「Stage7:ランページ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

Stage7:ランページ」(2009/02/07 (土) 02:26:33) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

空を駆ける。 その感覚は、きっと飛んだことのあるものにしか分からない。 そして人の足では不可能な速さで飛ぶ事もまた、それが出来るものにしか分からない世界だ。 自分のこの道は、ある箒乗りの背に乗せて貰うことから始まった。 ……憧れというのは、人によっては何よりも強い原動力となる。 自分の力で空を飛ぶこと。その為に魔術を学び、風を捉える力を手に入れた。 ――しかし、人の意思とは不思議なもので、目標を達すると一度は満足するが、殆んどの場合すぐに更なる高みを目指そうとする。 それが目に見えるものであるか、形すら分からない遠いものかの違いはあるものの、人は究めた先にある何かを見たがるものなのだ。 リックテール東街道。 行きの時には時間を食わされた氷の樹海は避けるように、しかしその上で最短距離を走るため、街道からやや外れる方向へとリューガは飛んでいた。 社長の仕掛けに正面から挑まないのは少々シャクだったが、それで遅れては意味も多少のプライドはこの際気にしない事にする。 「クゥは……中だろうな」 相当に癖の強いこのレース、スピードだけでも、技術だけでもトップは取れない。 そのせいか、全体的に選手は密集気味になり、上手く仕込まれた仕掛けで溢れているのがよくわかる。 ……が、それでも、というプライドだけはリューガは捨てることは無かった。 「よし、もう少しで街が見える――」 多少景色が変わろうとも、あらゆる場所を飛んできた自分なら現在地の特定は容易い。 それは街道に限ったことではなく、多少道を外れた平原であっても同じことだ。 「――!」 ……デジャビュ、とでも言うのだろうか? 街道上に自分の進行ラインを重ねたその時、視界の隅を何か不穏な光景が横切ったように感じた。 「――“はぐれ白狼(ランページ)”だと!!?」 通常、数体の群れで行動するフロストファングだが、時に一匹だけで活動している個体もいる。 だが多くの場合は他の魔物の群れや人間に狩られる為に、結果的には群れで行動する個体ばかりになっているのが現状だった。 「……しかも……クゥ!? なにやってんだアイツは!!」 そんな中でただ一匹。 本来の生息地から離れたこの平原で、狂暴なまでの力をもって生きる“はぐれ”がいる。 はぐれ白狼、ランページ。 “狂気”の名を持つ彼は、平原の白い悪魔として名を馳せていた。 ……普段人間の集団を警戒しているそれが、どういう訳か街道の近くまで顔を見せ、しかもクリエが戦っているときた。 「……ったく、無茶苦茶だ!!」 軌道を即座にクリエと白狼の方へと向け、攻撃呪文の詠唱に入る。 ――が、距離が微妙だ。 普段見掛ける雑魚なら短い詠唱でも問題はないが、相手はかなりの大物、生半可な魔法じゃ怯みもしない。 この速度で接近していけば、呪文の完成前にすれ違う可能性もある。 「――我が眼前に立つ者共よ、紅蓮の奔流に沈め! バスタードフレア!!」 間一髪。 箒の先端に仕込まれた魔法媒体から、至近距離で白狼に向けて激しい炎の帯が叩き込まれた。 直後、強引に軌道を横に反らして白狼との衝突を避けるように飛行する。 ……際どいところだった。 あと一歩詠唱が遅れていたら、正面衝突か呪文自体が空振りになるところだ。 「―――っ!」 互いに別方向に向けて飛びまわりながらなので声はまともに聞こえなかったが、クリエが何か叫ぶように口にしているのが一瞬耳に入ったような気がした。 飛行中の会話が難しいのがライドブルームの辛いところだが、今はそんなことはどうでもいい。 さすがにランページなどと個体名がつけられるだけに頑丈で、先程の一撃も殆んど堪えていないようだった。 「ちっ、倒しきるのは無理だな」 あれで決定打にならないというなら、正直キツイ。 現状この場にいるのは魔術士が二人だけで、連射のきく小技は通じそうにないし、大技も飛行状態を維持しながらでは出せる規模が限られる。 かといって停止して大呪文は、詠唱が終わる前にオダブツすること請け合いだろう。 「……お前がそんなことも分からねぇわけないだろ、クリエ」 並走しているわけでもないので、こちらの声も届いてはいないだろう。 しかし、リューガはその一言は言わずにはいられなかった。 「――フリーゲランスコール!」 ――その時、いつの間にか上空に飛び上がっていたクリエの周囲に大量の巨大な氷柱が発生し、その全てが白狼に向けて降り注ぐ。 一部は獣ならではの素早さでかわされたようだが、大半は見事なまでに白狼の身体を捉えていた。 「頑丈なヤツ……」 総じて氷のメンタルに耐性があるのがフロストファングなのだが、あれだけ物理的に突き刺しても揺るぎ無いのは流石に恐れ入る。 皮膚自体が分厚く、固くでもなっているのだろう。出血自体もそこまで大きく出てはいないようだ。 「うっ……」 「クゥ!?」 そこで気が付けたのは、奇跡だったのかもしれない。 クリエは、白狼の攻撃がギリギリ届かない高度を維持しながら戦っているようだった。 しかもそのまま飛び回ることで相手を撹乱していたようだが、それは高度維持と速度維持を同時に行うという、かなり消耗の激しい飛び方になってしまう。 加えて、町二つの往復という長距離航行の最中で、攻撃呪文を繰り返しながらのその行為。 メンタル切れは、必然と言えるだろう。 ……ぐらり、と彼女の体勢が崩れ、飛行術も解けたのかその身体は重力に従ってまっすぐに落ちていく。 そしてその先に待っているのは狂乱の白狼、ランページの牙。 「この、バカ野郎がぁぁああああ!!」 そしてその光景を前に、リューガの叫びが平原中にこだまさせるような勢いで放たれていた。 [[<前へ>Stage6:折り返し地点の一幕]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: