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Story1 **トラブル×トラブル 無限迷宮。 それは新月の晩にのみ姿を現す、建造された目的すらも不明な広大な迷宮。 そこに巣食う魔物の姿は、複数の獣の特長を併せ持つ、キメラと呼ぶに相応しいものや、スライムをさらにグロテスクな形にしたような培養生物、はては悪魔の類と様々だが、人工物と思われるものが半分以上を占めている。 なにかの実験場だったのか、もしくは酔狂な貴族が宝を守るために配置された魔物なのかはわからないが、今だ謎の多いこの迷宮、一攫千金を夢見る支援士達にとっては、危険なれど魅力的な気配を放つダンジョンの一つだった。 「ほーらこっちこっちー」 狼やら鳥やらなんだかゴテゴテといろいろな動物のパーツが混ざったような魔物と、妙に楽しげに追いかけっこのような形で走りまわる一団。 いや、厳密にいえば楽しげなのはその内の一人だけのようだが、その一人のノリのせいか、周囲に見物人がいれば全体的に楽しげに見えていることだろう。 とりあえず追い付かれないのは、ここが比較的狭い通路で、魔物の方も背にくっついている大きな翼が邪魔をし、うまく走れない状態にあるからかもしれない。 「あ、ヴィオ、もう少し右のあたりを走って。 リファは左、他はそのまま直進して」 「わかった、レイン!」 そしてある地点に差し掛かったところで、その一人――レインが他のメンバーに指示を飛ばし、それを受けた一同は迷うことなく、それぞれ言われたとおりの位置を走るように、走る方向に微調整を加えた。 が、しかし特に何も起こらず、状況が変わったような様子も無い。 ……などと思うのは、この無限迷宮においては早計である。 「チェックメイト♪」 くすっ、と笑みを浮かべたレインが、近場に落ちていた石を無造作に拾い、追ってくる魔物の足元に投げ付けた。 ――コツン、と石が床を叩く音が鳴り―― 「ガァッ!!!?」 その直後、壁と床から、無数の槍が魔物に向かって突き立てられ―― さらに、天井に穴が開いたかと思うと、特大のギロチンが落下して魔物の首を切り落としていた。 「いえーい、大成功」 「……なんつーか、えげつないな……」 魔物そのものよりも、縦横無尽に仕掛けられたトラップの方が厄介であるともっぱらの評判な無限迷宮で、そんな事を言うのは今更だろうと思いつつも、ヴィオはそう口にせざるをえない気分だった。 よく見れば誰でも回避はできそうな仕掛けから、早々発見はできない巧妙な仕掛けまで存在するこの迷宮。 今のように一撃で死が確定しそうな罠は、現在の深度ではまだ少ないが……奥に行けばどうなるか、想像するだけでもぞっとする。 「ま、それよかリファ、大丈夫か?」 「う、うん……大丈夫。 ヴィオこそ怪我はない?」 あまりに大掛かりに驚いたのか、その場にへたりこんでいたリファに手を伸ばすヴィオ。 リファは一瞬間をおいたが、すぐに我にかえってその手をとり、少し微笑みながら立ち上がっていた。 「あーあー、どこにいても見せつけてくれますなぁ」 「ホントホント、うらやましい限りですなぁ」 ……そして、もはやそれが恒例とでも言わんばかりにはやし立てるギャラリーが二人。 レインもまぁ傍から見て楽しんでいるタイプではあるのだが、この二人の中に入って騒ぐようなタイプとはまた違うのか、別な方向からニヤニヤと意味深な笑みを浮かべている。 「もう、アースにリフルも……人をからかわないのっ」 わずかに顔を赤くして、リファは二人――アースとリフルに向けて怒ったように声を上げるが、肝心の当人たちはと言うと、特に反省の気も無く”はいはい”と揃っててきとーな返事を口にしていた。 それもまたいつものことであり、見慣れた者にとってはわざわざ口をはさむようなことでもない。 「やれやれですね。 まあこれが僕ららしい形ではあるのですが」 が、そんな中で意味もなくさわやかな笑みを浮かべながら、一人がそう口にする。 黒っぽい色を基調とした衣装を身につけたネクロマンサ、ルシアである。 彼もまたこの一団の一人であり、どちらかといえばつっこみ役に属している常識人であった。 ――支援士ギルド【ローゼンクランツ】 そのメンバーはブレイブマスターの青年、ヴィオ・ラスクールと、マージナルの少女、リファ・リライド。 ヴィオの親友で何かと腐れ縁らしいニッドホッグのアース・エレメスと、杖に魔法を付与して物理的に振り回す殴りウィッチ、リフル・リーファス。 そして、エクスキューターの女性、レイン・クリエステルと、パッと見優男なネクロマンサ、ルシア・フィルザードの6人。 と言っても全員がBランク前後で飛びぬけて有名な者はおらず、本拠地と言えるような建物も特にない。 とりあえず仲良しグループが集まってできただけのギルドで、まぁ形だけはそれらしくなっている集まりといったところだろうか。 この日も彼らは、近辺のダンジョンであるグノルまで来ていたので、たまたま新月だったからと探索にきてみた、という理由としては気楽な探索をしていた。 ……そう、あくまでも適度な緊張感を交えた、いつもの慣れたメンバーによる気楽な探索だったのだ。 「お、隠し通路発見」 暫く歩き続けた先でたどり着いた袋小路。 一見すると何もなさそうなただの行き止まりだったのだが、レインが「怪しい」と一言漏らし数分手探りをしたところ、壁の一部によく見なければ分からないような僅かなヘコミが見つかった。 「誰か入った形跡は無さそうだねー」 普通なら、戦闘か何かの影響で出来たヘコミだろうと受け流すような自然さだったのだが、流石と言うべきだろうか。 そこの内側に取手のようなものが隠されていて、ソレを引いたことで横の壁がせり上がり、その向こうに部屋があるのが見えた。 「罠使いが隠し通路を見つけるってなあ……」 「あら、隠し通路だって広い意味では罠の一種よ? たた相手を倒すためか、目を欺くかの目的の違いだけなんだから」 そういうものなのか……と思いつつ、考えても仕方のないことなので受け流すヴィオ。 レインの罠発見能力はこのダンジョンにおいては驚異的なまでに助けられているので、深く追求することでもない限りは特に気にしない方が建設的だろう。 とりあえず、開いた壁の向こうの通路へと踏み込むことにした。 「……プール?」 ……少し長い通路を抜けた先の部屋に入って、聞こえてきた第一声がそれだった。 誰が言った一言なのかは重要ではなく、その一言が指し示すとおり、その部屋は小さなプールのような六角形の水場が中央にあり、そのプールの六つの角には、それぞれ小さな台座の上になんらかの宝珠と思われる球体が配置されていた。 「魔物の培養槽……という様子じゃないですね。 これもただの水のようです」 ルシアが軽く手で水をすくいながらそう一言。 無限迷宮には、人工の魔物とでも言うべきモノを生成する培養部屋があると言われているが、まぁ確かにそう言うたぐいのものにはとても見えない。 というのも、水の中にはそれらしいものは入ってなどおらず、水そのものもルシアの一言の通り、何の変哲も無いただの水のようだ。 「……ん? 底の方でなんか光ってるな」 「ホントだ……なんだか、不思議な光ね」 ルシアの横で、ヴィオとリファが屈みこむようにして水の底のあたりを覗きこむ。 結構深くなっているのか、透明な水のわりに何が沈んでいるのかまではよく分からず、ただ小さな何かがわずかに発光しているのが目に映るだけだった。 よく観察してみれば、周囲にある球体と同調でもしているかのように、その光は明滅しているようではあるが…… 「リファ、何があるか分からない。 念のため下がってろ」 一度立ち上がり、ヴィオはリファとプールの間に手を挟む。 リファはそれを目にして一度ヴィオの顔を覗き込むと、ふっと微笑んで指示に従うように一歩後ろに下がった。 「……ありがと、ヴィオ。 ……取りに行くつもり?」 「いや、どうかな。 こういうのは迂闊に近寄らない方がいい気も――」 「でぇーい! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと取りに行け!!」 「ごふぉ!?」 どぼーん 「………………」 「ヴィ、ヴィオー!!?」 一瞬、何が起こったのか分からずに、約一名を覗いて硬直していた一同。 そしてその約一名は、特に反省の気も無くひゅるりら~と軽く口笛を吹いていた。 真っ先に我に返ったらしいリファの叫び声で正気に戻った一同が見た光景は、ぶくぶくと小さな気泡が上がってくる水面と、直前までそこにいたはずのヴィオが、そこにいないというもので…… 「いやいやいや、アース、確かに何かといちゃいちゃして時々目障りに思うのは認めるけど、いきなり蹴っ飛ばすのはどうかと」 「リフルさん、それはフォローにもなってないと思いますが」 「別に大丈夫だろ。 あいつ泳ぎ得意だし、底にあるアレがなにか気になるしな」 「だ、だからっていきなりひどいよ!  ヴィオ、上がってきて!」 「あははは、みんな勝手なこと言ってるけど、自分も飛び込んで引き上げようって気はゼロみたいだねぇ」 一歩下がった位置から笑うのは、部屋の構造を調べていたらしいレイン。 特に罠やら隠された仕掛けは見当たらなかったのだろうか。これといって何かをしてきたような様子も無く、ただいつもどおりに一同の様子を遠巻きに見物している体勢に入っているようだった。 ――なお、リファとルシアはカナヅチで飛び込んでも逆に足手まといであり、アースは十分に泳げるがわざわざ引き上げるつもりはなく、リフルはこんなところまで着替えは持ってきてないからと水の中に入る気はさらさら無いようだった。 哀れ、ヴィオ。 と言うべきだろうか。 「―――というか、ちょっとやばくない? なんか全然上がってこないけど」 「ヴィオ…ねえヴィオ!」 「リファさん、落ち着いてください。 ………この部屋――いえ、このプールから、妙な気配を感じます」 「ありゃ……これはちっと危険な状況かしら?」 全員でそれだけ言った直後、これまた全員がある一点に視線を注ぐ。 ……それが集中する先は、言うまでも無く元凶。 「お、俺!?」 「他に……他に誰がいるって言うのよぉッ!」 「あーほらリファ姉落ち着いてってば!!」 「リフル、むッ、ん、んー!」 今にも大魔法の一つでも撃ちそうなリファに、必死でそれを阻止しようと後ろから手で口をふさぐリフル。 そして普段は大人しいはずのリファのその剣幕に押され、数歩後ずさるアース。 ……その様子をやれやれとばかりに受け流しつつ、レインとルシアはヴィオが落ちたプールの様子を真剣な面持ちで伺っていた。 「…………何か、来ます!」
Story1 **トラブル×トラブル 無限迷宮。 それは新月の晩にのみ姿を現す、建造された目的すらも不明な広大な迷宮。 そこに巣食う魔物の姿は、複数の獣の特長を併せ持つ、キメラと呼ぶに相応しいものや、スライムをさらにグロテスクな形にしたような培養生物、はては悪魔の類と様々だが、人工物と思われるものが半分以上を占めている。 なにかの実験場だったのか、もしくは酔狂な貴族が宝を守るために配置された魔物なのかはわからないが、今だ謎の多いこの迷宮、一攫千金を夢見る支援士達にとっては、危険なれど魅力的な気配を放つダンジョンの一つだった。 「ほーらこっちこっちー」 狼やら鳥やらなんだかゴテゴテといろいろな動物のパーツが混ざったような魔物と、妙に楽しげに追いかけっこのような形で走りまわる一団。 いや、厳密にいえば楽しげなのはその内の一人だけのようだが、その一人のノリのせいか、周囲に見物人がいれば全体的に楽しげに見えていることだろう。 とりあえず追い付かれないのは、ここが比較的狭い通路で、魔物の方も背にくっついている大きな翼が邪魔をし、うまく走れない状態にあるからかもしれない。 「あ、ヴィオ、もう少し右のあたりを走って。 リファは左、他はそのまま直進して」 「わかった、レイン!」 そしてある地点に差し掛かったところで、その一人――レインが他のメンバーに指示を飛ばし、それを受けた一同は迷うことなく、それぞれ言われたとおりの位置を走るように、走る方向に微調整を加えた。 が、しかし特に何も起こらず、状況が変わったような様子も無い。 ……などと思うのは、この無限迷宮においては早計である。 「チェックメイト♪」 くすっ、と笑みを浮かべたレインが、近場に落ちていた石を無造作に拾い、追ってくる魔物の足元に投げ付けた。 ――コツン、と石が床を叩く音が鳴り―― 「ガァッ!!!?」 その直後、壁と床から、無数の槍が魔物に向かって突き立てられ―― さらに、天井に穴が開いたかと思うと、特大のギロチンが落下して魔物の首を切り落としていた。 「いえーい、大成功」 「……なんつーか、えげつないな……」 魔物そのものよりも、縦横無尽に仕掛けられたトラップの方が厄介であるともっぱらの評判な無限迷宮で、そんな事を言うのは今更だろうと思いつつも、ヴィオはそう口にせざるをえない気分だった。 よく見れば誰でも回避はできそうな仕掛けから、早々発見はできない巧妙な仕掛けまで存在するこの迷宮。 今のように一撃で死が確定しそうな罠は、現在の深度ではまだ少ないが……奥に行けばどうなるか、想像するだけでもぞっとする。 「ま、それよかリファ、大丈夫か?」 「う、うん……大丈夫。 ヴィオこそ怪我はない?」 あまりに大掛かりに驚いたのか、その場にへたりこんでいたリファに手を伸ばすヴィオ。 リファは一瞬間をおいたが、すぐに我にかえってその手をとり、少し微笑みながら立ち上がっていた。 「あーあー、どこにいても見せつけてくれますなぁ」 「ホントホント、うらやましい限りですなぁ」 ……そして、もはやそれが恒例とでも言わんばかりにはやし立てるギャラリーが二人。 レインもまぁ傍から見て楽しんでいるタイプではあるのだが、この二人の中に入って騒ぐようなタイプとはまた違うのか、別な方向からニヤニヤと意味深な笑みを浮かべている。 「もう、アースにリフルも……人をからかわないのっ」 わずかに顔を赤くして、リファは二人――アースとリフルに向けて怒ったように声を上げるが、肝心の当人たちはと言うと、特に反省の気も無く”はいはい”と揃っててきとーな返事を口にしていた。 それもまたいつものことであり、見慣れた者にとってはわざわざ口をはさむようなことでもない。 「やれやれですね。 まあこれが僕ららしい形ではあるのですが」 が、そんな中で意味もなくさわやかな笑みを浮かべながら、一人がそう口にする。 黒っぽい色を基調とした衣装を身につけたネクロマンサ、ルシアである。 彼もまたこの一団の一人であり、どちらかといえばつっこみ役に属している常識人であった。 ――支援士ギルド【ローゼンクランツ】 そのメンバーはブレイブマスターの青年、ヴィオ・ラスクールと、マージナルの少女、リファ・リライド。 ヴィオの親友で何かと腐れ縁らしいニッドホッグのアース・エレメスと、杖に魔法を付与して物理的に振り回す殴りウィッチ、リフル・リーファス。 そして、エクスキューターの女性、レイン・クリエステルと、パッと見優男なネクロマンサ、ルシア・フィルザードの6人。 と言っても全員がBランク前後で飛びぬけて有名な者はおらず、本拠地と言えるような建物も特にない。 とりあえず仲良しグループが集まってできただけのギルドで、まぁ形だけはそれらしくなっている集まりといったところだろうか。 この日も彼らは、近辺のダンジョンであるグノルまで来ていたので、たまたま新月だったからと探索にきてみた、という理由としては気楽な探索をしていた。 ……そう、あくまでも適度な緊張感を交えた、いつもの慣れたメンバーによる気楽な探索だったのだ。 「お、隠し通路発見」 暫く歩き続けた先でたどり着いた袋小路。 一見すると何もなさそうなただの行き止まりだったのだが、レインが「怪しい」と一言漏らし数分手探りをしたところ、壁の一部によく見なければ分からないような僅かなヘコミが見つかった。 「誰か入った形跡は無さそうだねー」 普通なら、戦闘か何かの影響で出来たヘコミだろうと受け流すような自然さだったのだが、流石と言うべきだろうか。 そこの内側に取手のようなものが隠されていて、ソレを引いたことで横の壁がせり上がり、その向こうに部屋があるのが見えた。 「罠使いが隠し通路を見つけるってなあ……」 「あら、隠し通路だって広い意味では罠の一種よ? たた相手を倒すためか、目を欺くかの目的の違いだけなんだから」 そういうものなのか……と思いつつ、考えても仕方のないことなので受け流すヴィオ。 レインの罠発見能力はこのダンジョンにおいては驚異的なまでに助けられているので、深く追求することでもない限りは特に気にしない方が建設的だろう。 とりあえず、開いた壁の向こうの通路へと踏み込むことにした。 「……プール?」 ……少し長い通路を抜けた先の部屋に入って、聞こえてきた第一声がそれだった。 誰が言った一言なのかは重要ではなく、その一言が指し示すとおり、その部屋は小さなプールのような六角形の水場が中央にあり、そのプールの六つの角には、それぞれ小さな台座の上になんらかの宝珠と思われる球体が配置されていた。 「魔物の培養槽……という様子じゃないですね。 これもただの水のようです」 ルシアが軽く手で水をすくいながらそう一言。 無限迷宮には、人工の魔物とでも言うべきモノを生成する培養部屋があると言われているが、まぁ確かにそう言うたぐいのものにはとても見えない。 というのも、水の中にはそれらしいものは入ってなどおらず、水そのものもルシアの一言の通り、何の変哲も無いただの水のようだ。 「……ん? 底の方でなんか光ってるな」 「ホントだ……なんだか、不思議な光ね」 ルシアの横で、ヴィオとリファが屈みこむようにして水の底のあたりを覗きこむ。 結構深くなっているのか、透明な水のわりに何が沈んでいるのかまではよく分からず、ただ小さな何かがわずかに発光しているのが目に映るだけだった。 よく観察してみれば、周囲にある球体と同調でもしているかのように、その光は明滅しているようではあるが…… 「リファ、何があるか分からない。 念のため下がってろ」 一度立ち上がり、ヴィオはリファとプールの間に手を挟む。 リファはそれを目にして一度ヴィオの顔を覗き込むと、ふっと微笑んで指示に従うように一歩後ろに下がった。 「……ありがと、ヴィオ。 ……取りに行くつもり?」 「いや、どうかな。 こういうのは迂闊に近寄らない方がいい気も――」 「でぇーい! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと取りに行け!!」 「ごふぉ!?」 どぼーん 「………………」 「ヴィ、ヴィオー!!?」 一瞬、何が起こったのか分からずに、約一名を覗いて硬直していた一同。 そしてその約一名は、特に反省の気も無くひゅるりら~と軽く口笛を吹いていた。 真っ先に我に返ったらしいリファの叫び声で正気に戻った一同が見た光景は、ぶくぶくと小さな気泡が上がってくる水面と、直前までそこにいたはずのヴィオが、そこにいないというもので…… 「いやいやいや、アース、確かに何かといちゃいちゃして時々目障りに思うのは認めるけど、いきなり蹴っ飛ばすのはどうかと」 「リフルさん、それはフォローにもなってないと思いますが」 「別に大丈夫だろ。 あいつ泳ぎ得意だし、底にあるアレがなにか気になるしな」 「だ、だからっていきなりひどいよ!  ヴィオ、上がってきて!」 「あははは、みんな勝手なこと言ってるけど、自分も飛び込んで引き上げようって気はゼロみたいだねぇ」 一歩下がった位置から笑うのは、部屋の構造を調べていたらしいレイン。 特に罠やら隠された仕掛けは見当たらなかったのだろうか。これといって何かをしてきたような様子も無く、ただいつもどおりに一同の様子を遠巻きに見物している体勢に入っているようだった。 ――なお、リファとルシアはカナヅチで飛び込んでも逆に足手まといであり、アースは十分に泳げるがわざわざ引き上げるつもりはなく、リフルはこんなところまで着替えは持ってきてないからと水の中に入る気はさらさら無いようだった。 哀れ、ヴィオ。 と言うべきだろうか。 「―――というか、ちょっとやばくない? なんか全然上がってこないけど」 「ヴィオ…ねえヴィオ!」 「リファさん、落ち着いてください。 ………この部屋――いえ、このプールから、妙な気配を感じます」 「ありゃ……これはちっと危険な状況かしら?」 全員でそれだけ言った直後、これまた全員がある一点に視線を注ぐ。 ……それが集中する先は、言うまでも無く元凶。 「お、俺!?」 「他に……他に誰がいるって言うのよぉッ!」 「あーほらリファ姉落ち着いてってば!!」 「リフル、むッ、ん、んー!」 今にも大魔法の一つでも撃ちそうなリファに、必死でそれを阻止しようと後ろから手で口をふさぐリフル。 そして普段は大人しいはずのリファのその剣幕に押され、数歩後ずさるアース。 ……その様子をやれやれとばかりに受け流しつつ、レインとルシアはヴィオが落ちたプールの様子を真剣な面持ちで伺っていた。 「…………何か、来ます!」 [[次へ>>トラブル×トラブル:2]]

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