「トラブル×トラブル:2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

トラブル×トラブル:2」(2009/02/10 (火) 02:27:20) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「うっ……ん……」 身体が重い。 いったい、何があったのだろうか。 ……朦朧とする意識の中で、ヴィオは必死に頭を動かしていた。 そもそも、なぜ自分は眠っていたのだろうか? 無限迷宮の探索をしていて、レインが見つけた隠し部屋に入ったところまではおぼえているが、その後の事はうまく思い出せない。 ……とにかく、目を開けて身体を起こさなければ。 そう考え、目を開く。 「ヴィオ!」 ―――直後、正面から何かが覆いかぶさってくるような感覚に襲われる。 「……リファ?」 まだ頭がぼーっとしていたせいか、一瞬それが誰であったのかわからずに、そのままふと浮かんだ名前を口にしていた。 が、そのまま数秒経過して、ひとつ違和感を感じる。 リファの身体は、こんなに大きかっただろうか? 少なくとも、ヴィオの腕の中には収まるくらいのはずが、逆に自分の方が彼女の体に収まるような形になってしまっている。 「…………?」 だんだん意識がはっきりとしてきて、周囲へと目を向ける余裕も出てきたが…… 見まわして目に入る仲間たちの表情は、なんとも言えない微妙な笑み……ともつかないものをしているようだった。 「何だよ、お前……ら……んっ!?」 声が、高い。 いつもの自分のモノとは似ても似つかず、かといってボーイズソプラノなどと言うには論外で、まるで少女のそれのようなモノが聞こえてきた。 少なくとも、他の人間が口にした言葉ではないことは確かなのだが…… 「ヴィオ……その、ね……? 落ち着いて、自分の身体……見てみて……」 リファがヴィオの身体を放し、数十秒ぶりに全身が解放される。 身体を離して見てみても、彼女の身体が自分よりも大きく感じることには変化が無かった。 ……が、今発した自分の声や、リファの一言から言い知れぬ予感が頭をよぎり、今はそんなことに気を回している余裕はない。 そういえば服も全体的に大きくなっているのか、袖から指先がやっと出るかどうかというレベルで、防具である胸当てもぶかぶかですぐにでもずり落ちそうな状態になっている。 「……俺の方が、小さくなってる……?」 声も、相変わらずさっきとかわらない女の子のものだ。 ――予感は、確信へと変わっていく。 ヴィオは肩から落ちかけている胸当てを外し、服のボタンも胸のあたりまで外して、恐る恐るその内側に視線を落とし…… もう赤面しているのか青白くなっているのかもよく分からない顔色で、思いっきり表情をひきつらせる。 また一瞬遅れて、ここまでくるともはや確認せずとも結論は分かりきっているあるはずであり、あるべきものも――手を持っていってみると、手ごたえが無かった。 「ふぅ……まあ、情報が足りないので分析は難しいのですが……とりあえず、経過を説明しましょうか」 そんな一連のヴィオのリアクションを確認した後に、おそらく装っているだけであろう平静な表情で、ルシアが口を挟む。 こういう時、周囲に冷静に徹することができる人間がいるのはありがたいものだが、ヴィオの焦りを完全に鎮静させるのは難しかったようで、その表情から困惑が消えるようなことはなかった。 ……が、ルシアはかまわずに続ける。 ---- それは数分前の事……ヴィオが水槽の中に落ちて、数十秒経過した時の出来事。 一同は水面の上に現われた”ソレ”の姿に、あっけにとられていた。 「妖精……いや、精霊でしょうか……?」 外見的な歳でいえば、14歳であるリフルよりも小柄なので12歳前後だろうか。 蒼く長い髪に白磁のような白い肌、白い光の帯がその身体を取り巻くように舞い、背には妖精のような羽が二対。 ……幼い見た目に反して、その姿から感じられる空気のようなものは、儚くも強烈な存在感を感じさせられる、不思議なものを秘めていた。 「こ、これは……一歩間違えれば犯罪チックなぐふぅ!」 「ちっとは空気読め」 気持ちは分かるが、とでも言いたげに口元を微妙にひきつらせながら、アースの顔面に裏拳を叩きこむリフル。 他の三人もその一瞬のやり取りで我に返ったのか、ははは、と乾いた笑いを浮かべながらも目の前に立つその少女の姿に、落ち着いて目を向ける余裕が出てきていた。 少なくとも、ヴィオが落ちたこの水槽に関係がある何かなのは確かであり、彼への影響を考えると迂闊な行動はとれそうにない。 「―――! これは、幻影でしょうか……? 少し透けているようですが……」 「………待って、何か……言ってる……?」 ルシアが言ったように、その身体はよく見れば向こう側の壁が透けて見え、実体のようなものは無いように見える。 が、それに他の者が気がつけるような間もおかず、リファが少女の口元が動き始めていることを指摘していた。 ――そして、その言葉を聞き逃すまいと一同が黙ると、澄んだ声が部屋の中に満たされ…… 『ウチの泉によー来たな、運命でも変えたくなったんか?』 ……ると同時に、一気にそれまで部屋中に満たされていた空気が瓦解した。 ちょっとまてなんだその口調は。 というかノリ軽いなオイ。 そんな意志が一同からだだ漏れしているのが、ひと目にも分かる程の崩壊具合だったが、全員が全員不意を突かれてしまったのか、声を出すに出せないような精神状態に陥っていた。 ―あれ、この人今……なんだかすごいこと言ったような……?― 口調とノリの軽さのせいで、セリフの後半は完全に聞き逃してしまっていたことに気づき、リファは軽く焦る。 ヴィオのこの後に関わってくるようなことだったらどうしよう、と。 『数百年も誰もけーへんかったさかい、はりきっていくで。 あーあー』 「いや、なによこれ……」 「僕に聞かれましても……」 「……ん? ちょっと、アレ見て!」 『この泉に落ちたんはこの青年か? それともこの小さな男の子か? それともこっちの”ぷりてぃー”な少女か?』 レインが指さした先――泉の少女の左右と正面に、三人の人影が浮かび上がる。 一人は、見間違うはずも無いヴィオそのもの。 もう一人は、そんな彼をこれでもかと小柄にしたような、少年とも呼べないような小さな男の子。 そしてもう一人は……彼の面影をわずかに残しつつも、誰もが”かわいい”や”美少女”などという評価を下しそうな――アルトと同じくらいの背丈をした少女だった。 「ヴィオ!?」 「――リファさんよく見てください、そこにいるヴィオさんは本人ではありません……彼女と同様に透けていますし、彼自身はおそらくまだ水の底に……」 同時に、泉の方に勢いよく一歩詰め寄るリファだったが、ルシアに引きとめられてその足を止める。 「だな。なんか質問に答えねーと帰ってこねー空気だし……ってか、あの女の子も結構イケてるな」 「ていうか、コレどっかで見たような展開ねぇ……あえて間違ってみるのが正解かしら?」 「でも間違ったら戻ってこないのが普通だよねぇコレ。 あ、個人的にはあのちびちゃんのほうが捨てがたいよー」 アース、レイン、そしてアルトが勝手な事を推測で言っているが、目の前の精霊らしき少女が何を考えているのかはわからない。 よってヴィオを救い出すにはどう答えればいいのかなども分からず、結局はカンで答えるしかないということだろうか。 「ヴィオは……落ちたのは、”青年”です!!」 「ちょっ、リファ……」 しかし、リファにとっては急がなければならない、早く助け出したい……そんな気持ちが先行しすぎてしまっているのか、周囲の迷いなどお構いなしに真っ先に本来の”彼”の姿を口に出していた。 まあ、よく見る物語を参考にしてしまえば、確かにこの場合正直に答えるのが最善だろう。 違うものを選ぶと、本物もろとも帰ってこなくなるという展開は、ベタであるがゆえに避けたいものである。 『正直やな。 そんな正直者のアナタには――――』 ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。 それが誰が立てた音なのか、もしくは自分のものなのか……誰も分からないほどに、一同は目の前の少女の言葉の続きに集中していた。 『このとびきり”ぷりてぃー”な女の子のヴィオちゃんをプレゼントや♪』 「え、ちょっ……!?」 『――魂と転換する血錬の儀。其を司りし生命の巫女ウルドの名の元に……汝、今此処に有るべき転性の姿を現せ――』 ――  チェンジ・アセッション  ―― ---- 「……ちょっと待ってくれ。今情報整理するから」 つまりなんだ、この泉は落ちた者の姿を変える力があって、たまたま落ちた……というか叩き落とされた自分がその力の犠牲になったと。 しかも、その変化の方向性がなぜか女の子の姿で、おそらく年齢まで逆行している。 明確には思い出せないが、水の中に落ちて数秒で意識を失っていたのは確かであり、その時点ですでにこの泉の力が働いていたのかもしれない。 「ま、まあ……人格まで変化したわけではないようですし……僕らの知っている、”ヴィオさん”が帰ってきて安心しました」 要点だけをどうにか抜き出して、自分に降りかかった災難を理解したその時…… そこまで悲惨な表情をしていたのだろうか? ややひきつった笑顔で、フォローでも入れるようにルシアがそう口にしていた。 「まーなんだ、ヴィオ」 と、そこにアースがぽん、とヴィオの肩を叩きながら現れ、なぜか親指をグッと立てた右腕をヴィオの目の前に突き出し―― 「かなり可愛いぞ。 ブスになるよかマシだろう、なっ!」 ……その瞬間、ヴィオは自分の中で何かが切れるのがはっきりと理解していた。 そこから先の”彼女”の行動は、もはや神技と言ってもいい無駄のない早業だった。 手元に落ちていた自分の剣を手にとり、瞬時に荷物から取り出したビー玉程度大きさのの”スペルオーブ”と呼ばれる宝珠を、剣に仕込まれた丸いくぼみにはめ込む―― とそこまでやった時点出既に”襲破斬”の体勢に入っており…… 「――&ruby(おまえのせいだろ){襲破――旋風翔}ぅおぁぁああ!!!」 「おぉぉおおぉおっ!!?」 オーブの中に封じられていた【サイクロン】の魔法を剣を通して解放し、すさまじいまでの暴風を斜め上75°あたりに向かって巻き起こす。 その爆心地にいた――というかその技で狙われたアースの身体は、まるで紙きれのように風に乗り部屋の天井に激突。 そして、そのまま彼も泉の中に垂直に落下していった。 「おお、これはナイスショット」 「ねえ、これだとアースも同じことにならないのかしら?」 「……いえ、おそらくそれは無いと思いますよ。 周りの台座と、水底を見てみてください」 ぜーはーと肩で息をするヴィオを尻目に、相変わらず軽い調子のリフルと、これまた冷静に状況を分析し始めるレインとルシアの二人。 リファは……この数分の間、嵐のように色々なことが過ぎて行ったせいだろうか? 先ほどヴィオの身体を離した所から、呆然とした表情で、ただその光景を眺めているようだった。 「あら、オブジェから光が消えてるわね。 ……底にある何かも、発光は止まってるみたいだけど」 「推測にすぎませんが……周囲の台座はメンタルの貯蓄タンクなのでしょう。 部屋の構造と、床の文様をを見る限りでは……おそらく、地脈を流れるメンタルの波を集めているものと考えられますが……」 「あ、なんとなく分かった。 つまりエネルギー切れってこと?」 二人の言葉を耳にして、ぽむ、と手を打つリフル。 絵にするならば頭上にランプかなにかが点灯していること請け合いだろう。 「そうですね。おそらくこの宝珠に地脈を流れるメンタルを溜めこみ、一定量以上たまっている状態で誰かこの泉の中に入れば起動する、という装置でしょう。 おそらく今はいっても先ほどの精霊(?)は出てこないと思います」 「なんだ。 これでアースも女になったら、あのエロバカあらゆる意味で弄り倒してやろうと思ってたのに」 「あはは、それいいわねー♪」 「……なぁリファ、俺のことって、もしかしてあんまり重要視されてないのか?」 「…………ヴィオ……」 [[<前へ>トラブル×トラブル:1]]
「うっ……ん……」 身体が重い。 いったい、何があったのだろうか。 ……朦朧とする意識の中で、ヴィオは必死に頭を動かしていた。 そもそも、なぜ自分は眠っていたのだろうか? 無限迷宮の探索をしていて、レインが見つけた隠し部屋に入ったところまではおぼえているが、その後の事はうまく思い出せない。 ……とにかく、目を開けて身体を起こさなければ。 そう考え、目を開く。 「ヴィオ!」 ―――直後、正面から何かが覆いかぶさってくるような感覚に襲われる。 「……リファ?」 まだ頭がぼーっとしていたせいか、一瞬それが誰であったのかわからずに、そのままふと浮かんだ名前を口にしていた。 が、そのまま数秒経過して、ひとつ違和感を感じる。 リファの身体は、こんなに大きかっただろうか? 少なくとも、ヴィオの腕の中には収まるくらいのはずが、逆に自分の方が彼女の体に収まるような形になってしまっている。 「…………?」 だんだん意識がはっきりとしてきて、周囲へと目を向ける余裕も出てきたが…… 見まわして目に入る仲間たちの表情は、なんとも言えない微妙な笑み……ともつかないものをしているようだった。 「何だよ、お前……ら……んっ!?」 声が、高い。 いつもの自分のモノとは似ても似つかず、かといってボーイズソプラノなどと言うには論外で、まるで少女のそれのようなモノが聞こえてきた。 少なくとも、他の人間が口にした言葉ではないことは確かなのだが…… 「ヴィオ……その、ね……? 落ち着いて、自分の身体……見てみて……」 リファがヴィオの身体を放し、数十秒ぶりに全身が解放される。 身体を離して見てみても、彼女の身体が自分よりも大きく感じることには変化が無かった。 ……が、今発した自分の声や、リファの一言から言い知れぬ予感が頭をよぎり、今はそんなことに気を回している余裕はない。 そういえば服も全体的に大きくなっているのか、袖から指先がやっと出るかどうかというレベルで、防具である胸当てもぶかぶかですぐにでもずり落ちそうな状態になっている。 「……俺の方が、小さくなってる……?」 声も、相変わらずさっきとかわらない女の子のものだ。 ――予感は、確信へと変わっていく。 ヴィオは肩から落ちかけている胸当てを外し、服のボタンも胸のあたりまで外して、恐る恐るその内側に視線を落とし…… もう赤面しているのか青白くなっているのかもよく分からない顔色で、思いっきり表情をひきつらせる。 また一瞬遅れて、ここまでくるともはや確認せずとも結論は分かりきっているあるはずであり、あるべきものも――手を持っていってみると、手ごたえが無かった。 「ふぅ……まあ、情報が足りないので分析は難しいのですが……とりあえず、経過を説明しましょうか」 そんな一連のヴィオのリアクションを確認した後に、おそらく装っているだけであろう平静な表情で、ルシアが口を挟む。 こういう時、周囲に冷静に徹することができる人間がいるのはありがたいものだが、ヴィオの焦りを完全に鎮静させるのは難しかったようで、その表情から困惑が消えるようなことはなかった。 ……が、ルシアはかまわずに続ける。 ---- それは数分前の事……ヴィオが水槽の中に落ちて、数十秒経過した時の出来事。 一同は水面の上に現われた”ソレ”の姿に、あっけにとられていた。 「妖精……いや、精霊でしょうか……?」 外見的な歳でいえば、14歳であるリフルよりも小柄なので12歳前後だろうか。 蒼く長い髪に白磁のような白い肌、白い光の帯がその身体を取り巻くように舞い、背には妖精のような羽が二対。 ……幼い見た目に反して、その姿から感じられる空気のようなものは、儚くも強烈な存在感を感じさせられる、不思議なものを秘めていた。 「こ、これは……一歩間違えれば犯罪チックなぐふぅ!」 「ちっとは空気読め」 気持ちは分かるが、とでも言いたげに口元を微妙にひきつらせながら、アースの顔面に裏拳を叩きこむリフル。 他の三人もその一瞬のやり取りで我に返ったのか、ははは、と乾いた笑いを浮かべながらも目の前に立つその少女の姿に、落ち着いて目を向ける余裕が出てきていた。 少なくとも、ヴィオが落ちたこの水槽に関係がある何かなのは確かであり、彼への影響を考えると迂闊な行動はとれそうにない。 「―――! これは、幻影でしょうか……? 少し透けているようですが……」 「………待って、何か……言ってる……?」 ルシアが言ったように、その身体はよく見れば向こう側の壁が透けて見え、実体のようなものは無いように見える。 が、それに他の者が気がつけるような間もおかず、リファが少女の口元が動き始めていることを指摘していた。 ――そして、その言葉を聞き逃すまいと一同が黙ると、澄んだ声が部屋の中に満たされ…… 『ウチの泉によー来たな、運命でも変えたくなったんか?』 ……ると同時に、一気にそれまで部屋中に満たされていた空気が瓦解した。 ちょっとまてなんだその口調は。 というかノリ軽いなオイ。 そんな意志が一同からだだ漏れしているのが、ひと目にも分かる程の崩壊具合だったが、全員が全員不意を突かれてしまったのか、声を出すに出せないような精神状態に陥っていた。 ―あれ、この人今……なんだかすごいこと言ったような……?― 口調とノリの軽さのせいで、セリフの後半は完全に聞き逃してしまっていたことに気づき、リファは軽く焦る。 ヴィオのこの後に関わってくるようなことだったらどうしよう、と。 『数百年も誰もけーへんかったさかい、はりきっていくで。 あーあー』 「いや、なによこれ……」 「僕に聞かれましても……」 「……ん? ちょっと、アレ見て!」 『この泉に落ちたんはこの青年か? それともこの小さな男の子か? それともこっちの”ぷりてぃー”な少女か?』 レインが指さした先――泉の少女の左右と正面に、三人の人影が浮かび上がる。 一人は、見間違うはずも無いヴィオそのもの。 もう一人は、そんな彼をこれでもかと小柄にしたような、少年とも呼べないような小さな男の子。 そしてもう一人は……彼の面影をわずかに残しつつも、誰もが”かわいい”や”美少女”などという評価を下しそうな――アルトと同じくらいの背丈をした少女だった。 「ヴィオ!?」 「――リファさんよく見てください、そこにいるヴィオさんは本人ではありません……彼女と同様に透けていますし、彼自身はおそらくまだ水の底に……」 同時に、泉の方に勢いよく一歩詰め寄るリファだったが、ルシアに引きとめられてその足を止める。 「だな。なんか質問に答えねーと帰ってこねー空気だし……ってか、あの女の子も結構イケてるな」 「ていうか、コレどっかで見たような展開ねぇ……あえて間違ってみるのが正解かしら?」 「でも間違ったら戻ってこないのが普通だよねぇコレ。 あ、個人的にはあのちびちゃんのほうが捨てがたいよー」 アース、レイン、そしてアルトが勝手な事を推測で言っているが、目の前の精霊らしき少女が何を考えているのかはわからない。 よってヴィオを救い出すにはどう答えればいいのかなども分からず、結局はカンで答えるしかないということだろうか。 「ヴィオは……落ちたのは、”青年”です!!」 「ちょっ、リファ……」 しかし、リファにとっては急がなければならない、早く助け出したい……そんな気持ちが先行しすぎてしまっているのか、周囲の迷いなどお構いなしに真っ先に本来の”彼”の姿を口に出していた。 まあ、よく見る物語を参考にしてしまえば、確かにこの場合正直に答えるのが最善だろう。 違うものを選ぶと、本物もろとも帰ってこなくなるという展開は、ベタであるがゆえに避けたいものである。 『正直やな。 そんな正直者のアナタには――――』 ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。 それが誰が立てた音なのか、もしくは自分のものなのか……誰も分からないほどに、一同は目の前の少女の言葉の続きに集中していた。 『このとびきり”ぷりてぃー”な女の子のヴィオちゃんをプレゼントや♪』 「え、ちょっ……!?」 『――魂と転換する血錬の儀。其を司りし生命の巫女ウルドの名の元に……汝、今此処に有るべき転性の姿を現せ――』 ――  チェンジ・アセッション  ―― ---- 「……ちょっと待ってくれ。今情報整理するから」 つまりなんだ、この泉は落ちた者の姿を変える力があって、たまたま落ちた……というか叩き落とされた自分がその力の犠牲になったと。 しかも、その変化の方向性がなぜか女の子の姿で、おそらく年齢まで逆行している。 明確には思い出せないが、水の中に落ちて数秒で意識を失っていたのは確かであり、その時点ですでにこの泉の力が働いていたのかもしれない。 「ま、まあ……人格まで変化したわけではないようですし……僕らの知っている、”ヴィオさん”が帰ってきて安心しました」 要点だけをどうにか抜き出して、自分に降りかかった災難を理解したその時…… そこまで悲惨な表情をしていたのだろうか? ややひきつった笑顔で、フォローでも入れるようにルシアがそう口にしていた。 「まーなんだ、ヴィオ」 と、そこにアースがぽん、とヴィオの肩を叩きながら現れ、なぜか親指をグッと立てた右腕をヴィオの目の前に突き出し―― 「かなり可愛いぞ。 ブスになるよかマシだろう、なっ!」 ……その瞬間、ヴィオは自分の中で何かが切れるのがはっきりと理解していた。 そこから先の”彼女”の行動は、もはや神技と言ってもいい無駄のない早業だった。 手元に落ちていた自分の剣を手にとり、瞬時に荷物から取り出したビー玉程度大きさのの”スペルオーブ”と呼ばれる宝珠を、剣に仕込まれた丸いくぼみにはめ込む―― とそこまでやった時点出既に”襲破斬”の体勢に入っており…… 「――&ruby(おまえのせいだろ){襲破――旋風翔}ぅおぁぁああ!!!」 「おぉぉおおぉおっ!!?」 オーブの中に封じられていた【サイクロン】の魔法を剣を通して解放し、すさまじいまでの暴風を斜め上75°あたりに向かって巻き起こす。 その爆心地にいた――というかその技で狙われたアースの身体は、まるで紙きれのように風に乗り部屋の天井に激突。 そして、そのまま彼も泉の中に垂直に落下していった。 「おお、これはナイスショット」 「ねえ、これだとアースも同じことにならないのかしら?」 「……いえ、おそらくそれは無いと思いますよ。 周りの台座と、水底を見てみてください」 ぜーはーと肩で息をするヴィオを尻目に、相変わらず軽い調子のリフルと、これまた冷静に状況を分析し始めるレインとルシアの二人。 リファは……この数分の間、嵐のように色々なことが過ぎて行ったせいだろうか? 先ほどヴィオの身体を離した所から、呆然とした表情で、ただその光景を眺めているようだった。 「あら、オブジェから光が消えてるわね。 ……底にある何かも、発光は止まってるみたいだけど」 「推測にすぎませんが……周囲の台座はメンタルの貯蓄タンクなのでしょう。 部屋の構造と、床の文様をを見る限りでは……おそらく、地脈を流れるメンタルの波を集めているものと考えられますが……」 「あ、なんとなく分かった。 つまりエネルギー切れってこと?」 二人の言葉を耳にして、ぽむ、と手を打つリフル。 絵にするならば頭上にランプかなにかが点灯していること請け合いだろう。 「そうですね。おそらくこの宝珠に地脈を流れるメンタルを溜めこみ、一定量以上たまっている状態で誰かこの泉の中に入れば起動する、という装置でしょう。 おそらく今はいっても先ほどの精霊(?)は出てこないと思います」 「なんだ。 これでアースも女になったら、あのエロバカあらゆる意味で弄り倒してやろうと思ってたのに」 「あはは、それいいわねー♪」 「……なぁリファ、俺のことって、もしかしてあんまり重要視されてないのか?」 「…………ヴィオ……」 [[<前へ>トラブル×トラブル:1]]     [[次へ>>トラブル×トラブル:3]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: