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「白いつばさの旅日記・２」(2011/10/13 (木) 19:47:06) の最新版変更点

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<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「しっかし、よくもまーこんなガラクタ売りつけられたもんだな。ええ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">売りつけられた鍵（ゴミ）をくるくると回しながらフンと鼻を鳴らすと、頭にデカイたん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こぶができたティラが申し訳なさそうに何度もぺこぺこと頭を下げた。いまだ苛立ちが収</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まらないのでどう言い伏せてやろうかと考えていると、横から別の女性の涼やかな声が言</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">葉をはさんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『申し訳ありません。一応マスターを止めはしたのですが』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、マキちゃん！？そこは私を庇うところじゃないかと思うのですが……！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし、声のする方にそれらしき女性の姿は見当たらない。無論昼下がりの街の中なのだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">から通行人は掃いて捨てるほどいるのだが、その中で俺たちの会話に入ってきている人間</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">も皆無だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">当たり前だ。喋っているのは人間じゃないのだから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『自業自得です』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言った女性の声は、ティラが握っているやたらとゴツい杖から発せられていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
彼女、いやその杖の名前は機械杖ティタノマキア。正式名称はさらに長ったらしいのだが、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どちらにしても名前が長くて面倒なので俺はマキアと呼んでいる。は、支援士がブームと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なったここ十数年で姿を現した機械武器（マシンウェポン）に分類される非常に珍しい杖</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だ。またチャチな安物でも相場が十数万から数十万。高い物だと数千万というふざけた値</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">段が付くこともざらな機械武器としては最高峰の性能を持っているらしく、売れば億は軽</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">く超える代物らしい。ついでにしゃべる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな代物をティラは通りすがりで偶然知り合った老人からタダ同然で譲り受けたという</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">のだから、どこまで幸運なんだという話だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まぁ最も、当の所有者がこの有り様なので、本人にとってこの巡り合わせが本当に幸せで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あったかどうかは甚だ疑問が残るところだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『私はマスターにやめたほうがいいと警告をしましたが、マスターは大丈夫だと言って私</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の警告を無視されました。私はあくまでマスターの道具なのでマスターの発言を尊重しま</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">すが、その発言の責任はきちんと負うべきです』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はい…はい…ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">杖に説教をされている光景はなんともシュールだが、まぁこれもマキアが加わってからは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たまに見る光景だ。しかし、いつもは感情のアップダウン自体があまりなくて、事務的に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">短い言葉を発することが多いこいつにしてはえらく長口上だ。さては警告を無視されたこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とを相当怒ってるな？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、とにかく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言って鍵を指で弾いてティラに投げ渡し、ベルトのポーチからティラが鍵のおまけで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">押しつけられた地図を取り出して振って見せる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">―――『職や財産を失ってもまだやり直したいなら支援士になれ』と誰かが言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">支援士稼業をしている連中は依頼を受けて日銭を稼ぐ毎日を送っている訳で、当然俺たち</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もそんな連中の一員なのだが、俺たちのような無名の支援士にはいい稼ぎになる依頼とい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うのは回って来づらい。おまけにこんな昼下がりではもうまとまった稼ぎを得られるよう</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な依頼は残っていないだろう。精々が初心者が受けるようなしけた依頼が関の山だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">冒険者がブームとなり、支援士という職業が確立されて20年。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">宿を取る金も泊まらせてくれるような知り合いもいなければ、外で腹を空かせながら星空</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">を眺めて眠るはめになる。最悪の場合、そこから落ちぶれて盗賊や犯罪者になる者すら出</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ているのが支援士の現状だ。富や名声を夢見て支援士になった連中にとってこれは最初の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">洗礼だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">……正直、7万5000フィズの出費は痛い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これだけあれば、安い宿で1週間は泊まっていても細々と依頼をこなしてさえいれば飲食</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">には困らない額だったのだ。いや実際、そのつもりでいただけに、この損失は頭を抱えざ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">るを得なくなった。……もうぶっちゃけて言うと、ほぼ全財産だったのだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「一発狙いでこの地図に書いてある場所に行くぞ。文字は滲んでいて読めないが、幸い場</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">所の特定だけならできそうだ。まぁ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ちらり、とティラを一瞥して不敵に笑いながら一言。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「外れだった場合は、お前に馬車馬のごとく働いてもらうことになるからよろしくな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言った途端に真っ青になってがくがくと震えるティラを見て、少しだけ溜飲が下がっ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いままでいた河川の街ミナルから、南下してグノルダンジョンへの中継所となっている村</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">へ向かう商隊の馬車に相乗りさせてもらい、途中で降りてさらに丸数日歩いたところでよ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うやく目的地へと到着した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">商隊と別れる際にもらった干し肉を口に咥えながら、沈みかけた夕陽に照らされた目の前</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の建築物に対して思わず漏れた「そりゃあ、ここなら宝もあるかもな」という感想は、引</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きつった笑みと共に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大抵のダンジョンというのは街から遠く離れた場所に点在しているため、ちょっと日帰り</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">で行ってくる。ということができず、その周囲などには野営の準備などをしている冒険者</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の姿などをよく見かけたりするのだが、ここの周囲は閑散としたものだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">―――1位2位を争う不人気ダンジョン、有限回廊。またの名を無限迷宮。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">特殊な条件下でしか侵入できないため、月に一度しかダンジョンの中に入れないのも閑散</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">としている理由のひとつだが、ここが不人気なのはまた別の理由からだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">先の見えないまさに迷宮然とした曲がりくねった通路に、無数のトラップ群。他の場所で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はまずお目にかかれないようなグロテスクな外見をした魔物が闊歩し、地獄へつながって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いると言われるほどの多種多様な悪魔が巣くう、超がつくほどの難関ダンジョン。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何よりも、割に合わない。というのがこのダンジョンの不人気の最大の理由だった。息も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかせないほどの死闘を繰り返して進んでも、待っているのは自分の命を狙う気味の悪い</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">魔物やトラップばかり。それらしい部屋の扉を開けると魔物が口を開けて待ってました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんていう冗談にしては笑えない話が数えきれないくらい存在するくらいだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでも何人もの冒険者が果敢に挑むのは、ろくに攻略も進んでいないからこそ一攫千金</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の可能性も高いからなのだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……さて、ティラ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">威勢のいい返事に振り返ると、そこにはティラが気力充溢といった様子で立っている。相</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">変わらず元気だけはいいようだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「帰るか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">俺の一言に、ティラがぽかんと呆けた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え、えぇ？ええー！？な、なんで！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何でもなにも、非効率だろ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">俺だって命が惜しい。好き好んでこんな人の命がたんぽぽの綿毛のように吹き散らされる</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">場所になんか行こうとは思わない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「で、でも！ここで稼げなかったら私が馬車馬のごとく働くことに・・・！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「自業自得だろ。俺には関係ないね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんなぁ……と嘆く少女を無視してダンジョンの入り口に背を向けて引き返そうとしたら、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり背中を掴まれた。不承不承振り返ると、帰って馬車馬のごとく働く予定の少女が</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">半泣きになりながら服を力いっぱい握りしめている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そのおでこには、「馬車馬はヤダ！！」と大きく書かれているのがありありと見て取れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……おい離せ。さっさと帰るぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…その、ちょ、ちょっとくらい中に入っても」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「―――ッ！い、いいじゃないですか！宝物あるかもしれないんだよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなちょっと入って手に入るようなもんなんてある訳ないだろうが！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「馬車馬は嫌ですー！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この野郎、ついにぶっちゃけやがった！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お前やっぱりそれが理由か！つべこべ言わずにさっさと帰るぞ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もう言い包めるのも面倒になってきたので無理やり帰ろうとすると、そうはさせじとばか</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">りにティラが体重をかけて逆の方向に引っ張った。所詮は少女の腕力なので無理やり行こ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うと思えば行けるのだが、体重をかけているうえに足で踏ん張っているので動きにくいこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とこの上ない。というかああもうめんどくせぇ！！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「くそっ…！大体どうやって入るつもりだお前。このダンジョンは新月にしか入り口が開</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かねぇんだぞ！入ろうにも入りようがねえよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう言い放って振り返ると、ティラは掴んでいた服を離してジトッとした上目づかいでこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ちらを見て言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……じゃあ、開いてたら行ってもいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あん？……おおいいぜ。もしも開いてたらな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">無限迷宮への入り口は月に一度の新月の夜にしか絶対に開かない。何をするのかは知らな</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いが、そのうち諦めるだろう。そう思って頷いてやると、なぜかティラは賭けに勝ったよ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うな笑顔を浮かべて両手を広げた。さっきからの馬鹿なやりとりの間に日は完全に沈んだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">らしく、辺りには夜の暗闇が満ちている。そういえば、今夜はいつもに比べて妙に暗い様</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ライト気がつかなかったの？今日、新月だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっちまった。と俺は両手で頭を抱えてうなだれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>

<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「しっかし、よくもまーこんなガラクタ売りつけられたもんだな。ええ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　売りつけられた鍵（ゴミ）をくるくると回しながらフンと鼻を鳴らすと、頭にデカイたん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こぶができたティラが申し訳なさそうに何度もぺこぺこと頭を下げた。いまだ苛立ちが収</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まらないのでどう言い伏せてやろうかと考えていると、横から別の女性の涼やかな声が言</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">葉をはさんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『申し訳ありません。一応マスターを止めはしたのですが』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、マキちゃん！？そこは私を庇うところじゃないかと思うのですが……！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　しかし、声のする方にそれらしき女性の姿は見当たらない。無論昼下がりの街の中なのだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">から通行人は掃いて捨てるほどいるのだが、その中で俺たちの会話に入ってきている人間</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">も皆無だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　当たり前だ。喋っているのは人間じゃないのだから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『自業自得です』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　そう言った女性の声は、ティラが握っているやたらとゴツい杖から発せられていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　彼女、いやその杖の名前は機械杖ティタノマキア。正式名称はさらに長ったらしいのだが、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どちらにしても名前が長くて面倒なので俺はマキアと呼んでいる。は、支援士がブームと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なったここ十数年で姿を現した機械武器（マシンウェポン）に分類される非常に珍しい杖</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だ。またチャチな安物でも相場が十数万から数十万。高い物だと数千万というふざけた値</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">段が付くこともざらな機械武器としては最高峰の性能を持っているらしく、売れば億は軽</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">く超える代物らしい。ついでにしゃべる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そんな代物をティラは通りすがりで偶然知り合った老人からタダ同然で譲り受けたという</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">のだから、どこまで幸運なんだという話だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　まぁ最も、当の所有者がこの有り様なので、本人にとってこの巡り合わせが本当に幸せで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あったかどうかは甚だ疑問が残るところだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『私はマスターにやめたほうがいいと警告をしましたが、マスターは大丈夫だと言って私</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の警告を無視されました。私はあくまでマスターの道具なのでマスターの発言を尊重しま</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">すが、その発言の責任はきちんと負うべきです』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はい…はい…ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　杖に説教をされている光景はなんともシュールだが、まぁこれもマキアが加わってからは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たまに見る光景だ。しかし、いつもは感情のアップダウン自体があまりなくて、事務的に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">短い言葉を発することが多いこいつにしてはえらく長口上だ。さては警告を無視されたこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とを相当怒ってるな？</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ま、とにかく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そう言って鍵を指で弾いてティラに投げ渡し、ベルトのポーチからティラが鍵のおまけで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">押しつけられた地図を取り出して振って見せる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　―――『職や財産を失ってもまだやり直したいなら支援士になれ』と誰かが言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　支援士稼業をしている連中は依頼を受けて日銭を稼ぐ毎日を送っている訳で、当然俺たち</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もそんな連中の一員なのだが、俺たちのような無名の支援士にはいい稼ぎになる依頼とい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うのは回って来づらい。おまけにこんな昼下がりではもうまとまった稼ぎを得られるよう</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な依頼は残っていないだろう。精々が初心者が受けるようなしけた依頼が関の山だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　冒険者がブームとなり、支援士という職業が確立されて20年。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　宿を取る金も泊まらせてくれるような知り合いもいなければ、外で腹を空かせながら星空</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">を眺めて眠るはめになる。最悪の場合、そこから落ちぶれて盗賊や犯罪者になる者すら出</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ているのが支援士の現状だ。富や名声を夢見て支援士になった連中にとってこれは最初の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">洗礼だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　……正直、7万5000フィズの出費は痛い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　これだけあれば、安い宿で1週間は泊まっていても細々と依頼をこなしてさえいれば飲食</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">には困らない額だったのだ。いや実際、そのつもりでいただけに、この損失は頭を抱えざ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">るを得なくなった。……もうぶっちゃけて言うと、ほぼ全財産だったのだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「一発狙いでこの地図に書いてある場所に行くぞ。文字は滲んでいて読めないが、幸い場</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">所の特定だけならできそうだ。まぁ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　ちらり、とティラを一瞥して不敵に笑いながら一言。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「外れだった場合は、お前に馬車馬のごとく働いてもらうことになるからよろしくな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そう言った途端に真っ青になってがくがくと震えるティラを見て、少しだけ溜飲が下がっ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　いままでいた河川の街ミナルから、南下してグノルダンジョンへの中継所となっている村</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">へ向かう商隊の馬車に相乗りさせてもらい、途中で降りてさらに丸数日歩いたところでよ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うやく目的地へと到着した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　商隊と別れる際にもらった干し肉を口に咥えながら、沈みかけた夕陽に照らされた目の前</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の建築物に対して思わず漏れた「そりゃあ、ここなら宝もあるかもな」という感想は、引</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">きつった笑みと共に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　大抵のダンジョンというのは街から遠く離れた場所に点在しているため、ちょっと日帰り</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">で行ってくる。ということができず、その周囲などには野営の準備などをしている冒険者</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の姿などをよく見かけたりするのだが、ここの周囲は閑散としたものだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　―――1位2位を争う不人気ダンジョン、有限回廊。またの名を無限迷宮。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　特殊な条件下でしか侵入できないため、月に一度しかダンジョンの中に入れないのも閑散</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">としている理由のひとつだが、ここが不人気なのはまた別の理由からだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　先の見えないまさに迷宮然とした曲がりくねった通路に、無数のトラップ群。他の場所で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">はまずお目にかかれないようなグロテスクな外見をした魔物が闊歩し、地獄へつながって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いると言われるほどの多種多様な悪魔が巣くう、超がつくほどの難関ダンジョン。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　何よりも、割に合わない。というのがこのダンジョンの不人気の最大の理由だった。息も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかせないほどの死闘を繰り返して進んでも、待っているのは自分の命を狙う気味の悪い</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">魔物やトラップばかり。それらしい部屋の扉を開けると魔物が口を開けて待ってました。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんていう冗談にしては笑えない話が数えきれないくらい存在するくらいだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　それでも何人もの冒険者が果敢に挑むのは、ろくに攻略も進んでいないからこそ一攫千金</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の可能性も高いからなのだが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……さて、ティラ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「はい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　威勢のいい返事に振り返ると、そこにはティラが気力充溢といった様子で立っている。相</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">変わらず元気だけはいいようだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「帰るか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　俺の一言に、ティラがぽかんと呆けた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「え、えぇ？ええー！？な、なんで！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「何でもなにも、非効率だろ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　俺だって命が惜しい。好き好んでこんな人の命がたんぽぽの綿毛のように吹き散らされる</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">場所になんか行こうとは思わない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「で、でも！ここで稼げなかったら私が馬車馬のごとく働くことに・・・！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「自業自得だろ。俺には関係ないね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そんなぁ……と嘆く少女を無視してダンジョンの入り口に背を向けて引き返そうとしたら、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いきなり背中を掴まれた。不承不承振り返ると、帰って馬車馬のごとく働く予定の少女が</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">半泣きになりながら服を力いっぱい握りしめている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そのおでこには、「馬車馬はヤダ！！」と大きく書かれているのがありありと見て取れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……おい離せ。さっさと帰るぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「…その、ちょ、ちょっとくらい中に入っても」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「やだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「―――ッ！い、いいじゃないですか！宝物あるかもしれないんだよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そんなちょっと入って手に入るようなもんなんてある訳ないだろうが！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「馬車馬は嫌ですー！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　この野郎、ついにぶっちゃけやがった！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お前やっぱりそれが理由か！つべこべ言わずにさっさと帰るぞ！」</div>
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　もう言い包めるのも面倒になってきたので無理やり帰ろうとすると、そうはさせじとばか</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">りにティラが体重をかけて逆の方向に引っ張った。所詮は少女の腕力なので無理やり行こ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うと思えば行けるのだが、体重をかけているうえに足で踏ん張っているので動きにくいこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とこの上ない。というかああもうめんどくせぇ！！</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「くそっ…！大体どうやって入るつもりだお前。このダンジョンは新月にしか入り口が開</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かねぇんだぞ！入ろうにも入りようがねえよ！」</div>
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　そう言い放って振り返ると、ティラは掴んでいた服を離してジトッとした上目づかいでこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ちらを見て言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……じゃあ、開いてたら行ってもいいんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あん？……おおいいぜ。もしも開いてたらな」</div>
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　無限迷宮への入り口は月に一度の新月の夜にしか絶対に開かない。何をするのかは知らな</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いが、そのうち諦めるだろう。そう思って頷いてやると、なぜかティラは賭けに勝ったよ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">うな笑顔を浮かべて両手を広げた。さっきからの馬鹿なやりとりの間に日は完全に沈んだ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">らしく、辺りには夜の暗闇が満ちている。そういえば、今夜はいつもに比べて妙に暗い様</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ライト気がつかなかったの？今日、新月だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　やっちまった。と俺は両手で頭を抱えてうなだれた。</div>
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