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「第2話「レッドガール」」(2013/02/22 (金) 20:42:25) の最新版変更点
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ここは河川の街ミナル。ミナル川とアルナス川の合流扇状地に位置する市街地であり、南大陸ではリエステールに次ぐ都市機能を備える。
街中はアルナス川からの支流が流れており、それを利用した河川運搬を中心とする流通業で栄え、名物の酒類を中心に様々な交易品が行き来している。
また街中を行き来するのにも船での移動が多く使われており、それは一種のミナルの観光にも大いに役立っている。
そして清流であるミナル、アルナス両河川から獲れる新鮮な鮮魚を使った料理もミナルの名物となっている。
そのミナル中心街から少し外れた旧商業街の一角に一軒の古ぼけた屋敷と言うには少々こじんまりした建物がある。
そこはミナルでも指折りの豪商である「ハートゥーン商会」の当主でもあるハートゥーン・アルラシードの屋敷であった。
彼は6年前にミナルの西部にあるエルギュン砂漠にて発火しやすく、膨大なエネルギーを持つ黒水(いわゆる石油)を単身発掘し、莫大な財を成した男である。
その莫大な財を成した男がなぜ旧商業街の古ぼけた屋敷に居るのかは別な話にして、とある依頼の出来事はこの屋敷から始まる。
ラシード「ふむ、今月の黒水の売り上げはコレがこうなってああなって・・・。」
ラシードは自室で机の上に溜まった大量の書類を1枚1枚目を通し、そばにある台帳に書き込んでいた。どうやら彼の商会の主産業である黒水の売上表であるようだ。
ラシード「ふう、流石に少し出回っておったせいで書類がたんまり溜まっておるな・・・。少し出回るのは自重せんといかんなぁ・・・。しかし世にはびこる悪はゴマンとおるしなぁ・・・。」
ラシードはブツクサ呟きながら書類の内容を黙々と台帳に書き込んでいる。その時、彼の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
????「あなた、お茶にして少し休んではいかが?」
ラシードの部屋のドアを開けて、褐色で長身の見目麗しい女性が部屋の中に入ってきた。ラシードの事を『あなた』と言うあたり、彼の妻である事がわかる。
ラシード「おお、シェラザードか。そうだな、少し休むとしようか。」
ラシードは台帳を机の隅に置き、シェラザードが持ってきたティーカップを手に取った。どうやら彼女が注いだのは漂う香気からしてハーブティーのようだ。
ラシード「ふーむ、今日もいい香りだな。これはサハークの香りか?」
シェラザード「ええ、3日前に摘んだのを乾かしておいて作ったの。香りを楽しむにはあまり乾かさない方がいいと思ってね。」
ラシード「うむ、確かによい香りだのう。流石ハーブ作りは天才だなお前は。」
シェラザード「あらあら、そんなに褒めても何も出ないわよふふふ・・・。」
ラシード「ヌハハハハハハハハ! 確かにな!」
二人がそんな和気藹々とした会話をしていた時、彼の部屋をまたノックする音が聞こえた。
????「あのー旦那様、ちょっとよろしいでしょうか?」
ラシード「む? アンジェか。うむ、入っても構わんぞ。」
ドアを開けてこの屋敷ただ一人のメイドであるアンジェという少女が便箋を携えて入ってきた。どうやらラシード宛の手紙らしい。
アンジェ「先ほどミナルの酒場の人が手紙を届けにいらっしゃって、旦那様に渡してもらうよう言伝を頂いたんですが。」
ラシード「おお、確かそうだったな。いやご苦労だったアンジェ。」
アンジェは携えていた便箋をラシードに手渡す。ラシードは便箋を開け、中身の手紙に目を通す。
シェラザード「あなた、一体何の内容でして?」
ラシード「うむ。実はな、ちょっと我輩の手が回らぬので支援士の者に依頼をしようかと思ってな。そこで酒場に募集をかけたところ、依頼を受け取った者が決まってな。その事を連絡してもらおうと思っておったのだ。」
シェラザード「あら珍しい。いつもだったらどんな手を使ってでも抜け出して自分で解決しようかと思っているのに。」
ラシード「むう・・・。流石に今回はこれだけ書類の山が溜まっておるとな・・・。」
シェラザード「まあ、それはあなたの自業自得ですわね。今回はちゃんと本業の実務をこなして頂戴。」
ラシード「うむむむむむむ・・・・。そうなるわなやっぱり・・・。」
ラシードはシェラザードに痛いところを突かれてしょんぼりしながら、一通の手紙を書き込こみ、そして引き出しの中から金貨の入った小袋を取り出してアンジェに手渡した。
ラシード「よし。ではアンジェよ、この手紙をまた酒場の人に手渡してくれんか? それとコレは酒場の人に手間賃として渡しておいてくれ。」
アンジェ「かしこまりました旦那様。それでは旦那様、実務の方しっかり頑張ってくださいね。」
ラシード「うぐっ! ぐほっ!!」
ラシードはアンジェにも痛いところを突かれて飲んでいたハーブティーを盛大にむせてしまった。
シェラザード「うふふ、アンジェにも痛いところ突かれちゃったわね。それじゃアンジェ、私達は夕食の方に掛かりましょうか。」
アンジェ「はい奥方様。今日は何になさいますか。そういえば先ほど孤児院の子たちがたくさんの新鮮な魚を持ってきてくれたんですけども。」
シェラザード「あらあらあの子たちったら。でもそれは嬉しいわね。なら今日の夕食は魚の香草焼きにしようかしら。」
アンジェ「わぁ! それはいいですね!! 私腕が鳴りますわ!!」
シェラザード「ふふふ、私も久しぶりに張り切って作っちゃおうかしらね」
まるで仲のいい姉妹のような会話をしながら二人はラシードの部屋を後にした。
ラシード「むうう・・・。二人して我輩を吊るし上げるとはまったくけしからん・・・。にしても・・・。」
ラシードは悪態をつきながら送られてきた手紙を再度目を通した。
ラシード「エリーゼ・フォンティーユか・・・。まさか、彼女が我輩の依頼を受けたとはな・・・。」
そう呟き、ラシードは再度書類に向かい、ひたすら台帳に書類の内容を書き込んでいった。
そして、2,3日経ったある昼前、一人の女性がミナル旧市街地にあるハートゥーン商会の屋敷の前に佇んでいた。
エリーゼ「で、ここがあの、有名な豪商のハートゥーン商会の屋敷なわけ・・・? ずいぶんとこじんまりとした屋敷ねぇ・・・。
ホントにミナル指折りの豪商なのかしらねぇ・・・。すいませーん、先日こちらの依頼を受けたエリーゼという支援士ですがー。」
エリーゼは半ば呆れ顔で大声を上げながら屋敷の門を叩いた。屋敷の中から「はーい。」と声が聞こえ、アンジェが扉を開けに来た。
アンジェ「ようこそいらっしゃいました。えーと、支援士のエリーゼ・フォンティーユ様ですね。(あら? 年は私よりちょっと上っぽいのにかなり可愛らしい声していらっしゃるのね?)
私はこちらのメイドのアンジェ・エルトゥールと申します。以後お見知り置きを。それでは中にお入り下さい。」
エリーゼ「こちらこそ、よろしくお願いしますねアンジェさん。(うわー、かなり可愛らしい人だなぁ・・・。それに、屋敷の外見はちょっとうらぶれていたけど中は意外と綺麗なのね・・・。)」
エリーゼはアンジェに連れられてラシードの部屋まで案内された。
アンジェ「旦那様、支援士の方をご案内致しました。」
ラシード「うむ、入ってくれたまえ。」
アンジェ「かしこまりました。ではエリーゼ様、どうぞお入り下さい。」
エリーゼ「あ、ありがとうございます・・・。(一体どんな人なのかしらね・・・。噂じゃ相当の変人だとか聞いてるけど・・・。)」
そう思いながらエリーゼはラシードの部屋を空け、中に入った。そこには書類の山と格闘している大柄で褐色肌の大男がいた。
ラシード「おお、君がエリーゼ君か。我輩がハートゥーン・アルラシードだ。リエステールから遠路はるばるよく来てくれた。」
エリーゼ「あ、いえ。ちょうどミナルに寄った時に酒場で依頼表見たもので・・・。(あんら~? 一見マトモそうな外見ね・・・。でも、どこかで見たような気がするんだけど・・・。)」
ラシード「ふははははは! まあそう固くならずに楽にするがよい。ほら、そう突っ立っておらずにそこのソファーに腰掛けるがよい。」
エリーゼ「あ、ありがとうございます・・・。(なんかねー、どっかで聞いた事のあるかんじがするんだけどねー。まぁいっか。)」
エリーゼはラシードに少々違和感を覚えながらも部屋の隅にあるソファーに腰掛けた。そしてラシードも一旦仕事を終えて向かいのソファーに腰掛けた。
ラシード「それで今回の依頼の件なのだが、ある場所の探索に赴いてもらいたいのだ。」
エリーゼ「ある場所・・・、と申しましたら?」
ラシード「うむ、それはエルギュン砂漠の北部にあるとある廃墟でな。地図でいえばこの場所だ。」
ラシードは手にしていた地図を広げて指をさす。場所的にはエルギュン砂漠の北の方にある砂漠と草原の境目辺りだ。
エリーゼ「調査はわかりましたけども・・・、この廃墟に何かあるのですか? たとえば商会にとって大切なものとか・・・。」
ラシード「むう? ああ、いや特に廃墟自体は我輩の商会にとって特に関連性はない。だが最近この廃墟にちょっとしたモノが隠されてあってな。それを取ってきてもらいたいのだ。」
エリーゼ「はぁ、要するに探し物してきてくれってな事ですかね・・・?(なーんかうさんくさいわねー。廃墟にある金目のものでも狙ってるのかしら? そんな風には思えないけど。)」
ラシード「ふははははは! まあそういう事だ。それに探索に関してだが、我輩の方から一名優秀な支援士を同行させてもらう。」
エリーゼ「優秀・・・な支援士、ですか?(えー? これぐらいの探索なら私一人でもできるのになんでなのかしら?)」
ラシード「うむ、実はもうこちらに呼んであるのだ。ジョシュア、入ってきたまえ。」
ラシードがそう呼ぶと部屋のドアが開き、そこから上下とも白い服で揃えた長身の男前な男性が入ってきた。
ジョシュア「どうもよろしく、可愛らしいお嬢さん。僕の名前はジョシュア・ネーデルリンク、キミと同じスナイパーを家業としている支援士さ。」
エリーゼ「あっ、私はエリーゼ・フォンティーユと申します。こちらこそよろしくお願いします・・・。(やだ! なにこのイケメン!! それに脚長ーい!)」
ジョシュア「うーん、なんとも可憐なお嬢さんだ。見た目もさることながらその可愛らしい声、そして燃える様な紅い髪。嗚呼、こんな子と一緒に仕事できるなんて僕はなんて感無量なんだ・・・。」
エリーゼ「は、はぁ・・・。(顔はまごう事なきイケメンなんだけど性格はちょっと残念そうね・・・。)」
ラシード「ゴホン、ではエリーゼにジョシュアよ、依頼の件は頼んだぞ。それとこれは廃墟の場所の地図といくばくかの資金だ。受け取ってくれたまえ。」
エリーゼ「あ、はい。わかりました。(やたっ! 資金支給なんてそうそうないわよ! てか重っ! いくら入ってんのよコレ!?)」
ジョシュア「了解。(あーらま奮発しちゃってもう・・・。)」
ラシードは机の中から地図と金貨の入った袋を取り出しエリーゼに手渡した。袋のふくらみ具合と重さから見てざっと5,6万フィズは入ってそうだ。
ラシード「ふむ、そういえばそろそろ昼の時間だな。二人とも、食事の用意がしてあるので食べていくがよい。」
エリーゼ「えっ! お昼までもって・・・。 あ、ありがとうございます。(またまたやたっ! お昼付きなんてもっとないわよ!!)」
ラシード「ふははははは! まあそう気にするでない。食堂は部屋を出て2つ向かいの部屋だ。我輩はちょっと用事を済ませてから向かう。先に向かうがよい。」
エリーゼ「では、ご相伴に預かりますね。(わーお! いったいどんな食事が出るのかしら! こーりゃ楽しみだわルンルン! あ、その前にちょっとおトイレ・・・。)」
内心ウキウキしながらエリーゼはラシードの部屋を後にした。ジョシュアもその姿を微笑ましく見ながら部屋を後にした。
ラシード「さて、この依頼は彼女にとって吉となるか凶となるか・・・。」
ラシードは机の一番上の引き出しを開けてそうポツリと呟いた。
ここは河川の街ミナル。町の東部を流れるミナル川と西部を流れるアルナス川の合流扇状地に位置する市街地であり、南大陸ではリエステールに次ぐ都市機能を備える。
街中はアルナス川からの支流が流れており、それを利用した河川運搬を中心とする流通業で栄え、名物の酒類を中心に様々な交易品が行き来している。
また街中を行き来するのにも船での移動が多く使われており、それは一種のミナルの観光にも大いに役立っている。
そして清流であるミナル、アルナス両河川から獲れる新鮮な鮮魚を使った料理もミナルの名物となっている。
そのミナル中心街から少し外れた旧商業街の一角に一軒の古ぼけた屋敷と言うには少々こじんまりした建物がある。
そこはミナルでも指折りの豪商である「ハートゥーン商会」の当主でもあるハートゥーン・アルラシードの屋敷であった。
彼は6年前にミナルの西部にあるエルギュン砂漠にて発火しやすく、膨大なエネルギーを持つ黒水(いわゆる石油)を単身発掘し、莫大な財を成した男である。
その莫大な財を成した男がなぜ旧商業街の古ぼけた屋敷に居るのかは別な話にして、とある依頼の出来事はこの屋敷から始まる。
ラシード「ふむ、今月の黒水の売り上げはコレがこうなってああなって・・・。」
ラシードは自室で机の上に溜まった大量の書類を1枚1枚目を通し、そばにある台帳に書き込んでいた。どうやら彼の商会の主産業である黒水の売上表であるようだ。
ラシード「ふう、流石に少し出回っておったせいで書類がたんまり溜まっておるな・・・。少し出回るのは自重せんといかんなぁ・・・。しかし世にはびこる悪はゴマンとおるしなぁ・・・。」
ラシードはブツクサ呟きながら書類の内容を黙々と台帳に書き込んでいる。その時、彼の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
????「あなた、お茶にして少し休んではいかが?」
ラシードの部屋のドアを開けて、褐色で長身の見目麗しい女性が部屋の中に入ってきた。ラシードの事を『あなた』と言うあたり、彼の妻である事がわかる。
ラシード「おお、シェラザードか。そうだな、少し休むとしようか。」
ラシードは台帳を机の隅に置き、シェラザードが持ってきたティーカップを手に取った。どうやら彼女が注いだのは漂う香気からしてハーブティーのようだ。
ラシード「ふーむ、今日もいい香りだな。これはサハークの香りか?」
シェラザード「ええ、3日前に摘んだのを乾かしておいて作ったの。香りを楽しむにはあまり乾かさない方がいいと思ってね。」
ラシード「うむ、確かによい香りだのう。流石ハーブ作りは天才だなお前は。」
シェラザード「あらあら、そんなに褒めても何も出ないわよふふふ・・・。」
ラシード「ヌハハハハハハハハ! 確かにな!」
二人がそんな和気藹々とした会話をしていた時、彼の部屋をまたノックする音が聞こえた。
????「あのー旦那様、ちょっとよろしいでしょうか?」
ラシード「む? アンジェか。うむ、入っても構わんぞ。」
ドアを開けてこの屋敷ただ一人のメイドであるアンジェという少女が便箋を携えて入ってきた。どうやらラシード宛の手紙らしい。
アンジェ「先ほどミナルの酒場の人が手紙を届けにいらっしゃって、旦那様に渡してもらうよう言伝を頂いたんですが。」
ラシード「おお、確かそうだったな。いやご苦労だったアンジェ。」
アンジェは携えていた便箋をラシードに手渡す。ラシードは便箋を開け、中身の手紙に目を通す。
シェラザード「あなた、一体何の内容でして?」
ラシード「うむ。実はな、ちょっと我輩の手が回らぬので支援士の者に依頼をしようかと思ってな。そこで酒場に募集をかけたところ、依頼を受け取った者が決まってな。その事を連絡してもらおうと思っておったのだ。」
シェラザード「あら珍しい。いつもだったらどんな手を使ってでも抜け出して自分で解決しようかと思っているのに。」
ラシード「むう・・・。流石に今回はこれだけ書類の山が溜まっておるとな・・・。」
シェラザード「まあ、それはあなたの自業自得ですわね。今回はちゃんと本業の実務をこなして頂戴。」
ラシード「うむむむむむむ・・・・。そうなるわなやっぱり・・・。」
ラシードはシェラザードに痛いところを突かれてしょんぼりしながら、一通の手紙を書き込こみ、そして引き出しの中から金貨の入った小袋を取り出してアンジェに手渡した。
ラシード「よし。ではアンジェよ、この手紙をまた酒場の人に手渡してくれんか? それとコレは酒場の人に手間賃として渡しておいてくれ。」
アンジェ「かしこまりました旦那様。それでは旦那様、実務の方しっかり頑張ってくださいね。」
ラシード「うぐっ! ぐほっ!!」
ラシードはアンジェにも痛いところを突かれて飲んでいたハーブティーを盛大にむせてしまった。
シェラザード「うふふ、アンジェにも痛いところ突かれちゃったわね。それじゃアンジェ、私達は夕食の方に掛かりましょうか。」
アンジェ「はい奥方様。今日は何になさいますか。そういえば先ほど孤児院の子たちがたくさんの新鮮な魚を持ってきてくれたんですけども。」
シェラザード「あらあらあの子たちったら。でもそれは嬉しいわね。なら今日の夕食は魚の香草焼きにしようかしら。」
アンジェ「わぁ! それはいいですね!! 私腕が鳴りますわ!!」
シェラザード「ふふふ、私も久しぶりに張り切って作っちゃおうかしらね」
まるで仲のいい姉妹のような会話をしながら二人はラシードの部屋を後にした。
ラシード「むうう・・・。二人して我輩を吊るし上げるとはまったくけしからん・・・。にしても・・・。」
ラシードは悪態をつきながら送られてきた手紙を再度目を通した。
ラシード「エリーゼ・フォンティーユか・・・。まさか、彼女が我輩の依頼を受けたとはな・・・。」
そう呟き、ラシードは再度書類に向かい、ひたすら台帳に書類の内容を書き込んでいった。
そして、2,3日経ったある昼前、一人の女性がミナル旧市街地にあるハートゥーン商会の屋敷の前に佇んでいた。
エリーゼ「で、ここがあの、有名な豪商のハートゥーン商会の屋敷なわけ・・・? ずいぶんとこじんまりとした屋敷ねぇ・・・。
ホントにミナル指折りの豪商なのかしらねぇ・・・。すいませーん、先日こちらの依頼を受けたエリーゼという支援士ですがー。」
エリーゼは半ば呆れ顔で大声を上げながら屋敷の門を叩いた。屋敷の中から「はーい。」と声が聞こえ、アンジェが扉を開けに来た。
アンジェ「ようこそいらっしゃいました。えーと、支援士のエリーゼ・フォンティーユ様ですね。(あら? 年は私よりちょっと上っぽいのにかなり可愛らしい声していらっしゃるのね?)
私はこちらのメイドのアンジェ・エルトゥールと申します。以後お見知り置きを。それでは中にお入り下さい。」
エリーゼ「こちらこそ、よろしくお願いしますねアンジェさん。(うわー、かなり可愛らしい人だなぁ・・・。それに、屋敷の外見はちょっとうらぶれていたけど中は意外と綺麗なのね・・・。)」
エリーゼはアンジェに連れられてラシードの部屋まで案内された。
アンジェ「旦那様、支援士の方をご案内致しました。」
ラシード「うむ、入ってくれたまえ。」
アンジェ「かしこまりました。ではエリーゼ様、どうぞお入り下さい。」
エリーゼ「あ、ありがとうございます・・・。(一体どんな人なのかしらね・・・。噂じゃ相当の変人だとか聞いてるけど・・・。)」
そう思いながらエリーゼはラシードの部屋を空け、中に入った。そこには書類の山と格闘している大柄で褐色肌の大男がいた。
ラシード「おお、君がエリーゼ君か。我輩がハートゥーン・アルラシードだ。リエステールから遠路はるばるよく来てくれた。」
エリーゼ「あ、いえ。ちょうどミナルに寄った時に酒場で依頼表見たもので・・・。(あんら~? 一見マトモそうな外見ね・・・。でも、どこかで見たような気がするんだけど・・・。)」
ラシード「ふははははは! まあそう固くならずに楽にするがよい。ほら、そう突っ立っておらずにそこのソファーに腰掛けるがよい。」
エリーゼ「あ、ありがとうございます・・・。(なんかねー、どっかで聞いた事のあるかんじがするんだけどねー。まぁいっか。)」
エリーゼはラシードに少々違和感を覚えながらも部屋の隅にあるソファーに腰掛けた。そしてラシードも一旦仕事を終えて向かいのソファーに腰掛けた。
ラシード「それで今回の依頼の件なのだが、ある場所の探索に赴いてもらいたいのだ。」
エリーゼ「ある場所・・・、と申しましたら?」
ラシード「うむ、それはエルギュン砂漠の北部にあるとある廃墟でな。地図でいえばこの場所だ。」
ラシードは手にしていた地図を広げて指をさす。場所的にはエルギュン砂漠の北の方にある砂漠と草原の境目辺りだ。
エリーゼ「調査はわかりましたけども・・・、この廃墟に何かあるのですか? たとえば商会にとって大切なものとか・・・。」
ラシード「むう? ああ、いや特に廃墟自体は我輩の商会にとって特に関連性はない。だが最近この廃墟にちょっとしたモノが隠されてあってな。それを取ってきてもらいたいのだ。」
エリーゼ「はぁ、要するに探し物してきてくれってな事ですかね・・・?(なーんかうさんくさいわねー。廃墟にある金目のものでも狙ってるのかしら? そんな風には思えないけど。)」
ラシード「ふははははは! まあそういう事だ。それに探索に関してだが、我輩の方から一名優秀な支援士を同行させてもらう。」
エリーゼ「優秀・・・な支援士、ですか?(えー? これぐらいの探索なら私一人でもできるのになんでなのかしら?)」
ラシード「うむ、実はもうこちらに呼んであるのだ。ジョシュア、入ってきたまえ。」
ラシードがそう呼ぶと部屋のドアが開き、そこから上下とも白い服で揃えた長身の男前な男性が入ってきた。
ジョシュア「どうもよろしく、可愛らしいお嬢さん。僕の名前はジョシュア・ネーデルリンク、キミと同じスナイパーを家業としている支援士さ。」
エリーゼ「あっ、私はエリーゼ・フォンティーユと申します。こちらこそよろしくお願いします・・・。(やだ! なにこのイケメン!! それに脚長ーい!)」
ジョシュア「うーん、なんとも可憐なお嬢さんだ。見た目もさることながらその可愛らしい声、そして燃える様な紅い髪。嗚呼、こんな子と一緒に仕事できるなんて僕はなんて感無量なんだ・・・。」
エリーゼ「は、はぁ・・・。(顔はまごう事なきイケメンなんだけど性格はちょっと残念そうね・・・。)」
ラシード「ゴホン、ではエリーゼにジョシュアよ、依頼の件は頼んだぞ。それとこれは廃墟の場所の地図といくばくかの資金だ。受け取ってくれたまえ。」
エリーゼ「あ、はい。わかりました。(やたっ! 資金支給なんてそうそうないわよ! てか重っ! いくら入ってんのよコレ!?)」
ジョシュア「了解。(あーらま奮発しちゃってもう・・・。)」
ラシードは机の中から地図と金貨の入った袋を取り出しエリーゼに手渡した。袋のふくらみ具合と重さから見てざっと5,6万フィズは入ってそうだ。
ラシード「ふむ、そういえばそろそろ昼の時間だな。二人とも、食事の用意がしてあるので食べていくがよい。」
エリーゼ「えっ! お昼までもって・・・。 あ、ありがとうございます。(またまたやたっ! お昼付きなんてもっとないわよ!!)」
ラシード「ふははははは! まあそう気にするでない。食堂は部屋を出て2つ向かいの部屋だ。我輩はちょっと用事を済ませてから向かう。先に向かうがよい。」
エリーゼ「では、ご相伴に預かりますね。(わーお! いったいどんな食事が出るのかしら! こーりゃ楽しみだわルンルン! あ、その前にちょっとおトイレ・・・。)」
内心ウキウキしながらエリーゼはラシードの部屋を後にした。ジョシュアもその姿を微笑ましく見ながら部屋を後にした。
ラシード「さて、この依頼は彼女にとって吉となるか凶となるか・・・。」
ラシードは机の一番上の引き出しを開けてそうポツリと呟いた。