っ・・ごめんね・・!! わたし、怖くて・・・!!  友達作っても・・また死んじゃったら、わたしの心・・潰れちゃうもん・・!!  だから・・いっぱい、自分に嘘ついて・・いっぱい、ひどい事して・・ごめんね・・・っ・・!!  やだ・・やだよ・・・シア、死んじゃ、やだよぉ・・・!!」 「・・・エルナさん・・・」  もはや言葉にもなってない。けれど、エルナはシアに抱きついて、彼女の寝巻きを濡らしながら、  ただ必死に気持ちを伝えようとしていた。 「ぁっ・・・」  そして、シアは何も言わず、エルナの頭を・・・髪を、さらさらと撫でた。 『ったく。フィナは甘えん坊なんだから』 『でも・・・お姉ちゃんに髪を撫でてもらうの、好きだもん』  ―――きもちいい。  フィナの言葉も、今なら判る気がする。 「私、何一つ気にしてませんよ。だから、泣かないでください」  エルナの髪を撫でながら、シアはいつものように  そう、本当はわかっていた。  作り物なんかじゃないごく自然な態度―――― 「私は、死にません。簡単にエルナさんの前から居なくなったりしません。  だから、泣かないで下さい。だって―――」  にこり。 「私、エルナさんの笑った顔が見たいんです」  と、エルナからは見えないが、きっと笑顔で、そう言った。  エルナは、その言葉に答えるように。  きっとシアからは見えないだろうけど、 「・・うん」  笑顔で、一つ頷いた。  この後、リックテールから迎えに来た先生にエルナは追い出され、  シアがこっぴどく叱られているのだろう、その部屋を覗える廊下の椅子に座り、待っていた。  やがて、ドアが開いて、その先生と共にシアが出てくる。  ―――怒られた後だっていうのに、シアは本当に嬉しそうな顔で、エルナに小さく手を振っていた。  また、そのシアに返すように、エルナはそっとピースをシアに向けた。  リエステール組は、そろそろ船に乗る時間である。  だけども、エルナは集合がかかる前に、宿から臨める海を見た。  船着場に近い理由から選ばれたのだが、海はごく近くで、バルコニーから海に釣り糸を垂らす事も出来る距離であった。  エルナはそのバルコニーに出て、そっと自分の胸元をまさぐる。  そして、一つの深藍色の鍵を取り出した。    ―――ありがとう。弱いわたしを甘えさせてくれて。  そう呟いて、  それを、思いっきり海へと投げ捨てた。 ■リエステール 聖アルティア教会 「フィナ。わたし、友達が出来たよ」  翠水晶石と、フォトスタンドに写った妹の写真を撫でて、  エルナは、優しい顔で呟いた。 「もう、昇華しちゃったんだね」  フィナは、船旅の途中にペンダントから感じられなくなって、  きっと、逝ったんだろうなと。なんとなく判ってしまった。 「思えば、フィナの事ばっかりで、わたしは何にも自分のことが出来てなかった  だけど、こんなダメなおねえちゃんでも、友達が出来たんだよ」  目を細めて、写真を一撫でした後、  フィナの眠っていたベッドに座って、  かつてフィナの眠っていた場所を、ゆっくりと撫でる。 「シアっていうの。わたしなんかと全然正反対の静かで落ち着いてる優等生。  あ、でも嫉妬しちゃヤダよ? わたしの一番の友達で、ただ一人の甘えん坊な妹は、フィナ。あなたなんだから」  そして、考えるように目を閉じて少し。  こんこん。と、ノックの音。 「はーい」  エルナの返事に、ドア越しに声が聞こえた。 「エルナちゃん。授業の準備出来てますか? 今日から通常授業と一ヶ月休んだ分の補習をビシビシ行きますよ」 「うぇ・・」 「ん? 今、なんだか“うぇ”と聞こえた気がしますけど・・・?」 「は、はーい!」  シスターアエリル口調は柔らかいが、言葉に黒さが篭っていた。  それに、エルナは思わず詰まったような返事をした。  教科書を持って、ペンダントの鎖を首にかけて授業に出向く。  気持ちは過去へと向かわず――――  ―――これからは、前を向いて進むよう  名前:エルナ(・フロリア)  性別:女  年齢:12歳  ジョブ:アリスキュア  能力:水・黄・紫  武器:ルナミスカード(フルーカードと呼ばれる特殊な武器の中で、カードセット自体に『月』と言う意味が込められた物)  形見:フィナのペンダント(幼い頃に病死した妹にプレゼントしたペンダント。結晶石『翠水晶石』が先端に付けられている。妹の魂はまだ宿っている) 所持能力  リラ(傷を癒す)  キュアポイズン(毒の異常状態を治癒する)  アルティレイ(光の粒を飛ばす)  エンシェントブライト(輝く光群。将来はカーディアルトである為、本来覚える事は不可であるが、アリス時代の『ラリラ』『レ・リラ』の習得と、将来的に『ステータスを降昇する能力』の習得を犠牲にすることで、この聖光が使える) パッシブスキル  フロリアの術式(詠唱を『聖(エルナン・)フロリアの~~』という第一節[一言]に簡省略出来る。ただし、本来と同様のメンタルを用いるも威力は正式な術式より落ちる) 形見効果  ・聖術の発動効率↑  ・聖術『ノーマライズ』『アルテナフレア』使用可能
■定例友会三日目  「さて、三日間の定例友会も最終日。皆さんとお別れする日がやってきました」  初日の交流会と同じく、最後のお別れ会も生徒皆が一つの部屋に集まり、対面して座る形になっており  そして、初日と同様に進行をするビショップの話を聞いていた。  違いがあるとすれば、今回はお菓子やケーキは置いておらず、机の上にあるものは、お喋りで乾いた喉を潤す為のお茶と水である。というくらいのものだろうか。 「まあ、また来年辺りに会えますが、少なくとも教会の行事で会えるのはしばらく先になります。  まだリエステール組の皆さんが出発するまで時間がありますので、   お手紙の交換をする約束をするなり、友達の顔をしっかり覚えるなりと、それまで自由にしていてください」  以上で説明を終わります。と、ビショップが話を締めるその直後に、  エルナは淡々とした様子で手を上げて 「先生」  と、ビショップに声を掛けた。  どちらかと言えば全体的に内向的になりがちな教会生の中で、こうして質問してくる生徒は珍しく、  しかも、それがエルナであるという事もあってか、少しざわついた。  しかしそんな事を気にも留めず、エルナはスクッと立ち上がり、少し上目遣い。  そして、まるで“清楚なお嬢様”という感じにニコリと笑い  そのビショップに告げた。 「少し体調が思わしくありませんので、引率教員の所で休んでいても良いでしょうか?」 「え、あ、え、ええ」  エルナが似合わない態度を取ったのは、こうして“素直で可愛い生徒”を演じれば  その“内側”を知らない相手であれば、大抵、嘘を付いていると思わせない事を判りきっているからである。  しかし、その狙ってた効果以上に。そのエルナの急な態度にドギマギしてしまったビショップに、エルナは態度とは裏腹に内心笑っていた。  たぶん、教師になって間もないのだろう。  それでも、教師は顔を赤らめてコホンと咳払いを一つして、エルナの質問に答え始めた。 「体調が悪いのならば仕方がありません。けれど、最後のお別れは宜しいんですか?」  ビショップの心配気な言葉にも、エルナはゆっくりと首を横に振って、 「いえ。わたしが挨拶したい子は居ませんから」  と、ハッキリと口にした。  後ろから、動揺が伝わってくる―――じくりと、心が痛んだ。  思わず胸を押さえ、「はぁぁ・・」と、苦しい息を吐く。 「判りました。先生の部屋まで行けますか?」 「はい。では、失礼しますね」  そうして、有無を言わさずにエルナは教室を出た。  ずいぶん意表を付いたやり方だと思うが、こうでもしなければ交流会場から抜け出すまでの間に、また“アレ”から声を掛けられる。 (どーせ経歴に傷を付けたくないんでしょ。きっと、そうに決まってる)  そんな事を思いながら  エルナは廊下を歩いていると、 「ちょっと」 「ま、待ちなさいよ!」  後ろから、同年代の声が聞こえた。  走ってきたのか、少し息切れている。 「・・・何?」  先ほどの清楚な作り笑いはすでに跡形も無く、  エルナはどこまでも冷たく、そのアリスの二人につまらなそうな声を返していた。 「あんたが何をどうしようと私達の知ったことじゃないけど、来年の定例友会には参加しないでよね」  ただ、向こうも好意的では無かったのだろう。  エルナのような冷徹さを言葉に含められる程ではなかったが、嫌悪している事を伝えるには十分な口調であった。 「そうよそうよ。アンタみたいなのと付き合うと、シアちゃんがダメになっちゃう!」 「・・・ま、そうでしょうね」  もう一人のアリスは、嫌悪や嫌味という口調は無かったが、ただ必死に“アレ”の為にならないから  エルナを責めている。という感じであった。  だが、その言葉をあっさりと認めたエルナに、二人はきょとんとした顔を浮かべる。 「わたしなんかと関わればダメになる。わたしなんか相手にしない方が良い。判りきってた事よ。  ・・・・ご心配しなくとも、次の定例友会に参加する気は無いわ」 「そ、そう! 判ってるんなら、言う事なんか無いわよ!」  動揺。ただし、調子に乗ったそれは不利益な事が避けられた安堵からの動揺だろう。  大方、ケンカになる事を覚悟して来たんじゃないだろうか。 「皆!! 何してるの!!」 「シアちゃん!?」 「ふぇ!?」 「・・・・」  二人のアリスの驚きの声と、片方が、「もうっ、皆にシアちゃんの引き留め頼んでおいたのに・・」と呟くのが聞こえた。  バツの悪そうに佇む二人に、エルナはこれ以上用が無いと判断して、踵を返した。 「エルナさん待って! お願い話を聞いて!!」 「・・・アンタの話、そこの二人なら喜んで聞いてくれるんじゃない、じゃあね」 「エルナさん!!」  廊下を平然とした態度で立ち去り、曲がり角を曲がってあいつ等の死角に入った瞬間、  エルナは我慢しきれず、駆け出した。  何かから逃げるように、ただ必死に。  ―――そして、リックテールを後にするまで一人大聖堂で座っていた―――― ■三日目夜  昼にリックテールを後にしたリエステール組は、あれから夕方に掛けてルナータへと付いた。  そしてこれから、ルナータで一休みした後、明け方に船に乗り、昼を少し過ぎた頃にフローナへ。  そして、フローナからリエステールに付く頃には夜中になるだろう。という予定であった。  リエステール組が食堂を後にし、セントロザリオ・アリスキュアそれぞれが大部屋に戻る  ―――― 一方、エルナはカーディアルトのアエリルに呼び出しを受けていた。 「まあ、エルナちゃんの事だから“判ってない”のでは無くて、“守る気が無い”っていう方が正解なんでしょうけど・・・」 「うん」  はぁぁ・・、と頭を抱えて、アエリルは睡眠不足のまぶたを擦っていた。  そのアエリルの表情には、睡眠不足だけではなく悲しさも混じっていたが、エルナは気付いていなかった。 (どうしたら良いのですか・・・先生)  結局、リックテールの定例友会も、エルナの事に関しては失敗に終わった。  きっとシアと友達になったんだと思い、嬉しくて放った。たった一言だったが・・・明らかに、失言だった。  そう、アエリルは悔やんでいた。 「あのね、エルナちゃん――――」 「スミマセン。支援士の者ですが」  無駄かも知れないけれど、必死になって伝えたかったであろう、シアの言葉を代弁しようとした刹那  パッと見、16~17くらいのブレイザーの少年が、ノックの後に入ってきた。  彼の告げたとおり、支援士の者ならば、何か用事があって来たのだろう。  アエリルは、彼に向き直って声を掛けた。 「はい。なんでしょう?」 「人探しです。こちらに、シア・スノーフレークという女の子が来ていませんか?」 「・・・っ!」 「え・・・あの、シアちゃんが、何か?」  恐る恐る。という感じで、アエリルはその言葉の真意を問い返す。  だが、ブレイザーの少年は「あれ?」と言った後、 「オカシイな。街道には居なかったのに」  と、独り言を呟いた後、  アエリルの問いかけに答えた。 「いえ、なんでも昼の大聖堂でのお祈りの際に、シアという生徒さんが居ない事に気付いて、酒場の方にも依頼が来たんですよ。  丁度駐屯していた僕がそれを引き受けたんですけど・・・おっかしいなぁ。  でもまあ、東口の門番さんは“見たかも知れない”ってしか言ってなかったし  あの人、いっつもボーっとしていますからね」  アハハ。と、ブレイザーの少年は笑うが、  アエリルは、「まさか」と驚愕していた。  あのシアが、お祈りをサボるとは思えない。だとしたらそこには何かしらの事情が入り込む筈だ。  その事情が事情なら、シアは間違いなく教師に許可を得てから行動を行う筈である。  ―――或いは、許可が降りるはずがない。と、判っている事情ならば?  その可能性を考え、アエリルはちらりと、一瞬だけエルナの方を見た。  が、 「っ、どいてっ!!!」 「おわっと!?」 「エルナちゃん!!??!?」  既に、ブレイザーの少年を押しのけ、ドアを開けて飛び出していた。  そのまま、ルナータからリックテール東街道に向かって走っていくのが見える。  アエリルは、慌ててそれを追いかける一方で、 「ちょっとあなた!! 他の引率の先生に話しておいて!!!」 「ええ!? ちょ、そんないきなり!?」  走る。走る。走る――――  息が上がる。苦しい。  だけど、それでも止まるわけには行かなかった。 (ばか!! ばかばか!! なんで、そんなに考えなしなのよっ!!!)  街道には魔物が出る。アリスキュア一人で何が出来ると言うんだ。  だけど、エルナは何となく気付いていた。  あのバカが、こんなとんでもない行動をする理由なんて、 (どこ、どこに居るのよっ・・!!)          &italic(){――――コッチ} 「!?」  突然、言葉・・いや、言葉と認識するのにも怪しい。  何だろう、『伝わった』というのが一番言葉としてしっくり来るのだが、  なにか、そんな風に感じた気配。 (フィナ・・?)  その気配は、ペンダントから感じた。  導く先は、街道から少し外れた木と藪のある所。  ―――そこに、 「むぐぅっ!! ふぅぅ!!」 「くそっ、中々しぶといな」 「おい、商品価値を下げる真似だけはするなよ」  二人の男に羽交い絞めにされている形で居た、 &bold(){「“シア”!!!」} 「なっ!?」  飛び込むエルナに、驚く男二人。  その隙を突いて、手で被せられていた布を払いのけ、シアは立ち上がろうとする。  しかし、直ぐに気付いた男が、手首を掴んで押さえ込む &size(9){「エルナ、さん・・!」} 「シア、シアぁ!!」 &size(9){「やっと、名前、呼んでくれた・・・わたし、エルナさんの誤解、解きたくて・・・」} 「おい、勝手に喋ってんじゃねぇ!」 &bold(){「むぐっ!!」}  男は再びシアの口を布で押さえ、身動きを封じる。 「おい、そいつはどうせまともに動けないから良い。それよりこいつも捕まえるぞ」 「ああ? あぁ・・そうか、アリスキュアか。ヒヒ、アリス二匹なんて、こりゃあしばらく遊べるんじゃねぇの?」  そうして男の一人はシアを離し、ひょろりと蛇のような動きで立ち上がった。 &size(8){「・・・ぁ・・」}  どさりと、シアは地面に崩れる。  それを見て、エルナは俯いた。 &size(9){&bold(){「・・・・許さない・・」}}  涙で、声が震えるのを隠さずに。 &size(9){&bold(){「・・・でも、それよりも・・一番許せないのは・・・つまんない意地で、シアをこんな目に遭わせた、わたしだ・・・」}} 「あ? なにぶつぶつ言ってんだ?」 &size(20){&bold(){「テメェ!!! “わたしの大事な友達”に傷一つでも付けてみろ!! 地獄すら生ぬるい苦痛を味合わせてやるからなっ!!!」}}  涙を拭った先に現れたのは、怒り。  突然の大声に怯んだ男二人だったが、  直ぐに気を取り直してエルナへと駆け寄ってくる。 (お願いフィナ。力を貸して・・・!!)  ペンダントは、熱いくらいにエルナの思いに反応し、  翠水晶石からは、輝く光を隠しもせずに放ち続けている。 「うほぉ!! 翠水晶石までもってやがるぜコイツ!!」 &size(8){「・・・・・・・聖フロリアの聖法なる裁きの左手よ――――」}  残り三歩。その蛇のように襲い掛かる腕が、エルナに伸びた。  後ろの男は、エルナも手に入った事を確信し、ニヤリと笑う。  だが、         &italic(){――― 裁 け !} &bold(){「裁け! アルテナフレア!!!!」} 「あ? &bold(){ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!」} 「な、なんだとっ!!??」  本来、範囲魔法であるアルテナフレア。その力が、蛇のような男一点に集中して飛ぶ。  前衛系であろう男が、その一撃を受けるにはあまりに重い。  白炎(ビャクエン)に包まれ、死ぬことの出来ない裁きを与える炎が男の悪を消し去る程に燃え上がり、苦しめる。 &bold(){「あああああああ!!!!!」}  苦しみの声を上げる一方、後ろ側に居た男は「ヒィッ」と声をあげて、エルナを見た。  何よりも疑問なのは、たかだかアリスキュアに使えるような術式ではないという事だ。  それこそ、ジャッジメントの能力であると言えるだろう。  先ほどは、カモにしか見えなかったアリスキュア。  だが、今では地獄の沙汰を計る閻魔にも見えた。 「・・・・・・」 「ひ、&bold(){ひぃぃ!!!」}  ザッと、男の前に立ったエルナに怯えた男は、  白炎に苦しむ彼の仲間であろう、男を見捨てて、走り去っていった。 「・・・っ・・・」 「ぁ・・&bold(){シア!!!」}  エルナは、地面に倒れているシアを抱き起こし、様態を見る。  意識がハッキリとしていない。ただ、エルナが触れたときに異常なまでにビクンと身体を跳ねさせた。  ―――神経麻痺。  おそらく、男の持っていた布には気化性の薬物が染みていたのだろう。  その効能は身体を麻痺させ、身体の自由を奪う。 「そんな・・どうしよう・・わたし、キュアパラライなんか覚えてないよぉ・・!」  そんな時、ふと思い出した言葉があった。 『まあ、そっちはもう聖術基礎の78ページまで行ってるの?』 『うん。と言っても、先生の授業が早すぎて、復習が大変なんだけどさ』  なんて事は無い、定例友会初日の名前も知らないような誰かの会話だ。  聖術基礎78ページなど、既にキュアパラライのところなんか終わっているだろう。  一ヶ月、自分が引きこもっている間にそれだけ進んでいて、  そして、その事で目の前の、やっと素直に友達になれると思ったシアを助けることも出来ない  ―――だけど、 (ぁ・・フィナ・・?)  背中が暖かい。今までに無いくらい、どこまでも暖かく  フィナが、エルナをそっと包み込むように抱きしめる。そんな感じがした。 「うん。もう一度だけ、力を貸して」  紡ぐ、カーディアルトの奇跡を―――― 「ノーマライズ!!」  辺りが完全に暗くなり、夜になった時、  街道をルナータの方へ歩いていた。  シアは目覚めておらず。彼女をおぶって、一歩、また一歩  そうすると、見知った人影に出会った。  その人影もエルナのほうに気付き、驚いて駆けつけてくる。 「エルナちゃん!! シアちゃん!!」  カーディアルト―――シスターアエリル。  ボロボロのわたし達を抱きしめ、涙を流しながら無事であることを安堵した。  こうして、いつもより波乱だったと後に誰かが語っていた定例友会は、終わりを告げたのだった。 ■四日目朝 「んぅ・・」  目が覚めると、ベッドにつっぷす形でエルナは眠っていた。  そのベッドには、すやすやと眠るシアが居た。  それで、エルナはようやく看病の途中に寝てしまった事を思い出した。 (全く。変わってないな)  フィナの看病をしてた時も、よくこうして眠っちゃってた気がする。  そんな事を思っていた。そのタイミングで、シアのまぶたがピクリと動き、  そして、ゆっくりと目を開ける。 「あ・・エルナ、さん・・・?」 「シア・・!!」  その声を聞いて、堪えきれずにエルナはシアに抱きついた。  目覚めたばかりで良く判っていなかったのか、シアは急に抱きつかれて少し動揺を見せたが、  すぐに、いつものように落ち着いた態度をしていた。 「ごめ・・っ・・ごめんね・・!! わたし、怖くて・・・!!  友達作っても・・また死んじゃったら、わたしの心・・潰れちゃうもん・・!!  だから・・いっぱい、自分に嘘ついて・・いっぱい、ひどい事して・・ごめんね・・・っ・・!!  やだ・・やだよ・・・シア、死んじゃ、やだよぉ・・・!!」 「・・・エルナさん・・・」  もはや言葉にもなってない。けれど、エルナはシアに抱きついて、彼女の寝巻きを濡らしながら、  ただ必死に気持ちを伝えようとしていた。 「ぁっ・・・」  そして、シアは何も言わず、エルナの頭を・・・髪を、さらさらと撫でた。 『ったく。フィナは甘えん坊なんだから』 『でも・・・お姉ちゃんに髪を撫でてもらうの、好きだもん』  ―――きもちいい。  フィナの言葉も、今なら判る気がする。 「私、何一つ気にしてませんよ。だから、泣かないでください」  エルナの髪を撫でながら、シアはいつものように  そう、本当はわかっていた。  作り物なんかじゃないごく自然な態度―――― 「私は、死にません。簡単にエルナさんの前から居なくなったりしません。  だから、泣かないで下さい。だって―――」  にこり。 「私、エルナさんの笑った顔が見たいんです」  と、エルナからは見えないが、きっと笑顔で、そう言った。  エルナは、その言葉に答えるように。  きっとシアからは見えないだろうけど、 「・・うん」  笑顔で、一つ頷いた。  この後、リックテールから迎えに来た先生にエルナは追い出され、  シアがこっぴどく叱られているのだろう、その部屋を覗える廊下の椅子に座り、待っていた。  やがて、ドアが開いて、その先生と共にシアが出てくる。  ―――怒られた後だっていうのに、シアは本当に嬉しそうな顔で、エルナに小さく手を振っていた。  また、そのシアに返すように、エルナはそっとピースをシアに向けた。  リエステール組は、そろそろ船に乗る時間である。  だけども、エルナは集合がかかる前に、宿から臨める海を見た。  船着場に近い理由から選ばれたのだが、海はごく近くで、バルコニーから海に釣り糸を垂らす事も出来る距離であった。  エルナはそのバルコニーに出て、そっと自分の胸元をまさぐる。  そして、一つの深藍色の鍵を取り出した。    ―――ありがとう。弱いわたしを甘えさせてくれて。  そう呟いて、  それを、思いっきり海へと投げ捨てた。 ■リエステール 聖アルティア教会 「フィナ。わたし、友達が出来たよ」  翠水晶石と、フォトスタンドに写った妹の写真を撫でて、  エルナは、優しい顔で呟いた。 「もう、昇華しちゃったんだね」  フィナは、船旅の途中にペンダントから感じられなくなって、  きっと、逝ったんだろうなと。なんとなく判ってしまった。 「思えば、フィナの事ばっかりで、わたしは何にも自分のことが出来てなかった  だけど、こんなダメなおねえちゃんでも、友達が出来たんだよ」  目を細めて、写真を一撫でした後、  フィナの眠っていたベッドに座って、  かつてフィナの眠っていた場所を、ゆっくりと撫でる。 「シアっていうの。わたしなんかと全然正反対の静かで落ち着いてる優等生。  あ、でも嫉妬しちゃヤダよ? わたしの一番の友達で、ただ一人の甘えん坊な妹は、フィナ。あなたなんだから」  そして、考えるように目を閉じて少し。  こんこん。と、ノックの音。 「はーい」  エルナの返事に、ドア越しに声が聞こえた。 「エルナちゃん。授業の準備出来てますか? 今日から通常授業と一ヶ月休んだ分の補習をビシビシ行きますよ」 「うぇ・・」 「ん? 今、なんだか“うぇ”と聞こえた気がしますけど・・・?」 「は、はーい!」  シスターアエリル口調は柔らかいが、言葉に黒さが篭っていた。  それに、エルナは思わず詰まったような返事をした。  教科書を持って、ペンダントの鎖を首にかけて授業に出向く。  気持ちは過去へと向かわず――――  ―――これからは、前を向いて進むよう  名前:エルナ(・フロリア)  性別:女  年齢:12歳  ジョブ:アリスキュア  能力:水・黄・紫  武器:ルナミスカード(フルーカードと呼ばれる特殊な武器の中で、カードセット自体に『月』と言う意味が込められた物)  形見:フィナのペンダント(幼い頃に病死した妹にプレゼントしたペンダント。結晶石『翠水晶石』が先端に付けられている。妹の魂はまだ宿っている) 所持能力  リラ(傷を癒す)  キュアポイズン(毒の異常状態を治癒する)  アルティレイ(光の粒を飛ばす)  エンシェントブライト(輝く光群。将来はカーディアルトである為、本来覚える事は不可であるが、アリス時代の『ラリラ』『レ・リラ』の習得と、将来的に『ステータスを降昇する能力』の習得を犠牲にすることで、この聖光が使える) パッシブスキル  フロリアの術式(詠唱を『聖(エルナン・)フロリアの~~』という第一節[一言]に簡省略出来る。ただし、本来と同様のメンタルを用いるも威力は正式な術式より落ちる) 形見効果  ・聖術の発動効率↑  ・聖術『ノーマライズ』『アルテナフレア』使用可能

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