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「白いつばさの旅日記・６」(2011/10/14 (金) 00:59:01) の最新版変更点

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<p> </p>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　そんな二人の後ろを、二人組の男がつけていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ターゲットとなる黒いコートを着た若い男と、長い金髪をなびかせるオッドアイの少女は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こちらに気づいた様子もなく、のんびりと人の流れに身を任せている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　やがて黒いコートの男と金髪の娘は、そろって建物の路地へと体を滑り込ませた。黒服の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男たちはお互いに頷き合い、二人の入って行った路地へと侵入する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……で、あんたら、俺たちになんか用か？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そこに、黒いコートの男が路地の壁に背を預けながらこちらを待ち構えていた。サングラ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スの奥に驚きの色を見せた男たちの足が止まる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　壁から背を離したライトが、今度は正面から相手を見据えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さっきからこそこそと俺たちの跡をつけてただろう。何か用かって聞いてるんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　黒服の男たちがお互いに目くばせする。そして代表するように男の片方が一歩前へ進み出</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ライト・エバーデンだな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　腰から吊るした柄を握り締めて一息に放つと、鈍く光る剣尖をこちらに向けて突き付ける。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「大人しく一緒に来てもらおう。抵抗しなければ命は保証する」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「それは素晴らしい待遇だことで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　適当に返し、ライトはニヤリと口元を釣り上げて笑いながら、両手を腰へと持っていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　……だが、そこに本来あるはずの愛剣の柄の感触が、ない。「うん？」と疑問符を浮かべな</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">がらも何度か感触がないことを確認して、それから剣は手入れに出していることを思い出</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">し、ライトの笑みは凍りついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　剣を構えた黒服の男がじりじりと近づいてくる。それに合わせて、ライトもじりじりと後退。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
時計の秒針が一周する程度その動作を繰り返した後、両者の動きが止まり、再び睨み合う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　通りの賑わいから切り離されたように、路地には緊張感に満ちた沈黙が降りる。そして偶</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">然にその場に居合わせた猫の、にゃー、という呑気な鳴き声を合図に、ライトは踵を返し</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">て少女を肩に担ぎあげ、猛然と走り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「待て！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　黒服の男たちが、叫びながら追いかけてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　まったく、なんでこんなことに。ライトは内心舌打ちをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　あからさまに凶器を突き付けて脅してくるような相手だ。話し合いなどでの平和的な解決</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">は望めないだろう。ライトは意図的に一息つき、連中を撒くことに集中する。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　しかし路地を抜けてまた路地に入り、右に曲がり、左に折れ、時に通りに出て別の路地へ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">迷路のように入り組んだ路地を走り抜けるが、黒服の男たちは撒いたかと思うと再びこち</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">らを捕捉し、的確に追尾してきた。そうやって逃げ回っているうちに、ライトはだんだん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">とイライラしてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……なんで、俺が汗水流しながら逃げ回らなきゃいけないんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そう思うと決断するまでは早かった。路地の壁に立て掛けられていた箒を手に取り、歩み</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">を止める。いままで担がれたままだった少女を降ろして庇うように前に出ると、先ほど来</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">た道にまっすぐ向き直った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　追いかけてきた二人組の黒服の男たちもそんな俺の様子を見て立ち止ると、二人とも走る</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">時に邪魔だったのか、鞘に戻していた剣を再び抜き放つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　男の一人がせせら笑う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まさかそんな箒一本で、剣を持った相手に勝つつもりか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　肩をすくめて、箒を肩に担ぐ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まぁな。お前らが大人しく引き下がってくれるんなら、わざわざ箒で相手をするような</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">手間も省けるんだが？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そちらこそ、大人しく我々に従えば痛い目を見ずにすむぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「そうか。でも―――」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　肩に担いでいた箒を投擲する。まるで投げ槍のように黒服の男の顔めがけて一直線に飛ん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">でいく箒を、男は冷静な動きで剣を一線させる。箒は柄の中ほどから真っ二つに両断され</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">て宙を舞った。その一連の動作の間に身を屈め、地面を蹴って一足飛びに黒服の男の懐ま</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">で入り込む。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　「なっ！？」と剣を振り切った姿勢のまま、予想以上の速度で懐に入りこまれたことに驚</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">愕する男の顎を、握りしめた拳で打ち抜く。顎の骨が砕ける感触。さらに男の膝を蹴り砕</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">き、完全に戦闘不能にするのと同時に振り向くと、もう一人の男の剣が目の前まで迫って</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いた。体を捻って回転しながら手を上げる。振り下ろされた剣の一撃を紙一重で避けるの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
とほぼ同じタイミングで、上げた手の中に宙を舞っていた箒の柄の一つが握りしめられた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そして振り抜いたままの態勢で顔を強張らせる男の喉元へ、回転の勢いをそのままに、箒</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の柄の尖端を容赦なく叩きつける。ぐえっと蛙が潰れたような声を漏らすと、男は白眼を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">向いて倒れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「―――どっちともお断りだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ほぼ同時に崩れ落ちて気を失った男たちを一瞥し、ライトは手に持っていた箒の柄をそこ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ら辺に放り捨てた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……さてと、こいつらはどうするかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　頭をガシガシと掻きながら、目の前の惨状を眺めて軽く思案する。荒事が終わったのを察</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">して、後ろにいた少女がひょこりと顔を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　こういった手合いの輩は街の治安維持に努めている騎士団や自警団に突き出すのが正しい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">選択なのだが、正直こんな路地裏から大の男二人もわざわざ引っ張って行きたくない。ま</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぁいいか、面倒だし。とライトは気を失っている黒服の男たちから視線を外し、放置した</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まま路地から出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　通りへ出た途端、さっきまでの緊迫感が嘘のように平和な空気と喧騒が戻ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「まったく何だったんだか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　そして溜息ひとつ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ただの追剥ぎやゴロツキだったらこれで済んだのだが、黒服たちの言うことから察するに、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どこかの集団や組織が関わっているのは間違いないだろう。しかも相手と話す際には武器</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">を抜くヤバイ連中。いや、それとも俺に何か恨みがあって、その報復のためにああいう対</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">応だったのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　でも俺最近なにかやらかしたかな、と考えていると、向かい側から見慣れたライトブラウ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ンの髪にチャームポイントのアホ毛を備えた少女がこちらに向かってきているのが視界に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　それも一人じゃない。ティラの隣には白百合を彷彿とさせる純白のドレスを纏い、ドレス</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">の要所要所に銀に輝く鎧を身に付けた、一目で騎士を連想させる容姿をした女性が護衛す</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">るように付き添っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……って、なんだ。よく見りゃクローディアか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「お久しぶりです。ライトさん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ティラのようななんちゃって金髪ではない綺麗な金髪を揺らし、ドレスの裾を摘まんで優</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">雅に一礼する。さすがは貴族様なだけあり、その仕草も堂に入っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　彼女の名はクローディア。リエステールでは割と名の知られているプレスコット家という</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">貴族のご令嬢で、生粋のお嬢様でありながら、プレスコット家が独自に設立したプレスコ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ット従騎士団と呼ばれる騎士団の中で騎士団長を務めている。親のコネや見栄でその地位</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">に付いたと思いきや、可憐な女性の外見とは裏腹に剣技のほうも半端ではなく、ドレスを</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">翻しながら戦う優雅にして苛烈な姿に、白麗の戦姫の異名をとるほどの腕前だ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「で、その団長殿がどうしてこんなところにいるんだ？もしかしてうちのアホがなんかや</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">らかして連行中とか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ティラが心外だと言わんばかりに抗議の目を向けてきたがそれをさっくりと無視し、クロ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ーディアがしゃべるのを待つ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　クローディアはくすくすと朗らかに微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「別に連行中というわけではありませんからご安心ください。彼女が怪しい男たちに追わ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">れて逃げているところに偶然鉢合わせて、念のために護衛を申し出ただけですわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「襲われて？それはもしかして黒服の格好をした怪しい連中か？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あら、ということはライトさんにも同じような方々が？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「武器を向けてきたから路地で叩きのめしたけどな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　やれやれと溜息を吐きながらいま出てきたばかりの路地を示す。クローディアは頷くと、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し引いた位置でクローディアの護衛として付き従っていた、クローディアと似たデザイ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ンの金属鎧に身を固めた騎士に指示を送った。騎士は黙って頷くと路地の奥へと消える。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　恐らく昏倒させた黒服たちを拘束しに行ったのだろう。まぁ一人は膝を砕いているので気</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">が付いていてもろくに動けないだろうが。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　護衛として残っていたほかの騎士にも指示を出すと、再びクローディアがこちらに向き直</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">った。先ほどまでの微笑は消え、その顔には騎士団長としての顔を覗かせている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ティラさんを追っていた男たちの様子を見て、突発的な犯行とは思えなかったのでもし</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やとは思いましたが、やはり組織だった襲撃のようですね。実行犯の身柄はこちらで拘束</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">させていただきますが、当分の間は十分に気をつけてください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「ああ。うちのアホの護衛わざわざすまなかったな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「いいえ、それでは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　クローディアは再び優雅に一礼すると、その場を後にした。隣からはなにやら射殺さんば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かりの強烈な視線を感じるが、ここは無視するのが最善だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「さてと、ところでティラ、お前依頼は全部終わったのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そう言って振り返ると、そこには目尻に涙を浮かべてジト目で睨みつけるティラがいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「どうした？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……ライト、私に何か言うことはない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　ジトッとした目のまま低い声で言われた問いに、ふむ、と軽く思案する。やがて納得した</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ように頷くと、ティラの顔をまっすぐ見つめて答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「なんか面白い顔してるな、変なものでも食べたのか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「――――――ッ！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">　ブチッ、と何かが切れる音がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
　そして珍しく、本当に珍しく。魔術師の少女は手に握る鈍器じみたごつい杖で青年に殴り</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かかった。</div>
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