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「これは・・・!!」  漆黒の森の中  玉響(たまゆら)の光輝きしその空間  そこで、一人の少女が驚愕の声を上げる 「まさか・・・もしかして、コレが狙いなのか・・?」  独り呟くと、少女は玉響に手を伸ばし、“ソレ”を受け取る。  そこには、自らと同じ位の歳をした女の子。  確かに、“依頼の条件通り”の少女であった。 「おい! さっきの光は何だ!!」 「・・!!」  振り向けば、そこには支援士の男が三人。  玉響より現れた女の子を目に留めるなり、一人が叫んだ 「居たぞ!!フィークベルだ!!」 「まさか次元空間にその身を隠していたとは・・・!!」 (!? この娘が何だと言うんだ?)  にじり寄る支援士。その目には“手柄は自分の物だ”と描かれている  少女は、その女の子を抱え駆け出した。  アレはマズイ。アレに渡すのはダメだ。 「逃げたぞ!!」 「追うんだ!!」  駆け出す支援士達。  人影は、暗闇の森に溶けた。    * 「やれやれ・・ようやく久しぶりの首都ね」  はぁ。とため息をついて、リアは小さく首を振った。  友人にも久々に会いたい。が、それより先にする事は山ほどあった。 「この男の子を運べば良いんだね?」 「ええ・・それより大丈夫?」  モレクで会った支援士の少女ティールは背に昏睡する男を担ぎ  そしてリアはその男の荷物を持った。 「名前は・・これ、十六夜方面の文字かしら」 「学生証“宮守誠司”・・・ね。どういった代物かは良く判らないけれど、この宮守誠司が名前なのは違いないかな」  他にも、男の周りに落ちていた物はキテレツな物ばかりだった。  折りたたみ式の1~9、0と数字が並んだ小さな機械・・・機械など、グランドブレイカーの下層の方の物だ。見かける事すら珍しい。  また、ひょっとしらたシュヴァルに生えているのかも知れないが・・・妙な形の木を編んだ殺傷能力の低い・・というか、無さそうな剣。  他にもキテレツな物があるが、中にはエンピツやナイフなど判る品も持っていた。 「この人・・クリエイターかしら?」 「さあ、それはご本人様が起きない限りは判らないよ。それより、こうやって人一人背負ってるのは流石に目立つし、急ごう」 「・・・そうね」  キテレツな物品を調べて気絶した人を背負っている自分達を遠巻きにジロジロと見る人があちこちに居た。  これ以上の面倒事はゴメンなので、ティールに連れられ急ぎ街の一角に向かう。 「これが私達のギルド。Little Legend」 「ふぅん・・・あのCI新聞社が記事で取り上げたから知ってるけど」  リアとて新聞は読む。というか、CIの自由投稿コーナーの所にクリスの事を尋ねる記事を定期的に送っているため  欠かさず読んでいるのだ。  LLギルドは強者ぞろいの実力派ギルドで、設立自体は最近であるものの噂はその名を広めている 「今、私のメンバーは全員居なくて、二人ほどリックテール側に行ってるんだけど・・・まあ、それは良いか、入って」 「ええ。お邪魔するわ」  ドアを潜り、ギルド内に入れば、そこに二人組みの男女と、  そして、二人のカーディアルトが居た。 「シアぁ~、暇ぁぁ」 「エルナ・・ヴァイ君達が居ないからってそう毎日毎日」  やれやれとため息をつく片方のカーディアルトと、  付き合ってられないと紅茶を飲むパラディンナイトとマージナル。  いや、リアは知っている。あのマージナルは――――エミリア・エルクリオ  弱冠19の若さで精霊宮にたどり着いた若手の実力派マージナルである。  同じ氷牙を主とする者として知らぬ事は無かった。  ・・・とはいえ、逆は然り。という事は無いが。 「お、ティール。後ろのは客か?」 「ティール、帰ってきたのか。疲れたじゃろう。お主もこっちに来ると良い。勿論客人もじゃ」 「相変わらず見たいだね」  えぐえぐと、明らかに嘘泣きしているカーディアルトにわざわざ付き合っているもう一人は軽く困った顔をしながら挨拶。  もちろん嘘泣きしてる方は挨拶をするタイミングは無かったのだろう。 「はじめまして。わたくしはリア・スティレット。高名な支援士の皆様をお目にかかる事が出来て光栄ですわ」 「こんにちわ。私はシア・スノーフレーク。こっちは私の親友のエルナね」 「あ・・ああ、オレはディン。ディン・フレイクレスだ。よろしくな」  シアとエルナ。この二人は良く判らない。というか、スティレットは教会とは疎遠の関係だ。  ただ、シアという女性のほうは純支援タイプのような感じがする。あくまで直感だが。  そして、ディン。彼はその重機動な線の為速さこそティールやもう一人のブレイブマスターに劣りはするが  体力・防御。そして攻撃力に特した壁のポジションを勤める聖騎士。エミリアとは幼馴染の関係に当たる。 「・・・・」  リアはエミリアがエルクリオ商会の娘だとは知っていたが、しかし同じ“お嬢様”としても、路線が違う。  ここいらで言えばプレスコットのお嬢様辺りとリアの路線は似ている。  そのせいか、立ち振る舞いに目を惹かれたのだろう。  そんなディンの足を思いっきり踏みつけ、エミリオは声にならない悲鳴を上げているディンを無視し  リアのほうに顔を向けあいさつをした。 「お初にお目に掛かるの。私はエミリア・エルクリオ。しかし、スティレットと言う事は・・・お主、魔術師じゃな」  流石に鋭い。  決してスティレットもそれなりに名のある貴族家だ。  だが、それでも上流貴族とはまた違い、多くある貴族家の一つ程度にしか見られてはいなかった。  それが没落したとしてもさも珍しい事ではなく、大抵はその場合消え行く名でしかない。  ・・・正直、そうして自らの誇りである歴史ある名が消えることを悔しがっていた・・・悪く言えば、執着していたリアとしては、それを知っていた事が正直嬉しかった。  もちろん、表情に出せるほど素直ではないが 「ハイハイ。自己紹介はその辺にして、空き部屋一つに“荷物”運んでから大切な話をするから」 「了解じゃ」 「お・・おう・・・」   * 「ふむ・・これはシュヴァルに生えておる“竹”を使った模造刀じゃな。しかしこのような造りは珍しいのぅ」 「それに、コイツは・・・機械か?」  “彼”を一室に運んだ後、ティールから説明を受けた一同。  空間の異常や、それに乗じて現れたと思しき青年  それを抱えたリアの滞在について  また、彼を目覚めて方向性が決まるまでギルドに置くこと等。  それらをギルドのメンバーが納得した上で、今は彼の持っていた道具に皆は注目していた。 「これは・・財布か。この事態じゃ、盗るワケでもないのだし、開けても構わんじゃろ」 「エミィ、興味本位も良いが・・・・・何より、人の話を聞け」  呆れるディンに、彼の忠告など一切耳に入れず、目を輝かせ物色を続けるエミリア。  ジャラジャラと財布から金属を出し、その一つを手に取る。 「これは・・・銅か?」  その「10」と書かれた円の物に、エミリアは首を傾げる。 「ひょっとしたら、それが通貨かも知れないね」 「そうじゃな。この“1”と書かれた軽い金属も興味があるのぉ」  「防御力としては薄くなりそうじゃが、ここまでの軽金属なら速度前衛系の護身用程度にはなるのではないか」など等、少し脱線気味になってはいるが  リアは一つ咳払いをしてここのメンバーに自分が今一番しなければいけない事を思い出し告げた。 「皆。聞いて欲しい事があるわ」  そのリアの言葉に全員が顔をあげて話を聞く姿勢を見せる。  それにリアは一つ頷いて、言葉を続けた。 「私は、クリスティ・R・ティサイアという少女を探しているの。愛称はクリス。少しの情報でも良い。誰か知らないかしら?」 「クリスティ・・・クリス・・・すまぬな。聞いたことがないのぉ」 「ああ、オレもエミィに同じだ」  申し訳無さそうに小さく首を振るエミリアと、一つ頷いて答えを返すディン。  ただ、エミリアは何か思い当たったのか、顔を上げて話をした。 「じゃが、R・ティサイア家か・・・ある意味、スティレット家のお主とは因縁の相手じゃ。何故その者を探しておる?そして、探し出してどうするのじゃ?」 「・・・父の遺言よ。ティサイア家に齎した災いはスティレットが償わなければならない。私はティサイア家に仕える為に探さないといけないのよ」 「ふぅむ・・なるほどのぅ」 「ちょっと待てエミィ。ティサイア家とスティレット家の因縁って何なんだ?」  ディンの言葉に、エミィは一つ頷いた。 「これはあまり公に出る話では無いから、知らずとも仕方あるまい。リアよ。話をしても構わぬか?」 「ええ。包み隠さないほうが良いと思うから」 「うむ。そもそも、スティレットとは魔術師の貴族家。教会に仕え聖術を信仰するティサイア家とはライバル関係みたいなものじゃったな」  話は数年前。  カークリノラースという魔物が旅行中のクラウゼヴィッツ家を崩壊させた事から話は始まった。  当時スティレット家はティサイア家に魔術研究の成果として大きな遅れをとっていた。  進歩せぬ自らの魔術研究と、上手く事が進んでいるティサイアへの嫉妬。そういうものが見え隠れしていたと言える。  しかし、何があったのか、スティレットの主・・・リアの父は“クラウゼヴィッツ家の崩壊。カークリノラースを手引きしたのはティサイア家の者だ!”と主張。  そんな主張など妬みの遠吠えで消えると多くの者は信じなかった。  だが、一人のジャッジメントがそのスティレットの言葉の真偽を探ったのだ。  そこで、旅行中のクラウゼヴィッツ家の近くにティサイア家が居た事実が発覚。  そこから、審判を重ね。ティサイア家はその罪を認めた。  ・・・それにより、ティサイアの血筋は、“一族の死は死を以って償うべし”と言うことで、処刑される事が決まった。  だが、ティサイアの夫婦は一人娘の“クリスティ”を処刑日の前日に逃がしたのである。  血眼になって探すパラディンナイトとレンジャーナイト。  そして、三日後にクリスティは南フローナへと向かう船に荷物と紛れ密航していた所発見される。  パラディンナイトとレンジャーナイトがクリスティを処刑しようとする中、フローナの港に声が響いた。 “クラウゼヴィッツ家当主エルンストが告げる!! ティサイア家は我がクラウゼヴィッツ家の崩壊になんら関与はしておらぬ!!  貴殿等に騎士としての心が残っておるならば早々に兵を引け!!”  このエルンスト・フォン・クラウゼヴィッツの登場と発言により、クリスティは保護され、一人の教会関係者に連れて行かれたという。  本来ならばエルンストはティサイア家が処刑崩壊をする前に駆けつけたかった。  だが、混乱したクラウゼヴィッツ家の耳に、この事件が入るには余りに遅く  無き時間の中、一人娘のクリスティを救えた事が奇跡だといえた。  しかし、これによりもう一つの事件が起きる。それは、スティレット家への責任問題である。  冤罪とはいえ、その冤罪で一族を殺してしまったのである。  事件の際には我関せずと傍観していたが、ティサイアと友好を持っていた貴族家達が責任の追求をしてきたのだ。  もちろん、スティレット家を潰す為である。  その結果。誤審を行ったジャッジメント。及びスティレットの両親が裁かれる事となった。  以後。クリスティは消息を絶つ。  スティレットは娘“リア”に、遺言を残し、この世を去った。 「・・・という話じゃ」 「教会の人間でも一部の方しか知らない事件だと思います。他に知ってる人は、エルンストさん本人と付き人のカテリーナさん。  他にも、教会で規制しきれない貴族の方々の噂話として流れる程度でしょうか」 「うむ。私も初めてこの話を聞いた時は耳を疑ったのぅ・・・さぞ辛かろう。出来る限り協力はしよう」  しかし、生きてその事実を証明している少女、リアが目の前に居る。  エミリアは一つ頷いてリアを慰め、エルナとシアのほうを見た。 「ティサイアは教会関係の貴族家じゃったな。エルナやシアは何か聞いてはおらぬか?」 「・・・んー、センセーはちょっと判んないかなぁ」  いつものように本気なのかとぼけているのか良く判らない口調でエルナはエミリアの問いに答える。  そのエルナの答えを聞いたシアは一つ頷いて、リアに向かい申し訳無さそうに答えた。 「申し訳ございません・・・エルナが知らないという事は、私も知りませんね」 「ふむ」  そうエミリアは声を上げ、ティールのほうを見る。  ティールも壁に背をあずけながらも小さく首を振った。その態度はハズレだろう 「全員知らぬようじゃ・・・まあ、気を落とすでない。諦めずに探せばその内会えるじゃろうて」 「・・・ええ。そうね」  正直、期待していなかったと言えば嘘になる。  だけども、今まで見つけられなかったものをそう簡単に見つけられるか。と言えば答えはノーだろう。 「それに、ある意味行動範囲の広いあいつ等の方が何か知っておるかも知れぬしのぅ」 「そうだな。まあ、また聞いてみるのも良いだろう」 「あいつ等?」  リアの問いに、エルナがその名前を出す。 「ヴァイとりーりん。今、北側に居るLLメンバーよん」 「ヴァイ・・」  ヴァイといえば、酒場のマスターからごく最近名前を聞いた。  嘗て、依頼を選り好みしていたという今はAランク支援士の“冥氷剣”のヴァイ。  また、りーりんとは一時期聖女(アルティア)と騒がれていたリスティの事だろう。 (・・・良い話が聞ければ良いのだけど)  ちいさく首を振り、息をつくリアに対し、エミリアはふと思いついた事を口に出した。 「そうじゃリア。お主、空き時間に魔術を習ってはみぬか?」 「魔術を習うって・・・?」 「見たところお主も私と同じ氷系の気配を纏っておる。  もちろん、仕事と、そのクリスを探す合間。空き時間で構わぬ。損な話では無いと思うがのぅ」  それは確かに在り難い申し出だとは思う。だが、  リアは急にそんな事を言い出すエミリアの意図が判らなかった。  ・・・だが、その答えは隣で耳打ちをしたディンより解明する。 「あいつ。面倒見が良いっていうか好きっていうかな。弟子っぽいのが欲しいんだろ。  同じ氷魔術師。これ以上無いくらいに教えがいのあるお前に自分の魔法を教えたいんだよ。  良けりゃ付き合ってやってくれないか」 「これディン。聞こえておるぞ・・・まあ、否定はせぬがな」  なるほど。とリアは思った。  ならば別に考える必要も無い事だ。 「ええ。こちらからお願いしたいくらいだわ」   * (だめだ・・眠い・・・今回ここまでorz)
「これは・・・!!」  漆黒の森の中  玉響(たまゆら)の光輝きしその空間  そこで、一人の少女が驚愕の声を上げる 「まさか・・・もしかして、コレが狙いなのか・・?」  独り呟くと、少女は玉響に手を伸ばし、“ソレ”を受け取る。  そこには、自らと同じ位の歳をした女の子。  確かに、“依頼の条件通り”の少女であった。 「おい! さっきの光は何だ!!」 「・・!!」  振り向けば、そこには支援士の男が三人。  玉響より現れた女の子を目に留めるなり、一人が叫んだ 「居たぞ!!フィークベルだ!!」 「まさか次元空間にその身を隠していたとは・・・!!」 (!? この娘が何だと言うんだ?)  にじり寄る支援士。その目には“手柄は自分の物だ”と描かれている  少女は、その女の子を抱え駆け出した。  アレはマズイ。アレに渡すのはダメだ。 「逃げたぞ!!」 「追うんだ!!」  駆け出す支援士達。  人影は、暗闇の森に溶けた。    * 「やれやれ・・ようやく久しぶりの首都ね」  はぁ。とため息をついて、リアは小さく首を振った。  友人にも久々に会いたい。が、それより先にする事は山ほどあった。 「この男の子を運べば良いんだね?」 「ええ・・それより大丈夫?」  モレクで会った支援士の少女ティールは背に昏睡する男を担ぎ  そしてリアはその男の荷物を持った。 「名前は・・これ、十六夜方面の文字かしら」 「学生証“宮守誠司”・・・ね。どういった代物かは良く判らないけれど、この宮守誠司が名前なのは違いないかな」  他にも、男の周りに落ちていた物はキテレツな物ばかりだった。  折りたたみ式の1~9、0と数字が並んだ小さな機械・・・機械など、グランドブレイカーの下層の方の物だ。見かける事すら珍しい。  また、ひょっとしらたシュヴァルに生えているのかも知れないが・・・妙な形の木を編んだ殺傷能力の低い・・というか、無さそうな剣。  他にもキテレツな物があるが、中にはエンピツやナイフなど判る品も持っていた。 「この人・・クリエイターかしら?」 「さあ、それはご本人様が起きない限りは判らないよ。それより、こうやって人一人背負ってるのは流石に目立つし、急ごう」 「・・・そうね」  キテレツな物品を調べて気絶した人を背負っている自分達を遠巻きにジロジロと見る人があちこちに居た。  これ以上の面倒事はゴメンなので、ティールに連れられ急ぎ街の一角に向かう。 「これが私達のギルド。Little Legend」 「ふぅん・・・あのCI新聞社が記事で取り上げたから知ってるけど」  リアとて新聞は読む。というか、CIの自由投稿コーナーの所にクリスの事を尋ねる記事を定期的に送っているため  欠かさず読んでいるのだ。  LLギルドは強者ぞろいの実力派ギルドで、設立自体は最近であるものの噂はその名を広めている 「今、私のメンバーは全員居なくて、二人ほどリックテール側に行ってるんだけど・・・まあ、それは良いか、入って」 「ええ。お邪魔するわ」  ドアを潜り、ギルド内に入れば、そこに二人組みの男女と、  そして、二人のカーディアルトが居た。 「シアぁ~、暇ぁぁ」 「エルナ・・ヴァイ君達が居ないからってそう毎日毎日」  やれやれとため息をつく片方のカーディアルトと、  付き合ってられないと紅茶を飲むパラディンナイトとマージナル。  いや、リアは知っている。あのマージナルは――――エミリア・エルクリオ  弱冠19の若さで精霊宮にたどり着いた若手の実力派マージナルである。  同じ氷牙を主とする者として知らぬ事は無かった。  ・・・とはいえ、逆は然り。という事は無いが。 「お、ティール。後ろのは客か?」 「ティール、帰ってきたのか。疲れたじゃろう。お主もこっちに来ると良い。勿論客人もじゃ」 「相変わらず見たいだね」  えぐえぐと、明らかに嘘泣きしているカーディアルトにわざわざ付き合っているもう一人は軽く困った顔をしながら挨拶。  もちろん嘘泣きしてる方は挨拶をするタイミングは無かったのだろう。 「はじめまして。わたくしはリア・スティレット。高名な支援士の皆様をお目にかかる事が出来て光栄ですわ」 「こんにちわ。私はシア・スノーフレーク。こっちは私の親友のエルナね」 「あ・・ああ、オレはディン。ディン・フレイクレスだ。よろしくな」  シアとエルナ。この二人は良く判らない。というか、スティレットは教会とは疎遠の関係だ。  ただ、シアという女性のほうは純支援タイプのような感じがする。あくまで直感だが。  そして、ディン。彼はその重機動な線の為速さこそティールやもう一人のブレイブマスターに劣りはするが  体力・防御。そして攻撃力に特した壁のポジションを勤める聖騎士。エミリアとは幼馴染の関係に当たる。 「・・・・」  リアはエミリアがエルクリオ商会の娘だとは知っていたが、しかし同じ“お嬢様”としても、路線が違う。  ここいらで言えばプレスコットのお嬢様辺りとリアの路線は似ている。  そのせいか、立ち振る舞いに目を惹かれたのだろう。  そんなディンの足を思いっきり踏みつけ、エミリオは声にならない悲鳴を上げているディンを無視し  リアのほうに顔を向けあいさつをした。 「お初にお目に掛かるの。私はエミリア・エルクリオ。しかし、スティレットと言う事は・・・お主、魔術師じゃな」  流石に鋭い。  決してスティレットもそれなりに名のある貴族家だ。  だが、それでも上流貴族とはまた違い、多くある貴族家の一つ程度にしか見られてはいなかった。  それが没落したとしてもさも珍しい事ではなく、大抵はその場合消え行く名でしかない。  ・・・正直、そうして自らの誇りである歴史ある名が消えることを悔しがっていた・・・悪く言えば、執着していたリアとしては、それを知っていた事が正直嬉しかった。  もちろん、表情に出せるほど素直ではないが 「ハイハイ。自己紹介はその辺にして、空き部屋一つに“荷物”運んでから大切な話をするから」 「了解じゃ」 「お・・おう・・・」   * 「ふむ・・これはシュヴァルに生えておる“竹”を使った模造刀じゃな。しかしこのような造りは珍しいのぅ」 「それに、コイツは・・・機械か?」  “彼”を一室に運んだ後、ティールから説明を受けた一同。  空間の異常や、それに乗じて現れたと思しき青年  それを抱えたリアの滞在について  また、彼を目覚めて方向性が決まるまでギルドに置くこと等。  それらをギルドのメンバーが納得した上で、今は彼の持っていた道具に皆は注目していた。 「これは・・財布か。この事態じゃ、盗るワケでもないのだし、開けても構わんじゃろ」 「エミィ、興味本位も良いが・・・・・何より、人の話を聞け」  呆れるディンに、彼の忠告など一切耳に入れず、目を輝かせ物色を続けるエミリア。  ジャラジャラと財布から金属を出し、その一つを手に取る。 「これは・・・銅か?」  その「10」と書かれた円の物に、エミリアは首を傾げる。 「ひょっとしたら、それが通貨かも知れないね」 「そうじゃな。この“1”と書かれた軽い金属も興味があるのぉ」  「防御力としては薄くなりそうじゃが、ここまでの軽金属なら速度前衛系の護身用程度にはなるのではないか」など等、少し脱線気味になってはいるが  リアは一つ咳払いをしてここのメンバーに自分が今一番しなければいけない事を思い出し告げた。 「皆。聞いて欲しい事があるわ」  そのリアの言葉に全員が顔をあげて話を聞く姿勢を見せる。  それにリアは一つ頷いて、言葉を続けた。 「私は、クリスティ・R・ティサイアという少女を探しているの。愛称はクリス。少しの情報でも良い。誰か知らないかしら?」 「クリスティ・・・クリス・・・すまぬな。聞いたことがないのぉ」 「ああ、オレもエミィに同じだ」  申し訳無さそうに小さく首を振るエミリアと、一つ頷いて答えを返すディン。  ただ、エミリアは何か思い当たったのか、顔を上げて話をした。 「じゃが、R・ティサイア家か・・・ある意味、スティレット家のお主とは因縁の相手じゃ。何故その者を探しておる?そして、探し出してどうするのじゃ?」 「・・・父の遺言よ。ティサイア家に齎した災いはスティレットが償わなければならない。私はティサイア家に仕える為に探さないといけないのよ」 「ふぅむ・・なるほどのぅ」 「ちょっと待てエミィ。ティサイア家とスティレット家の因縁って何なんだ?」  ディンの言葉に、エミィは一つ頷いた。 「これはあまり公に出る話では無いから、知らずとも仕方あるまい。リアよ。話をしても構わぬか?」 「ええ。包み隠さないほうが良いと思うから」 「うむ。そもそも、スティレットとは魔術師の貴族家。教会に仕え聖術を信仰するティサイア家とはライバル関係みたいなものじゃったな」  話は数年前。  カークリノラースという魔物が旅行中のクラウゼヴィッツ家を崩壊させた事から話は始まった。  当時スティレット家はティサイア家に魔術研究の成果として大きな遅れをとっていた。  進歩せぬ自らの魔術研究と、上手く事が進んでいるティサイアへの嫉妬。そういうものが見え隠れしていたと言える。  しかし、何があったのか、スティレットの主・・・リアの父はいきなり、“クラウゼヴィッツ家の崩壊。カークリノラースを手引きしたのはティサイア家の者だ!”と主張。  そんな主張など妬みの遠吠えで消えると多くの者は信じなかった。  だが、一人のジャッジメントがそのスティレットの言葉の真偽を探ったのだ。  そこで、旅行中のクラウゼヴィッツ家の近くにティサイア家が居た事実が発覚。  そこから、審判を重ね。ティサイア家はその罪を認めた。  後に知ることになるが、このジャッジメントはティサイア家に暴行を行い、“罪を認めなければ、娘の命は無いと思え”等、脅しをした事が判明する。  だが、それを知るのはもっと後の話。  ・・・その事により、ティサイアの血筋は、“一族の死は死を以って償うべし”と言うことで、処刑される事が決まった。  だが、ティサイアの夫婦は処刑日の前夜。一人娘の“クリスティ”を逃がしたのである。  血眼になって探すパラディンナイトとレンジャーナイト。  そして、三日後にクリスティは南フローナへと向かう船に荷物と紛れ密航していた所発見される。  パラディンナイトとレンジャーナイトがクリスティを斬ろうとする中、フローナの港に声が響いた。 “クラウゼヴィッツ家当主エルンストが告げる!! ティサイア家は我がクラウゼヴィッツ家の崩壊になんら関与はしておらぬ!!  貴殿等に騎士としての心が残っておるならば早々に兵を引け!!”  この、カークリノラースの事件の中心人物。エルンスト・フォン・クラウゼヴィッツの登場と発言により、  兵は引き、クリスティは教会に保護されるよう、ある一人の教会関係者に連れて行かれたという。  本来ならばエルンストはティサイア家が処刑崩壊をする前に駆けつけたかった。  だが、混乱したクラウゼヴィッツ家の耳に、この事件が入るには余りに遅く  無き時間の中、一人娘のクリスティを救えた事だけでも奇跡だといえた。  しかし、これによりもう一つの事件が起きる。それは、スティレット家への責任問題である。  冤罪とはいえ、その冤罪で一族を殺してしまったのである。  事件の際には我関せずと傍観していたが、ティサイアと友好を持っていた貴族家達が責任の追求をしてきたのだ。  もちろん、スティレット家を潰す為である。  その結果。不当な行いが判明し、ティサイア家を死に追いやったジャッジメント。及びスティレットの両親が“目には目を”と、裁かれる事となった。  以後。クリスティは消息を絶つ。  スティレットは娘“リア”に、遺言を残し、この世を去った。 「・・・という話じゃ」 「教会の人間でも一部の方しか知らない事件だと思います。他に知ってる人は、エルンストさん本人と付き人のカテリーナさん。  あとは、教会で規制しきれない貴族の方々の噂話として流れる程度でしょうか」 「うむ。私も初めてこの話を聞いた時は耳を疑ったのぅ・・・さぞ辛かろう。出来る限り協力はしよう」  しかし、生きてその事実を証明している少女、リアが目の前に居る。  エミリアは一つ頷いてリアを慰め、エルナとシアのほうを見た。 「ティサイアは教会関係の貴族家じゃったな。エルナやシアは何か聞いてはおらぬか?」 「・・・んー、センセーはちょっと判んないかなぁ」  いつものように本気なのかとぼけているのか良く判らない口調でエルナはエミリアの問いに答える。  そのエルナの答えを聞いたシアは一つ頷いて、リアに向かい申し訳無さそうに答えた。 「申し訳ございません・・・エルナが知らないという事は、私も知りませんね」 「ふむ」  そうエミリアは声を上げ、ティールのほうを見る。  ティールも壁に背をあずけながらも小さく首を振った。その態度はハズレだろう 「全員知らぬようじゃ・・・まあ、気を落とすでない。諦めずに探せばその内会えるじゃろうて」 「・・・ええ。そうね」  正直、期待していなかったと言えば嘘になる。  だけども、今まで見つけられなかったものをそう簡単に見つけられるか。と言えば答えはノーだろう。 「それに、ある意味行動範囲の広いあいつ等の方が何か知っておるかも知れぬしのぅ」 「そうだな。まあ、また聞いてみるのも良いだろう」 「あいつ等?」  リアの問いに、エルナがその名前を出す。 「ヴァイとりーりん。今、北側に居るLLメンバーよん」 「ヴァイ・・」  ヴァイといえば、酒場のマスターからごく最近名前を聞いた。  嘗て、依頼を選り好みしていたという・・・今は、Aランク支援士の“冥氷剣”のヴァイ。  また、りーりんとは一時期聖女(アルティア)と騒がれていたリスティの事だろう。 (・・・良い話が聞ければ良いのだけど)  ちいさく首を振り、息をつくリアに対し、エミリアはふと思いついた事を口に出した。 「そうじゃリア。お主、空き時間に魔術を習ってはみぬか?」 「魔術を習うって・・・?」 「見たところお主も私と同じ氷系の気配を纏っておる。  もちろん、仕事と、そのクリスを探す合間。空き時間で構わぬ。損な話では無いと思うがのぅ」  それは確かに在り難い申し出だとは思う。だが、  リアは急にそんな事を言い出すエミリアの意図が判らなかった。  ・・・だが、その答えは隣で耳打ちをしたディンより解明する。 「あいつ。面倒見が良いっていうか好きっていうかな。弟子っぽいのが欲しいんだろ。  同じ氷魔術師。これ以上無いくらいに教えがいのあるお前に自分の魔法を教えたいんだよ。  良けりゃ付き合ってやってくれないか」 「これディン。聞こえておるぞ・・・まあ、否定はせぬがな」  なるほど。とリアは思った。  ならば別に考える必要も無い事だ。 「ええ。こちらからお願いしたいくらいだわ」   * 「だーかーら!! 何度も言っておるじゃろう!! その余計な一節を入れる癖はどうにかならんのか!」  昼下がりのLLギルド内で、珍しく荒げた声をエミリアは響かせる。  『魔術を習う』を、早速実行しているのだ。  だが、そのエミリアに対し、リアは眉をひそめて反論する。 「ですから、何度も言ってるように。これが私のやり方なのよ!!」 「じゃがな。お主のその一節は仲間に負担を与えるのじゃ。時間を掛けて放つ大魔法にその一節を挟む癖が出るのは、余り良い事ではないが、大きくは響くまい。  でも、牽制や援護。補助を行う即席の魔法では、如何に短い時間で印を結ぶかが重要となる。お主の一節はこの限りでは余計な行動でしかない」 「だけど・・・!!」  口論の中に入っているのは、“無駄な一節”であった。  リアの魔法の癖には、必要となる呪文に、“とある一節”が、余計に含まれるのである。 「リアよ。お主、即席で呪文を練らねばならぬ時にそれで苦労をしなかったかの?  例えば、強い敵から逃げる為の行動を取らなければならない時に、それではお主は逃げる事が出来ない」 「・・・っ!!」  エミリアの言葉は的を射ていた。  空間異常のあった時。何故か十六夜の白熊が現れ、  それから“逃げる”事が出来ず、戦う事になった出来事。  それでも、  その“一節”は、リアの意地だった。  押し黙ったリアに、エミリアは溜め息をつく 「仕方が無いのぅ・・・一時間ほど休憩じゃ。その間に私はちょっと出かけてくるぞ」  エミリアはリアを尻目に、そう告げて部屋を後にする。 (・・・・やはり、実戦で判らせるしか無いのぅ)  そう考えて立ち去るエミリアと、一方のリアは、  悔しさに壁を殴った。  手に痛みが響く。 (・・・そんな事くらい、私にだって判っているわよ・・・!!) 「わーぉ。びっくりー」 「え!?」  エミリアが立ち去った後だというに、違う女性の声が聞こえた。  それは、先程居た教会のシスター二人の内の一人。長く綺麗な青い髪をした、ちょっとフザケタ感がある女性。  たしか、シスターシアが“エルナ”と紹介していたハズだ  そのエルナが、リアにふわりと笑いかけ、近づいて手に“ラリラ”を唱える。 「あ・・」 「衝動的になるのも良いけど、若い女の子がする行動じゃ無いわよ~?」  じんわりとした痛みが、暖かい柔らかさに包まれ、溶けていく。  ちょっと熱くなった自分の行動に反省し、リアはそっぽを向いて呟いた。 「あ、あの・・・あ、あり・・・」 「ふふっ。“ありがとう”って、スラリと言えるようになんないとネ♪」 「ぅ・・・」  そのリアを、エルナは軽く抱きしめ、  ゆっくりと、言い聞かせるように告げた。 「ま、上手く行かない時もあるわよ。人生山谷なんだしね。エミィちゃんの言い分も尤もだとは思うけど、配慮がちょっと不足してるわよね。  結局は、一番良い終わり方するのって、自分がどうしたいか。後悔しないか。それには、自分が一番したい事をするのが良いとセンセーは思うわけよ」 「は、はぁ・・・?」  それを語って満足したのか、エルナはリアから離れ、「頑張って。じゃあねん♪」と、  カーディアルトらしからぬ振る舞いで去って行った。 (・・・自分が、一番したい事・・・)  エミリアが帰ってくるまでの間。  リアは、その事を見つめ。考えていた。  * 「・・・・でだ。一体なぜこういう状況になっているのか三文字で説明して頂きたいのだが」  一人の男が、ビキビキと強張った笑顔を少女に向けながら言葉を発す。  ・・・笑顔。とは文字通り笑った顔の事だろう。だが、その男の“笑顔”のベクトルは大きく傾いていた。 「ええっとですね・・・鬼の角採取がご不満だったようなので・・何か他に依頼が無いかと酒場に行ったら、丁度良く依頼を受けられまして・・・」 「ほぉ・・そうかそうか。それは何よりだ。うん、素晴らしいな。だが欲を言えば三文字で纏められてないな」  一方、少女の方はその男の笑顔に顔を強張らせ言葉を言う。  その緊張のせいか、少女の頭に立っている毛が、激しくピコピコと上下している。  それに男性はかなり無茶苦茶ではあるが、自らの意見を口にした。 「だけどお前。こんなオレまで拘束するような依頼を受けて来るんじゃねええええええええええええええええ!!!!!」 「ぴゃー!!(涙) ご、ごめんなさいー!!」 「がおー、、」  怒鳴る男に、少女は条件反射ばりに謝り  その近くに居た少女は困った風に変な声を上げた。  ・・・というか、怒号の混乱だったとは言え、依頼の掛け持ちは本来支援士は出来ないハズだが・・・  マスターの混乱も伺える話である。 「まあ良い。これでフローナで船を乗り過ごして一泊する羽目になるなら、野宿だからな。もちろん飯も無しだ」 「そ、そんな殺生な!」 「が、がおー;;」  その漫才(?)に、ついに耐え切れなくなったか、 「あー、、そろそろ良いかのぅ」  かなり置いてけぼりになった依頼主のエミリアは、呆れた感じに声を掛けた。 「あー。すまねぇな。依頼受けた以上はやらねぇとな。で、内容はどんなモンなんだ?」 「あらら。ライト、理解してませんでしたか?」  得意気に言う少女に、男・・ライトは、睨むと、少女は口をつぐんだ。  そのやり取りに遠い目をしながら、エミリアは依頼の内容を告げる。 「依頼は、魔法訓練じゃ。ぶっちゃけ言うと、とある少女と魔法で戦って欲しい」 「魔法対魔法か? 確かに撃破なら非効率的だが、訓練となれば一番効率が良いだろうな」 「と、言う事は私の出番ですか?」 「うむ。そっちの子・・ええと、」 「あ、ティラと言います」 「うむ。ティラ、お主に頼むこととなる」  その話の流れに、ライトはギモンになった。 「オイ。ティラ。お前だけで良いならオレ不要じゃないのか?」 「う・・だって、私だけだと何だか不安じゃないですか・・・」  そのティラの言う『不安』も、裏を返せばライトが居る事で安心して依頼を行えるという意味だろうが、  ライトはその『不安』を納得した感じで受け止め、 「なるほど・・・確かにお前一人だと依頼主に失礼を働く怖さがどこかにあるな・・・」 「はぅ;」 「しかし、ティラのお相手は誰なんだ? まさか、Aランク支援士、 氷昌の冠“エミリア・エルクリオ”。あんたが相手じゃないだろう?  そんなの、勝負の結果は火を見るより明らかだぞ」 「そ、それはちょっと酷い・・・;」  ライトの言葉にエミリアは首をふり、答えた。 「いや違う。もうそろそろこっちに来ると思うのじゃが・・・」 「・・・・来たわよ」  初見では、尊敬する魔術師として友好的な感であったが、  口論からリアが反発を見せ、少し刺々しさも出ている。 「来たか。紹介しよう。ティラ、お主と模擬戦をして欲しい相手であるリアじゃ」 「あ。よろしくお願いしますね」 「ええ。こちらこそ」  ティラはあくまで友好的な感じで。  リアは貴族の癖が抜けないのか、少し高圧的な言葉遣いだが、それでも友好の意思である。 「さてと。説明するが、細かい規定は無しじゃ。ただ、模擬戦じゃから、下手に殺すようなマネはせず、手加減をしてくれ。  先に白旗をあげた方が負け。後は・・・そうじゃな。もしどちらも白旗を揚げず、終了をするなら、ライト。おぬしが模擬戦を止めてくれぬかの?」 「良いのか?」 (・・・・結果は明らかじゃろうがな)  ライトにしか聞こえないように、エミリアはそっと呟いた。  その言葉に少しライトはきょとんとしたが、一つ頷いた。 「それでは、始めじゃ!!」 * 「じゃ、マキちゃん。張り切って行こうね!」 『OK.マスター。<アタックモード>、いつでも移行出来ます』  最初にバッと、ティラが左に走りながら印を作る。  魔術師同士。という戦いは正直あまり行わない。  それは、対魔術師となれば、効率の良い戦いが出来るのはライトの方であるからだ。  だが、それはリアとて同じである。いや、リアはソロで旅を行っている分、多少の経験はあるかも知れない。   それでも、対魔術師という不毛な戦いは極力行っていないのには代わりは無いだろう。  ただ言える事は、  魔術師の戦い方は、距離を詰めずに魔法を放つ事。  ティラとてBランク支援士。その基本的な動きを外す程、愚かではない。  一方、それはリアとて同じである。  なるべく魔法の軌道を逸らす。標準させない動きをして、こちらの攻撃を当てる。  お互いが動きながら・・・先に印を結んだのは、ティラだった。 「いくよ! ウォーティランス!!」 『魔法レベル軽。直ぐにでも発動出来ます』  その僅か一秒後。回避したリアが魔法を放つ。 「くっ・・コールドビット!!」 「わわっ・・!!」  やはり、リアの取った戦法は『足止め』である。  水魔法には自らを防御する系統の魔術が多いが、これは自分が動きまくっている以上手厳しい。  ガードを上げる為に自らの直ぐ傍に置き、移動するタイプは、過信すればその直後ろにある自らの身体を護る術は無いと言って良い。  そんな自らを護る魔法がある。  逆に、氷魔法はリアの使ったコールドビットのように、敵を阻害する魔法もある。  上位魔法となれば、氷壁を作り敵の動きを誘導させ、魔法を打ち込む術もあるが、リアではまだ無理だ。 「芸が無いって言われたらそれまでだけど・・・まだまだ! ウォーティランス!!」  ティラは再び軽めのウォーティランス。  そもそも、大魔法(及び中魔法)は、移動しながら印を結ぶ芸当は難しい。  この戦いは“動きながら”が前提になる以上。小魔法が要求される。  ・・・・・・・・そう、エミリアは判っていた。 『でも、牽制や援護。補助を行う即席の魔法では、如何に短い時間で印を結ぶかが重要となる。お主の一節はこの限りでは余計な行動でしかない』 『お主、即席で呪文を練らねばならぬ時にそれで苦労をしなかったかの?  例えば、強い敵から逃げる為の行動を取らなければならない時に、それではお主は逃げる事が出来ない』  開始はお互い引けを取らない戦いぶりだった。  だが、徐々にリアは追い詰められる。 「ウォーティランス!!」 「くぅっ・・!!」  放たれた水矛を転がるように回避し、リアは崩れた印を再構築し直す。  しかし、そこの間に影が入る。  だが、その暇も無く次のウォーティランスが発動される。 「そこまで・・ぐはっ!!」 「あ」  ティラのウォーティランスが、ライトに直撃し、彼が地に伏す。  苦しみながら、ライトは恨み言のように潰れた声でティラに言った。 「ティラさんよぉ・・・・オレは、“そこまで”と言ったよな? 確かに、言ったよな?」 「う・・今のは、間が悪かったというか何と言うか」 「・・・・飯抜きだな」  ガーン。という効果音を背後に固まるティラを尻目に、  エミリアから渡されたポーションを飲み、首を鳴らした。 「どうして止めたのよ・・・! 私、まだ戦える・・!!」 「そうか。だが、オレの見込みじゃ持ってあと5分だったな」  走り回って体力が底を尽きたのか、肩で息をするリアに、ライトは言った。  その言葉に同意するように、エミリアも頷く。 「リア。お主とティラの詠唱速度に関してはほぼ一緒じゃと言って良いじゃろう。  この敗因。これで、お主も判ったじゃろう? これが実戦なら、ライトの言うようにお主は五分後に死んでいたじゃろうな」 「っ・・・!」  エミリアは、俯くリアの元を離れ、ライトに向かい告げる。 「ご苦労じゃったの。報酬は既にマスターに預けておる。その足でフローナに向かうと良いじゃろう」 「ああ。サンキュー♪ 金無しだが、また今度はこっちが依頼する番かもしれねーな」 「ふふっ。期待しておるぞ」  そうして、この場を後にするライトと、少し困ったようにリアを見た後、  一つ頭を下げてティラが去る。  それを確認したエミリアは、リアに振り返り、言った。  ・・・強情さに少し腹が立ったのもあっただろう。その、“言ってはいけない言葉”を、 「まだ判らぬとは言わせぬ。これで証明されたじゃろう。お主のその癖・・・“無駄な”一節を含ませている事が」 「なっ・・・んですって・・・!!!」  そのエミリアの言葉にリアは憤り、怒りに任せて言葉を続ける。 「冗談じゃないわよ!! 無駄? 代々スティレットに伝わり、お父様がその改良にその人生を費やした術式が無駄!?  私は・・!! スティレットの人間なのよ!! それが、自分の術式を否定するなんて出来るワケないでしょう!!  貴女のような数年程度でオリジナルの術式を組んだモノとは違うの!! この術式には、スティレットの歴史が含まれているのよ!!」 「な・・なんじゃと!!」  リアの言葉に、エミリアも黙る事は出来なかった。  それは、やはり自らの術式を否定された事。  この“詠唱破棄”を費やした術式は、エミリアのマージナルたる“全て”と言っても過言では無いだろう。  だからこそ、リアの言葉に黙っている事は出来なかった。 「ならば勝手にするがよい!! もうお主のような魔術師の面倒は見ぬ!!  そのお家の拘りを貫くと良いわ!!」  その言葉に、エミリアはてっきり口論が帰ってくると思っていた。  だが、直後に「しまった」と冷静さを取り戻す。 「っ・・・うるさいっ・・・ばかぁ・・・!!!」 「あ・・・・」  だが、涙を流したまま、リアはその場を立ち去ってしまう。  エミリアは、頭を抱えた。 (馬鹿か・・・私は。最初にリアの術式を否定したのは私だというに・・・  しかし・・・あの一節が、スティレットの歴史? 一体、どういう・・・・?)  そう。リアの癖であった一節は、エミリアにとってはどう考えても“無駄”以外の言葉は無かった。  その答えを模索するエミリアの背後から、足音が聞こえる。 「彼女。その一節に拘りがあるみたいだね」 「ティール・・・」 「でも、良いじゃない。それが彼女の拘りなら、毎回術式に入ったって」  遠くを眺め、ティールはエミリアに語る。  差し出されたのはハンカチ。  ようやくエミリアは気付いた。自分も、また泣いていた。 「しかし・・・リアは、良い能力を秘めておる。まだまだ未熟じゃが、伸ばせば良い魔術師になる。  それが、こんな初歩の所でつまづくのは勿体無いんじゃ・・・」  ティールから受け取ったハンカチで涙を拭い、エミリアは語った。  でも、ティールはゆっくりと首を振ってエミリアの言葉を、やさしく否定する。 「エミィ。貴女は一人で戦っているワケじゃないでしょう?」 「何を・・・魔術師が一人で戦うのは、出来れば避けるべき事じゃ」 「だったら良いじゃない。そんな一節くらいサポートすれば。それとも、その一節をどうしても削らなければいけないくらい、エミィにとって私達は頼りない?」 「あ・・・・・」  そう。そんな事は無い。  いつだってそうだ。足りないところは、仲間どうしで補い合って来た。  自分に弟子が出来たことに浮かれ、自分の術式をリアに押し付けすぎた・・・・これが、反省点。  リアはリアで、スティレットという魔術家の術式を持っている。それに弱点があるなら  それを補ってあげるのも、先輩である自分の役目じゃないか。と 「それに・・・あの術式は『魂』を呼応させてるから、その本質は同じ『魂』の能力を持ってる私くらいしか気付けなかったかもしれないけど」 「え?」 「魂を呼応させる事でよりメンタルを純化し、同じ詠唱時間でもその威力は二倍にも三倍にも膨れ上がる。それが、『スティレットの術式』の正体。  ねえ、エミリア。これは、決して無駄な一節だとは言えないでしょう?」 「はは、、ははは・・・なるほどのぅ。それは、無駄とは言えぬな」  そう。リアの癖であった無駄な一節。  これは、例えるなら同じファイアーボールでも、一節分長くするだけで、その純化レベルに応じて威力を増す事が出来る。  詠唱速度が他よりも劣るが、その威力を高める事が出来る。  これが、もしも小魔法ではなく、大魔法で考えるならば・・・ 「あの子は、きっと大きくなる」 「そうじゃな・・」  よっと。と、エミリアは立ち上がり、前に歩いた。  ティールの方に振り返り、照れたように笑う 「ティール。みっともない所を見せてしまった。すまぬ・・・それと、ありがとう」 「うん。だったら、リアを迎えに行ってあげて。今晩は私とディンで料理作るから」 「うむ。行ってくる」 *  リエステールの外れにある公園。  そこで、一人ベンチに座るリアを、ようやくエミリアは見つけ出した。 「リア・・・」 「あ・・」  まだ、涙を流していたのか、  エミリアが声を掛けた事でようやく気付いたか、手で涙を拭い、そっぽを向く。 「い、今更、何をしにきたのかしら?」  リアとて、こんな事を言いたいワケではないが、  自分のプライドが出て、後悔する・・・いつもの事である。 「リア・・すまなかった。私は、浮かれてておぬしの事を考慮できなかったようじゃ・・」 「え・・」 「無駄と言って悪かった。お主の“スティレットの術式”の仕組み。ようやく理解出来たのじゃ  都合の良い事だとは思うが、、許して欲しい」  エミリアは頭を下げ、リアに謝る。  その事で、リアはハッとなった。  そう。ここで貴族だのプライドだの言っている時ではない。  今素直にならなければ、エミリアはその傷を背負うことになる。  まして、その事に後悔するのは、他ならぬリア自身である。  言い慣れない言葉。リアは、ゆっくりと口にした。 「あの・・わたしの方こそ・・・あの・・・貴女の術式・・・貶して・・・ごめ、、ごめんなさい・・・」 「リア・・・」  また、ボロボロと涙を零し始めたリアをエミリアは抱きしめ、  一つ、ここに来るまでに考えていたことを口にした。 「良いんじゃよ。おぬしの言うように、私の術式はまだまだ未熟じゃ。  ところで、どうじゃ? お主のスティレットの術式は一節で魂を呼応させ、メンタルを純化させる事で魔術の威力を上げる。  一方、私の術式は詠唱をどこまでも破棄する事に追及したモノじゃ。  ・・・・とても簡単に行く研究とは思えんが、二つの良いトコ取りが出来る術式を、私と、お主で研究してみぬか?」 「あ・・・・」 「面倒を見ぬ。などという言葉は撤回する。お願いじゃ・・・もう一度、私の所に戻ってきてくれぬか・・・?」  そのエミリアの言葉に、リアは一つ頷いて。  そして、はにかむように、お互い笑い合い  LLギルドへと、二人揃って向かっていった。 +ルナータ+ 「じゃあ、ここで一度お別れだな」 「はい。私のほうは大丈夫です。ヴァイさん・・・よろしくお願いしますね」  船で、四人が向かい合い、話し合っている。  内二人はリスティとヴァイ。そして一人は、 「誠にかたじけない。こちらも時間差で後を追います故、」 「堅苦しいのは無しだ。それに、これはAランク支援士として、オレ達の依頼でもある」  天宮智香。だが、もう一人は目深にローブを被り、顔を隠している。 「しかし、リスティ。本当に南に行く術があるのか? 『お前が南に居る以上。お前が北から南に行くのは』、不審がられる可能性もあるぞ」 「大丈夫です。わたしには切り札がありますから」  えへへ・・と、苦笑いするリスティに、ヴァイは「なら良いが・・」と小さく首を振り、  船乗りが出向の時間を伝えると、ヴァイはローブを目深に被った少女に声を掛けた。 「じゃあ、行くぞ・・・『リスティ』」 「・・・はい」  ローブの少女は、口もローブで覆われ、くぐもった声でヴァイの言葉に答えた。  その二人を見送る天宮智香とリスティは、適度なところでルナータの中へと溶け込んでいく。  一方のヴァイとローブの少女・・・ヴァイの言う『リスティ』は、船乗りの検問に答えた。 「Aランク支援士のヴァイだ。こっちはリスティ」 「ああ。冥氷剣のヴァイさんか。なら通って良いよ」  そう。ヴァイの名を出せば、その隣に居る少女は『リスティ』として通る事になんら疑問は無い。  少なくとも、船乗りの検問はほぼフリーパス出来る。 「・・・南にはオレ達の仲間が居る。少なくとも、ギルドの中に居るウチは安心して良い」 「はい・・・」  船の一室に入ったところで、ヴァイは『リスティ』にそう語りかけ、  船が南に着くのを警戒しつつ、待った。 +ギルド リトルレジェンド+ 「ぅ・・・!!」  暗い一室で、うめきを上げて、  ゆっくりと、目を開く。  見慣れない天井。何より、見慣れない空気。 「こ、、こは・・・?」  驚くほどに、自分の声が枯れていた。  それに、恐ろしいほどに身体がダルイ  まるで、長時間眠り続けたように、  その上、酷く喉が渇く。 (・・・?)  ガチャリ。と、ドアが開く音がした気がする。  そして、入ってきた人物の驚いたような気配。 「おい! しっかりしろ!! くっ・・まずは水だな・・!  ティール!! 少年の目が覚めたぞ!!」  だが、その言葉の半ばで  再び、意識が暗転した。 ――――Next to....

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